世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 昨日投稿できなかった分、今日は連投じゃぁあ!!

 あ、あとナナキ君の身長やっぱり変えます。

 個人的にはミュウと同じか少し大きいくらいに考えてる。それにあたって前話でナナキ君の、身長について言及している描写があれば書き直していきます!

 140ってユエとおんなじやん!!そんなでっかくないよ!俺のナナキ君は!!

 そして今回も前半は殆ど原作と一緒です。すいませんm(_ _)m





第9話∶一方その頃って奴

 

 

 ここはオルクス大迷宮()の百階層その手前。

 

 そこに()、南雲ハジメはいた。

 

 あ?一人称が変わってるって?ちッ色々あったんだよ。それを今から説明する。

 

 

 

 

 俺はあの、六十五階層から落ちたあと、運良く川かなんかに落ちたらしくてそのまま流されて、気づくと周りはどこかもわからん場所に流れ着いてた。

 

 周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。が兎に角このままじゃどのみち凍えて低体温症こじらせて死ぬ。

 

 早々に焚き火を起こして、暖を取りながらも服を乾かしたら直ぐに移動を開始した。

 

 兎にも角にもそん時は情報が不足してたからな、なんもわからんままじゃ地上に帰れるもんも帰れない。

 

 俺がいた場所はとりあえず洞窟って感じの通路だった。かがむほど狭いところもあれば、見上げるほど広い場所もある。

 

 横穴なんかの隠れる場所も豊富にあったから、それらを駆使して探索を続けた。

 

 それからどれだけ歩いたか、そろそろ疲れが目立ち始めた頃、視界の端で何かが動いた気がして岩陰に身を潜める。

 そこで俺が見たのは、白い毛玉……じゃなくて後ろ足が異常発達した中型犬位のサイズのウサギが2本尻尾の狼を蹴り殺している光景だった。

 

 その後悟られぬように逃げようとしたが、

 

 カランッと小石を蹴飛ばしてしまい、その音が洞窟中にこだましてしまう。

 

 そしてウサギに気づかれた俺はなんとか逃げようとするが、奴の蹴りを左手にもろに受けてしまって、激痛とともにうまく力が入らなくなった。

 

 ウサギが俺にとどめを刺そうと飛びかかってきた時は流石に死を覚悟したもんだったが。

 

 俺の予想に反してそうはならなかった。

 

 何故なら、ウサギなんかよりももっとヤバいのが現れたからだ。

 

 俺の逃げ込んだ先の通路にいたそれは、両腕と爪がすごく長く発達した2メートル超えの巨大な白熊だった、

 

 ウサギの野郎はその熊に怯えていたからか、俺にとどめを刺すことはなかった。そして、夢から覚めたように硬直が解かれたウサギはすぐ逃げ出そうとするも、爪熊の巨体に見合わない俊敏な動きで直ぐに追いつかれ、その爪で両断された。

 

 そしてある程度ウサギを捕食すると、爪熊は「次はお前だ」とでも言うように俺へ視線を向ける。

 

 俺は命からがら逃げ出した。当然だ、死にたくなかったからな?だが人生はそんなに甘くない。あのウサギが逃げ切れなかった相手に当時の俺が逃げられる道理がなかった。

 

 ゴウッと風が唸る音が聞こえたかと思ったら俺は左側面から吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられる。

 

 「がはっ!」

 

 肺の空気が衝撃により抜け、咳き込みながら壁をズルズルと滑り崩れ落ちる俺。衝撃に揺れる視界でどうにか爪熊の方を見ると、爪熊は何かを咀嚼していた。

 

 そして俺は、左手のひら(・・・・・)に違和感を覚えて左腕(・・)を上げると……。

 

 俺の左手のひらの中腹から先がキレイな断面を残して無くなっていた。

 

 「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」

 

 

 

 そこからは無我夢中で逃げたからあんまり覚えちゃいねぇが、

 

