世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 旋風士 さん、増えるヤバい奴 さん、

 新たに評価、ありがとうございますm(_ _)m

 おかげで赤バーカンストです!!(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)ホクホク
 本当にありがとうございます!!


第26話∶おいでませ♪ドキワクらいせぇんだいめいきゅう!

 

 「一撃ぃ〜ッ必殺ですぅ!!」

 

 ズガァンッ!!

 

 「えいッえいッやぁああッ!!」

 

 バコッバコッバコォォンッ!!

 

 「………邪魔」

 

 ゴバァッ!!

 

 「うぜぇええッ!!」

 

 ドパパパァンッ!!

 

 

 怒号と破砕音。それらがライセン大峡谷の谷底から無数に木霊する。

そこに広がるのは死屍累々……。

その言葉が最もふさわしい光景だろう。

 

 ある魔物はひしゃげた頭部を地面にめり込ませ、またある魔物は頭部を粉砕されて横たわり、更には全身を炭化させたり、拳型に身体を凹ませたりと、死に方は様々だが一様に一撃で絶命しているようだ。

  

 当然、この世の地獄、処刑場と人々に恐れられるこの場所で、こんなことが出来るのは、ハジメ、ユエ、ナナキ、シアの四人しか居ない。

 彼達はブルックの町を出た後(ユエシアナナキのファンらしき人々の見送り付き)、魔力駆動二輪ことシュタイフを走らせて、かつて通った【ライセン大峡谷】の入口にたどり着いた。そして現在は、そこから更に進み、野営もしつつ、【オルクス大迷宮】の転移陣が隠されている洞窟も通り過ぎて、更に二日ほど進んだあたりだ。

 

 【ライセン大峡谷】は、相変わらず魔物達のバーゲンセール。

 

 前回、ハジメの側に置いてあった機械仕掛けの和太鼓……

シアの新たな武装。大槌、ドリュケンが唸りを上げる。

 

 ブルックの町を出た直後のこと、一時宝物庫に収納していたその大槌をハジメはシアへと渡す。

 

 『な、なんですか、これ? 物凄く重いんですけど……』

 

 ハジメが差し出すそれを反射的に受け取ったシアは、あまりの重さに思わずたたらを踏みそうになり慌てて身体強化の出力を上げた。

 渡されたそれは、当初取っ手と思われる部分は短く、円柱部分だけ見れば槌に見えなくもなかったが、それでも何ともアンバランスな形にシアは最初槌に見えず「これがホントに?」とハジメに聞き返したほどだ。

 

 それもそのはず、その状態は待機状態(・・・・)で、シアが魔力を流すことでカシュン! カシュン! という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになる。

 この大槌型アーティファクト:ドリュッケン(ハジメ命名)は、幾つかのギミックを搭載したシア用の武器だ。魔力を特定の場所に流すことで変形したり内蔵の武器が作動したりする。

 

 ブルックの町でユエ達が買い物に行っている間、ハジメが町に出ず、宿に籠もっていた理由はこの武装を製作していたからである。

 

 ハジメから贈られたドリュケンにシアが喜びはしゃぎ、そんな様子を見たユエが嫉妬で不機嫌になりながらも「仕方ない今回は見逃そう」と肩を竦め、ナナキはドリュケンの変形機構にオタクの卵らしく「おぉ〜ッ」と目を輝かせ尻尾をフリフリさせていた。

 

 あ、因みにナナキの顔の化粧はハジメの手によって、念入りに拭き取られていた。あまりに念入り過ぎて顔をもみくちゃにされたナナキが「あぶぶッ」とうめき声を上げる始末。

 

 

 さて、そんな騒がしい中再開した彼らの旅。それは冒頭で話した通り、いきなり待ち構えていた魔物の大群相手に大立ち回りを演じていた。

 

 シアの大槌が、本人の絶大な膂力をもって振るわれ文字通り一撃必殺となって魔物を叩き潰す。攻撃を受けた魔物は自身の耐久力を遥かに超えた衝撃に為す術なく潰され絶命する。餅つきウサギも真っ青な破壊力だ。

 

 ユエは、至近距離まで迫った魔物を、魔力に物を言わせて強引に発動した魔法で屠っていく。ユエ自身の魔力が膨大であることもあるが、魔晶石シリーズに蓄えられた魔力が莫大であることから、まるで弾切れのない爆撃。谷底の魔力分解作用のせいで発動時間・飛距離共に短くとも、超高温の炎がノータイムで発動するので魔物達は一体の例外もなく炭化して絶命する。

 

