血涙鬼・彼岸 さん、
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「……ハジメ、気持ちいい?」
「ん~、気持ちいいぞ~」
「……あにぃ〜ナナキのは?ナナキのは?」
「あ~、それもいいな~」
「……ふっ。ナナキ、姉に勝とうとは百年早い……見よ!これぞ我が絶技ッ」
「ふおぉッ!?ユエッなんだそれぇ!?」
「おぉ~、ユエあねぇすごいッ……あにぃが、またへんなこえだしてるッ……」
あれから……。
ハジメがユエに大人の貫禄を見せつけられたあの夜から、二ヶ月以上が経過していた。
元々ユエの好意には気がついていたハジメ。そんな彼女のアプローチ攻撃に抵抗できず、そもそも抵抗する理由もないため、ハジメは彼女の全てを受け入れることにした。
そもそも、地球に連れていく宣言をしたとき、ある程度の覚悟は固めていたのだ。
後は事に及ぶのが遅いか早いかの話。そりゃぁもう、安全な拠点でリア爆必死の光景が繰り広げられていた。
しかし、それも最初の数日のみで、ある日事に及んでいたハジメとユエ。その現場を、なんとナナキに見られてしまう。
当然、同じ空間にいるわけだから、この様な事態を招くのも時間の問題だっただろう。
幸い、特殊な性質ゆえにそういった知識に疎かったナナキ。ハジメとユエはその場は必死に取り繕い、誤魔化すことにした。
無事、弟の清らかな心を守ることに成功したのである。
これを期にハジメとユエは行動を改め、そういった行為はナナキが寝静まったあと。と、どこか子持ちの熟練夫婦の様な約定を交わす。
その後は、拠点での毎日を迷宮攻略の準備はしつつ、ハジメ、ユエ、ナナキの3人は、どこにでもいるような健全な家族の団欒ような生活を送っていった。
そして、ナナキの愛らしさに脳が蕩けたユエが「子供が欲しい!!」と暴走し、ナナキのいない場所では尽くハジメを襲った。……健全とは?
そして現在、ユエとナナキはハジメのマッサージをしている。
当然だが、ナナキのいる前で
この義手はアーティファクトであり、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことができる。擬似的な神経機構が備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わる様に出来ている。また、銀色の光沢を放ち黒い線が幾本も走っており、所々に魔法陣や何らかの文様が刻まれている。
実際、多数のギミックが仕込まれており、工房の宝物庫にあったオスカー作の義手にハジメのオリジナル要素を加えて作り出したものだ。生成魔法により創り出した特殊な鉱石を山ほど使っており、世に出れば間違いなく国宝級のアーティファクトとして厳重に保管されるだろう逸品である。もっとも、魔力の直接操作ができないと全く動かせないので常人には使い道がないだろうが……
この二ヶ月余りで三人の実力や装備は以前とは比べ物にならないほど充実している。例えばハジメのステータスは現在こうなっている。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???
天職:錬成師
筋力:10950
体力:13190
耐性:10670
敏捷:13450
魔力:14780
魔耐:14780
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解
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レベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示す。しかし、魔物の肉を喰いすぎて体が変質し過ぎたのか、ある時期からステータスは上がれどレベルは変動しなくなり、遂には非表示になってしまった。
魔物の肉を喰ったハジメの成長は、初期値と成長率から考えれば明らかに異常な上がり方だった。ステータスが上がると同時に肉体の変質に伴って成長限界も上昇していったと推測するなら遂にステータスプレートを以てしてもハジメの限界というものが計測できなくなったのかもしれない。
新装備についても少し紹介しておこう。
まず、ハジメは〝宝物庫〟という便利道具を手に入れた。
これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。要は、勇者の道具袋みたいなものである。空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと推測している。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径一メートル以内なら任意の場所に出すことができる。
