茶番回です。
シアとの人工呼吸イベントは今回で軽く流します。
シア「え!?」
“選択”……。
それは人生において、何度も訪れる分岐点。
進路、就職、結婚……。そういった大きなものから、
分かれ道で右を行くか、左を行くか?
ソフトクリームの味はバニラにするか、チョコにするか?
打ち上げ花火は下から見るか、横から見るか?
などといった小さなものまで、
そのどれもが、選択一つでその後の結果が大きく変化する。
俺、南雲 ハジメも今……。
その選択の瞬間に立ち合っている。
しかし、俺に突きつけられた選択は、前述したような、生半可なものじゃない。(※個人の見解です。)
俺の目の前には今………
2枚のカードが差し出されていた……。
左右、どちらかのカードを引くことで俺の今後が決定する。
失敗を引けば明確な終わりが待っている。左右どちらを選んでも、何かしらの結果が残る他の選択とは理由が違う。
不正解を選べば……“死”
故に、慎重に選ばなければならない。
どっちだ?右のような気もするし、左のような気もする。
右に見せかけた左のような気もすると思いきや左に見せかけた右の可能性も捨てきれないと思わせつつ右はブラフで左が真実というのはカマかけのようで右が正しく左が間違いとは見せかけで右が正解なんていうのは幻で左こそが真実━━━ッ
「早くしてちょうだい。もう日が暮れるわよ」
その時、どすの効いた
◇
ライセン大迷宮を無事攻略した俺達は、最後……ミレディのやつに便器に流された。
あの野郎絶体いつか破壊してやるッ!!
俺達はどうやらブルックの町外れの泉に流されたらしい。俺とユエは無事だったが、シアの奴が呼吸をしていなかった。
同じ女性のユエに人工呼吸を頼むも、どうやらこの世界には心肺蘇生の概念が普及していないようで、何をしたらいいかわからない様子だった。
ことは一刻を争う。オレは意を決してシアに心肺蘇生を施した。
ユエに不機嫌な目を向けられるも極力無視して続けた結果、無事、シアは意識を取り戻した。
咳き込み、呼吸を再開した様子を見て俺はひとまず安堵する
……のもつかの間。
俺はそのままシアの奴に捕まってシアの唇が俺の口に襲いかかる。人工呼吸をし終えたばかりでその至近距離だったこともあって避けそこねた俺は、それを拒むことができなかった。
「んっ!? んー!!」
「あむっ、んちゅ」
数分の格闘の末、何とか引き剥がした俺は怒りもままにもう一度変態うさぎを泉へと投げ入れた。
「ゆ、油断も隙もねぇ。蘇生直後に襲いかかるとか……流石に読めんわ」
口元を拭い思わずそう言っている間に、早くも、泉から貞●の様に這い上がって来ているシアの姿に、俺は戦慄に顔を引きつらせる。
「うぅ~酷いですよぉ~ハジメさんの方からしてくれたんじゃないですかぁ~」
「はぁ? あれは歴とした救命措置で……って、お前、意識あったのか?」
「う~ん、なかったと思うんですけど……何となく分かりました。ハジメさんにキスされているって、うへへ」
「いや怖いわッあとその笑い方やめろ……いいか、あれはあくまで救命措置であって、深い意味はないからな? 変な期待するなよ?」
「そうですか? でも、キスはキスですよ。このままデレ期に突入ですよ!」
「ねぇよ。っていうかユエ。お前も止めてくれよ」
「……今だけ……でも、シアは頑張っているし……いや、でも……」
「ユエ~? ユエさんや~い」
虚空を見つめたまま未だブツブツと呟くユエに、こっちもダメだと俺は溜息を吐く。
そうして一度落ち着けば冷静にもなる。そこで俺はようやく気づく。
俺は慌てて周囲を見回し、“気配感知”“魔力感知”も全開にする。それでもいない……どこにもいないッ!
「ナナキ?……おいナナキ!!」
「ッ!?ナナキ!ナナキぃ!!」
俺が慌てる様子を見て、ユエも気づいたのか即座に立ち上がって辺りを捜索する。頭お花畑にさせていた残念うさぎも、異常に気付いて「ナナちゃん?ナナちゃ〜んッ!!」と叫び出す。
ナナキはサメだ。溺れたなんてことは無いだろうが……
まさかッ途中で逸れたのか!?
