刹那を駆け抜けたふたりのエース   作:クロノアの耳

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セツナ視点です。





エースは最強のチームを見学します

 

 

 ——数日経ち、学園生活に慣れ始めてきた頃、ボクとエース、そして新しく友だちになったシービーは、先輩たちのトレーニングを見学しようと、放課後のトレーニング場を訪れていた。

 

 

「おー、やってるやってる!」

 

 

 既にトラックにはトレセン学園のジャージを着た様々なウマ娘やトレーナーが、走り込みやフォームチェック、併走に坂路ダッシュなど幅広いトレーニングを行っていた。

 

 

「やっぱり中央はすごいね! 競争相手がたくさんいるし、みんなレベルが高い上に、こんなに整備された良い環境でトレーニングできるんだから、やる気も漲ってくるよ!」

 

「トレーニングしてる先輩たちの気迫がここまで伝わってくるな……! ——特にほら、あそこの集団は周りと何か空気が違って見えないか?」

 

 

 そういってエースが指差した方向には、この中央トレセン学園の中でも堂々とした立ち振る舞いのウマ娘たちに1人の女性トレーナーが指示を飛ばしていた。

 

 

「す、すごい……いかにも強豪って感じの先輩たちだね」

 

「ん、あれは——リギルだね、チームリギル」

 

「チーム? 中央にはそんなのがあるのか?」

 

「あれ、知らないの? ある程度実力が認められたトレーナーは、複数人担当を持つことができるんだ。それがチーム。つまり、チームを持てるトレーナーはそれだけ優秀って証になる。——けど、その中でもあそこの東条トレーナーは別格だよ。既に何人もG1ウマ娘を輩出してる。中央でも1,2を争うトレーナーのチームだね」

 

「なるほど、そんなすごい人たちの集まりなんだね……!」

 

「へー! じゃああそこには、この学園のトップレベルのウマ娘たちが集まってるってことか! ちょうどトレーナーってのがどんな仕事か知りたかったし、何か得られるものがあるかもしれないから、見学させてもらおうぜ!」

 

「え! ちょ、ちょっとエース! 迷惑になるかもしれないよ!」

 

 

 シービーの話を聞いても、エースは臆することなく、チームリギルの方へ向かっていった。シービーもなんだか笑顔でエースに着いていくので、ボクも慌ててエースを追いかけた。

 

 

「すみませーん!」

 

「ん? なんだお前たちは」

 

 

 エースの呼びかけに応じて振り返った女性は、グレーのパンツスーツを着こなし、身につけている眼鏡がいっそう理知的で、冷静沈着な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「失礼します! 新入生のカツラギエースとフューチャーセツナとミスターシービーです! あの、決して邪魔はしないので、もしよかったらトレーニング見学させてもらえませんか?」

 

 

 エースがトレーナーさんに、お辞儀をして頼み込む。しかし、そこで予想外の事態が起きる。

 

 

「ふむ、見学か、それは構わないが……というか、来てくれたのかシービー! ようやくリギルへのスカウトを受けてくれるようになったのかな?」

 

「「……え?」」

 

 

 今、このリギルのトレーナーさんは、シービーにスカウトを受けてくれるのかって聞いた……?

 

 

「す、スカウト? シービーに?」

 

「「え、ええーーーー!!!!?」」

 

「もー、驚きすぎだよふたりとも。でも、ゴメンね、おハナさん! リギルはとっても良いチームなんだけど、やっぱりアタシには合わなさそうだから入れないや」

 

「む、そうか、残念だ……まぁもし他に合うようなトレーナーが見つからなかった場合はウチに来るといい」

 

「そのときは、そうさせてもらうね」

 

 

 なんとシービーはそう言って強豪チームのスカウトを断ったが、東条トレーナーは気分を悪くした様子もなく、そのままトレーニング監督に戻っていった。

 

 

「ちょちょちょ、シービー! お、おまえ、リギルのトレーナーにスカウトされてたのかよ!? しかも、そのスカウト蹴っちゃってるし!」

 

「た、たしかに只者じゃないって思ってたけど、やっぱりシービーってそんなにすごいウマ娘なんだね……!」

 

「うーん、自分でもなんでここまでされるか分かってないけどね」

 

 

 あはは、と笑うシービー。これこそが真の強者になるようなウマ娘の風格なのだとボクは思った。

 

 

 

 

 

 

「——しかし、シービーの隣にいたあのふたりの身体も相当に鍛えられていたな。だが、あのようなウマ娘はクラブにもリトルスターカップにもいなかったはず、一体どこから現れた……? 今年の新入生は末恐ろしいな……」

