World Days(新版)   作:完結の陽炎

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 本編のハッピーエンドからの後日談です。
 よって世界は桂家の居候という独自設定がされています。
 あらかじめご了承をお願いいたします。


天文部の合宿(前編)

 言葉は料理下手とされている。

 指導をした世界と刹那で既に原因は調査済み。

 

 砂糖と塩を間違うような思い込みのミス。

 調理器具の扱いに不慣れという経験不足。

 アレンジという味付けの改悪問題。

 

 独学に不向きで誰かに教われば呑み込みが早い。

 母からレモネードの作り方をマスターできたのが良い例である。

 これは幼少期から習い事をしたことに影響をしている。

 そのため誰かに与えられる知識や技術を受け付けやすい。

 

 自分から得る知識は曲解をする妙なクセがある。

 だから間違った方向での思い込みは厄介なことになる。

 軽度の男性恐怖症がそれに当たるだろう。

 

「ことちゃんマニアの私が分析するとこんな感じね」

 

 場所は言葉の部屋。

 言葉のレモネードと世界のレモンティーで飲み比べ。

 双方の違いを楽しみながら会話に興じる。

 

「刹那はことちゃんとは逆で独学向き。自分から学んで、人から与えられても疑って調べる感じ。これは刹那のお母さんが間違いなく影響してるよ。学歴じゃなく実力で本社の重役にまで出世したからね」

「せっちゃんのお母さんは努力家なんですね」

「私が刹那にコンプレックスを抱かないのは、独学で苦労をした刹那を誰よりも一番よく知っているから。実際にやってみたけど、途中で投げ出してしまう私には無理だったね。これはもう尊敬しかないよ」

 

 刹那の独学は言葉も驚嘆に値している。

 その原動力が世界を守るためだ。

 勉学も護身術も短期間で身に付けてしまう。

 

「刹那の凄い所、それは私がことちゃんにコンプレックスを抱く時はあっても、刹那にはそれがないことだよ。そんなヒマがあるなら、独学をして自分を磨く方向へ進むから」

「世界ちゃんはよく見ていますね」

「まあね。刹那が私を見守るのと同じぐらいのことはしてるよ」

 

 とある休日の昼過ぎ。

 言葉が刹那の部屋へ遊びに行く。

 手土産は世界に教わった手作りおはぎ。

 刹那にコーヒーをいれてもらって、その洗練されたコクと深みの味を楽しむ。

 世界がお勧めをするのも頷けてしまった。

 

「遊びに来るのはいいけど、私は世界みたいにお話上手じゃない」

「それは私も同じですが、世界ちゃんに関するお話ならどうですか?」

「……世界が何か変なことした?」

「あ、別にそういう訳では。世界ちゃんが私たちをよく見ていることに感心をしまして」

 

 言葉は何気なく尋ねてみる。

 どれだけ仲の良い関係でも喧嘩の一つや二つはあるもの。

 

 世界と刹那でそれはなかったのか?

 

 刹那は答える。

 

 一度だけ本気で喧嘩をしたことがある。

 

 それはあだ名事件。

 お互いの名前はセから始まるので、せっちゃんというあだ名を奪い合った。

 他の全ては譲ってもいいが、あだ名だけはどうしても欲しかった。

 形あるものはいつか壊れるが、形のないあだ名は一生残るから。

 それが一つあれば、刹那はそれだけで満たされ、前へ進める強さを持っている。

 

「あの時、どちらがせっちゃんに相応しいか。ことちゃんに選んでもらう話になった」

「私とせっちゃんが初めて出会ったあの出来事でしょうか?」

「うん。世界の紹介で私とことぴーが出会った日」

「ことちゃんとことぴー、両方のあだ名を頂けて私は嬉しかったです」

 

 世界が初めて刹那に譲った幼き日。

 しかも刹那が唯一望んだせっちゃんというあだ名で。

 世界が言葉に言ってくれた。

 せっちゃん呼びは刹那にするようにと。

 

「そこで私は譲られる気持ちを知った。世界も譲る気持ちを知った。ことちゃんがお互いを思い合ってるって褒めてくれるのは、そこから始まったと思う」

「私が最初のきっかけになったことが光栄です」

「なぜあだ名を譲ってくれたのか? 世界は気が変わったって言ってた。私とことぴーが一緒にいる所を、とても嬉しそうに見ていた」

「尊い関係に見えるみたいです私たち。世界ちゃんがそう言ってました。おかげで私に対するコンプレックスもあまり感じなくなったみたいです」

「それは認める。せっちゃんと呼んでくれることぴーのことは好き」

「世界ちゃんよりも?」

「それはない。私にとって世界は特別。親友であり家族だから」

 

 性格も好みも考え方も異なる世界と刹那。

 それでも深く繋がっているのが見てとれた。

 しかし言葉は言ってくれる。

 

「実は似ているんですよ。せっちゃんと世界ちゃん」

「どこが?」

「後ろ姿です。髪の色違いはありますが、それで世界ちゃんがリボンをつけたら、大きくなったせっちゃんに見えます」

「世界、リボン恥ずかしがってつけてくれない。居合の時みたいに思いつきでするだけ」

「あれは私も驚きました。今までの世界ちゃんが本気を出していなかった。そう疑ってしまうほどに素晴らしい居合でした」

「うん。とてもカッコ良かった」

 

 思いつきのキーワードは世界をより連想をさせる。

 良くも悪くも世界の突発的な発想に振り回されてきた。

 後先を考えないから失敗をしやすく、刹那と言葉で対処することもあった。

 その最たるものが天文部である。

 

