(Ⅴ)
オリジナル・ハートの壊滅から、数日が経過した。オリジンは全滅した訳ではなく、超獣世界では未だにその残党がチラホラと確認される。だが、彼らが絶えるのは時間の問題であろう。現に、今も目の前で一体──
そこにいたのは黒き龍だった。奴は主に対し必死の抵抗を見せていたが、あっけなく制圧された。そして瀕死の龍に、主が問いかける。
「貴様は闇のオリジンだな」
「だとしたら、なんだというのだ……」
語気を強めて主が続ける。「ザ・ロストについて貴様が知っている事を全て話せ……!」
まただ。主はここのところ闇文明と思しきオリジンを見つけては、ザ・ロストとやらについてこう問いただす。そして、返ってくる答えもほぼ同じ。
「……知らんな。そんなものは」
「そうか」
呟くや否や、主は手にした凶刃を突き立てる。龍は最期に何やら神への祈りを口にしながら息絶えた。
「行くぞ、ヤミノストライク」
「はい、ガンヴィート様」
──本当に最近の主はどうしたことだろうか。主が変わったのはちょうどオリジナル・ハート壊滅の前日、暗黒王を祀る神殿の調査から帰還してからだった。何かあったのは間違いないが、主は一向に事情を口にしようとしない。主が話してくれない以上は、我も黙って付き従うしかないが……
「時にヤミノストライクよ、現在の闇文明の動向はどうなっている?」
「まず、つい先日、XENOM様に代わってディアス……様が闇文明の実権を握り、ランブル様の意志を継いで他文明への侵攻を進めている事はご存知のことと存じます。その後、ディアス様は一部の戦士たちを集めた『Z軍』を結成、闇での立ち位置をより強大なものとしています」
「そうか……」
「それから、昨日Z軍が光の軍勢と激突、ディアス様が『覚醒』の力で勝利を収めただけでなく、光の力を取り込む事に成功し、自らを『ディアボロス』と名乗り始めた──と聞いています」
──そういえばディアスが現れたのは、ちょうど主の様子が変わった頃だったな。もしや何か関係が……そう思案していると、前を歩いていたはずの主がいつの間にか我の後方におり、歩みを止めていた。何事かと様子を窺うと、その身体が激しく震えているのが分かった。拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。このような主の姿など、我は見たことがない。
「どうかなさいましたか? ガンヴィート様。顔色が優れないようですが……」
「……ヤミノストライクよ。貴様は我に付いてきてくれるか?」
只ならぬ雰囲気に一瞬気圧されたが、我の答えは決まっている。
「勿論でございます」
そう答えながら向き合った主の目には、強い決意が宿っているように見えた。
(Ⅵ)
「皆の衆、よく集まってくれた」GENJIは連合軍に呼びかける。
ディアボロスZを中心とする闇の軍勢に対抗すべく結成された四文明連合。今宵はその作戦会議だった。各文明の代表は、《ファイブスター》《ホーガン》《カンクロウ》──そして《GENJI・XX》。いずれも『覚醒』の力を獲得することに成功した猛者だ。
「まず、改めて状況を整理する。我々はドラヴィタの活躍によってランブルを倒したが、その後にランブルの後継者として現れたディアボロス、そして奴を中心としたZ軍は、世界を支配せんと未だ侵攻を続けている。そしてつい先日、我々はディアボロスによってドラヴィタとストーム・カイザーを失った。が、彼らの最期の活躍によりディアボロスは現在、封印状態に陥っている。」
「ですが、まだ安心は出来ません。」GENJIに続いてファイブスターが声を上げる。
「光文明の一部がZの手に落ちたという知らせが届きました。彼等は以前にも増して強大な存在となるやもしれません」
「我らの力を合わせれば、Zなど恐るに足らず!」
「そうだぜブラザー! オレらがイチバンだ!」
カンクロウとホーガンは全く物怖じしていない。頼もしい限りだが、GENJIの心にはまだ少し陰りがあった。何しろ、彼はストームの最期をその目で見たのだ。そして、Zの強大さも。
GENJIの心情を察したファイブスターが声をかけようとしたその時、外から騒々しい音と見張りの叫び声が聞こえた。間もなく会場に現れた姿を見て、皆が息を吞む。
「闇の兵士!?何故ここに!」
「待て、敵意はない。我が名はガンヴィート。闇の騎士である」
GENJIはその名と顔を知っていた。長年に渡り闇文明を支えてきた参謀、そして戦闘力も計り知れないと聞いている。
「何をしに来た」GENJIはガンヴィートを取り押さえようと剣を構えたが、無防備なガンヴィートの様子から、少なくとも相手に戦闘の意志はないことを悟り困惑した。襲撃でないなら、一体何が目的だというのだ?そう考えている内に、ガンヴィートが口を開く。
