世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 尾崎史典 さん、ゴーヤーライダーバイオ さん

 Zect_regulus さん、にょんギツネ さん

 新たに評価、ありがとうございますm(_ _)m




第17話∶なぁぜなぁぜ?

 

 「こいつは……すげぇな」

 

 「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 

 俺、南雲 ハジメは、森人族(エルフ)の長老、アルフレリックの案内の下、樹海の奥地にある亜人達の国【フェアベルゲン】に訪れていた。

 

 ここに来るまでにも色々あった。

 

 兎人族達の案内で、霧の立ち込める樹海を進めば、引っ切り無しに魔物が襲ってくるため、俺とユエは兎人族を守る為それの対処に追われる。ナナキは“胃酸強化”で魔力の消化が早まったとはいえ、最低でも一時間、長くて三時間は眠ってしまう。よって今でも俺の背中でぷーぷー寝息を立てている。

 

 そうしてしばらく歩いていると、筋骨隆々な虎の亜人族。フェアベルゲンの警備隊とご対面した。何やら誤解しているようで、俺達に敵意を向けてきたもんだから、丁寧にOHANASIをさせてもらった事で無事誤解は解けた。

 

 警備隊長さんのお願いでその場で待たせてもらっていると、流れる美しい金髪から尖った長耳が覗く碧眼の初老の男性が現れる。

 

 アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老衆の一人と名乗ったそいつと、俺は“解放者”について情報のすり合わせを行い、奈落で採取した魔石やオスカーの指輪を証拠に、無事迷宮の攻略者だと信じて貰うことに成功した。

 

 フェアベルゲン建国初となる、人間族の客人として招かれた俺たち。外野の虎の亜人達がちょっと喧しかったが、俺たちはフェアベルゲンへの入国が許されたのだ。

 

 最初は、大迷宮と目される“大樹ウーア・アルト”に行って、さっさと迷宮攻略を済ませて出て行くつもりだったんだが、そんな俺の言葉にアルフレリックは否と返す。

 

 何でも、大樹の周りは亜人族ですら迷うほど霧の濃度が濃く、一定周期で訪れる霧が薄くなる時期でなきゃ大樹の下へ行くことは不可能だというのだ。

 

 あ?おい、そりゃどういう事だ?と、俺はカムに詰め寄る。

 

 「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

 まさに、今思い出したかのように言い訳を並べるカム、遂には俺とユエのジトッとした視線に耐えかね逆ギレをしだした。

 

 

 「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

 

 「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

 

 「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

 

 「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

 

 逆ギレするカムに、残念ウサギが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

 

 「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

 

 「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

 

 「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

 

 「バァカモンッ! 道中の、ハジメ殿達の容赦のなさを見ていただろう! 一人で罰を受けるなんて絶対に嫌だ!」

 

 「あんた、それでも族長ですか!」

 

 亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。奴等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合う。情の深さは何処行った………

 

 結局は総じて全員、残念なウサギばかりだった。

 

 その後はしっかりとユエの手で兎人族達を粛清して、フェアベルゲンへの入国を果たした俺たち。

 

 門をくぐると、そこは全くの別世界が広がっていた。

 

 直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも高層ビル二十階分くらいありそうだ。

 

 冒頭、俺の口から吐いて出た感嘆の言葉に、アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。俺たちは、そんな奴らの様子を見つつ、素直に称賛した。

 

 「ああ、こんな綺麗な街を見たのは初めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だな」

 

 「ん……綺麗」

 

 俺は背中のナナキに視線を向け、「ナナキにも起こして見せてやりたかったがな……」と呟く。

 

 ナナキは未だぷーぷー寝息を立てている。今回はどうやら長い方らしい。

 ナナキの事だ。こんな幻想的な光景を目にすれば、はしゃいでそこら中を走り回ることだろう。

 

 そんな俺たちの様子を見て、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。

 

 いや、だからオッサン等のケモミミ尻尾とか誰得なんだよ……

 

 こうして、俺達はアルフレリックが用意した場所へと向かった。フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら……。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 「悪りぃな、初めての場所で無防備な状態の弟をそのままにはできない。このまま(・・・・)話をさせてもらうぞ」

 

 「構わんよ。種族問わず子供は宝だ。お主の気持もわからないでもない。それにしても……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 

