World Days(新版) 作:完結の陽炎
なお、アニメ11話の言葉は精神的に病んでいる状態で、夕日を浴びながら屋上のベンチで繋がらない携帯を触るシーン(乙女からの電話に誠が喜んで出てる辺り)があり、そこで白昼夢を見るかのごとく、一時的に本作の世界との夢が共有されて出会う形とします。
夕焼けの広がる屋上のベンチ。
そこに死んだ魚のような目をした言葉が座っている。
いつもと違うことは火を見るよりも明らか。
居合を習っていた世界は即座に不気味な気配を感じる。
同時にこれが明晰夢だと理屈抜きでわかった。
今いる言葉は自分がいるワールドの言葉ではないことも。
携帯を触っている言葉の隣へ座った。
なお、世界の恰好は居合の道着を身に着けて刹那と同じ赤いリボンをつけた状態である。
制服姿の言葉とは不釣り合いだと思いながらも、夢なら仕方ないと割り切るしかない。
「初めましてと言ったほうがいいかな? 私の知ってることちゃんじゃないよね?」
「……ことちゃん?」
「私は西園寺世界。別のワールドから来た世界だね」
「西園寺さん……?」
言葉が知る西園寺世界とは別人だ。
清浦刹那のお姉さんを思わせて気配が全く違う。
「なるほど、こっちでは西園寺さんなんだ。私のいるワールドでは世界ちゃんって呼ばれてるよ。だから私のことは世界ちゃんでよろしく。でないと同じ西園寺でややこしくなっちゃうから」
「はぁ……そうですか」
「ま、お互いに同じ夢を見てるようだし。一時的に偶然そうなったみたい。きっと夢が覚めたらもう会えないと思う。でもそれだと何か寂しいじゃん。こうして会えたのも何かの縁だしさ。だから少しだけお話してもいい?」
「……はい」
世界は自分がいたワールドのことを話す。
そのワールドの言葉と幼い頃に居合の習い事で出会った。
それで友達となり、ことちゃんと世界ちゃんで呼び合う間柄になっている。
刹那と言葉はせっちゃんとことぴーで大親友になっている。
意外とビックリ、七海との友情が熱く、言というあだ名で呼ばれるほどに仲がいい。
病み状態の言葉としては、まさに夢のような信じ難いお話である。
同じ言葉でもパラレルワールドによって違いが生じていた。
「ことちゃん――あ、こっちでは桂さんって呼んだほうがいい?」
「……ことちゃんで……いいです」
「わかった。これは夢だから何も気にしなくていいよ。だからことちゃん、ことちゃんのこれまでの事を聞きたい。辛いことを思い出させるようで悪いとは思っちゃうけど、今ここで聞かないとずっと聞けないと思うから」
「……私、誠くんの彼女です」
「そこんところ詳しく」
とても重要なことを耳にして世界は食いつく。
別のワールドの桂言葉は伊藤誠と付き合っている。
西園寺世界の紹介で交際に至ったようだ。
そこからはドロドロの修羅場な展開。
言葉が付き合っているのを知っている西園寺だが、何故か伊藤を誘惑した。
隠れてコソコソといやらしいことを二人でしていたことは数知れず。
二度と近付かないでほしいと平手打ちをして叱った。
この時の言葉はただ悲しかった。
西園寺をいい人だと、友達だと思っていたのに裏切られたから。
「まるで家のお母さんみたい」
「おかあさん?」
「うん。家のお母さん、親友の好きな人を誘惑して浮気を煽った悪女だって、親戚から陰口叩かれてた。親子の血は争えないってことだね」
適度に補足的な話を混ぜつつ続きを促す。
別のワールドでは清浦刹那も伊藤誠が好きらしい。
学園祭でキスをして、それを言葉が目撃をした。
てっきり西園寺に頼まれて、二人の仲を引き裂こうとしたのかと思ったのに。
その清浦はパリへ行ってしまって学園からいなくなってしまった。
ここで急展開。
西園寺が伊藤の子どもを身ごもっているという騒ぎが起きた。
アッという間に学園で広まり、当然ながら言葉の耳にも入っている。
「私は信じません。誠くんの彼女は私なんですから。西園寺さんが彼の子どもを産める訳ないじゃないですか」
「想像妊娠で彼を繋ぎとめようとしてるってこと?」
「私はそう確信しています」
