World Days(新版)   作:完結の陽炎

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田中の片想い(後編)

 2学期になってからの席替えイベント。

 清浦は一番後ろの窓側で、田中は一番前の窓側。

 西園寺が田中の隣の席になっている。

 そして授業中に筆談で挨拶をしてきた。

 

『一応、自己紹介するね。私は刹那の親友で西園寺世界。改めてよろしく田中』

 

 田中は頷く。

 

『委員会で刹那、田中にキツく当たったりしてない?』

 

 田中は首を振って否定をする。

 素っ気なくても清浦の指示は的確でわかりやすい。

 真面目で冷静な振る舞いもあって頼りになる。

 

『刹那は愛想なくてとっつきにくいかもしれないけど、根はとても優しいの。刹那が大変な時は田中が助けてあげて』

 

 清浦が困っていたら手助けをしたい。

 それは西園寺に言われるまでもないことだ。

 この時、田中はノートでお礼のメッセージを書く。

 

『副委員長の推薦、ありがとうございます』

 

 ありふれた文章ではあるが、田中にできる精一杯の感謝だ。

 間もなく世界からの返事が届く。

 

『どういたしまして。刹那のことで困った事があったら、私が相談に乗ってあげる』

 

 西園寺は友達思いのいい人だ。

 それは間違いない。

 だが人には相性というものがある。

 

 西園寺に対して少し肌に合わないような接しにくさを感じた。

 片想いのタイプが物静かでクールな清浦である。

 それとは真逆の西園寺を苦手に感じるのは必然かもしれない。

 だからこそ田中は不思議に思う。

 

 清浦は西園寺を苦手に感じて敬遠しないのか?

 性別が違えば感じ方が違ってくるのだろうか?

 

 授業終了のチャイムが鳴り響く。

 休み時間に入ると西園寺から清浦の席へ向かった。

 

 今回はいつもと逆だ。

 そういう日もあるのだろう。

 田中のいる位置では話の内容までは聞こえない。

 それでも清浦の顔を見ることはできる。

 

「っ!?」

 

 田中は驚きを隠せない。

 不敵な笑みをする清浦を見逃さなかった。

 清浦の表情が変わることは珍しい。

 田中にある胸のときめきが収まらない。

 

「近くに来ればいいのに。田中ってホント奥手だね」

 

 清浦しか見えていなかったのだろう。

 田中が気付いた時には西園寺が席へ戻って茶化した。

 清浦に近付ける度胸は田中にない。

 意気地なしと思われても無理なものは無理。

 委員会のようなきっかけでもない限りは近寄れない。

 

 田中は何気なく清浦がいる方向へチラ見をした。

 清浦の視線は相変わらず西園寺へと注がれている。

 

「まったく。私じゃなくて田中を見ればいいのに」

 

 そんなことは思いもよらない。

 想像をするだけで子鹿のように震える足となる。

 チャイムが鳴ることでホッとしてしまう。

 それに呆れてしまう西園寺がいた。

 

「……」

 

 好きな人のことをもっと知りたい。

 そう思うことは何も変なことではない。

 むしろ当然の感情といえるだろう。

 田中も例外ではなく清浦のことをもっと知りたい。

 幸いにも相談に乗ってくれる西園寺がいる。

 

 授業中の筆談として田中は思い切って尋ねた。

 内容は清浦の好きな食べ物だ。

 見た目は誰よりも大きいのに尋ねることの何と些細なことか。

 

 もっと他に訊くことがあるだろう?

