世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 いやぁ~、ライセン大迷宮攻略編。2話で終わらそうとしたけど流石に削るのがむずい。次回の3話目まで行きますね。


 


第27話∶いじわるなんかに、まけないもん!

 

 俺 南雲 ハジメは、仲間4人で慎重にこの大迷宮(トラップハウス)の最奥を目指す。

 今のところ魔物は一切出てきてない。魔物のいない迷宮とも考えられるが、それは楽観が過ぎるというものだろう。それこそトラップという形で、いきなり現れてもおかしくねぇ。

 

 「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ〜」

 

 俺達は今3つの分かれ道のうち、下へと降りる階段を歩いている。階段の中程まで進んだ頃に、忙しなくウサミミをピクつかせながらフラグまがいの事を抜かすウサミミ。

 

 「お前、変な事言うんじゃ無ねぇよ。そういう事言う時は大体━━

 ガッコンッ    

 ━━ほら見ろッ!!」

 「わ、私のせいじゃないですぅッ!?」

 「!? ……フラグウサギッ!」

 「すぅぅべぇぇぇるぅぅぅぅううう……ッ!!」

 

 ナナキが叫ぶ通り、最早聞き慣れた異音と共に降りていた階段の段差が一瞬で全て消えスロープへと変じる。それと同時にそこから無数の穴が発生し、タールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

宛ら黒いローション滑り台である。

 

 「くっこのぉ!!」

 

 俺は咄嗟に靴底に仕込んでおいた鉱石を錬成してスパイクを生み出し、義手の指先に生やした爪を突き刺して何とか耐える。

 

 「ひゃうッ!!?」

 「ごめんナナキ!……でも今は我慢してッ」

 「はぅぅうう〜///」

 

 ユエは滑り落ちそうになっていたナナキの尻尾を咄嗟に掴んで、もう片方の腕で俺にしがみつく。俺が踏ん張ると読んでいたんだろう。流石だ。

 

 ここまでは良かったんだが……

 

 「うきゃぁあ!?

 

 段差が消えた段階で悲鳴を上げながら転倒、後頭部を地面に強打。「ぬぅああ!」と身悶えている間に、液体まみれになり滑落。そのまま、M字開脚の状態で俺の顔面に衝突する影。

 

 確かめるまでもなくシアの野郎だ。

 

 「ぶっ!?」

 

 今の衝撃で俺の義手の爪が外れ、右腕でユエを担いだまま背中から倒れ込む。それによって靴底のスパイクも抜けてしまい、スロープの下方に頭を向ける形で滑り落ちていく。ドジぬかしたウサギは、そんな俺の上に逆方向で仰向けに乗っかっている状態だ。

 

 「てんめぇ! ドジウサギィ! 早くどけ!」

 

 「しゅ、しゅみませぇん~ッでも身動きがぁあ〜!」

 

 マズイな、滑り落ちる速度がドンドン増している。再び靴や義手のスパイクを地面に突き立てようにも、速度が出すぎていて中々上手くいかない。

 それなら直接階段の錬成を試みるが……やっぱり、迷宮の強力な分解作用により上手く行かない。

 

 ドジウサギがもがきつつも何とか起き上がり、俺の上で馬乗りになる。

 

 「ドリュッケンの杭を打ち付けろ!」

 

 それを見て、俺はシアの奴に指示を出す。

ドリュッケンには、幾つかのギミックが仕込まれていて、その内の一つが槌の頭部分の平面から飛び出る杭。一点突破の貫通力を上げる為の仕掛けだ。

 両手が自由になった今なら、それを地面に突き立て滑落を止めるのが可能だとそう俺は踏んでいた。

 

 「は、はい、任せッ!? ハジメさん! 道がっ!」

 

 シアの奴が背中の固定具からドリュッケンを外そうと手を回した直後、前方を見た奴が焦燥に駆られた声をあげる。

 

 それだけで俺は悟る。落とし穴かッ━━!

 

 「ユエ!ナナキを」

 

 「んッ!」

 

 ユエは俺の意図を悟り、掴んでいたナナキの尻尾を手放す。ナナキは戦闘時以外で尻尾を触られていると力が抜けてふにゃふにゃになってしまうからだ。

 ユエが手放したことで、ナナキは3人分の重さがある俺たちよりも滑落の勢いが減速して、俺たちよりも上の位置に移動する。

 ……本当は最後のボス戦まで温存させてあげたかったが……

 

 ……やむを得ないッ

 

 「ナナキッ!!両腕(・・)!!」

 

 「うぅ〜……………ハッ!うん!」

 

 復活に手間取ったが、その手間をチャラにするほど俺の端的な指示にナナキは即座に応える。

 ナナキの左腕がメキメキッと音を鳴らして灰色の巨腕に変貌する。装着しているファングも伸縮素材の為ナナキの腕に合わせて伸びる。

 肥大化した左腕で俺達三人を纏めて担ぎ上げた次は、右腕を肥大化させる。そのままナナキは肥大化した右腕を頭上に掲げ、掌をパッと開くと同時にキーファの指先からシャキンッと爪が展開する。そしてナナキは、その腕をそのままスロープめがけて思いっきり振り下ろした。

 

 「うううぅぅガァァァァアアアアアアッ!!!」

 ズガァャァァァンッ

 

 振るわれたナナキの剛腕は、途轍もない破砕音と共にその爪を深々とスロープに突き刺した。

そのままガリガリガリーッと深い爪痕をスロープに残し、石礫を撒き散らしながら滑る勢いを殺していく。そうして少しずつ俺達の身体は勢いを無くして行き、落とし穴に落ちるギリギリの場所で止まることに成功した。やはりそれなりにスピードが出ていたからか、すぐには止まることは出来なかったが……それは(・・・)大した問題じゃない。

 

 問題なのは……

 

 カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

 

 落とし穴を覗いた先に、おびただしい数のサソリが蠢いていた。見たところ、体長は10センチ程度で普通のサソリと変わらないから前に遭遇した奈落のサソリモドキ程脅威には感じないが、生理的嫌悪感はこっちのが圧倒的に上だ。

 

 「「……。」」

 「うげぇッ」

 

 俺とユエは無言で視線を逸らし、シアの野郎は身震いしながら心底嫌そうな声を出す。

 

 「うぅ?どうしたの……だいじょうぶ?」

 

 「心配するなナナキ。だが、絶対に落とし穴は覗くなよ。絶対に(・・・)だ……。」

 

 「うぅ?」

 

 今ナナキはスロープにしがみついている状態なので、位置関係的にサソリの大群を認知できていない。ナナキはああいうのに嫌悪感を感じる質ではないが、驚きはするだろう。その拍子で手を離してしまえば、俺達はあの地獄の空間にまっ逆さまだ。

 

 さてここからどうしたものかと視線を巡らせると、とある壁に目が留まる。そこには何やら光る文字があることに気がつく。

 

 ……何となく内容は察しがつくが、つい俺達は読んでしまう。

 

 “彼等に致死性の毒はありません”

 

 “でも麻痺はします”

 

 “存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!”

