世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 前回のあらすじ

 オネェ二人組とババ抜きをすることになりました。

 以上!




第32話∶新たな旅立ち……の前にハジメ、負けられぬ戦い。❲選択へん❳

 

 

 「さぁ〜て、始めましょうか?あなた達の命運(じょそう)を賭けたゲームを♡」

 

 「おぉ〜ッ♪」

 

 ナナキの楽しげな掛け声とは対照的に、殺伐とした空気の中始まったババ抜き。

 絶対に勝たなきゃならない。じゃないと俺とナナキの尊厳が破壊されてしまう。

 故に、どんな汚い手も使おう。俺達が生き残るために……ッ。

 

 最初に、余分なカードを机の中央へ捨てていき、最終的に俺達の手札には4、5枚ののカードが残る。

 

 俺の手元には5枚、幸先は悪いがババが来る心配はかなり低い為心持ちとしては余裕がある。

 

 「ナナキ!ナナキからひきたぁ〜い!」

 

 「いいわよ〜ナナキくん。」

 

 元気よくぴょんぴょんと手を挙げ、己の手番を主張するナナキに快く了承するクリスタベル。

 

 「よしナナキ。俺から引け」

 

 そう言って俺はナナキにカードの背を向け差し出す。

 

 「うんと〜うんと〜」

 

 ナナキはしばらく逡巡後、1枚のカードを引くとパァッと表情を輝かせ2枚のカードを中央に捨てる。

 

 「そろったぁ〜!」

 

 「良くやったナナキ!」

 

 これでナナキの手札は3枚。中々良い切り出しだ。

 

 「ハジメ、次」

 

 「おう」

 

 次は俺がユエからカードを引く。

 

 「うっし!」

 

 俺も順調に絵柄を揃え、残り手札4枚になる。その後もユエ、クリスタベル、マリアベルと続き、1周目は全員が1枚ずつ手札を減らす結果となった。

 

 次、2周目ナナキの手番。ナナキが俺の手札からカードを引くも……

 

 「むぅ〜ッ」

 

 どうやら絵柄は揃わなかったらしく、ムスッと顔を顰める。

 かわいい。

 

 結果は3枚、進展なし。まぁ、そう一筋縄では行かない。

 

 次、俺もユエから引くが、無駄に手札を増やす結果になる。

 

 2周目の結果……。

 

 ナナキ3枚、俺4枚、ユエが減らして2枚、クリスタベル3枚、マリアベル3枚。

 

 3周目の結果……。

 

 ナナキが減らして2枚、俺4枚、ユエ2枚、クリスタベル3枚、マリアベル3枚。

 

 その後更に2、3周と膠着状態が続く。俺が中々揃わず最も枚数が多いという醜態を晒しているが、代わりにユエとナナキが手持ち2枚となり上がるまでもう少しとなる。

しかし、未だに上がる気配はない。

落ち着いた様子のユエと違い、ナナキはカードを引くたび落胆の表情になっている。

「はうぅッ!」とか「うぅ、おしいッ!」とか、いっちょいっちょ反応が可愛らしい。そんなナナキを後ろから見ているシアが励ましている。

 その様子を見て、この場にいる全員が和んでいる。

 俺は現在ドベなのでそんなに和む余裕はないのだが、

ナナキは俺からカードを引く。その為、真正面からしっかりその様子を確認し、脳内フォルダに抜かり無く記録することができるのだ。

 

 俺の眼には今「REC」の文字が爛々と浮かび上がっていることだろう。

 

 そうこうして、7周目に突入した時……。

 

 「はい、ハジメ」

 

 「おうッ」

 

 遂に、事態は動く……

 

 

 

 ……俺の望まぬ方向へッ

 

 

 

 「ッだ!?だにィイイッ!!?

 

 

 ユエから引いたカードそれは……

悪魔が道化の格好をしたイラストが描かれたもの……。

 

 「うぅ……?あ!あにぃババ(・・)ひいた!えっへへぇ〜どんまい♪」

 

 俺の大仰な反応にナナキがいたずらっ子の様に『ニシシッ』と反応する。

 

 そう、ババだ……。

 

 ナナキの言う通り、俺の手元には今ババがある。

 クリスタベルのところで止まっていたはずのババが、憎たらしい悪魔のニヤケ面でこちらを睥睨している。

 

 俺は混乱する。

 

 何故だ!?何んでババが?ユエの完封で、クリスタベルのとこから動かないはずのなのに……

 

 そのユエから、何で俺に回ってきたんだ!?。

 

 

 「どういう事だユエ!?」

 

 俺は信じられない事態に、つい席を立ち上がり慟哭する。しかし、それを受けたユエの反応は……

 

 「……どういう事……って?」

 

 と、素知らぬ顔で惚けきったものだった。

 

 俺は訝しむ。ユエにはしっかりと作戦を伝えてあるし、ユエがこういった駆け引きでそうそう遅れを取るなんて考えにくい。もし万が一遅れを取ったとして、ユエから何かしらの合図があって然るべきだ。なのにそう言った物は一切無く、ごく自然な流れで俺の元にババは流れて来た。

 一体どういうことなのかと逡巡していたその時、俺の脳内にキュピリリーンッ!!と稲妻っぽい何かが走る。

 バッと周囲を見渡し、そこに映る視界には……

 

 ニヤリと主張が強い真っ赤な唇が吊り上がったクリスタベルとマリアベル。

 そして、鼻息荒く血走ったぐるぐる目のシア(・・)に、クリスタベル達にそっと、そして邪悪に微笑みかけるユエ(・・)

 

 これらの光景が意味するところはたった一つ!!

