思いついちゃったから書いた
まぁ山の翁のほうがなかなか書けなくて気分転換に書きました。
「あにィ〜…あさ…おきるぅ〜ッ」
「んが……?」
とある平日の朝、そこに広がるのはありふれた一般家庭の微笑ましい光景。
幼い少女と見まごうほどの愛くるしい少年が、舌っ足らずな声をあげて自分よりも体の大きな少年を揺り起こす。
「あ~もうこんな時間かぁ~父さんと母さんは?」
気怠そうに目を擦りながら少年は小さい少年に問う。
「う〜……ですまぁ〜ち?……ていってた」
問に対して小さな少年は自分で発している言葉の意味をイマイチ理解してないのか、可愛らしく首を傾げて言う。そんな彼に対して起こされた方の少年はそんな光景を微笑ましく思い、発せられた内容に苦笑いはしつつも「起こしてくれてありがとね」と一言伝えてその小さな頭を撫で付ける。
しかし時間が押している事実は変わらない、少し大雑把ではあるが手早く身支度を整えて、彼は学校へ向かった。
「行ってきまーす!」
バタンッと玄関の扉が閉まるその時まで、小さい少年は出かける彼へとその小さな手を振り続けた。
コレがこの家、南雲家でのいつのも光景である。だが、この日は少し違った。小さい少年は日課の見送りが終わると朝の幼児番組を観るためにリビングへと向かう。
すると
「うぅ?」
リビングの机の上に彼の、”
朝もかなりギリギリの時間帯だったし忘れていったのだろう。ただでさえ朝食は抜き気味のハジメだ。少食だとしても昼食まで無いとなると流石に辛いものがあるだろう。
少年は、己の父と母の様子を彼らの仕事部屋の外から覗く。
「締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り締め切り……」
「ハハハハハハッまだだ!!まだ終わらんよ!!ヒィヒィ〜〜ッ!!」
パタンッとそっと扉を閉める。どうやら両親はそれどころではないようだ。
少年は栄養ゼリーパックとにらめっこしながらその“見た目以上に幼い頭“で考える
この時、ついついよだれが垂れてしまったのは御愛嬌。
はっと、気づけば栄養ゼリーパックと自分の顔がゼロ距離にまで近づいていた事に気づいて、ブンブンと頭を振るう。
これはハジメの昼食、弁当なのだから自分が食べては駄目だ。
「あにぃに……おべんとう……とどける!」
そう言うと彼はフンスッと鼻息荒く両拳にギュッと力を込める。そして栄養ゼリーを両手でガシッと掴みそして………沈黙………
虚ろな目で栄養ゼリーを見つめキャップに手が伸びる寸前、ハジメの空腹で辛そうにしている顔を幻視して思い留まる。
そうだ自分が空腹になるようにハジメも、兄も空腹になる。今度は決意のこもった強い眼差しで玄関へ向かう少年。
本来彼はその性質故に、一人での外出は控えるように言われているが、兄の空腹を思えばそんな些事彼にとっては何の障害にもならなかった。
なんせ空腹が辛いことは誰よりも自分が理解している。そんな思いを大好きな家族にしてほしくないと言う純粋な思いが、彼の歩みに力を入れる。
大丈夫だ、両親に何度か連れられて学校の場所は理解している。未だ鳴り止まぬ腹の虫を気合で鎮め、いざゆかんッ空腹の兄が待つ学校へ!!
結局その道中、道に迷ったり、つまみ食いしそうになったりとで、到着が遅れてしまったのは御愛嬌。
♢
憂鬱な月曜朝の登校を済ませ、ギリギリで教室に入った僕、南雲ハジメは今日も今日とて
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
絡まれていました。トホホ
今もこうしてなにが面白いのかゲラゲラと笑い出す、
彼等がこうも僕に絡むのは何も僕がヲタクと言うだけではない。その理由の一つが
「南雲くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
そう彼女
そんな彼女が成績も平凡、授業中はいつも居眠りをする。端から見ればそんな不真面目代表の様な僕に毎日のように絡んでくる。
それは彼女のファンや彼女を好いている者たちからすれば全くもって面白いものではなく、非常に不本意ながら嫉妬の対象にされてしまっているのだ。
「あ、ああ おはよう白崎さん」
こう挨拶をするたびに思う、ホント何故彼女は僕に付き纏うのだろう・・・不思議で堪らないよ
僕がどうにかしてこの状況を脱したいと思っていると、
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
彼女のお馴染み組の三人が声を掛けてきた。僕は心の内で「ナイスッ!」とグットポーズを取る。
最初に挨拶をしてきたのが
次はキラキラネームこと
そして最後は
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」
「あはは……」
僕がこうして彼らと会話するだけでも周りの視線はその鋭さを増す。見て分かる通り白崎さんを始めとした彼らはとても人気が高い。そんな彼らと僕が会話をするだけでもクラスメイト達は許せないのだろう。
現に天之河くんの目にも僕は白崎さんの厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようで、忠告の声が飛ぶ。