 ナナキは今回、人間形態での戦闘に重きを置いている。その理由はナナキもユエ同様に魔力分解作用の影響が出ている為である。

ナナキはユエやハジメほど魔力がある訳では無いので、大迷宮まで温存するという狙いもあるが、サメナナキに頼りっぱなしではない、素のナナキとしての戦闘経験を積む狙いもある。

 その両手にはキーファ・ファングを装着していて、型など何もない力任せに拳を打ち据えている。だが、その力任せの攻撃のどれもが、魔物たちの急所となる場所を的確に撃ち抜いていた。

 これはハイリヒ王城でのチャンバラごっこが下地となり、オルクスの隠れ家で、ハジメとユエとの特訓によって、更に的確で精密なものに練り上がっている。そして、人間形態でもナナキの武器は拳だけではない。後ろから魔物が迫れば、見なくてもナナキは()で分かる。どころか、電気感覚(・・・・)が魔物の生体電気の動きを正確に捉え、どのように動くかを“先読み”出来るのだ。

 よって魔物の動きを予測し、その場で一回転すれば『バチィイイイイイインッ!!!』という音を鳴らし、魔物が錐揉み回転で空中に吹き飛ぶ。

魔物の顔面をビンタしたモノの正体。それはもちもちふわふわで、ハジメとユエに時折抱き枕にされているナナキのサメ尻尾であった。

 この尻尾、普段はただのハジメ一行の抱き枕だが一度ナナキが魔力を通せば、堅牢な兵器へと変質(・・)する。その硬度は防御魔法“聖絶”に匹敵する程。これはサメ形態の肉体も同じ事が可能で、ナナキの頑丈さの源でもある。どんなに拙い動きでも、この頑丈さと拳と尻尾による正確な一撃が、ナナキが難無く戦場を駆る事を可能にさせていた。

 

 ハジメは、言うまでもない。シュタイフを走らせながらドンナーで頭部を狙い撃ちにしていく。魔力駆動二輪を走らせながら“纏雷”をも発動させ続けるのは相当魔力を消費する行為なのだが、当然の如く魔力切れの心配はないようである。

 

 谷底に跋扈する地獄の猛獣達が完全に雑魚扱いだった。大迷宮を示す何かがないかを探索しながら片手間で皆殺しにして行く。道中には魔物の死体が溢れかえっていた。

 

 「ジ〜……」ジュルリッ

 

 「ナナキぃ〜、後でだ。晩飯にはまだ早〜ぞ」

 

 地面に転がる魔物の死骸など、逆に食欲が削がれる光景だろうが、何でも食べるナナキ君にとってはご馳走の山。

 自然と死骸(たべもの)に釣られてよだれを垂らすナナキをハジメは諌める。

 

 「はぁ~、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」

 

 洞窟などがあれば調べようと、注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。ついつい愚痴をこぼしてしまうハジメ。

  

 「ナナキ、なんか臭わねぇか?」

 

 スンスンッ「うぅ〜ッわかんなぁい」

 

 「私の耳にも特に怪しい音は聞こえませんねぇ〜」

 

 ハジメはナナキの嗅覚に頼るも、結果は芳しくない。同じく聴覚に優れたシアも確認するが結局は同じだった。

 

 「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

 

 「まぁ、そうなんだけどな……」

 

 「かざん……うぅ〜ッ」

 

 「ナナちゃんは暑がりなんでしたっけ?あぁ〜それなら火山は嫌ですねぇ〜」

 

 「ハァ……魔物が鬱陶しい」

 

 「あ、逆に此処はユエさんにとっては好ましくない場所ですね~」

 

 そんな風にそれぞれに愚痴をこぼし、魔物の多さに辟易しつつも更に走り続けること三日。その日も収穫なく日が暮れて、谷底から見上げる空に上弦の月が美しく輝く頃、ハジメ達はその日の野営の準備をしていた。野営テントを取り出し、夕食の準備をする。町で揃えた食材と調味料と共に、調理器具も取り出す。この野営テントと調理器具、実は全てハジメ謹製のアーティファクトだったりする。

 

 野営テントは、生成魔法により創り出した“暖房石”と“冷房石”が取り付けられており、常に快適な温度を保ってくれる。また、冷房石を利用して“冷蔵庫”や“冷凍庫”も完備されている。さらに、金属製の骨組みには、ナナキのシュテルンヘルトにも使われている“阻害石”を組み込んであるので敵に見つかりにくい。

 

 調理器具には、流し込む魔力量に比例して熱量を調整できる火要らずのフライパンや鍋、魔力を流し込むことで“風爪”が付与された切れ味鋭い包丁などがある。スチームクリーナーモドキなんかもある。