 

 (ま、まさか……てめぇらグルかぁあああッ!!?)

 

 (心外ねぇ〜。利害の一致というやつよん♡)

 

 (そう、ハジメを裏切るのは不本意……でも、ハジメの女装(・・・・・・)は是が非でも見たいッッ!!)

 

 (ハジメさんの女装ハジメさんの女装ハジメの女装ハジメの女装ハジメの女装ハジメの女装ハジメの女装ハジメの女装ハジメの女装…………)

 

 (そもそも、先に結託しようとしていたのはそちらよ。反則をしちゃう悪い子は痛い目を見てもらわないといけないわよねぇ〜。

 さぁ!!今のあなたは孤立無援!!ナナキくんも、この場においては戦力外!!大人しく運命を受け入れ、私達に可愛らしい女装姿を晒すがいいわぁ〜ッ!!オォ〜ッホホホホホホ!!)

 

 (冗談じゃねぇ!!女装なんざしてたまるか!!

はっいいぜぇ〜?やってやんよ。こうなったら撤退的にだ……!!)

 

 俺は恨みがましい視線をナナキ以外の全員に放つ。

 

 (ユエ、シア……俺を裏切ったことを後悔させてやるぜッ

そしてオカマコンビてめぇらもだ!けちょんけちょんに負かして吠え面描かせてやる!!)

 

 (ん……望む所ッフリフリなものを着せてあげるッ)

 

 (私もぉ〜!ハジメさんにはキャピキャピな服を着せてやるですよぉ〜ッ!!)

 

 (シアは別に何もしてない……)

 

 (ふふ、威勢だけはいいようねん♡)

 

 (でもこの中でドベの貴方に、今更何ができると言うのかしらぁん!)

 

 (言ってろぉ……纏めてぶっ潰してやるよ)

 

 (フッフッフ〜)

 (うふふふふふ)

 (ムッフフフ〜)

 (うふっふふ〜)

 (クックックッ)

 

 そうやって、俺達が視線で(ニュー●イプな)やりとりをし、不適な笑みを漏らしている他所で……

 

 

 

 「……むぅ〜はやくとってよぉ〜」

 

 蚊帳の外にされたナナキは、

 手札のカードを引いてもらえず、机にもちゃ〜と突っ伏してぶー垂れていた。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 ユエ達が向こうに寝返ったとて、やる事は変わらない。

俺達は勝つ。ただ、勝利条件が変わらないのなら、ユエの裏切りは脅威となる。

 なんせユエは、わざと上がらないように立ち回ればいい。

あくまでこちら陣営であるユエに最後まで居座られたら、いくら俺とナナキが上がっても俺たちの敗北となってしまう。

 

 だったら、取れる手段は一つ。

 

 ユエにババが回らないようにしつつ、ユエを先に上がらせる

……だ!

 

 その為に俺はユエをこの盤上から突き落とすまで、このババを保持し続けなければならない。

 

 ユエを真っ先に吊り上げる。完全な運ゲーであり自分が上がることに注視しなければならないババ抜きにおいて、誰か個人を陥れるのではなく上がらせる(・・・・・)というのはほぼ不可能に近い。

 

 これが普通のババ抜きなら……な

 

 現在、ユエの手札は2枚。俺はユエからカードを引くから、実際ユエはあと1ペア揃えればこのゲームから退場させることができる。問題なのは、その最後の1ペアをユエが揃えるつもりが無いと言うこと。当然ユエがカードを引くマリアベルもグルであるから、何か合図を出してわざと合わないカードを引かせるなどして調節しているに違いない。

 そう思って二人の行動を注視しているが、目配せしている様子も、手札から特定のカードを飛び出させている素振りもない。当然何らかの魔法を使った形跡も感じられない。魔法を使ったイカサマはファンタジー世界の定番イカサマだが、そんな事をすれば俺がすぐに感づくことはユエも目に見えているだろう。

 それでもユエ達はイカサマをしている。それだけは間違いない。でなければ残り2枚になったのにこうも膠着している説明がつかない。ただ引き運が無いと言うだけじゃ説明がつかないレベルだ。

 

 証明できないイカサマ……悪魔の証明……か。

 

 だが先程も言ったが、これはもう普通のババ抜きでは無い。

 この盤上は最初から、権謀術数蠢く化かし合いの戦場。

 馬鹿正直にババ抜きをしてやる通りはない。だが周りが全て敵な以上、下手なイカサマはユエ達に付け入る隙を与えるだけ。

 ならば、イカサマをしなければいい(・・・・・・・・・・・・)

ユエ達がどんな手を使ってこようが、どんな小細工もまとめて捻り潰す最高の手がこちらにはある。

 

 俺の視線は自然に左へ(・・)動く。埃っぽい地下(・・・・・・)故に鼻をむずむずさせている弟……いや、このゲームで俺を勝利へ導く最高一手(・・)へと……。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 私はユエ。聡明な頭脳で華麗にイカサマをこなす女。

 