 現在、俺とユエはアルフレリックと向かい合って話をしている。しかし、ナナキは相変わらず目を覚まさない。さっきも言ったように、初めて来る場所でナナキを別室で寝かせるなんて論外だ。しょうがないので、俺の腕を背もたれにして胡座をかいたその上でナナキを寝かせることにした。

 

 そして俺は俺たちの事情も含め、奈落の底で見聞きしたものをそのままアルフレリックに話した。“解放者”、神代魔法、俺とナナキが異世界の人間であり、七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

 不思議なことに、アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。

 

 「意外だな。もう少し取り乱すと思ってたんだが?」

 

 「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ……。」

 

 俺が尋ねると、そんなあっさりとした答えが返ってくる。

 神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もない。

 

 「我々が崇めるモノを無理にあげるとするならば、この大自然に他ならない。我等亜人族が、今日までこうして生きながらえているのは、この豊かな森の恵みに依るところが大きいだろう。自然への感謝の気持ち……。これこそが我々の信仰心と言え無くもないのかもしれないな……。」

 

 「なるほどなぁ〜。」

 

 俺の話を聞いたアルフレリックが、長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、

 

 

 “この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くこと”

 

 

 という、何とも抽象的な口伝だった。

 

 【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 

 そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

 

 「それで、俺たちは資格を持っているというわけか……」

 

 アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

 俺とアルフレリックが話を詰めようとしたときだった。

 

 突然、階下からドンガラガッシャンと言う何かが倒れる音と、男の怒号が響く、何やら騒ぎが起きたらしい。

 

 俺達がいるのは最上階、その下の階で兎人族達を待機させてもらっている。面倒な予感に俺とアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

 勿論俺はナナキを抱えて……。

 

 

 「アルフレリックッ……!!貴様ぁ、どういうつもりだ!!」

 

 開口一番、そんな怒号が辺りに響く。俺達が階下へと向かうと、そこでは、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死に残念ウサギを庇っている。残念ウサギもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

 降りてきた俺達を視界に入れると、全員一斉に剣呑な眼差しを向けてるく。

 

 「なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 必死に激情を抑えているのか、拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵。しかも、忌み子とそいつを匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

 しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子で返す。

 

 

 「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

 「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

 「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

 「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 

 「そうだ」

 

 あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックと俺を交互に睨む。

 

 聞くに、フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。

 

 だが、口伝に対する認識には差があるようだな。

 

 アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うようだ。

 アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種。確か……二百年くらいが平均寿命だったと記憶している。だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

 そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。面倒くさい予感に俺はつい、ため息が漏れる。

 

 そんなときだった。

 

 「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、俺に向かって突進してきた。

 

 突然のことで周りは反応できない、アルフレリックもまさかいきなり襲いかかるとは思わなかったのか目を見開いている。

 熊人族は亜人の中でも特に耐久力と腕力に優れた種族と言われているらしいが……、

 

 まぁ、俺に敵意を向けるなら容赦はしない。余裕で対処できる攻撃に、俺はナナキを片腕に抱きかかえなおして対応しようとしたが、次の瞬間。

 

 

 「がッ!?」

 

 「お?」

 

 俺の懐から、熊人族の豪腕よりも更に太く、長い灰色のゴムのような質感の大きな腕が熊人族の男の首に伸びる。

 

 その腕はそのまま熊人族の男の首を締め上げ、その巨体を地面から数cm浮かせている。

 

 苦しそうに藻掻く熊人族含め、俺とユエ意外のその場にいた奴らは信じられないと言う目で、俺を……いや、俺の懐に抱えられているソレ(・・)を凝視する。

 

 「起きたか?ナナキ」

 

 「GuRuuuuuuuuuuuッ!!

 

 そう、何を隠そう。俺の弟ナナキが、起き抜けに片腕を変質させて、その華奢な体から似つかわしくない凶悪な豪腕を生やしている。

 

 「あにぃいをぉおおッ……」

 

 ナナキはその鋭い牙を食いしばり、怒りの形相で熊人族の男を睨みつけている。その腕の筋肉が隆起し、ミシミシと熊人族の首を絞めていく。そして、

 

 

 「いじめるなぁああああああああああああッ!!