「単刀直入に言う。我々は闇から離反し、貴様らと同じくディアボロス打倒を目的としている。」
場内がどよめく。当然だ。あのガンヴィートが四文明連合に加わるなど、罠以外の何であろうか。
「……信じると思うか?」最初に口を開いたのはカンクロウだった。
「信じろとは言わない。ディアボロスを倒せればそれで良い」
「おいGENJI! こいつ絶対イチバンに裏切るぜ!」
「私も同感です」当然だが、連合のトップ達は簡単にガンヴィートの言葉を受け止めない。
「ディアボロスを倒すまで貴様らと争う気はない。だが、その後はいずれ戦うことになるだろうな」
その時、剣を納めてGENJIが一歩前に出る。
「……随分と正直だな。ガンヴィートよ、貴様の真の目的はなんだ?」
「無論、闇文明による世界の支配だ。だが、それは闇文明だけの力で成し遂げねば意味がない。ディアボロスはそれに反している……それだけだ」
「貴方の言い分は理解しました。確かにZは光の一部を取り込んでいるという報告があります。ですが、貴方と手を組む理由にはなりません」
「誰が手を組むと言った? 我々はただ『報告』に来ただけだ。決戦中にZ軍と間違われても困るからな」
「なんだ、我らと力を合わせるんじゃないのか」
気が抜けたようにカンクロウがそう言うと、ガンヴィートが彼に刃を向けてこう言い放った。
「闇は崇高な文明だ。他文明と馴れ合ったり共闘したりする気はない」
カンクロウは肩をすくめて「そうかい」と言った。そしてGENJIが再び口を開く。
「良いだろう。目的が同じなら、敵対する必要はない。目的が同じ間は、だが」
「理解があって助かる」すると、ガンヴィートの合図で会場内に闇のクリーチャーがぞろぞろと入ってきた。
「紹介しよう。これが我が軍、『
四文明連合は事実上の『五文明連合』となり、Z軍との決戦は目前に迫っていた。
(Ⅶ)
全く、Z軍がここまでの兵力を備えているとは想定外だった。もう身体に力がほとんど入らない。
──ディアボロスの復活はまだ良い。想定の範囲内だ。だが、バロムとアルカディアスが融合した化け物や、伝説のキング・ロマノフまでもが現れるなど、誰が想像出来ただろうか。しかも、ディアボロスは超覚醒とでも言うべき更なる『覚醒』を果たした。五文明全ての力を取り込んだ。・・・五文明の力を宿したディアボロスは、もはや『悪魔』の枠からも外れているように見える。超獣を超える超獣。絶対的な力を放つ最凶のクリーチャー。それが今のディアボロスだ。
──己が憎い。アレを止められぬ己が憎い。
「我が主、オルゼキア様の身体を……闇の誇りなど微塵も持ち合わせていない、あのような化け物にこれ以上好きにさせてなるものか」まだ終われない。
「たとえこの身が朽ちようとも、アレだけは絶対に倒さねばならない」まだ終わってない。
「闇の……オルゼキア様の誇りを取り戻すのだ!」
なんとか立ち上がったその時、オレの身体が紫色の光を放ち、全身からエネルギーが湧き上がってくるのを感じた。そうか、これが『覚醒』か。そう自覚した次の瞬間、今度は紫の光が俺の身体から上空へと駆け上がった。その先にいたのはGENJI。よく見ると他にも三色の光がGENJIに集まっている。
──そして、GENJIもディアボロスのように更なる覚醒、超覚醒を遂げた。
五文明の力で超覚醒を果たした今の奴なら、ディアボロスさえも倒せるだろう。我が力が他文明の者に流れるなど……とは思わなかった。今のオレにとって最も重要なのは、一刻も早くディアボロスを止める事なのだから。
──おかしなものだな。まるで闇の誇りを感じさせない考えだ。だが、悪い気はしない。
これ以上、あの方を穢させぬために。
そして、少しでもあの方と同じ罪を背負えるなら。
……こういう戦いも、悪くない。
オレにはあの方と違い、時を巻き戻す力はない。だから、失ったものについてくだらない後悔などしても仕方ない。俺に出来るのは、前に進む事だけだ。
超覚醒を果たしたGENJIに反応したのか、先程まで隣で倒れていたキング・ロマノフも起き上がり、上空へと飛び立とうとしている。チッ、倒し切れていなかったか。
「待て、まだ勝負はついてない」こいつを行かせる訳にはいかない。それに、純粋に闇の誇り高き意志を持って集まってくれた部下達のためにも、せめてこいつぐらいはオレが倒さねばなるまい。
ギロリとこちらを睨みつけるキング・ロマノフに対し、オレは刃を持つ手に力を込めて叫ぶ。
「貴様の相手はこの我……『B軍』の将、ブラック・ガンヴィートだ!」
(Ⅷ)
「結論から言うと実験は失敗しました。残念です」
「そうか」
彼らは人知れず会合を開いていた。
「聖霊王と悪魔神の融合、煉獄から解放したキング・ロマノフ、そしてあのオルゼキアを改造……ここまでやれば、一体ぐらいは成果が出るんじゃないかと思ったんですがねぇ」
