これから更新頻度悪くなるかもしれませんが、絶対に1週間に一話は出しますし、なるべく毎日投稿できたらいいなとは思ってます!
レギン・バントン。
熊人族最大の一族であるバントン族の次期族長との噂も高い実力者。
現長老の一人であるジン・バントンの右腕的な存在でもあり、ジンに心酔にも近い感情を抱いていた。
それはレギンに限った話ではなく、バントン族全体に言えることで、特に若者衆の間でジンは絶大な人気を誇っていた。その理由としては、ジンの豪放磊落な性格と深い愛国心、そして亜人族の中でも最高クラスの実力を持っていることが大きいだろう。
しかし、そんなジンも今では自分の部屋に引き籠もって出てこない。
そりゃそうだ。
どんな豪傑と言えど、自分以上の強者……いや、捕食者に睨みつけられ、圧倒的、そして純粋な殺意を真正面から向けられて正気でいられるものなどそう多くないだろう。
特に深く過ぎた愛国心が故、外界との交流を断ち、あらゆる
レギンを筆頭に熊人族達はタチの悪い冗談だと思った。だが、まるで別人のように、大きな体を縮こませ寝床に蹲るジンの姿を目の当たりにしたことで、これが現実と悟ったレギン。
呆然としたレギンは次いで、煮えたぎるような怒りと憎しみを覚えた。腹の底から湧き上がるそれを堪える事もなく、現場にいた長老達に詰め寄り一切の事情を聞く。そして、全てを知ったレギンは、長老衆の忠告を無視して熊人族の全てに事実を伝え、報復へと乗り出した。
長老衆や他の一族の説得もあり、全ての熊人族を駆り立てることはできなかったが、バントン族の若者を中心にジンを特に慕っていた者達が集まり、憎き
“目的を眼前に果てるがいい!” と。
相手は人間と兎人族、こいつらは恐るるに足りん。唯一の懸念点である異形の幼子は、変異することを頭に入れておけば、ただ力を持つだけの稚児も同然。対処は魔物とそう変わらないだろう。
レギンは優秀な男だ。普段であるならば、そのようなご都合解釈はしなかっただろう。深い怒りが目を曇らせていたとしか言い様がない。
だが、だとしても、己の目が曇っていたのだとしても……
「これはないだろぉお!?」
レギンは堪らず絶叫を上げる。なぜなら、彼の目には亜人族の中でも底辺という評価を受けている兎人族が、最強種の一角に数えられる程戦闘に長けた自分達熊人族を蹂躙しているという有り得ない光景が広がっていたからだ。
「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」
「血だぁ!血を見せろぉおお!!」
「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」
「汚物は消毒だぁ! ヒャハハハハッハ!」
ハウリア族の哄笑が響き渡り、致命の斬撃が無数に振るわれる。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な兎人族の面影は皆無だった。必死に応戦する熊人族達は動揺もあらわに叫び返した。
「ちくしょう! 何なんだよ! 誰だよ、お前等!!」
「こんなの兎人族じゃないだろっ!」
「うわぁああ! 来るなっ! 来るなぁあ!」
奇襲しようとしていた相手に逆に奇襲されたこと、亜人族の中でも格下のはずの兎人族の有り得ない強さ、どこからともなく飛来する正確無比な弓や石、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、嬉々として刃を振るう狂的な表情と哄笑! 更には、
「おいッそいつは俺の獲物だろうックソガキィ!!」
「うるせぇバァカ!!早いもん勝ちだろうがよぉ!」
互いが互いを利用し合う、もはや連携と言っていい高度な動きの中で、僅かに見られる諍い。その内容は大人と子供。どちらが敵を殺したのかと、手柄の取り合いをするという狂気の光景。恥も捨てて諍いの隙を突いて攻撃をしようとも、その横合いから気配を消して潜んでいた別の兎人族に殺される始末。
それら全てに激しい動揺を生み、スペックで上回っているはずの熊人族に窮地を与えていた。
元々、兎人族は他の亜人族に比べて低スペックだ。しかし、争いを避けつつ生き残るために磨かれた危機察知能力と隠密能力は群を抜いている。何せ、それだけで生き延びてきたのだから。
そして、敵の存在をいち早く察知し、気づかれないよう奇襲できるという点で、彼等は実に暗殺者向きの能力をもった種族であると言えるのだが、生来の温厚な性分が、これらの利点を全て潰していた。
そこでハジメとナナキが施したのだがハー●マン式罵倒のオンパレード特訓で、彼らの精神は完全な戦闘者のそれとなった。
躊躇いのない攻撃性を身に付けた事により、中々の戦闘力を身に付けた両ハウリア達。
そこに更に、兎人族の特性としての本来の非力さを補う為、ハジメから与えられた。タウル鉱石製の小刀二刀と、それと同様の投げナイフ複数をはじめ、パルこと“必滅のバルトフェルト君”を筆頭に少年たちが使うクロスボウ。マナこと“撲滅マーナリーブァちゃん”が使う金属バットもどきの棍棒等など、
こういった数多くの武装も、両ハウリア達の戦闘力が飛躍的に向上した理由の一つだ。
必滅のバルトフェルド君など、すっかりクロスボウによる狙撃に惚れ込み、一端のスナイパー気取りである。
そんな乱戦……いやむしろ虐殺といった戦場で既に異質なハウリア達の中でも突出して猛威を振るう影が二つ。
そう、両族長。カム・ハウリアとアルこと“血染のアルマレジーナちゃん”である。
カムはシンプルに二刀の小刀を用いた戦闘だが、そのスピード、パワーに至るまで他のハウリアたちよりも一線を画している。
流石は、化け物パワーの持ち主シアの父様である。
対して血染のアルマレジーナちゃんは、その戦闘スタイルは飛び抜けて異質だった。
他のハウリアと違って所持している小刀は一刀のみで、それもあくまで予備武器程度の扱い。本命の主武器、それは……
ギャリギャリギャリギャリッ
「ぐおっ!?」
「くっ首がぁ!?」
「カペッ!?」
生物の背骨のような禍々しい紐状の何かが熊人族の男の首を一斉に絞め上げたと思った、次の瞬間
ブシャアアアアアッ!!!
