世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 ナナキ君口癖集


 ・「うぅ?」 → 疑問形∶首だけをかしげたり、
              体ごと傾けたり、
              尻尾をゆらゆらしたりと
              バリエーションは豊富。

 ・「ナナキッしってる!」

        → 何か知ってる事柄に直面した時、
          子供特有の教えたがり精神が
          発動して出る言葉。

          その中には、ナナキの人に優しく
          したいという思いが詰まっている。

 ・「あにぃ!」→ 大好きな兄。ハジメを呼ぶ時に
          出る言葉。舌っ足らずなため、
          「お兄ちゃん」とうまく言えず
          最終的に、「あにぃ」に落ち着く。
          ナナキの口から出る言葉の
          半数はコレ。
 


第21話∶初めての告白

 

 深い霧の中、ハジメ達一行は大樹に向かって歩みを進めていた。先頭をカムに任せ、これも訓練とネオ・ハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。油断大敵を骨身に刻まれているので、全員、その表情は真剣そのものである。

 

 もっとも、一部を除いたほぼ全員がコブか青あざを作っているので何とも締りがないが……

 

 

 

 「……なんだこりゃ」

 

 そうやってしばらく、雑談などをしながら進んでいた一行は目的の大樹の元へ辿り着く。

 

 その時大樹を見たハジメの第一声がそれだった。

 

 驚き半分、疑問半分といった感じに呟いたハジメ。ユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。二人は、大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。

 

 しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。

 大きさは想像通り規格外、直径は目算で見ても50メートルはあるだろう。

 周りの木とは明らかに異質。だが、周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

 

 二人に対してナナキは大樹を心配そうに見上げて一言。

 

 「うぅ……ト●ロの木元気ない?」

 

 「ナナキぃ〜、コレは●トロの住んでる木じゃないぞ〜。そもそもこっちの世界にトト●は居ないからなぁ〜。」

 

 「………●トロ?」

 

 相変わらずちょっとズレているナナキ。日本のアニメ史を代表する1000歳超え、お隣に住むのちょ~有名な怪生物さんの住居と目の前の大樹を交錯しているらしい。

聞き覚えのないちょっと可愛いらしい響きの単語にユエは首を傾げる。

 

 「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

 ハジメとユエ、ナナキの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながらハジメ達は大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。

 

 「あにぃッユエあねぇッみてみて!」

 

 「こいつぁ……オルクスの扉の……」

 

 「……ん、同じ文様」

 

 石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ハジメは確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。

 

 「やっぱり、ここが大迷宮の入口みたいだな……だが……こっからどうすりゃいいんだ?」

 

 「どんぐり……さがそう!」

 

 「ナナキぃ〜いい加減●トロから離れろぉ〜」

 

 ハジメはそう言ってナナキの頭に軽くチョップを入れると、大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いてみたりする。

 まぁ当然変化などあるはずもなく、カム達に何か知らないか聞くが返答はNOだ。アルフレリックにも口伝は聞いているが、入口に関する口伝はなかった。隠していた可能性もないわけではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始めるハジメ。

 

 その時、石板を観察していたユエが声を上げる。

 

 

 

 「ハジメ、ナナキ……これ見て」

 

 「ん? 何かあったか?」

 

 「うぅ?」

 

 ユエが注目していたのは石板の裏側。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。

 

 「これは……」

 

 ハジメが、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 

 

 

 すると……石板が淡く輝きだした。

 

 何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 〝四つの証〟

 

〝再生の力〟

 

〝紡がれた絆の道標〟

 

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

 

 

 「……どういう意味だ?」

 

 「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」

 

 「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」

 

 頭を捻るハジメにシアとアルが答える。

 

 「紡がれた絆の道標……、これは、我々亜人の案内人を得られるかどうか。ということではないでしょうか?」

 

 「なるほどぉ〜、亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですものね!」

 

 「……確かに……言われてみりゃそれっぽいな」

 

 「……あとは再生……私?それとも……」

 

 「うぅ?」

 

 ユエが自分の固有魔法“自動再生”を連想し自分を指差し、同じく“自動再生”を持つナナキに視線を向ける。試しにと、薄く指を切って“自動再生”を発動しながら石板や大樹に触ってみるが……特に変化はない。

 

 「むぅ……違うみたい」

 

 「……迷宮の開放に一個人の力が必要とは考えにくい。その様子じゃナナキで試しても無駄だろうな。」

 

 そう言って再びハジメは考えを巡らせる。

 

 「……ん〜、枯れ木に……再生の力……最低四つの証……もしかして、四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことじゃないか?」

 

 目の前の枯れている樹を再生する必要があるのでは? と推測するハジメ。ユエも、そうかもと納得顔をする。

 

 「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」

 

 「ん……」

 

 「うぅ、ト●ロ……あとまわし」

 

 「ナナキィッ いい加減にしろよぉ?」

 

 「あぁぅぅ〜ッ!」

 

 未だに●トロ押しをやめないナナキのほっぺにグニグニムニムニと制裁を加えるハジメ。相変わらず白玉のようにプルンプルンである。

 

