世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 芋プレート さん、路徳 さん、ミカネル さん

 新たに評価、ありがとうございますm(_ _)m!!




第10話∶初めての兄弟喧嘩

 

 

 ナナキは素直で、聞き分けが良くて、わがままは少しは言ったりするけれど、それ以外は基本いい子で……

 

 

 

 喧嘩なんて、これまで一度もしたことがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

  ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 「引っ込んでろユエ……。アレは俺の敵だ!!」

 

 

 『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 

 

 そうハジメが宣言したと同時、サメの魔物(・・・・・)の咆哮が、戦端を切る口火となった。

 

 サメの魔物はユエが張った炎の膜を飛び越え(・・・・)、口をあんぐりと開け牙を剥き、ハジメへと猛然と突っ込んでくる。

 

 既に切り替えたハジメにもう油断はない。ハジメは“空力”を駆使して後方へと跳躍する。

 

 ハジメが飛び退いたことに気づかぬままサメの魔物はその顎で地面を抉る。

 

 「突っ込むことしか脳がねぇのか?単細胞が!!」

 

 そう叫んだハジメは残った右手で持つドンナーをサメの魔物へ連射する。

 

 だが、弾道は不自然にサメの魔物の中心を外れ、肩や手、尾ヒレの先端に命中する。

 

 普通の魔物なら命中した部位が吹き飛ぶ威力だが、そのサメの魔物は、弾丸が通過した場所が欠けるか、穴が空くかの傷しか作れなかった。

 

 そして、魔物のそれとは違う。真っ赤な血飛沫が舞う。

 

 『GuRuaAAAAAAAAAAAAッ!!』

 

 だが、どのみち痛みはある。攻撃を受けた瞬間、サメの魔物は悲痛な叫びをあげる。

 

 その悲鳴を聞いたハジメが一瞬、顔を顰めるも、

 

 「ッ……はっどうやらかなり頑丈のようだが、あのサソリもどき程じゃねぇな!!」

 

 まるで何かを振り払うように嘲笑の叫びを浴びせる。

 

 しかし次の瞬間、ハジメはおろか側で控えていたユエすら驚愕の現象が起こる。

 

 サメの魔物の傷がみるみるうちに再生していくのだ。

 

 「アレは……まさか、“自動再生”!?」

 

 ユエも同じ力を持っているからこそ分かる。痛みこそコントロールできてはいないが、その再生精度はユエのものと同等だった。

 

 「だったら遠慮はいらねぇなぁ!!」

 

 そう言うと、ハジメは再びドンナーでサメの魔物を狙い撃とうとする。今度は肘と膝、まずは動きを封じるのが目的だ。

 

 それに対してサメの魔物は地面が爆ぜたかのような跳躍を見せる。だが、ハジメの立つ空中には届かない。

 

 それを考えて、ハジメも空中に留まっているのだ。

 

 だがハジメはまたも驚愕する。

 

 サメの魔物の跳躍が減衰したと思ったら、その足でサメの魔物は空中を蹴った(・・・)のだ。

 

 「何!?」

 

 すると今度は尾ヒレの先を赤白く発行させると、そこから(イカヅチ)が、ハジメへ向かって放たれる。

 

 急なことで避けられなかったハジメはその電撃を諸に貰い、一瞬体が硬直する。

 

 「グッ!?」

 

 そこから畳み掛けるように、サメの魔物は空中で縦に一回転すると、今度は尾ヒレから風の刃が放たれる。

 

 「ハジメッ!!」

 

 ハジメのピンチにユエの悲鳴が上がる。風の刃を避けられないハジメは、間一髪のところで“金剛”が間に合った。しかし、風の勢いに押され地面へと衝突してしまう。

 

 立ち上がる土煙に向かってそのまま突っ込むサメの魔物。しかし、土煙から先の尖っていない(・・・・・・)石の柱が飛び出し、サメの魔物はそれに吹き飛ばされる。

 

 サメの弱点たる鼻柱に命中したことで一時的にサメの魔物は地面に伸びる。

 

 「“天歩”に“纏雷”、最後のは……“風爪”か?」

 

 「ハジメッ」

 

 すると、土煙の向こうからハジメが先程サメの魔物が使った異能を考察する。それを受け、ハジメの無事に安堵したユエが声を上げる。

 

 「なるほどなぁ〜お前も……魔物の肉を食ったって事か……。」

 