 ハジメパーティーにはただでさえ食べることが大好きな困ったちゃん、ナナキが居るのだ。どれもこれもそんなナナキを満足させる為には欠かせないばかりか、自分達の旅の食事をも豊かにしてくれるハジメの大事な愛し子達である。しかも、魔力の直接操作が出来ないと扱えないという、ある意味防犯性もある。

 ナナキが誤って触れないように気を配る必要はあるが……

 

 一様に“神代魔法超便利!”この一言に尽きる。

 

 調理器具型アーティファクトや冷暖房完備式野営テントを作った時のハジメの言葉だ。まさに無駄に洗練された無駄のない無駄な技術力である。

 

 「ごちそうさまでしたぁ〜」

 

 大満足の夕食を終えれば、一足先に眠りにつくナナキ。

「ふああぁ〜ッ」と欠伸するナナキに膝を貸して、いつも通り食後の雑談をするハジメ達三人。

 ナナキは毎夜、ハジメとユエどちらかの膝に頭を預ける。基準は気分らしい。

 そうしてテントの中にいれば、それなりに阻害石が活躍し魔物が寄ってこないので比較的ゆっくりできる。たまに寄ってくる魔物は、テントに取り付けられた窓からハジメが手だけを突き出し発砲して処理する。そして、就寝時間が来れば、三人で見張りを交代しながら朝を迎える。

 当然そこにナナキは含まれない。夜更かししてナナキの健康に害があったらいかんからだ。

 

 その日も、そろそろ就寝時間だと寝る準備に入るユエとシア。最初の見張りはハジメだ。テントの中にはふかふかの布団があるので、野営にもかかわらず快適な睡眠が取れる。今日はユエの膝の上で「ぷーぷー」と寝ていたナナキを起こさないように布団へ移動させ、ユエ、ナナキ、シアの川の字並びになる。

 

 ……と、布団に入るその前に、シアがテントの外へと出ていこうとした。

 

 訝しそうなハジメに、シアがすまし顔で言う。

 

 「ちょっと、お花を摘みに」

 「谷底に花はないぞ?」

 「ハ・ジ・メ・さ~ん!」

 

 デリカシーのない発言にシアがすまし顔を崩しキッとハジメを睨みつける。そこで眠りが浅かったのか、ナナキがピクリッと反応する。

 

 「にゃにゃき(ナナキ)しってうぅ〜……うさぎはんのはなしい〜……おちょイエ(トイレ)いくときのぉ〜━━━━

 「ナナキぃ〜、勘弁して差し上げろ〜」

 

 デリカシーなんて蚊程も気にしない、空気ガン無視の発言をハジメが苦笑いで遮る。

 シアは、今晩の夕食のトマト煮のように顔を真っ赤にして、羞恥の涙目でぷるぷる震えている。そんなシアにハジメが「悪りぃ悪りぃ」と全く思ってなさ気に返すと、

「ひぃ~んッ!!」と哀れな悲鳴を上げながらテントの外に飛び出して行った。

 シアが出ていった後、「こらッ」と言いながらナナキの頭を軽く叩くユエ。ナナキは「あぅぅ〜」と小さく呻いた。

 

 そうして、しばらくすると突如……

 

 「ハ、ハジメさぁ~ん! ユエさぁ~ん! ナナちゃぁ〜ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

 シアが、ナナキがお眠な事も、魔物を呼び寄せる可能性がある事も忘れ大声を上げる。何事かとハジメとユエ、今ので目が覚めたナナキの三人は顔を見合わせ、同時にテントを飛び出す。

 

 シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た! というように興奮に彩られていた。

 

 「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」

 

 「わかったから、取り敢えず引っ張るな。身体強化全開じゃねぇか。興奮しすぎだろ」

 

 「……うるさい」

 

 「うぅぅ〜……」

 

 シ、はしゃぎながらハジメとユエの手を引っ張る。ナナキはハジメの服の裾を掴んでいるため、釣られて引っ張られる。

 そんないつもより騒がしいシアの姿に、ハジメは少し引き気味に、ユエは鬱陶しそうに、ナナキは眠たげに顔をしかめる。シアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした。

 

 その指先をたどって視線を転じるハジメ達三人は、そこにあるものを見て「は(うぅ)?」と思わず呆けた声を出し目を瞬かせた。

 三人の視線の先、其処には、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。

 

 

 

 “おいでませ!

  ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪”

 

 

 

 “!”や“♪”のマークが妙に凝っている所が何とも腹立たしい。

 

 

 「……なんじゃこりゃ」

 

 「……なにこれ」

 

 「うぅ?」

 

 ハジメとユエの声が重なる。その表情は、まさに“信じられないものを見た!”という表現がぴったり当てはまるものだ。

ナナキだけはよく分からず、首を傾げたままだが、三人共呆然と地獄の谷底には似つかわしくない看板を見つめている。

 

 「何って、入口ですよ! 大迷宮の! おトイ……ゴホッン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」

 

 「……ハッ!ここが、だいめいきゅう!……ずっとさがしてもなかったのに……ッ」

 

 「えっへん!どうですぅナナちゃん。この“シア(・・)お姉ちゃん”を、褒めてくれても良いんですよぉ〜」

 

 「うん!うさぎさん(・・・・・)……すごい!!」

 

 「(´・ω・`)」

 

 シアの「大迷宮」という言葉にようやく事態を理解したナナキが尻尾フリフリしながらきらめく瞳でシアを褒めちぎる。

純粋な尊敬の眼差しを向けられ嬉しいのと、やっぱり名前を呼ばれない寂しさのギャップに微妙な顔になるシア。

そんな能天気な二人の声が響く中、ハジメとユエはやっと硬直が解けたのか、何とも言えない表情になり、困惑しながらお互いを見た。

 

 

 「……ユエ。マジだと思うか?」

 

 「…………………………ん」

 

 「長ぇ間だな。根拠は?」

 

 「……ミレディ(・・・・)

 

 「やっぱそこだよな……」

 

 

 ミレディ(・・・・)その名はオスカーの手記にあったライセン大迷宮創設者のファーストネーム。この名は世間には出回っていない為、ここが本物のライセン大迷宮であると一定信憑性があるが……

 

 「何でこんなチャラいんだよ……」

 

 そう、あまりにもあんまりな文言に、ハジメ達は疑わしいよりも“信じたくない”という気持ちが強かった。なんせ、オルクス大迷宮の内ではそれはもう数々の死闘の連続だった。きっと他の迷宮も一筋縄では行かないのだろうと警戒、覚悟を固めていたのに……この有様である。

この軽さは否応なくハジメとユエを脱力させるものだった。

 

 「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

 「スンスンッ、スンスンッ……うう〜ん」

 

 そんなハジメとユエの微妙な心理に気づくこともなく、シアは、入口はどこでしょう? と辺りをキョロキョロ見渡し、ナナキは匂いを探って床を這いずり回ったり、壁の窪みの奥の方を手や尻尾を使ってペシペシと叩いたりしている。

 

 「おい、ナナキ、シア。あんまり……」

 ガッコン

 

 「おう?」

 

 “あんまり不用意に動き回るな”そう言おうとしたハジメの眼前で、ナナキの触っていた窪みの奥の壁が突如グルンッと横回転、巻き込まれたナナキは、危機感皆無な声を出してそのまま壁の向こう側へ姿を消した。さながら忍者屋敷の仕掛け扉だ。

 

 「「……」」

 

 「な、ナナちゃんん〜〜ッ!?

 

 すぐ隣で姿を消したナナキに狼狽えたシアは、混乱のあまり暴走する。

 

 「ま、待っててください今助けますよぉ〜ッ!」

 「あ、おいちょっと待━━━

 ガッコン

 「お?」

  ━━え?」

 

 

 「ちょっと待て」とハジメが言い終わる前に、シアはナナキがやったように手探りで窪みの奥の壁を触り、回転扉が作動する。

 しかしシアが消えた次の瞬間、今度は体育座りで丸まったナナキが入れ替わるように現れた。

 目まぐるしく移り変わる状況。シアの静止の為に伸ばしたハジメ手は、ナナキへと向けられる形となった。

一言で言って、この状況はとてもシュールである。

 

 そして、何やかんや無事に戻ってきたナナキだが、左右にゆっくりキョロキョロした後、ぱっちり見開いた瞳が一際輝く。

 

 「おぉ〜ッ!!おもしろぉ〜い!」

 

 この回転扉を遊具とでも勘違いしているのか、楽しげに尻尾をブンブン振り回す。

「もっかい!もっかい!」と言いながら、もう一度作動させようと振り返るナナキに、ハジメが透かさずチョップを入れる。

 

 「やめい!あんぽんたんナナキ」

 「あぅッ」

 

 ナナキは可愛く呻いた。

 まぁしかし、シアとナナキのおかげと言って良いのか……奇しくも大迷宮への入口も発見したことで看板の信憑性が増した。

 やはり、ライセンの大迷宮はここにあるようだ。まるで遊園地の誘い文句の様な入口に、

「これでいいのか大迷宮」とか「オルクスでのシリアスを返せ」とか言いたいことは山ほどあるが、無言でシアが消えた回転扉を見つめていたハジメとユエは、一度、顔を見合わせて溜息を吐くと、ナナキ、シアと同じように回転扉に手をかける。

 

 扉の仕掛けが作用して、ハジメとユエ、そして勝手なことしないようにしっかり捕まえられたナナキが同時に扉の向こう側へと送られる。

 入ってみれば中は真っ暗。扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。と、その瞬間、

 

 ヒュヒュヒュ!

