ナナキ君が出ないクラスメイトサイドは、
なかなか書きにくい。
時間は遡り、ハジメとユエがナナキを取り戻した日。
◇
本日は私、八重樫 雫含む、光輝達勇者一行は再び【オルクス大迷宮】へとやって来ていた。
あの日。ナナキちゃんが失踪した報告を聞き、私たち地球組は大騒ぎになった。
愛子先生をはじめ、引きこもっていた人達も一部は今すぐ連れ戻そうと騒ぎ出す。それに伴い先生は王国に捜索願を出した。
しかし、メルドさんからの報告を受けていた陛下やイシュタル教皇は、それを拒否。
既に死んでいるという扱いの南雲君を追って消えたのなら、その生存は絶望的だろうと、彼らは言っていたけれど……。
私からすれば、体の良い厄介払いなって丁度いいと言ってるようにしか聞こえなかった。
これに対して当然納得するはずのない愛子先生は猛抗議、勿論私や香織もだ。
そこでイシュタル教皇は、引きこもってしまった神の使徒の戦線の早起復帰をさせれば騎士団からオルクス大迷宮へ捜索隊を結成すると条件を出してきた。
やられた と、私はこのとき思った。これではナナキちゃんの捜索を枷に、既に心が折れてしまった他の皆も無理矢理戦場に駆り出されてしまう。
しかし、愛子先生は引かなかった。
当然だ、責任感の強い彼女にとってナナキちゃんも、そして私たちも守らなければならない大切な
そんな私たちが、不当に搾取され、傷付けられるのは絶対に許さない彼女は禁断の手札を切る。
「これ以上、生徒達に無理に戦いを強いるなら……私は今後一切農地へは行きません!!」
愛子先生のの天職はとても希少な“作農師”、そんな彼女に役目をボイコットされれば、国としても大きな損害になってしまう。
彼らはそんな彼女との関係悪化を避けるため、落としどころを提示する。
それが、あともう一度説得しても、どうしても「否」と言う者達には無理強いはしない。と言うものだった。
その結果、ナナキちゃんが居なくなったと言うことで、あの子を探したいと願う人や、ナナキちゃんの顔を見る機会が減り、罪悪感が多少薄れていった人達が、戦線に復帰することになった。
復帰したのは、私達勇者パーティーの他には、柔道部の永山君がリーダーの第二パーティー。その中には意外にも檜山君と取り巻きの三人も含まれていた。
そして、私たちの訓練に便乗する形で、メルドさん率いる。ナナキちゃんの捜索隊の騎士達も同行している。
しかし、当然だが捜査の結果は芳しくない。
今日で迷宮攻略六日目。
現在の階層は六十層だ。確認されている最高到達階数まで後五層。しかし、私達は現在、立ち往生していた。
正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。
そう、私達の目の前には何時かのものとは異なるけれど、同じような断崖絶壁が広がっていた。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまう。
特に……香織は、奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かなかった。
「香織……」
そんな私の呼び掛けに、香織は首を振って強い眼差しで私に微笑んだ。
「大丈夫だよ、雫ちゃん」
「そう……無理しないでね? 私に遠慮することなんてないんだから」
「えへへ、ありがと、雫ちゃん」
香織の瞳は強い輝きを放っている。そこに現実逃避や絶望は見て取れない。香織が本心で大丈夫だと言っているのだと分かった。本当に、香織は強いわね……。
先程も言った通り南雲君の死はほとんど確定事項。それを追って居なくなったナナキちゃんも同様にだ。それでも、逃避でも否定でもなく、自らの納得のため前へ進もうとする香織に、私は親友として誇らしい気持ちで一杯だった。
「香織……君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲も、そしてナナキちゃんもそれを望んでる」
そしてここで、いらん首を突っ込んでくるのが光輝クオリティー。思い込みのフィルターがかかった光輝の目には香織が無理してるとでも感じたのか、的外れな言葉を並べる。
「ちょっと、光輝……」
「雫は黙っていてくれ! 例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」
「はぁ~、何時もの暴走ね……香織……」
「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。……えっと、光輝くんも言いたいことは分かったから大丈夫だよ」
「そうか、わかってくれたか!」
光輝の中では既に南雲君やそして、ナナキちゃんでさえ死んだ事になっている。思い込みの強い故に、香織の訓練への熱意や迷宮攻略の目的が南雲君の生存を信じてのものとは考えられない。自分の信じたことを疑わず貫き通す性分は、そんな香織の気持ちも、現実逃避をしているか心を病んでしまっていると解釈しているんだろう。
幼馴染としてそこら辺の光輝の思考パターンは理解している私達は、ただ苦笑いで合わせるしかない。
「カオリン、鈴もナナっちや南雲君の事一緒に探すから……頑張ろうね!」