アルマレジーナちゃんが腕を引いたと同時、三人の熊人族の男たちの首は一瞬で刈り取られ、後には頭部のない首から血潮の噴水を吹き出す三つの巨体のみが残った。
アルマ(以下略)ちゃんの武器。それは蛇腹剣を模した鞭。生物の背骨と思われていたものは、よく見れば縦に連なる鋭い牙の集合体であったのだ。
この武器もハジメお手製のもの……と
というのも、アルマちゃんの天職は“手芸師”小物やアクセサリー、服飾用品の製作に特化した生産職。簡単に言えばハジメの“錬成師”の下位互換的扱いの天職である。
何故下位互換か?その理由は、手芸師は錬成師と違い武器を作ることができないからである。
であれば、この蛇腹剣もどきは一体何なのか?
まず、この蛇腹剣の素材はアルマちゃんが自分のブレスレットや首輪などに使っている何かの牙を、ハジメ提供の奈落産蜘蛛の糸に通したものである。この糸は伸縮性、強度と共に抜群で、パル君達のクロスボウにも利用されている。
アルマちゃんも最初は、蛇腹剣もどきなど、作るつもりは無かったのだが……
ある日、ネックレスを製作していたアルマちゃん。想い人であるナナキに自分とお揃いのネックレスを、プレゼントとして作っていたのだ。
しかし作業中、プレゼント相手のナナキの事で頭が一杯になり、ふと自分とナナキがお揃いのネックレスを付けて樹海デートをしているの姿を想像した事でトリップ状態になってしまったアルマちゃん。
彼女はそのまま、作業に異常なほどのめり込み、そのネックレスが、もはやネックレスと呼べないほど長大化している事に気づかなかった。
そんなとき、アルマちゃんはトリップしていたことで自分に襲いかかる魔物の接近に気がつかなかった。
気付いた時には魔物は霧の向こうから自分の背後直ぐ側にまで出て来ていた。しかしそこはナナキの特訓の賜物か、アルマちゃんは慌てることなく一瞬でその魔物を排除してみせた。
その時、咄嗟の事で手に持っていた製作中の……どころか、長く作りすぎてしまったネックレスを逆袈裟に振り上げてしまっていた。しかし、そのネックレス(失敗作)は意外にも彼女の手に馴染んだことにより、長さも長すぎということでそのままアルマちゃんの専用武器として使用されることになった。
つまり、これは鞭というよりかネックレス。正確には武器ではないと言うことである。
しかしその鞭捌きは堂に入っていて、もはや武器と言っても差し支えなかった。
アルマちゃんはその手より振り出されるリーチの長い斬撃で次々と熊人族の首を刈り取っていく。
しかしこの長く重い武器。本来取り扱いが難しく、兎人族では腕力が足りずに到底扱えない代物のはずだった。
しかし、アルマちゃんは誰よりも地獄のハート●ン式、ナナキズブートキャンプにのめり込んだ猛者。
今や彼女のナナキへの愛は、もはや乙女の初々しい初恋の域を逸脱し、狂信的な信仰にも近いの様相を呈してしまっている。そんな彼女が信仰の対象であるナナキからの指導なんてご褒美。聞き流すはずもなく余さず全てを吸収していき、 気づけば彼女の腕力は、シアを除いたハウリア達で一番の怪力へと変貌していたのだ。
ちょっと重いだけの紐なんて、持ち上げ振り回す事など造作もない。
次々に落とされていく熊人族の首の切り口を見やるアルマちゃん。
その乱雑でズタズタの傷口は、この蛇腹剣鞭もどきが、ハジメ作の小刀ほど切れ味は良くないことと、熊人族の野太い筋肉の塊のような首を容易に切断できるほど強力な刃物であることを示している。
その乱雑な切り口はまるで、巨大な顎に喰いちぎられたかのような、何処か既視感を感じるものだった。
アルマちゃんは転がった死体を一瞥すると、恍惚とした顔で蛇腹剣・鞭もどきに頬ずりして、
「なんと羨ましい……。
と、頬に熊人族の返り血が着くこともいとわずにそう呟いた。
そう、先ほどから何の牙なのか不明だった蛇腹剣やアルマちゃん自身が身につけている首輪やブレスレットの原材料、それは何とナナキの定期的に抜ける抜け歯だったのだ。
ここでもナナキは相変らず迷信を信じて、野晒しのこの樹海では、代わりに寝床の枕の下に抜けた歯を入れる西洋風の迷信をなぞって過ごしていた。
それを知ったアルマちゃんは、どこぞのブラコンと同じように、抜け歯をその都度、ナナキの枕下から回収しいた。
だが、黙って持っていくのも悪いと、少しズレたおせっかいを焼いて、代わりに枕下にはおやつを忍ばせるという、地球の迷信を知る由もない筈のアルマちゃんが、奇跡的に迷信通りの行動をするといったミラクルを引き起こしていた。
そのため、毎朝枕の下に抜け歯の代わりにおやつが入っていたことに、ナナキは驚きながらも、とってもご満悦の表情を見せていた。
おやつを頬張ってモキュモキュするナナキの姿に、アルマちゃんは何度も川向うの両親と再会しかけたと言う。
閑話休題
しかし、そんな蛇腹剣・鞭もどきにも欠点はある。
まず、コレはどこまで行ってもただ長いだけのネックレスであり、武器ではないと言うこと。
武器として使うことを想定していないため、怪力と言えど取り回しにはどうしても大きな隙が生まれる。
