セツナ視点です。
——ボクたちのメイクデビューが終わって、その翌日。ボクとエースは、トレセン学園近くにある大型ショッピングモールを訪れていた。
「あ、相変わらずデッケェし、見渡す限りの人混みだなぁ……今でも迷子になっちまいそうだ……」
「ふふっ、エース、逸れないように手繋いでおこう」
「お、おう……」
そうして、エースと手を繋ぎながら歩く。どうもエースは、方向感覚が狂いそうなほど多すぎる人混みが苦手らしい。
どうしてボクたちがここにいるのかというと……昨日のレースの疲労を癒すために今日は一日休みにしてあるから、せっかくなら買い物にいってみよう——という名目はあるにはあるんだけど、今回ここにきた目的は、ただ買い物をしにきただけではなかった。
——それは、昨日デビュー戦が終わり学園へ帰っていたとき、車を運転していたトレーナーさんが発した言葉だった。
「エースさんもセツナさんも、無事にデビューしたということで、あなたたちの実力であれば、今後はついにG1レースを走る機会がくるでしょう。聞いたことはあると思いますが、そのG1レースに出走するウマ娘は、自身の想いを込めた“勝負服”を着て走ることになります。ですから、もし自分の勝負服に希望するイメージがあったら、私に教えてください。そこまで急ぎの用件ではないですから、ゆっくり考えて頂いても構いません——」
トレーナーさんのその言葉を受けて、ボクたちは寮に帰ってから自分の勝負服のイメージを形にしようと思ったんだけど、これがまた意外と難しく、なかなかアイディアが湧かないままだった。
——それだったら、発想のヒントになるものを見つけに行こう、ということでボクたちはショッピングモールへ向かったのだ。
「餅は餅屋、服は服屋だよね! とりあえずどこかアパレルショップに入ってみようか」
「分かったぜ」
近くのアパレルショップに入り、人混みが少なくなってエースは落ち着いたようだった。とりあえず、大まかなカラーリングや服の種類を選んでみることになった。
「エースはどんな色でも着こなせそうだけど、1番似合うのって言われたらやっぱり黒だよね!」
「まあ、あたしとしてもたしかに黒がしっくりくるな。セツナに似合う色は、やっぱ青かな。けど、意外と赤とかも似合うんだよな」
「ふむふむ、何も1色に拘る必要はないから、複数の色を組み合わせてみるのも面白いかも!」
「セツナは脚が長いから、下はシンプルにショートパンツで、上は少し長めの袖の服がいいかもしれないな」
「エースがジャケットを羽織ると、ますますカッコよくなるね! なんだかライオンみたいな力強さがあるよ!」
そうして、いろいろエースとあれやこれや意見を出し合い、特にしっくりきたものを何着か私服として購入し、店を出た。
「だいたいのイメージは固まってきたね! 後は細かい装飾とかを決めていけばいいかな」
「おう、そうだな! さて、そろそろ小腹も空いてきたし、飯でも食いにいくか?」
「いいね! どこに食べに——ってあれ?」
「ん? どうしたセツナ?」
ショッピングモール内をエースと歩いていると、その雑踏の中に困った顔をして立ちすくんでいる、ひとりの幼いウマ娘の子を見かけた。
「——ねぇエース、あそこにいる子。なんだか困ってる感じじゃない?」
「んー? ——あっ、あの子か。たしかにそんな感じの雰囲気だな。……ひょっとしたら迷子かもしれないな」
「ちょっと話を聞きに行ってみない?」
「まあ、ホントに迷子だったら大変だしな。行ってみるか」
エースの了承を受けて、ボクたちはそのウマ娘の子の元へ向かった。
「やあ、そこのお嬢さん、ちょっといいかな? ——何か困ってるようだったから、声をかけさせてもらったんだけど、よかったら話を聞かせてもらえない?」
「え、えっ……? ……あっ!」
そのウマ娘の子はいきなり声をかけてきた二人組のウマ娘に少し警戒しているようだったが、何かに気づいたような素振りをみせると、いきなり身体を寄せてボクたちの手を取ってきた。
「あああ、あの、もしかしてフューチャーセツナさんとカツラギエースさんですか!?」
「え!? そ、そうだけど……どうして知ってるの?」
この子の口から、なぜかいきなりボクたちの名前が出てきたことにびっくりした。
「お、おふたりのデビュー戦見ました! それでわたし、おふたりの走りにかんどうして……あの、よかったらサインください!」
「えええ!? ボクたちまだ全然活躍してないのに、いきなりそんな……ど、どうしようエース……!」
「と、とりあえずお嬢ちゃん。その前に、なんでこんなところに立ってたのか、教えてもらえないか?」
「あ、す、すみません。あの、わたし、サトノダイヤモンドっていいます。キタちゃん——おともだちとふたりでウマ娘グッズを見にきたのですけど、このひとごみの中ではぐれてしまって……」
ボクたちのことを知っていたダイヤちゃんは、やはり迷子であるようだった。——それにしても、サトノ……どこかで聞いたことあるような……?
