World Days(新版) 作:完結の陽炎
ある季節の変わり目。
気温差が激しく世界が体調を崩して学校を休んだ。
貧血の倦怠感により何もする気が起きない。
「んんー」
母は仕事に出ているため、ベットで一人寂しく寝ていた。
不調時の孤独感で心細い。
刹那を筆頭に、言葉・光・七海からの携帯メールが来た。
いずれも放課後にお見舞いに行くという内容。
それを精神的な支えとしておとなしく養生をする。
「……」
耳鳴りのように、時計の針がカチカチと響く。
寝返りを打つたびに、冷えたシーツが頬に触れて不安になる。
こんな時に考え事をすると後ろ向きになりやすい。
どれだけ刹那に苦労をさせてきたのか?
散々とワガママをしている世界。
いずれ愛想を尽かされて見捨てられるかもしれない。
そのほうが刹那の負担にならずに済むだろう。
甘えたいけど邪魔者になりたくない。
そんな気持ちの揺らぎが生じてしまう。
昼休みの時間帯で少しだけ余力がある。
刹那にメールを送った。
いつもの世界らしくない弱気な一言である。
『いつも心配させてごめん』
すると次のようなやりとりが繰り広げられた。
『世界、私のこと気にするより自分の心配をして』
『刹那に甘えて迷惑してない?』
『迷惑じゃない。そんな事よりご飯食べた?』
『ダルくて無理』
『ちゃんと食べないと良くならないよ』
気は紛れたが説教は勘弁。
最後に寝るの一言で締めくくった。
しばらくすると再びマイナス感情で不安定になる。
今度は母子家庭という事情についてだ。
その場で一人ゆえにそっと呟く。
「お父さんか……」
過去に一度だけ父のことを母に尋ねたことはある。
でも二度と言わない。
母の悲しむ顔を見たくないから。
それだけは絶対にしてはいけない禁句とした。
好奇心旺盛な世界は中学に入ってから調べた。
世界の情報網を甘く見てはいけない。
有力なパイプとして、人脈の幅広い桂家を頼れるのは大きい。
言葉にお願いをして真実を探り、極秘情報として胸の内にしまいこんである。
この時の世界の頭の中に起きた感想はひとつ。
刹那のお母さんから生まれたかった。
モヤモヤとした時間を過ごす。
そして待ち望んだ放課後の時間帯。
見舞いに来てくれる刹那がやって来た。
「世界、まだ具合悪い?」
「んー」
世界は生返事が精一杯。
光がプリン、七海はドリンクで差し入れをくれた。
言葉が来ていないのはちょっとした理由がある。
「言は見舞いの花を買ってから来るってさ」
「七海、いつからことぴーのこと、あだ名で呼ぶようにしたの?」
「いいでしょ別に。桂って呼び方だと他人っぽいし、勉強で世話になってるからね」
七海の説明に刹那はそういうものかと割り切る。
それを近くで聞く世界はどこか嬉しそうだ。
噂をすれば影。
言葉がやって来て綺麗な花を飾りながら言ってくれた。
「私も重いほうなので、いい病院を紹介できますよ」
刹那や七海、光は軽いほうで苦にならない。
世界がどれだけ辛いのかを分かってやれない。
言葉はやや重く、女の子の日と体育が重なると見学をするレベルだ。
世界の場合は保健室で休むぐらいに酷くなる。
これからのためにも生理と向き合う必要がある。
一人で抱え込んでも事態は好転しない。
後日、言葉が紹介してくれた病院で診てもらう。
おかげで改善の兆しがありこれからに期待である。
………………。
…………。
……。
世界は嫌な夢を見てしまう。
浮気の子どもというレッテルに親戚の冷たい目。
どれだけ目を背けようとも事実からは逃げられない。
お泊りで近くに寝ていた刹那。
うなされる世界の手を握って呼び掛ける。
そのおかげで悪夢から現実へ戻って来れた。
「世界、大丈夫?」
「……ごめん」
「気にしないで。怖い夢を見た?」
夜も更けているので小声で問う。
世界は頷いてから刹那を見つめる。
そして悲痛な面持ちで言った。
「ごめん。刹那のお父さんがいないのは、私たち親子のせいだね」
「違う。世界は何も悪くない」
「刹那は恨んでないの?」
「恨んでない。生まれた時から世界と一緒。それが幸せだから」
刹那も事情を把握している。
世界を守るために一生懸命に調べた。
世界と同じく桂家との繋がりがあるのは大きい。
判明した衝撃的な事実。
世界と刹那が異母姉妹である。
たとえ普通でなくても、二人にとっては嬉しかった。
なぜなら親友だけでなく、家族として血の繋がりを感じられるから。
「私のほうこそ、浮気の子ども」
「なんでよ。刹那は本命の子どもでしょ?」
「瞬さん、他にも相手がいて子どもがいる」
よくそれだけの真実を探せたものだ。
刹那の胸の内を思うと世界は悲しくなる。
そして調査の中で刹那は父親と直接会った。
「瞬さんに約束してもらった。二度と浮気しない、真面目に生きるって」
「……なんでお父さんって呼ばないの? 刹那のお父さんでしょ?」
「世界のお父さんでもある」
「知らない。お母さん捨てていなくなった人のことなんて」
世界が拒絶をするのは当たり前である。
刹那も同じ立場で痛いほどにわかってしまう。
父の浮気のせいで母が泣くことになったから。
世界はそれ以上の悪態をつかない。
そんなことをしても刹那を悲しませるだけだ。
「世界」
「なに?」
「おねえちゃんって呼んだほうがいい?」
世界が清浦家の子として生まれたかったのはこれである。
刹那に姉と呼ばれて複雑な気持ちになった。
素直に喜ぶことが許されない。
お互いに苗字が違うので周りから勘ぐられる。
浮気の子どもとして肩身が狭くなるのは必定だ。
よって表沙汰にできず二人だけの秘密とするしかない。
「刹那は刹那だよ。今まで通りで何も変わらない」
「わかった。世界は世界のまま」
再び悪夢を見ないように添い寝をする。
安心させてあげたい思いから手を繋ぐ。
そんな刹那の優しさに身を委ねて世界は眠りについた。