そこをアルマちゃんは兎人族の従来の身軽さや、一刀のみ所持している小刀を利用することで凌いではいる。
更にこの蛇腹剣・鞭もどき、材質がシュタル鉱石と同じ性質を持つナナキの牙なだけあって、魔力を持たない普通? の亜人であるアルマちゃんでは、本来の切れ味を引き出せない。
まぁ、それでも。今回の熊人族相手ぐらいであれば何の問題もないのであるが……。
「レギン殿! このままではっ!」
「一度撤退を!」
「
「ハギュッ!?」
「トントォオッロイズゥウ!?」
そうこうしている間に、もはや最初の半数以上も数を減らされてしまった熊人族達。
一時撤退を進言してくる部下に、ジンを再起不能にされたばかりか部下達まで殺られて腸が煮えくり返っていることから逡巡するレギン。その判断の遅さをハウリアのスナイパーと鞭使いは逃さない。殿を申し出て再度撤退を進言しようとした部下。トントのこめかみを正確無比に貫き、ロイズの首を一瞬の内にえぐり取った。
それに動揺して陣形が乱れるレギン達。それを好機と見てカム達が一斉に襲いかかった。
霧の中から矢が飛来し、足首という実にいやらしい場所を驚くほど正確に狙い撃ってくる。それに気を取られると、首を刈り取る鋭い斬撃が振るわれ、その斬撃を放った者の後ろから絶妙なタイミングで刺突が走る。
だが、それも本命ではなかったのか、突然、背後から気配が現れ致命の一撃を放たれる。両ハウリア達は、そのように連携と気配の強弱を利用してレギン達を翻弄した。レギン達は戦慄する。
“これが本当に、あのヘタレで惰弱な兎人族なのか!?” と。
しばらく抗戦は続けたものの、混乱から立ち直る前にレギン達は満身創痍となり武器を支えに何とか立っている状態だ。喧嘩ながらの連携と絶妙な援護射撃を利用した波状攻撃に休む間もなく、全員が肩で息をしている。一箇所に円陣を組んで周囲を囲まれ、追い込まれたレギン達をカムやアルマちゃん達が取り囲む。
「どうした“ピッー”野郎共! この程度か! この根性なしが!」
「もっと抗えよッ!抗った末にその“ピー”を“ピー”させろぉッ!」
「最強種が聞いて呆れるぞ! この“ピッー”共が! それでも“ピッー”付いてるのか!」
「さっさと武器を構えろ! 貴様ら足腰の弱った“ピッー”かぁ?コラァ!」
兎人族とは思えない罵詈雑言に、熊人族の勇士たちの中にも「もうイジメないで?」と涙目で訴える者もちらほら見え始める。
「チェックメイト……でしてよ?」
「クックックッ、何か言い残すことはあるかね? 最強種殿?」
レギンの後方からアルマちゃん、前方からカムが、実にあくどい表情で皮肉げな言葉を投げかける。闘争本能に目覚めた今、見下されがちな境遇に思うところが出てきたらしい。前の二人からは本当に考えられないセリフだ。
「ぬぐぅ……」
レギンは、カムの物言いに悔しげに表情を歪める。混乱から立ち直ったレギンは怒りは未だに燻らせつつも、ハウリア達の強襲によりその瞳には理性が戻っていた。
「……俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、部下は俺が無理やり連れてきたのだ。見逃して欲しい」
今は、私怨から目を曇らせ、同族を窮地に追いやってしまった責任感により、まだ無事な部下たちは生かして返そうと必死にカムへと頼み込む。
「なっ、レギン殿!?」
「レギン殿! それはっ……」
「だまれっ! ……頭に血が登り目を曇らせた私の責任だ!」
途端にざわつき始める部下たちに、レギンが一喝する。
「兎人族……いや、ハウリア族の長殿。勝手は重々承知。だが、どうか、この者達の命だけは助けて欲しい! この通りだ」
武器を手放し跪いて頭を下げるレギン。部下達は、レギンの武に対する誇り高さを知っているため敵に頭を下げることがどれだけ覚悟のいることか嫌でもわかってしまう。だからこそ言葉を詰まらせ立ち尽くすことしかできなかった。
頭を下げるレギンと立ち尽くす熊人族達。
しかし、
「だぁめッ!ですわよ」
そんなねっとりとした拒絶の言葉と共に、
ギャリギャリギャリギャリッと金切り音を鳴らしながらアルマちゃんが蛇腹剣・鞭もどきを奔らせる。
それは瞬く間にレギンを含めた熊人族達全員の首を真綿の様にジリジリと絞め上げる。
「ぐぅッ!?な、何故!?」
ゆっくりと締め上げるため切断こそされなかったレギン達の首。しかし流石の切れ味か、刃を肉をはみ血が滲んでいる。
レギンは苦しげに問答無用の攻撃の理由を問う。
「何故?そんなモノあなた方が敵だから。それ以外に理由が要りまして?」
アルマちゃんの答えは実にシンプル。返ってきた答えに驚愕するレギン。だが彼女の狂気はこんなもんじゃなかった。
驚くレギンを置いてアルマちゃんは捲し立てる。
「あぁ!ッああぁぁ何と嘆かわしい。弱い、弱すぎてつまらないッ!我々にとってあなた方は語る相手に値ません!!
鈍間ッ!愚鈍ッ!なんて個性の薄弱なことかッ!敵と呼ぶのすらも烏滸がましかったかもしれませんわ!