 

無数の風切り音が響いたかと思うと暗闇の中をハジメ達目掛けて何かが飛来した。ハジメの“夜目”はその正体を直ぐさま暴く。それは、全く光を反射しない漆黒の矢。

本来であれば、この不可視の刃が侵入者を排除するのであろうが、今宵招かれたのは奈落を踏破した南雲ハジメ一行。この程度かすり傷にもなりはしない。

 

 ハジメはドンナーを右手に、左手はナナキを抑えるためナナキの肩に、飛来する漆黒の矢の尽くを叩き落とした。

 カンッカンッカンッと金属同士がぶつかるような音を響かせ、一本の矢も逃しはしない。

 

 本数にすれば二十本。一本の金属から削り出したような艶のない黒い矢が地面に散らばり、最後の矢が地面に叩き落とされる音を最後に再び静寂が戻った。

 

 「おぉ〜ッあにぃすごい」

 

 ナナキの純粋な賛辞が飛ぶ。しかし、迂闊な行動を取ろうとした罰はまだ執行されていない。賛辞は受け取りつつ、ハジメとユエの二人による両側からほっぺをムニムニの刑に処されるナナキ。

 その空間に、ナナキの「あうあう〜」という呻き声がしばらく木霊していた。

 

 さて、開幕罠の矢を退けば暗闇だった辺りが照らされ、ぼんやりと部屋の様子が明らかになる。

 ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。

そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

 “ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ”

 

“それとも怪我した? はッ!も、もしかして……誰か死んじゃった?こんな単純なトラップでぇ!?

 ……ぶふ〜ッ!!”

 

 

 「「……………。」」

 「うぅ?」

 

 

 コレを見たハジメとユエの心情はかつて無いほど

『うっっっぜええええええ〜〜ッッ』の一言で一致した。2人の額にはビキビキッと青筋が浮かんでいる。

 対して、滅多に怒らないナナキは、唐突にこんな事を言われても逆に戸惑ってしまうだけである。

 

 そんなときふと、ユエが思い出したように呟く。

 

 「……シアは?」

 

 「おそとでオシッ●してるよ〜」

 

 

 ・  ・  ・  。

 

 「お、おいおい、それって………」

 

 ユエの呟きにナナキがなんてことないように返す。鼻が利くナナキならそういう事も分かってしまうのだろうが、如何せん配慮が無さすぎる。おかげでシアの無事は確認できたとは言え、外でシアがどんな有様になっているか容易に想像できたハジメは、額に手を当て天を仰ぐ。

 

 ハジメ達は回転扉をもう一度作動させる。すると案の定、シアが回転して現れる。扉に貼り付けにされた非常口の人のような形で、足元に水溜りを作っていた。

 

 ナナキ一人のときには矢が飛んできてなかった事を見るに、おそらくシアは、本来ナナキを襲うはずだった分の矢も受けている。なんせ、明らかに先程ハジメが落とした倍の数の矢がシアの服の端を壁に縫い止めている。

 察するに、ナナキとシアが入れ替わった時間は本当に一瞬だった。この入り口から誰かが入ってくるのがこの矢の罠の作動条件と考えると、入室後多少間があったハジメたちと比べてシアはかなりギリギリだったのだろう。しかも間を置いての二段構え、ハジメ達よりも条件はシビアだ。予知の力があったとしてもよく避けられたと思う。

 

 「うぅ、ぐすっ、ハジメざん……見ないでぇ〜」

 

 「大丈夫だ。何も言うな……これは事故みたいなもんだから」

 

 「ん……無事でよかった」

 

 「え“ええええ〜〜んッ」

 

 その後、ユエに替えさせてもらうシアから、ナナキと一緒に視線を他へとずらすハジメ。起こったアクシデント故に、この時だけいつもよりハジメとユエはシアに優しくするのだった。

 

 さて、支度を整えいざ迷宮攻略へ! と意気込み新たに奥へ進もうとした矢先、シアが石版に気がつく。

 

 顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠す。しばらく無言だったシアは、おもむろにドリュッケンを取り出すと一瞬で展開し、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。ゴギャ! という破壊音を響かせて粉砕される石板。

 

 「ふんぬっふんぬっふんぬぅうううううううっ!!」

 

 よほど腹に据えかねたのか、親の仇と言わんばかりの勢いでドリュッケンを何度も何度も振り下ろした。

 

 「うさぎさん……とってもぷんぷんしてる」

 

 「お前はもうちょい反省しろ」

 

 「あぅあぅ〜」

 

 そんなシアの後ろ姿を見て呑気言うナナキ。今回のことは間接的にナナキにも原因がある。のほほんとしている弟に、ハジメは再びほっぺムニムニの刑を執行するのだった。

 

 シアがあらかた石板を砕き終わると……砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには……

 

 “ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~ぷーくすくすぅ!!”