 

 そう言いたくなる西園寺だが表には出さない。

 照れ屋な男の子というのはそういうものかもしれないから。

 

『刹那は和食系が好み。最近ならラディッシュの期間限定メニュー、抹茶白玉あんみつを気に入ってくれたよ』

 

 これだけで田中にとっては充分だ、

 お礼の返事を書いて終わらせてしまう。

 西園寺はため息をつく。

 ある意味、欲の少なさが刹那と似ていた。

 

『いつも刹那を見てるけど、不思議に思ったことや疑問に思ったことはないの?』

 

 動揺をする田中にお構いなしの西園寺。

 ノートに書いた問いかけの内容を指さして返事を促す。

 田中は少し考え込んでから筆談で問う。

 

『清浦さんと西園寺さんの仲が良いのは不思議』

 

 田中の意図を読むため、今度は西園寺が考え込む。

 幼馴染だから仲が良いのは当たり前。

 それだけで済ませるには些か説得力に欠ける。

 田中が本当に聞きたいのは他にあるのかもしれない。

 よって西園寺はこのように探ってみた。

 

『私と刹那が仲良しってそんなに変?』

 

 滅相もないと田中が首をブンブンに振る。

 些かオーバーアクションが過ぎた。

 先生から注意を受けて頭を下げて謝る始末。

 西園寺も訊き方が悪かったと反省。

 もっとオブラートに包むべきだった。

 

『ごめん田中。その不思議となる謎、この世界さんが必ず解いてみせる!!』

 

 名探偵を気取るかのようにノリノリだ。

 田中が遠慮をしても既に手遅れ。

 こうなった西園寺は止まらない。

 何となく嫌な予感がする田中がそこにいた。

 

 別の休み時間。

 階段の踊り場へ呼び出された田中。

 緊張でガチガチに固まるのは無理もない。

 相手は目の前の清浦で、その小さい体で仁王立ちをしている。

 明らかに機嫌が悪くヤバいという雰囲気だ。

 

「二度と世界から私のこと訊かないで。田中には関係ない」

 

 ガーンと金槌で叩かれたかのような衝撃が田中を襲う。

 

 一体なにがあったのか?

 

 西園寺の情報収集は良くも悪くも発揮する。

 今回は悪いほうへ傾いた。

 清浦に突撃インタビューという大胆な手を使ったらしい。

 そこでお互いの仲についての疑問を洗い出す形となる。

 

 体格が違う、性格が違う、好みが違う等、お互いの相違点は多い。

 逆に似ている所もあるといえばあるが比較的に少ない。

 それで仲がいいのは果たしていけないことか?

 周りから見ておかしい事か?

 

 清浦は西園寺を諭して丸め込む。

 それは考えすぎであり、そもそも理屈で語れるものではない。

 周りのことも気にしてはいけない。

 清浦からすれば、そんな変な探りを入れられる原因を逆に知りたい所。

 抜かりなく西園寺から経緯を聞き出し、田中に物申すことに至っている。

 

「世界が首を突っ込むと碌なことにならない。訊きたいことがあるなら直接私に言え」

 

 言い方は厳しいがもっともなことである。

 田中も嫌な予感はしたので、次からそうするとお詫びと共に約束もした。

 直接言ってもいい許可を得たと前向きに考えるしかない。

 逆に嫌われたかもしれないという不安も増してしまった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 学園祭の準備イベント。

 クラスの出し物を決める時期となった。

 

 高身長の田中が板書を務める。

 低身長の刹那が教卓の前でクラスを取り仕切る。

 

 いくつかの候補を出してもらっての投票。

 それにより喫茶店で決定となった。

 具体的な意見を求めて、一番槍を務めたのが西園寺である。

 

「他のクラスでも喫茶店があったらどうするの? メニュー、大体似たようなものになりそうだし、パクリ扱いされて揉めたりしない?」

 

 西園寺が首を突っ込むと碌なことにならない。

 それは時と場合による。

 今回はまともだったので田中は驚く。

 その気配を察して清浦が一瞥をしてきた。

 世界を甘く見るなと目が本気である。

  

「メニューの意見を出してもらい、それを踏まえて、別のクラスで喫茶をする委員と話し合う」

 

 そんな清浦の発言を呑み込み、西園寺が先導するように飲み物や食べ物、衣装の意見を出していく。

 田中は黒板を書くという仕事を続けた。

 

 認識を改めなければならない。

 西園寺はやる時には真面目にやる人だと。

 普段からずっとそれならいいのに。

 田中は胸の内だけに留めた。

 

 放課後に委員活動があるが、清浦は西園寺の席へ向かった。

 同じ委員という成り行きで田中も続く。

 二人の邪魔にならないように少し距離を取った。

 