あなた方のようなウドの大木は、せいぜい私共の新たなる生誕とナナキ様の贄になる事に感謝にむせび泣いて逝きなさいなッ!!」
そう言うとアルマちゃんは締め上げる力を強める。
「ぐぉぉ!おのれッ……こんな……奴ら……に……」
レギン達が、もはや万事休すかと思ったその時。アルマちゃんを背後から襲う影があった。
キイイィィィンッ
と金属がぶつかり合う金切り音が響く。
アルマちゃんは蛇腹剣・鞭もどきを持つのとは別の手に持つ小刀を使い、ノールックでその攻撃を防ぐ。
「何のつもりですか?
「なぁに、抜け駆けをする悪ガキにお灸を据えているだけだよ」
その影の正体は何とカムだった。カムは全体重をかけて二刀でアルマちゃんの防御を押し返す。
流石のアルマちゃんも怪力とは言えど片腕での対処は面倒と思い、蛇腹剣・鞭もどきをレギンたちの首から解きカムへと向かわせる。
カムはそれを身を翻して交わす。
突如の仲間割れに事情を知らぬレギンは噎せながらその二人の様子に視線を向ける。
「抜け駆けとは心外ですね、先ほど何処かでも声が上がっていましたが、コレは早い者勝ちです。大将首ほど
「あれらを初めに追い詰めたのは我らだ。それを横からかすめ取るような真似をしよって。全くコレだからガキは……悪知恵ばかり覚えてからに……礼儀というものがなっていない。」
「礼儀?何を言うかと思えば、そんな物を遵守して目の前の勝利を逃してどうします。自然界では躊躇ったものから死んでいく。最初に教わってことでしょう?」
そう言って睨み合う両族長二人。忘れてはならないのが、今争っているのは彼ら両ハウリア達であり、彼らにとって熊人族達はあくまで勝負の行く末を表す指標だと言うこと。そういう意味では、アルマちゃんの言う通り、レギン達は敵ですらなかったのだろう。むしろ敵はハウリアの名前を賭けた両陣営同士。
自分たちを、放って勝手に一触即発の雰囲気を醸し出すハウリア達に困惑するレギン達熊人族。
「はぁ、やはりダメですねぇ。……彼らを仕留めたところで、結局はあなた方大人がそうやって出しゃばってくるのなら、先にあなた方をどうにかしなければなりませんよね?」
「全くの同感だ。やはり聞き分けのない子供にはきつぅいお仕置きを下さなければなるまいて……。」
「そうやって、上から物を言うのやめていただけますか?あなた方など、ただ歳を重ねただけのただの“ピー”でしょうに。あまり舐めた態度を取らないでくださいまし?“ピー”いたしますわよ?」
「ハッハッハ、あまり強い言葉を使わない方がいい。弱く見えるぞ?」
そのカムの言葉を最後にその場は静寂に包まれる。まるで限界まで引き伸ばされた弓の弦のような緊張感がその場を支配する。疲労困憊、満身創痍で座り込む熊人族を挟んで両ハウリアが睨み合う。
だが、何より彼らハウリアがボスと崇めるハジメの指令は、一族の統合だったはず。
その言いつけすら忘れて戦端を開こうとする彼らの姿はまさに理性を捨てた飢えた獣も同然。完全なる暴走状態に陥っていた。
お互いの牙を向け合い、今正に飛びかかろうとした瞬間。
「いい加減にしなさぁ~い!!!」
ズドォオオン!!
突如として、白き鉄槌が両ハウリアの間で全てを吹き飛ばす衝撃が炸裂した。
「はぁ!?」という間抜けな声を上げて呆然とするレギン達。そんな彼らの前に現れたのは、青白い髪をなびかせたウサミミ少女。怒り心頭!といった顔で登場したシアである。
そんなシアの背中から小柄な影が地面に降り立つ。その影はネオ・ハウリア……子供組に向き直ると、メキメキッという全身から骨格が無理やり組み変わる音と共に霧に映る影が肥大化していき、そして
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッ!!!』
大きく開け放たれた口から出た咆哮の衝撃で、そこら一帯の霧が一瞬で晴れる。樹海の木々から漏れる木漏れ日の光が、背中合わせとなったシアと巨大なサメの化物、完全体サメナナキの姿を照らす。
シアは手に持つ大槌をまるで重さなど感じさせずブオンッと突風を発生させながら振り回し、カム達へとビシッと突きつけた。
「もうっ! ホントにもうっですよ! 父様も皆も、いい加減正気に戻って下さい!」
そんなシアに、最初は驚愕で硬直していたカム達だが、ハッと我を取り戻すと責めるような眼差しを向けた。
「シア、何のつもりか知らんが、そこを退きなさい。後ろのガキ共を
「ッ!……いいえ、絶対退きません。これ以上は本当にダメです!」
シアの言葉に、カム達の目が細められる。
「まさかシア……お前もそちら側に与するのか。ならば……娘とて容赦は━━━ッ
「何故そうなるんですか!!私達は別に父様達と敵対しに来たわけではありません!!」
カムの言葉を遮るようにシアは声を張り上げる。
「ふむ、では何故お前は我らの前に立ち、我らの行動を阻む?」
そうカムが尋ねると同様に他のハウリアたちも怪訝な表情だ。
それを受けたシアは下を向き、わなわなと拳を震わせる。
「何故?……それ、本気で言ってるんですか?」
先程より怒気を孕んだシアの声音にカムをはじめ、どよめくハウリアたち。そしてシアが顔を上げる。その表情は、
「なっ!?」
怒りに歪みながらもその目尻からは滝のように涙を流していた。
突然のことにカムが声を上げるも、シアは驚愕する暇も与えず捲し立てる。
「この際、何で皆が争っているのかは聞きません!でも、でもそれは……それだけはダメなんです!!