俺たちが流された場所は地下水脈だった。俺達三人は運良く一緒に流されたが、地下水脈なんて幾重にも道が分かれていて然るべきだ。
ナナキは水の中でも視界がいい分なすがままに流される俺達と違って道を選んでいたかもしれない。その結果俺達とは全く違う場所へと流れ着いたのかもしれない。
まずいぞ、ナナキの迷子防止用の特定石は、せいぜい街一つ分の範囲しかカバーできない。ナナキなら息継ぎ無しで無限に泳ぐことができる。国単位の広さでの迷子だったら見つけ出すのは困難だ。ナナキは強いがそれでも幼稚園児の精神性だ。悪い大人に引っかかりでもしたらどんな目に遭わされるか……ッ!!
そんな最悪の予想に俺が顔を青ざめていると……
「あら?あなた達は確かぁ……」
背後から全く知らない声が聞こえ、思わず振り向いた。
そこに居たのは、複数人の冒険者風の装いの男女を引き連れた身体をくねらせながら走る巨大な影。
「なんだこのバケモン!!?」
その影、女装に濃い顔に施された厚化粧の巨漢の怪物を見て、余裕のなかった俺はついそう叫んでしまう。
「だぁれが魔人族の軍隊も一目見ただけで失禁しながら脱兎の如く逃げ出すほどの化物だゴラァアアアッ!!」
「へぁいッ!?すんません!!」
いきなり怒鳴られて反射的に背筋を正し思わず謝罪を口にしてしまう俺。それに反して、ユエとシアは自然な様子でその巨漢に反応する。
「あ!クリスタベルさん!」
「ん!」
「やっぱり!ユエちゃんにシアちゃんじゃなぁいッ」
どうやら二人はこの巨漢ことクリスタベルと知り合いらしく、親しげに何のためらい無くその見上げるような巨漢に駆け寄る。
「どうしてこんな所にいるんですぅ?」
「私たちは隣町に用があってね。そこで倒れてるソーナちゃんと一緒に、冒険者の護衛を付けて行っってきた帰りなの。」
何故が鼻血を吹き出して倒れているどこか見覚えのある少女を横目に、クリスタベルはシアにそう説明する。
「それよりも聞きたいのはこっちよ!一体何があったのあなた達?」
「あぁ、えっとそのですね……」
「……ライセン峡谷で、依頼をしてたんだけど……運悪く地下水脈に落ちて……」
シアがどもった所に、透かさずユエがカーバストーリーを語る。大迷宮を攻略したなんて、この場で言いふらしたところで面倒しか呼び込まないからな。
そのままユエはクリスタベルに嘘と真実を織り交ぜて語り、
そうして……
「えぇッ!ナナキちゃんが行方不明!?」
「ん……今皆で全力で探している。」
ユエは最後に、ナナキについては誤魔化さず正直に話した。
俺達がライセン大峡谷に行く前にユエから聞いてたことだが、このクリスタベルはナナキとも面識が有り、ナナキの本来の姿を知る唯一の人物だそうだ。
まぁ、つまりそれは、このクリスタベルって奴が、
ナナキに訳のわからん価値観を植え付けた張本人って事なんだが……
今はとりあえず放置だ。現在、最も優先されるのはナナキの捜索。別のことにかまけている暇はない。
「なら私も手伝うわ!」
「えっですが……」
「……いいの?」
すると、そんな事を言い出すクリスタベル。知己の間柄とは言え、相手も用事の真っ最中だ。急だった為申し訳なさそうに聞き返すユエとシア。
「当然よぉ〜あなた達はお得意様だし……そもそも私達、友人でしょ?困ったときはお互い様じゃなぁいッ」
「クリスタベル(さん)……ッ」
ほう、外見はともかく、とてもとても懐が広い人物らしい。ナナキの事で後で文句を言ってやろうと思っていたが、少し大目に見てやっても……
「そ・れ・にぃ〜ッナナキちゃんは、私の
…………よぉしッ。前言撤回だ。コイツにナナキは一生近づけてたまるか!このままではナナキが
いや、案外それも悪くはな……っていやいやいやッ
馬鹿な思考に移る前に、俺はナナキの捜索を再開した。
クリスタベルは、冒険者達に追加報酬を渡して人海戦術で捜索にあたってくれた。そのことには感謝してるんだが……
「今回、新しく服の素材を調達して創作意欲が爆発してるの!この想いッ早くナナキちゃんにぶつけたいわぁ!!その為にも早く見つけてあげないとッ」
うん、なんとしてもあのバケモンより先にナナキを見つけ出さねぇといけない……ッ。
そうして三十分、俺達は泉を、クリスタベルたちが近くの森を捜索しているときだった。
「ッ!!ナナキ!」
俺のフル稼働させていた“魔力感知”“気配感知”が最愛の弟の存在を察知する。
「ハジメッ!」
「見つかったんですか?」
俺の声を聞いて、ユエとシア、森の方にいたクリスタベル達もも駆け寄ってくる。
