World Days(新版) 作:完結の陽炎
春休み中の夜。
自室で休んでいた世界は田中の自宅へ電話をする。
試合結果を確認するためだ。
よほど天文部の合宿に行きたかったのだろう。
一勝をあげる程度に思っていた世界だが、その予想を大きく超えた。
「大会優勝ってマジ?」
「はい」
どんな規模の大会かは素人の世界にはわからない。
でも田中が優勝をしたのは事実。
愛の力は偉大というべきか。
証拠となる賞状も授与されている。
「優勝おめでとう。ことちゃんに伝えて、合宿先でお祝いをしてあげる。楽しみにしててね」
電話を切って言葉の部屋へ向かう。
言葉が楽しそうに了解をしてくれた。
これで日程の調整とお祝いの料理について手配をしてくれる。
合宿の当日。
参加メンバーは部員となる世界・刹那・言葉・光・七海・乙女。
さらにゲストメンバーには、伊藤・澤永・可憐・心・止・田中。
少女の心は言葉の妹、幼女の止は伊藤の妹。
自分よりも年下で小さい女の子に喜びを見せる心。
まるでお姉ちゃんになったような優越感を味わった。
旅館内での出来事。
女子の入浴中に澤永が覗こうと企む。
伊藤がやめとけと忠告をする。
だが澤永は止まらない。
男として見たい欲望に忠実で突っ走る。
警告用のトラップに足を引っかけてタライが落下。
それは澤永の頭に命中し、メモ書きが添えられている。
おとなしく引き下がらないなら容赦はしない。
この程度で逃げ出す澤永ではない。
男の意地を賭けて特攻あるのみ。
次の瞬間。
見張っていた世界と刹那の奇襲が入る。
水鉄砲を浴びせて澤永が怯んだ。
その隙に乗じて可憐が持参したバスケットボールを投げる。
澤永の顔面へめり込むようにクリーンヒット。
仰向けに倒れた所に田中が寝技で動きを封じる。
ここから連携を組み、ロープで縛り上げることに成功。
あとは彼女である光に引き取ってもらい、別室で存分にお仕置きをしてもらう。
「どうよ刹那? 私と可憐が考えた防衛作戦、役に立ったでしょ?」
「澤永が単純なだけ」
「まあ、それは否定しないけどね。ご協力ありがとう可憐。あと田中もナイス寝技」
「いえいえ、実際にやってみると楽しかったです」
「うむ」
世界と可憐で敵を引っかける罠を一緒に考えた。
悪巧みというイタズラが成功する悪魔の快感。
マイナスの方向へ応用をすれば、相手を不幸のどん底に陥れることも可能だ。
「これ以上、世界に変なこと吹き込まないで」
悪影響になる危機感を覚えた刹那。
世界と可憐の間に割り込み、両手を広げての威嚇をする。
敵の敵は味方で手を組んだに過ぎない。
「ありゃりゃ。もしかして私、刹那さんに嫌われてます?」
「可憐はどうなの? 刹那の事は嫌い?」
「本人目の前でそれ言います? あ、でも私の答えは――」
「行こう世界。待機していることぴーに報告。田中は引き続き見張って」
「うわーん!! 刹那さんに無視されちゃいましたぁー!!」
可憐が嘘泣きをしても効果はない。
置いて行かれないようについていく。
田中は緊張をしながらも頷く。
その場で待機をして防衛に専念をする。
そんな田中を残して向かった先は最終防衛ライン。
大浴場に入るために必ず通る広場がある。
細長めの紅いリボンで長い髪を束ね、居合の道着で帯刀をしている言葉。
いつでも真剣が抜けるように姿勢を正して待ち構える。
周りの空気が冷たく静まり返っていた。
「怖い」
「桂さん、普通に怖いです」
「久しぶりに見たけど、相変わらずヤバいね」
刹那・可憐・世界が遠巻きからコソコソと観察をする。
あまりにプレッシャーが圧し掛かって立ち入れない。