「香織ちゃん、私も、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」
光輝との会話を傍で聞いていて、会話に参加したのは鈴と恵里だ。
特に鈴は、いつものその小さな体のどこに隠しているのか謎の無尽蔵な元気は鳴りを潜め、真剣な眼差しを香織に向けている。
今回のナナキちゃんの騒動で一番わかりやすく落ち込んだのは鈴だった。鈴はナナキちゃんの事を「鈴の妹ぉ!」と豪語するほど、あの子の事を気にかけていて、ホームシックで落ち込んでいたナナキちゃんには付きっきりで構っていたほどだ。恐らく精神年齢が近い故か、ナナキちゃんも南雲君意外では、愛子先生や私の次には鈴に懐いてくれていたと思う。
だからだろう。あの子の泣き顔を見て、「結界師の私が……守らなきゃいけなかったのに……ッ!」と一番責任を感じて、普段じゃ考えられない涙を流していた。
故に、今回のナナキちゃん失踪騒動で、一番に声を上げたのが鈴だった。
「例え、どんな姿になっていても、絶対に連れ戻す!」と……。
だから、この中では一番、香織の気持ちに共感している一人と言ってもいいだろう。
同時に香織の南雲君への気持ちを理解した鈴と恵里の二人は、その目的にも賛同してくれている。
「うん、鈴ちゃん、恵里ちゃん、ありがとうッ……頑張ろう!」
高校で出来た親友二人に、香織は嬉しげに微笑んだ。
そんな私たち女子4人を……いえ、正確には香織を凝視する視線を感じ取る。
檜山大介……。あの日、王都に戻ってしばらく経ち、生徒達にも落ち着きが戻り、冷静になって来た頃、案の定、あの窮地を招いた檜山君には厳しい批難が待っていた。
それに対して、彼はただひたすらに土下座をしていた。だがそれは謝罪が目的ではなく、光輝の目の前で謝ることで、絆された光輝に自分をクラスメイトに執り成して貰うのが目的だった。
そんな見え透いた魂胆に私は嫌悪感でいっぱいだった。
今でもその視線の裏では何を考えているのか……。彼にはしばらく気を張っておいたほうが良さそうね。
「雫ちゃん?」
私の様子の変化に訝しんだ香織が訪ねてきたため、「なんでもないわ」と答え、私は彼から視線を外した。
そうして暫くすれば私達は特には何の問題もなく、遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。
「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」
付き添いのメルドさんの声が響く。私達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。
しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。
その予感は的中する。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がる。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。
「ま、まさか……アイツなのか!?」
光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。私を含め、他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。
「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」
龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルドさん。
「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」
いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルドさん。それに部下の人が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。
「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」
「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」
龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルドさんはやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべる。
そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。
「GuGAaaaaaaauuuuッ!!!」
咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが私達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。
全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す女の子が一人。