 

 

 「「「………。」」」

 

 わざわざリン鉱石の比重を高くしてあるようで、薄暗い空間でもやたらと目立つその文字。ここに落ちた奴はきっと、サソリに全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばすだろう。そして発見するのだ。このふざけた言葉を。まったく、質が悪いにも程がある。

「相手にすんな、相手すんな」と自分に言い聞かせ、何とか気を取り直して周囲の観察を再開する。

 

 「……ハジメ、あそこ」

 

 「ん?」

 

 すると、ユエが何かに気がついたように下方のとある場所を指差した。そこにはぽっかりと横穴が空いている。

 

 「横穴かぁ……どうする? このまま落ちてきたところを登るか、あそこに行ってみるか」

 

 「わ、私は、ハジメさんの決定に従います。ご迷惑をお掛けしたばかりですし……」

 

 「いや、そのお仕置きは迷宮出たらするから気にするな」

 

 「逆に気になりますよぉ! そこは『気にするな』だけでいいじゃないですかぁ」

 

 「……図々しい。お仕置き二倍」

 

 「んなっ、ユエさんも加わると!? うぅ、迷宮を攻略しても未来は暗いです」

 

 「うさぎさん、げんきだす……ふぁいと」

 

 「うぅ〜ナナちゃぁ〜ん」

 

 そう情けなく喚くうじうじうさぎを横目に、戻るよりも進むほうが気分がいいからと、横穴へと進むことを決めた俺達。

 

 「ナナキ。俺が3秒数えて合図出すから、その時に“変質化”を解いて手を離せ。その後はユエ、頼む。」

 

 「ん……任せて」

 

 「うん、わかったぁ〜」

 「えぇっちょ!?離すっ!今離すって言いましたか!?」

 

 俺の指示を淀みなく了承するユエとナナキの二人と違い、シアの奴からは慌てた声が響く。

 

 「ま、まままさか……あそこにに落ちるつもりです━━

 「3、2、1、今!」かあぁぁぁあああああッ!!!?」

 

 当然、俺はそれを無視して合図を出す。それを受けたナナキは、俺の指示通りにパッと手を離して、ポンッとその腕を元に戻す。支えを失った俺たちはそのまま自由落下。

 

 ユエは俺の右腕、ナナキは俺の腰、発狂うさぎは俺の首にしがみつく。耳元で騒がれて鬱陶しい限りだ。

 

 「“来翔”」

 

その後すぐ、ユエが風魔法の初級。“来翔”で上昇気流を発生させ、俺達の身体を数秒空中に留める。

 

 そして最後に、俺が左腕の義手を横穴に向ける。

 

 「ドンピシャぁああッ」

 

 パシュッ

 

 義手に魔力を込めれば、空気が抜けるような音と共に、義手の手首からワイヤーに繋がったアンカーが射出される。アンカーは狙い通り、横穴より少し上へと突き刺さる。

 

 「しっかり掴まれぇぇええッ!!!!」

 

 「ん!」「はいぃぃッ!!」「うぅ〜ッ!!」

 

 そのまま俺達はワイヤーを巻き取り、横穴へと滑り込む。勢いよく行ったのである程度地面を滑ったが、無事着地に成功する。周囲を見渡し、追い打ちは無いか今度は物理的な罠も警戒する。

  しばらく置いて何もないとわかって、俺はようやく息をついた。

 

 「ふぅ〜ッ……なんとかうまく行ったな。」

 「行ったな。じゃないですぅ〜ッッ!!死ぬかと思いましたよ私ぃ!!」

 

 そんなときに、このKY(空気読めない)うさぎが俺の耳元でぎゃいぎゃい騒ぎ出す。

 

 「ああ言う事する時は事前に教えといてください!!こっちにも心の準備とかあるんですから!!今でも自分が生きていることを実感するのに必死なんですよ!!」

 

 「ぎゃーぎゃーうるせえなぁ、またチビったのか?」

 「ち、チビってませんよ!?なんて事言うんですか!!」

 「……おもらしウサギ」

 「ちょっユエさん!!取り消してください流石に不名誉が過ぎます!!」

 「あにぃあにぃ!!いまのすごかった!!なんかね、おなかのしたあたりがフワッてなってふしぎだったのぉ〜」

 

 「お、おう……そうか。」

 

 ユエによる、『〇〇ウサギ』レパートリーが新たに追加される他所で、ナナキはタ●ヒュンの感覚に感動してはしゃいでいた。ナナキは背が低いから、今まで絶叫マシーンの類には乗れなかったからなぁ〜。●マヒュンはナナキにとっては、滅多に味わえない体験だったろう。だが、そんな話をこっちに振られても反応に困る。

取り敢えず、可愛いので頭を撫でることにする。

 

 「………。」ヨシヨシ

 

 「え、うぅ?……えへへッ///」

 

 最初、唐突に無言で頭を撫でてくる俺に戸惑った様子を見せたナナキだったが、疑問よりも嬉しさが勝ったのか、その顔を朱色に染めてへにゃっとした笑顔に変わる。

 

 「ちょいそこぉ!!私達が言い合っている間になぁにいちゃついてるんですかこのブラコン兄弟ぃいい!!」

 

 「むむ……ナナキずるい」

 

 とまぁ、俺がナナキと戯れていたらKYうさぎとユエが割り込んでくる。俺は「別にいちゃついていねぇよ」と言いながら、嫉妬でムスッとなったユエの頭を撫でる。

 

 「むふーッ」

 

 どうやら機嫌は直ったらしい。

 

 「ちょっと待ってください?なんでそこで流れるようにユエさんともいちゃつき始めてるんですか?私は仲間はずれですか?」

 

 「あ?どういう意味だ?」

 

 「え、えっとぉ……わ、私も撫でてほしいなぁ……って」

 

 「は?なんで?」

 

 「そこで純粋に疑問で返すのやめてください!!変に茶化されるよりも一番傷つきますぅぅううッ!!」

 

 その後も「ふぇええんッ」と喚くウサミミに呆れた視線を向ける俺。だが同時に、感心もしていた。

 

 迷宮に入って早1時間若、既に3回は死にかける目に遭っているのに関わらず、元気な様子だ。

やはりこいつの最大の強みは打たれ強さにあるんだろう。

 

 そんな事を考えつつ、俺達は先に進むのだった。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 「はぁ…はぁ…トラップ多過ぎだろッこの大迷宮」ムニムニッ

 

 「ん……いい加減しつこい………」ムニムニッ

 

 「おにょれ、ミレディめぇえ~ッ」ムニムニッ

 

 「あぅあぅあぅ〜ッ」

 

 あの後も、進む道、たどり着く部屋の尽くで俺達を待ち構えていた悪辣な罠の数々。

 

 全方位から飛来する毒矢、硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、アリジゴクのように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、こちらを押し潰さんと迫る天井、そしてウザイ文。俺達のストレスはマッハだった。

なので、今こうしてナナキのほっぺセラピーの真っ最中である。

 

 「おい、セクハラうさぎ。何勝手に触ってんだ。このほっぺは俺とユエの物だ。」

 

 「ん、のんタッチ。まいナナキ……ッ」

 

 「なっ!お二人ばっかりずるいですッ少しは譲ってくださいよぉッ」

 

 「うにぃぃいい〜ッ」

 

