世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 今回、ナナキの新たな一面が……ッ!





第35話∶冒険者のみんなと一緒!ぶらり旅 その2

 

 ナナキの“メルヘンテロ”を何とかくぐり抜け、本日も野営の時間となった。

 気絶していた冒険者達は息を吹き返し、ユエも“自動再生”を再起動させ、シアは伸び切った自らのうさ耳を労り、ハジメはブルックの街で買っておいた軟膏を顔に塗りたくった。

 

 「ピース。きょうもいちにち…ありがとね!」

  ブルルッ

 

 野営の準備前、馬から降りたナナキは今日も1日乗せてくれた馬へお礼を言う。それに応えるように商隊の馬『ピース』も頭をナナキの元まで下げ、その小さな顔に鼻先を擦り付ける。

 

  ブルルッ!

 「ひゃぁううッ!くすぐったいぃ〜ッ」

 

 「ぐぼぉるしゃぁあ!!よし、俺達も野営の準備をするかユエ、シア」

 「その前に口元を拭ってくださいハジメさん。」

 

 またもメルヘンを喰らい吐血(幻覚)したハジメは何事もないように動こうとしたが、シアに手ぬぐいを差し出されると共にツッコまれる。※(幻覚)が見えてる時点でシアにも余裕は無いようだ。

 

 すると、ナナキの馬と戯れる様子を見ていた冒険者。今回の護衛隊のリーダーであるガリティマが、不思議そうな顔でナナキに問いかける。

 

 因みにガリティマは現在鼻に紙屑で栓をしていて、そこから若干血が滲み出ているのは御愛嬌……。

 

 「ところで坊主。その『ピース』ってのは自分でつけたのか?お節介かもしれないが、そいつは商隊の馬(・・・・)だ。勝手に名付けたら駄目だぞ?」

 

 そう、今回用意された馬のほとんどが商隊が所有している馬だ。勿論ギルドからも数頭貸し出されているが、その数はせいぜい2頭程。そして、ナナキが今回の旅で乗っているこの馬は商隊が所有しているものだ。

 1頭1頭の名前なんて冒険者側は把握していない。そして初日の出発前の騒動で、ナナキが商隊側に……と言うよりは商隊のリーダー、モットー個人にあまりいい思いを抱いていないのは明白。ナナキから商隊の人たちに関わりに行く場面はこの三日確認されていない。つまり、この『ピース』というのはナナキが勝手に付けた名前だとガリティマは判断していた。

 

 しかし、対するナナキからの返答はガリティマの予想外のものだった。ガリティマの問いを受け、ナナキはキョトンとした表情で「何を言ってるの?」と言いたげに首を傾げながら答える。

 

 「ちがうよ。……ピースはね……ちゃんとピースのなまえなんだよ?……ピースがおしえてくれたの(・・・・・・・・・・・)〜ッ」

 

 「え?……はい?」

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかったガリティマは思わず聞き返してしまったが……彼、南雲ナナキが幼い少年であることを思い出すと、子供特有の空想的な奴かぁと納得しようとした。

 

 その時、ガリティマの背後から声がかかる。

 

 「ほ、本当です。」

 「え?」

 

 現れたのは商隊のメンバーの若い男。男は恐る恐ると言った具合に口を開く。

 「……その馬の名前はピース(・・・)で間違い無いです。お、俺の記憶が正しければ、俺たちの誰も、その子に馬の名前を教えてないですよ……ッ。」

 「なん…ッ?!」

 

 男の語る事は、事実であれば驚くべきことだった。しかし、男は商隊の中でも最年少のメンバー。言うなればひよっこだ。そんな奴の言葉を軽々と鵜呑みにできるほどガリティマも愚かではない。しかし……

 

 「いえ、彼の言う事は本当です。我々の誰も、この旅が始まって以降かの少年に話しかけた者はおりません。」

 

