FGO10周年フェス
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ハジメ、ユエ、ナナキ、シアの四人はその場から一斉に跳び出す。それに対してミレディ・ゴーレムは左腕のフレイル型モーニングスターを突っ込んでくるハジメ達に向かって射出する。
ハジメ達は、近くの浮遊ブロックにそれぞれ跳躍してモーニングスターを躱す。モーニングスターは、ハジメ達がいた場所を木っ端微塵に破壊しそのまま宙を泳ぐように旋回しつつ、ミレディ・ゴーレムの手元に戻る。
そうして飛び退いたハジメ達には、さっき破壊したはずの量産型ゴーレム達が、既に修復を終えた状態で殺到する。
ユエはくるり身を翻しながら、ハジメから譲り受けたウォーターカッターを打ち出す兵器。“水筒”の一つを前に突き出し横薙ぎにする。極限まで圧縮されたウォーターカッターがレーザーの如く飛び出しゴーレム騎士達を横断する。
ナナキは肥大化させた拳と尻尾で、次々に迫るゴーレム達を危なげなく殴り、払いで砕いていく。
こうして、ユエとナナキがゴーレム達を処理している間に、自分達に迫るゴーレムをスルーして、親玉ミレディへとハジメとシアが跳び出す。
自分目掛けて疾走するハジメ達にミレディは再度モーニングスターを発射……する寸前、急ブレーキしたハジメがドンナーをミレディのモーニングスター目掛けて放つ。
ドパァァンッ!
銃声は一発。されど放たれた弾丸は六発。早打ちにより解き放たれた閃光は狙い違わず構えられたモーニングスターに直撃する。流石に大質量の金属球とは言え、レールガンの衝撃を同時に六回も受けて無影響とはいかなかった。ミレディの腕からモーニングスターが弾き落とされる。
同時に、虚を突いて上方のブロックに跳躍していたシアがミレディの頭上を取り、飛び降りながらドリュッケンを打ち下ろした。
「ぜいああああッ━━
『見え透いてるよぉ〜』
シアの掛け声に重なるように聞こえた、ミレディの余裕の声。
その言葉と共に、ミレディは急激な勢いで横へ移動する。いや、その様は移動というより“落ちた”ように見える。
「くぅ、このっ!」
目測を狂わされたシアは、歯噛みしながら手元の引き金を引きドリュッケンの打撃面を爆発させる。薬莢が排出されるのを横目に、その反動で軌道を修正。三回転しながら、遠心力もたっぷり乗せた一撃をミレディに叩き込んだ。
ズゥガガン!!
咄嗟に左腕でガードするミレディ。凄まじい衝突音と共に左腕が大きくひしゃげる。しかし、ミレディはそれがどうしたと言わんばかりに、そのまま左腕を横薙ぎにした。
「きゃぁああ!!」
「おい!」
悲鳴を上げながらぶっ飛ぶシア。何とか空中でドリュッケンの引き金を引き爆発力で体勢を整えると、更に反動を利用して近くのブロックに不時着する。
「はっ、やるじゃねぇの。なぁ、ユエ。お前、あいつに一体どんな特訓したんだよ?」
「……ひたすら追い込んだだけ」
「……なるほど、しぶとく生き残る術が一番磨かれたってところか」
遠目にシアがピョンピョンと浮遊ブロックを飛び移りながら移動するのを確認しつつ内心感心するハジメ。そんな、ハジメはユエのブロックに急ぐ。遂にユエ単独では捌ききれない程のゴーレム騎士達が殺到したからだ。
「ナナキ!戻れ!」
「う?あぁい!」
ハジメは
ドゥルルルルル!!
六砲身のバレルが回転しながら掃射を開始する。独特な射撃音を響かせながら、真っ直ぐに伸びる数多の閃光は、縦横無尽に空間を舐め尽くし、宙にある敵の尽くをスクラップに変えて底面へと叩き落としていった。背後の死角はユエの水のレーザー、上空からの死角はあんぐりと開けたナナキ口からハジメのメツェライの如く連続で放たれる氷の礫で応戦。
瞬く間に
『ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!』
ミレディ・ゴーレムの驚愕の叫びを聞き流し、ハジメは、メツェライを宝物庫にしまうと、再びドンナーを抜きながら、少し離れたところにいるシアにも聞こえるように声を張り上げた。
「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ! あれを破壊するぞ!」
『んなっ! 何で、わかったのぉ!』
再度、驚愕の声をあげるミレディ。まさか、ハジメが魔力そのものを見通す魔眼をもっているとは思いもしないのだろう。ゴーレムを倒すセオリーである核の位置が判明し、ユエ、シアの眼光も鋭くなり、ナナキもやる気をみなぎらせ「ふんすッ!」と鼻を鳴らす。
ミレディを守るゴーレム騎士は残り
これだけなら……
『UuuSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!』
完全体サメナナキになったナナキ一人で事足りる。
ハジメ達の背後で一気に“変質”したナナキが爆発的な跳躍と共にハジメ達を飛び越え、騎士の群れに
『アニィ!イマァ!』
「でかしたナナキ!」
ナナキを飛び越え、ハジメ達三人はミレディの下へ向かう。それを追いかける為に踵を返そうとするゴーレム。
しかし、ナナキの剛腕により阻まれる。
ゴギャンッとナナキの剛力により、ただ掴まれただけで拉げ、一口で頭からその牙でギャリンッと砕かれながら、その尽くがナナキの腹の中へと収まって逝った。
『ちょっとちょっとぉおッ!そんなのってアリぃ〜ッ!!?』
ナナキのまさかの手段に、流石のミレディも驚愕に『ヒェ~ッ』と声が震える。その隙に、ハジメ達は足場のブロック群を伝ってミレディへの接近を試みる。
魔力の分解作用で今のハジメのレールガンの出力は低下している、その為ミレディ・ゴーレムの巨体を粉砕して核に攻撃を届かせるのは難しい。なので、ゼロ距離射撃で装甲を破壊し、手榴弾でも突っ込んでやろうと考えたのだ。
そうして傷が広がった場所をユエとシアで畳み掛けるのだ。
しかし、話はそう簡単にはいかない。
ミレディ・ゴーレムの目が一瞬光ったかと思うと、彼女の頭上の浮遊ブロックが猛烈な勢いで宙を移動するハジメ達へと迫った。
「!?」
『操れるのがゴーレムだけとは一言も言ってないよぉ~』
そんなミレディのニヤついた声を無視して、ハジメは、ガシュンという音と共に義手のギミックを作動させる。
ドゴンッ!!