ナナキの反応は俺達が出てきた水脈の出口、泉の底から感知した。
しかし、ここで問題が生じる。ナナキは今“シュテルンヘルト”を着用していない。
正体を知られているクリスタベルならまだいいが、連れの少女と冒険者連中はまずい。
今、水中から這い上がろうとするナナキの、加工無しの
今にも浮上するのか、ぶくぶく泡が上がっている。その場所へ俺は透かさず駆け寄る。俺の影でナナキを隠すためだ。
「ナナキッ!!」
しかし、ナナキが頭を出すまでギリギリ間に合いそうにない。俺は必死の呼びかけとともに、浮上してくる弟の影に目一杯手を伸ばした。
ちゃぽんッ
「うぅ?」
「え?」
しかし、水からちまっと顔だけ出したナナキの姿に俺は目が点になる。
ユエとおそろいの黄金の髪に紅の瞳、シュテルンヘルトを着てるわけでもないのに、ナナキの姿は変装時の姿になっていた。
「あ!あにぃみっけ!」
そう言って元気にこちらを指差す小さな手にも、指の間の水かきは見当たらない。
「ユエあねぇもみっけ!シアもめっけ!」
水から飛びたし、水切りをする犬の様にブルブルッと身体を揺らしたあとユエとシアにも順番に指差すナナキ。
だが、やはりその腰からはまん丸のサメの尻尾は生えていない。背びれと首のエラ筋も同様だ。
一体どういうことか?今すぐにでもナナキに聞き出したいが、それは後回しだ。今は人目が多すぎる。
「ナナキちゃぁああ〜〜〜ッん心配してたのよぉ〜!」
「う?あ!クリス━━むきゅ!」
服が濡れることも厭わず、ドスッドスッと力強い走りで駆け寄るクリスタベルは、ピクピクと筋肉が唸る剛腕でナナキを力いっぱい抱き締め、いや締め上げにかかる。
コイツ、図体の割に動きが機敏だ!この俺が、ナナキに
「怪我はなぁい?息はしてる?もうおねぇさんほんっとに心配で心配でッ!!」
「むきゅきゅ!
「オイ、てめぇその手を離しやがれ」
「あら?あぁ!ごめんなさぁ〜い」
俺はクリスタベルの肩……は高さ的に届かなかったため腕を掴み、それなりの力を込めて握って脅しのつもりで威圧したが、掴んだ腕はまるで人の腕とは思えないような、下手に高硬度な鉱石よりも硬い感触だった。更に俺の威圧にも応えた素振りを見せず、苦しむナナキに申し訳なさそうにしてナナキから腕を離した。
「ぷはぁ〜ッむきゅ!?」
離したそばから透かさず俺はナナキを抱えてクリスタベルから距離をとる。
「協力してくれたことには感謝するが……これ以上、俺の弟に変な影響を与えないでくれ」
捜索に協力してくれた手前、少々不義理とは思うが線引きは必要だ。ナナキが何でも拒まず受け入れてしまう質なので、その分俺が断りを入れておかなければならない。
そんな俺たちを見て、クリスタベルが気づいたように言う。
「あぁ〜、あなたがナナキちゃんのお兄さんだったのね?う〜ん聞いていたよりもやんちゃそうな子ね?」
「どう聞いたか知らんが、そんな気持ち悪い視線をやめろ」
「気持ち悪いっですって!おとめに向かってなんて口の利き方なのかしら?そんなんじゃユエちゃん達に逃げられちゃうわよ〜!」
「やかましい!余計なお世話だ」
割れた顎に手を当てこちらを値踏みするように眺めてくるクリスタベルに、俺が悪態を飛ばす。その事にプンスカと怒った様に見せると、途端に冷静になったと思えば、クリスタベルは距離を詰め、俺とナナキに怪しく微笑んだ顔でボソッと呟く。
「それに、こんな小さな子が長い時間水の中に潜っていて平然としてるなんて不自然に見えるでしょ?誤魔化しが必要だったと思ったのよ」
「ッ!」
確かに、そこは盲点だった。つまりクリスタベルがナナキを強く抱きつぶしたのは、『溺れかけ怯んだ子供』というのを演出させる為のポーズだったようだ。
「痛くしちゃってゴメンね?」と、最後にナナキにそう呟いてクリスタベルは離れていった。誤魔化すためとはいえ、多少苦しませたことに罪悪感があったようだ。
ナナキへの気遣いも完ぺき過ぎる。何なんだ?あの強烈な
その後、俺達はブルックの町までクリスタベル達のパーティーに同行した。クリスタベルの「今夜うちに泊まっていかなぁ〜い♡?」というお誘いは丁重にお断りさせて頂き、俺達は再びマサカの宿へと宿泊した。
今回はどこかで見覚えがあった少女ソーナ(マサカの宿の思春期少女だった)に、前もって四人部屋の用意をお願いしておいた為、ユエとシアが部屋割りで揉めることはなかった。
ただ、このソーナって少女もだが、マサカの宿の従業員であるソーナの両親も、俺達が宿に泊まるって言ったら顔面蒼白でどこか怯えた様子だったのは何故なのだろうか?