物凄く便利なアーティファクトなのだが、ハジメにとっては特に、武装の一つとして非常に役に立っている。というのも、任意の場所に任意の物を転送してくれるという点から、ハジメはリロードに使えないかと思案したのだ。結果としては半分成功といったところだ。流石に、直接弾丸を弾倉に転送するほど精密な操作は出来なかった。弾丸の向きを揃えて一定範囲に規則的に転送するので限界だった。もっと転送の扱いに習熟すれば、あるいは出来るようになるかもしれないが。
なので、ハジメは、空中に転送した弾丸を己の技術によって弾倉に装填出来るように鍛錬することにした。要は、空中リロードを行おうとしたのだ。ドンナーはスイングアウト式(シリンダーが左に外れるタイプ)のリボルバーである。当然、中折式のリボルバーに比べてシリンダーの露出は少なくなるので、空中リロードは神業的な技術が必要だ。まして、大道芸ではなく実戦で使えなければならないので、更に困難を極める。最初は、中折式に改造しようかとも思ったハジメだが、試しに改造したところ大幅に強度が下がってしまったため断念した。
結論から言うと一ヶ月間の猛特訓で見事、ハジメは空中リロードを会得した。たった一ヶ月の特訓でなぜ神業を会得できたのか。その秘密は“瞬光”にある。
“瞬光”とは、ユエがナナキに食われそうになったときに発現した“天歩”の最終派生技能だ。
この技能は、使用者の知覚能力を引き上げる固有魔法だ。これにより、遅くなった世界で空中リロードが可能になったのである。”瞬光”は、体への負担が大きいので長時間使用は出来ないが、リロードに瞬間的に使用する分には問題なかった。
次に、ハジメは魔力駆動二輪と四輪を製造した。
これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。
二輪の方はアメリカンタイプでナナキ専用のサイドカー付き、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタール
……そして各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていた“アザンチウム鉱石”というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。
更に、この二つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔法を起動すると地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。また、どこぞのスパイのように武装が満載されている。ハジメも男の子。ミリタリーにはつい熱が入ってしまう。ハジメの弟として英才教育を受けたナナキもまた同様だ。
そうして兄弟で仲良く夢中になり、はしゃぎ過ぎてユエが拗ねてしまい、機嫌を直すのにハジメが色々と搾り取られることになったが……
他にも“魔眼石”というものも開発した。
ハジメはナナキのブレスで右目を失っている。絶対零度により壊死してしまい、神水を使う前に“欠損”してしまっていたので治癒しなかったのだ。
ハジメがいくら平気だと言っても、その事態を招いたナナキの表情は晴れない。
それを気にしたユエが考案し、創られたのが〝魔眼石〟だ。
いくら生成魔法でも、流石に通常の〝眼球〟を創る事はできなかった。しかし、生成魔法を使い、神結晶に、〝魔力感知〟〝先読〟を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得ることができる魔眼を創ることに成功した。
それを持ってハジメは、ナナキに
「見ろ!兄ちゃんの目ん玉はパワーアップして復活したぞ!!」
と大仰にうそぶき、ナナキの罪悪感を払拭することに成功した。
これに義手に使われていた擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになったのだ。魔眼では、通常の視界を得ることはできない。その代わりに、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核が見えるようにもなった。
魔法の核とは、魔法の発動を維持・操作するためのもの……
のようだ。発動した後の魔法の操作は魔法陣の式によるということは知っていたが、では、その式は遠隔の魔法とどうやってリンクしているのかは考えたこともなかった。実際、ハジメが利用した書物や教官の教えに、その辺りの話しは一切出てきていない。おそらく、新発見なのではないだろうか。魔法のエキスパートたるユエも知らなかったことから、その可能性が高い。