腹の底に響くような爆発音を響かせながら義手の甲から正面に向けて衝撃が発生する。正確には、強力な散弾が発射されたのだ。電磁加速は出来ないが、燃焼粉の圧縮率はドンナーの弾丸よりもずっと高い。それに伴って反動も強烈だ。宙にあるハジメの体は弾かれた様に軌道を変えて、飛来した浮遊ブロックをすんでの所で躱す。そして、何とか目標の浮遊ブロックに足を掛けた。
当然、ミレディはハジメの足場も“落とそうとした”が、いつの間にか背後に回り込んでいたシアがミレディの頭部に強烈な一撃を叩き込むために跳躍する。
(まずは、ピカピカと鬱陶しいその頭をぶっ潰してやるですぅ!!)
シアは、ミレディの物体を操る力の秘密が、ことあるごとに光る眼光にあると踏み、その頭部を潰す事に意識を集中させる。
『だからぁ〜、見え透いてるってぇ!!』
しかしミレディは、シアが飛び込んでくることがわかっていたと言うように、眼光を光らせ跳躍中のシアに向かって浮遊ブロック群を突撃させようとする。
「させないッ」
これまた、いつの間にか移動していたユエが“破断”を使いブロック群を細切れにする。
「さっすがユエさんです!」
そう叫びながら、障害がいなくなった宙を進み、シアは極限まで強化した身体能力を以て大上段の一撃を繰り出した。
『パワーでゴーレムが負けるわけないよぉ~』
ミレディは自身の言葉を証明してやるとでも言う様に、振り返りながら燃え盛る右手をシアに目掛けて真っ直ぐに振るった。
ドォガガガン!!
シアのドリュッケンとミレディのヒートナックルが凄まじい轟音を響かせながら衝突する。発生した衝撃波が周囲を浮遊していたブロックのいくつかを放射状に吹き飛ばす。
「こぉんののののの!!!」
突破できないミレディの拳に、シアは雄叫びを上げて力を込める。しかし、ゴーレムの膂力にはやはり敵わず、振り切られた拳に吹き飛ばされてしまう。
「きゃああ!!」
悲鳴を上げ押し飛ばされるシア。それを予感していたようにユエが“来翔”をこまめに使い、軌道を足場のブロックへと修正する。
「ほほう、良いコンビネーションだ━━メギャンッ━━ね?」
ミレディが余裕の声でユエとシアを見下していたのもつかの間。何か硬いものが拉げる音が聞こえ、思わずそちらへと視線を向けるミレディ。
『GuRrrrrrrrrrrrrッ!!』
『!?ッ』
そこには、自分の左腕に齧りついているサメの怪物がいた。
またまたいつの間にか、他のゴーレム騎士達を
ミレディは驚愕する。絶対の硬度を誇るミレディ・ゴーレムの装甲を、まるで丸めた紙のように拉げさせたナナキの咬合力に。
『い、いつの間ッ!?にぃいいいいいい!!』
ミレディの驚きはまだ続く。
更にナナキは、ミレディの腕に齧り付いたたまま自分の首を捻り上げ、自分の十倍の大きさはあるミレディの巨体を投げ飛ばしたのだ。
『Uuuuuuuuuuuuuuuuuuッッッ!!!』
ズガァアアアアアアアアアアアアンッッ
『ガッハァ!!?』
巨人とも言える己の巨体が投げ飛ばされるという、
想定もしていなかった衝撃に、ミレディは呼吸をしない体のはずなのに堪らずうめき声を漏らす。
『な、なんで!?ここの魔力分散効果は他の比じゃないんだよ!?これだけの魔力が分散された影響下で、どうしてこんな力を……?』
ミレディの疑問も最もだ。今のナナキは完全体サメナナキへの“変質”だけでなく、固有魔法をも自由に使用している。
遠くにいたナナキが、素早くミレディまで近づいて来れたのも、浮遊ブロックを介さず“空力”によって、足場を気にせず最短で駆けつけたが故である。
この場所はミレディの言う通り、常に魔力が散らされている。ユエがハジメのアーティファクトに頼っているのがいい証拠だ。
では何故、ナナキにはその影響が軽微なのか?それはとても単純な話。
ここに来るまでのライセン大迷宮は、物理トラップばかりでこちらに襲いかかる明確な敵は、アリジゴクのワームか最後の部屋の騎士ゴーレムのみしか存在しなかった。
よって普段のナナキの、食って魔力を補給する永久機関戦法が今までは使えなかったのだが、
ここではミレディが得意げにゴーレムを際限なく再生させ続ける為、その
ならばもう、
それでも流石の大迷宮。魔力分散の影響は多少残る。が……
消費したそばから補給が可能なナナキだけが、この場で唯一……
ほぼ万全の状態で戦うことができるのだ。
『ドウダ!マイッタカァ!!』ムフゥゥ〜ッ
『う、嘘でしょ……この体、どんだけ重いと思ってんの!?
