セツナ視点です。
「——せーの!」
「「「「エースちゃん(おねえ)、セツナちゃん、レースお疲れ様でした」」」」
「エースは1着おめでとう! セツナちゃんも惜しかったけど、堂々の2着よ! 頑張ったわね!」
「おねえ、カッコよかった! セツナおねえも、がんばった!」
あの出張レース大会の日の翌日、エースの家に集まり、ボクとエースは家族ぐるみで、レースのお祝いパーティーを開かれていた。
「父ちゃん、母ちゃん、ラビ、セツナのご両親も、あたしたちのために、こんなパーティーを開いてくれて、ありがとうございます!」
「ありがとうございます! えへへ、ボクからも改めてエース1着おめでとう!」
「おう! セツナもありがとな!」
「今日はエースとセツナちゃんの好きなもの、腕によりをかけてたくさん用意したから、いっぱい食べてね!」
大きな座敷机に上には、エースの好物であるメンチカツやボクの好物であるにんじんハンバーグなど美味しそうな料理がズラリと並んでいた。
「いただきまーす!」
「じゃあ……いただきます! はむっ……うん、やっぱ母さんの作るカツは最高だな!」
そう言うエースの食べっぷりは見事なもので、あっという間にいくつかの皿を平らげていった。
「ラビもたべるー!」
『おお! 子羊くん、これが噂の『オスシ』か! 後で少しわけてもらっても良いかな?』
あ、いいですよ! 今交代しますね!
『もうダーレーったら。でも、わたしも少し食べてみたいかも……』
『酢で味をつけた米に魚介類を乗せたもの……か。どんな味がするのか興味はあるな』
ゴドルさんとバイアリーさんも、ぜひ食べてみてください!
「これが『オオトロ』というものか! どれ、『ショウユ』をつけて、まずは一口……おお! このぷりぷりとしていながらもとろけるような魚の触感……魚の旨味と酢飯の酸味が絶妙だな! うん、美味い!」
「あ、これは今ダーレーが出てるな」
「まあ! 三女神の方々も遠慮なく食べていってくださいね!」
実は、既に両親たちには、ボクの身体の中に三女神様たちがいることを知らせてある。最初は半信半疑だったみたいだけど、エースが信じていることと、こうしてよく交代することがあって、今は受け入れられている。
それからゴドルさんやバイアリーさんとも交代したりして、ご馳走を楽しんでいたところ、エースのお父さんが突然口を開いた。
「今日は、エースたちふたりに話したいことがあってな。ああ、食べながら聞いてほしいんだ」
「ん? どうしたんだよ父ちゃん、そんな改まって」
いつにも増して、ボクたちの両親は真剣な表情だった。
「単刀直入に言おう。ふたりとも中央トレセン学園への入学を目指してみないかい?」
ボクとエースは驚きで、お互い顔を合わせる。でも、それは——
「な……! 地方トレセン学園どころか、ち、中央だって!? い、いいのか!? ——いや、やっぱりダメだ。魅力的だけど、あそこは学費が高すぎるし、父ちゃんたちに迷惑かけられないから……」
「……エース、セツナちゃん。あなたたちの夢はなあに?」
ボクたちのユメ……それはエースと一緒にレースで最強になることだ。
「そ、そりゃ……あたしたちはふたりでレースでの最強を目指したいっていう……」
「ふたりの望みを叶えるのに、イチバンの近道は中央トレセン学園に入学することだ。——親として不甲斐ないことに、ふたりにはこれまで満足にレースをさせてあげられることができなかったからな……」
「いいですか? セツナちゃんたち娘の夢は、私たち親の夢でもあるのです。だから、これくらいはさせてくれませんか? 私たちにもそれを応援させてほしいのです」
「ラビ、おねえたちとはなればなれになるのはさびしいけど……でも、おねえたちのすごさをもっといろんなひとにしってほしい!」
「父ちゃん、母ちゃん、ラビ……」
「お父さん、お母さん、みんな……」
再びエースの顔を見合わせ、しばらく見つめ合った後、お互い納得したように頷く。
「……わかった。父ちゃん、母ちゃん、ラビ……ありがとう。あたしたち、中央に行くよ! レースで勝ったらとんでもない賞金出るんだろ! 中央で勝てるくらい強くなって……必ず、恩は返すから」
「お父さん、お母さん、ありがとう! ボクもエースと一緒に中央で勝って、絶対に恩返しするから!」
「もう……子どもがお金の心配なんてしなくていいのよ! 母ちゃんたちは夢を追いかけてくれたら、それだけで充分だから」
「おねえたちならちゅーおーでもぜったいかてるよ! ラビがほしょーします!」
『子羊くん、良かったな! 中央は設備が充実しているんだろう? 新しいトレーニングができるだろうし、併走相手にも困らないだろうな!』