この魔眼によってハジメは、相手がどんな魔法を、どれくらいの威力で放つかを事前に知ることができる上、発動されても核を撃ち抜くことで魔法を破壊することができるようになった。ただし、核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要ではあるが。
ちなみに、この魔眼、神結晶を使用しているだけあって常に薄ぼんやりとではあるが青白い光を放っているため、ハジメの右目は常に光るのである……。
こればっかりはどうしようもなかったので、仕方なく、ハジメは薄い黒布を使った眼帯を着けている。
白髪、義手、眼帯、ハジメは完全に厨二キャラとなった。その内、鎮まれ俺の左腕! とか言いそうな姿だ。鏡で自分の姿を見たハジメが絶望して膝から崩れ落ち四つん這い状態になった。
しかし、どこまでも純粋に兄が大好きなナナキが、
「あにぃ!!カッコいい!!」
と手放しにはしゃいでくれたため、丸一日寝込むことにならずにすんだ。
新兵器について、シュラーゲンも、アザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運びの心配がなくなったので三メートルに改良した。〝遠見〟の固有魔法を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は十キロメートルとなっている。
また、手数の少なさの改善に、電磁加速式機関砲:メツェライを開発した。口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発という化物だ。銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石を使っているが、それでも連続で五分しか使用できない。再度使うには十分の冷却期間が必要になる。
さらに、面制圧とハジメの純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いており連射可能。ロケット弾にも様々な種類がある。
あと、ドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃:シュラークも開発された。ハジメに義手ができたことで両手が使えるようになったからである。ハジメの基本戦術はドンナー・シュラークの二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。典型的な後衛であるユエと、
身にしみて体感した超強力な前衛、ナナキとの連携を考慮して中距離、又は接近戦が効率的と考えたからだ。もっとも、ハジメは武装すればオールラウンドで動けるのだが。
そして、肝心なナナキについて、まずハジメは、オーバーオールの胸ポケットから回収しておいたナナキのステータスプレートを確認する。
ハジメ同様、魔物の肉を食っている以前に、天職∶“変質者”の覚醒によって、どのような影響が出ているか確かめるためだ。
この二ヶ月余りの経過で最終的なナナキのステータスは次のようになっている。
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南雲ナナキ 16歳 男 レベル:???
天職:変質者【鮫】
筋力:10990 [+変質状態1350][+狂化状態5930]
体力:22050 [+変質状態1560][+狂化状態5860]
耐性:11000 [+変質状態1250][+狂化状態5470]
敏捷:8450 [+変質状態1200][+狂化状態5200]
魔力:4800 [+変質状態1250][+狂化状態1300]
魔耐:4800 [+変質状態1250][+狂化状態1300]
技能:変質化[+部分変質化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+暴食狂化][+咆哮]・自動再生・超嗅覚[+気配感知][+追跡]・電気感覚[+先読み]・物理耐性[+衝撃緩和]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・水属性適正[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・捕食[+空腹変換][+構成吸収][+魔力吸収][+胃酸強化]・複合魔法・纏雷[+雷耐性]・天歩[+空力]・風爪・夜目・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・水属性耐性・風属性耐性・土属性耐性・念話・魔力変換[+筋力][+体力][+耐性]・限界突破・生成魔法・言語理解[+動物会話]
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結果は見ての通り、バケモノだった。
