刹那を駆け抜けたふたりのエース   作:クロノアの耳

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エース視点です。

やや短めの話です。




初めての共同生活にエースは心を躍らせます

 

 

「——えっと……あ、ここがあたしたちの部屋みたいだな。んじゃ開けるぞー? ……お、荷物はもう届いてるな」

 

「わぁ……! 見てみてエース! 机も棚もベッドも全部エースとお揃いだよ!」

 

「おー! こっちがクローゼットで、こっちには個室のシャワールームまであるぜ! いやー流石トレセン、日本最大級を謳ってるだけのことはあって広い部屋だな」

 

「へぇ、寮の部屋ってこんな感じになってるんだ」

 

 

 ——シービーとのレースを終えて、あたしたちはこれから自分が住む栗東寮に来ていた。寮長さんに挨拶を終え、部屋の番号を聞くと、またしても運命なのかセツナと同じ部屋だと言われた。

 

 

「えへへ、これはテンション上がっちゃうね! ボク、自分のベッドなんて初めてだし、毎日エースと同じ部屋で過ごすって考えただけでも、ワクワクが止まらないや!」

 

「ああ! セツナと夜遅くまで喋ったり、毎日勉強会とかもできたりすんのかな! 楽しみだぜ! そういえばセツナ、どっちのベッドがいいとかあるか? あたしはどっちでもいいぞ」

 

「うーんとね……じゃあ、ボクは左で! エースは右ね!」

 

「おっけー! じゃ、荷解きしてくか! って言ってもあたしたち、そんなに荷物はないけどな。シービーも頼むな!」

 

「うん。任せて」

 

 

 そうしてシービーの手伝いもあり、順調に荷解きは進んでいった。

 

 

「そういえば、シービーの部屋はどこなんだ?」

 

 

 作業をしながら、ふと気になってシービーに問いかける。

 

 

「うーんとね、実はアタシ、借りているアパートで一人暮らししてるんだ」

 

「えっ、そうなのか。何か理由があったりするのか?」

 

「んー……まあ、大きな理由があるワケじゃないんだけど、単純にアタシ、寮の規則とか門限とかが苦手でさ。それで少し前から一人暮らししてるの」

 

「そうだったんだね。ふふっ、たしかにシービーはそういうの好きじゃなさそう」

 

「なるほどな。でも一人暮らしだと、いろいろ困る事もあるだろ? 今日手伝ってもらったし、何かあったらいつでも呼んでくれよな!」

 

「ボクも手伝うよ! それにシービーの部屋も気になるし!」

 

「ふふっ、ありがと。また手を貸してほしいときがあったら、声かけるね」

 

 

 そうこうしている内に大体の作業が終わり、少し雑談しながら休憩した後、シービーは帰っていった。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 ——その夜、セツナと寮の食堂でご飯を(といってもあまりお金はないので、簡単に)食べ、共用のお風呂に入った後歯磨きをしてから、あたしたちは自室でストレッチをしていた。

 

 

「んっ……今日からあたしたちの学園生活が始まったワケだけど、まずは1週間後の選抜レースに出て、あたしたちのトレーニングを見てくれるトレーナーを探さなきゃな」

 

「そうだね……あの、ボクちょうどそのことで悩んでて」

 

「そりゃまた、いきなりどうしたんだ?」

 

「——ほら、ボクってほとんどのレースを全力じゃ走れないでしょ? その、気が早いかもしれないけど、メイクデビューのために本気の走りを残しておかないと勝てないかもしれない。でも、勝てなかったら、当然未勝利戦に出ないといけないワケだけど、ボクの身体は連戦には耐えられない。そうなると、ボクはデビューすら怪しくなっちゃうんだ……」

 

「……まあ、たしかにな……」

 

「——だから選抜レースを全力じゃ走れない……でもね、トレーナーさんたちに、そんな甘えた走りを見せたら、むしろマイナスな印象を持たれるんじゃないかって思うと出るのが怖くて……」

 

 

 思っていた以上に、セツナの悩みは割と深刻なものだった。選抜レースを優先したら、デビューが危うい。かといってデビュー戦を優先したら、そもそもトレーナーがつかない可能性がある。——まさに前門の虎、後門の狼だった。

 