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 ——しばらく3人でリギルのトレーニング風景を見学していた。

 

 

「そこ! 走り終えてすぐ止まると、血流が滞って筋肉痛の原因になるぞ! 止まらずにゆっくりジョギングしてから、ストレッチで身体を動かしておくように!」

 

「今のは良いペースだったぞ! ストライドの間隔が広く取れていた。そのリズムを身体に刻んでいけ!」

 

 

 東条トレーナーは、きっちりとしたメニューで少しの気の緩みも許さない、厳格なトレーニングを行っていた。けれども、担当ウマ娘たちがケガをしないように、ひとりひとりに常に目を光らせ、さらにモチベーションが下がらないようにポジティブな声かけに気を配っていた。

 

 ……なるほど。このチームはたしかに強くなれそうだという雰囲気を実感できる。それと同時にシービーの、自分に合わない、という発言の意味もなんとなく分かった。たしかに彼女の気ままな気質とは少し合わないかもしれない。

 

 

「なあセツナ、東条トレーナーのこの感じ、どこかで見たことあると思ったんだけど、そういえばバイアリーに似てないか?」

 

「あっ、言われてみれば、たしかにそうかも……!」

 

「バイアリー?」

 

『——ふむ……まぁ、私としても東条トレーナーのやり方は賛同できる部分が多くある』

 

『厳しいトレーニングを課しつつも、本心ではウマ娘たちのことが大大大好きなところとか、特にな!』 

 

 

 あっ。

 

 

『…………』

 

 

 バイアリーさんが、凄い顔でダーレーさんを睨んでる……。

 

 

『……って、子羊くんがそう思ってたぞ、きっと!』

 

 

 い、いやいやいや! 何逃げてるんですか、ダーレーさん! あなたが言ったことですよ!

 

 

『今回は、私は関係ないわ〜』

 

『……ダーレー、おまえに厳しいトレーニングを課しても喜ぶだけだからな』

 

『おいおい! そんな、俺をマゾヒストみたいに言うな!』

 

『だから今回は、お前だけ3日間セツナとのごはん抜きだ!』

 

『ええ! そ、そんな! 子羊くんとの食事が毎日の楽しみなのに……うぅ、悪かったよ、もうしないって! ……子羊くん、助けてくれえ!」

 

 

 うーん、仕方ないですね……バイアリーさん、ダーレーさんも反省しているようですし、今回は大目に見てあげませんか?

 

 

『ふん、セツナから言われたのならば仕方ない。だが、次はないぞ』

 

『はーい……』

 

 

 ダーレーさんがしょんぼりしたところで、ボクは再びリギルのトレーニングの見学に戻る。

 

 ふと見ると、その中で他のウマ娘を置き去りにするような、見たことがないほどのトップスピードで駆け抜ける先輩ウマ娘がいた。

 

 

「すげぇ走り……! これが中央トップレベルのウマ娘の走りか!」

 

「とんでもないスピードだね……今のボクたちじゃ到底追いつけないかも……!」

 

「ふぅ……あら? シービーちゃんじゃない!」

 

 

 すると、丁度その先輩が休憩に入ったところで、こちら(というかシービー?)の存在に気づいたのか声をかけてきた。

 

 

「やあ、マルゼン。トレーニング見てたよ、調子は良さそうだね」

 

「え、シービー、この先輩とも知り合いなのか!?」

 

「そうだよ。昔クラブチームで一緒になったときがあってね。ああ、早くマルゼンとまたレースしたいな!」

 

「あら、うふふ。あたしもよ。シービーちゃんのデビュー、楽しみにしてるわね。ところで、こちらのふたりは?」

 

「あ、このふたりはね……」

 

「あ、あたし、カツラギエースって言います! その、先輩めっちゃ速くて、カッコよかったです!」

 

「ぼ、ボクはフューチャーセツナです! よ、よろしくお願いします!」

 

「あら! あなたたちがエースちゃんにセツナちゃんだったの! 初々しくて可愛いわね! シービーちゃんから話は聞いてるわ。何でも、入学初日にシービーちゃんを負かしたふたりのチョベリグな娘がいるって!」

 

「ちょべ……? い、いやいや、ただの野良レースでのことなんで、そんな……」

 

「うふふ、それでもシービーちゃんに勝つのはゴイスーなのよ、謙遜はナッシングよ! ——さて、あたしの自己紹介がまだだったわね! あたしはマルゼンスキーっていうの。マルゼンって呼んでくれたらいいわ! あなたたちよりも1年先にデビューしてるの。よろぴくね!」