 いつの間にか傍に近づいていたこの商隊のリーダー。モットー・ユンケルの訝しんだ表情で放たれたその一言で、その逃避も直ぐ様覆される。

 

 「更に言えばその馬、ピースは我々の所有する馬のなかで最も気位が高く、気性が荒い馬でした。

 彼らが真っ先にその馬を選んだときは慌てて別の馬を勧めようとしたのですが……その前に、ピースが過去類を見ないほど従順な態度で彼らに接していたので、一先ず問題は無かったのですが……」

 

 とても摩訶不思議な出来事にモットー自身もあまり納得いっていないようだ。

 ガリティマは益々訝しむ。それじゃあこの少年はどうやって馬の名前を把握したのだろうか?

 

 こちらの会話を気にもとめず、未だ馬とキャッキャウフフと戯れている少年を見る。とても小さな謎ではあるが、それがやけに不気味だった──

 「あぁ、ナナキは動物と話せる(・・・・・・)からな。本人も言ってた様に、普通に本人こと本馬に聞いたんじゃねぇの?」

 「ん……そう。」

 「ですねぇ〜。」

 

 「「「はえぇ?」」」

 

 とってもシリアスに戦慄していた3人の背後で、ハジメ達のあっさりとした種明かしの声が響く。

 

 「動物と……?」

 「話せる……?」

 

 「あぁ。」

 

 「「「…………ッ」」」

 

 だが、明かされた真実はそう簡単に受け入れられるものではなかった。

 

 「それは……あの子が、そういう技能を持っている……って事か?」

 「あぁ。言っておくが、あんま詮索はすんなよ。」

 

 「あ、あぁ。手の内を詮索しないのは冒険者のマナーだからな。」

 

 そう口では言ったガリティマだったが、正直な所詳しい話を知りたくて仕方がなかった。

 まず『動物と話せる技能』なんてそんな存在、見たことも聞いたこともない。それにもしその技能が本物ならば、その力が齎す恩恵は計り知れない。

 馬だけではない。今思えば今日の昼頃、あの鳥と戯れていたのもその技能の力だと考えたら………。

 

 「………ふむ。」

 

 ガリティマと同じ事を考えていたのか、モットーがピースと未だ戯れているナナキへ値踏みするような視線を向けていた。

 

 この数日後、ここにいるすべての人間が

 『動物と話せる技能』の真価を知ることとなる。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 さて、何はともあれ待ちに待った食事の時間である。

 

 と言っても、冒険者達の食事関係は自腹である。周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。別々に食べるのは暗黙のルールになっているようだ。これに関しては商隊とあまり折り合いの悪いナナキにとってはありがたい状況だ。

 そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだという。代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

 

 そんな話を、この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。──

 

 ──ハジメ達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら。

 

 「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

 「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」

 「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

 「な、なら、俺はユエちゃんだ! ユエちゃん、俺と食事に!」

 「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 「ナナキ君は噂通りの……いや噂以上の食べっぷりね」

 「あれだけの食料……一体あの小さくてかわいい体のどこに入るっていうの…ッ!!」

 「ナナキきゅんのフォーク……ッ」ごっくん

 

 うまうまとシアが調理したシチューモドキを次々と胃に収めていく冒険者達。

 

 

 初日の頃、彼等が定番の携帯食干し肉を食べている横で、普通に“宝物庫”から取り出した食器と材料を使い料理を始めたハジメ達。いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられていき、更には──

 

 『ハフハフッん〜〜ッ!!おいひぃ〜///!!』

 

 ナナキの心底幸せそうな食べっぷりを見て、全冒険者が涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になる。

 それに居心地の悪さを感じていたシアと、鬱陶しそうに眉間にシワを寄せるユエ。そんな2人の異変に気づいたナナキはふと周囲を見回し、冒険者達とばっちり目が合ってしまう。

 

