世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 前回薄味だったクラスメイトサイド

 そのため本日は2連投です。


らびっと・うぃず・しゃーく編
第14話∶はじめましてぴょんぴょんウサギさんッ!


 

 魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に、

 

 俺、南雲ハジメは頬を緩ませる。

 

 やがて光が収まり目を開けた俺達の視界に写ったものは……

 

 

 

 洞窟だった。

 

 

 

 「なんでやねん」

 

 無条件に魔法陣の向こうは地上だと信じていた俺は非常にがっかりした。そんな俺を慰めるように、ユエが

 

 「……秘密の通路……隠すのが普通」

 

 と諭し、ナナキが俺の背中を「よ~し、よ~し、」と言いながらプルプルと、つま先立ちで擦った。

 

 浮かれていた自分が少し恥ずかしくなり、頭を冷やした後に、緑光石の輝きもない真っ暗な洞窟を俺達三人は何の苦も無く進んでいった。

 

 途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていく。一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に求めてやまなかった外の光が見えた。

 

 俺とユエはそれを見た瞬間立ち止まり、ナナキは待ちきれず尻尾(尾ヒレ)を振り回しながら先に駆け出してしまう。

 

 その様子を見て、俺とユエもお互いにニッと笑顔を向け、ナナキを追いかけるように求めた光へと駆け出した。

 

 近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。俺は、『空気が旨い』という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

 そして、俺とユエはナナキに追い付き、同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 

 地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 

 

 【ライセン大峡谷】と。

 

 

 

 俺達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 

 たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた俺、ユエ、ナナキの表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエとナナキでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいて、ナナキは尻尾を全開に振り回している。

 

 「……戻って来たんだな……」

 

 「……んっ」

 

 「あぁいっ」

 

 ようやく実感が湧いてきた俺は太陽から二人へと視線を移して、右腕でユエを、左腕でナナキを抱えあげ、その場でテンションのままにグルングルンと回り始める。

 

 「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

 「んっーー!!」

 

 「キャハハハハッキャハハハハッ!!」

 

 しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、三人してケラケラ、クスクスと笑い合う。ナナキは地面に尻尾をペチペチさせている。

 

 ようやく三人の笑いが収まった頃には、

 

 

 

 

 

 

 すっかり……魔物に囲まれていた。

 

 「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

 「んっ……分解される。でも力づくでいく」

 

 ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからだ。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。しかし、ユエはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している。

 

つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということらしい。

 

 「力づくって……効率は?」

 

 「……十倍くらい」

 

 どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 仕方ないからここは俺が行くかとドンナー・シュラークに手をかけたとき、左隣からナナキが俺をちょんちょんと指でつつく。

 

 「あにぃ〜ッアレ……おやつ(・・・)?」

 

 そう言ってナナキは魔物の群を指差してこう呟いた。

 

 「「ブフッ!!?」」

 

 コヤツ、魔物の群を目にして開口一番におやつ扱いとは、流石は我が弟。唐突な物言いに俺とユエが思わず吹き出す。

 

 だが、

 

 「さっき朝飯食べたばかりだろ?だーめーだッ。ここは俺に任せとけ、ナナキはユエお姉ちゃんを守っといてくれ」

 

 「ぶぅ~〜〜ッ!」

 

 「ナナキぃ、拗ねちゃ……めッ!」

 

 「うぅ……はぁい」

 

 こんなところでお腹いっぱいになって眠られたら困るからな、さっき朝飯食べたばかりってのもあるし、ここは我慢してもらおう。

 

 そもそも、せっかく地上に出たんだからちゃんとした飯を食わせてやりたい。というのも、ナナキは変質化した原因なのか、味覚が変質し、元々好き嫌いは少なかった方だが、更に味の許容量が広がっていたのだ。

 

 どういうことかというと、俺達が通常不味いと感じる味ですら、独特の味でこれはこれで美味しいと感じる様になり、悪い意味で味音痴、良い意味で清も濁も全て正しく味を認識できる、ある意味での神の舌となっていたのだ。

 おかげで奈落でも、不味いはずの魔物肉を美味しそうにパクついて頬を膨らませてモッキュモッキュしていた。

 

 そのまま、若干ぶーたれたナナキと一緒に後ろに下がったユエを尻目に、俺はガン=カタの構えを取り瞳に殺意をみなぎらせる。

 

 その目を見た魔物たちは本能で一歩後ろへと後ずさる。

 

 「さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか……試させてもらおうか?」

 

 

 そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。魔物達は、ただの一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く頭部を吹き飛ばされ骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 

 ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまって、首を僅かに傾げながら俺は周囲の死体の山を見やる。

 

 その傍に、トコトコとユエとナナキが手を繋いで寄って来た。

 

 「……どうしたの?」

 

 「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

 

 「……ハジメが化物」

 

 「あにぃ……ちぃーと?」

 

 「ひでぇ言い様だな。あとナナキ、お前に言われたかねぇよ……まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」

 

 そう言って、もう興味ないと言うように肩を竦めて絶壁へと視線を移す。

 

 せっかくだからここ【ライセンス大峡谷】は七大迷宮があると言われる場所。樹海側に探索をしようと二人に提案する。

 

 「……なぜ、樹海側?」

 

 とユエ

 

 「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

 

 「……確かに」

 

 「うん、ナナキ……アツいのきらぁ〜い」

 

 理由を説明すれば、二人からそれぞれ納得の反応が返ってくる。ナナキは元々暑がりな体質だったのが、ここでは唯一の火属性弱点としてステータスに現れてしまっている。

 

 今でも何とか派生で耐性が付かんもんかと、訓練のときユエから火属性魔法を受ける特訓を付けさせてもらっているが、なかなか進展はない。

 

 最悪、グリューエン大砂漠にあるという大火山の大迷宮攻略の時は、ナナキには留守番させるか検討する必要があるかもしれないな。

 

 俺は、右手の中指にはまっている“宝物庫”に魔力を注ぎ、サイドカー付きの魔力駆動二輪を取り出す。俺は颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りして腰にしがみつき、ナナキはサイドカーに乗り込み、渡したヘルメットを被りシートベルトを締めた。

 

 地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。俺個人としてはエンジン音がある方がロマンがあると思ったんだが、エンジン構造などごく単純な仕組みしか知らないので再現できなかった。ちなみに速度調整は魔力量次第である。まぁ、ただでさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えないだろうが。

 

 ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖、そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷いなく樹海に到着する。俺達も迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適快適♪

 

 まぁその間も忙しなく腕だけは魔物を射殺す為に動き続けているのだが……。

 たまに暇を持て余したナナキが、空飛ぶ魔物へ軽く氷の礫を口から放つので、ただでさえ魔力は俺達の中じゃ一番少なく、

魔力効率が悪いライセン大峡谷で魔法を使えばお腹が空くのが早くなるからやめなさい、と注意したりしながらそのまま魔力駆動二輪を走らせて行った。

 

 しばらくそうしていると、そう遠くない場所から、魔物の咆哮が聞こえた。中々の威圧だ。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

 

 魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

 だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女の方だろう。

 俺は魔力駆動二輪を止めて胡乱な眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。

 

 「……何だあれ?」

 

 「……兎人族?」

 

 「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

 

 「……聞いたことない」

 

 「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

 

 「……悪ウサギ?」

 

 「ナナキ!……アレしってる!えっとね…あにぃのおへやにあった、ペラペラのごほんの……えっとぉ『ぴょんぴょんバニ━━━

 

 「ナナキくぅ~んッ!!?その記憶は今すぐ削除しようかぁ〜!!」

 

 「……ハジメ?」

 

 俺とユエがウサミミ少女に対してアレじゃない、コレじゃないと考察を言い合っていたら、ナナキの野郎が頭にウサミミのポーズをしながらとんでもない爆弾を投下してきた。やめてね!いきなりそういうの心臓に悪いから!!

 ユエはよく意味がわからなかったようで首を傾げるだけで済んだ。ただ視線はずっとこちらに向けられている。

 

 いや……違うんすッ……そう言うんじゃないんすッ

 

 いやぁまじで……

 

 

 そう言って呑気している間に、どうやらウサミミ少女の方が俺達を補足したようだ。

 岩陰に落ち、四つん這いのほうほうのていで逃げ出し、そこを双頭ティラノに吹き飛ばされ、そのままの勢いで俺たちの方へと走ってきやがった。

 

 それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊し俺達に届く。

 

 

 「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!