 そう言ってハジメは地面に伸びたサメの魔物に近づく。対するサメの魔物は目を回しながらもそれを振り払うように頭を振るうと、再びハジメへ襲いかかろうと立ち上がるが、一歩、ハジメのほうが早かった。

 

 

 「“錬成”……。」

 

 言うと同時、ハジメが地面に手をつくと、サメの魔物の周りをまるで縛るように石の柱が飛び出す。

 

 首意外、サメの魔物は身動きが取れなくなる。

 

 『GuRuuAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 「………。」

 

 動けなくて苦しいのか、うめき声をあげるそれに、ハジメはまた、顔を顰める。

 

 蓋を開けてみれば、勝負はあっという間だった。

 

 当然だ。いくら強大な力を有していようとも、それを考えなしに本能のまま振るっていれば、ただの魔物と同じ。

 

 これまで数々の、それも格上の魔物と相対してきたハジメとでは、相性が最悪に悪かった。

 

 ハジメはゆっくりとした動きでドンナーをサメの魔物の脳天へとあてがう。

 いくら再生しようが、脳さえ潰してしまえば動かなくなる。再生し切る前に、こっちが先に喰ってしまえばいい。

 自分を喰おうとしたのだから、相手も喰われて然るべきだろう。

 

 そう、あとはこの引き金を引くだけ……。

 

 だが、ハジメは引き金を一向に引かなかった。それどころかドンナーを持つ手は震え、狙いが定まらない。ユエもハジメのその様子に訝しむ。

 

 すると、サメの魔物はその口を大きく開けてそこに魔力を溜め始める。放たれようとしているのは、ヒュドラもどきの青頭が使っていた氷の息吹(ブレス)……だが、感じる魔力量の大きさは青頭の比じゃない。

 

 しかし、今更何をしたところでもう、サメの魔物は間に合わない。先にハジメが引き金を引くほうが早い。

 

 だと言うのに、ハジメは頑なに引き金を引こうとしない。ハジメは目の前のサメの魔物の血走った赤い瞳を見つめながら、先程の戦闘を思い出していた。

 

 コイツは魔物の固有魔法を使った、と言うことは、今、目の前にいる弟だった物は、自分と同じように奈落の魔物を食って飢えを凌いでいた。そして同じように此処、百階層目までのたどり着いた………。

 

 

 

 

 いいや、同じなわけがあるか(・・・・・・・・・)

 

 五十階層からは、自分にはユエがいた。ユエがいたから、自分は奈落の闇と狂気に飲まれることなく、ここまでやって来れた。

 

 だが、目の前のこれは……弟は……ナナキ(・・・)は!!

 

 

 

 ずっと一人だった……。

 

 素直でいい子だけど、やっぱり甘えん坊で、普段は無表情だけど、悲しい時は誰かに似て泣き虫で、何より寂しがりやのナナキが……あの危険で辛い道のりを……ずっと……一人で……。

 

 其処まで考え至ると、ハジメは銃口を下へと下ろした。

 

 

 

 「ハジメぇッ!!」

 

 ユエが叫ぶ、サメの口から息吹が放たれる。

 

 

 息吹が直撃する直前、諦観の表情のまま微笑み、誰にも聞こえないような小さな声で、

 

 

 

 「殺せるわけ無いだろ……お前を」

 

 

 

 そう、ハジメは呟いた……。

 

 

 

 ズガーーーンッ

 

 

 息吹が直撃する音と同時に、辺り一帯に冷気が漂う。ユエが恐る恐る衝撃で瞑っていた目を開けると、右半身を完全に凍らされたハジメの姿が映った。

 

 「そ……そんな……ハジメぇえええええ!!

 

 ユエの呼びかけに応えることもなく、ハジメは後ろに倒れる。倒れるハジメに呼応するようにサメの魔物を拘束していた石の柱が砕ける。

 

 拘束から解かれたサメの魔物は倒れるハジメを両の手でガッチリ掴むと、頭から齧りつこうと口を大きく開ける。

 

 しかし次の瞬間。

 

 

 「“緋槍”ッ!!