『ふっ、この国のトップレベルのウマ娘が集まる場所か。セツナよ、お前の道を切り拓き始めたのならば、覚悟を決めろ』
『セツナちゃんたちが一体どうなるか……わたしたちは見守らせてもらうわね』
ボクたちの覚悟に偽りはありません、三女神様。ボクたちが夢を掴むまで、どうか見ていてください。
「——さて、そうと決まったら、勉強しないとね、勉強!」
「……へ?」
「なにフヌけた顔してるのエース。中央トレセン学園は、試験を受けないと入れないんだから! レースだけじゃなくて、受験勉強しないと、落ちちゃうかも」
「え、ええっ!?」
エースが固まったまま動かなくなってしまった。そう、エースは身体を動かすことの方が得意だから、勉強は少し苦手なのだ。
中央トレセン学園にはレースの推薦で入る方法もあるけど、それはほとんど良家の人たちのためにあるような制度で、大きなレースに出られないボクたちは正攻法で入るしかないのだった。
「大丈夫だって! ボクがしっかり教えるから! 三女神様たちもいるし!」
「うぅ……セツナぁ、お願いな……」
こうしてボクたちは、中央トレセン学園への受験が決まった。自分たちの、それから両親たちの夢を追いかけるために、ボクたちは歩き出した。
——おじいちゃん……ボクたち、一歩ずつ夢に近づけてるかな。でも絶対、そう遠くないうちに最強になったボクたちの姿を見せるから、空の上から見守っててね!
―――
そして、あれから一年ほど経ち、ボクたちもそろそろ小学校を卒業する時期になった。
「——はぁ……やっと着いた……なんで都会の電車ってこんなに難しいんだよー! 線路ってこんな何本も必要なのか!? セツナがいなかったら、あたし絶対遭難してるよ……」
そう言ってボクの肩に半泣きで抱きつくエース。その耳は、これ以上ないくらいしな垂れていた。
「ふふっ、地元だと1時間に1本走ってるかどうかだったもんね。それにしても、エースにこんな弱点があったなんてね」
今ボクたちがどこにいるかと言うと、なんと東京の府中、その中央トレセン学園前の駅である。
——そう、今日は中央トレセン学園の入学試験の日だ。ボクとエースは、受験のためにふたりでここまで来ていた。
その道中、エースは地元からの公共交通機関、主に電車の乗り換えで悪戦苦闘し、かなり疲弊していた。
「今日は筆記試験と実技試験だけじゃなくて、軽い面接もあるみたいだからね。その状態で挑むのも良くなさそうだし、まだ時間あるから少し休憩してから入ろっか」
「りょーかいだ……」
駅から降りて、近くにあった公園のベンチにダウンしたエースを寝かせ、膝枕をする。
『正直、俺たちも全くもってちんぷんかんぷんだったな! デンシャ、というものの速さには驚いたけど、駅の名前や改札の場所なんてどれも同じにみえるぞ!』
『あの混雑具合……もはや一種のトレーニングかと思ったな』
『セツナちゃんはちゃんと利用できてすごいわねぇ……』
いえいえ、事前にしっかりと調べてたので! ボクも下調べなしなら、普通に迷ってもおかしくないと思います。
「エース、お母さんたちから預かってるおにぎり、食べる?」
「…………食べさせてくれぇ」
「! ——えへへ、今日は甘えんぼさんだね!」
珍しすぎるエースの要求を受けて、エースの口元にラップを剥いたおにぎりを持っていくと、はむはむと食べ始めた。——ちょっと小動物みたいで可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
そうしてしばらく休み、エースの気力が復活した頃、そろそろ時間になりそうだったので、中央トレセン学園へと向かった。
―――
——筆記試験は特に問題なく書き終わり、試験後にエースと合流した。エースの方はここ一年の勉強の成果もあってか、意外にもスラスラと解けたのだという。
そして、実技試験は1000m走のタイムを計るというもので、こちらもボクとエースは問題なかった。
「筆記試験は正直すげー不安だったけど、しっかり勉強すれば意外と解けるもんなんだな! セツナのおかげだよ!」
「エースがちゃんとここまで努力したからだよ。まあでも、とりあえず一件落着だね。あとは面接だけど、エースは話すの得意だから、大丈夫そうだね!」
「ああ、任せとけ! 面接官にビシッとあたしたちの夢を伝えてくるからな!」
そうして面接の時間になり、ボクたちは待機室で出番を待つ。先に受験番号の早いエースが呼ばれていった。
面接で何を質問されるんだろうかと考えるけど、スタッフさんの受験生を呼び出す頻度がかなり高いので、意外とそんなに多くは話さないのかもしれない。
頭の中で、想定される質問事項への返答を改めて確認していたら、ボクの番号が呼ばれた。