 

 「ムッキィイイイイイーー!!

 

 シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したかのように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る。

 

 発狂するシアを尻目にハジメはポツリと呟いた。

 

 「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」

 

 「……激しく同意」

 

 「あぅあぅあぅあぅあぅあぅ〜」

 

 どうやらライセンの大迷宮は、オルクス大迷宮とは別の意味で一筋縄ではいかない場所のようだった。

 

 ハジメとユエはストレス解消に、ナナキほっぺをしこたま(もてあそ)んだ。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 ライセン大迷宮は、俺 南雲 ハジメ の予想以上に厄介な場所だった。

 

 まず、峡谷の谷底なんて可愛く思えるほど魔力の分散作用が強過ぎる。魔法特化のユエ、“変質化”に魔力を使うナナキには相当負担のかかる場所だ。接近戦ができるナナキは威力低下で済むだけマシだが、ユエは今までのように強力な魔法で一撃とは行かなくなった。

 実は俺にもそこそこの影響があり、“空力”や“風爪”とかいった体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可になっていて、頼みの“纏雷”もその出力が大幅に下がってしまっている。ドンナー・シュラークは、その威力が半分以下に落ちているし、シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルしかない。

 よって、この大迷宮では身体強化が何より重要になってくる。ナナキも本来の戦闘スタイルでない以上、俺達の中で唯一万全に戦えるシアは、まさに独壇場となる領域なのだ。

 

 で、その頼もしきウサミミはというと……

 

 「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

 

 ドスッドスも大股歩きでドリュケンを肩に担ぎ、据わった目で獲物を探るように辺りを見渡している。

 わかりやすくブチ切れている。その様子に

「うさぎさん……ちょっとこわい」とナナキが引いているぐらいだ。

それもコレも、此処の創設者“ミレディ・ライセン”の意地の悪いトラップの数々による物だ。

 

 シアの奴の気持ちは、よぉ〜くわかる。奴さんがあんな鼻息荒くしてなきゃ俺とユエが早々にブチギレてる。

 極度に興奮している人が傍にいると、逆に冷静になれるってのは本当なんだなと実感する。

 

 遂はに、「フヒヒ」なんて奇怪な笑い声を発するようになった狂気うさぎを見て、俺はここに至るまでの悪質極まりない道程を思い返した。

 

 

 

 怒髪天うさぎが、最初のウザイ石板を破壊し尽くしたあと、俺達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。

 

 そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

 

 「こりゃまた、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」

 

 「……ん、迷いそう」

 

 「だんじょん……ぼうけん……ワクワクッ☆」

 

 「ふん、これはそんなんじゃありませんよナナちゃんッ!

これは腹の奥底まで腐ったヤツの心を表しているんです!このメチャクチャ具合がその証拠ですよぉッ!」

 

 「……うぅ?」

 

 「夢を壊してやるなよ……まぁ、気持ちは分かるから落ち着け……な?」

 

 未だ怒り心頭のウサミミを宥めつつ、どう進んだもんかと思案する。そんな俺にユエから声が掛かる。

  

 「……ハジメ。考えても仕方ない」

 

 「ん~、まぁ、そうだな。取り敢えずマーキングとマッピングしながら進むしかないか」

 

 「ん……」

 

 迷宮の探索において、マッピングは基本中の基本。だが、こんな複雑怪奇な迷宮でどこまで正確にできるのか?