あと、前来たときよりも従業員が四名ほど増員されていた。
多少の違和感は感じつつ、俺達はようやく宿の部屋で落ち着くと、満を持してナナキに問いかける。
「ナナキ……その姿は何だいったい?」
そう、シュテルンヘルト無しに、人間の姿に化けれている絡繰の謎に迫った。この事にユエとシアはなんと
聞かれたナナキは、逸れる前にはつけてなかった青い宝石が吊るされたペンダントを首から外す。
すると忽ち、髪と瞳は元の灰銀髪と藍色へと変化し、背びれ、水かき、エラ筋にまん丸尻尾がぶるんっと姿を現した。
「これ!すごいよ!……ミレディにね……もらったのぉ〜!」
そう言ってニコニコで自慢して来るナナキ。聞けば、ミレディは俺達を流したあの後、ナナキだけ呼び止めお茶菓子を囲んでお話に興じていたという。このペンダント型のアーティファクトも、その時貰ったらしい。
そのペンダントを手に取り色々と調べてみるが、仕組みがさっぱりわからない。魔法知識に明るいユエもお手上げ状態だ。当然シアもちんぷんかんぷんといった顔をしている。
恐らくだが、俺たちが入手した“生成魔法”“重力魔法”以外の神代魔法の力が使われているんだろう。ユエとシアが言われるまでナナキの変化に気付かなかったところを見るに、相当強力な認識を誤魔化す作用が働いているのだろう。家族であり、その人生のほとんどを共に過ごしてきた俺にはその効果は薄かったようだが……。
その後、ダメ元でナナキにこのペンダントの仕組みについて聞こうと思ったが……やめた。説明を受けていたとしてもナナキが理解できる筈も無いだろう。
「うぅ?」
「いや、何でもない。」
それにしてもミレディの野郎。ナナキを引き留めていただけに飽き足らず、こんな物よこしてくるとは……“シュテルンヘルト”の上位互換じゃねぇか畜生!なんだ?俺への当て付けかコラァ!!
どうやら、アイツを破壊する理由がもう一つ増えた様だ。
そんな事を思ってたら、虫の知らせか?どこかのミニ・ゴーレムがくしゃみをしたような気配を感じたが……なぁに、単なる気のせいだろう。
しかし、このペンダント型アーティファクト。
仮に『エァーミート』と名付けるが、尻尾や水かきといった物はただ姿を消してるだけで消した存在の実体までは消せないらしい。
その確認と称し、俺、ユエ、シアの三人は、透明になったナナキの普段は敏感なふわふわ尻尾をさんざんいじくり倒した。
俺達が心配してたのに、呑気にミレディなんかと茶をしばいていた事へのお仕置きはこれで勘弁しといてやろう。
「はぅうううう〜ッ///!!」
ナナキの可愛らしい悲鳴がブルックの夜空に木霊した。
◇
そうして六日が経過した。
迷宮攻略の疲れを癒やすためと、次の旅への前準備……主に食糧調達や、新たに手に入れた“重力魔法”の訓練、活用などで、俺達はブルックの町に滞在していた。
この調子なら、明日辺りには出発できるだろう。
「ハムハムッモッキュモッキュ……んん~ッ!!」
「ナナキ、おいしい?」
「ん~~!びみぃ〜ッ!!」
「それはよかったですぅ〜ッ」
今、俺達は露店が出揃う通りを全員で歩いている。最後の1日はゆっくり食べ歩きなど観光をして過ごす為……だったのだが……
「きょぇええええええ━━━
ドパァンッ
━━ぽぉッ!?」
「ちゅみみぃいいいい━━━
ドパァンッ
━━ぱぅッ!?」
素っ頓狂な奇声を上げる男達の眉間に、俺のドンナーのゴム弾が炸裂する。
「ハジメ……また?」
「あぁ。……ったく奇声を上げて来てくれる分、対処はしやすいと言っても……鬱陶しいことには変わりないからな……」
奇声を上げて襲いかかる一般人を、俺が最短で処理する。ユエが「また?」と疲れたように聞いてくるほど、この作業光景は、ここ数日でのお馴染みの景色となっていた。