 兎に角必死に逃げて、気がつけば横穴の奥に“錬成”で空洞を作り逃げ込んでいた。

 

 考えなしに錬成した結果魔力切れを起こしてぶっ倒れちまったけど、幸運なことにそこにはバスケットボールぐらいのサイズの神結晶が埋まっていて、そこから流れる滴が俺を癒してくれていた。

 

 お陰で、寝ている間に傷口が塞がって無事に失血死は免れたよ。

 

 “神結晶”っていうのは、歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

 神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

 その液体を“神水”と言い、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないがな。お陰で俺は望まずして左手の指4本詰めた事になる。

眉唾だが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われていたりして、不死の霊薬なんて呼ばれ方もしている。

 

 何とか死の淵から脱却できた事で、一気にその場にへたり込む。そこから2日くらいか、俺は思考の坩堝にハマっていった。

 

 どこだからわからない奈落、鳴りやまない腹の虫、助けが来ない現状、決して僕では敵わない捕食者たちの存在。

 

 明日をも見えない暗闇の中、いっその事このまま死んでしまおうかとまで考えたときだ。

 

 『私とも約束してくれないかな?』

 

 『あにぃ……やだぁ……』

 

 『いか……ないでぇ……』

 

 

 

 「ッ!!」

 

 思い出されるのは2つの約束、そうだッ何をやっているんだ僕は!!

 

 アイツに……ナナキに……もう一度家族を失う苦しみを味合わせるのか!?

 

 僕はまた、アイツを悲しませるのか!?

 

 僕は絶対に生きるッ!生きてナナキの所に……家族のもとに……地球に帰る!!ナナキと一緒に……ッ。

 

 それを邪魔すると言うのなら、そいつらは全員敵だ!

 

 敵は殺す!あの熊も殺す!

 

 この理不尽や不条理を殺す!

 

 この現状に及び腰な()を殺す!

 

 ナヨナヨと今まで頼りなかった()を殺す!

 

 ()は、俺の邪魔を、俺達の生存を脅かす敵を……すべて殺すッ!!

 

 

 

 

 きっとこのときだろうな、()()になったのは……。

 

 そこからは早いもんで、俺は唯一の武器、“錬成”を駆使してあらゆる魔物を殺し尽くした。

 

 腹が減っては戦はできぬ、俺は手始めに二つ尾の狼の肉を喰らうことにした。

 魔物の肉は毒があって食えば四肢が爆発四散するなんて座学でやっていたことを忘れていた俺は、神水をお供にその狼肉にかぶりつく。

 

 「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」

 

 硬い筋ばかりの肉を、血を滴らせながら噛み千切り必死に飲み込んでいく。二日振りの食事だ。いきなり肉を放り込まれた胃が驚き、キリキリと痛みをもって抗議する。だが、そんなもの知ったことかと俺は、次から次へと肉を飲み込んでいった。

 

 しばらくそうやって食っていたら、突然俺の体に激痛が走る。

 

 「あ? ――ッ!? アガァ!!!ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」

 

 俺は震える手で懐から石製の試験管型容器を取り出すと、端を噛み砕き中身を飲み干す。直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

 「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

 体が痛みに合わせて脈動を始める。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてくる。

 しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。神水の効果で気絶もできない。絶大な治癒能力がアダとなった形だ。

 

 俺は絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度か壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。いっそ殺してくれと脳裏に軟弱な考えが浮かぶが、ナナキの顔を思い浮かべ、その思考を黙殺、ただひたすらその地獄に耐えてみせた。

 

 すると、俺の体に変化が現れ始める。

 

 まず髪から色が抜け落ちてゆく。許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。

 次いで、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。

 超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象だ。骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増すらしい。今俺の体にはその現象が、魔物肉の毒素による肉体破壊と神水による肉体修復のイタチごっこにより矢継ぎ早に発生している状態だった。

 

 その様は、あたかも転生のよう。脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。俺の絶叫は正に産声だ。