だからこその奥の手であり、最終防衛ラインを任せてある。
すっかり雰囲気に呑まれてしまった三人。
それから囲むようにして密談を始めてしまう。
「お願い可憐、行って来て」
「無理です無理です。マジ怖すぎて脚ガクガクしてます」
「別に死にはしない。行け」
「だったら刹那さんが行ってくださいよ」
「断る」
「よし多数決にしよう」
「いやいやそりゃないですよ世界さん。絶対二人で私に押し付ける気満々じゃないですか」
そんな三人の気配が丸わかりだったのだろう。
もう終わったのかと思い、言葉が自然に近付いて声を掛ける。
それが不意打ちとなった。
恐怖の余り腰を抜かしてしまう可憐はすっかり涙目。
世界の前で震えながらも両手を広げて庇う刹那。
そんな一生懸命な刹那を見ることで、世界は逆に落ち着きを取り戻した。
「ことちゃん、気配消して接近したら皆ビビるってば」
「す、すみません。普通に近寄って声を掛けたつもりですが」
「無意識なら仕方ない。ほら刹那、もう大丈夫だからそんなに震えない」
後ろから頭に手をのせて優しく撫でる。
しばらくすると刹那の震えがおさまった。
「とりあえず、澤永が覗きに来たけど、縛り上げて光に回収してもらったよ」
「お怪我はありませんでしたか?」
「安全に作戦を組んだから大丈夫だよ。他のメンバーが大浴場出たら見張り交代ね」
「わかりました」
「あ、ついでにことちゃんの刀、少しだけ見てもいい?」
「はいどうぞ」
鞘ごと差し出してくれたので受け取る。
せっかくだからと刀のチェックを始めた。
居合を習って扱い方は心得ている。
「わー、久しぶりの真剣だ懐かしい」
落とさないように柄と鞘をしっかりと握り、ゆっくりと鞘から抜く。
その抜き身の刀を、様々な角度から見定めをする。
まるで鑑定家の気分だ。
お手入れがされて、刀身が綺麗に輝き、刃こぼれもない。
「なんか相当な業物らしいね。どういう分類の刀だったっけ?」
「古青江という歴史のある刀だとお父さんから聞いています」
「そのおじちゃんとの約束は覚えてる?」
「もちろんです。使う時は万全の状態で、少しでも危ない状態だと思ったら絶対に使わない」
「私もおじちゃんから刀を貰った時に約束したよ。当然だよね。本物の刀なんだから、体が不調な時に使うのは危なすぎる」
使わないと居合で馴染ませることができない。
使い手と武器が一心同体になるかのように扱うには慣れが必要だ。
業物を与えたという事は、それを振っても大丈夫なぐらいのレベルに達している。
言葉の父との約束を二人は遵守する。
自己の判断で使ってもいいという信用は嬉しいものだ。
だからこそ万全の状態以外では絶対に使わない。
「うんうん、この重さも懐かしい」
納刀をして鞘入り刀の重さを堪能する。
無意識で居合構えをしてしまった。
何度も練習をしてきたから体が覚えている。
それで満足をしたので言葉に刀を返す。
「そういえば、おじちゃんから貰った刀も相当古いものだったな」
「世界ちゃんのは古備前ですね」
「あ、それだ。あの時はホントありがたいと思ったよ。ことちゃんのお父さんは太っ腹だね」
「そんなに太っていないと思いますが?」
「そっちの意味じゃないから。でも刀に触れているとさ、一緒に居合を習った頃が懐かしくなっちゃうね」
「また今度、居合をしませんか? いつでも言って頂ければ場所を提供できますので」
「うん。それはまた今度ね」
その後、交代をして全員の入浴を済ませた後。
大広間の和室で田中の優勝祝いが開始。
鍋パーティを開き、巨漢な田中の食いっぷりが凄まじい。
見てるだけで胸焼けがしてもおかしくない量を平らげた。