 

 「ヒイィィィイイイ!!?」

 

 

 

 どうやら、俺がイジメられていると勘違いしたナナキが、その異形の力を底しれぬ怒りと共に、熊人族の男に向ける。完全サメナナキではないにも関わらず、その叫びに乗せられた威圧感が辺り一帯を埋め尽くし、首を絞められた熊人族の男をはじめ、他の亜人達も恐怖に身を震わせている。

 そして、その叫びを一身に受けた熊人族の男は藻掻きながら白目をむく。泡を吹き出し、苦しげに掴んていたナナキの手首から腕がだらんと落ちてその体から力が抜けるのを感じる。

 

 あっやべ……これ、殺しちゃうんじゃね?

 

 そう思った俺は、腕から伝播するようにまた全身を変質化させようとしていたナナキを静止させる。

 

 「やめろ、ナナキ。」

 

 『グぅ〜」

 

 

 それでも尚、唸り声を上げて腕に力を入れるナナキの頭を俺は撫でながら優しく言い聞かせてやる。

 

 「兄ちゃん達は平気だ。ナナキだって、兄ちゃんとユエ姉ちゃんが強いのは知ってるだろ?」

 

 「うぅ〜ッ」

 

 「だから大丈夫だ。ナナキ、離してやれ」

 

 「………………んっ」

 

 

 そう言うと、しばらく拗ねたように押し黙ったナナキはペイッと乱暴に熊人族の男を放り投げた。そして変質していた腕が風船が縮む様に萎んで元のちっちゃくてカワイイ手に戻る。

 

 ほっぺをぷくぷくと不機嫌に膨らませたナナキに苦笑いをしつつも俺は一瞬で切り替え、長老達に殺意を宿らせた視線を向ける。

 

 「で? お前らは俺の敵か?」

 

 俺の言葉に慄く長老達。だがその内の一人、低身長で髭モジャの亜人、土人族(俗に言うドワーフ)が声を荒げる。

 

 「ふ、ふんっ!子供の威に隠れていい気になっているだけの者が何を抜かすか!!」

 

 どうやら幸せな勘違いをしているようなので、ちゃんと説明してやらないとな。

 

 俺は今度は全身から殺気を漲らせ、さらに睨みをきかせる。

 

 「言っておくが、コイツは俺のカワイイ弟なんだ。本当に昔っから手を焼かされたもんでな(・・・・・・・・・・・・・・・)。長老名乗るんなら、この言葉の意味……わからないほどあんたらもバカじゃないだろ?」

 

 俺の言葉に今度こそ顔を青ざめて押し黙る土人族。先程、熊人族の長老を張るほど強い男を下した子供。その子供(化物)の兄を名乗った俺が、昔から世話を焼いたなんて聞かされたら一体どんな風に想像するのか……。よって俺の問いに答えられるものは誰一人としていなくなった。

 

 その後はアルフレリックがなんとか執り成し、両者共落ち着いて話し合いの席に付けた。

 現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、俺たちと向かい合って座っていた。先程ナナキが下した熊人族のジンは、そのまま医務室に運ばれていった。俺の傍らにはユエとナナキとカム、残念ウサギが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。

 

 長老衆の表情は、アルフレリックを除いて緊張感で強ばっている。

 

 「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ? 俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……亜人族(・・・)としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう? あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺たちはお人好しじゃないぞ」

 

 「GuRuuuuuuuuuuuッ」

 

俺の言葉に呼応するように牙をむき出し、尻尾を吊り上げて唸るナナキ。俺とユエからしたらその姿は、ただカワイイだけだが……。そんな俺たちの様子に長老衆は身を強張らせる。俺たちが、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたらしい。

 

 「こちらの仲間を早々に傷つけておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

 

 

 グゼとか言う土人族が苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟く。

 

 「は? 何言ってるんだ? 先に殺意を向けてきたのは、あの熊野郎だろ? 弟は俺を守ってくれただけだ。それで痛い目を見たのはアイツの自業自得ってやつだよ」

 

 「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつも国のことを思って!」

 

 「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」

 

 「そ、それは! しかし!」

 

 「勘違いするなよ? 俺らが被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ? なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」

 