 トラップはただの嫌がらせなものもあれば、ガチで命を取りに来てるものと様々だが、その全てのトラップにつき必ずうざい一文が設置されているらしい。

 ミレディ・ライセン……嫌がらせに努力を惜しまないヤツである。

 俺達はナナキのほっぺをムニムニしているからなんとか発狂せずにすんでいる。

 こんなもん、ナナキのほっぺ無しには精神の均衡を保てる気がしない。

 

 「私にも、癒しが必要なんですぅううッ!!」

 「何言ってんだ。お前はあの文字が出るたんびにドリュケンでぶん殴ってるから発散できてんだろうが!!」

 「あれ結局は元に戻るから意味ないじゃないですかぁ!!」

 

 なら何故やるんだ!?……と、突っ込んでやるのは野望だろう。言うまでもない事だが、ミレディ・ライセンってのはそれほど質の悪い野郎だ。殴らずにはいられないという気持ちも分からなくはない。

 

 「ほにょおおおおおおお〜ッ」

 

 だが、ナナキのほっぺは渡さん。ムニムニッ

 

 「だいたい。お前の“選択未来”が何度も使えれば、こうも苦労することは無かっただろうが」

 

 「うっ、それはまだちょっと。練習してはいるのですが……」

 

 “選択未来”シアの奴の固有魔法だ。

仮定の先の未来を垣間見る事ができる。と、一見聞けば有用だが、一日一回しか使用できない上、魔力も多大に消費するのであまり使えない固有魔法だ。

 こいつの強みは身体強化なので、魔力が枯渇しては唯の残念なウサギになってしまう。一応、日々鍛錬をしており、消費魔力が少しずつ減ってきていたりするのだが……十全に使いこなすにはまだまだ道のりは長い。

 

 「ま、無い物ねだりしてもしょうがねぇな。」ムニムニッ

 

 「むにょぉおお〜ッ」

 

 

 そうして、雑談しつつナナキのほっぺを取り合っているうちに、この迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は六、七メートルといったところだろう。結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっている。おそらく螺旋状に下っていく通路なんだろう。

 

 俺達はナナキの頬から手を離して警戒する。この如何にもな通路で何のトラップも作動しないなど有り得ない。

 

 

 その考えが正しいことを証明するように、お決まりの「ガコンッ!」という何かが作動する音が響く。

 

 「今度はなんだ?」

 

 いい加減うんざりしたような気分で警戒を高める俺の耳に、それは聞こえた。

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ

 

 それは、明らかに何か重たいものが転がってくる音。

 

 「あにぃ!うしろッうしろッ!」

 

 ナナキの鼻に頼らずともその音はスロープの上方、俺たちの背後からしてくることはわかっていた。

 俺達は恐る恐る後ろを振り返る。俺達の背後、スロープの上の方はカーブになっていて先が見えない。音は次第に大きくなり、

そして……カーブの奥から通路と同じ大きさの巨大な大岩が転がって来た。

 岩で出来た大玉である。

 

 「おぉ〜ッ……イ●ディー・ジョブズ!」

 「言うとる場合かぁああああッ!!」

 

 映画で見た既視感のある光景に、呑気にはしゃぐナナキを抱えた俺はユエたちを伴って一目散に駆け出す。

 あと、正しくはイン●ィー・ジョーンズだ。なんか色々混ざってんだよ。

 

 そんなどうでもいい思考が一瞬過ったとき。俺はふと足を止める。

 

 「ん?ハジメ!」

 

 「ちょっとハジメさん!? 早くしないと潰されますよ!」

 

 慌てたような2人の声は今の俺には遠く聞こえた。俺は足元にナナキをちょこんと降ろすと、回れ右して大玉へと向き合う。

 

 いい加減イライラして来たぜ。だいたい、逃げ続けるってのは性に合わねぇ……。

 

 俺はその場で腰を深く落として右手を真っ直ぐに前方に伸ばしす。その掌は大玉を照準するように掲げ、左腕はググッと限界まで引き絞る。待機状態で固定された義手が「キィイイイン!!」と轟音を唸らせる。

 

 目の前まで迫る大玉を睨みつけ、ここまでの怒りを全てぶつけるつもりで拳を放つ。

 

 「いつまでも、やられっぱなしじゃねぇぞゴラァアアアアアアッ!!!!

 

 ゴガァアアン!!!

 

 凄まじい破壊音を響かせながら大玉と俺の拳が激突する。

大玉の圧で足が地面を滑り少し後退させられるが、再びスパイクを錬成してその場に踏ん張る。

そして、俺の拳の一撃は衝突点を中心に大玉を破砕していき、全体に亀裂を生じさせた。

それにより、大玉の勢いが目に見えて減衰する。

 

ラァアアア!!

 

 俺は気合いと共に、更に力を込めて拳を振り抜く。かろうじて拮抗していた大玉と俺の拳の均衡がそれで一気に崩れ去り、大玉は轟音を響かせながら木っ端微塵に砕け散った。

 

 「ッしゃオラァ!!」

 

 「おぉ〜ッあにぃスゴい!かっこいい!」

 

 「ハジメさ~ん! 流石ですぅ! カッコイイですぅ! すっごくスッキリしましたぁ!」

 

 「……ん、すっきり」

 

 ストレス爽快!今までいやらしいトラップと嫌がらせの文への怒りがスッキリした気分だぜ。自分でも分かるほど清々しい顔をしてるだろう俺のもとに、ユエ達が駆け寄って次々にはしゃいだ声をあげる。

 

 「おっし、これでゆっくりとこの道を渡れ━━

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ

 

 

 そう俺が言い終わる前に、この通路に聞き覚えのある物音が再び鳴り響く。

 

 俺とウサミミは笑顔のまま、ユエは無表情ながら頬を引き攣らせ、ナナキはポカンっとした顔で不思議そうに首を傾ける。

 その状態のまま、それぞれぎこちない動きで背後を振り向く。そこで、目に映ったたのは………

 

 ………黒光りする金属製の大玉だった。

 

 「うっそん」

 

 笑顔のまま、俺はそんな乾いたつぶやきを漏らす。

 

 スンスンッ「うぅッ……はながつぅ〜んってしゅる〜」

 

 ふと、そう言って鼻をひくつかせたナナキが、珍しく嫌そうな顔で鼻を押さえる。

 そう、あろうことがあの大玉。表面の無数の穴から液体をまき散らしながらこちらに迫ってきている。その液体は周囲からシュワ〜ッと音を立てて煙を上げさせている。

 

 「……溶けてる。」

 

 「ま、まずいですよ……これぇッ」

 

 溶解液をまき散らす金属製の大玉。故に今回は拳を使うことはできないため破壊は不可能。そもそもアレは日に何度も使える代物じゃない。その事実を確認したあと、俺は深く息をつく。

そして貼り付けた笑顔のままユエ達の方へと振り向き、再びナナキを小脇にヒョイッと抱える。

 その瞬間、俺の顔から貼り付けた笑みが消え失せる。

 

 「逃げるぞちくしょぉぉぉおおおおあおおッ!!!!」

 

 そう叫び、俺は一目散にスロープの下へと駆け下りて行く。

 

 「いやぁあああ!! 轢かれた上に溶けるなんて絶対に嫌ですぅ~!」

 

 「……ん、とにかく走ってッ」

 

 俺と追走するように、ユエ達もクリンッと踵を返し必死に足を回す。通路内をウサミミの泣き言が響き渡る。

 