 結局、ここまで来て大樹の迷宮を後回しにすることにしたハジメとユエ。今ここでぐだぐだと悩んでいても仕方ないので、気持ちを切り替え、先に三つの証を手に入れることにする。

 

 

 ハジメはナナキへの制裁をユエにバトンタッチして、ネオ・ハウリア族達に集合をかけた。

 

 「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことにする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

 そして、チラリとシアに目配せをする。その眼差しには、別れの言葉を残すなら、今しておけという意図が含まれているのをシアは正確に読み取った。

 いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかる。当分は家族とも会えなくなるだろう。

 

 シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。

 

「とうさ「ボス! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」

 

 シアの呼びかけをさらりと無視して一歩前へ出るカム。ビシッと決まった直立不動の構えはイギリス近衛兵のように見事なものだ。

 脇でシアが哀れにも「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、見向きもしない。

 

 「あ~、何だ?」

 

 とりあえず、シアはそのまま放置する方向でハジメはカムに聞き返した。カムは、シアの姿など見えていないと言う様に無視しながら、意を決してハウリア族の総意を伝える。

 

 「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」

 

 「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」

 

 カムの言葉に驚愕を表にするシア。

 

 「十日前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!?」 

 

と声を上げる。

 

 「我々は今やハウリアを改めネオ・ハウリア! 新たな名の元にボスの部下となりました! 是非、我々を旅のお供に! これは一族の総意であります!」

 

 「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」

 

 「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

 

 「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」

 

 カムが声高らかに叫ぶように、一族総意というのも嘘ではないのだろう。ネオ・ハウリア達も全員が強い眼差しをハジメに向けてくる。

 約1名を除いて(・・・・・・・)……。

 

 ハジメはその人物に一瞬目を向け直ぐ逸らすと、はきっちり返答した。

 

 「却下」

 

 「なぜです!?」

 

 ハジメの実にあっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のネオ・ハウリア達もジリジリとハジメに迫る。

 

 「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」

 

 「しかしっ!」

 

 「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」

 

 「妙に具体的!?」

 

 もとよりハジメに彼らを同行させるつもりはないのだが、それ以前に、未だ迷いを残す者(・・・・・・)に信用を置くことはできない。

 

 それでもカム達()、「勝手に付いていきます!」と言って食い下がる。そんな彼らに仕方がないと、ハジメは条件を提示する。

 

 「お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」

 

 「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

 

 「ないない」

 

 「嘘だったら、人間族の町の中心でボスと坊ちゃまの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

 

 「お、お前等、タチ悪いな……」

 

 「そりゃ、ボスと坊ちゃまの部下を自負してますから」

 

 とても逞しくなった部下達? に頬を引きつらせるハジメ。

 溜息を吐きながら、次に樹海に戻った時が面倒そうだと天を仰ぐのだった。

 

 

 

 「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

 

 

 

 傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、やはり誰も気にしなかった。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 「はうぅ〜……ほっぺた、つかれたぁ~」

 

 「ん……次からは気をつけるように」

 

 「うぅ、ごめんなしゃい」

 

 

 妙にツヤツヤにほぐされまくった頬を労わりながらムニムニと擦るナナキを見て、その人物は気怠げに深いため息を吐く。

 

 アル・ハウリア改め、血染のアルマレジーナ・ネオ・ハウリア。

 

 彼女は今、樹海を旅立とうとしているナナキ達を静かに眺めている。

 先ほど、アルはハジメに対して御義兄様呼びするほどナナキへの想いを強く表に出していたが、それは一種の強がりのようなもの、本当は胸の中にとてつもない不安が去来していた。

 

 ハジメの想定通り、アルは迷っていた。

 

 自分は、このままずっとナナキを想い続ける資格があるのかと……。

 

 我が物顔で命を値踏みすると言う忌み嫌う存在に、自分自身が落ちぶれていた醜態。

 今でもアルは、ナナキに与えられた傷を愛と感じ、愛おしく思っているが、それも自分の独りよがりだったのでは?と不安に駆られている。

 

 こんな自分を、ナナキは受け入れないのではないか……。

 

 そう言った負い目から、カム達がハジメに付いていきたいと騒いでいた時も、彼女だけは消極的だった。

 

 自信無さげに下を向き、もじもじと縮こまる姿はまるで、訓練をする前の唯の少女。アル・ハウリアに戻った様であった。

 

 もうすぐ、ネオ・ハウリア総出の見送りの下ナナキ達は出発する。

 

 多くの者たちに見送られ、それに答えるように純真無垢な笑顔を向けるナナキをその視界に収めたアル。

 このまま この初恋は良き思い出だったと諦め、ただ一人だけその場から踵を返した。

 

 その時だった。

 

 

 

 「いいんすか?隊長」

 

 「そーよ。辛気臭い面しちゃって……」

 

 

 「バルトフェルド……マーナリーヴァ……」

 

 

 頼れる親友にして、一番信頼している副官達二人が道を防ぐように真剣な顔で立っていた。

 

 「いいも何も、私は……」

 

 「そうやって昔みたいにウジウジといじけて……見ていらんないわよっ。みっともないったらありゃしないわ!」

 

 二人から視線を逸らすアルに、情けない自分たちのリーダーへ、マナは渋面で罵声を浴びせる。

 