 

 

 時折難解な言葉を使うこの先輩は、たしかにシービーと同じような強者の風格を纏っていた。

 

 

「マルゼン、そろそろ休憩は終わりだ!」

 

「ガビーンっ! おハナちゃんに呼ばれちゃった。じゃあね! いつかあなたたちとも一緒にレースできたらいいわね!」

 

 

 そう言ってマルゼン先輩はトレーニングに戻っていった。

 

 

「……あたしたち、あの先輩たちみたいなウマ娘を相手に戦っていくんだな」

 

「大丈夫だよ、エース。ボクたちは確実に強くなってる。きっと中央でも戦っていけるよ」

 

「——そういえばふたりとも。さっき、バイアリーって呼んでたけど、ふたりの地元のトレーナーの名前? 名前を聞いた感じにはウマ娘さんかな?」

 

「うーん……ぶっちゃけ、そうだとも言えるし、そうでないとも言えるし……どうする、セツナ?」

 

 

 エースはボクを心配するように窺う。伝えるのはちょっと怖いけど、友だちなら言っておかないといけないよね……。

 

 

「……いつかはシービーに伝えておかないといけないことだから。——もしかしなくても気味が悪いように感じるかもしれないけど、それでも教えるね……」

 

「まあ、シービーはそんなタマじゃないだろうし、大丈夫だって」

 

「ふぅん? ワケありって感じだね。あ、そういうことなら無理に話さなくてもいいからね?」

 

「……大丈夫、本当にいつかは伝えないといけないことだから。——あのね、信じてもらえないかもしれないけど……実はボクの身体の中に、三女神様がいるんだ」

 

「…………」

 

「……シービー?」

 

 

 意を決してシービーにボクのことを伝えると、シービーは目を丸くして固まった。まあ当然だろう。こんな話信じる方が無理な話だ。

 

 

「……ぷっ」

 

「え?」

 

「……ふふふふふ! あーダメ。わ、笑い堪えきれない! どんなことを言い出すのかと思ったけど、やっぱりキミたちはアタシの想像を遥かに超えてくるね!」

 

 

 と思ったら、いきなりシービーは盛大に笑い出した。やはり、おかしな話に聞こえてしまったかもしれない。

 

 

「ほ、本当なんだって!」

 

「あはは! いやー、なんで突然中央に現れたようなふたりがそんなに鍛えられてるのか、ずっと不思議に思ってたんだ! 何か理由があるんじゃないかって! でも、うん。三女神様がついていたなら納得だね!」

 

「え、し、信じてくれるの?」

 

「うん、信じるよ。話自体は荒唐無稽でも、ふたりの強さはホンモノだったからね。信じるしかないよ」

 

「シービー!」

 

 

 ボクは感極まって、ついシービーの手を取って両手で握ってしまう。

 

 

「……へへっ、まあやっぱシービーはこんくらい受け止められないような小さい器じゃないよな!」

 

「——ということは、バイアリーさんって、もしかしてあのバイアリーターク? ……その三女神様とはお話しできたりするの?」

 

「うん。大丈夫だと思うよ。三女神様、問題ないですか?」

 

『俺は構わないよ!』

 

『わたしもいつでも大丈夫よ』

 

『変な話題でなければ、一向に構わん』

 

「了解です! シービー、大丈夫だって!」

 

「……すごいね! 側から見ると、本当に誰かそこにいるみたいに話すんだ。じゃあ、東条トレーナーに似てるって言ってたバイアリー……さんと話せる?」

 

「わかった!」

 

 

 そうしてボクは目を閉じて、バイアリーさんに身体を譲る。

 

 

「——ミスターシービーか。私がバイアリータークだ。私もお前には非常に興味がある」

 

「!」

 

「どうした? 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして」

 

「……あはは! セツナの瞳の色も纏う雰囲気もいきなり変わったね! まるで別人だよ! アタシも、これは流石に驚いたな……!」

 

「セツナに身体を借りているだけで、中身は本当に別人だからな。だが、これでセツナの発言を信じてくれただろうか」

 

「まさか人格まで変わるとは思わなかった……です! 本当に、あの三女神のバイアリーターク……さんなんですか?」

 

「ふむ、まずは我々に遠慮は無用だ。無理に敬語で話さなくとも良い。そして質問の答えだが、私——いや、我々は肉体を持たぬいわゆる思念体のような形で現世に存在している。しかし、中身は自分自身——バイアリータークだと断言できる。なぜ女神と呼ばれているのかは分からないが」

 

 

 相変わらずバイアリーさんは理路整然と話すので、話していることがとても聞き取りやすい。

 

 

「なるほどね……わかったよ。けど、たしかに話し方や雰囲気は東条トレーナーに似てるかも!」

 

「……まあ、私が彼女のようにやや堅いのは自分でも理解はしている」

 

 

 規律に厳しく、己を律しているのは、バイアリーさんの良いところですから、気にするほどのことじゃないですよ!

