World Days(新版) 作:完結の陽炎
空港での見送りは代表として世界と言葉が行なう。
この時にサプライズをすると世界が事前に宣言。
一体どんなことをして刹那を驚かせるのか?
「せっちゃん、パリへ行ってもお元気で」
「ことぴーも、世界をお願い」
「はい任せてください」
空港内で刹那と言葉が握手を交わす。
お互いに清々しい顔をしている。
そして刹那はキョロキョロと周りを見渡す。
「……世界はまだ来てない?」
「いいえ、柱の陰に隠れています。すぐ連れてきますね」
空港にある柱の陰へと言葉が動く。
刹那の位置からは見えないが世界の声が聞こえた。
「ねえことちゃん、本当に変じゃない? 大丈夫だよね?」
「はい、とってもかわいらしいです」
「まだ心の準備が――」
「これで3回目です。大丈夫です。必ずせっちゃんは喜んでくれます」
「わわっ、押さないで!!」
キリがないので言葉が強引に世界を押し出す。
意外とパワーがあり抵抗をしても無駄だった。
刹那が真っ先に注目をしたのは世界の頭。
外に出る時は帽子を被っているはずだ。
しかし今は……。
「私とお揃い、かわいい」
刹那と同じ赤いリボンを身に着けていた。
髪の長さは元々刹那と同じだが、左右の分け方で似せてある。
特徴のアホ毛は相変わらず健在だ。
「ことちゃんに協力してもらったけど、サプライズ成功って思っていい?」
「うん。ビックリした」
「まあ、刹那の分まで頑張るって決意表明だけどね」
「そう」
「刹那もパリで頑張りなよ。きっと刹那なら上手くやれるって信じてるから」
世界が勝利のVサインを突き出す。
それにつられて刹那もピースを返した。
「ことぴー、世界が張り切り過ぎて無茶しないように気を付けて」
「はいせっちゃん」
「刹那、パリの生活が落ち着いたら連絡くれると嬉しい。そうしないと、皆が気を遣って刹那に連絡できないから」
「わかった。慣れたら連絡する」
「ま、気が向いたらでいいけどね。元気でいってらっしゃい、私の大切な親友、そして……大切な妹」
妹と言われて刹那が感動の余りに泣きそうになった。
でも泣かない。
世界も泣かずに笑顔で見送りをしているから。
ここで刹那からワガママを言いたくなった。
世界の目は言いたい事があれば遠慮なく言えと促している。
だから正直に伝えた。
「私のこと、せっちゃんって呼んで」
「えー、それすると私に対しての呼び方が――」
「私からは!!」
声を張り上げて遮る。
刹那にしては非常に珍しいこと。
これには世界も驚いて黙り込む。
「私からは……おねえちゃんって……ダメ?」
昔、せかぴーという変なあだ名で喧嘩になったことがある。
母親が違うとはいえ、世界と刹那は血を分けた姉妹だ。
おねえちゃんと呼ぶことは間違っていない。
あだ名よりかは断然にマシでむしろ嬉しい。
今までそうしなかったのは世間の目があるから。
「周りに言いふらさない。二人っきりの時だけ。これを約束できる?」
「約束する」
「他の人がいる所では……わかってるよね?」
「うんわかってる」
「まあ、ちょっと練習したいから耳かして」
呼んでみたくなったのだろう。
刹那に耳を貸せと促す。
素直に従ってくれたのでそっと囁く。
「せっちゃん」
ぶるっと身震いをする刹那。
するとお返しとばかりに世界の耳へ。
「おねえちゃん」
世界の顔が真っ赤に染まる。
頭の赤いリボンに負けないぐらいに気恥ずかしい。
刹那が楽しそうな足取りで手を振って歩く。
世界と言葉も手を振って最後まで見送った。
「せっちゃん、とっても嬉しそうでしたね」
「うん」
「世界ちゃんも嬉しそうです」
「おかげ様でね。刹那が遠くでいなくなっても、ちゃんと繋がりを実感しているから」
「お揃いのリボン、お役に立って何よりです」
「ありがとうことちゃん。わざわざプレゼントしてくれて」
「世界ちゃんにはお世話になっていますから。日頃の感謝をこめています」
飛行機の中での刹那はとても機嫌がいい。
これは刹那の母にとっては予想外。
てっきり世界と離れることで泣くかと思ったから。
理由を尋ねても刹那からは秘密の一言である。
………………。
…………。
……。
1年3組の委員長は世界が引き継ぐ。
副委員長は骨折から復帰した田中が継続。
刹那の転校で田中のショックがあったのは間違いない。
結局、刹那に想いを伝える勇気は出なかった。
「なによ田中、どうせリボンが似合ってないとか思ってるんでしょ?」
これには激しく首を振って否定をする。
刹那のお姉さんのように見えて魅力的だ。