 咄嗟に冒険者達は全員揃ってザザッと目を逸らすのだが、やはり食欲には抗えず次第にナナキ達の手に持つお椀に目が吸い寄せられる。

 ナナキはこちらを覗き見る冒険者達と自分の持つお椀を交互に見て、少しばかり逡巡すると何かを決心したように『うんッ』と頷き、トテトテと冒険者達の元へ駆け寄って恐る恐る自分の持つお椀を冒険者達に差し出す。

 

 そして、

 

 『いっしょに……たべる?』

 

 

 『『『『カッ────────』』』』

 

 

 

 冒険者達は死んだ───………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……──嘘だ。冒険者達は生きている。ただ尊すぎで消滅しかけただけである。

 その様子を見て、流石に見ていられなくなったシアが、ハジメにお裾分けの許可を貰い、今に至るという訳だ。

 

 それからというもの、冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、男共はことある毎にシアとユエを軽く口説き、女+(漢女予備軍)共はナナキを愛でるようになったのである。

 

 「で? 腹の中のもん、ぶちまけたいヤツは誰だ?」

 

 「「「「「調子に乗ってすんませんっ(すみませんで)したー」」」」」

 

 「うぅ?」

 

 ぎゃーぎゃー騒ぐ冒険者達へ滲み出る“威圧”と共にこぼれた一言で黙らせるハジメ。ハジメよりも年上でベテランな筈の冒険者達は見事なハモリとシンクロで美しい土下座を披露するのだった。そこにベテランの威厳は皆無である。

 

 「あにぃ?どうしておこってるの?」

 「そうですよハジメさん。せっかくの食事の時間なんですから、少し騒ぐくらいいいじゃないですか。ナナちゃんの教育にも悪いですし……そ、それに、誰がなんと言おうと、わ、私はハジメさんのものですよ?」

 「そんなことはどうでもいい」

 「はぅ!?」

 

 「あ、いや。ナナキの教育的云々は同意だな。気をつけよう………………それ以外はどうでもいい」

 「へぐぅ!?」

 

 はにかみながら、さりげなくハジメにアピールするシアだったが、ハジメの一言でばっさり切られる。その後直ぐ、わざわざナナキへの言及だけ取り上げて、自分の事は殊更スルーされてしまい、追い打ちのダメージがシアを襲う。

 そんなやや落ち込んだシアをなぜ落ち込んでいるのかよく分かっていないナナキが、「よ〜しよ〜し」と頭を撫でながら慰めていた。

 

 その後、ハジメがシアに対する態度に少しユエからお小言をもらったり、ナナキに慰められたからというのもあるが最近はあまりへこたれなくなったシアが、更に強気の姿勢を示し、ハジメへアタックしたりして、今夜も穏やかに夕食の時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 「♪~♪~」

 

 大体の者が食事を終え、ハジメとユエとついでにシアの仲睦まじい様子に『爆発してください!』と冒険者達が心中で声なき怨嗟を向けていた時。

 

 別の数名の冒険者が、クラリネットのような物、ウクレレのような物やハープのようなものを使い曲を奏で出す。

 

 今回の様な護衛任務の時、吟遊詩人や“奏楽師”の天職を持つ冒険者が、状況に応じて場を繋げたり、護衛対象をリラックスさせる為にこうして音楽を奏でたりするのだ。

 更に、“奏楽師”の奏でる音色には様々な効果を付与できるため、今回の場合は一定の強さ以下の魔物を寄せ付けない効果の乗った音色が奏でている。

 元々、この街道は大陸一の商業都市へのルート。十分に安全が確保されているものである為、普段からそこまで強い魔物は寄り付かない。そこへダメ押しの“奏楽師”の魔物避けの旋律だ。今夜()魔物一匹寄り付くことはないだろう。

 

 パチパチと焚き木の弾ける音と共に、北欧民謡やケルト音楽の様なファンダジーチックな曲が夜風に乗って鳴り響く。

 