 だが、

 

 そんなマナに、目にも留まらぬ速さで肉薄したアルは、胸ぐらをつかむようにマナの胸に巻いた服を引っ張り上げて顔を寄せる。

 

 「うぐっ!」

 

 突然のことだったとはいえ、全く反応できなかったマナ。流石は子供組のトップを張る実力の持ち主。副官と言えど埋められない力の差がある。

 アルはそのまま、挑発された怒りと同仕様もない悲しみを混ぜ込んだような顔で声を上げる。

 

 「私だってッ!……私だって、どうしたらいいのか……全く分からないんですよ!だって……だって……こんな気持ち……生まれて初めてだから……」

 

 怒気のこもった声は、決壊したダムのように怒涛の勢いでマナへと放たれる。

 

 「気持ちが抑えられなくなって、自分が自分じゃないみたいに色んなものが溢れ出して……彼から与えられる優しさも、気遣いも、痛みも……それら全てが心地良くて、喜ばしくて……

 

 そして何よりも、彼の微笑みが……とっても眩しくて、愛おしく感じる……」

 

 込み上げる想いの奔流で次第にマナの胸ぐらをつかむ手と共に、声までもが震えだすアル。

 

 「そんな彼の、輝く笑顔を見るたびに……彼が別の誰かに笑いかける度に、私は……思ってしまう。

 

 彼の微笑みは、私だけに向けて欲しいッ!彼の存在を私の色に染め上げて、彼の存在を私の身に刻みつけて、彼を私だけのモノにして、ずっと側に置いておきたい。例え相手がボスだろうが、何だろうが誰にも渡したくないッ!!」

 

 暗い殺意で淀んだ思考が晴らされても尚……いや、晴れたからこそより一層露わとなったナナキへの異常な執着と独占欲。

 しかしアルは、溢れ出したそれに蓋をするように、マナを掴んでいた両手を離し、自分の顔を覆うと先ほどとは一転。弱々しい声でポツリポツリと口を開く。

 

 「こんな……こんな悍ましい思いを向ける私は……彼の……彼の側に、居てはいけないのです」

 

 塞いでも溢れる激情は、玉の雫となって指の隙間から流れ落ちる。

 

 「マナちゃん(・・・・・)の言う通り、私は何も変わっていないッ!弱くて、臆病で、一人で生きられない私は、誰かに依存する事しかできないッ!!私は、唯ナナキ様を、父さんと、母さんの代替品として利用しているだけだ!父さんと母さんが死んで、空いてしまった場所に、無理やりナナキ様を置いているだけ……」

 

 引っ込み思案で泣き虫なアルは、いつも誰かの背中に隠れて生きてきた。怖いことから、嫌なことから逃げて、逃げて逃げ続け、結局最後は誰かを盾にして縮こまる。今回も、両親と言う大きな主柱を失って、不安定な心を支える為にそこに別の何かを、ナナキを、『好き』という接着剤で繋ぎ止めた。

 

 そんな歪な形のまま膨れ上がってしまった恋心。

 

 そこに思考が行き着いたアルは、この想いが、恋なんて呼ぶのもおこがましい醜く薄汚い紛い物だと言う結論に至ってしまう。

 

 「こんな気持ち悪い魔物(・・)に、変じてしまった私は、健やかなあの人に、相応しくない……側に居ちゃ……いけないんです……。だから……もう……もういいんです……」

 

 溢れ出した不安に呑まれ、諦めの言葉を口にするアル。

 

 膝から崩れ落ち、泣き出す彼女を見下ろしていたマナは、

 

 「ばっっっかじゃないの?、アンタ

 

その一言で、アルの言葉を全て一蹴する。

 

 「えっ……?」

 

 「全く、こういう奴のことを恋愛下手って言うのかしら?まぁアーシもあんまり偉そうなこと言えるほど経験積んでるわけじゃないんけどさぁ」

 

 何処か呆れたように頭をガシガシと掻きながらマナは語りだす。

 

 「初恋だものね、不安になって、ネガって鬱っちゃうのもわからんでもないよ、アーシだって……その……さ」

 

 そう言って頬を若干赤らめバルトフェルドの顔を伺うマナ。

 

 

 「ん?何こっち見てんだよ?マーナr━━」

 

 「フンッ!」

 

 「ぐぇはァッッ!?な、なんで……?」

 

 その視線の意味に気づかず、聞き返してしまった鈍感なバルトフェルドも悪いとは思うが、理由もわからず腹に回し蹴りをされたのは少々理不尽で同情してしまう。そんな蹴り飛ばされたバルトフェルドは置いといて、マナは続けた。

 

 「おっほん……えーと、何だっけ?好きな人を自分の色に染めたくて?その人の存在を自分の身に刻みつけたくて?その人を自分のものだけにしたい。

 

 確かにそんな独善的で、強欲で、傲慢な想い、決して綺麗なものじゃないわよね」

 

 先ほどアルが語った言葉を自分なりに復唱してみせるマナ。それに再びアルは表情を曇らせる。しかし、マナから発せられた次の言葉で再びアルは瞠目する。

 

 

 

 「でもさ、それの何がダメなん?」

 

 

 なんてことないように言うマナに、はえぇ? と間抜けな声を出すアル。そんなアルを待たず次々と捲し立てるマナ。

 

 「アーシだってぇ、すぅ…………きッ き、気になってる人?///にはアーシだけを見てほしいって思うし、アーシだけのものにしたいって気持ちあっからさ、それが恋ってやつなんじゃね〜の?