「うぅ?」
「何でもありませんよぉ〜ナナちゃん!ほら!あっちの出店のも美味しそうですよ!一緒に買いに行きましょう!」
「おぉ〜っ」ジュルリッ
ナナキの目に汚物を映さないように、シアが気を利かせてナナキの視線を逸らさせる。
この様な面倒な状況になったのも、一重にユエと、シア……ついでにナナキ達の容姿に惚れ込んだ、馬鹿どもの暴走が原因である。
奴等は、最初。ユエ達本人を狙わず、外堀を埋めるため俺が一人の時に襲いかかってきていた。それだけなら俺がちょっと疲れる程度で済んでいたし、幸いこのブルックの町にいる期間中は、俺が新たなアーティファクト制作、ユエ シア ナナキが郊外で“重力魔法”の訓練と、目的が異なっていたためほぼ別行動を取ることで面倒を極力避けていた。
だが、奴らの中にも狡猾な奴等はいて、俺に敵わないと知ると再び標的ユエ達……特に
ユエ達を付け狙う変態連中は全部で、
『ユエちゃんに踏まれ隊』
『シアちゃんの奴隷になり隊』
『二人の姉妹になり隊』
そして、『ナナキきゅんを
これら四つの阿呆郡隊が存在している。
この中で特にやばいのが最後の『ナナキきゅんを産み隊』だ。
奴らは他の連中みたいに正々堂々と行かず、あの手この手を使ってナナキに接触を図ろうとしてくる。
他の〇〇隊の連中を利用して、俺がソイツらにかかりっきりで、動けない時の隙を突くのは当たり前。
他にも奴等の凶行は常識の枠に留まらず、ギルド職員、出店の従業員に宿の従業員、そう言った日常に潜む人々に紛れ込んで、ごく自然な流れでナナキを連れ去ろうとしてくるのだ。
ある時、ふと目を逸らしている隙。
ナナキが見ず知らずの際どい服装で危ない表情の女とカフェでお茶を囲んで、もちゃもちゃとお菓子を堪能していたところを見たときなんて、全く生きた心地がしなかった。
何より恐ろしいのは、仮にも『
宿でくつろいでる時まで来られたら気も休まらない。どうしたもんかと悩んでいたとき、ギルドのおばちゃんこと
不審者が下手に近づかないように防犯面も強化してくれるとのこと。
迷わずその提案に乗っかった俺達は、直ぐ様マサカの宿からギルドへと引っ越す。用意された部屋はとても大きく、アーティファクト制作にも有り難い結果となった。
そして外室時にも気を使い、今こうしているように極力全員で固まって行動するようにしている。こうすれば室内にいるより動きやすくて変態の対処もしやすい。
俺が付きっきりになった事で『産み隊』の陰湿な手口は鳴りを潜め、他の連中のオープンなアプローチに留まった。
まぁ、オープンはオープンで鬱陶しいことには変わりはない。
「ちぇすとぉぉおおお━━━━
ドパァンッ
━━━はぐぅううう!?」
こんなふうに、襲いかかるなら黙ってやれば良いものを、自分の存在を少しでもユエ達に誇示したいが故に、独特な奇声を上げて飛びかかってくるのだ。全くもって近所迷惑も甚だしい。
「クレイごおおおお━━━━━オッ!?」
そうやってアホどもを処理する中、いい加減怒りも限界に達していた俺は、とある変態をいつもの様にただ弾くやり方をやめ、顔面に義手の方の腕でアイアンクローを食らわせる。そうやって掴む力を強め、奴の頭がミシミシと悲鳴をあげる。
他の連中への見せしめも兼ねて俺はその男を殺す勢いで力いっぱい地面に叩きつけた。
「く・た・ば・れ・やアアアアアアアアアアアアッ!!」
ドガァアアンッ!!
男は地面の石畳のタイルが砕けるほど派手に地面に叩きつけられる。しかし勢いがありすぎてバウンドした男はそのまま一つの店へとダイブしていった。
……大丈夫か?殺す気だったとは言え、やり過ぎちまったか?
……ひょっとして本当に死んじまったか?