 

 その掛け声と共に、横合いからサメの魔物へと炎の槍が直撃する。

 

 『GuRuuAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!?』

 

 突然の衝撃と灼熱感にサメの魔物は苦悶の絶叫を上げ、その手からハジメを離す。

 

 「やっぱり……火属性が弱点……でも……今は!」

 

 サメの魔物へと魔法を放ったユエがその足でハジメの横たわるサメの魔物の懐へと滑り込むと、魔法によるダメージの程度を冷静に分析しながら、再び手をかざす。

 

 「吹き飛んで!!〝砲皇〟!」

 

 螺旋に渦巻く真空の刃を伴った竜巻がサメの魔物を襲う。だが、ハジメの言う通り頑丈なようで、軽い切り傷しか作れないものの、部屋の端まで吹き飛ばすことに成功した。

 

 そのままユエはハジメを抱えると、力を振り絞ってその場を離脱し柱の影に隠れる。ユエは凍りついたハジメの右半身へ神水を振りかけると軽い凍傷を残して氷が溶ける。が右目は完全に壊死してしまったのか、再生することはなかった。

 

 その結果に悲痛な面持ちをするも、ユエは今度は凍傷を治そうとハジメの口に神水を流し込む。しかし、飲み込む力も残っていないのか、ハジメはむせて吐き出してしまう。ユエは自分の口に神水を含むと、そのままハジメに口付けをし、むせるハジメを押さえつけて無理やり飲ませた。

 

 

 

 『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!』

 

 遠くでサメの魔物の咆哮が轟くのを聞いて、ユエは柱の陰からサメの魔物を見ながら先程のハジメの戦闘を思い出す。

 

 ハジメの戦闘は終始おかしかった。勝負をつけられる場面はいくつもあった。

 

 最初の攻撃で、急所を狙うこともできたのにそれをしなかった。再生に驚いた時も、気丈に叫んでいたものの、攻撃をためらい初動が遅れていた。そして、サメの魔物の追撃を避けるために錬成で出した石の柱も、先端を尖らせていれば串刺しにできていたかもしれない。

 

 しかし、ハジメはそれらを全てしなかった。いや、できなかったのだ。

 

 ハジメは例え、腕を喰われても、サメの魔物を……()を殺す事ができなかったのだ。

 

 ハジメでは、アレには勝てない。それを悟ったユエは再びハジメへと視線を向け、その頭を撫でる。

 

 

 

 そして、その唇にそっと口づけを交わした。

 

 「ごめんね……ハジメ……」

 

 だが、その表情は……悲哀そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の端まで吹き飛ばされたサメの魔物は、鼻をスンスンと鳴らして周囲を見回しハジメを探していた。

 

 そんなサメの魔物の目の前に一人の影が立ちふさがる。

 

 

 「“蒼天”!!」

 

 その影、ユエはサメの魔物へと青白い太陽を衝突させる。

 

 『GuGyAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

頭上から降る灼熱にサメの魔物は腹に何かを抱えるよう(・・・・・・・・)に蹲る。

 

 「ハジメは殺らせない……貴方が……ハジメの弟でも」

 

 ユエは決然とした表情で拳を握りしめる。

 

 

 「貴方は……私が倒す!……それで例え……ハジメに恨まれたとしてもッ!……」

 

 

 『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!』

 

 ユエの宣言に応えるように瞬く間に火傷を治したサメの魔物が咆哮を上げる。ここに再び、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は何をしている……。

 

 

 ハジメは、揺らぐ意識を必死に繋ぎ留めそれを見ていた。

 

 

 「“緋槍”!!」

 

 『GURaAAAAAAAAAAAAAッ!!』

 

 

 大切な二人が殺し合っている様を……。

 

 ユエが炎の槍をナナキに目掛けて放ち、ナナキはいくつか被弾しながらも、その牙をユエへと突き立てる。

 

 「ぐっうあぁぁぁああッ!!」

 

 ユエは腕を丸ごと食われたが、それでも負けじと雄叫びを上げ魔法を放つ。

 

 お互い再生持ちのため決定打はなく、しかし、いずれどちらかが限界が来るだろう。この悲しき死闘は、ただただその場に無駄に血が流れているだけだった。

 

 その惨状を見て、ハジメの胸中に激烈な怒りが満ちた。

 

 「自分は何をしている!?」 

 

 「いつまで寝ていれば気が済む!?」

 

 こんなところで、こんな理由もわからない状況で……。

 

 

 大切なパートナーを……

 

 大切な弟を……

 

 むざむざ失う事を許容するのか!?

 

 否! 断じて否だ! 自分の、俺達の生存を脅かすものは敵だ! 

 

 敵は誰だ!?

 

 ユエを襲うあのサメか?違う!

 

 ナナキを襲うあの金髪の少女か?違う!

 

 

 俺だ(・・)!!