そう、香織だ。
香織は誰にも聞こえないくらいの、しかし、確かな意志の力を宿らせた声音で宣言した。
「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私は彼のもとへ行く」
今、過去を乗り越える戦いが始まった。
◇
「GuRuuGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
ベヒモスの断末魔が広間に響き渡る。いつか聞いたあの絶叫だ。鼓膜が破れそうなほどのその叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。
そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った。
「か、勝ったのか?」
「勝ったんだろ……」
「勝っちまったよ……」
「マジか?」
「マジで?」
「そうだ! 俺達の勝ちだぁ!!」
ベヒモスとの戦闘は壮絶な戦闘の末、無事我々の勝利で幕を閉じた。
この俺、メルド・ロギンズは肩を抱き合い、勝鬨を上げる彼らを感慨深く眺めていた。
そんな喧騒の最中、上階より部下の部隊が数人降りてくる。
「どうだった?」
「ハッ……やはり何の痕跡も発見できませんでした。」
「そうかぁ……。」
俺は彼らからの報告を聞く。ここ、六十五階層まで降りても、アイツの……ナナキの痕跡は何も確認できなかった。死体すらも……。
「……恐れながら、団長……。やはり既に魔物に食い尽くされてしまったのでは……?」
部下からも当然の意見が飛んでくる。あれから、ナナキの失踪から既に2週間は経過しようとしていた。いくら変質者の力が未知数と言えど、ナナキ自身は幼い。そんなナナキがこの迷宮をこの場所まで踏破するなど絶望的で、とっくに手遅れと考えるのが自然だろう。
「せめて……遺体だけでも回収できればと考えていたのですが……。」
「団長……これ以上の捜索は……」
部下達が及び腰で進言する。それを背中で受けながら俺は彼ら……というより
「香織? どうしたの?」
「えっ、ああ、雫ちゃん。……ううん、何でもないの。ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ」
苦笑いしながら雫に答える香織。かつての悪夢を倒すことができるくらい強くなったことに対し感慨に浸っていたらしい。
「そうね。私達は確実に強くなってるわ」
「うん……雫ちゃん、もっと先へ行けば南雲くんやナナキくんも……」
「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張っているんじゃない」
「えへへ、そうだね」
そんな彼女達を見て、ついつい口角が上がる。
「全く、年を取れば現実ばかり見ていていかんな……。」
「団長……」
俺の言葉に訝しむ部下たち。
「お前たち……俺はいつか言ったな。『夢はでっかく見ろ』と。それは何も彼ら若人だけの話じゃあない。俺達にも言えることだ。」
俺の言葉に部下たちは目を剥く。
「『遺体の回収だけでも?』何を小さなことを言っている。最後まで
「それに」、と俺は続ける。
「ナナキは確かに幼いが、ナナキも彼らと同じく神の使徒。超常の力を持つ者達の一人だ。南雲共々、今頃上手いことやっているだろうよ。」
「そ、それは団長……。あまりにも無責任な希望的観測では?」
部下の一人がそう聞き返す。あぁ確かに無責任だ。希望的観測だ。だがな、
「それの何が悪い。現に彼らは今、嘗て最強と言われた冒険者が倒せなかったベヒモスを下し、伝説を、希望を見出してみせた。そんな彼らが未だに諦めていないのに、大人の我々が早々に希望を捨て、諦めてしまえばこれ以上不甲斐ないことはないだろうよ。」
最初こそ、俺も諦めていたんだが。どうやら俺も彼等に大分当てられてしまったらしい。これは決して現実逃避などではない。俺は、彼等の偉業を見て、そこに確かな希望を見た。だが、まだまだ危うく、拙い光なのは事実。
これから越えなければならない、越えさせなければならない壁が無数にある。それをできる限り教え、支え、導くのが俺達の責務だ。
彼等の、そして俺達の先に続く未来はまだまだ長い。先は未だに闇だが、照らす光を絶やさぬよう、俺達は前へと進む。
今はこの場にいない彼等も、きっと前へと進んでいると信じて……。
クラスの2代マスコット
南雲ナナキと谷口鈴。
ナナキはクラスメイトではないが、その性質故に特殊な学校に通っているため、理由をつければ基本自由に行動できる。
そのためちょくちょくハジメ達のクラスへお邪魔し、もうほとんどクラスの仲間のような感じになっていた。
そして、心におっさんを飼う鈴は見事にナナキの可愛さにメロメロ。年下に構う幼子のようなその微笑ましい様子は一部を除いてクラスの癒やしとなり、2代マスコットと称えられるまでになる。
体型の近い二人がじゃれ合う様は愛子同様、正に姉妹←✕も同然。
よってそんなナナキ君の存在により、原作よりも谷口鈴には責任感が生まれ、少しだけ真剣になっている。
勿論、今の辛い状況を払拭するため、ところどころおちゃらけるのは変わらないが……。