な~んもおかしなことないじゃんか。普通じゃんか!?」

 

 自爆して顔が赤面しているし、最後は言い訳みたいになっているのが格好つかないが、マナの言う通り。百人の人がいれば百通りの愛の形がある。アルの想いが全部が全部、否定される謂れは誰にもなく、間違った想いなんて何処の世界にも存在しないのだ。

 それもましてや14歳の初恋。少しの暴走があったとしても、ちょっとした黒歴史として恥ずかしい思い出として残るだけだ。(それで流血沙汰になるのは大問題ではあるが)

 

 「で、ですが、私の想いは不純で、ナナキ様を父さんと母さんの変わりに依存しているだけで……だから、」

 

 「でも、好きなんしょ?」

 

 「……そ……それはぁ」

 

 それでも、未だウジウジとするアルに「あーもうっ!」とイライラしたように、しゃがむアルの顔を両手で挟み自分の目線と合わさせるように、ガバっと動かすマナ。

 

 「あのさぁ〜、そーやって難しく考え込んじゃうから余計に変な思考に行き着いちゃうわぁけぇ!

 ナナキ坊ちゃまは、ちょっとアンタがヘラったくらいでアンタを嫌いになるほど心の狭い人に見える?もっと頭ん中空っぽにして、アンタの気持ちとしょーじきに向き合えばいーんじゃないの?」

 

 そう言うマナの言葉を聞き、理解は示しつつも、納得はできないと言うように黙り込んでしまうアル。

 

 

 「……ま、言うは易し行うは難しって言う言葉もあるし、アンタのペースでゆっくりやりゃ〜良いと思うけど……。」

 

 そんなアルに最後は諭すようにそう言うと、おもむろにマナの手がアルの頭に伸びていく。

 

 「そんな辛い顔して、諦めることはないんじゃね?

 

 マナはアルの頭を優しく撫でつける。それを受けて静かに俯いてアルは再び溢れんばかりの涙を流した。

 

 今こそ立場は逆転しているが、昔からまるで本物の姉弟姉妹の様に、彼らはこうして泣きじゃくるアルを、マナか、パルが頭を撫でて慰めていた。どれだけ変心し、口調が粗暴になろうとも、彼らの友情の形は不変のものであった。

 

 そうやってマナが懐かしいアルの頭の感触を感じていると、とある光景が視界に飛び込む。それに良いことを思いついたと、ニヒルな笑みを見せたマナは、アルの涙を拭って立ち上がらせると

 

 「ほーら、噂をすればってやつじゃない?」

 

 後ろを振り返るようにアルに促す。そこに居たのは……

 

 

 

 

 

 「アルちゃん!

 

 「なッ…ナナキ……様!?」

 

 相変わらず、何も知らないような無垢な笑顔を輝かせて、トテトテと、こちらに走り寄ってくるナナキ。

 

 ナナキが近寄ってくる度に、アルの胸が激しく脈打つ。

 

 キラキラと輝く藍色の瞳に、星を散りばめたように光を反射する灰銀髪。ゆらゆらと揺れる三つ編みと、大きな尻尾。

 

 あぁ、彼を構成する全てが愛おしい。その瞳を、視線を独り占めにしたい。その白磁の首筋に自分の匂いを擦り付けたい。その鋭い牙で、自分の肉を()ませたい。

 

 

 「ひゃうぅぅ〜ッアルちゃん……くすぐったいぃ」

 

 「え……?あっ!?」

 

 アルは無意識に手を伸ばし、ナナキの頬を無造作に触れていた。それに気づいたアルは、怯えたようにその手を引っ込める。

 やっぱり……ダメだ。このままでは彼にとんでもないことをしでかしそうで、こんなに清くて美しいものを自分の手で汚したくない。

 

 「うぅ?……アルちゃん、どーしたの?」

 

 そんなアルのよそよそしい動きにナナキも首を傾げる。

 

 「い、いえナナキ様……何でもありませんわ……」

 

 「………。」

 

 ナナキから視線を逸らすアルを何も言わず、ずっと見つめるナナキ。居た堪れない空気に誰もが静まりかえる。

 

 そんな状況に羞恥で悶えそうなアルは、意を決してナナキへと声をかけようとしたとき……。

 

 自分の手に小さくて柔らかいものが触れた感触があった。

 

 

 

 「アルちゃん、ふるえてる………だいじょうぶ?」

 

 

 それは、ナナキの手。

 

 アルを気遣うようにそっと添えられた温かい手だった。

 

 「あ、あぁ……」

 

 ドックン ドックンと胸を打つ音が早くなる。顔が熱い、手の感触が心地良い。こちらを覗き込む上目遣いがたまらない……ッ

 

 過剰に齎されるナナキ成分にトリップしかけるアル。そんな彼女にさらなる追い打ちがかけられる。

 

 

 「アルちゃん……すわって」

 

 「!?で、ですが……」

 

 思考のまとまらない中、突然発せられた言葉に狼狽するアル。その渋った様子が気に入らないのか、ナナキが不機嫌そうに眉を吊り上げほっぺをぷくぅッと膨らませる。

 

 「むぅ、アルちゃんッ!おすわり!!