僕としては逆に放っておいてほしいのだが、そんなことを言えば周りからの風当たりも強くなるし、思い込みの激しい天之河くんには余計なことを言う方がかえって面倒なので代わりに苦笑で返す。
そして〝直せ〟と言われても、僕は"趣味の合間に人生"を座右の銘としている為直す気は全くと言って良い程無い。なにせ、父さんはゲームクリエイターで母さんは少女漫画家であり、将来に備えて二人の作業現場でバイトしているくらいなのだから。
勿論好きだ、楽しいって気持ちがほとんどだったけど、もう一つ、
嬉しい事に長い研鑽の末、その技量は即戦力扱いを受け、趣味中心の将来設計はばっちりである。僕としては真面目に人生しているので誰になんと言われようと今の生活スタイルを変える必要性を感じなかった。白崎さんが構って来なければ、そもそも物静かな目立たない一生徒で終わるハズだったのである。
話が拗れる前に穏便に会話を切り上げようとする。が、今日も変わらず我らが女神は無自覚に爆弾を落とす。
「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」
ざわっと教室が騒がしくなる。男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりに僕を睨んで来る。
(ヒイィィィイイィィィッ!!!(泣))
「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」
どうやら天之河くんの中で白崎さんの発言は僕に気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があり、そこが厄介なんだよなぁ~と現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。
「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」
この場で最も人間関係や各人の心情を把握している八重樫さんが、こっそり謝罪する。僕はやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑いするのだった。
そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、いつものように僕は夢の世界に誘われた。
♢
教室のざわめきに、僕は意識が覚醒していくのを感じた。居眠り常習犯なので起きるべきタイミングは体が覚えている。その感覚から言えば、どうやら昼休憩に入ったようだ。
さて、十秒でチャージできるいつものやつで今日もお昼を済ませようと鞄をガサゴソとあさるが……
「ん?あ、あれ!?」
幾ら探してもお目当てのものは鞄から出てこなかった。そして気づく。
「し、しまったぁー!!家に忘れたぁ〜!!」
朝も登校時間ギリギリで起床したため、朝食なんて取っているわけもなく、幾ら少食の僕でも流石に昼も抜きとなると辛い。
幸い財布はある。これで購買でパンでも買って……
「南雲くん。お弁当忘れたの?私の分けてあげるから、よかったら一緒にどうかな?」
輝くようなニッコニコな笑顔でお弁当を片手に女神が……いや悪魔がいた。
((し、しまったぁーー!!))
偉いぞ僕、今度はちゃんと心の中で叫べた。彼女のこの反応はきっと先はどの僕の叫びが原因だろう。全く油断していた。週明けということもあり少し寝ぼけ過ぎていたようだ。いつもなら白崎さん達と関わる前に教室を出て目立たない場所で昼寝というのが定番なのだが、流石に二日の徹夜は地味に効いていたらしい。
「どうしたの南雲くん?早く一緒に食べよ」
再び不穏な空気が教室を満たし始める中、僕は心の裡うちで悲鳴を上げる。いや、もう本当になしてわっちに構うんですか? と意味不明な方言が思わず飛び出しそうになった。
もうお腹いっぱいという逃げ道は使えない、現に彼女の弁当から香る匂いは空きっ腹にとどめを刺す一撃となった。
ぐぅ~
「おお~すごいお腹の虫ぃ〜南雲くんちゃんと朝ごはん食べてる?良かったら朝も私が作ってあげようか?」
彼女のその一言で教室中がどよめき、更には視線が殺気に変わる。
万事休す。もはやこれまでかと、諦観と羞恥に天を仰いだその時、
「あにぃ〜おべんと……わすれてた〜」
舌っ足らずな聞き覚えのある声が教室に響く。
「な……ナナキ!!?」
教室の入口の前に立っていたのは、僕の弟、南雲ナナキだった。
ナナキの登場で教室内の空気はカオスとなる。なぜなら……
「きゃあああナナキちゃんだぁ!!」
「今日はどうしたの〜ナナちゃん!!」
「ナナキちゃんカワイイ!!私の弟になってぇーー!!」
「いいや鈴の妹になってくれぇーー!!」
女子たちの歓声が響き渡る。その理由は至って単純。僕の弟が可愛すぎるからである。
まるでお人形のようなパッチリお目々にキュートな口元、髪型は男の子にしては少々長めのミディアムヘアを後ろで括り可愛い小さなしっぽのようになっている。
男のはずなのにまるで少女のような声と顔つき、いわゆる”男の娘“である。
先ほど男子の間では白崎さんと八重樫さんは二大女神と呼ばれていると説明したが、