 

 

 滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、俺達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

 

 

 

 まぁ、俺達には関係無いが……。

 

 「勘弁しろよな全く……。」

 

 「……迷惑」

 

 「うぅ?いいの?あにぃユエあねぇ?」

 

 助ける気がない俺達に優しいナナキはウサミミ少女に指をさして尋ねる。俺は菩薩のような表情でナナキの頭を撫でながら諭す。

 

 「いいか?ナナキ……この世界は俺たちのいた世界と違って命がけ、弱肉強食だ。どこの馬の骨もとい、ウサギの耳ともわからんやからを助けようとして、俺やナナキ、ユエが危ない目にあったらイヤだろう?」

 

 「うん……」

 

 「それにな?あの恐竜さんはお腹が空いてるからあのウサギさんを追っかけている。いじめているわけじゃないんだ。俺達があのウサギさんを助けたら恐竜さんはどうなる?」

 

 「おなかが……すいちゃう?」

 

 「そうだ……残酷なことがしれないがコレが自然の摂理……あのウサギさんは食べられることによってあの恐竜さんを幸せにできるんだ。」

 

 「ん……コレも運命……」

 

 そうユエが締めくくると、

 

 「おぉ~あにぃ、ユエあねぇ、かしこい!!」

 

 と目をキラキラさせて納得してくれた。よし、それならもうここに居座る理由はない。俺達は出発の準備を整えその場から離れよ━━━━━━━━

 

 「ちょっとちょっとちょっどぉおお〜〜〜ッ!!何いい話して終わらせようとしてるんですかぁああ〜〜〜ッ!!

 まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

 

 野生のウサミミが更に声を張り上げてくる。この距離でよく聞こえたなぁ…。ウサミミだからか?

 

 まぁいくら叫んでも、助ける気なんて万に一つも━━━

 

 「「グゥルァアアアア!!」」

 

 「ア“ァ“ッ?」

 

 今コイツ、俺に……俺達に吠えたな?

 

 俺達に敵意を向けたな?

 

 ………………よしッ

 

 殺すッ!

 

 

 双頭ティラノが野生のウサミミに喰らいつこうとした瞬間、

 

 ドパンッ

 

 と俺のドンナーが火を吹く。飛び出す閃光は今にもウサミミに食いつこうとした双頭の片方の口内を、粉砕しながら突き破る。

 

 力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

 

 

 その衝撃で、野生のウサミミは再び吹き飛ぶ。狙いすましたように俺の下へ。

 

 「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

 

 眼下の俺に向かって手を伸ばすボロボロの格好のウサミミ。普通の男ならここで受け止めてやるところなんだろうが、

 

 

 「アホか、図々しい」

 

 

 無論、俺がそんな事をしてやる義理はない。一瞬で魔力駆動二輪を後退させると華麗にウサミミを避けた。

 

 

 「えぇぇぇええッッッ!!?」

 

 

 ウサミミは驚愕の悲鳴を上げながら俺達の眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

 

 

 「……面白い」

 

 ユエが俺の肩越しにウサミミの醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。

 ナナキはサイドカーから降りてトテトテとウサミミに近づき、どこで拾ってきたのか、長めの木の枝を持ってウサミミの頭をツンツンしている。

 そうこうしている内に双頭ティラノが絶命している片方の頭を、何と自分で喰い千切りバランス悪目な普通のティラノになっていた。

 

 普通ティラノがその眼に激烈な怒りを宿して咆哮を上げる。その叫びに痙攣していたウサミミ少女が跳ね起きた。意外に頑丈というか、しぶとい。あたふたと立ち上がったウサミミ少女は、再び涙目になりながら、これまた意外に素早い動きで俺の後ろに隠れる。

 

 「おい、こら。存在がギャグみたいなウサミミ! 何勝手に盾にしてやがる。巻き込みやがって、潔く特攻してこい!」

 

 コートの裾をギュッと掴み、絶対に離さん!とでも言うように しがみつくウサミミ、心底うざい。後ろの席に座るユエが、離せというように足先で小突き、ナナキはまだ持ってた木の枝でウサミミの脇腹を突いてくすぐっていた。

 

 「ちょッやっやめてください!!キャハハッそ、そんなくすぐってもッぷふふふふッは、離したりッし、しないんですからぁッ!!」

 

 予想以上に粘りやがるコイツ、俺はいい加減鬱陶しいそいつの頭を押さえ、何とか引き剥がそうとする。しかし、

 

 「ムッムムムッ!絶対に離しませんッ!だ、だって 今、離したら見捨てるつもりですよね!」

 

 マジでコイツ全く離れない。想像以上に力強くない!?。

 

 「当たり前だろう? なぜ、見ず知らずのウザウサギを助けなきゃならないんだ」

 

 「そ、即答!? 何が当たり前ですか! あなたにも善意の心はありますでしょう! いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないんですか!」

 

 「そんなもん奈落の底に置いてきたわ。つぅか自分で美少女言うなよ」

 

 「な、なら助けてくれたら……そ、その貴方のお願いを、な、何でも一つ聞きますよ?」

 

 え〜〜〜ッいやないわ〜………ッ

 

 確かに顔立ちは整ってる方で青みがかった白髪の碧眼で傍から見れば自分で美少女言うくらいはあるが……。

 

 「断じていらん。ていうか汚い顔近づけるな、汚れるだろがッ!!」

 

 俺には全く関係ない。

 

 「き、汚い!? 言うにことかいて汚い! あんまりです! 断固抗議しまッ「グゥガァアア!」ヒィー! お助けぇ~!」

 

 とこっちで色々とやっている間にアンバランスティラノが、「無視するな!」とでも言うように咆哮を上げ、突進してこようとその身をたわめさせた。

 

 コイツ、また俺たちに吠えやがったな?よしッ死ね!

