刹那を駆け抜けたふたりのエース   作:クロノアの耳

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 エース視点です。





エースの魅力を示します

 

 

 ——ついにこの日がきた。年に4回しかない選抜レース。

 

 まだチームなどに所属していないウマ娘のみがエントリーでき、このレースで実力を示して自らの夢を託せるトレーナーを探さなければいけない。まさに、今後の運命が決まると言っても過言ではないくらいトレセン学園の一大イベントだ。

 

 あたしは選抜レースを走れないセツナの想いも背負って、トレーナーを見つけ、スカウトされなければならない。ふたり分の運命が懸かっているんだ、ナメた走りは許されない。

 

 

「ありがとね、エース。エースの走りなら、きっといいトレーナーさんがスカウトしてくれるよ! ——身体の弱いボクまでスカウトしてくれるかは分からないけど……」

 

 

 あたしがゼッケンの準備などをしている間に、傍らであたしのシューズに蹄鉄を打ち込んでくれているセツナ。まーた、後ろ向きな気持ちになっちゃってるな……。

 

 

「はいそこ、ネガティブ禁止! ちゃんとセツナの魅力も伝えるからさ、心配するなって!」

 

「う、あ、ありがと——あ、エース、はいこれ。シューズに蹄鉄打ち終えたよ」

 

「さんきゅーセツナ! おお! 流石蹄鉄師の娘、しっかりあたしの踏みしめに合わせて仕上げてくれてるな!」

 

「えへへ、走れない分、これくらいはさせてほしいな! ——選抜レース、頑張ってねエース!」

 

「任せとけって! まずはあたしの走りをトレセン学園中に示してくるからよ!」

 

 

 今回の選抜レース、あたしの出場回では9人で中距離2000mを走る。シービーも中距離で登録したみたいだけど、今回は別々のレースだった。一緒にならなかったことが、幸運だったのかそうじゃないのか……。

 

 ——というか、実は既にシービーはレースを終え、4バ身差つけて1着を取っていた。……初めてシービーの本気の走りを見たけど、中央のウマ娘相手ですらまさに一線を画すような存在だった。

 

 ちなみに現在シービーは、ベテラン中堅ルーキー問わず様々なトレーナーに囲まれ、(おそらくかなり)辟易しているようだった。

 

 準備運動をしていると、あたしと目が合って助けを求めてるように見えた。でも、きっとそれはシービーの走りにおける暴力的な魅力のせいだろうから、既にあたしじゃなんとかしてやれない——手遅れだ、すまん!

 

 遠くから手を合わせて謝ると、シービーはショックを受けたフリをして泣き真似をしていた。意外と余裕あるな……!

 

 

『——まもなく本日の選抜レース、中距離部門第4レースを行います。出走するウマ娘はゲート前に集合してください』

 

 

 あたしの出走するレースが始まろうとしていた。すぐにあたしもゲートに向かい出走準備を整える。

 

 周りのウマ娘を見ると、以前地元の出張レース大会で競ったウマ娘たちよりも遥かに身体が仕上がっていた。これが中央のウマ娘か……! だからと言って負けてやることはできないけどな!

 

 ゲートに入ってスタンドにいるセツナを見る。目が合うと、はにかみながらこちらに手を振ってきた。あたしはそれに笑顔で頷きを返す。

 

 

『——さあ始まります、選抜レース中距離部門の第四戦です! 注目のウマ娘はやはり1番人気の3番シイナフレジュスでしょうか! しかし、他のウマ娘たちも気合充分です!』

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました……そして今、スタートが切られました!』

 

 

 まずは、いつも通り自信があるスタートダッシュを決める。今日は全力のレースに全力の相手だから、出し惜しみはなしだ!

 

 

『おおっと! 8番カツラギエース、素晴らしいスタートで外枠から一気に先頭に抜け出した! しかし、なんということだ、あっという間に2番手と10バ身以上の差がついています! これは掛かってしまったのか!?』

 

 

 ふっふっふ、あたしの体力を舐めてもらっちゃあ困るな! これくらいの距離、何度も走り込んできてるんだ! ——そのままあたしを追いかけてこないなら、突き放させてもらうぜ!