まずステータスだが、こちらは以前と同じく魔力系はハジメよりも低く、筋力、体力、耐性の物理系はこの3人の中では最強だ。
そして、意外と敏捷は低い。
しかしそれは素の状態での話。やはりと言うべきか、変質化……あのサメの魔物の姿ではステータスが上昇するらしい。
しかし、一度訓練でハジメと、変質化状態で戦闘をしたことがあったのだが、
「なんか……弱くねぇか?」
「ん……結界が砕けてない。」
『ウゥ……?』
無論、こんなバケモノステータスのサメが弱いわけがない。ただ、ハジメと死闘を繰り広げた時よりも弱体化しているように、実際に相対したハジメとユエは感じたのだ。
一番わかり易いので、“聖鎧”だろう。
まずハジメは、いつでも修復可能な義手にユエの“聖鎧”を纏わせて、
しかし、聖鎧はナナキの牙でもびくともせず、試しに出した聖絶は少し牙が刺さった程度で砕けもしなかったのだ。
他にも、ハジメと押し合い相撲をしてみても、前回のようになすすべもなく押し出されるのではなく、ある程度抵抗が来た。
まぁ押し出されたことには変わりないが。
昔は手を抜いてもお相撲さんごっこは余裕だったのに、今は全く勝てなくなった事実に意気消沈しながらも、ハジメはユエと共に原因を探っていく。
「やっぱり……この隣の、”狂化“?」
「まぁ…それしかねぇよな」
そう、“変質状態”の他にも隣に“狂化状態”なるものが存在した。
狂化……考えるまでもなく、あの魔物同然の意思のなかった状態の事だろう。物理系は、変質状態の約5倍も上昇している。
どうしてこんな物があるのかと技能欄を見ていけば、案の定、“変質化”の派生の中に
“暴食狂化”
この技能について語る前に、まず“変質化”について説明する。
“変質化”とは、変質者の基本技能。己が身を天職横の【】に記された存在に準じ、その身を変質させる技能である。
その異質さから、教会からは異端の烙印を押され、弾圧の一途を辿っていた。
更にここに、ユエからの追加情報によれば、ユエが生きていた300年前にも、変質者は度々見かけられており、教会で教わった魔物や、無機物の体に変じる以外にも、人が亜人、亜人が魔人、魔人が人に変じるケースも存在したらしい。
ハジメは改めて思う。そりゃあ異端扱いされると……。
魔物以外にも、敵対している種族にも変じるなんて、混沌以外の何物でもない。変質者はそれだけ異質な天職である。
さて、話を戻すが、この変質化。
このように人によってバリエーションが豊かで、ナナキの場合は、変質の規模を調節できる。
完全にサメナナキになるか、腕のみ、顔のみ、足のみ
などなど、部位だけ変質させる事も出来るようだ。
ここで問題なのが、完全にサメナナキになる場合。
この状態にはどうやらタイムリミットがあるようで、ゴリゴリ魔力を消費しているらしく、それが空腹という形で現れている。
これも教会でハジメ達が教わったことだが、魔力を著しく消費するとこの世界の人間は衰弱死してしまう。それはハジメ達異世界人でも例外じゃない。
その為、ナナキは戦闘時は敵を捕食するという戦い方をしている。
技能“捕食”を行えば、派生技能“魔力吸収”で捕食したものを魔力に変換することができる。
しかしここに落とし穴があり、満腹、つまり魔力飽和状態になれば、それを消化する為に一定時間。ナナキは強制的に眠りについてしまうのだ。
ハジメとの死闘後、すぐ眠ったのはそれが原因である。
さて、ここで矛盾が生じる。
ナナキの胃袋の……魔力の許容量は変質化してもハジメからすれば大した量ではない。
なのにだ、ナナキは奈落の百階層まで、完全体サメナナキのまま
万が一、迷宮の何処かで、見張りもなく睡眠なんてしていようものなら、とっくに魔物たちの餌食になっているのは想像に難くない。
故にナナキは一度もタイムリミットを起こさず百階層にたどり着いた事になる。
その矛盾のからくりを解決したのがこの“暴食狂化”だ。
あの日、ナナキは不安定な精神状態にあった。
突然の異世界召喚、長期間外泊によるホームシック、そして極めつけは、大好きな兄。ハジメの訃報である。
それにより、ナナキは過去のトラウマを呼び起こされ、過度なストレス状態により、血糖値の乱高下、
そう、
あの日。六十五階層でベヒモスを食べたとき。いつまでたっても解消されない空腹に、ナナキの体は無意識ながら今の状態を危険と
それこそが“暴食狂化”。
満たされぬ空腹をただ満たすために
それこそ、
それがこの技能のもたらす力である。
だが、狂化しても魔力の許容量は大して変わらない(ハジメ視点)。それだけではなただ限界が伸びるだけ、
あれだけ長期間、この技能が持続するなどありえない。
それについては、少しややこしい話になるのだが、