 「っていうかハジメさ~ん! 先に逃げるなんてヒドイですよぉ! 薄情ものぉ! 鬼ぃ!」

 

 「やッかましいわ! 誤差だ誤差! 黙って走れ!」

 

 「置いていったくせに何ですかその言い草! 私の事なんてどうでもいいんですね!? うわぁ~ん、死んだら化けて出てやるぅ!」

 

 「……シア、意外に余裕?」

 

 必死に逃げながらも、しっかり文句は言っている泣きムシアに、ユエが呆れたような目線を向ける。

 

 しかし、今が窮地であることには変わりない。この通路の先に何が待っているかはともかく、その対策を講じる余裕がない。せめてあと少し、あの大玉と距離を開けられたらと、俺は後ろを振り返る。

 だが無情にも、大玉はその速度を増し俺達のすぐ後ろまで迫ってきていた。

 

 ふとその時、俺の小脇に抱えられたナナキがもぞもぞと身動ぎする。

 

 「悪いナナキッ今は動くな!!」

 

 こんな切羽詰まった状況でナナキにまで気を配れない俺はそう叫ぶも……

 「……ばるッ

 「え?なんてぇ?」

 

 俺の声なんて気にしないとばかりにナナキがボソボソと呟く。俺がそれを聞き返すよりも早く、小脇に抱えたナナキの体が急に肥大化する(・・・・・)

 

 「なっ!?ナナキ待て!」

 

 ナナキが何をしようとしているのか察した俺は小脇の拘束に力を入れるも既に遅く、俺の拘束を抜け出したナナキはメキメキメキッと、骨格が組み替わる音と共に変質する。

 

 『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!

 

 完全体サメナナキの姿へと……。

 

 次の瞬間。ナナキはウサギとユエ、そして俺を掴み上げるとヒョイヒョイッと自分の背中に乗せる。そしてググッ屈み込むとナナキの足の筋肉が隆起する。

 

 『ナナキ……ガンバルッ!!

 

 そう呟いて直ぐ、ゴバァンッという何かが爆ぜたかのような音と共に、俺達の身体を強烈な風圧が襲う。

 

 「ふぎゃああああああッ!!?」

 「くっ」

 

 俺達は咄嗟にナナキの背にしがみつき、絶叫ウサギが悲鳴を上げる。

 しばらくして風圧に慣れていきた為、瞼を開けると、

既に、俺達と大玉との距離が大きく離されていた。スロープの上方、俺達の背後のカーブの向こうに大玉の姿が無い。

 

 ナナキは例え“変質化”したとしても俺よりも敏捷の値が低い。だから自分で走らせず小脇に抱えて運んでいたのだが、ナナキはその化物筋力で爆発的な跳躍をしてみせた。

 

 その広い背中に俺達全員を乗せて、纏めて大玉の射程圏内を逃れていのだ。

 

 おかげで、俺達にも少し余裕が生まれる。

 

 しかし……

 

 前述の通り、完全サメ形態はここライセン大迷宮において、魔力の消費量が馬鹿にならない。唯でさえ、ナナキ個人の保有魔力は俺とユエに比べて少ない。この手段が取れるのも、あと数分が限界だ。それに、

 

 「ふ、ふぅ助かりまし━━

 「いや、まだ……」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ

 

 

 ユエの言う通り、俺達はまだ窮地を脱しては居ない。

再び、大玉がカーブの先から姿を現した。

 

 「ま、また来ましたァァァ!!」

 「ナナキッ翔べ!!」

 

 『アイッ!』

 

 そう俺が指示すると、ナナキは再び足に力を込め跳躍する。

 キーファ・ファングの爪を伸ばし、まるでカエルのように床だけでなく、壁をも足場にしてぴょんぴょんぴょんッと通路を縦横無尽に跳び回る。

 

 「ぬおっ!」

 「くぅッ……」

 「め、目が回りますぅうぅうぅ〜〜ッ」

 

 途轍も無いGが俺達の体を襲う。ナナキは落ちないようにはしているが、背中の俺達の状態まで気が回っていないらしい。シアの奴が顔を真っ青にして乗り物酔いしている。

こればっかりは仕方ないと割り切ろう。

 

 そうしてるうちに、通路の終わりが見える。“遠見”で確認すると、どうやら相当大きな空間が広がっているようだ。だが見える範囲が少しおかしい。部屋の床がずっと遠くの部分しか見えない。これは恐らく、この通路の出口は次の部屋の天井付近に設置されているってことだ。

 要するに、これは出口とは名ばかりの落とし穴。下に何の仕掛けも用意されてないなんてこの迷宮……いやミレディ・ライセンって奴に限ってありえねぇだろ。

 

 「ユエ!魔法の準備。ナナキはあそこを通った瞬間“変質化”を解除しろ。おい残念ウサギッお前はオレにしっかり捕まってろ!」

 

 そこまで考え至った瞬間、俺は三人にそれぞれ言い放つ。

 

 「ん!」

 『ワカッタァ!』

 「は、はいぃぃ!」

 

 俺の言葉に即座に応える三人。そして出口の穴がすぐ目の前まで迫ったとき、俺は叫ぶ。

 

 「ナナキッ飛び込めぇ!!」

 

 『ガンバッ……ルウウウウウウウウッ!』

 

 出口の部屋の手前。ナナキが踏ん張りに更に力を込め、

 

 バガァァァーンッと、今度こそスロープの石畳が砕け散ったのと同時、ナナキが爆発的なスピードで出口へと飛び出した。

 

 そして案の定。入った部屋の真下には怪しい液体のプールで満たされていた。

 

 だが、残念だったなミレディ・ライセン。ナナキが余裕を作ってくれたおかげで……こっちは既に対策を済ませてあんだよッ!

 

 「“来翔”!」

 

 ユエの魔法で俺達の体は宙に浮く、同時にナナキの体が萎むようにもとに戻る。その間、俺はこの部屋に来る少し前に用意していたものを宝物庫から取り出す。

 

 「オォォオオオラァァアアッ!!」

 

 それは俺達四人が収まっても余りある大きさの円盤。それを俺は力の限り壁に向けて投げつけた。

 

 それは一直線に壁へと突き進み半円になる程深々と壁に突き刺さった。この円盤の物体は、宝物庫にある余りのシュタル鉱石+ナナキの抜け牙を、寄せ集めて即席で作った物だ。

 

 魔力を込めて、とても頑丈になるだけのアーティファクトとも呼べない唯の円盤だが、この場ではそれだけで十分だ。

 

 俺はその円盤にアンカーを突き刺し、それを通して再び魔力を流し込む。これにより、この円盤はどんな物理法則も無視した頑丈さを持つ絶対壊れない足場(・・)となったのだ。

 

 迷宮の魔力分散効果のせいで効率はクソほど悪いが、この部屋を出るまでは余裕で持つだろう。

 

 全て計画通り、しかしそんな中で誤算が一つ。

 

 「ぐすっ、ひっく、どうせ私なんて……私なんて……うぅ、ぐすっ」

 

 そう、この残念ウサギである。

 

 今この泣きべそウサギは、壁に張り付けにされている。こいつは、俺が「ちゃんと捕まっとけ」と言っておいたにも関わらず、この部屋に跳び入った衝撃で俺の首から腕を離しやがった。俺が咄嗟に投げナイフもとい余ったナナキの牙を投げつけていなかったら、遅れて入ってきたあの大玉のように、溶解液プールに真っ逆さまだっただろう。

金属製の大玉が、グツグツプシューッと音を立てて沈んでいくほどの強力な溶解度だ。人一人程度、骨も残らず溶かされていただろう。

 

 「ったく……なに泣きべそかいてやがんだ?」

 

 「ん……情緒不安定?」

 

 「この状態を見ればわかるでしょう。ナナちゃんは兎も角、何でユエさんは優しく抱っこされてて、私は磔なんですか。ハジメさ~ん、いい加減、少しくらい私にデレてくれてもいいんですよ!?」

  

 「いや、そもそも俺はちゃんと捕まってろって言ったよな?