 

 痛みから解放され気がつけば、俺は生まれ変わっていた。頭髪は白く染まり、服の下の腕脚には、今は見えないが赤黒い線が数本ほど走っている。まるで蹴りウサギや二尾狼、そして爪熊のようだ。

 

 飢餓感がなくなり、壮絶な痛みに幻肢痛も吹き飛んだようで久しぶりになんの苦痛も感じない。それどころか妙に体が軽く、力が全身に漲っている気がする。

 

 途方もない痛みに精神は疲れているものの、この晴れやかな爽快感はベストコンディションといってもいいだろう。

 

 腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達しているし、身長も伸びている。以前の身長は百六十五センチだったのだが、現在は更に十センチ以上高くなっている。

 

 「俺の体どうなったんだ? なんか妙な感覚があるし……」

 

 体の変化だけでなく体内にも違和感を覚えた。温かいような冷たいような、どちらとも言える奇妙な感覚。意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上がった。

 

 「うわぁ、き、気持ち悪いな。なんか魔物にでもなった気分だ。……洒落になんねぇな。そうだ、ステータスプレートは……」

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

 

天職:錬成師

 

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

 

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 

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 「……なんでやねん」

 

 

 なんと、俺のステータスは大きく上昇し、魔物の固有魔法を己の物にしていた。

 更にその後の調べで、自分よりも強い魔物と言う制限があるが、肉を喰えばステータスが上昇して、固有魔法を得ることができるようになる事がわかった。

 

 

 その後、俺は錬成の技能を鍛錬して、この異世界に現代兵器の銃を生み出すことに成功する。あのときは素直にテンションが上がった。

 

 大型リボルバー式拳銃『ドンナー』

 

 全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れてある。

 

 しかも、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、魔物から奪った固有魔法〝纏雷〟により電磁加速されるという小型のレールガン化している。その威力は最大で対物ライフルの十倍である。

 

 「……これなら、あの化け物も……脱出だって……やれる!」

 

 こうして俺は、ドンナーを参考に義指を含め、あらゆる現代兵器を創造したり、他の魔物肉を喰らって技能や固有魔法を手に入れたりして、宿敵、”爪熊“へのリベンジマッチを挑んだ。

 

 勝負は圧勝に終わる。見事過去の雪辱を晴らした俺は改めて、ナナキと一緒に生きて故郷に帰ることを決意する。

 

 それ以外のことはどうでもいい、それを邪魔するやつは、誰であろうと殺すまでだ。

 

 しかし、この考えはその後すぐ、少しだけ変わることになる。

 

 その要因となったのは、

 

 

 「ハジメ……考え事?」

 

 「ユエ……」

 

 そう、このユエの存在だ。

 

 俺は爪熊との戦闘を終えると、早速出口を探したんだが、上へと向かうルートが一切見当たらない。上への道がないなら下へ行くまでっという単純な思考で俺は迷宮攻略へと勤しんだ。

 

 俺が落とされた階層から五十ほど降りてきたとき、そこに1つ目の巨人キュクロプスもどきの魔物2体が門番をする。明らかな人工の大扉を発見する。

 

 中を確認すると、そこに居たのがユエだった。

 

 

 こんな場所に生きた人間、完全な厄ネタの予感に、オレは回れ右をする。

 

 しかし、

 

   「私…裏切られただけ!」

 

 この一言に気づけばオレは、足を止めていた。

 

 “裏切られた”それは俺と同じ境遇、もう既に、クラスメイトの誰かが放ったあの魔弾のことはどうでもいいはずだった。〝生きる〟という、この領域においては著しく困難な願いを叶えるには、恨みなど余計な雑念に過ぎない。

 だが、それでも、こうまで心揺さぶられたのは、やはりどこかで割り切れていない部分があったのかもしれない。そして、もしかしたら同じ境遇の女の子に、同情してしまう程度には、家族以外はどうでもいいと思っていた俺にもまだ、それだけの良心が残っていたのかもしれない。