 

 あの場で諦め、腑抜けた俺だ!!

 

 殺すんだろ?及び腰な自分を!

 

 殺すんだろ?ナヨナヨと頼り無い兄を!

 

 

 軟弱な精神を殺せ!俺たちから全てを奪おうとする、不条理な運命を殺せ!!

 

 そうだ!敵は全て、

 

 

 「殺す!!」

 

 

 

 

 ユエとサメの魔物の死闘、先に限界が来たのはユエだった。

 

 バックンと擬音と共にユエの膝から下が消える。

 

 飛び退いた着地の瞬間、少し気が緩んだその時を狙われたのだ。足を無くして踏ん張れず、その場で崩れ落ちるユエ。

 

 顔を上げればそこには鋭い牙が2重に生え揃う、地獄の入口が広がっていた。

 

 死ぬ。守れなかったこと、止めてあげられなかったこと、先に逝く事を、ユエはハジメに対し心の中で謝罪しようとした。

 

 (ハジメッごめんなさ━━━ッ

 

 

 

 刹那……一陣の風が吹いた。

 

 「えっ?」

 

 

 気がつけば、ユエは、自分が抱き上げられサメの魔物が脇を通り過ぎていくのを見ていた。そして、自分を支える人物を信じられない思いで見上げる。それは、紛れもなくハジメだった。満身創痍のまま荒い息を吐き、片目をきつく閉じてユエを抱きしめている。

 

 

 「泣くんじゃねぇよ。ユエ」

 

 「は……ハジメッ!!」

 

 感極まってユエはハジメに抱きつく。いくら傷が癒えようと、ハジメの体力は限界に近い。ハジメは既に気力だけで立っていた。

 

 ハジメは再び()の前へと躍り出る。

 

 「駄目ッ逃げてハジメッ!!……あなたじゃアレにはッ」

 

 

 ユエは確かにハジメが自分を助けに来てくれたことを喜んだが、ハジメがこの悲しい戦場に戻って来てしまったことに焦りを見せる。しかしハジメは、

 

 「勝てないって?……あぁ確かに……。だがそれは、アイツを……ナナキを殺そうとしたから勝てなかった。」

 

 「?」

 

 そう気丈に言うハジメにユエは首を傾げる。しかしハジメはそんなユエを見据えて、こう言った。

 

 「ナナキを助けたい。殺す為じゃなく、助けるために戦うのなら、俺たち(・・・)は絶対に負けない。」

 

 そう言ってハジメは我に策有りと言いたげに、ユエに作戦を耳打ちする。その作戦を聞いてユエは驚愕に目を剥いた。

 

 「そんなの無茶!!……ハジメが危険!それに……うまくできるかもわからないッ」

 

 「ユエ頼む……お前ならできるって信じてる。……手を貸してくれないか(・・・・・・・・・・)?」

 

 最初こそ、無謀な作戦に待ったをかけたユエだったが、ハジメの決然とした表情でそう頼まれてしまう。

 

 最初の「引っ込んでろ」から「手を貸してくれ」に変わった懇願に嬉しくなってしまったユエは、とびきりの笑顔でハジメに再びキスをすると、

 

 「任せて!」

 

 と、力強く宣言した。

 

 

 

 

 

 

 サメの魔物はこの歯痒い状況に苛立っていた。

 

 メのマエに■■■(いい)にオイのすルモノがアルの二!!

 

 

 さっキカラ、アツいの!サっきかラ、いタイの!!

 

 

 なんデ!ソンなイジわルするノ!! 

 

 

 

 グギュルルルルルルルルルルルッ

 

 

 

 ずっトズっト、オナカがすイテル(さびしい)の!!

 

 ズっとずッと、おなカガスイてる(ひとりはいやな)の!!

 

 ダかラ……ジャましナイでヨ……ッ

 

 イじわルしナイデよ……ッ

 

 

 ■■■ヲタベサセテヨ(のそばにいさせてよ)!!