 さっきから土人族のオッサンがキャンキャンうるさい。俺は至極まともなことを言っている。だが先方は、なんか納得いってないらしい。まぁそれを態々汲み取ってやるほど、こちらはお人好しではないがな。

 

 「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

 アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけた土人族のオッサンは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。

 

 「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 そう言ったのは狐人族の長老ルア。糸のように細めた目で俺たちを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 

 それを受けて、翼人族、虎人族の長老も渋々ながら同意する。それらを確認するとアルフレリックが代表して告げてくる。

 

 「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

 

 「絶対じゃない……か?」

 

 「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回負傷したジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

 

 「それで?」

 

 俺の粗野な返事を受けても、アルフレリックは変わらず強い意志のある目で俺を見る。

 

 「お前さんらを襲った者達を殺さないで欲しい」

 

 「……殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

 

 「そうだ。お前さん達の実力なら可能だろう?」

 

 「あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろうな。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。弟にもそう教育している。あんたの気持ちはわかるけどな、そちらの事情は俺らにとって関係のないものだ。」

 

 奈落の底で培った、敵は全て殺す。この価値観は俺の心の奥に根強く染み付いている。

 殺し合いの場では何が起こるかわからない。ちょっとの油断で死ぬこともあり得るんだ。

 

 「そういうわけで悪いが、同胞を死なせたくなきゃ死ぬ気で止めてやれ」

 

 「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 俺の返答に納得できなかったのか、虎人族の長老ゼルが口を挟む。その物言いに俺は訝しげに顔を顰める。

 

 「いや、別にお前らに案内して貰うつもりはねぇよ」

 

 そう、もとより案内はハウリア族に任せるつもりだ。フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはない。そのことは、こいつらも知っているはずなんだが……?その時、虎人族の次の言葉で奴の真意が明らかになる。

 

 「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 

 虎人族の言葉に、残念ウサギ……シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もコイツを責めないのだから情の深さは本当に折紙付きだ。

 

 「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

 

 「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

 

 「でも、父様!」

 

 土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、虎人族の言葉に容赦はなかった。

 

 「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

 ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。こいつら亜人族の中では長老会議での決定は絶対の真実なんだろう。他の長老達も動く気配はない。おそらく、忌み子であるということよりも、そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。ハウリア族の家族を想う気持ちが事態の悪化を招いたとも言える。全く、何とも皮肉な話だ。

 

 その場の空気がシリアス一色に染まった次の瞬間だった。

 

 「そういうわけだ。これで、貴様らが大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうす━━━

 

 「なんでそんなイジワルいうの?

 

 は………?」

 

 

 まるで勝ち誇ったかのように、俺達を見下す虎人族に、ナナキが間の抜けた声で反論を返す。虎人族のオッサン含め、他の長老たちも啞然とした顔で、ぷくぷくと頬を膨らませた赤い顔で、尻尾をバシンッバシンッと床に叩きつけているナナキに目をやる。

 

 ナナキはいつの間にか立ち上がっており、その身全体で不機嫌さをアピールしている。どうやら相当怒っているようで鼻息も荒い。

 

 「い、……いじわるも何も、これは我等フェアベルゲンの掟なのだ。部外者の…、ましてや子供がいけしゃあしゃあとしゃしゃり出てくるでないわ!」

 

 

 最初こそ、ナナキのマイペースさに流れを崩された虎人族。先程恐ろしい力み見せつけた子供(怪物)から出た言葉だ。身構えるのも無理はない。だが、気持ちよく語っていたところを邪魔されたことで、恐怖よりも苛立ちが先行し、直ぐに調子を取り戻す虎人族は強くナナキを怒鳴りつける。

 

 しかし、いくら悪意をぶつけようとも、純粋の塊たる俺の弟は止まらない。

 

 「ワカラナイッ!なんでウサギさんわるくいわれてるの?ウサギさん、なにかわるいことしたの?」

 

 「そいつは魔力を直接操る、魔物の力を持っている忌子だ!忌子として生まれてきたばかりか、その忌子をハウリア族は匿ったのだ。掟を破ったこの者達は、死ぬ以外道は残されていないのd━━ッ

 

 「ワカラナイッワカラナイッ!!なんで?ねぇ、なんで?……ただうまれてきただけなのに、なんでそんなわるくいわれなきゃいけないの?まりょく?ちょくせつあやちゅる?それのなにがだめなの?」