せっかくハジメさんに助けられて、せっかく私も、皆も強くなったのに、家族同士でまた殺し合いなんて、そんなバカな真似しないでくださいよ!!」
ぐしぐしと腕で涙を拭ってシアは続ける。
「私だって、ユエさんに稽古をつけられた身です。殺意を向けて来る相手に手心を加えるなんて心構えでは、生き残れないし、ユエさんの特訓には耐えられません。私だって、もう甘い考えは持っていません。あっちの人たちみたいに他の敵なら私だって止めやしませんよ!」
「「「止めないのかよ!?」」」と声を大にして言いたかったレギン達だが、この真面目な雰囲気。下手に口出ししたらまたこちらにハウリア達の刃が付くのでは?と考え押し黙る。
毛むくじゃらの大男が数人身を寄せ合って縮こまる姿はいっそ哀れだった。
「せっかく拾った命をこんなとこで家族同士で散らすなんて……そんな事をすれば、父様達は取り返しがつかないほど堕ちて、壊れてしまいます。そもそも……」
そう言うとシアは、大槌を降ろしてカムの眼の前まで歩み寄りその手を取る。
「大切な家族だから止めるんです……それ以外に理由があると思いますか?」
そう言って笑顔で諭した。
それは兎人族の従来の性質。どんなときでも何があろうと見捨てないという家族を思いやる固い絆。
それはシア自身がここ数十年、生まれてから今まで守られてきた根幹であり、先ほどの戦闘でも見られた高度な連携は、いくらいがみ合っていても消え去ることのなかった彼らの絆の深さがなせる技でもあったのだ。
そんなシアの思いが届いたのかカム、いやその場にいたハウリア達がその瞳から暗い殺意の色が霧散し武器を持つ手から力が抜ける。
「シ……シア、すまない我々は、私は今まで何を……」
「ふぅ~、やっと少しは落ち着いたみたいですね。よかったです。最悪、全員ぶっ飛ばさなきゃいけないかもと思っていたので」
そう言ってシアは置いてきた大槌に視線を向ける。
シアの言葉は当然反対にいた子供組にも届いていた。ほぼ全員がその手から武器を取り落としている。
だが、それでも………
「ナナキ様ぁ~!いかがなさいましたかぁ?このような場所に一体どのような御要件で?」
盲目的にナナキを信奉するアルマちゃんのウサミミにはシアの言葉は一切届かなかったのだ。
「どうぞ!貴方様の忠実なる下僕たる私達めになんなりとお申し付けを……ッ!」
ハートマークでもつきそうな瞳でナナキへと擦り寄っていく。
しかし、そんなアルマちゃんへナナキは首を横に振り拒絶の意を示した。
『ナナキ……アルチャンタチ……トメニキタ』
それを聞いた子供組は勿論、アルマちゃんは誰よりも激しく動揺する。
「な……ナナキ……様?止めるとは……どういう」
『ソノママノイミ……モウ……タタカッチャ……ダメ』
そう言うとナナキは通せんぼするようにその広い両手を横に伸ばす。それをどう捉えたのか、アルマちゃんは瞳を爛々と妖しく輝かせ、口を開く。
「あぁ、ああああぁぁッひょっとして!ナナキ様、私とも……
良い、良いですわぁ!!今度こそ、その強大な牙を私に突き立てて、私も微々たるものですが貴方様の身に傷を作ってみせますわ!たとえ再生されようとも諦めませんッ!私のこの身、血潮の一滴に至るまで消費し尽くされようとも、お互いの身に、お互いの存在を、数々の
さあ、さあさあさあさあさあッ!死が二人を分かつまでッ気の遠くなるような
そう言うと同時に蛇腹剣をナナキに向かって振り上げる。まさかの事態に他のハウリア、子供組に至るまでその光景に小さな悲鳴を上げ、何人かはナナキを守るためにと駆け寄ろうとした。
だが、それら全てを決然とした顔のシアが制する。
アルマちゃんから繰り出される刃。それをナナキは
「はっ?」
抵抗することなくそのまま受けたのだ。予想外の事にアルマちゃんも驚いて間抜けな声が出る。
魔力は通っていないといえど、それはナナキ自身の牙。いくら頑強な体でも自らの牙でできた攻撃故に、多少の傷はついてしまう。
まさか、アルマちゃんも何の抵抗もなく攻撃を受けられるとは思っておらず、呆けた顔で立ち尽くす。
「ナナキ……様……」
『ナナキ、コンナコトシテモ……イタイダケデ、ゼンゼンタノシクナイヨ……』
呆然と呟くアルマちゃんに、ナナキがぽつり、ぽつりと語り出す。
『ナナキ……アルチャンタチニ、コンナコとしてほしくて、つよくなってほしかったんじゃないよ?」
ゆっくりとした足取りでアルマちゃんに近づくナナキは、その足を一歩一歩踏み出す度に変質化が解かれ、元の幼い姿に戻っていく。
「ナナキ……たしかに、まよったらしんじゃうっておしえた。でもそれはね、アルちゃんたちがじぶんをまもれるように、だいすきなかぞくやおともだちをまもれるようになってほしくて、とっくんしたんだよ?