 今、私達はクリスタベル達の服屋の地下でゲームをしている。

ハジメの女装姿を勝ち取るための崇高なゲーム(ババ抜き)を……。

 私は左隣に視線を向ける。

 ハジメはその凛々しい顔を歪め、片手で頭をワシャワシャと掻き乱しながら手に持つカードとにらめっこをしている。その必死に抗おうとする姿が可愛らしくて思わずふふッと笑みが込み上げてくる。

 現在、ハジメのカードの所持枚数は4枚……。手札をゼロにしなければならないこのゲームにおいて、終盤に差し迫っている中、未だ私達の中で一番所持枚数が多いだけでなく、敗北の象徴『ババ』をも手にしている。

 

 勿論、そのように仕向けたのは私達。ハジメを裏切るのは本当に心苦しいけれど、ハジメの女装はどうしても見たい。ハジメはいつもかっこいい、だからこそ可愛い姿も見てみたいというのは恋人として当然の感情だ。

 

 そもそもの話……。

 

 以前から仕組んでいたのだ(・・・・・・・・・・・・)ハジメを女装させるこの計画は……。

 

 そう、あれはライセン大迷宮を攻略した次の日の事だ。

 

 

 私達は重力魔法の特訓の帰り道、クリスタベルとばったり遭遇する。クリスタベルはナナキに熱い視線を向けどうしても着せ替えをさせたそうにしていた。

 

 前回のことで、反省していた私達はクリスタベルは信用しているが、彼女のナナキへの対応に関しては警戒していた。さりげなくナナキをクリスタベルから隠すようにしようとした瞬間、クリスタベルから一つの提案を持ち出される。

 

 『ナナキちゃんとお兄さんのペアルック……見たくなぁい?』

 『『ちょー見たいッ!!』』

 

 私とシアは即答した。

 

 思い立ったが吉日。そこから巧妙な計画を立てていく私とクリスタベル。シアはナナキに計画を聞かれないように2人で観光に行かせた。決して、頭が足りないから戦力外としてのけ者にしたわけでは断じてない。

 

 まず始めに今回の作戦は、如何に怪しまれず、如何に自然な流れでハジメに女装をさせるかが重要となる。

 

 『美人局でいきましょう』

 

 『つつもたせ?』

 

 美人局(つつもたせ)、本来は男女間の性トラブルを利用して金をゆすり取る詐欺手口のことだが、

今回は“トラブル”と“ゆすり”の部分だけ活用する。

 私達がハジメのあずかり知らない場所で、クリスタベル本人またはクリスタベルの関係者に問題を起こし、そのお詫びとして穏便な条件でそのトラブルを解決する。

 

 そのお詫びにハジメの女装を要求しようというのだ。

 

 でも、

 

 『多分……それだけじゃハジメは応じないと思う。』

 

 ハジメは乱暴に見えるかもしれないけど、その心の奥底には恩は恩で、仇は仇でと義理堅い部分が見え隠れしている。その仇の部分が少し過剰と言うだけだ。

 それなら、私達がお世話になっているクリスタベル。そんな彼女相手だからちゃんと対応するとかと思うかもしれないけれどそうじゃない。

 

 ハジメは私も認めるほどの超の付くブラコン。

 

 クリスタベルのナナキへの行動は、幸か不幸かハジメがクリスタベルを最大限警戒させる一因となっている。下手すれば、義理も通理も関係ないと蹴っ飛ばし、そのまま私たちを連れて逃げ出す可能性がある。

 そうならない為に……

 

 『ナナキが……私達側の主張に付き合いたくなるような……遊びの要素を入れる。』

 

 ナナキを味方につければ、ハジメは応じるにしろ断るにしろクリスタベルの出す条件を一旦聞く他ない。ナナキがクリスタベルが言うことに少しでも興味を持ってしまえば、応じずともそれだけでハジメが断る時間を遅らせられる。そこからは私とシアがそれっぽいことを言って畳み掛ければ良い。

 

 『子供が楽しめるような遊び、ゲーム……一応、うちにはトランプがあるわよん』

 『なら、あまり難しくない、それでいてイカサマがしやすい……『ババ抜き(シュヴァルツァー・ペター)』とかいいかも』

 『席順とかも……

 

 こうして、着々と組み上がっていく計画の中で一番重要なのが、仲間内でのコミュニケーション方法。

 

 私と同じで“魔力感知”が使えるハジメとナナキの前で、下手に魔法を使用すれば容易にイカサマがバレてしまう。魔法でなくとも、用心深いハジメは私たちの一挙手一投足全てを見逃さない。目配せしただけで気取られる可能性もある。

 

 ならば、本来何の意味もなさない日常的な仕草に意味を持たせればいい

 

 伸びをする(A)、欠伸をする(2)、目をこする(3)、机に肘をつく(4)などなど、前もって私とクリスタベルの間で意味を共有し、それに合わせてクリスタベルが私の欲しいカードを手札の右から数えた順番の数字を仕草で伝える。

 

 前もって決めておいたから自然に見せる練習も万全。本番で気取られることもない完璧なイカサマの完成だ。唯一の懸念点として、この方法だと、私の手札が残り1枚にならないと実現不可能と言うこと。他にカードを持っていたら、仕草+カードの位置と、クリスタベルとのコミュニケーションの工程が一つ増えて、それだけでも、気取られる可能性が出てくる。