 

 

 

 「GUuuuRaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」

 

 その叫びは相変わらず凶暴な獣の鳴き声なのに……どこか悲哀に満ちたような、迷子の幼子が泣いているような声だった。

 

 そうしてサメの魔物がハジメを探して鼻を鳴らし始めたとき。

 

 突如、赤黒い袋のようなものが、サメの魔物の鼻先に投げ込まれる。

 

 なんだ?と思いサメの魔物がそれに注視したとき、どこからともなく

 

 ドパンッ という音が響く。これはハジメのドンナーの銃声、サメの魔物はこの音がなったら痛いのが来ると、いい加減学習していたので何かを(・・・)をお腹に抱えるように身をかがめる

 

 しかし、ドンナーが弾いたのはサメの魔物ではなく、その鼻先に投げ込まれた赤黒い袋だった。

 

 ブシャッと赤黒い袋が爆ぜると中から液体が飛び散り、サメの魔物の鼻先にその液体が付着する。

 

 次の瞬間

 

 

 「FunGyAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」

 

 サメの魔物が鼻を押さえ、素っ頓狂な叫び声を上げてのたうち回る。

 

 「クッセェだろ!それ、ヒュドラもどきの内臓を使って作った即興の匂い袋だ!!兄ちゃんの腕を食ったんだ!これでおアイコだなッナナキ!!」

 

 そう言って、どこかいたずらが成功した子供のような声を上げるハジメ。実際腕の喪失と嗅覚ではどうやってもアイコになりそうに無いが、この際細かいことはどうでもいい。

 

 ハジメの声に反応してサメの魔物は辺りを見回すも、更にまわりに何かを投げ込まれる、

 

 カランッコロンッという音と共に投げ込まれたのは黒光りのする球体。そこからブシューッと音を立てて白い煙が噴き出す。

 

 そう、これは煙幕弾、これでサメの魔物は嗅覚、視覚を奪われる。

 

 更に、

 

 「“天灼”!!」

 

 とユエの声が響く。それはヒュドラもどきを葬ったときに使った、六つの放電する球体。しかし放たれたそれは、ヒュドラもどきの時よりもややこぶりなもので、いつまでも攻撃することはなくただ周りを放電しながらぐるぐる回るだけだった。

 

 こんなモノ、ただの魔物相手なら意味のわからない行動だが、事、このサメの魔物相手なら効果てきめんだった。

 

 「これでロレンチー二器官もお釈迦だなぁ。なんにも見えないんじゃないか?ナナキぃ!!」

 

 そう、ロレンチー二器官。通称“電気感覚器官”はサメ特有の生き物の生態電気を繊細に感じ取る器官で、ハジメが言うように、周囲をこんなバリバリ放電されてしまえば、ただでさえ微弱な生体電気なんて感じ取れなくなってしまう。

 

 『うぅううぅッ!うぅううぅぅッ!!』

 

 嗅覚、視覚、そして電気感覚を奪われたサメの魔物は既に聴覚のみしか外界を捉えるずべを許されず。混乱のあまり、頭を抱えてうずくまってしまう。

 

 ふとその時

 

 ドパンッドパンッ とハジメのドンナーの銃声がサメ魔物の後方から響く。

 

 限られた環境で、僅かな手がかりが示されたら、否応なしにそれに飛びついてしまう。自明の理だ。

 サメの魔物とてそれは例外じゃない。唯一許された音という手がかりに猛然と駆け出すサメの魔物。

 

 あの音はハジメから鳴る音だ。つまり、音の先に己が追い求める獲物、ハジメがいる。

 

 次第に薄くなっていく煙幕の先に人影が映る。「捉えたッ!」とサメの魔物が煙をかき分ける。

 

 

 

 

 

 

 しかし、そこにいたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ざぁんねん、お姉ちゃんでした♡」

 

 ドンナーを構えたユエだったのだ。

 

 「“風刃”!」

 

 次の瞬間、ユエが即座に“天灼”を解除したと思ったら、低級の風魔法を放つ。

 

 今更こんな攻撃、サメの魔物には傷一つもつかない。

 

 だが、それでいい。サメの魔物に効かなくても、地球産の何の魔法処理もされてないただの布切れを断つには充分だった。

 

 そう、ここまで来ても奇跡的に残り続けた。サメのアップリケが縫い付けられたオーバーオールの残骸。それの肩にかかった紐が切れ、地面へと落ちていく。

 

 『BaWッ!?』

 

 突然の事態に、サメの魔物は慌ててその布切れを拾おうと動く。

 

 しかし……

 

 「兄ちゃんを隻腕隻眼にする悪い子には、これは没収だ!」

 

 そう言って、どこからともなく現れたハジメがスライディングの要領で、その布切れを掠め取って行ったのだ。

 

 その自体に唖然とするサメの魔物。しかし次第にその表情を獣のそれから感情のこもったクシャッとした顔へと変わる。

 

 『ウアアアアアアアアアアンッ!!カエシテエエエエエエエエエッッ!!!』

 

 「やっとまともに喋ったな…………だが断る!!