 

 

「くっ、カツラギエースさんッ!」

 

『ここで快調に飛ばすカツラギエースに、シイナフレジュスが突っ込んできました!』

 

「エースさんの走りをよく見れば、掛かっていないことなど分かります! そう思い通りにはさせませんよ!」

 

「へへっ、流石に中央で走るウマ娘には、ただで勝たせてはもらえないか!」

 

『シイナフレジュスに続いて、後続のウマ娘たちも差を詰めてきました! しかし、カツラギエース速い! そのまま最終コーナーを回って、最初に立ち上がったのはカツラギエースだ! シイナフレジュスも前を狙っているぞ!』

 

「エースさんのような逃げウマ娘が同期にいたとは正直驚いています……! しかし、ここまでですッ!」

 

『突っ込んでくるシイナフレジュス! カツラギエース、ここまでか!?』

 

 

 シイナフレジュスが横に並んでくる。ただの逃げウマ娘なら、スパートで追いつかれた時点で負けが決まってしまうかもしれない。けど、あたしはここで負けるわけにはいかない! セツナの想いも背負ってるんだからな!

 

 

「……あたしはただの逃げウマ娘じゃない! “エース”になる逃げウマ娘だああああ!!」

 

『なんと!!? カツラギエース再加速しました! どこにそんな脚が残っていたのでしょうか!? シイナフレジュスも粘っているが、最初にゴール板を駆け抜けたのは8番、カツラギエースだ!! 着差は3バ身! 前走のミスターシービーに続き、とんでもない新星が現れました!』

 

「はあっ……はあっ……っしゃ!! これがあたし、カツラギエースだ!!」

 

 

 呼吸を整え、掲示板を見ていると、シイナフレジュスがこちらに近寄ってきた。

 

 

「ぜぇ……はぁっ……え、エースさんのその逃げ……! そんな常識破りな逃げを可能にするウマ娘がいるなんて……! ——今日は勝ちを譲りますが、次は勝たせてもらいます……! うっ……!」

 

「へへっ、次もあたしが——っておい、大丈夫かよ!?」

 

 

 シイナフレジュスは脚に痛みを感じたのか、急に膝から崩れそうになる。慌てて受け止め、シイナフレジュスの身体を支える。

 

 

「……え、ええ、申し訳ありません。なんでもないです——またあなたにリベンジする機会を楽しみしていますね。それでは」

 

 

 そう言って、シイナフレジュスはあたしから身体を離して、足を引き摺りそうになるのを堪えながらこの場を去っていった。

 

 

「……あいつ、もしかして脚を痛めてるんじゃ……」

 

「エーーーースぅぅぅぅ!!!!」

 

 

 シイナフレジュスの背中を目で追っていると、横から見慣れた空色の髪が突っ込んできた。足音で駆け寄ってきているのが分かっていたので、あたしはそれをしっかりと受け止める。

 

 

「おっと! へへっ、まずは選抜レース、1着獲ってきたぜ! セツナどうだったよ、あたしの走り!」

 

「1着おめでとう、エース! もうずっとドキドキしてたんだけど、フレジュスさんが迫ったときに、それでもエースならって思ったら、やっぱりまた加速して突き放して……! ——もう最高だったよ! 本気の、ホンモノのレースは見応えが違うなあ!」

 

 

 そう話すセツナの尻尾がブンブンと振られている。相当興奮していたということが伝わってくる。

 

 

「見てるだけじゃ、あたしには一生追いつけないぜ! ——次は一緒に走れると良いな!」

 

「うんっ!」

 

 

 選抜レースでも走っていてこんなに興奮したんだ。もっと大きな舞台でセツナやシービーと競い合う——そんな状況を想像すると高揚せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「——あっ! いたいた、カツラギエース! キミの走り、本当に素晴らしかったよ! ぜひスカウトさせてくれないかな?」

 

「カツラギエース、私と組みましょう! あなたなら、G1だってきっと制覇できるわ! スカウトを受けてくれないかしら!」

 

 

 

 すると突然、三十路ほどの男性と女性が声をかけてきたかと思うと、あたしに名刺を差し出してきた。

 

 

(エ、エース! スカウトだよ、これ!)