“重力魔法”、まだ使えないよね!?』
巨体を投げ飛ばしたあとだと言うのに余裕の態度を崩さないナナキにミレディは動揺する。
思わず、
「なぁ〜るほど。それがテメェの神代魔法か……」
『!?ッ』
“重力魔法”。その名の冠する通り、重力に干渉する魔法なのだろう。騎士ゴーレムが滅茶苦茶な機動をしていたり、ミレディが浮遊物を操作していた絡繰の正体はこの魔法によるものと推察できる。
そんなことよりも、突如自分の胸元で聞こえた声に視線を向けるミレディ。
そこには、身の丈ほどある巨大兵器“シュラーゲン”を己の心臓部に突き付けているハジメの姿があった。ナナキがミレディを叩きつけた、丁度その場所に待ち構えていたのだ。ミレディが自分で言った通り、これぞ正しく━━
「━━いいコンビネーション。だよなぁ?」
『しまっ━━━ッ!』
そう言って、ミレディへ皮肉を返すハジメのシュラーゲンに、
紅いスパークが迸る。
ドガァアンッ
ゼロ距離から放たれた殺意の塊に、ミレディの巨体が吹き飛ぶ。その際、弱点のある胸部装甲が粉微塵に吹き飛んだ。
ここでは“瞬雷”が使えない為威力は落ちるが、それでも金属鎧を破壊するには十分な威力がある。ゴーレム騎士達の装甲が、威力低下中のドンナーでも容易に貫けたので、同じ材質に見えるミレディのゴーレム鎧も少し分厚くなっているだけなら、シュラーゲンで十分に破壊できる。と、そうハジメは踏んでいたのだ。
ミレディと同様に衝撃の反動で後方に飛ばされるハジメ。そこにドドドッと透かさず駆け付けたサメナナキが受け止め、近くの浮遊ブロックに着地する。
「……いけた?」
「これで、終わって欲しいですぅ」
丁度その足場にユエとシアも乗りつける。
「手応えはあったんだが……」
ユエが手応えを聞き、シアが希望的観測を口にする中。手を下したハジメ本人は微妙な顔をする。その懸念を裏付けるように、
『Gurrrrrrrrrrッ』
ナナキが牙を剥いて低く唸りながら胸部から煙を上げて倒れているミレディを睨みつけている。ナナキは野生の本能で感づいているのだろう。 まだ終わっていないと……。
『いやぁ~。大したもんだねぇ〜』
「ちっ……やはりな」
案の定な結果にハジメは舌打ちをする。胸部の装甲を破壊されたままのミレディが、何事もなかったように近くの浮遊ブロックを手元に移動させながら、感心したような声音でハジメ達に話しかけてきたのだ。
『ちょっとヒヤっとしたよぉ。分解作用がなくて、そのアーティファクトが本来の力を発揮していたら危なかったかもねぇ~、うん、この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん天才!!』
そう自慢げに言うミレディの言葉は、今のハジメの耳には入ってこなかった。
「アザンチウムか……クソッタレが」
顔を険しくするハジメの視線の先、ミレディのゴーレム体の装甲が剥がれた胸の下。そこには更に漆黒の装甲が顔を覗かせていた。
その装甲にはハジメも見覚えがあった。
アザンチウム鉱石。言わずもがな、ハジメの装備の幾つかにも使われている世界最高硬度を誇る鉱石だ。
薄くコーティングする程度でもドンナーの最大威力を耐え凌ぐ。道理で、シュラーゲンの一撃に傷一つつかないわけである。あのアザンチウム装甲を破るのは至難の業だとハジメは眉間にシワを寄せた。
『おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~、さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!』
ミレディは、砕いた浮遊ブロックから素材を奪い、表面装甲と損傷したゴーレム騎士達を再構成するとモーニングスターを射出しながら自らもゴーレム騎士達を従え猛然と突撃を開始した。
「ハジメさん!」
「まだ手はある。ユエ、何とかしてヤツの動きを封じるぞ!ナナキは引き続き雑魚共の足止めを頼む!」
「……ん、了解」
『アァイ!!』
仕切り直して気合を入れ直すハジメ達。ユエとシアが回避、ハジメが迎撃、ナナキが突撃とそれぞれが行動を起こす寸前。
『させないよぉ〜ッ』
ミレディの気の抜けた声と共に足場にしていた浮遊ブロックが高速で回転する。いきなり、足場を回転させられバランスを崩すハジメ達。そこへモーニングスターが絶大な威力を以て激突した。ハジメ達は、木っ端微塵に砕かれた足場から放り出される。ハジメは、ジャラジャラと音を立てながら通り過ぎる鎖にしがみついた。ユエは砕かれた浮遊ブロックの破片を足場に“来翔”を使って、シアはドリュッケンの爆発の反動を利用して何とか眼下の浮遊ブロックに不時着する。この場において、ゴーレム騎士という
『ホント厄介だなぁ〜きみぃ!!……だ・け・どぉ〜』
『BaW!?』
ミレディはゴーレム騎士達ごと敢えて、ナナキを避けてスルーする。唐突に敵が居なくなって混乱したナナキだが、直ぐに立て直しミレディ達の後を追う。……しかし
『君はもうしばらく、そこで大人しくしていたまえ!!』
ミレディのその声と共に、一帯を漂っていたブロック群が一斉にナナキの周囲を取り囲んだ。ドーム状に集まったブロック群は、じわじわとナナキの行く手を塞いでいき、最後は球状の黒い塊となって、ナナキの姿を覆い隠してしまった。
「ナナキぃ!」
『よそ見してていいのかなぁ〜?』
突如ナナキが捕まったことに声を荒げるハジメ。その隙を狙いすました様にミレディのフレイムナックルが突っ込んだ。
「ちぃッ!!」
「くぅう!!」
「んっ!!」
直撃は避けたものの、強烈な熱波に苦悶の声を漏らすハジメ達。それでも、すれ違い様にユエは“破断”をミレディの腕を狙って発動し、シアはドリュッケンのギミックの一つである杭を打撃面から突出させて、それを鎧に突き立て取り付いた。
“破断”は、ミレディの右腕を少し切り裂いたが切断とは行かず、悔しげに表情を歪めたユエは無事、別のブロックへと着地する。
一方、ミレディの肩口に取り付いたシアは、そのまま左の肩から頭部目掛けてドリュッケンをフルスイングした。が、ミレディの体が“重力魔法”により、急激に落下したことでバランスを崩され宙に放り出された。
「うきゃあ!」
悲鳴を上げるシア。そこへ、モーニングスターの鎖にしがみついていたハジメが、振るわれる鎖の遠心力を利用してシアのもとへ飛び出し空中でキャッチする。
「ハ、ハジメさん///」
