World Days(新版) 作:完結の陽炎
週末の夕方に送別会。
榊野ヒルズ内で貸切予約をしたパーティ会場。
華やかな内装で広々としてテーブルや椅子が充実している。
和洋中問わずに高級な料理の数々が並べられている。
ドリンクコーナーもカラフルで見栄え良く飲み放題だ。
そして余興ができる舞台があり、ピアノやカラオケの設備が置かれていた。
「うひょー!! すげえー!!」
澤永のテンションが上がって興奮をする。
誰もが多かれ少なかれ高揚感が生じていた。
パーティーの主役となる刹那は恐縮をしている。
もっと質素でいいのに。
そんな気持ちがあるのだろう。
ここから世界が進行役を務めていく。
協力をしてくれた言葉の思いを無駄にしないために。
「はーい皆さん!! 飲み物は持った!?」
舞台に立って世界が飲み物を片手にする。
乾杯音頭をする姿勢で皆がそれに合わせた。
注目を浴びる世界。
スタンドマイクを使って口上を述べる。
「今日は刹那の送別会に集まってくれてありがとう。刹那のお母さんがパリで転勤となり、刹那も一緒についていくためパリへ引っ越すことになったんだよね」
堅苦しさを抜きに世界らしく話す。
周りが世界の知っている人で緊張とは無縁。
思ったことを正直に言うだけなのでスピーチの紙も不要だ。
「私のお母さんと刹那のお母さんは親友で仕事のライバルなの。私がパリへ引っ越すことになってもおかしくなかったんだけど、生まれつき体が弱い体質もあり、刹那の働きかけもあって今に至ってるんだよね」
刹那のクールな表情は相変わらず。
微塵の後悔も感じられない。
むしろ誇らしいと思っているように世界には見えた。
「身代わりになった刹那に対して、守ってくれてありがとうとごめんなさいが半々。ずっと一緒にいる幼馴染だから、いなくなってしまうのは悲しいに決まってる。それでも刹那の強い決意を、私は誰よりもわかってる。だから私は私のできることをするよ」
行かないでと引き留めたいのが本音である。
だがそんなことをしても刹那を困らせるだけだ。
刹那の意思を無駄にしてはいけない。
「ここには私たちだけで貸し切ってるから何も遠慮はいらない。細かいことは抜きにして皆で楽しもう!! まずは豪華な料理食べたいので、はい乾杯!!」
大雑把な世界らしい乾杯の仕方である。
刹那は呆れながらも、世界はそれでいいと受け入れてしまう。
そして全員の乾杯が入っての開幕となった。
序盤は空腹もあって料理を堪能する。
食事をしながらの雑談がメインだ。
世界の傍に刹那と言葉、心と止がいた。
「わあー!! ちっちゃい子だかわいい!!」
「いたるだよ」
「私は心って言うんだ。よろしくね止ちゃん」
「えへー」
自分より小さい止がいることで、心は優越感を味わう。
まるでお姉さんになったような気分だ。
どちらも人懐っこくて似た者同士である。
「こころちゃんってパリに行ったことある?」
「家族旅行であるよ」
「そっか。もし次も行くことがあったら、刹那に会えるかもしれないね」
「その時はよろしくね刹那さん」
「う、うん」
言葉と心はその気になればパリで刹那と会えてしまう。
世界からすれば羨ましい限りだ。
「次の旅行先、パリにしてもらって世界ちゃんもご一緒しませんか?」
「パスポート、手数料高いでしょ? 貧乏な私はバイトしないと無理」
「必要でしたら私がお支払いしますので」
「またことぴーはそうやって世界を甘やかす」
「でもせっちゃん、世界ちゃんにパリで会えたら嬉しいですよね?」
「……うん」
言葉のおかげでパリに行っても会うチャンスがある。
だから遠くへ離れても寂しくはない。
それを楽しみに頑張ることができる。
「いたるね、おえかきでプレゼントすりゅの」
「いいなー。こころも描いてみたいな」
「うん。いっしょにやりゅの」