 

 「ひゃ……ひゃぃ〜〜///」

 

 ただ可愛いだけでしかないその怒り顔から発せられる命令に腰が抜けてタジタジになるアル。目線が合ったことでその輝かんばかりの愛くるしい顔が至近距離に浴びせられる。

 物理的に近くなったことにより、甘い花の様な香りも漂ってくる。本当に男なのかこの子は!?

 

 だが、ナナキの追撃はまだ終わらない。ナナキがわざわざアルを座らせた理由。それは……

 

 

 「よーしよーし、だいじょうぶぅ?」

 

 ただでさえ近くなったと言うのに更にその身を近づかせたナナキは、アルの身を気遣い、その温かくて小さな手でアルの頭を撫でつけたのであった。

 

 「あ……」

 

 アルはもう既に限界を通り越していた。

 

 改めて自覚したナナキへの想い、それに合わさりこの急接近。ナナキの大いなる優しさに、先程まで渦巻いていた薄暗い気持もすべてとろかされたアル。

 

 故に今、鼓動の高鳴りとともに胸の内から湧き上がる熱い激情が言葉となってアルの口から溢れてしまった。

 

 

 

 

 

 「好きです

 

 

 

 

 「うぅ?」

 

 「「「「「「え”ぇ”ッ!!?」」」」」」

 

 

 ボソリと呟かれたたった一言。それを聞いたナナキ以外の全員が驚愕に目を見開く。先程問答していたマナは勿論、散々アピールを見せつけられたハジメとユエ、そしてシア。更には何となく察していた全員が、まさかこの場で告白をするとは思っておらず。驚きで汚い声が上がる。

 

 対してアルは、一度溢れ出した想いは止まらず、面倒くさい悩みなど知ったことかと、ナナキの肩を掴み、言葉を選ばず盲目な愛を唱える。

 

 「あなたの目が好きです、深い湖のような優しく包みこんでくれるようなその目が好きです。

 あなたの髪が好きです、くすんだような銀髪は光が当たれば星のように煌めいて、滑らかに流れる様は、清涼な流水のようでとても美しい、その髪が好きです。

 あなたの口が好きです、そこから発せられる鈴の音のような声は私の耳と心を癒してくれて、その小さな口から除く鋭い牙は、可愛さの中にあっても、あなたが猛々しい雄であることを思い出させてくれる力強さが宿っている、その口が好きです。

 あなたの尻尾が好きです。普段は無表情だけど、貴方が今、何を考えているか、どう思っているのか、正直に伝えてくれる。意外と感度の高くて柔らかいその尻尾が好きです。

 あなたの笑顔が好きです、普段の無表情から時折見せる陽だまりのように温かい、あなたのその笑顔が好きです。

 

 そして何より、それら全てを総じても余りある魅力。あなたの清らかで優しさに溢れたその心が好きです。純粋で、無垢で、とても広くて、どんなことでも一生懸命に取り組めて、こんな私でも優しく接してくれる。そんな優しい貴方が………大好きです。

 

 そこまで言い終わると、今度はガバリっとアルがナナキを抱きしめる。その様にブラコン(ハジメ)がドンナーを抜きかけるが、それをシアとユエが必死に止めていた。

 そんな、光景など見えていないと言うように、アルは告白を続ける。

 

 「好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きッ大好き!!本当は、貴方の側にずっと一緒にいたい。他の誰にも渡したくない、でも……自由奔放に走り回って、飛び立つあなたが、一番可愛くて、魅力的だから……縛り付けておきたくはない。だけど、それでもッ……なんて相反した思いを願ってしまう。

 

 ごめんなさい、ナナキ様……こんなわがままで弱虫な私を許して……」

 

 怒涛の展開に着いてこれずポカンとした顔をするナナキは、自分の肩で、アルが泣いていることに気づく。

 

 ナナキは見た目以上に幼い頭で必死に考え……いや、考えるまでもなかった。

 

 側で泣いている友達(・・)がいる。ならば、ナナキがやることはただ一つ。

 

 ナナキは自分を押しつぶさんばかりに強く抱きしめるアルを優しく抱きしめ返す。

 再び、肩にある少女の頭を撫でながら、ナナキは無邪気に元気よく声を上げた。

 

 「うん、ナナキもッアルちゃんのこと、だいすきだよ!

 

 

 

 

 

 

 「………え」

 

 

 

 ナナキから発せられた言葉に、アルが小さく驚きに声を出す。すると……

 

 

 「ぐぼぉあッ!!!?