 

 

「あはは、ところでバイアリーがアタシに興味があるって言ったけど、どういうことかな?」

 

「お前はセツナたちとの野良レースのとき、脚を溜めて最後方から最終直線で一気に勝負を仕掛ける走り……いわゆる追込策を見せただろう? 私もレースを走っていた頃は同じような作戦を得意としていた。だから、シンパシーを感じたというわけだ」

 

 

 たしかに初めてシービーの走りを見たとき、バイアリーさんの走りに似ていると思った。

 

 

「へぇ、そうなの。三女神様と同じっていうのは確かにちょっと興味深いかも。——あ、もしかして、三女神様を宿してるセツナっていろんな走り方ができたりするの!? あと、バイアリーたちとも走ることができるのかな!?」

 

「焦らずとも、ひとつずつ質問すると良い。ふむ……そうだな、結論から言うと、前者は可能、後者は不可能だ。我々がセツナに宿ったことで、私の追込策、そして我々の1人、ゴドルフィンバルブが得意とする先行策を行うだけの力は身につけている。しかし、現状セツナ本来の力が最も発揮できるのは、もう1人のダーレーアラビアンが得意とする差し策だ」

 

 

 バイアリーさんが話した通り、最適かどうかはさておき、やろうと思えばボクはどんな作戦でも走れる。三女神様たちとのトレーニングで、ボクはどんな状況にも対応できるように様々な走り方を教え込まれていた。

 

 

「へぇ……すごいね」

 

「そして、私たちはセツナの身体を借りて走ることはできる。しかし、これは完全に正しい表現ではない」

 

「と、いうと?」

 

「それを説明する前に——現状セツナの身体にはセツナ本人を主体とした我々の人格があるのは分かるな?」

 

「うん。驚いてはいるけど、一応理解はしてるつもり」

 

「我々はいつでもセツナの身体を借りることはできる。だが、レースにおいてはセツナから完全に身体を奪うことはしないと我々は決めているのだ。セツナが主体だからこそ、それがアイデンティティになるからな。故に、すまないが、我々という完全な個人として走ることはできない」

 

 

 実は、三女神様たちは走りにおいて、絶対にボクの意思が関わらないことはしないと最初からキッパリと宣言している。なんでも、自分のレースは自分自身のものであり、それを他者が根本から奪ってしまうのは論外なのだとか。

 

 

「——そっか。そういうことなら、仕方ないよね」

 

「ただ、全くやりようが無いわけではない。正確に表現するのは難しい話になるが、簡単に言うとセツナの感覚と我々の感覚をシンクロさせ、セツナを主体として実質的にふたりで走ることは可能だ——ただ、それに関しては悔しいことに、セツナの身体に最も順応して走ることができるのはダーレーなのだがな」

 

 

 そう、もしかしたらいつか詳しく語るかもしれないけど、地元にいた頃、ボクは三女神様と同調して走る術を体得していた。中でも、ボクの身体能力や柔軟性はダーレーさん本来の身体とかなり似通っていたらしく、ダーレーさんと同調して走っているときは驚くほどに速く走ることができる。

 

 ——もっとも、ボクと三女神様たちの走りを相乗させるまでの技量に到達するには、一朝一夕では到底無理な話で、それ相応の特訓と時間が必要だったけど……。

 

 

『たしかに少しは羨ましいと思うけれど、わたしはセツナちゃんと一緒に走れるだけで満足よ』

 

『実は子羊くんは俺の子孫だったりするのかな? ——なんて、俺は今現在でいうところのイギリスだったかな? ……に住んでたから流石に違うか!』

 

『もともと、ウマ娘のルーツは、かの国に存在していた可能性が高いという話をどこかで聞いたことがあるわ。——全く可能性がないとは言いきれないところね』

 

 

「……バイアリー、ちょっと待ってくれ」

 

「? どうしたの、エース?」

 

 

 そこで、バイアリーさんの話に急に待ったをかけたエース。シービーはそんなエースの様子を見て首を傾げた。

 

 

「たしかに、昔、ダーレーが憑依した本気のセツナと併走したことがあるけど、とんでもなかったな。まるで追いつけなかったぜ……でも、あれは——」

 