 

 話を聞くに彼女は300年前に滅んだ吸血鬼族の女王で、自動再生と言う魔力がある限り再生し続ける能力、更に魔法陣や詠唱無しで全属性の魔法を放てるという規格外の能力を危ぶまれ、嫉妬に狂った叔父によってここに封印されたそうだ。

 

 そうして俺は彼女を助ける事にして、錬成で彼女を拘束していた立方体のオブジェを破壊する。

 

 救い出された彼女は裸で、見た目の年は12、3歳くらい、美しく黄金に輝く長い髪に、ルビーの様に赤い瞳、まるで天から降りてきたような美貌につい見惚れてしまったのは、ここだけの話だ。

 そしてこのユエという名前だが、彼女が望むので俺が付けさせてもらった。

 

 おそらく、僕だった俺が、変心して俺になったのと同じようなに、前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。俺は痛みと恐怖、飢餓感の中で半ば強制的に変わったが、彼女は自分の意志で変わりたいらしく。その一歩が新しい名前だったのだろう。

 

 俺が付けた『ユエ』の名はどうやら気に入ってくれたらしく、無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

 その様は何処かナナキを彷彿とさせるものがあって、きっと俺が彼女を放っておけなかったのは、それも理由のひとつなのかもしれない。

 

 「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

 

 

 

 その後いつまでも裸なユエに爪熊の毛皮の外套を与えて、ユエに「ハジメのエッチ」って言われたり、ユエの封印を守る異常に硬いサソリモドキと戦ってシュタル鉱石という魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石を手に入れてほくほくしたり、ユエの実力が天之河なんて霞むほどのチートぶりだったりと色々あった。

 

 そしてユエが今度は俺のことについて聞いてくる。

 

 「ハジメはどうしてここにいる?なんで魔力直接操れる?そもそも人間?」

 

 怒涛の質問攻めに俺は一つ一つ答えていく。

 

 まず俺達はクラスメイトや障害を持つ弟と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、弟との必ず戻って来るという約束を果たせず、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

 

 ハラハラと涙をこぼすユエに俺はついギョッとして思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

 「いきなりどうした?」

 

 「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」

 

 

 

 どうやら、俺のために泣いているらしい。そんなユエの様子に少し驚くと、表情を苦笑いに変えて彼女の頭を撫でる。

 

 「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、弟を迎えに行って一緒に故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

 彼女の頭を撫でつけながら言うと同時、ピクリとユエが反応する。

 

 「……帰るの?」

 

 「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

 

 「……そう」

 

 

 

 ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

 

 

 「……私にはもう、帰る場所……ない……」

 

 「……」

 

 

 そんなユエの様子に撫でつけていた腕を引っ込める。さすがの俺もそこまで鈍感じゃない。彼女が……ユエが俺に新しい居場所を見出していることに薄々感づいてはいる。だからこそ、俺たちが元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるんだろう。

 

 「あ~、なんならユエも来るか?」

 

 「え?」

 

 ふと、俺はこんな事を言っていた。そんな俺の言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになって、若干、早口になりながら告げる。

 

 「いや、だからさ、俺達の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

 しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

 キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらも頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。

 思わず、見蕩れてしまって呆けた自分に気がついて慌てて首を振って誤魔化すように言葉を続ける。

 

 「ほ、ほら!弟に、ナナキにもユエと仲良くなってほしいしその方がナナキも友達が増えて嬉しいだろうしぃ〜?」

 

 そんな俺にユエが何処か悪戯っ子のような表情になって

 

 「ナナキっていうの?弟さん」

 

 と尋ねる。

 

 「あっあぁそうだが、それがどうした?」

 

 「ん……ちゃんと覚えとこうと、思って」

 

 そうしてユエは俺の目を見てさっきとはまた、ベクトルの違うまるで妖艶な笑みを見せると、特大の爆弾をよこしてきた。

 