俺がそうやって今後の面倒事を心配するのも束の間。
「ちょっとちょっとぉ〜ッ!!なんなのよこれぇ~ッ!!」
男が飛び込んでめちゃくちゃになった店の中から、その店の従業員らしき人物が飛び出してきていた。
のだが……。
「げっ!?」
「うぅ?……あっ!みてみて!クリスタベル
そう、ナナキが言うように、店から出てきたそれは異様な格好をした男……いや
クリスタベル程では無いが、筋骨隆々とした巨漢に厚化粧、赤毛の髪をリボンてツインテールに纏め、服装がいわゆるゴシック系でフリルがたくさんついてフリッフリだ。しかもドレスの丈が合わずか、それともわざとなのか、太い筋肉の塊の足が見事に露出している。
まさか、クリスタベル以外にもこんな化け物がこの町に潜んていたとは……ブルックは見かけによらず魔境なのかもしれない。
「あ、お前は……」
「あら!ユエお姉様じゃありませんか」
「え?何ユエ。こいつのこと知ってんの?」
まるでユエが知り合いのように反応するものだから、俺は驚愕して聞き返す。話を聞くに、コイツは元々公衆の面前でユエに告白して文字通り
「あの時は、本当に愚かだったわん。ごめんなさいね? ユエお姉様……」
「ん、たった数日で見違えた。新しい人生、しっかり謳歌するといい」
ユエに激励?され感極まった様子のクリスタベル2Pことマリアベル。ここでハイお別れ!と行きたかったが話はそこで終わらなかった。
「あらあらぁ〜ん。これはなんの騒ぎかしらぁ〜ん。」
「あ!店長ぉ〜!」
今度こそ姿を現したのは、元祖漢女クリスタベル。
系列店であるマリアベルの店の様子を確認しに来たところだったらしい。
そんなクリスタベルに店の惨状について、マリアベルとユエが揃って事情を説明する。
「なぁ〜るほどねぇ。そういう事なら一方的にあなた達を責めるわけには行かないわねぇん。」
「そういう事だ。加害者はその阿呆で俺たちは被害者。責められるいわれなんて何一つ無ぇよ」
俺が強気にそう言うと、クリスタベルは一瞬含みのある笑みを浮かべたと思ったら、少し困ったように眉根を寄せて語りだした。
「そうねぇ〜。けれど実際、お店としても被害が出てるわけだし、ただで許すわけにもいかないのよねぇ〜。」
「……んだよ?弁償でもすればいいのか?」
その一瞬の笑みに、なんだか嫌な予感がした俺は、金で話を済ませてさっさとこの場から立ち去ろうと画策するが、そうは問屋が卸さなかった。
「そんなことをする必要がないわ。そういうのは実際の加害者であるそっちの坊やにさせればいいんだし。」
そう言って、足元で伸びているが生きてはいる男に指をさすクリスタベルは……。
「そ・れ・よ・りぃ〜♡」
続いて俺達に視線を向けると、身の毛もよだつ
「あなた達には、“衣装モデル”をやって貰いたいの。特に
まるで獲物を狩る前の獣のように、舌舐めずりをしたクリスタベルは、
「うぅ?」
「はぁ!?」
ナナキと俺の二人を指差しで指名した。
突然の提案に狼狽する俺達。これがただの衣装合わせなら俺もここまで声を上げて驚くことはない。
しかし、相手はあの漢女で
「ちょぉ〜っと少女趣味なんだけど、大丈夫よあなた達なら絶対に似合うと思うから!!」
それは案の定、あろう事かこのクリスタベルとか言う奴は、俺達兄弟二人に“女装”をさせようとしているのだ。
「待て待て待て!!ナナキはともかく俺もか!?どう考えても似合わないだろッ!!」
当然、そんな事はさせまいと俺は声を上げて抗議する。
「そもそもの話だ!俺はそんな物に応じるつもりはね無ぇぞ!!」
そうだ。確かに店は壊したが、それは阿呆群団の凶行が招いた結果。断じて俺に責任はない(←本人の意見です)。こんな馬鹿げた話にわざわざ付きやってやる必要はないんだ。
俺は毅然とした姿勢で拒絶の意思を示す。それに対してクリスタベルは、やれやれ仕方ない……と言うムカつく態度で追加の条件を提示してきた。
「それじゃあ……
徐ろにそう言ったクリスタベルは、自分の
「どっから出してんだてめぇ!!」
「このカード。『トランプ』って言ってお貴族様が賭け事をする時に使う物なの。お得意様の1人に唯で貰ったものなのよ〜。
これを使って一つゲームで勝負して決めましょう」