「お疲れ刹那。いやー、慣れないことはするものじゃないね」

「世界、少し顔色悪い。大丈夫?」

「……委員会、遅くなりそう?」

「長くても30分」

「先に刹那の部屋に行ってていい?」

「いいよ。合鍵もってる?」

「うん。じゃあ委員会、頑張ってね」

 

 西園寺の後ろ姿を不安そうに見つめる清浦。

 その直後、すぐに表情を引き締めた。

 田中を見てついて来いとばかりに歩き出す。

 観察をしていると改めてわかる。

 西園寺がいる時といない時の清浦は違う。

 

「田中お疲れ、私帰るから」

 

 仕事が終わると挨拶だけして帰ってしまう。

 そんな清浦の後ろ姿を田中は見送る。

 特徴となる赤いリボンが目に焼きついて離れない。

 

 別のクラスでも喫茶店をする。

 競争の過激化を防ぐための休戦協定。

 既に1年1組と1年2組では成立している。

 今回は清浦たちの1年3組が新たに加入となる。

 

 田中は己の口下手を嘆く。

 強気の清浦では歩み寄りがしにくい。

 それを助けてくれたのが西園寺だ。

 先生の許可つきで介入をしてくれている。

 

 西園寺はコミュニケーションが上手い。

 他のクラスを褒め、譲り、雑談をかますほどの余裕を見せた。

 おかげで特に揉めることなく話し合いが完了する。

 

「……」

 

 なんと不甲斐ないことだろう。

 西園寺のやったことは、副委員である田中がやるべき仕事だ。

 清浦に足りないところを補うことができなかった。

 それで落ち込んでしまい、西園寺が見かねて励ましてくれた。

 清浦も表情が暗く、西園寺が大胆な行動に出る。

 

「ほらほら刹那、笑え笑え」

 

 田中の目の前で清浦の体を触りまくってくすぐった。

 それに清浦が怒って西園寺の足を踏む。

 痛がる西園寺にプイッと知らん顔を通す清浦。

 普段では絶対に見られない貴重な光景だ。

 

「世界、そういうわざとらしい事しなくていい」

「刹那を励まし、田中も元気が出るかなって」

「くすぐりは励ましにならない。あと田中は関係ない」

「同じ委員で関係あるでしょ。可哀想に」

 

 西園寺が清浦の頭を撫でている。

 子ども扱いするなとペシペシはたいて反抗的な清浦。

 そして西園寺が大柄の田中の後ろに回って盾にした。

 

「田中、こんなツンツンと猫みたいな反応をする刹那だけど、悪い子じゃないからよろしくね」

 

 田中の頷きに西園寺は満足をしたようだ。

 清浦が呆れたようにジト目を向けている。

 そんなかわいい反応に、田中の顔は茹で上がりのタコみたいに真っ赤になった。 

 

 学園祭のことがあるため柔道部は自主練となっている。

 田中は無我夢中で柔道の稽古に励んでいた。

 まるで雑念を払おうとするかのごとく。

 気を抜くと清浦のことで頭が一杯になってしまうから。

 そこで腕に負担をかけすぎたようで激痛が走る。

 

 すぐに病院で診てもらい全治2週間の骨折という結果を聞く。

 治療を受ける羽目になって田中は己の迂闊さを呪った。

 委員である清浦を支えないといけないのに。

 ケガのせいでそれも叶わないという絶望感を覚える。

 

 後日、同じクラスメイトの澤永と黒田が見舞いに来てくれた。

 夫婦漫才カップルと噂がされている男女だ。

 そこで伊藤が田中の代わりになったことを知る。

 

 今の田中にできることは治療に専念することだけ。

 それ以外に何もない。

 ひたすらに申し訳ない気持ちで胸が一杯になった。




 ここまで読んで頂きありがとうございます。
 分岐ルートの都合で本編の骨折するシーンまでとなります。
 別の番外編で田中の告白イベントを構想中。
 どうなるかはその時が来るまでの楽しみとします。
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