ナナキは不安定な精神状態の末、満たされない空腹に喘ぎ、“暴食狂化”を目覚めさせた。が、
実際は、その空腹は満たされていたのだ。地球でも、多くの奥様方が、これによりメタボリックになっていく事象は多く確認されている。ナナキの身に起きていたのはまさにそれである。
ナナキ自身は未だ満たされたとは思っておらず。それにより魔力飽和状態による睡魔は来ず、新たな獲物を求めて活動を再開する。それにより魔力を消費し、獲物を見つければ捕食し魔力を満たす。
減っては喰い、減っては喰いの繰り返し、雪だるま式に増大し続ける飢餓感は“空腹変換”によりさらなる力を生み出し、そしてなんと。そのまま、奈落の百階層を踏破してみせたのだ。
そう、これこそが変質者の異質なところ。
実情がどうだろうと関係ない。ただ変質者本人がそう思ったとおりに
本来存在するはずのなかった派生技能を生み出し、与えられた力以上の事を成してしまう。
それが変質者なのだ。
最悪、あのまま元に戻らなかった危険もあった。
しかし、ハジメの思い、ユエの祈り、そしてナナキ自身の願いが、あの絶望的な状況を
思いのままに姿を変える。正に“変質する者”である。
まぁ要するにあの時の超絶なチートぶりは様々な要因が重なった故に生まれた偶然の産物だった訳だ。
つまりあそこまでの力は今後、
まぁそれでも十分チートレベルな力を有しているのだが。
空腹になればなるほど増大する膂力、
あらゆる存在を察知する嗅覚と電気感覚、
頑丈さに加え、いくら傷ついても再生する肉体。
ハジメ同様に一部、魔物の固有魔法も使えるし、ホント良く勝てたなと思ったハジメとユエ。
そんな様々なチートの中でハジメが着目したのが“構成吸収”の技能である。
これは単純に、喰らった魔物のから自分に合った固有魔法を吸収するのもあるのだが、他にもとんでもない効果が隠されていた。
それはある日の夕食時、ユエの調理でまた、大して美味しくもない魔物肉を食べていたとき。
「あにぃ〜ッまた
「またか……サメの特性っていうのも難儀だな」
一度は聞いたことがあるだろう。サメの歯は何度も生え変わると。それは変質者として、サメの特性を持つナナキも同様だ。
こうして、食事時だけではなく、何もしてないときや、訓練の時ですらしょっちゅう抜けては生え変わるを繰り返している。
このとき、ハジメは既にナナキの“暴食狂化”の生み出した力のからくりについては結論を出し、“暴食狂化”は今後絶対封印の考えをユエと共有していた。再び、大事な弟を化け物になどさせないと……。
にしても、聖鎧に対抗しても砕けないあの牙の頑丈さは説明がつかない。
どうしても気になったハジメは、毎回律儀に上の歯は軒下、下の歯は屋根に投げるという日本の伝統の迷信を繰り返していたナナキの牙を、数本ほど回収し、工房にて精密な構成物質を調べていた。
「……はッ?」
そこで、とんでもない事実が発覚する。
「まっ……まさか」
ナナキの牙の構造配列にめちゃくちゃ見覚えがあった事で、ハジメは
「マジかぁ……」
ハジメが取り出したのは
試しに魔力を込めてみれば、超絶切れ味な
「……嘘ん」
恐らく、ナナキもあのサソリモドキと同じシュタル鉱石製の殻を持つ魔物を食ったか、或いはシュタル鉱石そのものを食ったか……。何にせよ、これはとんでもない資源革命だ!
だが、流石に弟を資源の源扱いするほどハジメも外道ではない。
この拠点で捨てたモノだけを
こうして、ナナキの牙を加工したものをふんだんに使って生まれたのが、
ナナキ専用武器、その名もキーファとファングだ。
猪突猛進なナナキにピッタリのナックル&小手付きグローブである。
ナックルにはもちろん、トゲの様に加工したナナキの牙が無数にはめ込まれており、魔力を流せば超強力なスパイクに化ける。
更に指先には魔力を流せば飛び出る爪のように加工した牙があり、いわゆる猫手の様になっていて、ナナキ本来の野性的な戦闘にも向いている。
そしてこのグローブは、守りにも優れていて、ナックル同様に手の甲や小手にも、背が低いスパイクが敷き詰められていて、上手く使えば、敵の攻撃を完封できるだろうが、ナナキはそういう立ち回りは苦手だろうし、元から頑丈だからあまり意味はない。
ただハジメも心配だから念の為、取り付けたのだ。
と、このように他にも様々な装備・道具を開発した。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器十二本分でラストになってしまった。枯渇した神結晶に再び魔力を込めてみたのだが、神水は抽出できなかった。やはり長い年月をかけて濃縮でもしないといけないのかもしれない。