 故に私は、上がるか上がらないかの瀬戸際を保つ他ない。

 

 まぁでも、今のところ問題はない。最初、町に増えたバカどものせいで別行動を取りにくい状況に陥って焦ったけれど、ハジメから問題を起こしてくれたおかげで、こうして無事に私達は計画通りハジメ達をゲームに(いざな)うことに成功し、最後の詰めまで盤上を有利に動かすことができた。

 

 あとはマリアベルとクリスタベルが先にゲームを上がるまで、私はわざと上がらないように立ち回れば良いだけ

 

 さぁ諦めてハジメ、あなたに勝ち目はない。大人しく私に貴方の可愛らしい姿を拝ませて。

 

 揺るぎない勝利を確信し、私は再びハジメへと視線を向けた……

 

 その次の瞬間だった。

 

 バサァアッ

 

 ハジメが席を立ち、着ていた黒コートをスタイリッシュに翻しながら脱いでいた。

 それによって部屋中を舞う()に後ろにいるシアが少しむせる。

 

 「ケホッケホッ!いきなり何するんですかハジメさん!」

 「悪りぃな、ここ熱がこもってるだろ?暑くてかなわん。」

 

 そう言ってドカッと乱暴に椅子に座り直したハジメは左手で自分を仰ぐ。確かにこの部屋は地下で熱がこもりやすいけど、そんな大袈裟にするほど熱いわけではない。現に暑がりのナナキが平気そうにしてるくらいだ。

 一体どういうつもりで━━━

 「はぁ……ッ」

 ━━そう疑問を抱いたその時、

 「はぁ……ッ」

 ナナキから小さい声が漏れる。

 「はぁ……ッ」

 肩を大きく上下させ、鼻の穴をひくひくとさせ、右手が口元周りを行ったり来たりしている。

 

 くしゃみ……かな?この部屋はただでさえ埃っぽかったから、今のハジメの動きでナナキの鼻をくすぐったのだ……ろ……う…………ッ!?

 

 そこまで来て、私はようやく悟る。ハジメの狙いをッ!

 

 「しまッ━━━

 「はっくしょぉおんッ!!

 

 ナナキのくしゃみは突風となってこの狭い部屋に吹き荒れる。それだけじゃない。くしゃみの衝撃でナナキの尻尾が勝手に暴れて、捨てカードの山が集まっている机を空中へとかちあげる。

 

 それによって捨てられたカードが宙を舞う。それを、ハジメはの瞳は凝視していた。

 

 「あッごめんね!」

 

 ナナキは己がくしゃみが起こした惨状に咄嗟に謝罪する。

 ナナキは未だ、自分の身体能力の変化を自覚しきれていない為加減が効かない。くしゃみなどの反射的な行動を取る時はこの様にちょっとした惨事を起こす事もある。

 

 こういう時はちょっとした小言を言って終わるだけなのだが、今回は違った。

 ナナキの右隣から義手じゃない方のハジメの手が伸び、ナナキの頭をワシャワシャと撫でると、

 

 「気にすんなよナナキ。手札が吹き飛んだわけじゃないからゲームに支障はないし、生理現象なんだからしょうがねぇよ!」

 

 嬉しそうな顔と声(・・・・・・・・)で、そう話すハジメを見て、私は悔しげに下唇を噛み締めた。

 

 

  ◇

 

 

 見事、ナナキのくしゃみ大作戦捨て札を丸暗記(・・・・・・・)に成功した俺、南雲 ハジメは、無自覚な功労者たる弟ナナキの頭を撫でまくっていた。

 

 だが、空中に舞うカードの内容丸暗記という芸当は、流石に“瞬光”だけでは追いつかないため、俺はそこから“限界突破”をも発動させ、動体視力と記憶力を爆発的に引き上げた。相手の手札を覗く以外で、『見る』という行為はイカサマでも何でもない。長いゲームの時間、捨て札の内容丸暗記なんて記憶力が持つやつがいないから誰もやらないだけだ。

 だが、“限界突破”でブーストした“瞬光”を使った俺ならば話は違う。

 『私相手に使った技を何ババ抜き如きに使ってんだ!』

 っていうどっかの鉄屑ちびゴーレムが叫んでる気配を一瞬捉えるが、どうでもいいと切り捨てる。

 

 さて、何故俺が捨て札を丸暗記したのか?

 それは、今俺達の手元にあるカードの内容を絞り込むためだ。

 

 今、この場にあるカードは合計13枚。俺の手元のババを含めた4枚とを除外すれば合計9枚。十分狙いを絞り込める。

 ババを除けばこの場にあるカードは合計12枚だから、6ペアできる。そして俺の手元の3枚はすべて不揃いの(10)(4)(Q)がある。つまり、6ペア中3ペア、つまりこの場にある半分の数字を把握することが可能。

更に、捨て札達の中に存在してなかったカードを逆算すれば、自ずと残りの3ペアも(3)(9)(J)と炙り出せる。贅沢を言えば数字が同じペアが残っていてほしかったが、結果はすべてバラバラのペアだった。

あとは真剣衰弱だ。俺の手元のババを保持しつつ、ユエをこの壇上から排除するカードを選出する。

 

 現時点でユエの手札は2枚。俺の手札と被っている確率は三分の一……。1ペアずつ減らしていき、ユエが退場しやすいようにじわじわ追い詰めてやる。

 