僕の弟ナナキは度々この学校に出没し、その可愛さで学校中の女子を虜にしていき最終的には学校の幻の三人目の女神(男の娘)と呼ばれている。
僕は慌ててナナキの元に駆け寄る。ナナキのまわりをクラスの女子に囲まれているが、そんなことは関係ない。
普段の僕なら尻込みするが今の僕は何の躊躇いもなくクラスの女子を押しのけナナキの肩を両手で掴み僕よりもかなり背が低いナナキと目線を合わせる。
「ナナキ!!どうやってここに来たんだ!!父さんと母さんは!?」
「ううん、ちち、はは、ですまぁ〜ち…してた。だから……ナナキひとりで……きた……へへ」
相変わらずの舌っ足らずで一生懸命に言葉を紡ぐナナキ、最後はにへらっと笑顔を向ける。そんな弟に僕は
「馬鹿やろう!!何かあったらどうするつもりだったんだ!!」
大きな声で怒鳴りつけた。ホントは怒鳴るつもりなんてなかったけどあまりにもびっくりしすぎてつい声を張り上げてしまった。その姿は普段の僕があまり見せない姿だからクラスのみんなは驚いたように僕の方を見る。
この様子を見て、少し大袈裟、過保護という人が多いかもしれないが、これにはちゃんとした理由がある。それについてまずは、ナナキについて詳しく話さなければならない。
まず、僕の弟ナナキは、今年で16歳になる。16歳、本来なら高校1年生の年齢だ。なのにその言動はまるで幼稚園のそれである。外見だって、16歳男子の平均と比べれば非常に幼く見える。
ナナキは、重度の知的障害と肉体成長障害を持っている。本来、一人で外出なんて危険すぎてさせられない。僕の家は両親が売れっ子だからそれなりに裕福だ。だから、その資産を狙って万が一誘拐なんてされてしまうかもしれない。道路をうまく渡れなくて事故に合うかもしれない。
ナナキは優しくて良い子だ。だからそんな弟が不幸になるなんて僕は許せない。だからナナキがこれから危険な目に遭わないようにちゃんと僕らが守ってあげないといけない。
そうやって物思いにふけっていてナナキを見ていなかったからか、ふとナナキに視線を戻すと……
「うっうぅ……びえええええええん!!」
「あっご、ごめんナナキ!」
ナナキが大きな声をあげて泣いてしまった。し、しまったついつい感情的になって怖がらせてしまった。僕は別に怒ってはいないんだ。安心させて泣き止ませないと……そうしようとした時
ドンッと僕の体に衝撃が走った。
「ぐあっ!?」
その勢いで、僕は床に倒れる。
「何してるんだ南雲!!忘れ物を届けに来たナナキちゃんを怒鳴りつけるなんて最低だぞ!!」
「は?」
と、思わず声が出てしまった。今の衝撃はなんと天之河君が僕を突き飛ばした衝撃だったらしい。まるで正義の味方が被害を受けた市民を守るように僕とナナキの間に立っている。
きっといつもの思い込みを爆発させたのだろうが、
えぇ〜まじかよ……と少しの苛立ちと共にそんな視線を彼へと向ける。すると
「こぉんの馬鹿ぁ!!」
「ぐわぁ!!」
と今度は天之河君が八重樫さんに殴られていた。そして透かさず八重樫さんは天之河君の頭を床に押さえつけ自分も土下座をする。
「南雲君!!ほんと〜にごめんなさい!!コイツには後でキツく言っとくから」
そうやって八重樫さんには誠心誠意謝ってくれた。うん、謝ってくれるのは別にいいんだけど、クラス全体から「なぁに八重樫さんに土下座させてんだゴラァ!!」とでも言うような鋭い殺気をぶつけられる。
あ~もう……なんでやねん
その後、八重樫さんはナナキにも謝ってくれた。
「ごめんねナナキちゃん、貴方のお兄さんを怪我させちゃって……飴ちゃん舐める?」
「ん……」
そう言って八重樫さんはなんてことないようにポケットから果汁飴を一つ取り出して口を大きく開けて待機しているナナキに直接食べさせていた。
これは余談であるが、ナナキと八重樫さんが交流を持つようになってから、八重樫さんは自分のポケットにいくつか飴を忍ばせるようになったとかならなかったとか……。
とても幸せそうな顔で口の中で飴をコロコロさせるナナキは機嫌が直ったのか、謝ったら許してくれた。
結局あれから天之河君からの謝罪はなかったが、取り敢えずは事態が収拾した。一応は部外者なナナキは前の授業でまだ教室に残っていた愛子先生とお話をするために教室を出ていこうとしていたその時……
世界が凍りついた
僕の目の前、天之河君の足元に純白に光り輝く円環と幾何学きかがく模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。
自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だナナキと手を繋いで教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。
この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。
愛子「ナナキ君、どうやってこの校舎に入ったのですか?一応、部外者……えっとぉここの生徒じゃない子は入れないのですよ?」
ナナキ「おそうじの……おじいちゃん……いいよっていってくれた。」
愛子(用務員さん……ッ!!)
ナナキちゃんは顔パスであった……