World Days(新版)   作:完結の陽炎

9 / 88
第4話「世界と刹那は異母姉妹」

 ある季節の変わり目。

 気温差が激しく世界が体調を崩して学校を休んだ。

 貧血の倦怠感により何もする気が起きない。

 

「んんー」

 

 母は仕事に出ているため、ベットで一人寂しく寝ていた。

 不調時の孤独感で心細い。

 刹那を筆頭に、言葉・光・七海からの携帯メールが来た。

 いずれも放課後にお見舞いに行くという内容。

 それを精神的な支えとしておとなしく養生をする。

 

「……」

 

 耳鳴りのように、時計の針がカチカチと響く。

 寝返りを打つたびに、冷えたシーツが頬に触れて不安になる。

 こんな時に考え事をすると後ろ向きになりやすい。

 

 どれだけ刹那に苦労をさせてきたのか?

 

 散々とワガママをしている世界。

 いずれ愛想を尽かされて見捨てられるかもしれない。

 そのほうが刹那の負担にならずに済むだろう。

 甘えたいけど邪魔者になりたくない。

 そんな気持ちの揺らぎが生じてしまう。

 

 昼休みの時間帯で少しだけ余力がある。

 刹那にメールを送った。

 いつもの世界らしくない弱気な一言である。

 

『いつも心配させてごめん』

 

 すると次のようなやりとりが繰り広げられた。

 

『世界、私のこと気にするより自分の心配をして』

『刹那に甘えて迷惑してない?』

『迷惑じゃない。そんな事よりご飯食べた?』

『ダルくて無理』

『ちゃんと食べないと良くならないよ』

 

 気は紛れたが説教は勘弁。

 最後に寝るの一言で締めくくった。

 

 しばらくすると再びマイナス感情で不安定になる。

 今度は母子家庭という事情についてだ。

 その場で一人ゆえにそっと呟く。

 

「お父さんか……」

 

 過去に一度だけ父のことを母に尋ねたことはある。

 でも二度と言わない。

 母の悲しむ顔を見たくないから。

 それだけは絶対にしてはいけない禁句とした。

 

 好奇心旺盛な世界は中学に入ってから調べた。

 世界の情報網を甘く見てはいけない。

 有力なパイプとして、人脈の幅広い桂家を頼れるのは大きい。

 言葉にお願いをして真実を探り、極秘情報として胸の内にしまいこんである。

 この時の世界の頭の中に起きた感想はひとつ。

 

 刹那のお母さんから生まれたかった。

 

 モヤモヤとした時間を過ごす。

 そして待ち望んだ放課後の時間帯。

 見舞いに来てくれる刹那がやって来た。

 

「世界、まだ具合悪い?」

「んー」

 

 世界は生返事が精一杯。

 光がプリン、七海はドリンクで差し入れをくれた。

 言葉が来ていないのはちょっとした理由がある。

 

「言は見舞いの花を買ってから来るってさ」

「七海、いつからことぴーのこと、あだ名で呼ぶようにしたの?」

「いいでしょ別に。桂って呼び方だと他人っぽいし、勉強で世話になってるからね」

 

 七海の説明に刹那はそういうものかと割り切る。

 それを近くで聞く世界はどこか嬉しそうだ。

 噂をすれば影。

 言葉がやって来て綺麗な花を飾りながら言ってくれた。

 

「私も重いほうなので、いい病院を紹介できますよ」

 

 刹那や七海、光は軽いほうで苦にならない。

 世界がどれだけ辛いのかを分かってやれない。

 言葉はやや重く、女の子の日と体育が重なると見学をするレベルだ。

 世界の場合は保健室で休むぐらいに酷くなる。

 

 これからのためにも生理と向き合う必要がある。

 一人で抱え込んでも事態は好転しない。

 

 後日、言葉が紹介してくれた病院で診てもらう。

 おかげで改善の兆しがありこれからに期待である。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 世界は嫌な夢を見てしまう。

 浮気の子どもというレッテルに親戚の冷たい目。

 どれだけ目を背けようとも事実からは逃げられない。

 

 お泊りで近くに寝ていた刹那。

 うなされる世界の手を握って呼び掛ける。

 そのおかげで悪夢から現実へ戻って来れた。

 

「世界、大丈夫?」

「……ごめん」

「気にしないで。怖い夢を見た?」

 

 夜も更けているので小声で問う。

 世界は頷いてから刹那を見つめる。

 そして悲痛な面持ちで言った。

 

「ごめん。刹那のお父さんがいないのは、私たち親子のせいだね」

「違う。世界は何も悪くない」

「刹那は恨んでないの?」

「恨んでない。生まれた時から世界と一緒。それが幸せだから」

 

 刹那も事情を把握している。

 世界を守るために一生懸命に調べた。

 世界と同じく桂家との繋がりがあるのは大きい。

 

 判明した衝撃的な事実。

 世界と刹那が異母姉妹である。

 たとえ普通でなくても、二人にとっては嬉しかった。

 なぜなら親友だけでなく、家族として血の繋がりを感じられるから。

 

「私のほうこそ、浮気の子ども」

「なんでよ。刹那は本命の子どもでしょ?」

「瞬さん、他にも相手がいて子どもがいる」

 

 よくそれだけの真実を探せたものだ。

 刹那の胸の内を思うと世界は悲しくなる。

 そして調査の中で刹那は父親と直接会った。

 

「瞬さんに約束してもらった。二度と浮気しない、真面目に生きるって」

「……なんでお父さんって呼ばないの? 刹那のお父さんでしょ?」

「世界のお父さんでもある」

「知らない。お母さん捨てていなくなった人のことなんて」

 

 世界が拒絶をするのは当たり前である。

 刹那も同じ立場で痛いほどにわかってしまう。

 父の浮気のせいで母が泣くことになったから。

 世界はそれ以上の悪態をつかない。

 そんなことをしても刹那を悲しませるだけだ。

 

「世界」

「なに?」

「おねえちゃんって呼んだほうがいい?」

 

 世界が清浦家の子として生まれたかったのはこれである。

 刹那に姉と呼ばれて複雑な気持ちになった。

 素直に喜ぶことが許されない。

 お互いに苗字が違うので周りから勘ぐられる。

 浮気の子どもとして肩身が狭くなるのは必定だ。

 よって表沙汰にできず二人だけの秘密とするしかない。

 

「刹那は刹那だよ。今まで通りで何も変わらない」

「わかった。世界は世界のまま」

 

 再び悪夢を見ないように添い寝をする。

 安心させてあげたい思いから手を繋ぐ。

 そんな刹那の優しさに身を委ねて世界は眠りについた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定