しかし、神結晶を捨てるには勿体無い。ハジメの命の恩人……ならぬ恩石なのだ。幸運に幸運が重なって、この結晶にたどり着かなければ確実に死んでいただろう。その為、ハジメにはその神結晶並々ならぬ愛着があった。それはもう、遭難者が孤独に耐え兼ねて持ち物に顔をペインティングし、名前とか付けちゃって愛でてしまうのと同じくらいに。
そこで、ハジメは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。そして、それをユエに贈ったのだ。ユエは強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。
そう思って、ユエに〝魔晶石シリーズ〟と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、そのときのユエの反応は……
「……プロポーズ?」
「なんでやねん」
ユエのぶっ飛んだ第一声に思わず関西弁で突っ込むハジメ。
「それで魔力枯渇を防げるだろ? 今度はきっとユエを守ってくれるだろうと思ってな」
「……やっぱりプロポーズ」
「いや、違ぇから。ただの新装備だから」
「……ハジメ、照れ屋」
「……最近、お前人の話聞かないよな?」
「……ベッドの上でも照れ屋」
「だからッ!ナナキがいる目の前で止めてくれます!? そういうのマジで!」
「うぅ……?」
「ハジメ……」
「はぁ~、何だよ?」
「ありがとう……大好き」
「……おう」
「ナナキも!ナナキも!あにぃとユエあねぇ、だいすき!!」
「ん、私たちも……ナナキの事、大好き……」
「くぅッ……!!」
もう、色々と限界なハジメさんだった。
因みにナナキは戦ってれば自然と魔力は回復するので、神結晶は不要でした。
それから十日後、遂に三人は地上へ出る。
三階の魔法陣の部屋で服装が様変わりした三人が向き合う。
ハジメは赤いラインの入った黒のコートの下に、灰色のベストに白のカッターシャツ、黒のかっちりとしたズボンにはドンナーとシュラークのホルスターが巻き付き、首には黒のスカーフをネクタイのようにして巻いてある。
ユエは前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツにフリル付きの黒色ミニスカート。その上から白のロングコートを羽織り、足元はショートブーツに黒のニーソックス、頭には黒のリボンが巻かれている。
最後にナナキは、首のエラ筋を隠すための黒いチョーカーを付け、サメのデザインが施されたノースリーブの青色のパーカーに明るい灰色のオーバーオール。腰の後ろからは尻尾穴が空いており、そこからヒレの根元に白のシュシュが巻かれた尾ビレが伸びていて、変質化の影響で少し伸びた灰色の髪をユエとお揃いの黒のリボンで三つ編みに結でいる。
そして……前髪のサイドにはアップリケからヘアバッジに生まれ変わった可愛いサメの髪飾りが刺さっている。
ハジメが、このサメのヘアバッジを渡したときは大変で、ナナキはその藍色の瞳を大きく見開き、そして大粒の涙を流しながらハジメへとダイブしたのだ。
無論、その涙は悲しみではなく大切な宝物が返ってきたことによる喜びの涙たった。
更に、それはただのヘアバッジではなく、サメの目に当たる部分には、ナナキの専用武器、キーファとファングが収納された簡易宝物庫の宝石が取り付けられており、他にも迷子防止の為の“特定石”も埋め込んである。
特定石とは、生成魔法により“気配感知[+特定感知]”を付与したもので。特定感知を使うと、多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込むことでビーコンのような役割を果たすことが出来るようにしたのだ。ビーコンの強さは注ぎ込まれた魔力量に比例する。
大切な宝物と一体にすることで絶対に手放さない御守りの完成だ。
こうして、三階の魔法陣を起動させながら、ハジメは、ユエとナナキに静かな声で告げる。
「ユエ、ナナキ……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」
「ん……」
「うんッ」
「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」
「ん……」
「うんッ」
「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」
「ん……」
「うんッ」
「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」
「今更……」
「うんッ」
「そして…………ナナキ」
「うんッ……うん?」
先程まで決然とした表情で話していたハジメ。しかし突然。とても渋い顔でナナキを名指しする。
いきなりのことでナナキも追いついておらず頭に?が乱舞している。そんなナナキの肩をガシッと掴み、目線を合わせるために膝をついて、ハジメは悲痛な顔で語りだす。