 「いずれ……私の弟にもなるんだしッ♪」

 

 「ふぁ!?」

 

 そうして密着してくるユエにドギマギしてしまう俺だった。

 

 

 その後も、ユエに血を飲まれたり、植物系の魔物にユエが操られたり、ユエが俺への密着や添い寝など、態度が露骨になり始めたりと色々あったが、順調に迷宮攻略を進めていった。

 

 

 

 

 そうして、今に至るわけだが、俺が最初にここを()の大迷宮と評したのには理由がある。俺がここに落ちてきて数えて、今此処が百階層目、明らかに数が合わない。

 

 ならば、ここは最初にいた迷宮とは別の迷宮ということになる。故に裏の……いや、ひょっとすると此処こそが真のオルクス大迷宮なのかもしれないな。

 

 「ハジメ……いつもより慎重……」

 

 「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のためだ」

 

 銃技、体術、固有魔法、兵器、そして錬成。いずれも相当磨きをかけたという自負があった。そうそう、簡単にやられはしないだろう。しかし、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところだ。

 

 故に、出来る時に出来る限りの準備をしておく。ちなみに今の俺のステータスはこうだ。

 

 

 

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

 

天職:錬成師

 

筋力:1980

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

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 ステータスは、初めての魔物を喰えば上昇し続けているが、固有魔法はそれほど増えなくなった。主級の魔物なら取得することもあるが、その階層の通常の魔物ではもう増えないようだ。魔物同士が喰い合っても相手の固有魔法を簒奪しないのと同様に、ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 しばらくして、全ての準備を終えた俺達は、階下へと続く階段へと向かった。

 

 

 

 

 

 

  ♢

 

 

 

 

 

 

 ハジメとユエは遂に最後の階層へと足を踏み入れる。その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

 ハジメ達が、しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。ハッと我を取り戻し警戒するハジメとユエ。柱はハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

 ハジメ達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

 

 「……これはまた凄いな。もしかして……」

 

 「……反逆者の住処?」

 

 

 いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 

 「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

 ハジメは本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかないのだ。

 

 「……んっ!」

 

 ユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

 そして、二人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 ハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地きゅうちに追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

 

 「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

 

 「……大丈夫……私達、負けない……」

 

 

 ハジメが流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さずハジメの腕をギュッと掴んだ。

 

 ユエの言葉に「そうだな」と頷き、苦笑いを浮かべながらハジメも魔法陣を睨みつける。どうやらこの魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないらしい。

 

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

  「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 

 

 

  ♢

 

 

 

 

  

 勝負はまもなく佳境に入ろうとしていた。

 

 このヒュドラもどき、六つの頭それぞれに固有の能力があり、赤、青、緑の頭はそれぞれ、火、水、風の属性魔法を扱い、黄色は防御、白は回復、そして黒は幻惑等のバッドステータスそれぞれの頭が連携していて、なかなか攻めきれなかったハジメ達。

 

 ある時は、ユエが幻惑に掛かり危機に陥ったが、ハジメの一世一代の愛の口づけでその難局を乗り切り、遂に……。

 

 

 「まとめて砕ぁく!!」

 

 「“天灼”!!」

 

 ハジメのシュラーゲンの一撃と、ユエの燃え上がる魔法により、六つの頭全てを打ち砕くことに成功した。

 

 

 いつもの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、ハジメに向けてサムズアップした。ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。シュラーゲンを担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。

 

 

 

 その直後、

 

 「ハジメ!!」

 

 ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭(・・・・・)が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨へいげいしていた。思わず硬直するハジメ。

 

 だが、七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。

 

 ハジメは銀頭が視線をユエに逸した瞬間、全身を悪寒に襲われ同時に飛び出していた。

 

 青頭の時の再現か、極光がユエを丸ごと消し飛ばす前に、再び立ち塞がることに成功したハジメ。

 

