World Days(新版)   作:完結の陽炎

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世界は言葉の練習相手(後編)

 話し合いをして変装によるデートを決行。

 これも全ては言葉の男性恐怖症を克服するため。

 アホ毛隠しの帽子に男物の恰好をした世界。

 白いリボンに合う冬物のレディースファッションの言葉。

 二人で恋人のフリを開始していく。

 

「ことちゃ――じゃなくて言葉、彼氏の腕を組んで歩くのは上手いやり方だね」

「ありがとうございます。せ、世界くんにそう言われると何か嬉しくなってきます」

「彼氏から触れられることなく、彼女だけが触れる。これなら言葉のペースで出来るから恐怖も感じにくい。向こうからいきなり、なんて事になったら誰だって怖くなるからね。それを封じる意味で上手い」

「他も試してみますか?」

「うーんと、このやり方を応用するなら、恋愛映画にありがちな彼氏の背中におでこをくっつけたり、両手を添えるのがありだね。背中をとれば相手は何もできないから逆に安心するし」

「それなら場所を変えましょう」

「当然。そういうシチュエーションをするなら場所が大事だからね」

 

 自然がある公園の森で試してみた。

 言葉のほうが多少の背が高くても許容範囲である。

 途中で見知らぬ子どもたちに茶化されて中断となった。

 

「世界くん、次はどうしますか?」

「王子様とお姫様の王道はダンスでしょ。これは学園祭のフォークダンスで置き換えたら上手くやれるんじゃない?」

「場所はどうしましょうか?」

「学園の屋上と言いたい所だけど、制服じゃないから無理だね」

「レンタルできるスタジオなんていかがでしょう?」

「あのー、私そんなにお金持ってないんだけど?」

「私がお支払いしますので任せてください」

 

 レンタルスタジオでのフォークダンス。

 背丈があるので間合いの取り方が異なる。

 でも言葉が合わせてくれるのでタイミングに問題はなかった。

 

「これで手の接触は充分に対応できそうだね。お釣りを受け取る時とか」

「あ、支払いはカードを使うので、手渡しでお釣りを受け取ることはありません」

「カードって使い過ぎたりしない?」

「確かにクレジットカードの使い過ぎは不安になりますね。その場合でしたら、デビットカードで使い過ぎの予防ができますよ」

「なんか銀行のキャッシュカードで、そういう使い方ができるのは聞いたことがあるよ」

 

 会話もそこそこに次の練習課題を考える。

 

 どうすればボディタッチの恐怖を取り除けるのか?

 

 コツがあるとすればマッサージで筋肉の緊張をほぐすこと。

 言葉のように肩コリがある人なら肩揉みが効果的だ。

 他にも腰、太ももの裏側、足の裏などの指圧。

 美容の観点でするならオイルマッサージも有効となる。

 それらを世界の手によって実践していく。

 

「ふあぁ……んっ……ぁ……っ」

 

 ツボの刺激で痛さと気持ち良さが混ざる。

 これも言葉のためとして全力で取り組んでみせた。

 いくらなんでも胸や股間はアウトとなるので触れていない。

 それ以外の箇所であれば大体は怖くないはずである。

 

 一通りの練習をこなしての帰り道。

 言葉から積極的に腕を絡めて歩く。

 デートを楽しむだけの余裕があって何よりである。

 

 もうすぐで言葉の家に到着する。

 恋人のフリが終わるのを言葉が名残惜しむ。

 最後にほっぺにキスの練習をしたいと言ってきた。

 世界は挨拶みたいなものだと軽く考えて了承。

 そして言葉からゆっくりと接近をしていくが……。

 

「なにしてるの?」

 

 言葉の家へお泊りに来た刹那が現れる。

 すぐに離れてしまう言葉。

 帽子を目深くして顔を隠す世界。

 声を出したらバレると思ってダンマリを決め込む。

 

「世界、その恰好は何? 男のフリをして何を考えてるの?」

 

 いくら変装をしても刹那では相手が悪すぎた。

 隠しても無駄だと開き直るしかない。

 理由はあるので言葉の部屋に入ってから説明をした。

 変装を解除しての通常状態で。

 

「そんな練習で克服できると本気で思ってる? 二人で遊んでいたようにしか見えない」

「胸と股間以外は大丈夫だと思う。ことちゃんが男の人に触られても怖くないように私は頑張った」

 