 

 「いや、だ、たから、それは掟で━━━

 

 「おきて、ナナキしってる!ルールのこと。でも、なんでそんなルールあるの?なんで?まりょくちょくせつあやちゅったらしななきゃだめなの?ねぇ!なんで!?」

 

 「それは、危険だかr━━━

 

 

 「なんで!?なんできけんなの?ナナキ、ウサギさんにきいたよ!ウサギさん、“みらい”みえるッ!すごいよ!べんりだよ!!ねぇ、なんでだめなの!?なにがきけんなの!?ねぇッ!!」 

 

 「だ……だから」

 

 

 それは、知りたがりな子供が、たまに見せる教えて教えて攻撃。あまりの猛攻に虎人族のオッサンもタジタジになっている。

 あれは俺も一度やられたことがある。R18な同人誌を運悪くナナキに見られたとき、「ねぇ?なんでこのひとたちはすっぽんぽんでだきついてるの?」なんてキラキラした瞳で質問攻めを受けた。あれはかなり辛い。

 

 だが、ナナキのこれはあのときと少し違う。それを証明するように、次の瞬間、ナナキの様子が変わる。

 

 「やっぱり……そうなんだ……。」

 

 突然勢いの止んだナナキに、長老達だけでなく、後で縮こまっていたハウリア達も訝しむ。すると、ナナキはガバッと顔を上げて、ビシッと虎人族のオッサンに人差し指を突き出す。

 

 「トラさん!ウサギさんがうらやましいんだ!!

 

 

 「はぁ!?」

 

 ナナキの突然の物言いに慄く虎人族、だがナナキはそれだけでは終わらない、

 

 「トラさんだけじゃないよ!ヒゲモジャさんも、トリさんも、キツネさんも、エルフさんも、みんなみんな、ウサギさんがうらやましいんだ!!みんな、しぶんができないことできるウサギさんがキライなんだ!!だからイジメるんだ!!」

 

 それを聞いて、アルフレリック以外の亜人達はビクッと体を跳ね上げる。おそらく、自分まで口撃の的にされるとは思いもよらなかったのだろう。しかし、アルフレリックだけはナナキの言葉を真剣な眼差しで聞き入っていた。

 

 「こ、小僧〜ッ言わせておけば!!」

 

 虎人族のおっさんを筆頭に、土人族、翼人族と、俺達に否定的だった奴らが顔を真赤にして、立ち上がる。どうやら相当ご立腹のようだ。

 

 「イジメッてダメなことなんだよ!!バカがすることなんだよ!!やぁーいバァーカバァーカ!!い〜けないだいけないだッせーんせいにいっちゃ〜お〜♪!」

 

 「「「いや、せんせいって誰だよ!!」」」

 

 その後はもう、ナナキはまるで子どもの喧嘩のように騒ぎ出す。ハウリア達も、先程までのお通夜ムードは消え失せ、この意味のわからない状況に、ポカンとしている。

 

 まぁ、だが実際はそうだなと、俺もナナキの言葉に納得する。

 

 魔力を操る。魔物の力。だが、これは今虐げられる立場にある亜人族にとってはまたとない好機でもあるはずだ。今、亜人族が下に見られる要因として魔法を扱えないという点がある。いくら身体能力が高くてもこの樹海の外じゃ、魔法で蹂躙されるのは目に見えている。だが今、こうしてシアのやつを筆頭に魔力を持つものが増えていけば、他の種族に対抗できる手段を手に入れることができる。

 

 しかし、そうはせず。掟だからと排斥するのは俺の目からも、思考停止、もしくはただ、気に入らないから排除すると言う、まるで子供の癇癪のようで狭量に見えて仕方ない。

 

 そしてそれを真っ直ぐに指摘するナナキを見て、悪い子悪い子と口では言いながらも、その根底の優しさは一切移ろわない弟についついほっこりと気持ちが和んでしまう。

 

 「ナナキの言うとおりだな……バカだよお前ら」

 

 突如口を開いた俺に、亜人達は視線を向ける。

 

 「なっなんだと!?」

 

 俺の物言いに、虎人族のおっさんは目を吊り上げる。兎人族達も、唖然とした顔のまま、俺へと視線を向ける。

 