「それ病院で診てもらえば一発でバレるよ。そしたら嘘をついたこともバレてしまう。そんな人なら、ことちゃんが愛する彼に嫌われちゃうね」
「そういう嘘つきな子、誠くんは嫌いですから」
もう少し話を聞くと、伊藤には他にも女の影がいる。
それは西園寺妊娠の騒動により離れていくので問題はない。
最終的に言葉の所へ帰ってくることを信じて疑わないようだ。
「なるほど。今はそっとしておいて、伊藤が独りになったらことちゃんが助ける。想像妊娠で嘘ついてる西園寺は、彼に愛想尽かされるから勝負にならない。ことちゃんの一人勝ちは確定だね。ホント頭いいよ。そんな状態になっても先が読めてるなんてさ。どのワールドのことちゃんでも、そういうところ凄いって尊敬するよ」
「……世界ちゃん」
「ん?」
言葉の目に少しだけ光が入る。
理解者がいてくれると純粋に嬉しいものである。
だが完全には戻らない。
それができるのは愛する人だけだ。
「……話を聞いてくれて、ありがとうございます」
「そっちのワールドで、話を聞いてくれる人がいないのは辛いね」
「私は誠くんがいればそれだけで幸せです」
「うん。それがことちゃんの意思なら、私は別のワールドで応援する。まあ、裏切り者の西園寺世界からの応援なんて、ことちゃんからすれば不愉快にしかならないだろうけど」
「いいえ、世界ちゃんの応援は受け取ります」
言葉は目の前の世界なら信じられると思った。
この人が友達だったら違っていたかもしれない。
「夢だから玩具の剣が出せるね。これ知ってる?」
「……それは心が持っている玩具の?」
「あ、そっちのワールドでもあるんだね。夢から覚める前にひとつだけお願いがあるんだ」
「なんでしょう?」
「私のワールドで過去に心ちゃんからおねだりされたことがあるんだよね。ことちゃんとチャンバラやってほしいって。実際に見せたら大喜びしてくれてね。出会いのお土産として、一太刀これで交わしてほしいの。あ、本物の真剣はいくら夢でも怖いからそれは勘弁してね」
「……わかりました」
まさに夢の対決である。
両者が夕焼けに染まる屋上で対峙して居合構えをとる。
方や道着に刹那のリボンで明るい気質を漂わせる世界。
方や制服で目に病みを抱えた暗い気質を漂わせる言葉。
「……」
後手では何もできないままやられてしまう。
それを身に染みている世界は先に仕掛けた。
今までの中で最高潮となる踏み込み。
何の迷いもない純粋な抜刀術が言葉を一瞬だけ動きを鈍らせた。
それでも言葉の振り抜きは迅速でパワーもある。
世界にとってはリベンジだ。
あの時とは違う。
いとも簡単に得物を弾かれて圧倒的な敗北を味わった日は忘れない。
きっと自分がいるワールドの言葉だったら負けていただろう。
だが、精神が病んでしまって本調子ではない言葉なら……。
「……」
屋上から吹く風で赤いリボンをなびかせる世界。
残心を怠らず一振りからの納刀を済ませて一礼をとった。
一方、言葉は虚無な眼差しで地面を見つめている。
弾き落された玩具の剣をジーを眺めていた。
つまり言葉の負けである。
「今のことちゃんは眠っているだけ。きっと近い内、ことちゃんは覚醒するよ。そしたら誰にも負けない絶対に」
「……」
「もう夢から覚めるね。別人でもことちゃんはことちゃん。好きな人と幸せになってね」
「っ……せか……い……ちゃん……っっ……」
「泣きたい時は泣いていいよ。泣かせてあげたいけどごめんね。もう目が覚めちゃう」
手を伸ばして言葉の涙を拭ってやりたかった。
でもそれは叶わない。
別のワールドにいる世界ではこれ以上の介入は許されない。
あくまで夢だから。
少しの間だけの奇跡に過ぎないから。
「世界ちゃん、起きましたか?」
そこは屋上のベンチ。
言葉の膝枕で居眠りをしていた。
夕焼けが沈みつつあるので下校しなければならない。
世界は夢の話をした。
別のワールドにいる言葉が並々ならぬ苦労をしていることを。
きっと最終的に幸せを勝ち取れるだろうと信じたい。
「それは不思議なお話ですね。夢を通じてパラレルワールドへ行ったのでしょうか?」
「おそらくね。最後にお土産代わりとしてチャンバラをしたけど」