 

 「ハジメッ……ハジメえええええええええええッ!!!」

 

 

 ハジメが盛大に吐血し、それを見たユエが悲鳴をあげる。

それを皮切りに周りから、「「「ええええええっ!!」」」と言う、驚愕の声が一斉に上がる。シアはハジメが倒れたことや、急に爆上げした周りのテンションなど、展開について行けず混乱で目を回すなど、状況は混沌の様を呈していた。

 

 

 でもやはり、自分の世界に入り込んでそれどころではないアルは周りの状況が見えておらず、ナナキと目を合わせて信じられないと言った顔で、ナナキを問い詰めていた。

 

 「な、ななな、ナナキ様!?す、すすす、好きって……私のことが……?」

 

 「うぅ?、そうだよ!ナナキ、アルちゃんだいすき!!」

 

 「グフォッ!?」

 

 放たれたナナキのプリティースマイルと共に浴びせられる『だいすき』に、キャパオーバーを起こしたアルは限界まで赤面した後、鼻から大量の真っ赤な愛が、溢れ出した。

 

 「わわッ!?アルちゃん!だいじょうぶ?」

 

 「だ、だいじょうぶでふ……ちょっと、気持ちが溢れて……」

 

 突然吹き出した鼻血にナナキが驚きながら心配するも、アルは急いてそれを拭って鼻に詰め物をする。

 

 未だアルを心配そうに見つめるナナキだったが、「あっそうだ!」と何かを思い出したかのように声を上げる。

 

 そう、元々ナナキは旅立つ前にわざわざアルの下へと駆け寄っていた。このことから、ナナキは何かアルに用事があったことが推察できる。

 

 ナナキはサメのヘアバッチの宝物庫に手を添える。するとサメの目の宝石が光り、宝物庫からあるものが取り出される。

 

 ナナキの宝物庫は元からナナキ専用武器のキーファ・ファング以外は収納されていないのだが、そこから現れたのは武器の類では断じて無かった。

 

 ナナキの手に握られていた小さなもの、それは……

 

 

 「  花……?。 」

 

 「うん!、ナナキもね、ごめんなさい。

 アルちゃんやみんな、お花さんだいすきだったのにナナキがぜんぶダメにしちゃって……」

 

 思い出されるのは今は懐かしき訓練の日々。子供組での訓練では、ナナキは花を人質に訓練を敢行していた。その事に対してナナキはずっと、人の大切に思っているものを粗末に扱ってしまった罪悪感を覚えていた。

 

 「だからね、ナナキね、これでかわりになるか、わからないけどね、とってもきれいなおはなさん、みつけたんだ!だからコレあげるね!」

 

 そう言ってナナキはアルヘと1輪の花を手渡す。それは6枚の花弁を持ち下の花弁だけ大きい、まるで地球で言うところのアングレカムと言う花に似ているが、その色は真ん中がナナキの瞳のような深い藍色になっていて、先に行くにつれてくすんだ銀の様な灰色に変色した見た目をしている。

 

 アルを始めとしたハウリア子供組に、もう花を愛でる感性は残されてはいない。

 だがしかし、ナナキから手渡されたこの花だけは、決して手放さないと、それを受け取ったアルは胸の奥に深く、深く誓いを立てた。

 

 アルはその花を胸に抱きすくめ、匂いを嗅ぐ。

 

 それはまるでナナキと同じ、優しくて甘い香りがした。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 アルがナナキから貰ったお花の匂いを夢中で嗅いでいる中、シアは突如発生した告白イベントに頬を赤らめ混乱でハワハワと忙しなくしているが、ユエに励まされ、持ち直したハジメは、ギリギリ、冷静に物事を見ていた。そしてハジメは、口の端の血を拭いながらジト目でナナキとアルを見つめたまま自分を肩で担いでくれているユエに気怠い声音で尋ねる。

 

 「なぁ、ユエ……アレ、どう思う……?」

 

 「……ん〜、お互い……勘違いしてる(・・・・・・)。」

 

 「はぁ~ッ……だよなぁ〜」

 

 ハジメは今、二つの大きな問題に頭を抱え深いため息を吐いていた。

一つは、とんでもない地雷が弟に張り付いてしまったこと、もう一つは、ナナキがアルの好意に全く気が付いてない(・・・・・・・・・)事である。

 

 先ほどのやり取り、告白どころか、傍から見れば一種の婚約宣言(・・・・)とも取れただろう。だが改めて言うが、ナナキの精神年齢は未だ幼稚園の域を出ない。色恋の事など、理解しているわけがなかった。

 

 そう、ナナキの言う『だいすき』にはLOVEではなくLIKE、よくある友人としての好きという意味あいしか含まれてい無い。純粋すぎるが故に起きてしまった悲劇……。これは所謂、ラブコメなんかで見られる鈍感系主人公の告白事故というものである。

 

 現に今、ナナキはアル以外の子供組にも花を配っている。

 

 しかし、もっと大変なのは告白した当人のアルが、それを理解しきれていないこと。

 

 自分の不安の中発せられた決死の愛の告白。

 それを受け、返されたナナキの『だいすき』を狂信者と化したときにも見せた地雷特有の都合の良い耳フィルターを通して、額面通りの『LOVE』と自己解釈。彼女の中でナナキは、結婚を控えた恋人……いや下手したら既に、結婚していると思い込んでしまっていても不思議ではない。

 ナナキのマッチ売りの少女(お花配りの少年)状態にも、花の匂いに夢中で気がついている素振りもない。

 

 花を手渡された子供組やそれを見ていた他の大人達は、すべてを察した様な気不味い顔をしてしまっている。

 

 これに関しては、流石に純粋すぎるナナキが悪い気がしないと思わなくもなくもなくも無い。

 

 だが、このまま放置もしていられない。ハジメは面倒なことを避けようとした事でハウリア二分化などと言う。大事件を巻き起こしてしまった失敗がある。

 

 この現状をまた放置してしまえば取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

 意を決して残酷な真実をアルに伝えようとハジメが踏み出そうとした瞬間だった。

 

 「ボスっ!!お話がございますわ!!