 

サメの魔物の哀れな懇願に、ハジメは何処ぞの奇妙な世界の漫画家のように劇画タッチな顔つきで拒否の意を示した。

 

 『GuWaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 「おーにさん、こっちら♪手ぇーは……、片方しか無いから鳴らんが、兎に角こっち来ぉーい!」

 

 そう言ってハジメはイジワルな顔でサメの魔物を挑発する。そしてユエへと目配せをしてそのまま逃走を開始する。それに答えるようにユエも準備を開始する。

 

 ここまでがハジメの作戦。

 

 サメの魔物……ナナキの感覚を音のみに限定させ、ハジメの“気配遮断”が通じる環境を作り、そしてユエにハジメの案山子を演じてもらい、“気配遮断”で接近したハジメが、ナナキからオーバーオールを……サメのアップリケを奪う為の作戦。

 

 ハジメがこの作戦を立てたのには理由がある。

 

 ハジメは見ていた。サメの魔物が、あらゆる場面で何かを庇うように(・・・・・・・・)立ち回っていたことを。

 

 注視して見てみると、それはもう切れ端しか残っていないオーバーオールそこに縫い付けられた思い出のアップリケ。

 

 ここにハジメは、あのサメの化け物に弟の……ナナキの残滓を見た。突破口はあそこにあると。

 

 そうして作戦を進める中で、保険としてナナキへの呼び掛けを織り交ぜ、深層心理を引き出そうと企てた。

 よってあのとき、オーバーオールを奪ったときに、ナナキが唸り声ではなく、人語を介した時はついついテンションが上がり、ふざけた態度をとってしまったのは言うまでも無い。

 

 ここまでくればハジメのあとの役割は時間稼ぎ、その時(・・・)が来るまで、万が一にもナナキの注意がユエへ向かないように、ただただいい感じに気を引きながら逃げ続ける。

 

 そして遂に

 

 “ハジメ出来た(・・・)!!”

 

 “了解だ!!”

 

 ユエからの合図、“念話”が届く。それを受け、ハジメは“縮地”を使い、一気にナナキから距離を取ると、そのままナナキへと振り返る。

 

 「“金剛”ッ!今だ!ユエ!!」

 

 「ん!聖鎧(せいがい)!」

 

 ハジメの、肉体を堅牢に固める固有魔法、“金剛”に加え、ユエがこの短時間で編み出した新たな魔法、その名も“聖鎧(せいがい)”。

 

 これは防御魔法の“聖絶”を改良したもので、結界としてドーム状に発動する聖絶を人の形、大きさにまで圧縮して更に分厚くなった防御の壁を人の身にまとわせる魔法。

 

 この魔法は考案即初使用だったため、練度も未熟、その上、本来は結界として扱う魔法を人の皮膚上スレスレまで圧縮させるには緻密な魔力操作と莫大な集中力を要する。

 

 こんなモノ普通の人間なら実現不可能だろう。しかしそれを扱うのは、かつての吸血姫。その天性の才能に同族までもが恐れをなし奈落に封印した存在。あらゆる魔法を自在に操る、圧倒的なセンスと才能でそれを可能にしてみせた。

 

 これがこの作戦の要、ハジメが最後のピースとして用意したこのガッチガチの守りを持って求めた、この作戦の本質……それは……。

 

 

 「勝負だッ!!ナナキぃいいいい!!

 

 『GuRuaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!

 

 

 守りをガチガチに固め、動きを止めたハジメの体に、サメの魔物が思いっきり齧り付く。首を除いた左上半身がまるまるサメの口に収まってしまった。

 

 しかし、圧倒的な防御の前にサメの牙は通らず結界の上でガリガリと音を鳴らしている。

 

 そんなサメの魔物へハジメは……

 

 

 

 

 

 

 

 

  柔らかな優しい抱擁で返した。

 

 「ナナキッ頼む!!戻って来い!!」

 

 そう、ハジメの作戦。それは……

 

 

 

 

 

 

 どこまでも弟を信じることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 すまない……本当は最後まで行こうと考えたんだけど……長くなりそうなのと、今日中に間に合わなそうなので、切が良いここで止めます。

 明日もお楽しみに!!
 
 そして、近いうちにナナキ君のイラストも載せます。

 “聖鎧(せいがい)”今作オリジナル魔法。今後もちょくちょく出てくる。



 
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