 これは骨が折れるだろうなと。俺は顔を顰める。

なお、ここで言う“マーキング”とは、俺の“追跡”の固有魔法のことだ。この固有魔法は、自分の触れた場所に魔力で“マーキング”することで、その痕跡を追う事ができるというものだ。生物に“マーキング”した場合、俺にはその生物の移動した痕跡が見える。

 今回の場合、壁などに“マーキング”することで通った場所の目印にする。“マーキング”は可視化することもできるのでユエやシア、ナナキにもわかる。魔力を直接添付しているので、分解作用も及ばず効果が見込める。

 因みに仕組みは違うが、ナナキにも似たような事ができる。魔力ではなく、その場に残った匂いを“超嗅覚”で辿るのだ。

その為、ナナキにも補助として手伝って貰う。 

俺たちが一度通った道は通らない様に、俺たちの匂いがしない場所に誘導してもらうのだ。

 

 俺は早速、入口に一番近い場所にある右脇の通路に“マーキング”して進む。

 

 通路は幅二メートル程で、レンガ造りの建築物のように無数のブロックが組み合わさって出来ていた。やはり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らない。緑光石とは異なる鉱物のようで薄青い光を放っている。

 

 “鉱物系鑑定”で見てみると、“リン鉱石”と出た。

どうやら空気と触れることで発光する性質をもっているようだ。最初の部屋は、おそらく何かの処置をすることで最初は発光しないようにしてあったんだろう。イメージとしてはラピュ●に出てくる飛○石の洞窟を思い浮かべればいいだろう。石の声が聞けるおじいさんがいた、あの場所だ。もっとも、リン鉱石は空気に触れても発光を止めることはないようだが……。

 

 「なんなんなんなんななななんッ

  なんなんなんなんななななんッ〜♪」

 

 ふと、隣でご機嫌に鼻歌を歌う弟を見る。この迷宮内を見て、ナナキも同じようにジブリを連想してか、それに関する選曲だ。

 

 今回、このライセン大迷宮は2つ目の大迷宮ではあるが……

ナナキにとっては真の意味で初めての大迷宮攻略となるだろう。

 なんせナナキは、オルクス大迷宮をほぼ理性のない状態で、力づくで踏破したようなもの。おぼろげに記憶が残っているだけで、ちゃんと意識がある状態での攻略じゃ無かったから、本人としては夢を見ていたような感じだっただろう。

“暴食狂化”による一種のフィーバータイムのようなヌルゲーだったから、大迷宮の恐ろしさを真の意味では理解しきれていないんだ。

 

 「なんなんなんなななんなんなんッ

  なんななな〜ん、なんな〜んッ〜♪」

 

 だからこんな感じにどこか余裕ありげに鼻歌なんか歌っている。……ていうかその歌。ラ●ュタじゃなくてナウ●カだよね?チョイス微妙に間違ってない?

 

 兎に角、俺は危惧している。過度に緊張するのもどうかと思うが、この油断と言うか力を抜きすぎるのもまた危険じゃないかと……。

 

 ガコンッ

 

 あまり深く思考しすぎていたのだろう。俺の足が床のブロックの一つを踏み抜いた。そのブロックだけ俺の体重により沈んでいる。思わず「えっ(うぅ)?」と俺達全員が一斉にその足元を見た。

 

 次の瞬間、

 

 

 シャァアアアァァ!!

 

 

 そんな刃が滑るような音を響かせながら、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

 

 「回避ぃいい!」

 

 俺は咄嗟にそう叫びつつ、マトリッ●スの某主人公のように後ろに倒れ込みながら二本の凶悪な刃を回避する。

 ユエは元々背が小さいのでしゃがむだけで回避した。

 ナナキもユエよりも背が低いため、ユエと同じようにしゃがむだけでいいはずなのだが、咄嗟のことで『ぴょ〜ん』と前方へ手足と尻尾をぴーんと伸ばした状態で上の刃と下の刃の間をスレスレで回避する。その表情は鬼気迫るものがある。当然のように普通に避けるより難しいことをしていてこっちの方がビビるものだ。

 シアも何とか回避したようだ。後ろから「はわわ、はわわわわ」と動揺に揺れる声が聞こえてくる。苦悶の声ではないようなので、怪我はしていないのだろうと推測する。振り返って見れば、かなりギリギリでウサミミの先端の毛がスッパリ持って行かれたようだが……問題ないだろう。

 

 2枚の丸鋸は俺達を通り過ぎると何事もなかったように再び壁の隙間に消えた。第2陣を警戒して辺りを見渡すも……何も起きる気配はない。

 一息つこうとしたその時、

  

 「あにぃッ!!」

 

 突然、ナナキが声を荒げたと思ったら、俺の背筋に悪寒が走る。俺はユエとシアを咄嗟に抱え、ナナキと一緒に前方へと跳ぶ。直後、今の今まで俺達がいた場所に、頭上からギロチンの如く無数の刃が射出され、まるでバターの如く床にスっと食い込んだ。やはり、先程の刃と同じく高速振動している。

 

 足先数センチに落とされた刃を見つめ、無意識に冷や汗が俺の額を濡らす。ユエとシアも硬直している。ナナキも先程のご機嫌気分はどっかへ吹っ飛び、ぷるぷる震えている。

 