「なるほど、やっぱりそうだったんだね……よし、ダイヤちゃん、ボクたちと一緒にそのお友だちを探そう! いいよね、エース?」
「ああ、勿論だ! 一度乗り掛かった船だからな、放っちゃおけないだろ!」
「あ、ありがとうございます! セツナさん、エースさん!」
「えへへ、今度は逸れないように、ボクたちと手を繋いでおこっか」
そうしてボクたちは、ダイヤちゃんを挟むようにして手を繋ぐと、ひとまずウマ娘グッズが置いてあるお店に向かった。
「うーん、ここにはいないみたいです……」
お店に案内し、ダイヤちゃんのお友だち——ダイヤちゃんがキタちゃんと呼ぶウマ娘を探すけど、それらしき特徴のウマ娘の子はいなかった。
「グッズショップは反対方向にもうひとつあるから、もしかしたらキタちゃんはそっちの方にいるかもしれないね」
「よし、それなら入れ違いになる前に、早速向かおうぜ」
そして、再びボクたちは手を繋いで反対方向にあるウマ娘グッズショップへと向かった。
今度こそ当たりだったようで、お店の前にはダイヤちゃんから聞いていた通りの特徴を持った、幼いウマ娘が困り顔で立っていた。
「あっ、キタちゃんだ! もう、急にいなくなって、さびしかったよ……!」
「だ、ダイヤちゃん! よかったぁ! 知らないうちにはぐれちゃってて、どうしようかと思ったよ……!」
ダイヤちゃんはその子の元に駆け寄ると、その子に思いっきり抱きついた。
「ダイヤちゃん、よくあたしのいるとこがわかったね」
「ふふっ、キタちゃん、おどろいちゃうかもしれないけど、このおねえさんたちがたすけてくれたの」
「おねえさん? ——って、ええ! か、カツラギエースさんに、フューチャーセツナさん!?」
キタちゃんはボクたちのことに気づいた瞬間、思いっきり尻尾を跳ねさせた。
「うおっ! き、キミもあたしたちのこと、知ってんのか!」
そしてすぐにキタちゃんは、ボクたちの元へ駆け寄ってきた。
「こここ、こんにちは! あ、あたし、キタサンブラックっていいます! デビュー戦での走り、すごかったです! あの、よかったらサインくれませんか!」
どこか既視感のある光景にボクたちは顔を見合わせると、なんだか可笑しく思えて、つい堪えきれなくなって笑ってしまった。
「ふふふ……あははっ! ダイヤもキタも似たもの同士だなっ! ふたりとも、おんなじこと言ってらぁ!」
「ふふっ! まだ会って間もないけど、ふたりがとっても仲良しだってことはもう分かっちゃった!」
そんな時、ぐぅ、と誰かのお腹が鳴る音が聞こえた。キタちゃんが顔を赤らめてお腹を抑えたから、誰が出したかすぐに分かってしまった。
「へへっ、とりあえずいい時間だし、飯食いにいこうぜ! なんかあたしたちのファンみたいだし、ふたりともっと話してみたいからさ!」
「ボクもふたりの話には興味あるから、一緒にご飯食べようよ! ご馳走するよ!」
「い、いいんですか!? そ、それなら……おことばにあまえちゃおっか、キタちゃん」
「そ、そうだね、ダイヤちゃん! こちらこそ、よろしくお願いします!」
そうして、一緒に昼食を摂ることになったボクたちは、せっかくならボクとエースのオススメがあったらそこに行きたいというダイヤちゃんたちの提案で、モールの中でもボクたちお気に入りの定食屋さんにいくことになった。
―――
「ここがおふたりオススメのお店ですか……!」
その定食屋に入り、ボクとエース、ダイヤちゃんとキタちゃんが隣同士に座って、メニュー表をふたりに渡す。その中でも、特にボクたちのオススメをふたりに伝える。
「ああ! ここの低温でじっくり火を通した柔らかい肉に歯応えのある衣を組み合わせたトンカツ定食が美味いんだ!」
「にんじんハンバーグ定食も、肉汁たっぷりで口の中でとろけるようなまろやかさが最高だよ!」