喜色に満ちた声でハジメの名を呼ぶシア。憧れの抱っこで救出をしてもらい、そんな状況でないとわかっていながら、つい気持ちが高揚する。
だが、そこはブラコンハジメクオリティー。かつて魔物の群れに放り投げた時のようにシアを振りかぶる。しかも今回は、ナナキが捕らわれたことで気が気じゃない為、まるで作業のように淡々と何の感傷もなく無言でシアを投げ飛ばした。
ヒョイッ「………。」
「せめて無言はやめてくださいよちきしょおおおおですぅううううううッ!!」
自棄くそ気味な雄叫びを上げながらドリュッケンを構えるシア。ハジメの所業に、『これは流石に……』と若干、ミレディも引いているが、それでも迎撃はしっかりとするようで、ヒートナックルを放とうと拳をグッと後ろに引き絞る。
と、その瞬間、手元に戻したモーニングスターに繋がっている鎖がいきなり大爆発を起こした。
『わわわッ!!何!?』
驚きの声を上げるミレディ。爆発の原因は、ハジメが鎖に捕まっている間に仕掛けた大量の手榴弾である。凄まじい爆発力により鎖が半ばから弾け飛び、巻きつけていた左腕はナナキの噛みつきのダメージも癒えきっていなかったからか肘先まで大きく損傷する。衝撃により、ミレディの体勢も崩れた。
そこへ、ドリュッケンを振りかぶったシアが到達する。
「りゃぁあああ!!」
気合のこもった雄叫びと共に、手元の引き金が引かれ内蔵されたショットシェルが激発する。衝撃により一気に加速したドリュッケンが空気すら叩き潰す勢いでミレディの身に迫る。
ミレディは反射的に肘までしか無い左腕を掲げる。直後、ドリュッケンの一撃が左腕に直撃した。ドリュッケンは、脆くなった左腕を打ち砕き肩口から先を容赦なく粉砕した。
ドリュッケンを振り切り勢いそのままに宙を泳ぐシア。ミレディは、せめて、奪われた左腕の仕返しに一撃を入れてやると、死に体のシアにヒートナックルを放とうとする。
しかし、ミレディがシアに意識を集中した瞬間、下方から水のレーザーが迸り、先ほど入れられた切れ込みに寸分違わず命中した。
そして、その傷口を更に抉り切り裂いて、遂にミレディの右腕を切断してみせた。
『ッ!こんのぉ!』
ミレディは下手人を探し視線を巡らせる。しかし、ミレディは気づいていない。水のレーザーが切り裂いたのは己の腕だけじゃないことを。
『GuRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!』
バギャアアアンッ
『えっ?』
ミレディは突如背後から聞こえた雄叫びに反応して、そちらに振り向いた瞬間。すれ違い様、強烈な破砕音と共に、自分の脇腹から大きな衝撃を捉える。
何が起きたのか?そちらへ視線を巡らせると……。
左の脇腹が、何かに食い千切られたように大きく抉れていた。
『あ、あぁ、あああああああああッッッ!!!?』
あまりの事に、つい悲鳴をあげるミレディ。その視線の端に空を泳ぐように駆ける影をとらえた。
「……してやったり」
そう言ってほくそ笑んだ人物は、空を駆けるサメの怪物の背に横向きで座り、優雅に足を組んでミレディを挑発するように見つめている。
その人物もちろんユエで、バリバリッと口を動かすサメの怪物は聞くまでもなくナナキであった。
ユエが放った水のレーザーは、ミレディの腕を切り落とすと同時に、ナナキを閉じ込めていた球状の檻をも破壊していた。
解放されたナナキは食欲の赴くまま、周囲の騎士どころか、浮遊するブロックをも食い荒らし、その勢いのままミレディにも食らいついたのだ。
ミレディにとって幸いだったのは振り向いた事。ミレディが振り向いたことで照準が中心をズレ、脇腹をえぐるに至ったのだ。あのまま行けばアザンチウム装甲を砕くかは別として、核のある場所に牙を突き立てられていたことだろう。
そうやってミレディを通り過ぎたナナキは、その道中でユエを回収……と言うより、走り去るナナキにユエがすれ違う瞬間に華麗に飛び乗り、今に至った……という訳である。
ミレディが挑発とダメージにイラついているその間に、上方の浮遊ブロックにアンカーを打ち込んだハジメが振り子の要領で宙を移動し、落下中のシアをキャッチする。ナナキが救出されたことで表情は柔らかい。
だからと言ってシアを抱っこする事は無く脇に抱えている。
「ハジメさぁ~ん、機嫌が治ったんならここはご褒美に抱っこするところじゃないですか? 空気読みましょうよぉ~」
「人をKYみたいに言うな。この状況でさり気なく自分の願望を満たそうとするお前の方が、むしろ空気読めよ」
近場の浮遊ブロックに着地した瞬間、ぶちぶちと不満の声を上げるシアに、ハジメが呆れた声でツッコミを入れる。
「ナナキ、ユエ無事か?」
「ん、平気。それよりも……やってやった」
「おう、流石だユエ。」
『ヒョ!ユエアネェイツノマニ』
「ふふ、さぁて……いつからでしょう?」
少し遅れてユエ達も合流する。そんな二人にハジメは直ぐ様安否確認を取る。扱いの差が激しすぎて戦闘中にも関わらずシアは地面にのの字を描く。
「ナナキ、大丈夫だったか?悪かったな。オレが軽率だった。」
『ウウンッゼンゼンダイジョブ!ソレヨリマダマダタベタリナイオ〜!!』
グギュルルルルッ
「はッそりゃ頼もしいやら……恐ろしいやら、だな。」
ハジメはナナキが囚われの身になってしまった事に、兄として責任を感じ素直に謝罪する。だが、当の本人は意にも返さず、寧ろ食欲が漲っていて、元気いっぱいである。
その様に微笑みながらも若干戦慄するハジメは、ナナキのサメのの鼻柱辺りを優しく撫でつける。未だナナキの上に座るユエも同様だ。シアは戦闘中にも関わら《以下略》
そうして、休憩という名の戯れを挟み敵へと向き直るハジメ達。
両腕と脇腹を欠損し、立っているのもやっとな状態のミレディ。錯覚か、肩で息をしているようにも見える。
最早満身創痍の敵を目の前に、トドメを刺そうと構えるハジメ達。
しかし、その行く手を阻むようにブロックの大群が濁流のように押し寄せ、ミレディの周囲に集まる。また再構成でもするつもりか?と、回復する前に仕留めにかかる━━
━━が、何故だか、ミレディは周囲の浮遊ブロックを呼び寄せだけして両腕を再構成することもなく、天井を見つめたまま目を強く光らせていた。
猛烈に嫌な予感がして、表情を強ばらせるハジメ。それを裏付けるようにシアの表情が青ざめる。
「ハジメさん、ユエさん、ナナちゃん! 避けてぇ!