心も習い事でお絵かきを嗜んでいる。
用意をされている画材で、二人仲良く刹那をモデルに描く。
想像力豊かな止は、刹那の笑顔を生み出している。
それを引き立たせるのが心が描く浜辺の風景だ。
完成した絵に満足して、止によって刹那に差し出される。
「せっちゃ、ぷれぜんと」
「ありがとう」
純粋な贈り物が嬉しかったのだろう。
この時の刹那は表情が柔らかい。
微笑んでいるように見えるだろう。
中盤に差し掛かる頃に余興を始めていく。
先手は言葉と心の姉妹がピアノを演奏。
明るいメロディーで激励をするようにした。
演奏が終わって拍手をした後。
流れに乗って今度はカラオケ。
伊藤と乙女がデュエットをして歌う。
別れの悲しみを吹き飛ばすような情熱系の曲である。
場が盛り上がり、次の余興は七海のマジックだ。
「七海、どんな手品するの?」
「カード使った定番のヤツ。数字当ての」
「私がカード取りしてもいい?」
「いいよ」
舞台に七海が入ってトランプカードのマジックをする。
種も仕掛けもない前振りで世界にトランプを見せる。
七海に見えないように束の中から一枚選ぶ。
世界が手にしてたのはハートのセブンだ。
他の人にもハートのセブンであることを見せつける。
それを束の一番下に戻すように言われて従う。
七海がトランプをシャッフルしてからトランプの束を全て表にした。
そしておもむろに七海が一枚のトランプを取る。
「世界が選んだカードは、このハートのセブンだね」
「わお、正解だよ七海」
世界が拍手すると他の面々もつられて拍手をする。
心が手品好きのようでカード取りをやってもらう。
スペードのエースを当てられ、ジョーカーも当てられた。
当てずっぽうのまぐれではない。
これにより魔法使いみたいだと尊敬の眼差しをする心。
「いたるもすりゅ!!」
止もカード取りをしてみた。
ハートのキング・ダイヤの4・ジョーカー。
三枚とも当てられて、止も感動をしておおはしゃぎ。
魔法使いのお姉さんとして、七海のことを覚えた。
二人の少女に喜ばれて、七海としても悪い気はしなかった。
次は澤永と光の漫才。
下ネタを禁止にしているのだが、澤永が口が滑りやすく、光がツッコミのチョップをかまして止めている。
ネタの内容よりも二人の動きによる掛け合いは絶妙だ。
ボケとツッコミの役割がしっかりできている。
次は注目の催しとなる分身当てクイズ。
乙女と可憐が同じ私服のポニーテールとなる。
背丈も同じで、二人とも乙女にしか見えない。
なお、バレる可能性があるため声は出さないルールとする。
「誠、彼氏のお前ならわかるんじゃないか?」
「声出してくれたらわかりそうだけど、見た目だけではちょっとわからないよ」
「うわーうわー!! 分身の術みたいですごぉーい!!」
「すごぉーい!!」
「パッと見、どっちも加藤だね。世界わかる?」
「いや全然。七海は?」
「わかんない。ホント妹さん上手く化けてるよね」
澤永・伊藤・心・止・光・世界・七海は見分けがつかない。
これなら間違われても納得をするレベルだ。
刹那が姉妹に近づいてじっくりと見つめる。
その気分は探偵であり、細かな所まで厳しく観察をした。
乙女に化けている可憐はワクワクと胸を躍らせる。
無意識に楽しそうな笑顔になってしまう。
それを刹那は見逃さなかった。
「乙女に化けた犯人」
ビシッと指差しをする。
推理小説の探偵にある決めポーズだ。
それは乙女に化けている可憐に向けられている。
「うぐっ!! な、なんでわかったんですか!?」
「体は正直」
「い、今のはまぐれ当たりです!! 次はお姉が私に化けますから絶対見破れませんよ!!」
一旦離席をしてからしばらく待つ。
今度は可憐の私服でツインテールの二人。
可憐になりすましている乙女。
果たして見破れるのか?