「へえー……! じ、じゃああたし、トンカツ定食にします!」
「わ、私はにんじんハンバーグ定食にします!」
「おっけー! すみません、注文いいですか!」
そうして、トンカツ定食とにんじんハンバーグ定食を2つずつ注文して、料理が来るまで話をすることになった。
「それで、ふたりはあたしたちのデビュー戦を見てくれたんだっけか」
「は、はい! わたしたち、しゅみでよくレースをみにいくんですけど、昨日もそれでキタちゃんといっしょにレースをみてたんです」
「そうなんです。それで、昨日のセツナさんたちのレースをみて、おふたりの走りに目がはなせなくなるくらい引きこまれて……」
「エースさんの8バ身差をつけた走りも、セツナさんのまほうのような走りもすごかったです! わたしたちも、いつかこんな走りができたらなって思いました!」
「へへっ、あたしたちそこまで言われたことないから、なんか照れるな」
「そうだね、ちょっと新鮮な気持ちだよ」
「それでもしかしたら、そんなおふたりのグッズがあるかもしれないと思って、今日私たちはここにきたんです」
「そうだったのか。——けど、あたしたちはデビューしたばっかだからな。……そんな話も来てないし、あたしたちがグッズ化するなんて、まだまだ先になるだろうな」
「ごめんね、ふたりとも……! でも、いつかはグッズ化するくらい、たくさん活躍してみせるから!」
「はい! おうえんしてます!」
「——と、定食がきたみたいだな。よし食べるか!」
注文していた定食が机に並べられ、エースの号令でみんなでいただきますをして、食べ始める。
「す、すごい……お肉のうまみとキャベツのあいしょうがバツグンでおいしいです!」
「だろ? はむっ……んー! やっぱ美味えな!」
「このハンバーグ、ほんとに口の中でとろけますね……! にんじんもあまくておいしいです!
「気に入ってもらえてよかったよ! あ、そういえば、ダイヤちゃんとキタちゃんは、中央トレセン学園を目指してるの?」
「あ、はい! まだまだ入学はさきですけど、わたしはトレセン学園に入学して、一族のヒガンである“G1セイハ”をめざしてるんです!」
「へぇ、G1制覇か、流石は中央のウマ娘。幼いのになかなか大きな夢を持ってるな」
ダイヤちゃんが言う、G1制覇という夢は素晴らしいと思うけど——ボクはその前にダイヤちゃんが放ったとある言葉が気になった。一族の悲願……? 一族……? サトノ……? サトノ、グループ……あっ!
(ちょ、ちょっといいエース! 耳貸して!)
(ん? どうしたセツナ。こんな小声で)
ボクはダイヤちゃんの正体に気づいてしまい、小声でエースの耳に話しかける。
(あのダイヤちゃん、もしかしたらとんでもない家の子かもしれないよ! サトノグループっていったら、超有名なゲーム会社とかも傘下にある、いわゆる財閥クラスの家だもん!)
(ま、マジか! あたしたちとは真逆の身分じゃないか! ダイヤの身に何かあったら、あたしたちの首が飛ぶんじゃ……)
「? どうしたんですか、おふたりとも?」
「あ、ああ、いやなんでもないさ! き、キタは夢とかあるのか?」
「あたしはまだハッキリとした夢っていうのはないんですけど、エンカ歌手である父さんみたいに、みんなを笑顔にできるウマ娘になれたらなって思ってます!」
「ほほう、みんなを笑顔にか! キタのそのひたむきさなら、ファンになる人も多そうだし、そんなウマ娘になれるかもな!」
みんなを笑顔にする——言葉にすると漠然とはしているが、要はたくさんのファンの願いを背負って勝利以上のものを目指すということだ。簡単なことではないと思うけど、たしかにキタちゃんなら成し遂げられそうだ。
——というかまた、何か気になるワードが聞こえたような……? 演歌歌手……? キタ……? キタ、サン……あっ!