『GuRrrrrrrrッッッ!!』
ハジメは、おそらくシアの固有魔法が発動したのだろうと推測する。そして、それはシアにとって死に繋がるほど危険性の高い何かが起こるということを示している。ナナキも危機を感じ取ってか尻尾を吊り上げ唸っている。チラリとナナキの上に乗るユエに目配せしたハジメは、何が起こっても対応できるように身構えた。
その直後……それは起こった。
空間全体が鳴動する。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。いや、破片だけではない。天井そのものが落下しようとしているのだ。
「っ!? こいつぁ!」
『ふふふ、お返しだよぉ。いくら神代魔法でも、騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に“落とす”だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~』
見た目に反してのんきなミレディの言葉に苛立つが、そんな事に気を取られている余裕はない。この空間の壁には幾つものブロックが敷き詰められているのだが、天井に敷き詰められた数多のブロックが全て落下しようとしているのだ。一つ一つのブロックが、軽く十トン以上ありそうな巨石である。そんなものが豪雨の如く降ってくるのだ。ハジメの額に冷たい汗が流れる。
「ハ、ハジメさん!」
「ナナキに飛び乗れ!」
動揺に震える声を出すシアにそう檄を飛ばしたハジメは、乗りやすいよう身を屈めてくれているナナキに飛び乗る。その間、ミレディはずっと天井を見つめたままだった。おそらく、彼女の言葉通り、ゴーレム騎士以外の操作は一つ二つが限度なのだろう。落とすだけとは言え、数百単位の巨石を天井から外すのには集中がいるようだ。
ハジメ達は天井全体を警戒して下手に動けない。一言に落ちると言っても、バラバラなのか一片に落ちてくるのかそれを見極め、前者なら逃走経路を、後者なら一か八かの防御魔法を用意する為に身構えているからだ。
しかし、不幸にもそんなに待つことはなく、その時はすぐに訪れた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!! ゴバッ!!
天井からブロックが外れ、地響きがなり止む代わりに轟音を立てながら自由落下する巨石群。しかし、幸いと言っていいのかご丁寧に、ある程度軌道を調整するくらいはバラバラに落下していている。いやらしい事に、特にハジメ達のいる場所へと密集して落ちて来ている。ミレディも心中するつもりはないだろうから、彼女のもとへ行けば安全かと視線を巡らせるが、ナナキが咄嗟に飛び出したのはちょうど真反対、壁際に退避しに行くところだった。今からの方向転換は間に合わない。
「頼んだぞナナキッ……ユエ! シア! 掴まってろ! 絶対に離すなよ!」
「んっ」
「はいですぅ!」
『UuuGAAAAAAAAAAAッッッ!!』
ハジメは、ナナキ、ユエ、シアにそう言うやいなや、“宝物庫”から再びオルカンを取り出す。そして落ちてくる巨石に対して十二発のロケット弾を全弾連射した。火花の尾を引きながら頭上の死を吹き飛ばさんと突撃したロケット弾は次々と大爆発を起こすと巨石を粉砕していく。
視界のすべてを覆い、天井が見えなくなるほど密集していた巨石群が、オルカンの攻撃により僅かに綻びを見せた。僅かな隙間から天井が見えている。ハジメは、オルカンを仕舞い、代わりにドンナー・シュラークを抜くと天に掲げて連射した。僅かな生存の道を押し広げるように、計算された精密射撃が砕かれた巨石の破片を更に砕きつつ連鎖的に退けていく。
「あそこだナナキ!一気に駆け抜けろ!!」
『GuRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!』
切り開いた一本道を指し示し叫ぶハジメ。にそんな兄に呼応するようにナナキも雄叫びをあげる。
インディー・●ョーンズの通路でやったように、カエルのジャンプのような軌道で、足場から足場、時には“空力”て虚空を蹴り抜き、切り開いた抜け道目掛けて迫りくる巨石群を回避していく。
しかし、これは無軌道なただの落下ではなく、
「ハジメ!道が……」
「そんな……」
『Guu……ッ』
「足を止めるなよナナキ!………。」
そう弟には言ったものの、八方塞がりとなり険しい顔を晒すハジメ。豪速を持って降り注ぐ巨石群を正確に捉えるために、ハジメは固有魔法“瞬光”を発動する。
“瞬光”で引き上がるのは何も肉体のスピードだけではない。動体視力、思考力その全てが加速したハジメが、ナナキに指示を飛ばしていく。
それに応えるために、ナナキ自身も始めてその固有魔法に手を伸ばす。
“限界突破”本来は勇者が所持し、ハジメとナナキが例外的に手に入れた強化魔法。文字通り、限界を突破して本来の三倍以上の力を得られるが、長時間の使用はできずその反動で使用時間に伴い弱体化してしまう。しかしどちらにしろ、この危機を乗り越えられなければ同じ事だ。
ナナキの体を鮮やかな青い魔力が包む。今回の戦闘で溜め込んだ魔力をフル動員して、肉体機能を底上げさせる。
強力なGによりユエとシアが喘ぐ中、ハジメは目まぐるしく移り変わる景色を強化した動体視力で正確に捉える。
その中で、加速した思考力がとある活路を見いだした。
「ナナキ、ユエ、
しかし、それはとても賭けの要素が強いもの。ハジメは大切な仲間達に意思確認を取るため声を掛ける。だがその返答は……
「ん、当然!」
「はいっ!どこまでもお供しますよ!」
『ナナキ、アニィト、ウウン。ミンナトナラ、モット、モォォオット……ガンバル!!』
言われるまでもないッという、力強い了承の返事だった。
◇
所変わって、壁際でそんなハジメ達の様子を眺めるミレディの目には、ハジメ達が一瞬で巨石群に飲み込まれたように見えた。悪あがきをしていたようだが、流石にあの大質量は凌ぎきれなかったかと、僅かな落胆と共に巨石群にかけていた“落下”を解いた。
『う~ん、やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~』
ふわりと浮遊して崩落の残骸に近づきながら、ポツリと諦観の声を囁く。
メギャンッ バギッ ドゴッ
『ん?何か今……』
試練の失敗を悟り、踵を返そうとしたミレディの耳がわずかな物音を捕らえる。
『………………気の所為か?』
メギャンッ メギャンッ メギャンッ メギャンッ
『いや違う!気の所為じゃない!!』
今度こそ明確に聞こえたその音に、ミレディは再び瓦礫の方へと振り返った。
それとほぼ同時だった。
ドギャァァァアアアアアアアアアアンッ!!