 どうだ偉いだろうと誇らしげな世界。

 ベストは尽くしたという達成感で満ちていた。

 

「ことぴー、世界はおバカだから真に受けないでハッキリ断る」

「ひどぉい!! 私はおバカじゃないよ!!」

「あ、あのせっちゃん。世界ちゃんは私のためを思ってした事ですから、それぐらいで」

「ダメ。大体、なんで世界に男の恰好させたの? そこはことぴーが止めないとダメだよ」

「何事も形から入るのが基本。居合でもそうだったよ」

「世界は黙って。私は今ことぴーに注意をしている」

 

 ご立腹の刹那に世界は逆らえない。

 言葉は困り顔をしつつもどこか楽しそうだ。

 事実、世界との恋人ごっこによるデートは良き思い出となった。

 

「せっちゃん、男装をした世界ちゃん、カッコいいと思いませんか?」

「……黙秘する」

「沈黙は肯定と受け取ります。せっちゃんも良かったら試してみませんか? 世界ちゃんとのデート、とっても楽しいですよ」

「ことぴー、おふざけもそこまでにして。でないと怒るよ」

「私と世界ちゃんで恋人のフリをしてデートをしたことは認めます。それをせっちゃんが羨ましく思い怒った、という推察は私の勘違いでしょうか?」

「勘違いも甚だしい」

「世界ちゃんはどうですか? せっちゃんと今回みたいなことをしてみたいと思いませんか?」

「ことちゃんみたいな男性恐怖症だったら、練習に付き合って少しでも怖くないように協力したいとは思うけど?」

「せっちゃん、世界ちゃんは協力してくれると言っています」

「しなくていい。私はことぴーみたいに怖がりじゃない」

「ホラー映画ではビビって私の背中に隠れるくせに」

「世界、なにか言った?」

「いいえ何にも」

 

 刹那から世界に向けて罰が与えられる。

 次の休みで一緒にお出かけをすること。

 二人っきりだから、せっちゃんとおねえちゃんで呼び合うことが絶対条件。

 それさえできれば刹那は満足である。

 

「ねえ刹那、今日色々と頑張ってクタクタなの。膝枕してもらっていい?」

「……」

「ムスッとしてるけど、口に出して言いたいことは言わないと伝わらないよ刹那」

「また刹那って言った」

「あ、気が付かなくてすみません。私は席を外しますので、あとはお二人でごゆっくりどうぞ」

「ことちゃん、どこ行くの?」

「少しの間、妹の様子を見に行きます。あと夕飯の支度もついでにします」

 

 言葉が気を遣ってその場を離れた。

 そういう事ならと世界は切り替えをする。

 呼び名を変えて雰囲気も変わった。

 

「ちょっと意地悪だったね。せっちゃん」

「……おねえちゃんのバカ」

「失礼ね。私たちは血の繋がりがあるんだから、ヤキモチしなくても堂々と構えておけばいいじゃない」

「妬いてない」

「ことちゃんとせっちゃん、どっちかを選べと言われたら、私は迷わずせっちゃんを選ぶ。あの時も今も、そしてこれからも答えは変わらないから」

「……ズルい」

「姉を甘くみないように」

「……膝、使う?」

「もちろん。どこへ行っても私の帰る所はそこだって決めてるから」

 

 広いベッドで横になって刹那に膝枕をしてもらう。

 体が弱い世界は今日の疲れで瞬く間に眠りに入る。

 無防備な寝顔を見られる刹那だけの特別な時間。

 世界の髪を撫でることができるのも刹那の役得である。




 ご拝読ありがとうございます。
 原作では伊藤誠の練習相手となりますが、本作の番外編では桂言葉の練習相手です。性別や事情は異なるので、気兼ねなく楽しめていれば幸いに思います。
 異母姉妹を認識しているため、世界と刹那の接し方は原作と違います。せっちゃんとおねえちゃんで堂々と呼べない秘密の関係。だからこそ特別な時間を求める刹那がどれだけ甘えたいかが伺えます。
 父はいないし、母は仕事多忙。子どもからすれば迷惑をかけまいとしてしまって家族の愛情不足は拭えない。それは世界も同じなので、まさに半身のごとく一緒に過ごすことが心地良く感じるようです。
 それではまた別の番外編でお会いしましょう。
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