お前が手を離してなけりゃこんな事になってなかったろうが。」

 

 「自業自得……」

 

 「ぐぬぬぬぬぅ〜ッ」

 

 とまあ、何時もみたいに素っ気なく返しはしたものの……。

またもめげずにそんな事を言うシアに、俺は再び感心していた。

コイツはてっきり、ビビり散らかして喚いているもんと思ったていたが……迷宮の罠に関しては全く臆している様子はない。

 そこは度胸があると、認めてやってもいいかもしれない。

だが、泣きべそかく理由がこの場にそぐわないと言うか、やっぱりどこか残念なウサギに俺は呆れてため息が漏れる。

 

 「ハァ〜ア」

 

 「た、ため息ぃ!?む、むむむ!」

 

 そうして涙目で膨れながらも、残念ウサギは叫ぶ。

 

 「それでも、いつかぜぇ~たいッ抱っこで助けたくなるくらい惚れさせてみせますからねっ!!」

 

 本当に諦めの悪いやつだ。と、俺は二回目のため息を吐いた。

 

 「ハァ〜ア〜アッ」

 

 「あっまたぁ!!」

 

 「ほんと………根性はある……うかうかしてられない」

 

 俺は右腕に抱えたユエの言葉をスルーして、ナナキとユエを抱えながら円盤の上へと登り、最後に宙吊りウサギを回収して、ようやく落ち着く。

 

 そして、遠くに見える唯一の足場の向こうに出口を確認すると、そこにワイヤーを射出。

ユエ、ナナキ、ウサギをいっぺんに抱え、そのままター●ンの如く振り子の要領で溶解液プールを飛び越える。あの円盤は諦めるしか無いだろう。勿体ないが放置だ。

 

 さて、ここまで来て我が愛しの弟。ナナキがおとなしすぎることに気づく。

 今の振り子だって「スパイ●ーマンッ!」ってはしゃいでいそうなもんだが……。

 

 「おい、ナナキどうし━━

 

 グギュルルルルルルルルルッ

 

 俺が様子を確認しようと屈み込んだと同時、途轍もなく大きな腹の虫が鳴り響く。

 

 『FuuuuuuuuuーッFuuuuuuuuuーッ

 

 「なッしまったッ!!?」

 

 覗き込んで見た顔は血走って真っ赤に染まった瞳に、歯茎ごとむき出しにした牙を食いしばり、よだれを滝のように流す獣の顔だった。

 

 これは紛れもなく“暴食狂化”の前兆。この迷宮の魔力分散効果は、“変質化”によるナナキの魔力を俺の予想以上に限界まで消費させてしまった。

 今のナナキは極限の飢餓状態。早くなにか食わせないと俺達もナナキも危ない。

 

 「ちょっ!ナナちゃんッ大丈夫ですか!?」

 「だめ、今は離れて」

 

 『GAAAAAAAAAUUうううぅぅぅぅうッ」

 

 「ナナキ待ってろッ!後ちょっとの辛抱だッ!!」

 

 ナナキは一瞬、ボコボコッ!と変質化させた腕を俺達に向けるも、もう片方の腕で押さえ込むようにして変質化を解く。

瞳の色も赤と藍色で点滅させていて、必死に我慢してるのが見て取れる。

 よしッ偉いぞ!良い子だ……。

 

 俺は即座に宝物庫から大振りの魔物の骨付き肉を取り出す。

 

 「コレを食えナナキッ」

 『GAAaあむんッ」

 

 その肉をナナキの口に押し込む。その後すぐ、骨ごとバリボリと完食する。だが、未だ飢餓感に苛まれるナナキに俺は次の肉を差し出す。

 

 『GAAあむッあむッあむッ」

 「大丈夫だ。ナナキ、おかわりは沢山あるから、ゆっくり落ち着いて食え。」

 

 鬼気迫る表情で、慌てて掻き込む様にして食べるナナキ。

そんな弟の背中を、優しく擦りながら俺はそう言い聞かせた。

 

 そうしてやがて、食べるペースが落ち着き、ブンブン振り回していた尻尾が大人しくなると「けぽっ」と可愛らしいゲップが漏れる。

 

 ふらふらと揺れ、後ろに倒れ込もうとする体を受け止める。

覗き込んだ顔からは獣の形相は消え、いつもの可愛らしい顔に戻っていた。

 

 眠たそうにうるうるとした瞳で俺を捕らえると、

 

 「あにぃ………あり……がとぉ……ごめ、ん……………。」

 

 そう言って目を閉じ、「ぷーぷー」と寝息を立て始める。魔力飽和状態による睡眠だ。

 

 「バカ野郎。『ごちそうさま』はどうしたよ。」

 

 「ん……行儀が悪い子……帰ったらお仕置き」

 

 俺はナナキを抱え目尻に溜まった涙を拭き上げ、側に寄っていたユエは、愛おしそうに眠るナナキのぷっくりしたほっぺを撫でていた。

 

 「お、驚きました……今のが例の……。」

 

 この中で唯一初見のウサミミが呟く。こいつにもナナキの“暴食狂化”については前もって説明はしていたが、聞くのと実際に目にするのは違ったようでかなり動揺している。

 手足とウサミミに若干の震えも見られる。まあ、不完全だったとは言え、あの状態のナナキの迫力はそこらの魔物どころか、あの奈落の魔物すら凌駕する程、捕食者(・・・)としてのレベルが違う。

 

 だが、それでも……

 

 「どんな力を持っていようともナナキはナナキだ。

素直でかわいい、食いしん坊な俺達の弟……南雲ナナキ。

それ以上でもそれ以下でもないんだよ。」 

 

 「ん……その事実があれば何でもいい。」

 

 揺るぎない俺とユエの言葉に、ウサミミから震えが消える。

 

 「えぇ。そうです。そうですよね!」

 

 そう強く頷くと、俺達に近づきその手をナナキに伸ばした。

 

 

 

 次の瞬間、俺の義手によるデコピンがウサミミのおでこに炸裂する。

バコォーンという、いい音が鳴った。

 

 「ふぎゃぁぁぁああああッ!?い、いきなり何すんですかぁ!!?」

 

 「勝手に触らないでもらえれますぅ?」

 

 額を抑え悶え転がるウサミミを冷めた目で俺が見下ろす。

 

 「いや、此処はその輪の中に私も入れてもらえる流れではないんですか!?」

 

 「は?何いってんだコイツ」

 「ムッキィイイイイイッ!!」

 