「『「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」』」
とある瓦礫を破壊……いや
『ええええええええッ!!?』
ハジメ達の滅茶苦茶な登場に驚愕で絶叫するミレディ。そしてそれは、この極限の状況では大きな隙となる。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!』
その場で一段と踏み込んだナナキの足の筋肉がボゴッと隆起し、周囲の瓦礫を吹き飛ばすほどの爆発的跳躍で、ミレディのえぐられた脇腹目掛けて一直線に跳び出す。
バキャアアアアアアンッ!!
『うわぁあああああああッ!!?』
抉られた脇腹から反対の脇腹まで食い破られ、貫通したことで下半身が千切れ飛ぶミレディ。
しかし、彼女の扱神代魔法が司るは“重力”。頭と上半身だけとなっても宙に浮き動くことが可能。
『何のこれしき!!』
だがしかし……
ビュオッとミレディの眼前にウサミミを生やした影が躍り出る。
「うぅぅらぁああああああああっ!!」
それは傷だらけの姿でドリュッケンを振りかぶる“シア”だった。
『くぅッ!』
ミレディは騎士ゴーレムを、
「洒落せぇええッですぅぅうううう!!」
苦し紛れ……。振り下ろされたドリュッケンで、騎士ゴーレム達ごと、地面に叩きつけられるミレディ。
バゴオオオオオオンッ!!
騎士ゴーレム達ごと、頭部を拉げさせたミレディが地面に深々とめり込むも、拉げた兜の隙間から僅かに光が点滅し、再び重力魔法で起き上がろうとする。
『ま、まだぁ……ッ』
「……させない」
ミレディが浮き上がる。それとほぼ同時、ミレディの体が地面に縫い付けられるように凍りつく。
「“凍柩”」
『じ、上級魔法……!?嘘、なんで?』
魔法を放ち、“自動再生”を行使する暇が無いのか、
体中の傷をそのままにして、それでもその紅い瞳だけはミレディを強く見据える“ユエ”の姿がそこにあった。
水属性の上級魔法“凍柩”。最後の詰めでミレディを拘束するにはこの魔法はどうしても必要だった。これまでユエが“破断”などの水のレーザーを放ち続けていたのはこのための布石。
だが、この場所で使えるのは中級魔法まで、上級魔法を無理に使ったことで莫大な魔力が消費され、ユエが所持している魔晶石の全てから魔力のストックを取り出す羽目になる。
ユエは肩で息をしながら近場の浮遊ブロックに退避する。
ドカッ
『ぐぅッ!』
身体を固定されたミレディの胸部にさらなる衝撃が走る。
そこにあったのは、全長2メートル半以上の縦長の黒い大筒。
外部には幾つものゴツゴツした機械が取り付けられており、筒の中心には直径二十センチはある漆黒の杭が装填されている。下方は四本の頑丈そうなアームがつけられており、中程に空いている機構に義手を連結させた“ハジメ”が自らの体が傷だらけの事なんて気にもとめず、ミレディを足蹴にして立っていた。
義手の外付け武装“パイルバンカー”。
その凶悪な見た目の大型兵器を、既に身動きの取れないミレディをアームで挟み込み、狙いを胸部装甲へと照準する。紅いスパークが迸り、キィイイイイインッという機械音を唸らせ、引き絞られた杭は待機状態へと移行する。
『はは、すっごいね。一気に形成逆転されちゃったよ……。』
すると、ミレディはもう観念したというように力が抜けた声で唐突に語りだす。
『ねぇ、最後に教えて?……さっき天井を落とした時、どうやって助かったの?結構ピンチっぽく見えたんだけど?』
「………お前、
普段のハジメなら問答無用でトドメを刺すところだが、何故か今回は律儀に説明を始めた。
「俺たちの世界の昇降機みたいなもんでな、詳しい話は省くが、太いワイヤーを巻き込んで上下運動する人を乗せる箱が、
高い建物を階段なしで上り下りさせてくれる優れもんだ。」
『?………その便利グッズと君達が助かったこと、何の関係があるのさ?』
脈絡のない話にミレディは訝しむも、「まぁ聞け」とハジメは話続ける。
「そんな便利グッズでも人が管理するもんだ。当然不具合は存在する。有名なのだと上昇中に停電かなんかで止まって、空中で人が閉じ込められたりとかな?」
『………………。』
「でだ。これはめったに起きることじゃないんだが、その空中で停止したエレベーターのワイヤーが、整備不良か何かで切断されちまって、中で人を乗せたまま墜落しちまう事故なんてもんもある。」
『それは……恐ろしいね』
「だろ?、俺たちの世界には魔法なんて便利な代物はないんだ。
高速で落下する箱の中に閉じ込められた人間はまず助からない。でも、俺たちの世界ではそんな状況でも何とか生き残れるかもって迷信じみた話も存在すんだよ。」
『迷……信?』
「まぁ科学的根拠に基づいた、いたって合理的な迷信だ。
一つは、地面に落下する瞬間にジャンプする。これはエレベーターが地面に衝突する衝撃を、空中に逃げることで中の人間に伝わらせないためにする方法で科学的助かるとは言われてるが、現実的に落下するエレベーターのスピードに人間の瞬発力では反応できないために、助かる可能性は低いって言われている。」
『なるほど、魔法が無いのなら当然の結果だね。』
「そうだ。そして2つ目、そのエレベーターには一応安全装置が取り付いていて、そんな落下事故が起きた時、スピードを抑えるブレーキみたいなものが存在している。コレを使っていれば床に這いつくばるか壁に張り付くかすれば無事に助かる可能性が高い。」
そうやって延々とエレベーターについて語らう姿は、先程まで殺し合いを演じていた間柄とは思えない様で、