 俺はユエの右のカードを引く。数字は………

 

 ………………(4)

 

 「うぉっしっ!!」

 「「「「ッ……」」」」

 「あ、あにぃがまきかえしてきたッ!む、むむむ」

 

 ナナキの純粋な焦りとは違い、ユエ達からは静かな緊張が走る。これで残り5ペア。そしてユエは手元にババがない以上、俺達陣営を負かすためには上がらないように立ち回る他無い。だがそれも、ペアが減れば取れる手段も限られてくる。

 そして、選択肢が減るということは……

 

 「どうしたぁユエ〜?さっきから(・・・・・)そんなに肩をさすってぇ(・・・・・・・)

 「ッ!」

 

 「この部屋そんなに寒いかぁ?なぁナナキ?お前はどう思う?」

 「うぅ?ううん……さむないよ。でもぽかぽかする〜」 

 「だよなぁ〜?俺なんてむしろちょっと暑いくらいだ」

 

 そう言いながら横目でユエと目線がかち合うと、ユエは見事に苦虫を噛み潰したような顔をする。

 これによって、俺が立てた仮説が正しかったことが証明される。

 ユエと、おそらくクリスタベルもだが、手札が少なくなり始めてから、同じ行動を繰り返すことが多くなっていった。日常生活の中でする何気ない仕草。それを暗号に昇華させたか……。てことはこいつら事前に計画をかなり入念に練ってやがったな?

 だが、その手はゲームが終盤になるにつれて露呈しやすくなる。

手札が少なくなれば取れる仕草も減り、さっき俺が見抜いた通り、同じ仕草を繰り返す羽目になってどうしても不自然に見えてくるからだ。そしてさっきから観察していて回ってくるカード数字とユエの行動を符合すれば、『肩を擦る』=(J)と導き出す事ができる。

 

 (J)は俺の手札に無いカード。つまりここでもユエが正解を引く確率は三分の一。クリスタベルの手札が三枚あるため、ここでユエを上げさせるにはまだ遠いがそのときは着々と迫っている。

 

 更に二周。ゲームは続き、俺の手札も2枚まで減った。勿論ババはまだ俺の手元にある。

 

 そしてユエがクリスタベルからカードを引こうとする。もう隠さなくなったのか堂々と合図の仕草、“頭をかく=(6)”を実行するも……

 

 「…………」

 「ッ!…………」

 

 クリスタベルは諦めたように静かに首を左右に振る。それは、もうユエの残留が不可能であることを表していた。

 

 渋々ユエはカードを引く。

 

 これにより、札が揃ったユエと手札がなくなったクリスタベルがクリアとなる。

 

 クリスタベルが上がって俺たち側が不利と普通なら思うかもしれないが、それは違う。クリスタベルとユエが退場したことでマリアベルは孤立し、連携ができず真っ当な運勝負を強いられることになる。

 

 だが、実際はそう成ることは無い。

 今この場にある残りカードは、俺2枚、マリアベル1枚、そしてナナキが2枚の合計5枚。そのすべての中身と位置をすべて網羅している俺はにとってこの盤上は俺の手のひらの上。運勝負とは名ばかり、一方的な蹂躙(ゲーム進行)が可能なのだ!

 マリアベルの揃うカードは俺の手元にしかない。マリアベルがナナキからカードを引いたとしても上がることはできない。

 俺はそのままナナキにババじゃないカードを渡し、マリアベルからナナキの手元に移ったそれとペアのカードをマリアベルから奪い、次の周でそれをナナキに手渡せば、あとは俺とマリアベルの一騎打ち。本来は二分の一の戦いだが、カードの位置を把握してる俺にとっては100%の戦い。俺達いや、俺の勝ちだ……!

 

 その事を理解しているからか、ユエ、クリスタベルとマリアベル、そして後ろで控えるシアは苦しい顔を見せる。シアなんて絶望の(orz)状態で「じょそ〜ッ!!」と掠れた声を漏らしている。

その様を見て、俺は自分の揺るがぬ勝利に浸っていた。ついついニヤケ面を晒してしまいそうなほどに。

 

 「フフッ(いかんっ待て待て、まだ落ち着けまだ笑う時じゃねぇぞ俺ッ気が早えぜッ)プックスス」

 

 そうやって俺が込み上げる笑いを堪らえようと口に手を当てていた時だった。

 

 「ぴゃぁあッ!!?

 「ん?」

 

 俺の左隣(・・)でふと、そんな可愛らしい悲鳴が上がる。

 

 そちらに、この場にいる全員が視線を向ける。

 

 するとそこには……

 

 「あ、あ、あ…………ッ」

 

 2枚(・・)の手札のうち1枚をかっ開いたうるうるの瞳で凝視して、口をパクパクさせて震える、ナナキの姿があった。

 

 ……?俺は訝しむ。

 急にこいつはどうしたんだ?

 何かおかしたことがあったのか?

 まぁひとまず、ナナキ。さっさとマリアベルにカードを引かせろ……って、マリアベルの手札は既に2枚(・・)……、

てぇことは、もうナナキからカードを引いた後か。なら次は俺からナナキが引く番だな。

ほらッナナキ早く引きな、そんな気持ちで俺は残り1枚(・・・・)、となった俺の手札。小生意気な(J(ジャック))の横顔が描かれたカード……を?