 まるで猿のような奇声を上げるウサミミ猿に、再び俺は呆れる。確かに、俺はコイツを仲間としては認めているし、その意味であればそれなりの扱いもする。だが、それ以上を求められても、俺にはユエがいる。その思いに応えてやることはできない。

またやいのやいの騒ぐセクハラウサミミ猿をスルーして、俺は周囲の状況を確認する。

 溶解液プールの隅にちょこんとあるこの足場。これだけ時間がたっても大した罠が作動しないところを見るに、この部屋はこれ以上何も起こらないんだろう。

 

 俺達の魔力も相当消耗している。丁度良いので現状安置のこの場所で、ナナキが起きるまでしばらく休憩しようと俺達は決めた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 その後、目が覚めてすこぶる快調になったナナキ。

 「この迷宮では、無闇矢鱈に完全体に変質しない」と注意を促した後、俺達は様々な嫌がらせじみたトラップを休憩の甲斐あって、次々に乗り越えて行く。

そして、いよいよ何かあるだろう長方形型に奥行きがある大きな部屋に辿り着く。

 

 そこは壁の両サイドに無数の窪みがあり、騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。

部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

 この如何にもな場所はやはり罠があり、部屋の中程まで進むと毎度おなじみ『ガコンッ』の音が鳴り響く。

 

 それと同時に、きれいに鎮座していた総勢50体の騎士達が一斉に襲いくる。

 

 「ロボットぉ!」とはしゃぐ弟を窘め警戒する中。そんな数もガタイも強大な相手に腰が引けているウサミミが目に付き、俺は徐ろに声を掛ける。

 

 「お前は強い。俺達が保証してやる。こんなゴーレム如きに負けはしないさ。だから、下手なこと考えず好きに暴れな。ヤバイ時は必ず助けてやる」

 

 「……ん、弟子の面倒は見る」

 

 「ウサギさんふぁいと!ナナキもいっしょにがんばる!」

 

 俺達の言葉を受け、嬉しそうに涙目になるウサミミはそれが溢れ落ちる前にぐしぐしと腕で拭うと、全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。

 

 「ふふ、ハジメさんが少しデレてくれました。やる気が湧いてきましたよ! 

ユエさん、下克上する日も近いかもしれませんッ!

ナナちゃん!お姉ちゃんの勇姿、しかとその(つぶ)らな瞳に焼き付けてくださいねぇ!」

 

 「「……調子に乗るなッ」」

 

 「うぅ?」

 

 そんな俺達の声なんて聞いていないと言わんばかりにシアは雄叫びをあげる。

 

 「かかってこいやぁ! ですぅ!

 

 

 そんなシアの雄叫びを合図に始まった動く騎士改め、騎士型ゴーレム達との戦闘は……

 

 

 ……やはり、困難を極めた。

 

 前衛のシアとナナキ、後衛のユエと俺のコンビネーションで騎士ゴーレムの大群を最初こそ圧倒していた。

 

 しかし、どんなにシアとナナキの打突でひしゃげさせようと、どんなにユエの魔法、俺のドンナー・シュラークで引き裂こうとたちまち再生して立ち上がってくる。

 

 ユエからゴーレムは核が弱点と教えられるも、俺の魔眼石は核が存在しないことを知らしめるだけだった。

 

 「……それ、本当?」

 

 「ああ、魔眼石でも確認しているが、そんな反応はない。ゴーレム自体から微量の魔力は感知できるんだがな……」

 

 「け、結局どうするんですかぁ! このままじゃジリ貧ですよぉ!」

 

 「ガルルルルルッ!!」

 

 

 絶体絶命かと思われた状況で、俺は冷静に考える。ひょっとして、核という動力なくして作動するこのゴーレム共は、その身自体が特殊な鉱石で作られているんじゃないか……?

 

 俺は直ぐ様“鉱物系鑑定”を発動。

 

 そして見事に俺の予想は的中した。

 

 感応石(かんのうせき)、鑑定結果で判明したその石は、魔力を定着させることができる鉱石だった。

同質の魔力が定着した二つ以上の感応石は、一方の鉱石に触れていることで、もう一方の鉱石及び定着魔力を遠隔操作することができるという代物だ。

 

 つまり、この騎士ゴーレムは何者かによって遠隔操作させられてるってこった。俺たちが再生だと思ってた力も、同じ鉱石でできた床の石畳を直接操って、

形を整えたり、足りない部分を継ぎ足したりしているだけのようだ。再生というより再構築といった感じだろう。 

 

 「こいつらを操っている奴がいる。マジでキリがないから、強行突破するぞ!」

 

 「んっ」

 

 「と、突破ですか? 了解ですっ!」

 

 「あぁい!!」

 

 俺の合図を機に、全員で祭壇めがけて突進する。

 

 敵を退け、最初にユエがいち早く祭壇奥の扉へ到着する。だが案の定、扉には封印が施されていた。

 

 祭壇に置いてある、見るからに難解なパズルを解かないと開かない仕組みらしい。

 

 「封印の解除はユエに任せる。錬成で突破するのは時間がかかりそうだ」

 

 ひょっとしたら俺の錬成でこじ開けられないことは無いかもしれないが、再三言うようにこの迷宮での魔力分散効果に邪魔されて効率が悪い。

 ここは既存のやり方に従い、戦闘では燃費の悪いユエに封印の解除役を任せる。

 

 「ん……任せて」

 

 「ナナキはユエの側にいろ、ユエを頼むぞ。」

 

 ユエの次に燃費の悪いナナキには、解除に集中しているユエの護衛を任せる。

 俺達も、早々抜けさせはしないが数が数だ。万が一があるかもしれない。

 

 「うん!がんばる!」

 

 「お願いね……ナナキ」

 

 「うん!」

 

 頼もしい俺の弟は二つ返事で応え、気合いいっぱいに「お〜ッ」と拳を勝ち上げている。

 

 

 そうしてユエがパズルに取り掛かる。ユエは一瞬逡巡後、直ぐに手を動かす。一度滅茶苦茶な形にはまっている黄色い水晶でできたパズルのピースを全て型から取り外す。

 

 その時、ピースを取り外した窪みの奥に文字が刻まれているのを発見するユエ。

 

 “とっけるかなぁ~、とっけるかなぁ~”

 

 “早くしないと死んじゃうよぉ~”

 

 “まぁ、解けなくても仕方ないよぉ! 私と違って君は凡人なんだから!”

 

 “大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ! ざんねぇ~ん! プギャアー!”

 

 それはいつものウザイ文。ユエのピースを持つ手の甲にビキビキッと青筋が走るも、何とか落ち着きを取り戻しパズルに取り掛かろうとする。

 

 しかし、その文字が突如消えたかと思ったら、新たな文字が刻まれていく。

 

 

 “まぁ……だからって、黙って解かせてあげないけどねぇ〜”

 

 「……え」

 

 ユエが呆気にとられるのも束の間。祭壇の両隣の装飾の入った他より面積の広い石畳が、流れる砂塵のように形を変え、俺たちが相手にしている騎士ゴーレムより、一回り大きな騎士ゴーレムが2体姿を現す。

 

 2体の騎士ゴーレムはその手に持つ戦斧をユエめがけて振り下ろす。

 

 「ユエさん!!」

 

 シアが鬼気迫る顔で叫ぶ、それとほぼ同時

 

 「なああぁぁぁぁああああああああああうッ!!