「ああ、分かっている——シービーよ、知っての通りだが、セツナは身体は弱く、レースを何度も全力で走ることができない。一度レースを全力で走るたびに、基本的に数ヶ月は心肺機能を休ませないといけない。……その上で、もし我々が憑依して全力で走った場合、更に身体に負担をかけることになってしまうのだ。——よってすまないが、我々がセツナと共に全力を発揮する機会は滅多にないだろう」

 

 

 ——バイアリーさんの言うとおり、これがボクのレースにおける上での明確な弱点。薬と三女神様たちのおかげでここまで動けるようになっているけど、そもそも、元々ボクは全力でレースを走れる身体を持っていなかったのだ。もし三女神様たちの知識と身体の補助がなければ、ボクはこの不利を覆すことはできなかっただろう。

 

 

「セツナ、いろいろ苦労してるんだね……うん、わかった、いろいろ教えてくれてありがとね、バイアリー!」

 

「うむ、始めに言ったが遠慮は無用だ。また質問があれば、セツナを通してくれたら我々はいつでも答えよう、ではな」

 

 

 そう言ってバイアリーさんはボクに身体を返す。ありがとうございました、バイアリーさん。

 

 

「——これがボクたちの秘密だよ」

 

「あはは、まさかセツナにこんな秘密があったなんてね。ふたりともよくアタシのことを只者じゃないって言うけど、ふたりの方こそ、全然只者じゃないよ!」

 

「そんなことはないと思うが……けどま、なんたってあたしたちは最強のウマ娘になるためにこの中央に来たからな! 普通に過ごしてちゃ、なれるわけないぜ!」

 

「うん……田舎育ちでレースに必要な設備や環境に恵まれなくても、諦めなければ中央のウマ娘にだって勝てるようになるって、ボクたちは証明するんだ!」

 

「——ねぇふたりとも、クラシック三冠の称号とかって興味ある?」

 

 

 するとシービーが、今まで見せたことないような真剣な表情になり、いきなり質問してきた。

 

 

「ん? どうしたんだよ、急に。——もちろん、獲れるなら獲りたいさ! なんたって最強のウマ娘に大きく近づくわけだからな」

 

「クラシック三冠……! ……ボクはそのすべてのレースには出られないだろうけど、もし走れるのなら走ってみたい……!」

 

「なるほどね……——あのさ、ふたりとも、ちょっとアタシの話を聞いて欲しいんだけどさ……正直、アタシはエースたちみたいに別に夢とか栄誉——G1制覇とかクラシック三冠とかに、全然興味が持てなかったんだ。レースはただ楽しく自由に走るためにあるもの、それだけだって思ってた」

 

「え!? ど、どういうことだ!? シービーはデビューしないのかよ!?」

 

「そこまでじゃない……けど、G1レースとかには興味なかったかな——でもね、ふたりの想いを聞いて、アタシも少しアツくなってきちゃったの! 今までそういうのはどうでもいいと思っていたけど、もしそんな舞台で、“ふたりと”全力で走れるのなら、絶対にそれは最ッ高に楽しいレースになるって予感がするんだ! ——だからさ、アタシと一緒に走ってよ、G1レース!」

 

 

 そう言って、シービーは自らの端麗な顔でボクたちの視界を埋めるくらい身を乗り出し、手を握ってくる。

 

 

「……へへっ、相変わらずシービーは気まぐれだな! ——ま、元から走るつもりだったし、何より最強のウマ娘になるためにはシービーを倒しとかないと語れないからな、構わないぜ! むしろシービーこそ絶対来いよ!」

 

「ふふっ、エースはもちろんだけど、シービーにもボクは負けないからね!」

 

「あ、もちろんって言ったなー? あたしこそがエースになるんだからな、セツナにも負けてられないぜ!」

 

「あはは! ふたりとも本当に面白いや! キミたちの同期として生まれてこれたのは、この上ないほどの幸運だったかもね! 改めてよろしくね、ふたりとも」

 

 

 この日、ボクたちはお互いの深い部分まで教え合い、信頼し合えるような関係になった——と思う。といっても、元々エースとシービーの器量が良すぎるっていうのが大きいんだろうけど!

 

 さてと、エースやシービーと重賞レースを走るためにも、ひとまずはトレーナーを見つけなきゃね! よーし、頑張るぞー!

 

 






 本作では原作と異なり、エースたちの視点でマルゼンスキーは先輩、シンボリルドルフやシリウスシンボリ、メジロラモーヌは後輩となります。

 そして、シービーはリギルではない別のチームに加入します。


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