World Days(新版) 作:完結の陽炎
よって世界は桂家の居候という独自設定がされています。
あらかじめご了承をお願いいたします。
世界は言葉の練習相手(前編)
桂言葉は軽度の男性恐怖症である。
小学の高学年で体が成長して特に胸の大きさが目立った。
子どもは正直であるが故に時には残酷なものである。
男子にからかわれ、女子から妬まれ。
本人に何の落ち度がなくても理不尽な目に遭ってしまう。
そんな言葉に救いの手はないのか?
「ここにいるよ!!」
「せ、世界ちゃん、突然どうされましたか?」
「今ここでお約束を言わないといけない気がして、深い意味はないから聞き流して」
「えっと……それで私の部屋に来て何か用事でしょうか?」
「ズバリ!! ことちゃんの男性恐怖症を克服するため、私が練習相手になろうと思って来たの!!」
これでもかと胸を張って言い切る。
唐突な思いつき行動をするのはよくある事。
それが世界らしい個性だと言葉は受け止めている。
「れ、練習って……」
「私、思うんだ。ことちゃんが男の人を怖がる理由は、触れ合いの経験がない。つまり免疫がないことなんだって」
「そ、そうでしょうか?」
「うん。誰だって未経験だったら怖いのは当たり前。でも練習をして慣れたら怖くなくなる。居合だって最初は怖かったけど、慣れたら全然怖くない。それと一緒なんだよ」
言われてみるとそうかもしれない。
一理あると思って唸ってしまうほどだ。
さらに世界はここぞとばかりに続ける。
「居候としてお世話になってるし。ことちゃんの恐怖症がなくすための協力は惜しまない。私が練習相手になるから頑張ってみようよ」
「あ、ありがとうございます。ですが世界ちゃんは女の子なので練習と言われましても」
「男装してそれっぽく振る舞うから。とりあえずレッツトライだよ」
「そうですか。わかりました。よ、よろしくお願いします」
こうして世界と言葉の克服作戦が開始された。
まずは形から入るために服装を見直す。
コスプレの学ラン、社会人のスーツ、武士の着物、王子様の衣装など。
お馴染みの支援をして着せ替えを楽しんでしまう言葉。
おしゃれ好きな世界は、変身願望があるようで実にノリノリだった。
「ことちゃん、見知らない男に触れられるのが怖い。それは誰でもそうだし、自衛のためにも必要なことだと思う」
「はい」
「でも恋人すなわち彼氏まで触れるのが怖いってのはマズイよね? その人だけは触れても大丈夫。そういう特別な例外さえできれば克服したとみなしていいよね」
「そうですね」
「だから私がことちゃんの彼氏役になるよ。それで触れても平気になるように練習すれば、ことちゃんに本当の彼氏ができた時、きっと大丈夫になれるよ」
「そ、そうでしょうか?」
「何事もチャレンジ。ことちゃんがそれで幸せになるなら、私は全力で応援する」
「あ、ありがとうございます」
彼氏のフリをするのだから男装だけでは足りない。
呼び方もそれらしく変えた方がいいだろう。
どのようにするかと言うと……。
「まず、ことちゃんは私をくん付けか呼び捨てにすること」
「よ、呼び捨てはちょっと……せ、世界くん?」
「……うん、まあそう。なんか違和感あるけどきっと慣れるはず」
「それでしたら世界ちゃ――世界くんも私の呼び方を変更しないといけません」
「ことちゃんではダメ?」
「ダメです。私のことは言葉と呼んでください」
言葉も刹那と同じく名前の呼び方を大切にするタイプだ。
そのため普段よりも積極的に意見を述べて譲らない。
「小さい頃、それが呼びにくいって理由でことちゃんにしたの覚えてる?」
「覚えています。ですが彼氏役となるのでしたら、やはり言葉と呼ぶべきだと思います」
「ごもっとも。あー、ことのは、ことのは、こーとーのーはー……うん、呼び捨てだったら意外といけるね。これで敬称まで入ったら、長すぎて省略したくなるもん」
「言と略するのは無しでお願いします」
「それは七海がつけたあだ名だからね。取ったりしないよ」
お互いに呼び合って練習を繰り返す。
そうするうちに違和感が薄れて慣れてきた。
通常時は世界ちゃん、男装時は世界くんで決まりである。
「ことちゃんも見た目で分けてよ。私だけだと不公平」
「そうですね。せっちゃんみたいにリボンでもつけますか?」
「リボン着用時は言葉で、そうでない時はことちゃんってこと?」
「はい。そのほうがわかりやすいかと」
「赤、青、黄は刹那が持ってるから。それ以外の色かデザインでやってね」
「わかりました」
言葉が選んだのは純白なリボン。
これで下準備は完了。
すると扉をノックして心がやって来た。
「おねーちゃ、ってうわー!! カッコいい!!」