 これぞファンダジー世界の冒険ッ!と言ったシチュエーションにハジメもややテンションが上がる。

 そして、ハジメ以上にハイテンションなのが彼……

 

 「♪~ッ♪~ッ!」

 

 ナナキくんである。

 

 これは、この依頼が始まった初日の話。その日の夜も今回のように吟遊詩人や“奏楽師”の冒険者達が旋律を奏でていた。

 

 その素敵かつ楽しげな旋律に、盛り上がるテンションを抑えられずナナキは曲に乗って踊り出したのだ。

 

 その事に関して特に文句を言う者はいない。むしろ大歓迎と言った雰囲気だった。

 彼等は想像していた。

 流れる旋律に合わせて、この愛らしく幼い少年は拙くも可愛らしい踊りを披露するのだろうと……

 

 しかし次の瞬間、ハジメとユエ以外の全員(・・・・・・・・・・・)が目を見開くことになる。

 

 『♪~ッ♪~ッ!』

 

 そこには確かなキレがあった。

 

     確かな技術があった。

 

 彼、南雲ナナキは普段のポヤポヤとした様子からは想像もつかないキレッキレの華麗なダンスを披露してみせたのだ。

 

 おとなしめなクラシックなダンスをベースにしたような動きながらも、その中にはヒップホップやブレイクダンスの様な躍動感のある激しい動きも盛り込まれている。

 そこに普段の幼さはない。視線運びや足捌き、手の動き、腰のうねり。そのすべてがとても卓越した技術。南雲ナナキ16歳、年相応の姿だった。

 

 

 『は、ハジメさんッ!あの子……いえあの方は本当にナナキさん(・・・・・)なんですか!?』

 

 あまりの豹変ぶりにシアもナナちゃん呼びじゃなくナナキさん呼びになってしまう。

 

 『あ?何言ってやがる。どっからどう見てもナナキだろうがよ』

 『ハジメ。シアの反応も無理はない……。私も初見なら一瞬疑っちゃう。』

 

 またもハジメ(面倒くさいブラコン)がキレかかるのをユエが落ち着いた声で制止する。そして言われてみればと冷静になったハジメはシアに説明する。

 

 『ナナキは地球にいた頃、ダンス教室に通ってたんだよ。昔っから(・・・・)踊ることが好きらしく(・・・)ってな。でっかいコンテストで優勝したこともあんだぜ。』

 

 ナナキは障害により幼く見えるだけで実年齢は16歳。そして2つの障害のうち、脳に負った障害のせいで周囲からは何もできない子のように思われるかもしれない。

 だが実際は違う。

 

 好きこそものの上手なれ、ナナキは昔から歌と踊りが食べることと同じくらいに大好きだった。よってその2つの分野において彼は無類の才能を発揮したのだ。

 後にハジメは『身内贔屓無しで見ても、プロ並みの実力はあると思う』と供述している。ブラコンが言う事なので『身内贔屓無し』の部分がやや信頼に欠けるが……

 

 『す……すごすぎですぅ〜』

 

 実際これだけの人間を魅了している為、あながち間違っていないのだろう。

 なんと言っても、彼のダンスには……

 

 “楽しい!!”という感情が溢れんばかりにのっていた。

 

 清らかに輝く汗の玉を飛ばす顔は、焚き木に照らされ更にキラキラと輝いていた。

 

 一瞬、周囲の冒険者同様魅せられ、演奏がやや疎かになっていたていた音楽隊は、こんな良いものを見せられて応えない訳にはいかない!と冒険者の前に音楽家として、同じ表現者として影響された彼等の演奏のギアが上がる。

 緩やかな曲はハイテンポに、穏やかな旋律はより激しさを増す。

 それにナナキも呼応しヒートアップ。焚き木を中心としたドーナツ状の舞台(空き空間)をいっぱいに使い躍動する。バク転、回転跳び、更には魔法まで使い地面を凍らせスケートリンクを作り出す。その上を華麗に滑ってトリプルアクセル!!