俺のツッコミをスルーして、クリスタベルは解説を続ける。
シュヴァルツァー・ペター
俺達の世界で言うところの『ババ抜き』だ。
全52枚のカードの中に『ババ』と呼ばれるカードを1枚紛れ込ませ、参加者に均等に配った手札から絵柄と数字が同じカードを2枚づつ揃えていき、最後に絵柄が揃わないババが残った一人が負けというルールのゲーム。
ゲームの内容も俺たちの世界と大差無いらしい。
「こっちは私とマリアちゃんの二人で、そっちはナナキくんとお兄さん、そしてあと一人を入れて三人で勝負をして、どっちかの陣営の誰かが最後にババを持っていた方の負け。
あなた達が勝てばお咎めなし、私たちが勝ったらお兄さんとナナキくんにはペアルックの衣装モデルをやってもらう。というのでどうかしら?」
いや、「どうかしら?」って、やるわけないだろう。何故被害者の俺たちがそんなリスクしか無い面倒くさいことをやらなきゃいけない。当然、突っぱねて終わり……そのはずだった。
「いや、断━━━
「やりましょう!」
「あ?おいシア。お前何を勝手に━━ッ」
「受けて立つ……ッ」
「ユエさん?」
「ババぬきやりたぁ〜い!」
「ナナキくぅ〜ん!?」
俺が変わらず拒否しようと声を上げた瞬間、それに被せる様に、ユエ達が食い気味に勝負を受けやがった。
ナナキはわかる。こいつはただ単に後先考えず遊びたいだけだ。だがユエとシアが前のめりな理由がわからない。
「それじゃあ決まりねん♡奥へどうぞ〜」
そうこうしているうちに、勝手に話が進もうとしている。クリスタベルはマリアベルを伴って店の奥へと入り、更に俺達を誘うように手招きをする。
「おいっちょっと待て俺は━━
「さぁさぁ行きましょうハジメさん!」
「私達は絶対負けないッ!だからハジメッ急ぐ……ッ」
「ばっばぬき〜♪ばっばぬき〜♪」
右腕をユエ、左腕をシアに掴まれ、背中をナナキに押された俺は、あれよあれよと店の奥へと連行される。
シアなんて身体強化まで使っている。ユエは兎も角、筋力で俺に勝る二人に本気で押され、引っ張られたら俺は抵抗する事ができない。
そのまま俺は、先の見えない真っ暗な
◇
そうして俺たちが連れてこられたのは店の地下。天井に吊るされた光る鉱石を光源にしたランタン一つだけが照らす小さめの机の上に所狭しと座った俺達。
部屋の隅には魔道具なのか、レコードプレーヤーのようなものが設置されていて、古い酒場や格式あるレストランで流れるようなシックな音楽が再生され嫌に雰囲気を醸し出している。
俺以外の全員が乗り気のため、最早今更この馬鹿げたゲームから降りることはできない。俺はせめてもの抵抗に条件をもう一つ追加した。
「いいか?俺達が勝ったら、二度と俺達に関わるな。」
「冷たいわねぇん。そもそもあなた達の勝利後の条件はこの件のお咎めが無くなること。それ以上を求めるのは欲張りってやつじゃないかしら?」
「うるせぇよ。それならこの勝負も無しってだけだ。俺達は予定を早めてこの町からトンズラすればいいだけだからな。」
「あら?それはまた豪胆ね?」
「やれないと思うか?俺達がその気になれば誰も追いつけない。」
そう言って俺は、右手からバチバチッと“瞬雷”を小さく放出して威圧する。しかしクリスタベルは全く応えた様子がない。
「怖いわねぇ……まぁ、構わないわそのくらい。その条件を呑みましょう。」
言葉とは裏腹に、静かに口元に笑みを作り余裕の表情だ。ったく豪胆なのはどっちだよ。
「と、言うことは。もしかしたらこのゲームが、私たちの最後の交流になるのかもね。そういう事なら楽しんでやりましょうか。」
「ばっばぬき〜♪」
そう言うクリスタベルに同調するように、ナナキは呑気に椅子をギシギシ言わせその体を揺すっている。
「それじゃあ、ババを入れてカードを切りましょうか?」
そう言ってアンティーク調の四角い陶器の皿にこれ見よがしに乗せられたババのカードが差し出される。いっちょいっちょ演出が凝っていて腹立つ。
そのババをマリアベルが手に取り、カードの山札に加えシャッフルをしようとした瞬間。
「待て……。」
俺は制止の声をあげる。
「念の為、カードを全て調べさせろ。それはお前らが用意したものだ。前もって細工なんてされてたら敵わんからな。」