 

 「うわぁッびっくりしたぁ〜!?」

 

 件の人物、アル・ハウリアがいつの間にかハジメの足下に膝まづいていた。

 

 何処かデジャヴを感じる光景に嫌な予感を感じ、ハジメは「何だ?」と用件を聞く。

 

 「私も、皆様の旅路に……いえ、言葉を飾るのはやめにしましょう。私をナナキ様の側に置いてはいただけないでしょうか!」

 

 それを聞いて、やっぱりかぁ〜と天を仰ぐハジメとユエ。

 

 このメンヘラサイコМ、完全について行く気満々である。

 

こんなイカレポンチ、シア以上にお断りしたい案件である。

だがしかし、ハジメはアルの目を覗き込む。

 

 動機は兎も角、先ほどの迷いは綺麗さっぱりなくなり、真っ直ぐな意志の強い眼差しをしている。誠に残念な事に……。正直ハジメ的にはそのままウジウジしていて欲しかった思いでいっぱいだった。

 

 「……駄目だな」

 

 アルの真っ直ぐな懇願にハジメは、当然と言うように拒絶の意を示した。これは何もナナキからアルを遠ざけたいから言っているわけではない。まぁ、それも少しはあるかもしれないが。

 

 「理由を……お伺いしても?」

 

 意外にも冷静にアルはハジメに問う。

 

 「迷いは晴れて、少しはマシな目にはなったみたいだが、単純にカム達と同じだ。」

 

 「力不足……と」

 

 「あぁ、足でまといこの上ない。」

 

 そう、単純にアルも実力が不足している。高く見積もってもシアよりも大きく劣り、実際の戦闘を見ても扱う武器が武器なだけに、まだまだ至らぬ部分が多い。

 

 せいぜいシアを除いたネオ・ハウリアの中でも2番手位の実力だ。弟の側にこんな不審者を寄せ付けなくないと言う言い訳を抜きにしても、大迷宮に連れて行くには遠く及ばない。

 

 しかし、ハジメの酷評を受けて尚、未だ真っ直ぐに見つめ返すアルは、予想外の言葉を口にする。

 

 「わかりました。今回は引き下がります。」

 

 「随分と聞き分けがいいな」

 

 「ええ、ですが今度相見える時まで、私は力を付けておきます。いずれ、シア姉様や、ユエさん、そしてボスをも超えることができた暁には(・・・・・・・・・・・・・・・・)……」

 

 「ん?え、はい?」

 

 唐突に、飛躍した話にハジメがアルを二度見するが、それより先にアルが、声高らかに宣言する。

 

 「ナナキ様を私に下さい!!

 

 「かぁ…………………。」

 

 唐突な嫁←✕取り宣言にハジメは、白目を剥き、死にかけのカラスのような声を上げる。

 

 あまりにも大きな声での宣言だったが、空気を読んだカムのファインプレーにより、ナナキの耳にそれが届くことはなかった。

 

 「うぅ?カム?……なんでナナキのみみふさぐの?」

 

 「後生です坊ちゃま!それ以上の追求はよして下さい!!」

 

 

 「絶対に悲しませたり致しません!必ず幸せにしてみせます!」

 

 カムとナナキのやり取りに気づかないまま、ハジメに向かってイケメンな事を言いまくるアル。

 

 それを受けたハジメは………

 

 「いい度胸じゃねぇかぁ?クソガキィッ……

 

 目の笑っていない笑顔で、額の血管がはち切れんばかりにピキッていた。

 

 ホルスターのドンナー・シュラークに手をかけ、煮えたぎる殺意が赤黒い魔力となってハジメの体から迸っている。

 

 ナナキはハジメにとってユエの次かユエと同じくらいに大事な弟だ。

 嫁←✕になど、絶対に行かせんと誓っている。

 

 ハジメから滲み出る殺意に、ネオ・ハウリア達はトラウマを刺激され、泡を吹いている物も出てくる中、アルだけは、少し怯えは見えるものの、一歩も引かずにハジメに目線を合わせていた。

 

 そうやって暫く睨み合いが続く中、その拮抗を破ったのは

 

 「ハジメ……めッ!熱くなりすぎ」

 

 それはハジメの正妻にして、ナナキのもう一人の保護者ユエだった。

 

 「チィッ」 と、忌々しげに大きな舌打ちを残しながらも、ユエに言われたからと、怒気を引っ込めるハジメ。

 

 少し冷静になって自分が大人気なかった事に気づき、それでもやはり大人気ないハジメは、憎たらしげにアルに言葉を投げかける。

 

 「まぁ、カム達にもあぁ言った分、次会うまでに強くなってたら俺等に挑むチャンスくらいはくれてやるよ、言っとくが容赦は一切しねぇ。首を洗って待ってろよ」

 