スタッフに案内されて、面接室の前まで来る。そして気持ちを切り替えて、部屋のドアをノックした。
返事があったので、どんな人が面接官なのだろうかと思いながらドアを開ける。
「失礼します……ぇ!?」
なんとそこに座っていたのは、中央トレセン学園の理事長、秋川理事長その人だった。驚いたもののなんとか平静を装いつつ、椅子の近くまで向かう。
「フューチャーセツナです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。では、おかけくださいな」
秋川理事長を写真で見た時は、白い帽子を被った妙齢の才貌両全な婦人といった感じだったが、実際に相対してみるとその風格はホンモノだと思った。
「では面接の説明を——と言いたいところですが、当学園は毎年たくさんの受験生に恵まれていまして、受験生おひとりに対して少しずつしか話せない事、ご容赦ください。……と、そういうことで私は今回、アナタたち受験生に、ただひとつの質問にだけ答えてもらっています」
え、ひ、ひとつだけ!? ひとつの質問に答えるだけでいいの!? てっきり、様々な質問をぶつけられるものだと想定していたから、突然の事態に、一体どんな質問が来るのかと身構える。
「そして、その質問とは——アナタたちがこの学園に入って成し遂げたいこと、です。それを教えてくださいな」
トレセン学園に入って成し遂げたいこと、か——なるほど……けど、その質問なら、ボクとエースはしっかり答えられる自信がある! 昔から追いかけてきた、自分たちの夢をただ正直に伝えるだけだ。
「はい、ボ……わたしは、この学園に田舎出身者の可能性を示しに来ました。——わたしは充分なレース場もトレーニング場もないような田舎で生まれ育ちました。地元の人からはこんな辺境のウマ娘がレースに勝てるわけがないと言われ、悔しい思いをしたこともありました。だからこそ、わたし自身がこの学園に入ってレースに勝ち、日本や世界に名を轟かせるウマ娘になるためにここにきました。そして、どんなウマ娘、どんなヒトにも可能性があるのだということを証明します!」
秋川理事長の目を真っ直ぐ見据え、ボクは自信を持ってそう答える。
「……僥倖、ですね。まさに、確固たる決意を持っていることが伝わりました。このようなウマ娘が我が校を受験してくださり、私は非常に嬉しく思います。もし合格なさったならば、その時は存分にその夢を追いかけてください」
「はい、ありがとうございます!」
「以上で、面接は終わりです」
「ありがとうございました、失礼します」
そう言ってボクは部屋を退室する。ひとつだけと聞いた時は少し不安になったけど、最終的は手応えを感じる受け答えができたと思う。
「——フューチャーセツナさんに、先程のカツラギエースさんですか……あの希望に溢れた一途なまなざし……ひょっとしたら彼女たちは、今のトレセン学園……いえ、日本の競バ界に革命を起こしてくれる存在かもしれませんね……」
―――
「——あ、セツナ! お疲れ様、どうだった?」
「うん、ばっちりだったと思う!」
学園の施設を出てそのまま正門まで来たボクは、門の外で待っていたエースと合流し結果を共有する。
「よかった! あたしもしっかり伝えられたと思う! けど、理事長さんにいっこだけ聞くって言われたときは、正直、焦ったけどな」
「ボクもちょっと驚いちゃった。けど、やるべきことはやったから、後は結果を待つだけだね」
「ああ! まずはふたり一緒に合格! 頼むぞー、神様、ほとけ様、三女神様!」
『俺たちに祈られても、どうすることもできないな! けど、子羊くんたちをよく見てる俺からすれば、キミたちはきっと合格してるさ!」
『一念通天、お前たちの努力は我々が補償しよう』
『そうね。まずはふたりとも、お受験お疲れさま』
「……三女神様たちも、ボクたちなら大丈夫だって!」
「そうなのか? へへっ、三女神様にそう言われるのなら安心できるな!」
「じゃあ、せっかく府中にきたのにもったいないけど、帰りの電車まで時間がないから帰ろっか」
「げ」
「げ、じゃないよ! もし合格したらエースも都会に慣れないといけなくなるんだから、いつかひとりでも乗れるようにならないとね」
「そんなセッショウな……! セツナぁ、あたしたちはずっと一緒だろ?」
いつも何にも臆せずに堂々としている姿からは考えられないような状態で、ボクにしな垂れかかってくるエースが可愛いらしくて、ついイジワルしてしまったのは、内緒だ。
本作では、トレセン学園の理事長は、まだ秋川やよい理事長ではありません。
次回からジュニア期編に入ります。