 このまま行けば極光が二人を飲み込んでしまう。覆しようのない結末が二人へと迫ろうとした次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 

 突如、銀頭の横合いから何かが雄叫びを上げながら激突する。その衝撃で、ハジメとユエへ向かっていた極光は明後日の方向へと逸れていく。

 

 突然の出来事でハジメもユエも目を点にしている中、無粋な乱入者に殺意の視線を向ける銀頭。

 

 しかし、次の瞬間銀頭の喉元にそれは鋭い牙を突き立たせて、同時に銀頭の喉からおびただしい量の鮮血が舞う。

 

 「クルゥアアアアアアアアンッ!!?」

 

 本来、かなりの硬度を誇る銀頭の鱗は腹側にも存在する。それをまるでバターか、豆腐のようにそれの牙は簡単に銀頭の鱗を突き破ってみせたのだ。

 

 明らかに致命傷だ。だが乱入者はそれだけでは飽き足らず、喉の肉をそのまま食い千切ると、一瞬のうちに飲み込み、更にその牙を突き立てる。そして全体重をかけて捻り上げ、次の瞬間

 

 バキッブチブチブチッという音と共に、銀頭の首を丸ごと引きちぎったのだ。

 

 ズドーンッと残った首が地面へと落ちると同時、銀頭の首を口に咥え、『GuRuuuuッ』と唸り声をあげるそれが、ハジメ達の前へ姿を表す。

 

 その体は2メートル超える筋骨隆々な全体的に太い体。まるで灰色のゴムのような質感の肌に顔と腰からは、人間のものではなく、サメの顔と尾ヒレが伸びた、正に異形の怪物だった。

 

 

 はっとこの状況にいち早く回復したユエがハジメから貰っていた神水を飲んで回復し、ハジメのとなりまで走って手をかざす。

 

 「ハジメッ!……状況はよくわからないけど、急いで迎撃を………ハジメ?」

 

 

 ユエが魔法を打つ構えを、その恐らくサメの魔物へと向けながらハジメへと顔を向けるが、ハジメの様子が何処かおかしかった。

 

 今まで見たことのないような唖然とした顔でただサメの魔物を見つめている。

 

 それに次いで、ハジメの口から信じられない言葉が飛び出した。

 

 「ナナキ……か……?

 

 「えっ……」

 

 ユエもまた唖然とする。ナナキ、それはハジメの弟の名前。障害により、年齢よりも小さく幼い、ユエ自身にも何処か既視感の感じる性質の少年。

 話でしか聞いたことないけれど、断じてこんな化け物ではないはずだ。

 

 実際そうだ。百人に聞けば百人が否と答えるだろう。だが、他でもない、兄であるハジメが、弟を見間違うはずもなかった。

 

 ハジメはそのサメの首から垂れ下がるジーンズ素材の布切れに視線を移す。そこには、少しだけ血で汚れているけれど、幼い自分が出来心で描いたイラストと、何度も失敗しても縫いきってみせた可愛らしいサメのアップリケが見える。

 

 何度も新しく作り直そうか?と打診したが、

「これがいい」と頑なに譲らなかった。そんな懐かしい記憶と共にハジメは弟の変わり果てた顔に視線を移す。

 

 「ナナキ……お前……なのか?」

 

 そう呟きながらハジメは一歩踏み出す。

 

 「ここまで……まさか……俺を…探しに来てくれたのか?」

 

 困惑と再会の嬉しさが入り混じった震える声でハジメはソレ(・・)に語りかける。

 

 対するソレ(・・)は口に咥えていた銀頭の首を捨てるとスンスンとハジメに向かって鼻を鳴らす。

 

 「ナナキ……怪我してないか?……何処か痛いところはないか?」

 

 

 いくら姿が醜悪に変わろうと、ハジメは態度を変えない。明らかに凶悪な見た目のソレ(・・)に、まるで幼子を気遣うように声をかける。

 