刹那が鋭く睨みつけて観察を行なう。
可憐にそっくりの乙女は無意識に肩に力が入る。
内心でバレないかで緊張が走ってしまう。
それを刹那は見逃さなかった。
「可憐に化けた犯人」
ビシッと指差しをする。
推理小説の探偵にある決めポーズだ。
それは可憐に化けている乙女に向けられている。
「もうお姉!! そんなガチガチにしてたらバレるに決まってるじゃん!!」
「なによ。そっちだってさっきバレたくせに人の事言えないでしょ」
「くーやーしーいぃーーーー!!」
どちらにしても刹那の目を欺くことはできない。
そんな中、世界はニヤニヤと笑っている。
可憐は負けを意識する余りに気付いていない。
刹那が可憐の名前を呼んだことを。
今までの刹那は可憐を警戒して呼ばなかった。
しかし海外に行く事もあり、もう呼んでもいいと思ったのだろう。
ふと世界は何気なく言葉を見て、ランプを照らすかのような閃きが起きる。
思い立ったら即行動。
舞台に駆け寄って可憐に要求をする。
「可憐、もう一回乙女に化けてくれない? 次はことちゃんに当ててもらうから」
「え!? 私ですか?」
「さあ可憐、このまま負けっぱなしで引き下がるのは悔しいよね? 今度はことちゃんが挑戦するから、もう一回乙女に変身よろしく」
「わかりました!! 今度こそ見事に騙してみせます!!」
可憐の気合いは充分。
だが乙女は結果が見えている様子。
同じクラスの付き合いで感じる所があるらしい。
「ねえ可憐、諦めて降参したほうがいいよ」
「なんでよお姉!? ここまで来て引き下がれる訳ないじゃん!!」
「絶対にバレるって。そういう流れじゃん」
「大丈夫!! 刹那さんは無理だったけど、言さんなら勝てる!!」
「まったくもう、あとで悔し泣きしても知らないから」
刹那が舞台を降りて言葉と交代をする。
姉妹が再度離れて別室での作戦タイム。
とにかく平静を保つ。
無心で能面の表情にする。
変に緊張せずに開き直れ。
そして乙女に化けた可憐と共に舞台へ戻った瞬間。
「あーえっと、可憐さん」
言葉は一目だけで当ててみせた。
これには見分けができない伊藤たちは驚愕する。
ただし世界はニヤリとしたり顔。
刹那は予想通りと平然とした顔である。
可憐は負けず嫌いだ。
必死でまぐれ主張をして、今度は乙女に化けさせる。
乙女はもうわかりきっていたが、可憐の好きなようにさせた。
口で言ってもわからないので、結果でわからせるしかない。
「乙女さん」
結果は変わらない。
可憐に化けた乙女に向かって呼びかけをした。
その場で可憐は膝を崩してしまう。
「あり得ないですよ!! 刹那さんはじっくり観察したからまだわかります。でも一瞬見ただけで当ててしまう言さんはおかしいです!!」
「可憐、だから言ったでしょ。いい加減認めなって」
乙女に言われても素直に受け入れ難い。
今まで見破れなかったことで相当自信があったのだろう。
そこへ世界が入り込んで言葉に問いかける。
「ことちゃんに質問。どうしてわかったの? 姉妹そっくりで見分けつかないのに」
「気配が全く別人でしたので」
「なるほど。刹那みたいにじっくり見抜くのではなく、雰囲気ですぐに察した訳ね」
「すごいよお姉ちゃん!! こころ全然わかんなかったのに!!」
瞬時に正解をする姉の姿に心が大興奮である。
世界は心に見せたかったのだ。
貴方のお姉ちゃんはとても凄い人だと。
そんな世界の気持ちを刹那はわかっているのだろう。
素直に嬉しい気持ちになっていた。
「じゃあラストの余興は私だね。ことちゃん」
「はい」
刹那を舞台に立たせて、そこに世界と言葉が行く。
向き合う形で正面に立つ。
そして世界は感謝状を手にして構えた。
「親愛なる刹那へ。これまで厳しく叱り優しく助けてくれてありがとう。海外へ行っても元気でいてね。刹那のことはずっと忘れない。また会えたときは一緒に遊んだりご飯を食べたりしよう。今までの感謝をこめて改めてありがとう」
今日の日付と世界のフルネームで締めくくる。
刹那に受け取ってもらい、言葉からはプレゼントをまとめて入れた紙袋が渡される。
「どうぞせっちゃん」
「ありがとう」
「それじゃあ、皆で集合写真を撮るよ!!」
しゃがまなくてもいいように上段用の長い踏み台が用意されている。
見晴らしのいい景色を背景に撮れる位置にあった。
下段は心・言葉・刹那・世界・七海。
上段は澤永・光・乙女・伊藤・可憐。
なお、止は伊藤に肩車をしてもらった。
そして立ち並びカメラに収まる。
写真は後ほど現像して各自に配る予定。
こうして思い出に残る送別会を存分にやり遂げた。