ナナキも、あにぃにそうやっておしえてもらったから……。」
ナナキの言葉に戸惑うアルマちゃん。そのすぐ目の前までナナキは歩み寄る。
「ナナキもね、グスッ……あ…アルちゃんたちのきもち、わ、わかるんだ。ズビッ……つ、つよくなって、なんでもできるようになって、ほんとうのじぶんがわからなくなっちゃう…の…ヒック……そ、そうやってね、な、ナナキ。たいじなひとの……あ、あにぃのおてて、とっちゃったんだ……。」
ナナキの声が少しずつ涙で濡れ始める。服の裾を両手で強く掴み俯きながらズビズビ、と鼻を鳴らす。
恐らく奈落での自分の暴走と、彼ら……アルマちゃんたちの今の姿を何処か重ねて見ているのだろう。
あの日の罪悪感がぶり返し、気持ちが溢れてつい泣き出してしまったのだ。
そんな玉のような涙を流すナナキ。そんな想い人を気遣い、無意識にしゃがみ込むアルマちゃん。それと同時。
ガバっと顔を上げたナナキが、ちょうど良く目線が合ったアルマちゃんを抱きしめる。あのときハジメが、暴走した自分にそうしたように。
「ヒック……もう……やめて、アルちゃん……このままじゃ……ナナキみたいに
そのナナキの慟哭を耳元で聞いて、アルちゃんは衝撃に目を見開く。
そして気づく。自分の行ってきた所業を……。最初こそ彼女は行き過ぎたサイコな思想こそあったが、そこには確かに想い人ナナキに報いたいという芯があった。
だが、ナナキの言う通り力と狂気に溺れた彼女は、その想いの源泉を見失い、己の快楽や私利私欲を満たすために敵を殺めたばかりか、
思い出されたのは未だ無力な少女だった頃、ライセン大峡谷に逃げ込む寸前。彼女の両親は帝国兵に殺された。
アルは足が遅く逃げ遅れていた。そんな彼女を守るために両親は自分を物陰に隠し、最後まで帝国兵に抗っていた。
両親が無残に殺される現場を物陰から見ることしかできなかったアルはその後、帝国兵たちの醜悪な会話を耳にする。
「先輩、良かったんすかこいつ殺して?この女の兎人族もなかなかの上玉でしたよ?」
「俺もそう思ったんだが、隊長殿のご所望はあの白髪の兎人族だ。それ以外も捕獲できたらしたかったんだが、こうも抵抗されちまったら時間かかっちまって面倒だから、殺すしかないだろ?」
「それもそうっすね!あっははは!」
その様を見てアルは戦慄する。こんな残酷な話があって良いのか?と、
人の命をまるで物か何かの様に勝手な裁量で価値を決めつけ、優先順位をつけ、価値が低いと見たらゴミのように切り捨てる。そんな唾棄すべき所業。あの日アルは、あまりにも醜悪な帝国兵を目の当たりにして悔しさと怒り、そして両親の死に悲しみに沈んだ。
それを踏まえて、アルは改めて思い出す。
さて、自分は今何をした?そう、先ほども言ったように、熊人族との戦闘で、レギンという
親の仇である。あの、醜悪な帝国兵たちと同じように。
「うッ!?」
その耐え難い事実に、アルは一気に血の気が引き吐き気を催して口に手を当てるもギリギリで耐えると、恐る恐る口を開く。
「わ、私は……なんてことを……ッナナキ……様……も、申しわけ━━━ッ
「びええええええええんッ!!ごめんなさぁああああいっ!!」
━━━え?」
自分の過ちに気づき、自分達にここまで目をかけてくれたナナキへと、幻滅させてしまったことを謝ろうとしたアル。
だがしかし、ナナキはその謝罪に被せるようにさらに大きな謝罪を返してきた。
呆気にとられるアルを置いてナナキは続けた。
「ナナキッ……まえから、むつかしいことなんにもわかんなくてぇッ……さきのことなんにもかんがえないで、かってなことしちゃって……みんなのためにっておもってても……ぎゃくにめいわくかけちゃう……こんども、こんなことになるなんてッわかってなくって……ほんとに、ほんとうにごめんなさぁああいッ!!」
確かに、今回の事態。ナナキに要因がないとは言えない。しかしそれは微々たるもの。力に溺れ暴走したのはハウリアだし、そもそも今回子供組の特訓をほぼ、八つ当たり的な気持ちでナナキに任せたのはハジメである。
自分の肩にぐすぐすと泣きつくナナキを見てアルは思い出す。彼は確かにあり得ないくらい強大な力を持っているが、中身はただの幼子で、天上の存在などではなく、自分たちとなんにも変わらない人間であり、友達の為にここまで涙を流してくれるとっても優しい男の子だと……。
あぁ、そうだった。自分は、男の子と思えないくらい可愛くて、心の底から優しさで溢れている。そんな彼を好きになったんだと
「私の……方こそ……本当にごめんなさいナナキ様……ッ」
一度変質してしまった精神は、そう簡単には戻らないかもしれない。それでも今この瞬間だけは、少女アル・ハウリアは、狂った狂信者から普通の初恋の少女に戻ったのである。
アルは、自分にしがみつくその小さな体を優しく抱き返した。
ドパンッドパンッ!