 

 そんな可愛らしくも、確かな迫力のある雄叫びが響き騎士ゴーレムたちの戦斧が腕ごと砕かれる。

 

 蹌踉めいた騎士ゴーレムの目に写ったもの、それは、尻尾と拳を振り回すナナキの姿。

 

 「ナナキ、がんばるッ……

      いじわるなんかに、まけないもん!」

 

 俺は後ろを心配することなく目の前の敵に集中する。なんせ後ろには、俺の自慢の弟がついているからだ。

 

 そうして、俺とシアが台所に湧く黒いアイツラの如く、ワラワラと群がるゴーレム共を粉砕している時だった。

 

 「でも、ちょっと嬉しいです」

 

 「あぁ?」

 

 また一体、ゴーレムを叩き潰し蹴り飛ばしながら、シアの奴がポツリとこぼした。

 

 「ほんの少し前まで、逃げる事しか出来なかった私が、こうしてハジメさんと肩を並べて戦えていることが……とても嬉しいです」

 

 「……ホンット……物好きなやつだな」

 

 「えへへ、私、この迷宮を攻略したらハジメさんといちゃいちゃするんだ! ですぅ」

 

 「おい、こらッ!何脈絡なく、あからさまな死亡フラグ立ててんだよ。悲劇のヒロイン役は、お前には荷が重いから止めとけ。それと、ネタを知っている事についてはつっこまないからな?」

 

 「それは、『絶対に死なせないぜマイハニー☆』という意味ですね? ハジメさんったら、もうっ!」

 

 「意訳し過ぎだろ! 最近、お前のポジティブ思考が若干怖いんだが……下手な発言できねぇな……」

 

 ゴーレム共を屠りながらも、そんな雑談をしていると……

 

 「……いちゃいちゃ禁止

 「うおっびっくりしたぁ〜。ユエか……」

 

 戦闘中の俺達の背後にぬぅ〜っと影の如くユエがナナキを伴って忍び寄っていた。ユエはジト目を、ナナキは何時も通りの不思議そうな顔で「うぅ?」と首を傾げている。

ユエが言うに、俺とシアのやり取りがどこかいちゃついていたように見えたらしい。

……いや、いちゃついてねぇから

 

 「ぬふふ、そう見えました? 照れますねぇ~」

 

 「お前もう黙ってろよ……」

 

 そうやって要らぬ誤解を生む事を口走るシアを横目に、俺は疲れで若干肩を落とす。そんな俺に、ユエは少し不機嫌そうな眼差しを向けるも、すぐに切り替え、少し得意気に任務達成を伝えてくる。

 今はそれどころでは無いと思い直してくれたんだろう。

 

 

 「……開いた」

 

 「早かったな、流石ユエ。シア、下がれ!」

 

 「はいっ!」

 

 

 

 チラリと後ろを振り返れば、ユエが言った通り封印が解かれて扉が開いているのが確認できた。奥は特になにもない部屋になっているようだな……。

 俺はそのままシアに撤退を呼びかけ、自らも奥の部屋に向かって後退する。封印の扉を閉めればゴーレム騎士達の襲撃も阻めるだろう。最初にユエ、ナナキが、続いてシアが扉の向こうへ飛び込み、両開きの扉の両サイドを持っていつでも閉められるようにスタンバイする。

 

 俺は、散々苦しめてくれた置き土産にと、手榴弾を数個放り投げてやる。その後、自らも奥の部屋へと飛び込む。

ゴーレム共が逃がすものかと殺到するが、手榴弾が爆発し強烈な衝撃を撒き散らす。バランスを崩したたらを踏むゴーレム騎士達。その隙に、ユエとシアが扉を閉め、その扉をナナキが冷凍ブレスで念入りに氷漬けにした。

 

 部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だ。

てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。

 

 「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」

 

 「……ありえる」

 

 「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

 

 スンスンッ「なんもないねぇ〜」

 

 「ナナキ、念の為肉食っとけ。さっきはよく頑張ってたから、ユエを守ってくれてサンキューな。」

 

 鼻をスンスンさせて辺りを見回すナナキに、俺は再び肉を手渡す。この後何があるか分からないから、少しでも魔力を回復させておくためだ。魔力飽和状態にならない様、ここんところの食事量の調節は非常に難しい。

 

 先程の戦闘や、冷凍ブレス。今回も一生懸命頑張っていたからな。頭を撫でてしっかり労ってやる。

 

 「むふふぅ〜ッ」

 

 口の中に肉を詰め込みながらニヤけるナナキ。そんな愛らしい姿に和んでいると、視線の端でウサミミがもじもじ揺れているのを捉える。

 

 「あ、あのぉ~う。ハ、ハジメさん?私も結構頑張ったと思うんですけどぉ〜」

 

 「あ?」

 

 そう言ってシアが。未だもじもじしながらこちらにチラッチラッと視線を向けてくる。

 ……いや、だからなんだって話なんだが。

 

 「ハジメ……私も扉の解除。頑張った……。」

 

 「ん?おうッ一見難しそうだったパズルをあぁも手早く解くなんて。流石ユエだな!」

 

 「ん!」

 

 そう言って隣にいたユエが上目遣いで見つめてきた為、ちょうどいい場所にあるユエの頭を優しく撫でる。するとユエはコレまた幸せそうに頬を染めた。

 

 「だからぁ!!なんでそんな自然とスルーできるんですかぁ!!頑張った度合いで言ったら私の方が頑張っていたでしょう!!」

 

 

 そうやってまたシアの奴がピーピーと喚き出した瞬間だった。

 

 ガッコン

 

 もううんざりするほど聞いた、トラップの仕掛けが作動する音が響く。すると突如、部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、俺達の体を横向きのGが襲う。

 

 

 「っ!? 何だ!? この部屋自体が移動してるのか!?」

 

 「……そうみたッ!?」

 

 「うきゃ!?」

 

 「おぉ〜ッ☆」

 

 俺が推測を口にすると同時。今度は真上からGがかかる。

急激な変化に、ユエが舌を噛み涙目で口を抑えてぷるぷるしている。シアは、転倒してカエルのようなポーズで這いつくばっている。踏んだり蹴ったりな俺達とは反対に、ナナキは部屋自体が動くとかいう未知の体験に目を輝かせている。流石の肝っ玉だ。

 

 その後も部屋は何度も方向を変えて移動を続けた。俺は早い段階で靴裏のスパイクを伸ばし、位置を固定させていたから何とかなったものの、シアはあっちへゴロゴロこっちへゴロゴロと転げ回り、三半規管へのダメージによる酔と、至る所に頭をぶつけたことで完全にダウンしていた。

 そんな悲惨なシアと同様にナナキも転げ回ってはいたが、こっちは完全に楽しんでいる。持ち前の体の柔らかさを生かし、体を尻尾ごとボールのように丸めて、ポインッ☆ポインッ☆と振動する部屋の中を跳ね回っていた。まるで、夢の国の青色のエイリアンみたいだ。

 

 「おぉ〜ッ☆!!」と、楽しそうな声が部屋のあちこちで反響している。

 

 因みにユエは初めから俺にしがみついていた為、難を逃れた。

 

 