話の着地点を見失い、いよいよ、この会話がなんの為の物なのかわからなくなり始めた時だった。
「だが、
『…………………は?』
唐突な軌道修正に、ミレディは呆気にとられる。
「よって、俺たちが選んだ手段は1つ目の、“墜落のタイミングを読んでジャンプする”だ。俺たちの世界で駄目でもこっちの世界にはご都合主義の権化、魔法がある。うちには“未来視”が使える頼もしい奴がいるからな。ジャンプするタイミングは手に取るように分かった。命の危機に瀕しないと発動しないらしいから、文字通り命
『待て、ちょっと待て!』
ミレディは話について行けず、思わず制止の声をあげるもハジメはスルーして話を続ける。
「大変なのはその後だ。俺たちがシェルターとして選んだブロックは、中が空洞になっているから他のブロックよりも脆いのは当然だ。
ユエに結界を張ってもらわなきゃ、他のブロックに押し潰されて持たなかったろうぜ。
おかげで、さっき上級魔法一発使うだけで魔晶石中の魔力がスッカラカンにさせちまったからな。後で感謝しねぇと。」
そう、ハジメ達はあの巨石群の中から、目についた巨石の中を食い……掘り抜き、シアの予知、ユエの結界を用いてあの局面を生き延びたというのだ。
どれか1つでもしくじっていれば、全員が死んでいてもおかしくはなかった。それなのに迷わずその手段を実行し、無事生還してみせた。勝負勘が強いと言うか、『絶対に生き残る』という執念が凄まじい。
「後は俺の
そう、なんてこと無いように語るハジメだが、その体中の擦り傷に、少々息も上がっているように見える。しかし、その堂々とした態度はハッタリを感じさせない。意地でも相手に弱みを見せない胆力も見事だ。
そんなハジメ達の存在にミレディは彼らに抱いていた
彼らならどう切り抜ける?悪辣極まりない
ミレディは期待する……。
『アッハハハハハハッ!!』
突然、狂ったように笑い声を上げるミレディ。その笑い方はハジメ達を嘲笑する蔑んだニュアンスを含んだ笑みだ。
『バカ正直におしゃべりに付き合ってくれてありがと〜ぅ☆』
そう言って、再び眼光を光らせる。
『君のおかげで大分時間が稼げたよ〜。さぁさぁ!
ミレディがハジメに話しかけたのはこれが理由だ。まさかうまくいくとは思っていなかったが、ハジメが気持ちよく会話をしてくれたことで思いのほか時間を稼げた。
これだけの時間があれば、五十体のゴーレム達を再構成させるには充分。身動きが取れない自分諸共、ハジメ達に最後の攻撃に掛かろうとした━━━
━━瞬間、ミレディに疑問が過る。
彼、南雲ハジメが、最後の最後でこちらに猶予を与えるような失態を犯すだろうか?
調子づいて己の功績を自慢したかったのか?
いいや、このたった一戦のみの付き合いだが、彼がそんな小物であるはずが無い。
そこまで思考が至った時。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
『?━━━ッ』
ハジメの次の言葉が、ミレディを大いに混乱させた。
「
『は?』
言われてミレディは周囲を見渡す。己とハジメを除いて、
ユエは魔力不足により戦線離脱。
シアはたった今、一体のゴーレムをドリュッケンで叩き潰した。
ナナキは、二体のゴーレムをスナック感覚でバリバリ咀嚼している。
………それだけだ。
『な、何で!?』
ミレディは確かにゴーレムを再構成させる魔法を使った。なのに無反応。シアとナナキが相手取っているのは、元々最後に唯一残っていた生き残りたちで、その魔法の対象に含まれていない。
訳が分からないと混乱するミレディを見て、ハジメは嫌らしく口角を上げる。
「今更気づいたのか?なら教えてやるよ。
再生させる敵には昔っから“一片残らず消滅させる”っていうのが
そう、いくら再構成の魔法を使っても、その再生させる対象がいなければ何の意味をなさない。
しかし、
『馬鹿な!君達にいちいちそんな事をする暇はなかったはずだ!』
そう、ハジメ達はミレディやゴーレム軍団だけでなく、周囲に漂うブロック群も相手取っていたのだ。
払いのけるように打ち砕きはすれ、一体一体完全消滅なぞ、出来るわけもないのだ。
そう叫ぶミレディに、ハジメはニヤケ面のまま、親指でクイッとある場所を見るように誘導する。
そこには、先ほどまでいた二体のゴーレムを
『ま……まさか……』
「うちの弟は大食いなだけでなく、
ミレディは、現実を直視出来ずにいた。
それにより、ナナキとハジメの入手方法は異なるが共通の技能。“[+胃酸強化]”が、さらなる壁を越え[+“超速消化”]へと進化を遂げていた。その消化スピードは、従来の胃酸強化の十倍の速度と溶解度……ある意味最早兵器である。
酸としての脅威としてもハジメの懐事情的にも……。
確かにこれならば、どんに戦闘で余裕がなくとも、同時進行でゴーレムの残骸を消滅させる事が出来るだろう。
だが、だがしかし、だ。
『そ、そんな馬鹿なぁああああッ!!』
ミレディにとって、それはあまりにも受け入れ難い事態だった。
この迷宮に籠って幾歳月。長年の試行錯誤の果てに生み出された仕掛けも、策も、そのほとんどを純粋な食欲で乗り越えられるなんて、誰が想定していただろう。
ハジメの色物の兵器、魔力が使えない環境で上級魔法を放つユエ、ひ弱なはずの兎人なのに怪力を持つシア。
ここまでは良い、“変質者”が異様なのは
しかしそれでも、戦意ではなく、食欲に敗れるなんて……
『あんまりだぁああぁぁぁああああああっ!!』
ミレディが、こう叫びたくなるのも無理もない話だろう。そして、ようやく気づく。ハジメが何故、わざわざ時間を取ってでも話し続けたのか?