 「いや、バカだろ?そもそもの話、俺たちにとってお前ら亜人の事情なんか知ったこっちゃないんだよ。それに、俺からこいつらを奪うってことは、結局、俺の行く道を阻んでいるのと変わらないってこったろうが」

 

 俺は長老共を睥睨しながら、無意識に泣き崩れるシアの頭に手を伸ばす。

 

 「俺から、こいつらを奪おうってんなら……覚悟を決めろ」

 

 「…ハジメ、さん……」

 

 

 

 「……本気かね?」

 

 アルフレリックが誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光で俺を射貫く。

 

 「当然だ」

 

 俺の答えは既に決まっている。この世界に対して自重しない、邪魔するものには妥協も容赦もしない。奈落の底でユエとナナキへも言葉にした決意だ。

 

 その後も、アルフレリックは何としても俺から交渉材料を得るために、フェアベルゲンから案内も出すと口にする。

 だが、なんと言われようと俺の応えは変わらない。

 

 「何度も言わせるな。俺の案内人はハウリアだ」

 

 「GuRuuuuuuuuuuuッ!!」

 

 俺同様に前のめりなナナキ、兄弟揃って射殺さんばかりの視線を向ける俺達にアルフレリックは更に鋭い眼差しで応戦する。

 

 「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

 またぞろ面倒な事を聞いてきたアルフレリックに俺は顔を顰める。俺は先程からこちらを見つめるシアと、威嚇するように唸り続ける弟に目をやる。

 

 ナナキを手で制して座らせると、再び口を開く。

 

 「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」

 

「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう? なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう。」

 

「問題大ありだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ……」

 

 俺は一度、言葉を切って今度はユエを見た。ユエも俺を見ており目が合うと僅かに微笑む。それに苦笑いしながら肩を竦めてアルフレリックに向き合い告げた。

 

 「格好悪いだろ?」

 

 闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ。殺し合いにおいて、俺はこれらの行いを悪いとは一切思わない。生き残るために必要なら何の躊躇いもなく実行して見せる。

 

 しかし、だからこそ、殺し合い以外では守るべき仁義くらいは守りたい。それすら出来なければ俺は、本当に唯の外道に堕ちちまう。俺も男でそして兄ちゃんだ。奈落の底で出会った傍らの恋人と愛する弟がつなぎ止めてくれた一線を、自ら越えるような醜態は絶対に晒さない。

 

 俺たちが引かないと悟ったアルフレリックはどこか疲れた顔で提案する。

 

 「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

 「アルフレリック! それでは!」

 

 「ゼル。わかっているだろう。彼等が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

 

 「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

 「だが……」

 

 虎人族のおっさんとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。やはり、危険因子とそれに与するものを見逃すということが、既になされた処断と相まって簡単にはできないようだ。悪しき前例の成立や長老会議の威信失墜など様々な思惑があるのだろう。

 

 そんな中、ナナキが再びその尻尾を床にバシィィンッ!!と、叩きつけた。

 

 その音に驚いた長老達がこちらに顔を向ける。今度は威力が強すぎたのか床に穴も空いている。

 長老達がこちらに向き直るのを確認すると、ナナキは声高らかに言い放つ。

 

 「ナナキも、まりょく、あやちゅれる!ナナキもサメのかいじゅうだもん!!」

 

 そう言うと、ナナキは顔だけを変質させて、巨大なサメの頭を出現させる。

 

 

 『GuRuAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!

 

 その大きく開け放たれた顎から雄叫びが上がり、長老達の身を震わせる。それに便乗するように、俺も右手から“纏雷”を使用して見せる。

 

 「見ての通り、俺と弟、後そっちのユエもシアと同じように魔力を直接操れる。あんたらの言う化物ってやつだ。だが、口伝では“それがどのような者であれ敵対するな”ってあるんだろ? 掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくちゃならないんだ。シア一人見逃すくらい今更だと思うぞ?」

 

 しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる。

 

 「はぁ~、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 

 「……いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

 

 「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

 

 「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

 

 