 一歩、一歩近づいていくハジメに対して、ソレ(・・)真っ赤(・・・)に血走った目をギョロギョロさせて、グパァッと開いた口から滝のように涎を流す。

 

 いつものハジメであれば気づく事が出来ただろう違和感に、ハジメは全く気づくことができないままソレ(・・)へ左手を伸ばした次の瞬間。

 

 

 「ダメッ!ハジメぇ!!」

 

 

 ユエが鬼気迫る勢いでハジメに静止を促すためその場から駆け出す。だが、ユエの忠告はあまりにも遅すぎた。

 

 

 

 バックンッと、ソレが何かを噛みちぎる。

 

 

 「えっ?」

 

 と、間抜けな声がハジメから漏れる。ユエに後ろから引っ張られ、命は繋いだものの、ハジメの左の肘から先は跡形もなく消失していた。

 

 間に合わなかったことに悲痛な表情を浮かべるユエに対して、ソレ(・・)は、口に入れたそれをゴリゴリと咀嚼し、ぺっと何かをハジメの方へと吐き捨てる。

 

 ソレは、ハジメが失った左手に付けていた4歩の義指だった。

 

 その既視感を感じる光景に、ハジメは今このとき、一瞬だけ、変心前の弱かったハジメに戻った。

 

 

 

 

 「あっあぁぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!

 

 「ハジメッ!」

 

 痛みが遅れてやってきたハジメはしかし、腕の痛みよりも、心の痛みに絶叫を上げた。

 

 そんなハジメの状態を無視して、ソレは……サメの魔物(・・・・・)は大口を開けて、血と涎を撒き散らしながら猛然とハジメへと駆け出す。

 

 「くっ来ないで!!“城炎”!!」

 

 こちらへ来るサメの魔物にユエは、炎の壁を張って牽制する。

 

 サメの魔物は炎に一瞬触れると逃げるように飛び退くも、視線だけは未だ真っ直ぐハジメを捉えていた。

 

 時間ができたこの間にユエは、ハジメの傷を神水で治療する。案の定、左腕は欠損したままだった。

 

 このまま戦闘続行は危険と判断したユエはハジメを連れて一度前の階層へ引き返そうと考えたが、何かがユエの腕を強く掴んで静止する。

 

 「!ッハジメ」

 

 何かも何も、それはハジメの残った右腕だった。ハジメはまるで幽鬼の様な足取りで立ち上がると、サメの魔物へ向けて歩を進めた。

 

 そう、ハジメは未だ戦うつもりだったのだ。

 

 「ッ!待ってハジメ…、戦うなら、私も━━

 

 

 「引っ込んでろユエ」

 

 

  ッ!?」

 

 

 それはユエが初めて聞く、ハジメの底冷えするなどに冷たく低い声だった。

 

 

 「お前がそう言うつもりなら……いいぜお前は……俺の……敵だッ!!

 

 

 

 

 

 

 「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 

 

 

 今宵、奈落の奥底にて。史上最悪の兄弟喧嘩が勃発した。

 

 

 





 今回、ハジメは原作と違い腕が残ったことと、ナナキ君の存在によってそこまでダラダラと考え込んでいません。

 それによってユエと出会うのも、奈落の百階層へ到着するのも、原作より早くなっています。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 お気に入り100人突破!!皆さん本当にありがとうございます!!

 最初こそ思いつきで書いたこの小説が、ここまで来れるなんて夢にも思いませんでした。

 さて、次回はいよいよ奈落編も大詰め、ですが明日(・・)の更新はコチラの勝手な都合により明後日へと繰り越させていただきます。

 これからも、できれば毎日更新で続けさせていただきたいですが、やりたいことが複数あるのがオタクの性でございますれば……。

 これからも、毎日更新もしくは2日に1回更新で頑張っていきたいと思いますので……。

 皆様、これからもナナキ君の活躍をどうぞご期待ください!!



 次回∶初めての兄弟喧嘩〜
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