それは……、
「絶望して死ねッ!」
ミレディに、何をしても無駄だと分からせるため、圧倒的な絶望を味合わせるため、
見よ、この何とも楽しそうないやらしい笑み!
これでは、どっちが悪役かまるでわからないッ
嬉々としてトドメを刺しにかかる姿は、まるで悪辣な蛮族だ。
先ほどの希望を返してもらいたいッ!と今際の際に心中で文句を垂れるミレディ。
だがその前に、
ゴガアァァァァァァアアアアアアアアンッ!!
パイルバンカーで限界に引き絞られた杭が、ミレディの胸部に打ち放たれる。
あまりの衝撃にミレディの巨体が、拘束の氷を砕いて更に浮遊ブロックを放射状にヒビ割りながら沈み込んだ。浮遊ブロック自体も一気に高度を下げる。ミレディは、高速回転による摩擦により胸部から白煙を吹き上げていた。
……しかし、ミレディの目から光は消えなかった。
『ハ、ハハハッ。さ、最後の最後で詰めを誤ったねぇ〜?
どうやら未だ威力が足りなかったようだよぉ。だけど、ま、まぁ大したものだよぉ?四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?』
若干、かたい声で、それでも余裕を装うミレディ。先ほどの心のダメージも健在なのによくやっている。内心は冷や汗を掻いているようだが……。
パイルバンカーは必殺の一撃ではあったが、電磁加速が足りず本来の威力は発揮できなかった。それ故に惜しいところで貫通には至らなかったのだ。
だが、ハジメの目に諦めの色は皆無だった。まるで、そんなことは想定済みと言わんばかりに。
「やれ!シア! 終わらせろぉ!!」
ハジメは、“宝物庫”に杭以外のパイルバンカーをしまうと、ミレディの胸部から勢いよく飛び退いた。
入れ替えのように現れたのは、ウサミミをなびかせ、ドリュッケンを大上段に構えたまま、遥か上空から自由落下に任せて舞い降りるシアだった。
『ッ!?』
シアが何をしようとしているのか察したのか、今度こそ焦ったようにその場から退避しようとするミレディ。
自分が固定されている浮遊ブロックを移動させようと“重力魔法”を発動する。
それとほぼ同時。
スドォオンッ!!
ミレディが移動しようとした方向から、衝撃が襲う。
『ぐぅッ!?』
逃走を阻まれ、何が起きた!?とそちらへ振り向くミレディ。そこで見た物は、ラ●ダーキックのポーズでミレディが埋まる浮遊ブロックを踏み抜くナナキの姿だった。
『ニガ……サナイッ!』
ナナキは、空力で生み出された足場に爆発的な跳躍をかまし、その勢いのまま、ミレディのブロックを踏みつけたのだ。
“限界突破”の反動で、ややステータスが落ち威力は減衰しているが、ミレディの行く手を阻むには、これで充分だった。
何とか足掻こうと視線を巡らせるミレディ。しかし、猛スピードで落下してくるシアを見て、間に合わないと悟り……
諦めたように……動きを止めた。
シアは、そのままショットシェルを激発させ、その衝撃も利用して渾身の一撃を杭に打ち下ろした。
ドゴォオオ!!!
轟音と共に杭が更に沈み込む。だが、まだ貫通には至らない。シアは、内蔵されたショットシェルの残弾全てを撃ち尽くすつもりで、引き金を引き続ける。
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
「りゃあぁあああああ!!」
シアの絶叫が響き渡る。これで決めて見せると強烈な意志を全て相棒たる大槌に注ぎ込む。全身全霊、全力全開。衝撃と共に浮遊ブロックが凄まじい勢いで高度を下げていく。
そして、轟音と共に浮遊ブロックが地面に激突した。その衝撃で遂に漆黒の杭がアザンチウム製の絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入った。
地面への激突の瞬間、シアはドリュッケンを起点に倒立すると、くるりと宙返りをする。そして、身体強化の全てを脚力に注ぎ込み、遠心力をたっぷりと乗せた蹴りをダメ押しとばかりに杭に叩き込んだ。
「うりゃあああああああッ!!」
シアの蹴りを受けて更にめり込んだ杭は、核の亀裂を押し広げ……遂に完全に粉砕した。
『イヤアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………』
断末魔と共に、ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。
勝負あり……シアがそれを確認すると、ようやく全身から力を抜き安堵の溜息を吐いた。直後、最後のアシストをしたナナキが近づき、少しの血と埃で汚れたシアの顔をその大きな舌でベロンッと舐める。
「わ、わわ!何をするんですかナナちゃん!」
『ウサギサン!スゴカッタ!ガンバッタ!』
尻尾を振り回し、まるで大型犬のようなテンションで擦り寄ってくる弟のような存在に少し擽ったそうにするシア。
更に背後から着地音が聞こえ振り向くと、そこには予想通りハジメとユエが立っていた。
シアはナナキを宥めると、二人に向けて満面の笑みでサムズアップする。ハジメとユエ、ついでにナナキも、それに応えるように笑みを浮かべながらサムズアップを返した。
これにて、七大迷宮が一つ。
ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略されたのだった。
ホントは今回で、ミレディとサヨナラするとこまで行きたかったんですけど、思いのほか戦闘が長くなってしまったので、ここまでとします。
次回は明日の深夜までには上げられると思います。
ライセン大迷宮編は、いじる箇所が少なくてほんと申し訳なく思ってましたが、次回からオリジナル要素たくさん出せそうなので、頑張っていきたいと思います!
よろしくお願いしますm(_ _)m