 「……貴方は、私にも勝負を挑んだ……。同じく、恋する乙女として、応援はするけど………。一切手心は加えないから覚悟しといて……。」

 

 

 ハジメに次いで、ユエも言葉を残す。先ほど自分の名前も出していたのでケジメとしてと、ユエも自分で言っていたように、同じく恋する乙女として発破をかける意味合いもあった。

 

 最後にハジメが皮肉げに、

 

 「あぁでも?当日に怖くなって尻尾丸めて逃げてもも別に責めたりしねぇよ?二度と弟と結婚したいとか抜かせなくするだけだからぁ〜」

 

 と嫌味を残して締めようとする。シアが、「あれ?私も何か言ったほうがいいですぅ!?」と遠くで叫んでいたが、すっかりスルーされていた。

 

 そんなハジメの嫌味に対してアルは負けじと言葉を返す。

 

 

 

 「えぇ、必ず!認めさせて見せますよ御義兄様(・・・・)!!」

 

 「てめぇに御義兄様なんて呼ばれる筋合いはねぇえ!!」 

 

 ドパンッ!!

 

 「ぐべッ!!?」

 

 「「あっ」」

 

 捨て台詞と共に、結局発砲が我慢できなかったハジメ。ちゃんとゴム弾ではあるはずだが、アルの額は軽く割れて、少し流血して白目を剥いていたという。

 

 そしてその後、ネオ・ハウリア達に見送られて出発したハジメ達一行だったのだが……。

 

 友達に怪我させられて怒ったナナキが資源調達の為にブルックの町に着くまでの間、ハジメをシカトし続けたという。

 

 弟に話しかけてもぷくぷくほっぺでツーンと、素気なくあしらわれるハジメはとても哀れであった。

 

 

 

 

 





 ユエのナナキへのお仕置き〜


 ユエ「ここかぁ〜ここがええのんかぁ〜」

 ナナキ「ほにょぉおおおおおお〜ッ!!」

 ユエは、ハジメがやっていた以上にナナキのほっぺをグニグニムニムニとこねくり回し、その柔らかい感触に酔いしれ、次第にお仕置きはエスカレートしていく。

 ナナキ「ふおおおおおおお〜ッ!!」

 ユエ「ふふふッ……なんて柔らかさ、けしからんッ!」

 ユエの顔はニヒルな笑みを浮かべその手の動きは更に変化を増す。捏ねくるだけでなく、つまみ、ねじり、引っ張りと様々な攻めを受けたナナキのほっぺは、プルンプルンどころか、トロントロンと溶けるように弛みきり、手に吸い付くようにしっとりとした触感へと昇華した。例えるなら、少し硬めのスライムのようだろう。

 ユエ「これで……トドメェ!」

 ナナキ「ふにょおおおおおおおおッぷいぃぃぃんッ」

 最後、ユエは思いっきりナナキの頬を横に伸ばした後、限界のところで一気に離し、弾性の法則に基づきナナキの頬はペチぃぃぃいんという音を鳴らして元の形へと戻るのだが、その際、プルプルトロトロのナナキの頬は、人の頬とは思えないまるで雫が落ちた水面のような余韻を残して静まっていく。

 その様をちょうど、いじけたシアを伴って帰ってきたハジメの目に留まる。

 ハジメ「……仕上がりはどうだ?」

 ユエ「……フッ」

 ハジメの濃い影の差す訳知り顔に対して、ユエはまるで一仕事終えた職人のような得意げな顔でハジメの前へと妙に頬がツヤツヤになったナナキを促す。その様は宛ら、秘密裏に埠頭で行われる闇取引のようである。

 ユエ「………こちらに」

それを受け、ハジメは「でわ……」と手を胸ポケットに入れたハンカチで拭い清めてから、トホホと、疲れたような顔をしたナナキの頬へと両手の指先を触れる。

 すると、

 プヨンッという音を鳴らしてハジメの指がナナキの頬に沈む。

 ハジメ「うぉああああああああああああああああああッッッ!!!!

 まるでペカァァァァァァッ!!と光ったような幻覚?と共にハジメの絶叫が上がる。

 次の瞬間、

 「うっふふ〜 ぷにぷにぃ〜(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)」

 さっきの濃い雰囲気はどこへやら、和みに和みきった低コスト作画のような顔になったハジメが、ぽわぽわした雰囲気を醸し出し、プヨンップヨンッとナナキの頬の感触を楽しんでいた。

 ナナキ「あうぅ〜ッ」

 というナナキのうめき声をBGMに、一頻り頬の感触を楽しんだハジメは、何事もなかったように濃い顔に戻ると

 ハジメ「流石はプロ……良い仕事だ」

 と、ユエへ称賛の言葉を贈る。一体なんのプロだと言うのか?

 ユエ「……恐れ入ります」

 そう言って大袈裟に頭を下げるユエを尻目にハジメはその場を去っていく。

 ハジメ「また、次も頼むとしよう……」

 そう思わせぶりな言葉を残して。




 一部始終を脇で見ていたシアは、いつもの「ですぅ」口調も忘れ

 「なにこれ?」

 そう呟いたのだという。

 

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