 

 直後俺の銃口が跳ね上がり、速射。ティラノの脳天を穿ち、一瞬、ビクンと痙攣した後、ティラノはあまりに呆気なく絶命し、地響きを立てながら横倒しに崩れ落ちた。

 

 「へ?し、死んでます…そんなダイヘドアが一撃なんて…」

 

 俺の背に隠れていたギャグウサギが、間抜けな声を出して恐る恐るといった風に脇から顔を出す。

 

 ギャグウサギは目の前の事実が信じられないというように目を剥く。どうやらあの双頭ティラノは“ダイヘドア”というらしい。

 

 呆然といつまでも俺にしがみつくギャグウサギの脳天へ、俺は文字通り左腕の鉄拳を喰らわせる。

 

 「ひでぶぅぅッ!!?」

 

 呻き声を上げ、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るギャグウサギ。それを冷たく一瞥する俺に、ナナキはダイヘドアを指さして聞く。

 

 「あにぃ、きょうりゅうさん……よかったの?」

 

 「いいかぁナナキ、アイツは俺たちへ殺意を向けた。その瞬間やつは俺の……俺たちの敵になった。敵は全て殺す……。だから撃った。それだけの事さ。」

 

 そう言ってドンナーをひらひらと見せつけながら説明すると「おぉ~」とナナキから感嘆の声が上がる。

 

 そうしてナナキも納得したことで、俺たちは再び出発の準備を━━━

 

 「逃がさんですよぉお〜〜〜ッ!!」

 

 し、しつこッ!!何回目だよこのパターン。今まで地べたをゴロゴロ転がっていたくせに、また俺の腰にしがみついてきやがった。やはりゴキブリ並みに打たれ強いな……その頭から生えてる2本のウサミミはウサミミではなくゴキブリの触角だったのか!?

 

 「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいまふ! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

 

 そして、なんて図々しいんだ。

 

 奈落から出て早々、漂ってきた厄介事の臭いに、思わず深い溜息が出るが、そのウサギは構わず続けた。

 

 

 

 「お願いします!!私の家族も助けてください!!」

 

 

 峡谷に野生のウサミミ改めて、シア・ハウリアの声が響く。

 

 何でもこのウサギ、一人ではないらしく仲間が他に居て同じく絶体絶命の窮地らしい。

 改めて思う、なんと図々しいウサギかと……。

 

 「アババババババババババアバババ!?

 

 俺はとりあえず“纏雷”を発動させ再びウサギを沈める。

 

そのまま放置して俺たち三人は先を急ごうとする。……が、

「に・が・し・ま・せ・ん・よぉ〜〜ッ」と、正にゾンビかと思うほどしつこく俺にまとわりついてくる。ユエとナナキも思わず俺の背に隠れている。

 

 ちょっと怖くなった俺たちはひとまず話を聞いてやることにしたんだが……って

 

 「俺のコートでっさりげなく顔を拭くなぁ!!」

 

 話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったコイツは、これまたさり気なく俺のコートで汚れた顔を綺麗に拭いやがった。本当にいい性格をしてやがる。イラッと来たから再び鉄拳を食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。

 

 「ま、また殴りましたね! 父様にも殴られたことないのに! よく私のような美少女を、そうポンポンと……も……もしやッ!?殿方同士の恋愛にご興味が……だからさっきも私の誘惑をあっさりと拒否したんですね! そうでッあふんッ!?」

 

 「誰がホモだ、ウザウサギ。っていうか何でそのネタ知ってんだよ。ユエと言いお前と言い、どっから仕入れてくるんだ…? まぁ、それは取り敢えず置いておくとして、お前の誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのは、お前より遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ。ユエを見て堂々と誘惑できるお前の神経がわからん」

 

 不当なウサギの物言いに俺は踵落としで返す。

 

 俺の言葉にユエは頬を赤らめ両手で覆い、腰をくねらせて照れている。腰まで伸びたゆるふわな金髪はその動きで太陽光を反射しキラキラ煌めいている。

 

 相変わらずな美少女ぶりの俺の恋人に見惚れていると、ナナキが上目遣いで俺の裾を引っ張ってくる。

「どうした?」と俺が聞くと、

 

 「あにぃ、ナナキは?ナナキは?」

 

 そう言ってナナキは自分の姿を見せつけるようにクルンとその場で一回転する。それにより頭の銀に見えなくもない灰色の三つ編みが反射して煌めき、尻尾と三つ編みが回転に連動してクルンと揺れる。

 

 これは、まさか……自分も褒めろということか?