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 あり?俺の持ってたババは……どこだ?

 

 俺はもう一度、ナナキを見る。

 

 「あ、あ、あ…………ッ」

 

 さっきと変わらず、うるうるの瞳で手札を凝視して震えている。うん、カワイイ。

 俺はもう一度、自分の手札を確認する。

 

 (うん、(スペード)J(ジャック)だ。特に変化はな…………い……………………)

 

 そこで俺は、再びナナキへと視線を向ける。しかし今度は錆びついたブリキの人形のようにギギギッと覚束ない動きでだ。

 

 「あ、あ、あ………………ッ」

 

 変わらず、可愛らしい絶望顔を披露する弟の姿を捉え、俺はもう一度、自分の1枚だけとなった(・・・・・・・・)手札に視線を戻す。

 

 

 そうして気付く。俺の手元からババがナナキに移った事実に……。

 

 「「あ、あ、あ、あ………………ッ」」

 

 その瞬間、俺はナナキと表情、心情共にシンクロした。

 

 

 「「ぴぃやぁああぁぁあああッ!!」」

 

 そして絶叫した。

 

 そう、俺が目を離している隙にせっかちなナナキは、まだ引くよう言っていないにも関わらず俺の手札からあろうことか、ババを持っていってしまったのだ。

 

 ま、まままッままッまッまままて!落ち着けぇい俺!

 

 ただババがうっかりナナキに移っただけだ。まだだ、まだ勝負がついたわけじゃぁないッ!

 

 今の内訳は、俺が(J)1枚、ナナキが(ババ)と(3)、マリアベルが(J)と(3)だ。

 

 ならここは、俺が上がらないようマリアベルから(3)を奪い、マリアベルがナナキから何を引いても上がらない状況を維持し続ける。

 あとはマリアベルがナナキからババを引き当てるまで必死に粘り続ければいい。

ちょいと手間は増えるが、未だ俺たちの勝利は揺らぐことはな━━━━

 「あ〜ババ引いちゃいましたかナナちゃん。」

 

 突如、後ろに控えてたはずのシアがナナキの顔を覗き込むように前へ出る。

 

 「ん、こういう時は札をシャッフルすればいい(・・・・・・・・・・)。たった2枚だけど、やるとやらないとじゃ大きく違う。だって……

 ゲーム終盤までくれば、カードの中身を予想する人が出てくるかもしれないし……ね?

 

 「なッ!おいちょっ待━━━ッ!?」 

 「あッそっか!うおおおおおおおおッ!!」

 

 そう言ってユエとシアに諭されたナナキは、2枚のカードを目にも留まらぬ速さでシャッフルした。

 チィッ! ゲーム開始時のあの拙いシャッフルは何だったんだってくらいの早業だった。おかげで目で追う事もできなかった……っ!

 

 いや、俺にとって重要なのはマリアベルの方だ。マリアベルの手札さえ把握できていれば━━━

 

 「あら?それはいい案ね。なら私も、 

 はぁぁああああああああああああいッ!!」

 

 「……………………………………………………。」

 

 これで、全く先が見えなくなった。

 策もクソもない、完全な運ゲーへと逆戻りだ。

 

 「さ、引いて頂戴♡」

 

 凄みのある高速シャッフルを見せた後、ニタァッとした笑顔でこちらに2枚のカードを向けてくるマリアベル。

 

 「…………ハッ上等じゃねぇか」

 

 強気に口角を上げて言う俺はマリアベルの手札へと手を伸ばす。なぁに所詮は二分の一、ハズレを引くか当たりを引くかは五分五分。それなら俺は、必ず当たりを引き当てられる。

 

 俺は右へと手を伸ばす。だが、まだ取らない。

理由はマリアベルの表情を読み取る為だ。僅かでも表情や視線を動かしさえすれば……

 

 右「…………。」

 左「…………。」

 右「……………………。」

 左「……………………。」

 「いやん♡そんなに熱い視線でお顔ばかり見られ続けたらたら………恥ずかしいわん♡」

 「チィッ!」

 

 クソッこいつ、左右どっちに手を伸ばしても眉を同じように動かすばかりか……

 

 「ひょっとして……アタシに惚れたの?

 「阿呆かッ!」

 

 こんなバカなことを言ってくる始末だ。

 

 「ハジメ?」「ハジメさん?」

 「いや、違うってわかるよねぇ!?」

 

 ユエ達から、そんな瞳孔の開いた目で詰められるのを回避しつつ俺は思考する。 考えろッ……一か八か、行き当たりばったりは愚かな行為。考えることを止め、向こう見ずな行動を取るのは愚者がすることだ。

 俺は愚者ではなく賢者。俺は、俺の尊厳のために絶対に負けられない。

 

 だからこそ慎重にいく。頭を回す。ここでオレが上がることを回避すれば、たかが5枚のカード、また容易に中身を割り出せよう。

 今一番避けなければならないのは、俺がナナキよりも先に上がることだ。

ナナキはとてもわかりやすい。ナナキが最後に残りマリアベルと一騎打ちをすることになれば……

 

 ……それだけでゲームオーバーだ。

 

 故に、此処こそが山場にして正念場、運命の分岐点だ。

 

 俺は再びマリアベルのカードに手を向ける。

 

 さぁ、(3)はどっちだ?右か?それとも左?