「毎日徹夜なんて言い出した時、私は追い詰めすぎたと反省」

「私はせっちゃんをよろしくお願いする時点で、縁起でもないと思いました」

「世界は昔から体が弱い。それなのに自分の命を軽んじるのが世界の悪いクセ」

「看病をする私たちに謝る世界ちゃんを見かけます。まるでご自身を責めているようで、痛々しく思える時がありました」

「わかる。どうせ私たちの足を引っ張っている。お荷物になって申し訳ないって思ってる。そんなヒマがあるなら治せって叱ったことがある」

「……世界ちゃんには支えてくれる人が必要だと思いますか?」

「思う」

「その支える人がいなくてもいいように、自立しようと世界ちゃんが体調に気を付けて頑張っていることは知っていますか?」

「無論。一人で抱えこもうとしないよう、ちゃんと相談してって言ってある」

「私もそれは伝えてあります。一人で無茶をして取り返しのつかない事になってはいけませんから」

 

 ここから話題を天文部へと戻す。

 3学期は卒業式の影響でクラス委員の活動が忙しい。

 世界は光の洋菓子屋おおはらでバイトを始めている。

 そんな中、全く天文部をやらない訳にはいかない。

 屋上の使用維持のために、定期的なレポートの提出が欠かせないから。

 

「ことぴー、天文部の活動予定は?」

「明後日の夜間、お母さんが早めに帰る予定なので活動は可能です」

「それは天気次第。晴れなら実行、雨なら中止。足りない場合、日中の太陽観測を検討する」

「他校の天文部と合同観測で補う方法もありますが?」

「それは他校の都合があるから保留で」

「世界ちゃんが用意したお月見団子、とても美味しかったと他校生に評判でした」

「私たち家庭部じゃなくて天文部」

 

 頭脳コンビとして補佐をしてくれる。

 刹那と言葉がいれば天文部は安泰だ。

 機材の扱いも自分たちで出来て形となってきている。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 榊野学園での昼休み。

 1年3組の教室へ世界が天文部メンバーを集めた。

 そのため4組の乙女と言葉も今回は混ざっている。

 事前連絡はしているので、その日は全員で弁当だ。

 そして世界が中心となり、昼食をとりながら切り出す。

 

「七海、女子バスケ部って春休みに合宿とかある?」

「ないよ。そういうのは夏休みにするものじゃない?」

「別に春休みにしてもいいんじゃん。という訳で天文部で合宿をしてみたい」

 

 部活といえば合宿である。

 そんな世界の思いつきに呆れる刹那。

 また始まったと思ったのだろう。

 

「世界はいつも唐突すぎる。皆の都合を考えて。それと合宿先や費用とかはどうするの?」

「春休み中ずっと都合悪い、なんて事はないでしょ。あと合宿の細かいことはことちゃん頼みで問題なし」

「言、世界があんなこと言ってるけど?」

「大丈夫です七海さん。世界ちゃんのご要望にお応えするアテはあります」

 

 言葉の父からの紹介があれば、天体観測ができる温泉旅館で合宿は可能だ。

 条件がつくとしたら、言葉の妹である心を連れて行くことだろう。

 さもないと心が一人になってしまうから。

 

 光は澤永、乙女は伊藤を連れて行きたい様子。

 あとで二人の都合を確認するように伝えておく。

 なお、七海の彼氏は春休み期間中も忙しいらしく不参加だ。

 

 一方、離れた所から立ったままチラチラと刹那を眺める田中がいる。

 それに気付いている世界は、一時的にその場を離れて近寄った。

 

「田中、春休みヒマだったら天文部の合宿来る?」

 

 世界の誘いに田中がヒザを崩して激しく落ち込む。

 春休みに柔道の大会があるからだ。

 逆にいえば大会が終わった後なら参加は可能。

 そこで世界が意味深に笑って挑戦状を叩きつける。

 

「柔道の試合でいい結果を出したら、合宿の日程を田中の都合がいい日に合わせてあげる」

 

 これで田中が立ち上がりやる気が急上昇。

 少しはいい所を見せてほしい。

 刹那に片想いをするほどに見る目がある男だから。

 

 その様子をジーと見つめている刹那。

 用件が終わった世界は教室の隅っこへ移動をする。

 そこで手招きをして、刹那は素直に来てくれた。

 周りに聞こえないように至近距離となる。

 そして小声で会話を始めていく。

 

「どうよ刹那?」

「なにが?」

「田中にとってはクラス替えで離れちゃうかもしれないし。クラス委員も終わってしまうから、合宿がラストチャンスで張り切ってるのがわかるでしょ?」

「別にどうでもいい」

「そう? でも悪い気はしないんじゃない? それだけ本気ってことじゃん」

「世界こそ、わざわざ田中を誘って気があるんじゃないの?」

「普通に焦れったいからよ。もう1年終わるのに何やってんのって話だからね」

「何もしなくていい。私、そういうつもりないから」

「それは刹那の意思だから何も言わないよ」

 

 別に付き合えとは一言もいっていない。

 それは当人同士が決めること。

 仮に田中が告白をしても決めるのは刹那だ。

 

「私個人としては、いつも刹那がお世話になっていますという気楽なノリでやってるから」

「そんなノリは捨てなさい。あとお世話になってない。指示を出して面倒を見たのは私」

「じゃあ、いつも刹那はお世話してますというノリで」

「意味わからない。とにかく世界は余計なことしないで」

「ひっどぉーい。超絶可愛いせつにゃんのために、色々気を回してるのに」

「頼んでない。あとせつにゃん言うな」

 

 猫みたいでかわいい。

 世界がそのように褒めても、刹那はお気に召さない。

 どうにも茶化されているように聞こえるようだ。

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