 俺の言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ! という雰囲気である。だが、そんな雰囲気を肌感覚で感じ取るナナキは、俺に否定的な長老達にその凶悪なサメの顔で、『GuRuuuuッ』と唸りながら睨みを利かせ、睨まれた長老達は小さな悲鳴を上げている。その様子に肩を竦める俺は、ナナキの顔を撫でて戻るように言ってやる。顔が萎んで元のナナキの顔に戻るのを尻目にユエやシア達を促して立ち上がる。

 

 

 ユエは終始ボーとしていたが、話は聞いていたのか特に意見を口にすることもなく俺達に合わせて立ち上がった。

 

 しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。

 

 

 「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

 俺の言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行く俺等の後を追うハウリア達。アルフレリック達も、一応は門まで送ってくれるようだ。

 

 シアの野郎が、オロオロしながら尋ねてくる。

 

 

 「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

 

 「? さっきの話聞いてなかったのか?」

 

 「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。どう処理していいのか分からず困惑するシア達にユエとナナキが呟くように話しかけた。

 

 「……素直に喜べばいい」

 

 「ユエさん?」

 

 「……ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

 

 「ウサギさんたち、もうだいじょうぶだよ!」

 

 「……」

 

 

 二人の言葉に、シアはそっと隣を歩く俺にに視線をやる。

 

 

 「まぁ、約束だからな」

 

 「ッ……」

 

 

 

 ぶっきらぼうに告げた俺の言葉にシアのやつが、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアとコイツの家族の命を守る。シアが必死に取り付けた俺達との約束だ。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 シア・ハウリアは元々 “未来視” により、ハジメ達が守ってくれる未来は見えていた。しかし、それで見える未来は絶対ではない。シアの選択、それによって引き起こされる外的要因によって、いくらでも変わるものなのだ。現に、帝国兵の騒動のとき、ナナキ一人の蹂躙劇という未来はハジメの参入という形で塗り替えられた。だからこそ、シアは彼等の協力を取り付けるのに“必死”だった。相手は、亜人族に差別的な人間で、シア自身は何も持たない身の上だ。交渉の材料など、自分の“女”か“固有能力”しかない。それすら、あっさり無視された時は、本当にどうしようかと泣きそうになった。

 

 それでもどうにか約束を取り付けて、道中話している内に何となく、ハジメなら約束を違えることはないだろうと感じていた。それは、自分が亜人族であるにもかかわらず、差別的な視線が一度もなかったことも要因の一つだろう。だが、それはあくまで“何となく”であり、確信があったわけではない。

 

 だから、内心の不安に負けて、“約束は守る人だ”と口に出してみたり“人間相手でも戦う”などという言葉を引き出そうとしてみたりした。実際に、人外の弟に任せるだけでなく、自分から何の躊躇いもなく帝国兵と戦ってくれた時、どれほど安堵し、感動したたことか。

 

 だが、今回はいくらハジメでも見捨てるのではという思いがシアにはあった。帝国兵の時とはわけが違う。言ってみれば、帝国の皇帝陛下の前で宣戦布告するに等しいのだ。にもかかわらず一歩も引かずに約束を守り通してくれた。例えそれが、ハジメ自身の為であっても、ユエの言う通り、シアと大切な家族は確かに守られたのだ。

 

 先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……

 

 シアは、ユエの言う通り素直に喜び、ナナキが言うように、「もう大丈夫!」と緊張を解くと、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、ハジメに全力で抱きつく!

 

 

 

 「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

 

 「どわっ!? いきなり何だ!?」

 

 「むっ……」

 

 「うぅ〜?」

 

 泣きべそを掻きながら絶対に離しません! とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリとハジメの肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。

 

 それを見たユエが不機嫌そうに唸りるも、何か思うところがあるのか、ハジメの反対の手を取るだけで特に何もしなかった。そんなユエの様子を見て、ナナキは不思議そうに首を傾げている。

 

 喜びを爆発させハジメにじゃれつくシアの姿に、ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。

 それを何とも複雑そうな表情で見つめているのは長老衆だ。そして、更に遠巻きに不快感や憎悪の視線を向けている者達も多くいる。

 

 

 

 ハジメはその全てを把握しながら、ここを出てもしばらくは面倒事に巻き込まれそうだと苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 





 ナナキ君の尻尾は特になにもしてない時はフワッフワのフッカフカだが、魔力を込めるとちょ~カチコチになる。
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