World Days(新版) 作:完結の陽炎
言葉には心という歳の離れた妹がいる。
もうすぐ小学校高学年になる心は、変わらず元気いっぱいで――
性格が人懐っこくて明朗快活。
お泊りに来る世界と刹那によく遊んでもらった。
世界からは運動系の遊び。
心が園児の頃に肩車をしてもらった。
世界の背中に乗ってのお馬さんごっこもした。
家の中に隠しての宝探しごっこも楽しかった。
刹那からは頭脳系の遊び。
心が園児の頃に絵本の読み上げをしてもらった。
トランプを使ったカードゲーム。
オセロやすごろくのようなボードゲーム。
そういったゲームの類をメインに楽しんだ。
お互いに正反対なタイプ。
それでも仲が良い世界と刹那。
心から見ても不思議な関係である。
ある日に世界と刹那が来てくれた。
心がはしゃぎ回って世界に抱き着く。
しばらく見ない内に大きくなった。
お互いに時の流れを実感する。
「こころちゃん、何かリクエストある?」
「うーんとね、世界さんとお姉ちゃんのチャンバラが見たい」
「ダメよ心。危ないでしょ」
「危なくないよ。玩具なら平気だもん」
姉に注意されても平気な顔で玩具の剣を持って来る。
それを世界が受け取って状態を確かめた。
「へえー、スポンジみたいに柔らかい。さすがに鞘はないけど、イメージでやればいいかな?」
「世界ちゃん、心の言うことは聞かなくていいです。甘やかすとつけ上がってしまいますから」
言葉がアイコンタクトで刹那に助けを求める。
首を横に振られた。
こうなった世界は止まらない。
それを暗に示している。
一回だけという条件で渋々と引き受けるしかない。
言葉の部屋は広々としており、居合の踏み込みをするのに特に支障はなかった。
「ことちゃん、先手は私に譲って」
絶対に先手でなければいけない。
そうでなければ速すぎて何もさせてもらえないから。
実力の差があっても世界は見栄っ張りである。
「はい。いつでもどうぞ」
両者は居合腰で玩具の剣を構える。
その表情は引き締まって真剣そのものだ。
世界が忍び足のごとくジリジリと間合いを詰める。
ゆっくりと焦らずに。
言葉の呼吸に乱れはない。
いつでも対応ができるようだ。
見守る刹那が固く手を包むように握る。
心はキラキラと目を輝かせていた。
「……」
世界は見栄を張ったことを少し後悔する。
言葉の隙が一向に見つからない。
どこから打てばいいのか全く見当がつかない。
正面から勝てる気が一切しないのだ。
これは負ける。
返り討ちになる未来しか想像ができない。
小学生の頃の惨敗が蘇ってくる。
それでも覚悟を決めてやるしかない。
鞘を抜くイメージで大きく踏み込んでの一太刀。
ここぞのタイミングに言葉が振り抜く。
一瞬、交差した剣が空気を切り裂く音を残し――
次の瞬間、世界の手から剣が宙を舞った。
小学時代のチャンバラ再来である。
刹那と心が当たらない方向へ飛ばしている。
言葉が狙ってやったことは明らかだ。
「くっ……」
鳥肌を立たせて一瞬だけ世界の身が震える。
だが観客の前で無様を曝け出せない。
気を引き締めて残心を貫く。
そして定位置に戻り両者ともに一礼を済ませた。
「世界ちゃん、お怪我はありませんか?」
言葉が駆け寄って世界の手を優しく包み込む。
先ほどの鋭い刃物のような脅威がない。
いつものおっとりとしたお嬢様の優しい雰囲気だ。
「うん大丈夫。でもあんなの凄すぎて、絶対私はマネできないよ」
「世界、ことぴーに勝てると思った?」
「全然。こころちゃんが喜んでくれるなら、負けても悔いなしだよ」
刹那の問いに本心で答える。
そうでも思わないとやってられない。
言葉の底知れぬ実力を改めて痛感する。
七海が気に入るのも納得だ。
こういうギャップの魅力が言葉にあるから。
「ほら心、世界ちゃんにお礼は?」
「ありがとうございます世界さん」
「うん。こころちゃんが楽しんでくれたのなら何より」
いずれにしても心が喜ぶならそれでいい。
世界はやり遂げたという自己満足に浸る。
呆れてため息をつくのが刹那。
そういうところが世界らしい。
だからこそ放っておけないし守っていきたい。
「……」
言葉の視点では素直に感動をしている。
世界の太刀筋は真っ直ぐで偽りがない。
柔軟なフォームで美しかった。
言葉の居合は相手を威圧して恐れさせる。
世界の居合は相手を楽しませて喜ばせてくれる。
同じ居合でも個性があるので実に奥が深い。
「刹那、私って弱いと思う?」
「そんなことない。立ち向かう世界の勇気、カッコ良かった」
「私よりも守ってくれる刹那のほうがカッコいいけどな」
「おだてても何も出ない」
「事実だもん」
世界を守るため蹴り技を独学で覚えた刹那。
今でも秘密の鍛錬を怠っていない。
見世物にするつもりは毛頭なく、世界でも目にすることがない。
「せっちゃん、世界ちゃんのためにお強くなられて立派です」
「いいなぁー。こころも守ってくれる素敵な人がほしい」
教わり与えられて覚える言葉。
自ら進んで学び覚える刹那。
どちらも賢いが、そこに至る過程は異なる。
世界を守るため一貫して努力を続けていく。
そんな刹那の在り方に言葉は憧れを抱くのであった。