 しばらくして部屋の振動が収まると、俺は周囲を観察しながら立ち上がる。

 

 「ふぅ~、ようやく止まったか……ユエ、大丈夫か?」

 

 「……ん、平気」

 

 ユエの無事を確認後、未だポインッ☆ポインッ☆してるナナキボールを両手でキャッチする。

 

 「ナナキぃ〜もう終わりみたいだぞぉ〜ッ……ってかそれどうやってんの?完全にまん丸じゃねぇか」

 

 ヒョコッ「うぅ?」

 

 体が柔らかいって言ってもこりゃ限度がある。そのボールは大半が鮫肌の灰色で覆われていて、ゴムと餅を合わせたような不思議な感触だ。ひょっとしてコレも“変質者”としての力なのか?と疑問に思ったが、ボール体からぴょこッと頭だけ出してこちらを覗く弟が可愛すぎて思考するのをやめた。

 

 「━━━━━━━━━━━。」

 

 思考をやめた俺は大人しくナナキを床へと下ろし、部屋を見渡す。先ほどの移動を考えると、入ってきた時の扉を開ければ別の場所ということだろう。これ見よがしに、ナナキの張った氷が砕かれている。

 

 今にも吐きそうな青い顔でシアも立ち上がった事で、俺達は扉へと向かい合う。

 

 「さて、何が出るかな?」

 

 「……操ってたヤツ?」

 

 「その可能性もあるな。ミレディは死んでいるはずだし……一体誰が、あのゴーレム騎士を動かしていたんだか」

 

 「……何が出ても大丈夫。ハジメとナナキは私が守る……ついでにシアも」

 

 「聞こえてますよぉ~うっぷ」

 

 スンスンッ「……うぅ?」

 

 俺とユエも準備万端。シアは顔色がブルーベリーだが根性は充分。ナナキも多分、特に問題はない。

 

 扉の先は、ミレディの住処か、ゴーレム操者か、あるいは別の罠か……俺は「何でも来い」と不敵な笑みを浮かべて扉に手を掛けた━━

 

 「あにぃ〜ッオ●ッコぉ~」

 

 ━━瞬間、出鼻をくじかれた。

 

 

 ナナキの小間抜けな発言に、俺達三人はそれぞれカックンとずっこける。

 

 「な、ナナキ君や……今じゃなきゃ駄目だった?」

 

 「ふ、雰囲気台無し……」

 

 「な、ナナちゃんが……へ、変なこと言うから、ま、またぁ〜」

 

 俺とユエはナナキにジト目を向け、シアの奴はずっこけた衝撃か、ナナキが言ったからか、若干催し始めていた。

 

 あるよな〜。別に自分はそうでもないのに、誰かが行くと言えば自分も行きたくなる現象。

 

 だが俺たちの態度を見て、ナナキは否定の意味を込めてブンブンと首を横に振る。

 

 「ちがうよぉ〜。むこうからね、オ●ッコのにおいがする〜」

  

 そう言ってナナキは扉の向こうに指をさす。

 

 「「「………………。」」」

 

 俺とユエとシアの三人は、嫌な予感に互いの顔を見つめ合う。

 シアなんて、何かを思い出すようにブルーベリーだった顔が熟し真っ赤なトマトになってプルプル震えている。

「いやぁ~まさか、ないない、それは無い」と最悪の予感を否定しつつ、苦笑した顔で恐る恐る扉を開ける。

 

 そこにあったのは………

 

 「…………うっそん」

 

 「すごく……見覚えがある。……特に、あれ(・・)

 

 扉の先は案の定、別の部屋に繋がっていた。

 そこまではいい……。しかしその部屋にあったものは、中央に立つ石板に、その左側の通路、そしてユエが指差した乾いて干上がる寸前の小さな水溜り(・・・・・・)。隅から隅まで見覚えがあり過ぎる。

 

 なぜなら、その部屋は、

 

 

 

 

 

 

 

 「さ、最初の部屋(・・・・・)……みたいですね?」

 

 シアの野郎が、思っていても口に出したくなかった事を言いやがる。だが、確かに、コイツの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。よく似た部屋なんかじゃない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

 

 

 “ねぇ、今、どんな気持ち?”

 

 “苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?“

 

 “ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ”

 

 

 「「「……」」」

 

 「うぅぅ、やなきもちぃ〜ッ」

 

 

 俺達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリの顔で微動だにせず無言で文字を見つめる。俺たちの隣で、ナナキがムスッとした顔で律儀に文句を言う。

すると、更に文字が浮き出始める。

 

 “あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します”

 

 “いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです”

 

 “嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!”

 

 “ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です”

 

 “ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー”

 

 

 

 「は、ははは」ムニムニッ

 

 「フフフフ」ムニムニッ

 

 「フヒ、フヒヒヒ」ムニムニッ

 

 「ひゃうぅ〜ッ!!!」

 

 余りの苛立ちを通り越した怒りに俺達は壊れたように笑う。

 ストレス発散の為、今宵もナナキのほっぺは犠牲になることだろう。

 それにより、この迷宮全体に届くほどのナナキの可愛らしい悲鳴が響き渡った。

 

 「ふにょぉぉおおおお〜〜ッッ!!

 

 




 


















 おまけ話?《???》

 ???「いや~この子たち皆いい反応するねぇ〜ッ!!私もいっぱい考えて作ったかいがあったよ〜。」
  
 此処はまだ彼らが知らない場所。

 その一室で鑑賞もとい、監視用モニターに映る4人組の一喜一憂する姿に楽しげに笑うローブを着た、子供のように小柄な影があった。

 ???「それにしても、ようやくこの時が来たんだね……皆。」

 すると突然。人が変わったように感慨深い声で、どこか遠くへと語りかける。
 それは宝物のような大事なものにそっと触れるような、繊細な態度。先ほどとは似ても似つかない姿だった。

 しかし、それも次の瞬間に突如終わりを迎える。

 モニターに映った4人の中、幼女のような少年の腕が異形のものに変質(・・)した瞬間だった。











 ???「………………………う………そ……。」

 ローブの人物は、信じられないものを見たと言いたげにポツリと呟くと、おぼつかない足取りでモニターに近いづく。

 ???「あ……あぁ……そんな……そんな……よ、よりにもよってこんな……こんな小さな子に、なんて……」

 そう言って、ローブの人物はモニターに映るコロコロと姿を人から異形に変える少年に、憐れむように機械仕掛けの指(・・・・・・・)を添える。

 ???「オーくん……私達は……大罪人だ……。こんな……こんな小さな子供に、とても重たい物を背負わせてしまった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)……。」

 最早涙なんて流れない(・・・・)身体のはずなのに、その声は嗚咽に濡れていた。

 ???「分かっている。今さら引き返す事なんて出来やしない……これは私達の拭いようのない罪だ………」

 
 ???「………………それでも………………。」
 
 最初は愉快そうな声が響いていたその部屋にはもう笑い声は一切聞こえてこず、

 ???「それでも……私は……」

 来訪者が訪れるまで………

 贖罪に染まった声ばかりが……響いていた。

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 おまけ話に見せかけた重要な話でした。

 あと、自分はディズニーだとスティッチが一番好きです。
 今度の実写化も楽しみ♪

 まさか実写化するとは思わんかったよ……
 
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