「勝ちましたか?」
「勝ったよ。誰にも頼れない孤立した状態のことちゃんは弱っている状態だった。少しでも元気になってくれたらと思ってやったんだけど、最後は泣いてたね。誰もことちゃんの話を聞いてあげなくて、理解しなくて、そして受け止める人がいないってのは悲しいね」
「きっと大丈夫です。今はどんなに辛くても最後には幸せを手にします」
「うん。きっと覚醒すると思う。そしたら誰にも絶対負けない。別のワールドの私なんて勝負の土俵にすら入らないから」
「そんなにも違いますか?」
「ドン引きするぐらい悪者になってるからね。家のお母さんの悪い所を受け継いでいる。刹那に甘ったれすぎたのも原因だと思う。譲られて当たり前、それで人の物や恋を取ろうとする。なんとも哀れな私になってるよ」
怒りよりも哀れみのほうが上回る。
世界は頭のいいほうではないが、それでも人としての良識を持ち合わせている。
せっちゃんとことぴーの尊い関係が良い意味で影響を受けたからだ。
それがなかったら、別のワールドの世界と同じ道を辿っていたかもしれない。
「別のワールドのことちゃん、幸せになりますように」
その場で両手をあわせて目を閉じてのお祈りをする。
そんな世界の優しさに魅かれて言葉も同じことをした。
果たしてその祈りは届くであろうか?
………………。
…………。
……。
夕日を浴びるベンチで一人座っている言葉。
メールが送信できず、電話も拒否されている携帯。
拠り所がそれしかない状態まで追い込まれている。
読書好きで空想に浸ることは得意だ。
繋がらない携帯から妄想で補い、無意識に精神が壊れないようにしている。
少し前に白昼夢を体験した。
別人の西園寺世界との出会い、話を聞いて理解を示してくれた。
最後の土産としてチャンバラを交わした。
負けについては何とも思っていない。
ただ世界の放つ一太刀は美しく眩しかった。
羨ましく、悲しく、切なく。
頬を触れると涙がこぼれていた。
目覚める直前の場面はハッキリと覚えている。
世界が悲しそうに手を伸ばしてくれたことを。
そして言葉も手を伸ばしていたことを。
――ことちゃんは覚醒するよ。そしたら誰にも負けない絶対に。
世界の言ったことが言葉の中で自然と入り込む。
奥深い何かでそれを感じ取っているからだ。
必ずどこかで目覚める時が来る。
それを予言してくれた別のワールドの世界。
いつか幸せになることを誓う。
今はひたすらに雌伏の時を過ごしていく。
ここまでの読んで頂き、まことにありがとうございます。
原作ゲームの言葉はルートによってハッピーエンドはありますが、アニメ版の言葉はバットエンドしかないため可哀想の一言に尽きます。
当方の創作理念は救済にあるため、少しでも何らかの力となればという思いから、本編で最も成長するノーマルルートの世界を出してみました。
アニメ版の言葉がバットエンドとなる運命は避けられないでしょう。
悲劇のヒロインとしての持ち味は涙を流すこと。
悲しいときに泣かせてあげるのが精一杯でした。
目が虚ろで涙すら流せない無感情な言葉。
その姿は痛々しくて見るに耐えないものがありましたので。
アニメ版の最終回で、世界の精神内で刹那が責めるシーン。
世界が伊藤の隣に座らなかったら?
世界が桂さんを伊藤に紹介しなかったら?
確かに関わらなければ悲惨な末路にはならなったでしょう。
少なくとも死亡フラグの回避はできたと思います。
それでもハッピーエンドになるかは別の話になるため何とも言えません。
アニメ版の西園寺世界は本当に妊娠していたのか?
最終回でヤンデレ覚醒をした言葉の指摘に同意します。
それしか性欲暴走でハーレムまっしぐらの伊藤誠を縛り付ける方法がなかった。
これをやらないと、世界は面倒な女という扱いで放置プレイの刑をずっと強いられるからです。
他にも女がいるなら世界にこだわる理由がないのでしょう。
色々と考えながら後書きをしましたが、これにて締めくくらせて頂きます。
また別の番外編を書きましたら投稿をしますので、そのときはよろしくお願いします。