(え、エース! もっかい耳貸して!)
(お、おい! まさかキタも何かあるのか!?)
(そのまさかだよ! き、キタサン、っていえばあの「まつり」とか歌ってる超大物演歌歌手だよ! もしかしたらキタちゃん、その人の娘かもしれない!)
(えええっ!? な、なんだってそんなウマ娘たちがあたしたちのファンに!?)
(分かんない! けど、この子たちを家に届けるまでは何としても守ろう!)
(わ、分かった!)
「あの、おふたりとも、だいじょうぶですか? 何か、ぐあいがわるかったり……?」
「い、いやいや違うんだ! カツとハンバーグを一口交換するか、話してたんだ! そ、そうだろセツナ! はい、あーん!」
「うん! お、美味しいよ! ほ、ほら、エースも!」
「お、おう! あ、あーん……うん、美味いぜ! ははは……」
なんだか誤魔化すために勢いでとんでもないことした気がするけど、ボクたちの頭の中はふたりを無事に家に届けるプランでいっぱいだった。
「あの、わたし、おふたりの夢も知りたいです!」
「あ、あたしも知りたいです!」
「あ、あたしたちの夢か! まあ、ふたりの夢も聞いたし、あたちたちも教えないとフェアじゃないよな」
「そうだね、エース。——ダイヤちゃん、キタちゃん、ボクたちはね、お互い同じ夢を持ってるんだ」
「同じ夢……ですか?」
「そうさ。実はあたしたちは、ここらとは比べもんにならないほどのド田舎出身でな。トレーニング施設どころか、レース場もなかったから、田舎のウマ娘はレースに勝てないってあたしたちは言われててな……」
「お、おふたりとも、中央のウマ娘じゃなかったんですか!?」
「うん。だから、その固定観念を破って、そんな環境からでも最強のウマ娘になるために、エースとふたりで必死にトレーニングして中央に来たんだ」
「す、すごい……! エースさんも、セツナさんも、あたしたちのそうぞうより何倍もすごいウマ娘だ!」
「そ、そのようなジンクスを破るために、中央へ……! す、すばらしいです! すばらしいです!!」
ボクたちの夢を聞いて、ふたりは思い思いの反応をしていたが、何故かダイヤちゃんの方はもはや涙目になるほどまで感銘を受けていたようだった。
「だ、ダイヤちゃん、大丈夫!?」
「あ、セツナさん! じつはダイヤちゃんってば、いろんなジンクスを破るのになにかとこだわりをもってて……たぶんこれはいつものほっさが出ているだけなので、気にしないでください!」
「ほ、発作!?」
……キタちゃんの言われた通り、ダイヤちゃんの今の状態は気にしないことにしたけど、「ジンクス……ジンクス……」と呟いているダイヤちゃんは、流石に少し怖かった。
——そうして、ご飯を食べ終えたボクたちは会計を済ませて、再びショッピングモール内を歩く。今度はボクはダイヤちゃんと、エースはキタちゃんと手を繋いでいる。
「って、そういえば、あたしたち勝負服を作らないといけないんだったな」
「そうなんだけど、これ以上なかなかイメージを形にできないよね……」
「しょうぶふく……ってことは、おふたりとも、G1レースに出るんですか!?」
「ああ、出るぞ! まだ確実に決まってるわけじゃないけど——早かったら12月末のホープフルステークスに出るだろうな」
「な、なるほど……! あ、あの、もしよければあたしにしょうぶふくデザインのお手伝いをさせていただけませんか!」
「え、き、キタが?」
「あたし、こうみえて書道とかとくいなので、なにかおやくに立てたりしませんか……?」
「うーん、書道か……服に書道はあんまり関係ないような気が——いや、待てよ……それだ、それだよキタ!」
「え、えっ!?」
エースは深く考え込んだかと思うと、突然キタちゃんの肩を掴んだ。どうやら、何か閃いたようだった。
エースたちに意外なファンができました。この出会い——特にサトノダイヤモンドとサトノグループとの邂逅は、あるものの完成に大きく影響することになります。