と、その時、突如として銃声が響いた。突然の破裂音にナナキを背後に庇うアルだったが、銃声といえばこの人しかいない。
「あにぃッ!」
そう、ナナキの兄ハジメである。
銃声と共に、「ぐわあっ!?」というという呻き声と崩れ落ちる音がする。そう言えば、すっかり存在を忘れていたとシアとカム、アル達が慌てて背後を確認すると、額を抑えてのたうつレギンの姿があった。
「なにドサクサに紛れて逃げ出そうとしてんだ? 話が終わるまで正座でもしとけ」
霧の奥からハジメがユエを伴って現れる。どうやら、シア達が話し合っているうちに、こっそり逃げ出そうとしたレギン達に銃撃したようである。但し、何故か非致死性のゴム弾だったが。
ハジメの言葉を受けても尚、逃げ出そうと油断なく周囲の様子を確認している熊人族に、ハジメは“威圧”を仕掛けて黙らせた。ガクブルしている彼等を尻目に、シアとナナキ達の方へ歩み寄るハジメとユエ。
ハジメはカム達を見ると、若干、気まずそうに視線を彷徨わす、それをユエが肘で小突く。
「……ナナキはちゃんと、ごめんなさいできたのに……お兄ちゃんのハジメは、できないの?」
と、ここでの一部始終をハジメと見ていたユエはまるで、悪戯っ子のような笑みでハジメを見上げる。
そう、ここに来る前、ハジメとナナキは今回の事態について大事なお話をした。例のごとくあまり事態を飲み込めていないナナキに、今何が起こっていて、今後どんな悪いことが起きてしまうのか?手短だが分かるようによぉ〜く言い聞かせ、そしてその責任の所在が自分とナナキにある事を真剣に伝えたのだ。
ナナキがシアと共にこの場に一目散にやって来たのは、それが理由だったりする。
そうしてユエの視線に「うぐっ」と呻いたハジメは観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にした。
「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。ナナキの事もあったのに完全に頭から抜けてた俺のミスだ。うん、ホントすまん」
ポカンと口を開けて目を点にするシアとカム、アル、そしてハウリア達。まさかあのハジメが素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があったのだ。
「ボ、ボス!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」
「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」
「ボス! しっかりして下さい!」
故にこういう反応になる。青筋を浮かべ、口元をヒクヒクさせるハジメ。
今回のことは、ハジメ自身、本心から自分のミスだと思っていた。自分が殺人に特になんの感慨も抱かなかったことから、その精神的衝撃というものに意識が及ばなかったのだ。
ナナキも一度暴走していたが、あれは技能の副作用による物で今回の事には一切参考にならないだろうと切り離して考えていたのもの裏目に出ていたのだろう。過去に同じような事象があったのに次に活かせなかったのは完全にハジメの落ち度である。
まぁ、いくらハジメが強くなったとはいえ、教導の経験などあるはずもなく、更に弟のナナキにもそれを肩代わりさせてしまい、曖昧な状態なのにも関わらず放置してしまった。
その結果、危うくハウリア族達を二分させ、その精神を壊してしまうところだった。流石に、まずかったと思い、だからこそ謝罪の言葉を口にしたというのに……帰ってきた反応は正気を疑われるというもの。ハジメとしては、キレるべきか、日頃の態度を振り返るべきか若干迷うところである。
その後ハジメは、レギン達に……いやフェアベルゲンの長老衆に向けて“貸し一つ”と言い渡し、伝言としてレギン達を生かして返した。
しっかりとおど……説得しておいたので、次来た時に知らん顔されることはないだろう。
万が一そうなったら、この世界から一つの国家が消え失せだけである。
ハジメはその後ナナキの元へ向かい、今回の事でしっかりとナナキにも頭を下げた。
「ナナキ……すまんッまた辛い思いをさせた……。ごめんな、ダメな兄ちゃんで……」
それを受けたナナキはブンブンと首を横に振ってハジメの側に寄る。
「ナナキしってるッ!あにぃ、ナナキのこともかんがえてくれたってこと!うれしかった。あにぃがナナキをたよっってくれて……でも、ナナキうまくできなかった……。だからナナキのほうこそごめんなさい。」
そう言うとナナキはハジメに頭を下げ返してきた。ハジメはナナキが頭を下げるのに驚愕し、それをやめさせようとしたが、ここで口を出すのも野暮だろうと思い、その謝罪を受け入れた。
その二人に触発されたのか、アルとカムが向き合う。
「あっえと……その申し訳ありません、
「いや、我々も少々大人気なかった……申し訳ない。見苦しい姿を見せてしまったが、これからも同じ家族として、我々大人を信じてくれるか?」
「はいッ!……勿論ですわ」
両族長を筆頭にそこかしこで大人と子供たちの謝罪の応酬が飛び交う。2つに分かたれたハウリアは今ここで再び一つになり、前よりもより強固な絆で繋がれた
色々と変わってしまったが、かつてのような笑いが飛び交うネオ・ハウリア達。
ふとそこで、思い出したようにハジメとシアがハウリア達に質問する。
「そう言えば、お前らは何で争ってたんだ?」
「あっそうです!結局アレは何だったのですか?全て解決したついでに教えてくださいよぉ〜」
そう言ってシアがちょっと茶化すように聞くと代表してアルが恥ずかしそうに事の次第を語りだす。
「まず、それをお話する前に、我々、“ナナキ坊っちゃま親衛隊”について詳しくお話しなければなりませんわ」
アル曰く、彼ら子供組が自称する、“ナナキ坊ちゃま親衛隊”とは、この十日の間で、ナナキの身の回りのお世話などをする使用人兼護衛のような物で、それだけ聞いてたら別に対して変なとこもなく普通なのだが、この集団を纏めるのは、正気に戻ったとはいえ、未だにイカレポンチサイコMなアルちゃんである。それだけで済むはずがない。