「そこなんだがな、何故オルゼキアを素材に選んだんだ?それに、奴は暗黒凰事件から行方不明だったはずだが」
「オルゼキアは暗黒凰に取り込まれていたんですよ。そして、暗黒皇の消滅に伴い過去の依り代だったオルゼキアが解放された」
「なんだ? お前はオルゼキアの復活を予測していたのか?」
「えぇ、前例がいましたから。もっともソイツは再び依り代にされたようですが」ククク、と男が笑う。
「おっと、話が逸れましたね。そんな訳で、オルゼキアはフェニックスの、しかも暗黒王の依り代なんですよ。ただでさえ時間を操ると称されていた偉大な悪魔。素材としては極上です」
「なるほどな」対話の相手、もう一人の男は合点がいったように頷く。
「途中で解けた龍化はともかく、五文明の力を取り込ませる事には成功しました。が、我々が理想とする頂にはまだ遠かったですねぇ。やられちゃいましたし」
「悪魔神王とキング・ロマノフもな。この世界にあれだけの力を持つ者達がいるとは驚いた」
「ですねぇ。収穫といえば、『五文明の力を結集した破壊力』と『光と闇という相反する力の融合による絶大な力』を再確認出来たくらいでしょうか。キング・ロマノフは期待外れでしたね。とりあえず、次はコレに光の力を目一杯注いでみましょうか」
「オルゼキアの複製か……そんな事をして器が破裂しないかが不安だな」
「失敗しても代わりの複製はいくらでも作れます。超次元の実験体にしてもいいですし、『そちら』へのお土産にも出来ますよ」
「そうだな……数体いただくとするか。王室の警備にでも就かせよう」
「おやおや、これまた周到な。恐ろしい男ですね」
「お前ほど性格は悪くないさ。ハハハ」そう笑いながら男は立ち上がる。
「そろそろお暇しよう。こちらの世界に長居するのはリスクが高い」
「そうですね、ではプロジェクト『Z』のメンバーによろしく」
「あぁ。お前はこれからどうするんだ?」
「来るべき日に備えて予行練習にでも行ってきますよ。今回は『Lost』だったから、M、M……うん。次は『Marbas』とでも名乗りましょうか」
「……過去の有名獣を騙るあたり、お前は本当に性格が悪いよな」
瞬く間に太古の騎士から闇の道化師へと風貌を変えた彼に、呆れたように男は呟く。
「そうですか? むしろコードネームとしては良いと思うんですがね……」
「まぁ良い。またな、『マルバス』」
「えぇ、『ゾルゲ』さんも達者で」
(Ⅸ)
今宵の月は下弦。それも雲で見え隠れという半端さ。記念すべき日にしては似つかわしくないのが悔やまれる。
我が駆け付けたとき、主は瀕死のディアボロスに刃を向けていた。
「ククク……ガンヴィートよ、よくも裏切ってくれたな……。まさか貴様が他文明と手を組むとはな。我が絶えても、平和な時など来ると思うな……」
「貴様は何か勘違いしているようだな。我は平和など求めた事はない。これから我ら闇文明の時代が始まるのだ。闇文明の闇文明による、闇文明のための世界がな。他文明の力など、利用するだけで虫唾が走る。故に貴様が邪魔だった。それだけだ」
その言葉を聞き、我は前に主が語ったことを思い出した。主が語ってくれた野望のことを……
「ヤミノストライクよ、あの憎きディアボロスを倒したら……我は闇のトップの座を狙い、闇の実権を握るつもりだ」
「闇のトップを……!?長年闇を支えてきたガンヴィート様ほどのお方なら、必ず出来ます!このヤミノストライク、どこまでもお供致します!」
「あぁ、期待している。そして、我自身が強大な力を身につけ、闇を一つに纏めた暁には……」
大きく息を吸い、主は続けてこう言った。
「……覇王ブラック・モナーク様を復活させ、全文明を覇王様の支配下に置くのだ。闇文明の闇文明による闇文明のための世界を作ろうではないか」
その時、主は久しぶりに笑っていた。なんでも、主が『かつての主』と何度も誓い合った悲願らしい。ガンヴィート様はその『主』について詳しくは語らなかったが、敬愛していたのは我の目にも明らかであった。
──ここでディアボロスにトドメを刺すことで、ガンヴィート様は闇の英雄となる。闇文明内でのガンヴィート様の地位も高まり、野望の実現にまた一歩近付くことになるだろう。
「……くだらぬ論理だな、ガンヴィート。文明などに拘って何になる?」
「貴様には分かるまい。……さらばだ、ディアボロス」
──こうして、世界中を震撼させたZ軍の将は、我が主ガンヴィートの凶刃により、原形も分からぬほど切り刻まれた。
「ハッハッハ! 遂に、遂にやってやったぞ!」
主は震える両手を顔に当て、高笑いを浮かべた。そしてワインを数本取り出すと、中身を全て頭から豪快に被り、こう叫んだ。
「貴様の死に様に乾杯!」
いつしか雲は晴れ、差し込んだ月光がわずかに残ったディアボロスの欠片とガンヴィート様の後ろ姿を照らしていた。
(完)