 

 右……かと思えば左のような気もするし……

 左……かと思えば右のような気もする。

 

 右に見せかけた左のような気もすると思いきや左に見せかけた右の可能性も捨てきれないと思わせつつ右はブラフで左が真実というのはカマかけのようで右が正しく左が間違いとは見せかけで右が正解なんていうのは幻で左こそが真実━━━………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜1時間後

 

 ……━━いや待てよ、俺が右を取ると思わせて左を取るとコイツは思っているかも?いやいやあまり複雑に考えすぎるな!二者択一だ。YESかNOかNOかYES、男か女か女か男って事だ。

 俺は男だ。女装なんて絶対しない。この勝負……絶対勝つことを改めてここに誓おう━━……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に(・・)5時間後

 

 

 

 ……━━ラーメンは塩と豚骨を合わせた塩豚骨こそが至高の味と俺は思うが味噌豚骨もなかなか捨てきれないチョイスでそもそもラーメンと蕎麦どっちが食べたいかと考えるとやっぱり蕎麦な気分もしてきたようで温蕎麦かざる蕎麦かそれだったら今は冷たいものが欲しい気持ちだがそれでもあったかいものが食べたいと思ったりしているが━━ッ

 

 「早くして頂戴。もう日が暮れたわよ」

 「━━はっ!?」

 

 マリアベルのうんざりした様な声に俺の意識は覚醒する。どうやら、あまりに意識を深く潜らせすぎたことで全く関係のない事に思考が脱線していたようだ。

 

 周囲に目を向ければユエとクリスタベルが仲良く談笑し、シアはいつの間にか用意されていた椅子に腰掛けよだれを垂らしたアホ面で鼻提灯を膨らませている。ナナキも若干ウトウトしだしていた。

 

 まずい、時間をかけすぎたか……。俺は再びマリアベルのカードに向き直り、空中で止まっていた手を再始動させる。

 

 はぁ……はぁ……はぁ……ッ

 

 呼吸が荒い、目眩がする。

 ここまで緊張したのは、奈落で孤独に戦っていた時以来だ。

 

 

 はぁ……はぁ……はぁ……ッ

 

 

 俺は震える手で、マリアベルのカードを1枚の掴む。

 

 後は引き抜くだけ……

 これでもう、後戻りはできない……

 

 ゴクンッ と喉を鳴らした俺は慎重に掴んだカードをマリアベルの手から、遂に引き抜く。

 

 マリアベルの手からカードが1枚の減ると同時、俺の視界からカードに隠れて見えなかったマリアベルの口元が露わになる。

 

 

 

 

 ごつい男の、厚い唇に塗られた紅は……

 

 

 

 

 

 嫌らしく弘を描いていた

 

 

 

 

 ま……さか……

 

 俺は恐る恐る引いたカードを裏返す。描かれていた数字……否、描かれていた絵は……

 

 「(J(ジャッ………ク))…………」

 

 俺の手から揃った(・・・)2枚のカードが机の上に力無く落ちる。

 

 「あぁらぁんッこれでお兄さんはク・リ・アッねぇん♡」

 「ん……おめでとう。ハ・ジ・メ♡」

 

 これでクリア……。これが本来の普通のババ抜きなら喜ぶことができただろうが……

 

 「ッ………………………………」『チックショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!』

 

 俺は無音で慟哭する。右拳は白く、左拳は金属がきしみを上げるほど強く握りしめ、下唇を噛みちぎる勢いで食いしばった。

 

 何度も言うが、このババ抜きはチーム戦。オレだけが勝ち上がっても意味はない。素直すぎるナナキに大の大人のマリアベルに勝つことは不可能………

 

 ナナキの敗北=俺たちの敗北(じょそう)が確定するッ

 

 ユエとクリスタベルの俺への称賛の声が嫌味に聞こえる。めちゃくちゃ嬉しそうな顔しやがって……ッ!!

 

 …………いや、いいやまだだ!何を勝手に諦めている俺は!!

 可能性はほぼないに等しいが……まだ勝負はついていない以上、万が一、いや億が一ナナキが勝つ事ができる可能性はまだあ━━━━

 

 スッ「…………。」

 右「(⁠⁠≧⁠Д⁠≦⁠)」

 スッ「…………。」

 左「(*⁠⁠0▽⁠0*)☆」

 スッ「……………………。」

 右「( TДT )」

 スッ「……………………。」

 左「(⁠*⁠╹⁠▽⁠╹*⁠)キラキラ☆」

 

 うん、駄目だコレ。

 

 「ごめんなさいねぇ〜♡」スッ

 「あぁ〜!!」

 

 無慈悲にババではないカードを抜かれたナナキ。

 

 こうして俺達は、静かに敗北したのだった。

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 「あ〜負けた負けたぁ〜。いやぁ〜惜しかったなぁ〜ナナキ」

 

 数秒の静寂の後、俺は徐に声を上げる。

 

 「と、言うわけでこの話はこれでおしまい!」

 

 そう言ってパァンッと一発手締めする俺。

 こうなったら、すべて有耶無耶にしてさっさとここから退散するに限る。戦略的撤退、逃げるは恥だが役に立つと言うから、逃げる行為は決して悪いことでは無いのだ。

 

 「そんじゃ!俺たちはこれで━━「待ちなさいよぉん♡」ガシッ

 