男装の世界が魅力的に見えるようだ。
どこかうっとりして恋する女の子みたいな反応である。
「いいなぁー。こころが世界さんのお嫁さんになりたーい」
「こころちゃん、これは男の人を怖がることちゃんの弱点を治すための練習だから」
「そっか。お姉ちゃんのために世界さんが手伝ってくれるんだね。お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします」
彼氏の家に来たという設定で練習をする。
そのため世界が使っている部屋へ向かった。
女の子を思わせる部分を隠し、男の部屋という演出をする。
そしてベッドで隣に座っているシチュエーション。
今の世界は王子様の衣装スタイル。
言葉は純白のリボンに合わせてのドレススタイルだ。
まさに物語にある王子と姫のようである。
「まず手を繋いで、指を絡み合う恋人繋ぎやってみよ」
「右ですか? 左ですか?」
「男が女を守るという展開なら、利き腕自由にしたほうがいいよね。だから私が左手使うよ。あ、この場合って俺か僕って一人称かえたほうがいい?」
「今まで通り私で問題ないと思います」
「わかった」
世界が左手で言葉の右手を取る。
そっと優しく触れてゆっくりと指を絡め合う。
ギュッと握ると言葉も握り返してくれる。
それだけで世界のほうがドキドキと高ぶってしまった。
「次、肩を抱いてみるね」
「ど、どうぞ」
世界が言葉の肩を引き寄せる。
それにもたれかかる言葉が目を細めた。
実に甘いムードが漂ってきている。
「後ろから抱きしめるのと、前から抱きしめるのと、どっちがいい?」
「う、後ろはちょっと怖いので、前からでお願いします」
「了解。それじゃあ、やりやすくするため立った状態でやってみよ」
お互いに立ち上がって世界が抱き寄せる。
言葉も気分が盛り上がって抱き返してきた。
世界がビクッと反応して不思議な気分になってくる。
言葉の耳元で熱を帯びたような吐息が漏れてしまった。
「く、くすぐったいです世界くん」
「い、今のはちょっと油断しただけ」
続けて世界は髪を撫でたり、背中を優しく撫でたりをする。
言葉が気持ちよくなるように願って。
しばらくして腰が抜けたようで、その場でへたりこむ。
あとは顎を上げさせてキスをするフリで決めた。
「ま、こんな感じだね」
「……」
「おーい戻ってきて!!」
「あっ、せ、世界く……ん」
「もううっとりしすぎ。これ他の男だったらきっと襲われてるよ」
「だ、大丈夫です。世界くんだけですから」
「それはそれでどうなの? 練習だからねこれ」
「はい、わかっています」
練習はここまでとして通常の格好に戻る。
そこから労いのティータイム。
言葉が得意とするホットレモネードで一息ついた。
「ことちゃん、これで男性恐怖症は克服できたと思う?」
「あ、いえ流石にそんなすぐには……」
「それもそっか。すぐに克服できるなら苦労しないよね。やっぱ時間かかりそう?」
「そうですね。もうしばらく練習をお願いしてもいいでしょうか?」
「いいけど、練習の内容をどうするかで考えないと」
「それならデートするのが恋人らしくなりませんか?」
レモネードを飲み干しておかわりを頂く。
その間を置いてから世界は真顔で伝える。
「残寒のある今の時期、お外に出るのがどれだけ大変か。エアコンやコタツ、ストーブの温かい誘惑を振り切っていくことがどれだけ大変か」
「お、お気持ちはわかります」
「コタツの中でぬくぬくして食べるミカンは美味しい。和室のある乙女の家は貴重だよ。あと七海の家にあるストーブで温まりながら焼くお餅も捨てがたい」
「どちらも冬休みに体験をして楽しかったです」
「どてらを着てコタツでぬくぬくすることちゃんは似合ってたよ」
「あ、ありがとうございます。ちょっと気恥ずかしいです」
若さゆえに何事も経験でやらせてみるのが世界のやり方。
悪い事ではないという前提があり、相談をして同意を得る事が原則である。
そうやって振り回されながらも言葉は楽しんでいる。
「ま、デートで練習というのはいいけど、知り合いに男の姿は見られたくないな」
「きっと大丈夫です。世界ちゃんだとわからないように変装をすれば」
「まあ、男物のコートでも羽織れば私の胸なら隠せるか。ことちゃんは厳しいけどね」
「でも大きすぎるのも肩が凝って大変ですよ」
「なんて贅沢な悩み。ぺったんこの刹那が聞いたら怒るよ」
「世界ちゃん、もう少し言い方をオブラートに包んだほうがいいです」
「さすがに本人の前では言わないよ。蹴られたくないから」
小柄のスレンダーでかわいい。
嘘偽りない本心であっても刹那にとっては喜べないこと。
世界で言うところのアホ毛と同じコンプレックスである。