 にしても……

 

 「……クソッ完全な物理トラップか。魔眼石じゃあ、感知できないわけだ」

 

 俺が、まんまとトラップに掛かった理由は、魔法のトラップに集中していたからだ。今までの迷宮のトラップと言えばほとんどが魔法を利用したものだった。そして、魔法のトラップなら、俺の魔眼は尽く看破できる。それ故に、魔眼に反応しなければ大丈夫という先入観を持ってしまっていた。

 要は、自分の力を過信していた。って言うことだ。

 ナナキが俺より先に気づいたのは、おそらく()だ。

この場には無い匂いが急接近したから気付けた。そういう所だろう。

 

 ちくしょうッこの様じゃ、ナナキに偉そうなこと言えねぇぞ俺。そう思い、俺はナナキに視線を移す。

 

 するとナナキは、涙目で未だプルプルと全身を震わせていた。そして自分の尻尾の先をギュッと抱き寄せ、尻尾の先が本当にちょん切れてないか確かめている。

 これは、相当堪えたようだ。今までが調子が良かった分、今回のピンチはナナキの余裕を奪うには十分な効果があったらしい。なら、兄として俺ができることは一つ。そこに偉そうも何も関係ない。

 

 「大丈夫か?ナナキ」

 

 「あ、あにぃ?」

 

 俺に肩を叩かれビクンッと肩を震わせた後、そろ〜りとこちらに振り向くナナキ。そんな今にも泣きそうな弟に俺は真剣な眼差しで答える。

 

 「いいかナナキ、これが(・・・)大迷宮だ。どんな力を持っていようとちょっとした油断ですぐにあの世行きだ。現に俺も油断して冷や汗ドバドバだ。何とか生きてるがなッ」

 

 「あにぃ……。」

 

 「ここからは油断禁物だ。だが、俺一人じゃ切り抜けるにも限界がある。だから皆で力を合わせなきゃいけない。ナナキも協力してくれるか?」

 

 「ッ…………」

 

 そこまで言うと、ナナキは背筋をピンッと正して目に溜めた涙が溢れる前にぐしぐしと腕で拭うと、

 

 「うん!ナナキ……がんばる!」

 

 瞳に力強い光を宿してそう宣言した。そんな弟の姿にナナキの成長を実感しながら、俺は嬉しさで表情を和らげその頭を撫で回す。俺も兄貴として負けられない。

 

 「あぁ、期待してる。だからお前も、兄ちゃんやユエ姉ちゃん………あとうさぎさん達を頼れよ」

 

 「えっ!?」

 

 当然のことをナナキに伝えていると、全く別なところから驚愕の声が飛び出る。

 

 「そ、そこで私ですかぁ!?」

 

 そう、うさぎさんである。そんな情けないことを抜かす卑屈ウサギに俺は言ってやる。

 

 「何言ってんだよ。この迷宮だと魔力の分散作用のせいで、俺とユエは本調子じゃない。重要なのは身体強化……つまりお前なんだよ。」

 

 「ん……不甲斐ないけど、そこだけは事実。」

 

 「え、ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜ッ!!」

 

 ユエも交えて言うと、卑屈ウサギは腰が抜けるほどに驚いていた。いや、今まで気づいていなかったのかよ……。

 

 「まぁ、兎も角だ。ナナキのサメ化も魔力の消費が激しいからここぞというとき以外使えない。だからこの中で万全なのはお前だけだ。この状況でお前を頼らないのはありえねぇんだよ。」

 

 いまいち自覚が足りていないコイツに、俺は精一杯の発破をかけてやる。それを受けたコイツは、さっきまでしなっていたウサミミに力が戻り、多少気後れしながらもキリッと眉根をつり上げる。

 

 「わ、わかりました皆さん。この私を、どぉ〜んと頼ってくださいね!」

 

 こいつもナナキ程ではないが少々単純な部分があるみたいだ。この通り、胸をバァンと張って拳でポムッと叩いている。

 

 「頑張りましょうナナちゃん!」

 

 「うん!」

 

 当然俺達も命懸けで挑むことには変わりない。しかし実際、今回はこのインファイト組二人に掛かっているのも事実。

 それでも俺達は気持ちを新たに引き締め、この先も嫌らしいトラップがあるのだろうと身構えながら、リン鉱石の照らす通路を進む。

 

 

 ここに改めて、俺達のライセン大迷宮の攻略が始まったのだった。





 最初はナナキ君の声、久野美咲さんって思ってたけど……
 木野日菜さんもありだなぁ〜って思い始めている。
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