 そうして出口へと振り返った時だった。踵を返す瞬間、俺の肩にとても重たい重圧がのしかかる。ギギギッと視線を向けると、俺の肩を血管の浮いたごつい腕でがっしりと掴んだクリスタベルと、遅れて俺の右腕にしがみつくユエの姿があった。

 どちらもとても爽やかな笑顔。だがその笑顔が、今の俺にはとても恐ろしく感じた。

 

 「ハ・ジ・メ♡」

 「や・く・そ・く♡」

 

 はぁ……ッはぁ……ッはぁ……ッはぁ……ッ

 

 自然と息の上がる俺は、なんとか逃げ道を探そうと視線を巡らせる。しかしその視界に映ったのは、いつの間にかマリアベルの手で用意されていたトルソーやら、ハンガーで吊るされた見て分かるほど大きいサイズの女性服(・・・・・・・・・・)と、子供服の数々。そして、これまた笑顔のシアに抱きかかえら(ほかくさ)れた、ナナキの姿だった。

 

 

 はぁ……ッはぁ……ッはぁ……ッはぁ……ッはぁ………ッ!

 

 「さぁハジメぇ。お着替え……しようッ!!」

 

 よ、よせ………………ッ

 

 「怖がることはないわぁ。最初はスースーして落ち着かないかもしれないけれどぉ〜」

 

 い、嫌だ……………………ッ

 

 「それが病みつきになるんですものぉ〜♡

 「や、やめッあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 ハジメとナナキが、まるで触手に絡め取られるように、

二人それぞれ試着室のカーテンの奥へ引きずり込まれた

約数時間後──……

 

 

 

 「「「「きゃぁあああん/////♡」」」」

 

 

 「くッこ……コロせぇ……」

 「うぅ…………?」

 

 ユエ達四人から、もう何度目かも分からない黄色い声援が上がる。

現在のハジメとナナキは、それぞれナナキが水色、ハジメがピンク色と色違いの服を着ていた。ハジメに至っては眼帯までピンクのハート型の物に変えられている。

 しかしハジメにとって、女装以前の問題がその服にはある。……いやそもそも、今の二人の姿は服と呼ぶには烏滸がましい、露出過多な(・・・・・)、ほぼ下着(・・)と形容できる姿になっていた。

 正確には、二人の姿は単純な下着姿とは言い難い。

 

 まず一つに、頭に付けられた水色とピンク、それぞれ色違いのリボンと刺繍があるホワイトブリム。

 肩紐から短い袖のように波打つフリル。

 そこに繋がるように、やんわり下の肌が見えるレース素材のキャミソールには、中心の白い部分の胸元に、細いリボンがあしらわれている。

 パンツと一体となった申し訳け程度の短いスカートには、前掛けエプロンのようなデザインが施されている。

 

 まるで給仕服と下着が一体になったようなこの姿を、人は……

 

 ランジェリーメイドと呼んだ。

 

 髪型もしっかりお揃いのツインテールにされており、そこそこ長いナナキはともかく、一般男性の平均的髪型のハジメは、無理やり引っ張って短い角みたいになっている。

 

 鼻息の荒いユエ(変態)()の衆目の中、ぽけーと座っているだけのナナキと違い、ハジメは今までに無いくらい顔を真っ赤にし、若干涙目になっている。

白い太腿の絶対領域に1本の線を走らせるガーターベルトは全ての男共の憧れであり、当然ハジメも大好物ではあるが、

まさか、自分が身に着けることになるとは全くの予想外であっただろう。

 せめてもの抵抗に、短くて心許ないスカートを必死に引っ張っている様はいっそ哀れに感じる。

 

 現在、ハジメ達の衣装は50着目を超えており、なぜか一着着替えるごとに露出度が増していっている。その事実に、ハジメの羞恥心は文字通り限界を突破していた。

 

 そんな、心中穏やかではないハジメの元に次なるリクエストが飛ぶ。

 

 

 「ハジメ!次は……」

 「これよぉ〜ん♡」

 

 そう言ったユエとクリスタベルの手に握られていたもの……

 

 それは、2枚の三角の布が、それぞれ三角の頂点を紐で繋いだものが一つと、1枚の細長い布の左右を紐が繋いで2つの輪っかの様になったもの………。

 

 それは、誰がどう見ても、

 

 マイクロビキニだった。

 

 

 「あぴゃ〜ッ」

 「ハジメッ!?ハジメエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」

 

 許容限界(キャパオーバー)で、妙な奇声と共にハジメは真っ白に燃え尽きた。

 よって不幸中の幸いか、その後すぐ解放される事が出来たのだった。

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 全てが終わってハジメ達が解放された時には、既に日は昇り出発の日時となっていたが……。

 

 精神的な疲労とダメージにより、ハジメ達一行……というよりハジメ個人は、予定を1日ズラす事にした。

 そして翌日。丸一日泥のように眠ったハジメが目を覚ましたとき、前日の記憶が全て不自然に消去または改竄されていたが、

 

 それはまた、別のお話……………。

 

 




 
 FGO10周年フェス
にたぁ
 やばかった〜。(語彙力w)

 そして石1000個!!?

 マジヤバくね!?と思いつつ、もう終わりも近いのかぁ〜と悲しくなっている今日この頃。
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