「全くもうッ疑り深いんだからぁ〜。細かい男は嫌われちゃうわよん♡」
「そういうのいいからさっさと見せろ。」
「せっかちさんねぇ〜」
肩を竦めるマリアベルの差し出した手から、カードの山札をぶんどる。そうして全員に見えるようにカードを一枚一枚確認していく。
どうやら普段からあまり使われていないようで、ほぼ新品同然だ。折り目も無く傷も無い。背表紙の絵柄も全て同じで、カードの内容が分かるような細工は一切されていない。
カードに何の不正もないと確認後、俺はナナキに山札を差し出す。
「ナナキ、お前が切れ。しっかり切るんだぞ?」
「いいの?わぁ〜い!」
今、このゲームを純粋に楽しんでいるのはナナキただ一人だけだからな。今ゲームにおいて、ナナキはある意味じゃ一番公平な立ち位置にいる。
勝負を意識している俺たちだと、どうしてもお互いを疑ってかかってしまう。故に、この人選に関しては相手側も文句はないようで黙って見過ごしている。
ナナキは拙いながらも一生懸命に夢中でカードをシャッフルする。その手元を、俺は穴が空くように見つめる。
“
何も俺はただ馬鹿正直に不正を確認していたわけではない。カードの正確な順番を確認し、頭に入れていたのだ。
そして、“瞬光”で動体視力を引き上げ、ナナキがシャッフルするカードの入れ替わる順番を目で追っていた。
一流のマジシャンは指先の感覚だけで、山札の中のカードの位置を読み取れる事が出来るらしいが、俺はマジシャンではないので別方向から攻める。
何も、固有魔法を使っちゃダメなんてルールは無いからな。これは不正でも何でもない。
「できたぁ〜!」
「よし、それじゃあ2枚ずつ、俺から時計回りに配ってくれ」
「うんッ」
参加者は5人。時計回りで俺からユエ、クリスタベル、マリアベル、そしてナナキだ。
今回、シアは見学だ。シュヴァルツァー・ペター(以降ババ抜き)はそこまで難しいゲームではないが、シアよりもルールを理解しているユエが優先で選ばれた。
そして肝心のババの位置だが、当然しっかり把握している。このまま2枚ずつ順当に配られれば、クリスタベルの元にババが渡る。
クリスタベルからカードを引くのはユエだ。ユエは心理戦も強いだろうから、誤ってもババを引く心配はない。ユエという防波堤によりババは完封。クリスタベルの手元に留め置かれると言う訳だ。
(任せたぞユエッ)
俺はユエに目配せする。当然、ユエもこの流れについても“念話”でやりとりが済んでいる。ユエも「任せろ」と言うように静かに俺に頷き返した。
俺達の完璧なチームワーク(ナナキは除外)と信頼関係によって、このゲームの勝利を俺は確信していた。
だが……、
この時、俺はもっと考えるべきだったんだ。
なぜ、ユエとシアがこの勝負に乗り気だったのか?
ユエと俺、そしてナナキ。
クリスタベルとマリアベル。
なぜ、この様に同じ陣営の人間同士が、
この並びになったのはくじ引きの結果だが、同じ陣営同士が隣り合ったら仲間内で何か画策されるかもしれない。現に俺達もそうしている。
普通、そんなチームプレイができないように互いの陣営は交互に配置される。俺としては都合が良かったため、あえてスルーしていたんだが……。本来、くじで出た結果とは言え何かしら声が上がって然るべき所だ。
そのことに対して、
俺は都合が良いからと、全く突っこむ事をしなかった。
それらの
今思えば、
俺はこの瞬間から“
「さぁ〜て、始めましょうか?あなた達の
「おぉ〜ッ♪」
クリスタベルの物騒な開始の合図に、的外れに楽しそうな掛け声でナナキが元気に答える。
こうなる前に止められていたらと……
俺は今でも、後悔している。
次回、ハジメ、死す!デュエルスタンバイッ!
今回の茶番も、また長くなりそうだったので二本立てです。
次回は短く済みそうです。
今回、クレヨンしんちゃんの映画のネタを使わせていただきました。
二人のオネェさんに幼児の組み合わせときたら……
もうやるしかないッて思いました。
トータスにトランプがあるのか否かは軽く流していただきたいです。
あとFGOイベント始まったんでまた更新遅れるかも
インドラかっこいい〜