「ナナキ……さっきも言った通り、俺達の武器や力は異端だ。でも、ナナキ、お前は存在自体がこの世界じゃ異端扱いだ。」
ナナキはその言葉を黙って聞く。
「きっと多くの理不尽がお前に降り掛かってくるかもしれない。こんな生きるか死ぬかの世界で、俺とユエも完全にお前を守ってやれる保証はない。だから……」
そこまで言うとハジメの声が震えだす。
そんなハジメを見て、ユエも憂いの視線を二人に向ける。
ハジメは今から弟に
最低な兄貴だな……俺は……
と、不甲斐ない気持ちでいっぱいだった。
だが、ハジメは自分の大切以外はどうなろうと知ったことかと、強い視線をナナキに向ける。
そして……。
「だからな、ナナキ……
一言、重い口を開き、堰を切ったように更に続ける。
「これからは魔物だけじゃない、人も相手にする。どんな奴らだろうと、お前を害そうとするならそいつらは敵だ……。
敵は……全て殺せ……」
それは、ハジメが変心したときに、ハジメが自分自身に誓った言葉。実際、ハジメはその時が来れば、迷いなくその引き金を引けるだろう。ユエとて同様だ。
自分の生存を脅かすものは全て敵、躊躇えば、自分たちが殺される、殺られる前に、殺れ……と。
あぁ、確かに、元の世界で幼い弟にこんな事を言い聞かせるなら、ハジメは最低の部類に入るのだろう。しかし、ここは異世界。元の世界の常識など通用せず、平和ボケした頭でのほほんとしていれば、一方的に搾取されるのみ。
まさに弱肉強食、「躊躇うな」この言葉にハジメの思いが全て凝縮されていた。
そんな血を吐くような兄の忠告にナナキは
「あにぃ……ナナキね……
事も無げにこう言い放った。
「ッ!?」
目を見開くハジメを置いてナナキは続ける。
「ナナキね、いいこでね、まっててもね、みんな、みんないなくなっちゃうの。みんな、みんな、イジワルななにかにね、とられちゃうんだよ?」
「ナナキ……。」
今までにないくらいの長文を話す弟の話を、ハジメは黙って聞き入る。
「だからね、あにぃ……だいじょうぶだよ。まつだけじゃね、だめなの……ナナキもいっしょにいかなきゃなの……だからね、あにぃも、ユエあねぇも、ナナキがまもるのッ!だからね、だからね、だいじょうぶだよッ」
そこまで言うと、ナナキはその無表情面にへにゃとした笑みを浮かべた。
その時、ハジメの脳裏にあのときの言葉が浮かび上がる。
『それは亀の如き歩みかもしれない、心がいつまでも子どものままだったとしても、あいつは進んでいる。精神が、魂が少しずつ大きくなっているんだ。』
『世の中普遍なんてものはない。寧ろ大人になっちまえば、誰も彼も子どもの心を忘れちまう。そんな世の中で子どもの心を持ち続けるのはとっても貴重なことだと俺は思うぞ!』
『囲うのではなく促す。それが俺の役目だと思っている。』
それは在りし日のメルドの言葉。
あの日ハジメの胸に刻まれた言葉が、今このとき実感を持って再びハジメの心に響き渡った。
「そっ……か……お前は、いつの間にか……こんなにも、大きくなっていたんだな」
「あにぃ?」
いいや、とナナキの問いに首を振るハジメは、再び立ち上がりユエとナナキを交互に見つめる。
迷いのなくなったハジメを見て、ユエも安心したように微笑む。
ハジメは一呼吸置くとキラキラと輝く紅眼と藍眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。
「俺がユエとナナキを、ユエが俺とナナキを、そして、ナナキが俺とユエを守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、三人で、世界を越えようッ!」
ハジメの言葉を、ユエはまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締め、ナナキは腰から伸びる尾ビレを元気よくブンブン振りまわした。そして、2つの無表情が崩れ、花が咲くような笑みを浮かべると、いつもの通り、
「んっ!」「うんッ!」
と、元気よく返事を返した。
次の瞬間、魔法陣の眩い光が、三人の身を優しく包みこんだ。
おまけ話《同族?》
タールザメ加工中〜
次々に生まれるアーティファクトに目を輝かせるナナキ。
そんなナナキの目の前で、今まさにタールザメを加工しようと巨大なまな板の上に乗せたハジメ。
ナナキ「ジィ〜〜〜〜〜〜ッ」←わくわく
ハジメ「………。」
ナナキ「ジィ〜〜〜〜〜〜ッ」←わくわくッ(ちょっと近づく)
ハジメ「…………。」
ナナキ「ジィ〜〜〜〜〜〜ッ」←わくわくッ(ゼロ距離)
ハジメ「うわぁ~んッ!!無理だぁ!!俺には、俺には
ナナキ「ッ!?」
その後、ユエがナナキを回収していったことでハジメは無事に作業を進めることができましたとさ。
めでたしめでたし〜