 

 「あ、あぁ。ナナキも、ものすごくか……カッコいいと思うぞッ」

 

 「……むふーッ」

 

 どうやら満足したようで胸を大きく張ってどうだぁ〜ッとでも言いたげに鼻息を鳴らして、笑顔で尻尾を振り回している。つい「かわいい」と言いそうになったのは内緒だ。

 

 そんなナナキとユエを見て野生のウサミミは、「うっ」と僅かに怯むが、何を思ったのか自分の身体を弄り始めて、その胸にあるボロ衣呑みで支えられた溢れんばかりの凶器(巨乳)へと強調するように手を回すと……

 

 「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっちの二人(・・)ペッタンコじゃないですか!

 

 〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟〝かぁ〟〝かぁ〟〝かぁ

 

 言ってはならない言葉を口にする。

 

 命知らずなウサギの叫びが峡谷に木霊する。ナナキはそもそもある訳が無いからともかく、先程まで恥ずかしそうに身をくねらせていたユエからは表情が消え、無言で二輪から飛び降りる。

 

 「あ~あ」

 

 「……ぺったんこ?」

 

 「ナナキぃ〜お前にはまだ早い。兄ちゃんとそっちに行っとこうなぁ〜。」

 

 「うぅ?」

 

 俺はそう言って、天を仰ぎナナキの耳を塞いでその場から背を向けた。愚かなウサミミよ、安らかに眠れ……。

 

 

 

 

 

 

 イィヤアアアァァァァァァ~ッ!!死にたくないですぅうう〜!!

 

 

 

 

 

 突如発生した竜巻と共に、哀れな悲鳴が天へと打ち上がっていった。

 そのきっかり十秒後、グシャって音を立てて野生のウサミミは逆さに降ってくる。

 

 

 その後ユエに「大きい方が好き?」と恐ろしい質問をされたため、

 

 「……ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」

 

 と、当たり障りのない答えを返した。

 

 「……」

 

 ユエは、スっと目を細めたものとりあえず納得してくれたようで、無言で後席に腰掛けた。

 

 いや……まじで違うんすッ……

 

 ほんとにそう言うんじゃないんすッ

 

 

 「あにぃ……へたれ?」

 

 「お前マジ黙ってろよナナキッ」

 

 悪い子な弟のほっぺを餅みたいにムニムニさせていたら、なんと、野生のウサミミはあの状態からでも這い上がってきやがった。

 

 「アイツ動いてるぞ……本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈さならナナキに迫るレベル何じゃないか?……」

 

 「……………………ん」

 

 「ナナキ……おばけこわいッ…」

 

 ユエがいつもより間を空けて返事をし、ナナキが怖がって俺にしがみつく中で、野生のウサミミは泥だらけの顔で正に生きた屍のように這ってきていた。 這い寄るウサミミ(混沌)

 

 「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのにぃ〜(・・・・・・・・・・・)……」

 

 「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ……何者なんだ?」

 

 ようやく本題に入れると居住まいを正すシアと名乗る野生のウサミミ。バイクの座席に腰掛ける俺達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが……

 

 「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

 

 

 

 語り始めたシアの話を要約するとこうだ。

 

 シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低く、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。

また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 

 

 

 そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

 当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

 しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

 

 故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

 行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

 しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 

 女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

 しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

 そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

 

 

 

 「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。なるほど、どうやら彼女は俺やユエ、ナナキと同じ、この世界の例外というヤツらしい。特に、ユエと同じ、先祖返り(・・・・)と言うやつなのかもしれない。

 

 話は聞いた、それで?俺達に助けてくださいと?なるほどなるほど……。

 

 答えは当然

 

 「断る」

 

 否、一択だ。

 

 

 

 

 

 

 

 





 ナナキ君は暑がり、そして猫舌……、アッツアツの豆腐には、いつまでもフーフーしちゃうタイプ。

 お気に入り200人突破!!

 有難うございます!!m(_ _)m

 この調子でこれからも頑張っていきます!!
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