他のクラスメイトも似たような反応である。
父親が同じなので半分は正解といっていい。
「ねえ七海」
「なに? もしかしなくても世界のこと?」
「刹那がいなくなってからの世界、明らかに雰囲気変わったと思わない?」
「まあ、光の言いたい事は私もわかるよ。確かに変わったね。刹那と同じリボンして以前より明るくなった感じ?」
「うん。落ち込んでないか、ちょっと心配だったけど」
「あの様子なら何も気にしなくてよさそうだね」
教室内で光と七海の雑談。
友達として世界を気にかけている様子。
いい意味で変わったという評価であった。
………………。
…………。
……。
時が過ぎ去ってのクリスマス。
光の洋菓子屋おおはらで臨時のアルバイト。
サンタのコスチュームでのケーキ販売という王道な商売。
メンバーが足りないので、世界だけでなく言葉も加わっていた。
「光がことちゃん受け入れるなんて、あまりにも珍しいから雪が降ってるよ」
「他にいないんだからしょーがないでしょ」
「確かに。乙女は伊藤と過ごすし、七海は……今年大変だったからね」
カモフラージュで付き合っていた。
そんな身勝手な男の都合に七海が巻き込まれた事実。
男が退学となり、男の家族に知られて謝罪となり、七海の家族から二度と娘に近付くなという絶縁要求に従った。
「ねえ世界、あれから七海って立ち直ったと思う?」
「七海が一番気を許していることちゃんがいれば大丈夫だよ」
「まあ、七海のために色々してくれたことは認める」
「ことちゃん、七海は家族とクリスマス過ごすって?」
「はい。家族への感謝ということで今年はそうしたいと」
「まあ、七海の家族も今回のことで凄く心配してたからね」
私語もそこそこにして仕事へ入る。
しばらくすると澤永が来た。
いち早く見つけて接近をする光。
お互いに見つめ合って二人だけの甘いムードが漂ってしまう。
「はいはーい、光はそのまま退場ね。あとは私とことちゃんでやるから」
「はい、お任せください」
光の幸せな顔があてつけになったのか。
少しからかってから追い出す。
そして言葉と共にケーキ売りに励んでいく。
「世界ちゃん、このあと予定はありますか?」
「まったくなし。今は繁忙期だからって、お母さん帰り遅いし」
「もし良かったら、私の家に来ませんか?」
「ことちゃんの両親も今夜の帰り遅め?」
「はい」
「そのままお泊まりしたら迷惑かな?」
「いいえ歓迎しますよ。心も喜びます」
世界は母にメールでお泊まりを伝えて了解を得る。
バイト終了後。
一旦着替えを取りに行ってから言葉の自宅へ向かった。
心が無邪気に迎えて抱きついてくる。
光の店にあった売れ残りケーキを手土産にクリスマスを過ごした。
「世界さん、まるで刹那さんのお姉ちゃんみたい」
「よく言われる。ことちゃんのお姉さん気分がよくわかるよ」
刹那と同じリボンをした世界を心が気に入っている。
まるでサムライみたいだと褒め方は微妙だが。
冷え性の世界は心を抱っこして温まっている。
心も気持ち良さそうにして懐いていた。
「ねえ世界さん、お正月も遊びに来てよ」
「あーごめん刹那が帰ってくるから。正月ぐらいはこっちで過ごしたいって」
「そうなんだ。刹那さん、げんきしてる?」
「元気も元気。フランス語ペラペラで優雅なパリ生活を過ごしてるって。こころちゃん、習い事で英語やってなかった?」
「やってるよ。でも英語とフランス語ってなにが違うの?」
「それはこころちゃんのお姉ちゃんに訊いてね」
クリスマスを過ごしてから言葉の部屋で勉強をする。
フランスの文化や言語など留学に向けて努力中だ。
将来は刹那のいるパリへ行くことを目標としている。
刹那の母がスタッフをするパリ支店で働くかもしれない。
「世界ちゃん、上達が早いですね」
「目標があれば頑張れちゃう。お揃いリボンの御守り効果バッチリだよ」
「夢を追う世界ちゃん、とっても素敵だと思います」
「刹那がパリで頑張ってるんだよ。私だってやれば出来るってことを見せないとね」
ひたむきに努力をする世界の支援を惜しまない。
おかげで成績もこれまでと違って急上昇。
いずれは言葉を超えてしまうかもしれない。
年末の空港でお出迎え。
お揃いの赤いリボンで世界と刹那は再会を果たす。
二人だけのため挨拶は決まっている。
「一時帰国でもあえてこう言うよ。おかえりせっちゃん」
感極まる刹那が世界へ飛び込む。
受け止めるように抱きしめてお互いの存在を感じた。
そして……。
「ただいまおねえちゃん」
【END】