 

 

 そうセツナが目で伝えてくる。そういえば、勝利の余韻に浸りすぎて、スカウトのことをすっかり忘れていた。

 

 

「あ、あたしにスカウトですか!?」

 

「もちろん! キミの差すような逃げは見事だった! 俺と一緒にその走りを磨かないか?」

 

「私のチームなら、あなたの末脚を伸ばして、クラシック三冠だって掴めるようなトレーニングを組んでみせるわ!」

 

 

 ふたりのトレーナーが話すことはとても魅力的ではあったが、あたしには1つ絶対に譲れない条件があった。

 

 

「あの! あたしのこと、いろいろ見ててくれてありがとうございます! あたしのことをスカウトしてくれるなら、1つだけお願いがあって……あたしはこっちのフューチャーセツナも一緒にスカウトしてくれるトレーナーを探しているんです!」

 

 

 しかし、あたしはただセツナのことを紹介しただけなのに、トレーナーたちの表情がだんだん曇り始めていった。

 

 

「フューチャーセツナ……? ——ああ、たしか持病があって今回の選抜レースを走らないっていう新入生がいるとか聞いたな……うーん、そういうことなら申し訳ないけど、俺にはできないかな」

 

「……ごめんなさい。私も、その娘を同時に担当することはできないわ」

 

 

 セツナのことを話した途端、すぐに意見を変えたその言葉に、あたしとセツナは衝撃を受けた。

 

 

「なっ……! 急にどうしてですか! あたしと変わらないくらい、セツナも最強のウマ娘になることを目標にここまでトレーニングしてきてるんです!」

 

「その娘の走りを見ていないから何とも言えないが、病気を持っているウマ娘は基本的には金に——ああ、いや! 日々の体調管理やトレーニングメニューの調整が大変なんだ。最悪のことがあったら、俺たちの責任になってしまうからな」

 

「そういうことなの。だからといって軽いトレーニングで重賞に勝てるわけがないわ。わざわざそのギリギリのバランスを保つのは、私たちトレーナー側の負担が大きくなるだけだしね。——ねえ、今からでも考え直して、あなただけでもウチのチームに来ない?」

 

 

 トレーナーたちにそう言われて、セツナは悔しそうに俯いて歯を食いしばっていた。——あたしも、ここまでセツナを蔑ろにされてもう我慢が出来なかった。

 

 

「……っ!! もういいですッ!! そういうことならスカウトの話は終わりです! ——行くぞ、セツナ!」

 

 

 震えているセツナの手を引き、あたしたちはトレーナーたちから離れた。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 ——ひとまず、あたしたちは落ち着けるような場所を求めて、誰もいないような学園の隅の方まで来てしまった。

 

 そこにあったベンチにセツナを座らせると、セツナがあたしの体操服の裾を握ってきた。

 

 

「——ねぇ、エース……やっぱりボクのことなんて考えなくてもいいよ……。ボクがいたら、エースまでトレーナーがつかなくなっちゃうからさ……」

 

 

 そう言うセツナの声は、僅かに震えていた。あたしは、セツナの身体を抱きしめ頭を撫でた。

 

 

「それは違う。あのトレーナーたちは、三女神様たちが言っていたような本当のトレーナーじゃない。——あんなヤツらが言ったことなんて気にすんなって。大丈夫、最初が運悪かっただけだぜ! リギルの東条トレーナーを見ただろ? ちゃんとあたしたちの良さをアピールしていけば、きっとひとりくらいはあたしたちを受け入れてくれるトレーナーがいるはずさ!」

 

「ぅ…………」

 

 

 鼻を啜りつつも必死に泣くのを我慢しているセツナを隠すように、抱きしめる力を強くする。

 

 ——しばらくして、セツナも落ち着いてきたので、あたしは立ち上がって、セツナに声をかけた。

 

 

「さて、トラックからだいぶ離れちまったな。そろそろ戻らないと——」

 

 

 

 

 

 

 

「——あ、あの、すみません! す、少しお時間頂けませんか、カツラギエースさん、フューチャーセツナさん!」

 

 

 選抜レースの会場に戻ろうかと思ったそのとき、突然建物の陰から声をかけてきたのはスーツを着た、物腰柔らかそうな若い男性だった。

 

 

 






 本作では、現在のトレセン学園では、ほとんどのトレーナーが利益(つまりはお金)を主目的として働いています。そのため、東条トレーナーのような真にウマ娘を思いやる人物の方がよほど珍しいです。

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