ハジメたちがアルちゃんから聞かされたその親衛隊の真の業務内容は常軌を逸するものだった。
まず、ナナキのお世話と一言で言ってもその内容は多岐にわたる。食事の用意、護衛、これだけならまだ分かる。
だが今回はハジメも子供組の方へは、嫌厭してたまにしか見に来ずその時間をほぼハウリア大人組と過ごしていた。そのため、食事時や、就寝、ましてや水浴びなどの時間なども、ナナキにはハジメのいない一人の時間が生まれてしまう。
それを好機と睨んだアルは、他の者たちをも扇動し、訓練の合間、ナナキの身の回り
食事時、『あ~ん』をして食べさせてあげたり、お着替えや、水浴びで隅々まで体を洗ったり、就寝時は身を寄せ合って床についたりと、お世話というより、逆にナナキのお世話にかこつけた、ナナキの愛らしさに癒されたい幼き変態たちの集まりと化していた。
剰え、ナナキの日々の様子を、広い葉っぱを使用して作った日誌のようなもので毎日記録として残しているのだ。はっきり言ってただのストーカーである。
中ではナナキの少年とは思えない余りの色香に理性が敗北し、男女問わずナナキに襲いかかる猛者まででたらしいが、ナナキがその変態の存在に気づく前に、パルとマナが直々に粛清していた。それは無垢なナナキの貞操を死守するためか、恋する親友の想いを守るためか、理由は定かではない……。因みにこれが彼ら二人が親衛隊の副隊長になった経緯でもある。
そんな話を聞かされて気が気じゃなかったハジメに、アルが穏やかな顔で言う。
「大丈夫ですわよ。
その言葉の何処に安心する要素があるのか。戦慄するハジメはさり気なくぽけ〜としたナナキと危ない目で弟を付け狙うアルの間に立った。
突如吐露されたアルの想いに、出歯亀ウサギシアが「へーっ!ほ〜ッ!」と色めき立つのを尻目にハジメとユエは続きを促す。
そう、彼らも子供の身で日々過酷さを増す特訓に癒しが欲しかったのだろう。身内のハジメから見てもナナキは目の保養にいい。少年でありながらユエに迫る美貌を持ち、数秒眺めるだけでも視力1.5は回復するレベルだ。
辛い激務の末に得るナナキと戯れるその時間は、彼らにとって正にオアシスと言えたのだ。
そんな日々に陰りが見え始めたのはそんな生活を過ごしていて数日が経った頃。
通例のナナキとの食事時。軽やかステップで先に食事を取っている筈のナナキの元へと向かうアルはそれを見つけてしまう。
「坊ちゃま、美味しいですか?」
「
それは大人のハウリアの女性がナナキと共に食事をするシーン。その女性がその場に現れたのは本当にたまたまだった。
そこでその女性は珍しくばったりと会ったボスこと、ハジメの弟ナナキと、せっかく会ったんだし、食事でもしようくらいの考えで自分の狩ってきた魔物の肉を大量にナナキに分け与えていた。
ナナキは満足そうに頬を膨らませ、尻尾をブンブン振り回している。
「慌てなくても一杯ありますからね?」
「うん、
そのとても微笑ましい光景を木々の影から覗いていたアルは一言。
「よしっ殺そう」
そう呟いたのだ。
こうしてこの出来事をきっかけに、ハウリア二分化戦争事件は幕を上げたのだという。
「………………………。」
「…………。」
「えっ………それだけ?」
「はい?」
ハジメとユエが呆れた目を向ける中、シアが思ったよりもあまりにも薄かった戦争動機につい聞き返してしまう。
そのシアの問にアルは言い知れない圧と共に更に聞き返す。
「ひゃっひゃいぃッッ!!だ、だってそ、そのぉ〜……そう!ほらぁ!理由!他にあるんじゃないですかぁ?その、子供ながらの、鬱屈した不満が爆発したぁ〜とか、青い衝動が燃え上がって解き放たれたぁ〜とか……もっと色々と━━━ッ「もぉ〜ッシア姉様ったらッ。理由ならちゃんと言いましたよねぇ〜聞こえませんでしたのぉ?」ヒェエッ!?」
と、そういうことらしい。シアの負けじと発せられたさらなる問いはとても強烈な圧に押し潰される。有無を言わせないアルの迫力にシアは涙目で押し黙ってしまう。
見かねたハジメが一つ深い息を吐くと今度はカムに向き直る。
「なぁ、なんでお前らはそんな理由で戦争を受けたんだよ。」
ハジメは理解する。
「なんでも何も……ボスが教えてくださったでしょ?敵意を向けるものに容赦はするなと……後はそのまま成り行きで……テヘ☆」
あっこいつもダメだぁ と、天を仰ぐハジメ。蓋を開けてわかった戦争の全容……それは、我の強いメンヘラの嫉妬と、考えなしの脳筋がぶつかっただけの夫婦喧嘩以上に犬も見向きもしないほどくだらないものだった。。未だ残念さの片鱗が残るハウリア達にハジメは片手で顔を覆い、額の血管をひくつかせながら深いため息を吐く。
最後の筋肉質なおっさんのテヘ☆に、ハジメの怒りのボルテージは限界に達した。
「ボ……ボス?」
そんなハジメの雰囲気を感じ取ったカムを始めとしたハウリア達は、ジリジリと後ずさる。訓練時と既視感しかないその光景に既にガクブルしながら泣きべそを掻く者も何人かいた。
「お前らぁ……ッ!!無駄に事ぉデカくしやがってぇえッ一人一発ずつ殴らせろぉおお!!」
うわぁああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!
そうやってついに爆発したハジメからハウリア達が蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。
一人も逃がさんと怒りの形相で後を追うハジメ。しばらくの間、樹海の中に悲鳴と怒号が響き渡った。
後に残ったのは、アルの剣幕に縮こまっているシアと
「……何時になったら大樹に行くの?」
「うぅ?」
すっかり蚊帳の外だったユエと事の中心人物であるはずなのに、全くそれを自覚せずポヤポヤしているナナキだけだった。
魔性の男の娘ナナキ君。
次回、ハウリア編終幕。
いやぁ~ずっと難しい章だった。今回持たせた分最長です。
因みに今回、完全サメナナキになったのに眠らなかった理由は、完全サメナナキに変質したのがほぼ一瞬だったことで魔力の消費がそこまでではなく、そして食事も取らなかったため、満腹にもならず眠る必要が無かった為である。