 だったら、三女神様たちにトレーニングを見てもらうのがいいんじゃないかと思うかもしれない。しかし、そもそも重賞レースの規定上、トレーナーがいないと出走することすらできないし、それに三女神様たちがおっしゃるには、ウマ娘とトレーナーの信頼関係が限界を超えて強くなれる1つの要素としてかなり重要な事らしい。

 

 

「ふんふん、なるほどなぁ。セツナらしいといえばらしいけどな——でも、たしかにそれは……身体のこともあるし、難しい問題だな……」

 

「身体が保ってくれるのを、祈るしかないのかなあ……」

 

「うーん…………あ、そうだ! ——あたしが選抜レースを走って、もし声をかけてくれたトレーナーさんがいたらセツナのことも説明して一緒にスカウトしてもらう! これでどうだ?」

 

「えっ? ——い、いやいや! ボクとしては嬉しいけど……それってエースには何の利益もないよ! ……それに、それでボクのスカウトに納得してくれるトレーナーさんがいるかどうか……」

 

「別に利益を求めてるワケじゃないけどな……まあメリットならあるぞ! セツナのことも担当してくれたら、セツナを受け入れてくれるくらい、懐の広いトレーナーさんだって分かるだろ? ——あたしは、そういうトレーナーさんの方がいいからさ! ……ってか、普段から損得勘定なしで動くセツナがそれを言うな!」

 

「ううっ…………わ、分かった、エースの厚意に甘えるよ……ホントにありがとね」

 

「いいよ。……いつも助けられてばっかだしさ。たまにはあたしが力になりたいんだ」

 

 

 こう見えて、意外と頑固なところがあるセツナ。セツナはあたしの命の恩人だってことを、自覚してほしいもんだ。

 

 

「ありがとう……ボクたちの故郷は満足にトレーニングできる場所やレースを走れる環境もなかったけど——ボク、エースと同じ故郷に生まれてこれたことは、本当に幸運だったと思ってるよ!」

 

「……そうだな。あたしも間違いなくそれは運命だったと思ってるさ! ——んじゃ、明日も早いし、そろそろ寝るか!」

 

「……ねぇエース、ボク、久しぶりに今日は一緒のベッドで寝たいな?」

 

「へ……?」

 

 

 ストレッチを終えてベッドに向かおうとしたとき、背後からセツナが急にとんでもないことを言い出した。たしかに昔、かなり小さいときにお泊まり会をして同じ布団で寝たこともあるけどよ……。

 

 

「…………い、いやいや何言ってるんだ!? あたしたちもう中等部だぞ!?」

 

「わーい! エースのベッドだぁ!」

 

 

 言われたことに戸惑って立ちすくんでいる間に、セツナがあたしのベッドに飛び込んでいた。

 

 

「はやくはやく、エースもきて?」

 

「はぁ……ったく、しょうがねえな。まあ今日はちょっと肌寒いしな! 仕方なく、だぞ! 早く寝るからな!」

 

「……ふふっ、はーい!」

 

 

 そうしてあたしはセツナの待つ自分のベッドに入る。なんだか心なしかセツナからいい匂いするし……なんとなく照れてしまい、セツナに背を向けて目を閉じる。

 

 

「……」

 

 

 それが不満だったのか、セツナはあたしの背中に抱きついてきた。

 

 

「……っ!」

 

「……ふふっ、くっつくとあったかいや……エース、明日も頑張ろうねぇ、おやすみ……」

 

 

 そう言って、セツナはあたしに抱きついたまま早々に眠ってしまった。

 

 あたしはセツナが回した腕を動かさないように、セツナの方へ身体を向け、その寝顔を見つめる。

 

 ——セツナはあたしよりも少し小さいから、どうしても胸の中に収まってしまう。

 

 

「へへっ、こうして見るとなんだか新しく妹ができたみたいだな……」

 

 

 気持ちよさそうに眠っているセツナの頭を撫でる。

 

 

「おやすみ、セツナ」

 

 

 ——こいつは何かあったらすぐに無茶をしやがる。それはセツナの美点であり、欠点ともいえる。だからこそ、この華奢な身体を、誰よりも近くにいるあたしが守らないといけないんだ。

 

 そのままあたしは、セツナを抱えるようにして眠ったのだった。

 

 






 本作では、この頃の食堂やカフェテリアはまだ無料ではありません。栄養と懐事情のバランスを取る必要があるので、お金の無い学園生にとってはかなり難儀する部分になります。

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