 ……何気にアイススケートという新たな才能を開花させた瞬間だった。

 曲の終わりに、器用に氷の大地を一瞬で消滅させその場で綺麗に静止。残心の後恭しく冒険者(観客達)へとお辞儀をする。

 

 『うおおおおおおッ!!

 

 次の瞬間、割れんばかりの歓声が辺りに木霊した。

 

 『ぶらぁああああああぼぉおおおおお!!』

 『素敵よナナキきゅん!!』

 『感動したぁ!!』

 『抱いてぇえええ!!』

 『おいッ!誰だ今『抱いて』って言った奴!男の声だったぞブッ殺す!!』

 『お、落ち着いてくださいハジメさん!!』

 『んーーー!』

 

 突然の歓声にナナキは驚いたが、恥ずかしがりながらもちょっと嬉しくなって

 『……へへッ』

 

 と、いつものへにゃっとした笑顔を見せる。先程の大人びた様子は一瞬で消え去り、幼く可愛らしい少年の笑顔。

 その笑顔を見て一同は『『『あ、やっぱりナナキきゅんなんだなぁ』』』とおかしな話、今更ながらに実感していた。

 

 

 

 と、言うことがあり、あれからナナキと冒険者音楽隊のデュエットによる音楽会は毎晩の様に執り行われていた。

 当然、そればかりにかまけておらず、夜の見張りも怠っていない。

 しかし、必然ながら見張りの者はナナキのダンスを見ることができない。見張り当番となったものは目から熱い汗を流していた。

 これも仕事だから仕方がない。世の中は世知辛いのである。

 

 閑話休題

 

 いよいよ本日のショーがスタートする。トテトテとステージ(空き地)へと駆け寄るナナキ。音楽隊が目配せをし、カウントの後に曲が始まる。と同時にステージへ立つナナキの雰囲気が一気に様変わりする。

 先ほどまでの幼気な可愛さは鳴りを潜め、年相応に大人びだ凛々しさを醸し出す。

 どうやら本日の曲は地球で言うフラメンコの様な曲調で、ナナキの踊りはタップダンスを主軸としたもののようだ。普段ののっそりしたナナキからは想像もつかない『タタタタタッ』という素早い足捌き。途轍もないギャップである。

 勿論足捌きだけではない。滑らかにくねらせる腰使い、ぐるぐると回転してもブレない体軸。

 手の表現や、目線運び、ナナキ元来の美貌や今回の曲調も相まってどこか艶めかしい雰囲気を纏っている。

 ギャラリーも盛り上げを見せ、合いの手を入れたり、指笛を吹く者もいる。

 そしてやはり焚き木を背にして踊るナナキは、心底楽しそうに笑顔を輝かせていた。

 

 そうして、フラメンコ風の曲が終わる。

 本日もお開きかぁ〜と名残惜しさと満足感の入り混じった感覚を覚えながらも就寝の準備にはいろうとするギャラリー。

 

 だが突如、

 

 『パンッ!!』

 

 という何か破裂したような音に、一斉にステージへ視線を戻す。その先には、天に両手を合わせた状態のナナキが映る。

 ナナキはその手を開きもう一度打ち合わせる。

 

 『パンッ!!』

 

 どうやら、先程の破裂したような音はナナキの手拍子だったようだ。

 

 『パンッ パンッ パンッ パンッ !!』

 

 そのまま手拍子が続けざまに鳴り響き、ただの手拍子はいつの間にかリズムを刻み始める。

 

 『パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ!!』

   「「「パンッ パンッ パンッ パンッ!!」」」

 

 次第に、ハジメ、ユエ、シアも一緒になって手拍子をたき始め、その3人に触発された様にこの場にいる全員に伝播していく。

 

 『「「「パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ!!!」」」』

 

 またたく間に、全体から響く手拍子。楽しげな手拍子のリズムに乗りに乗ったギャラリー。会場のボルテージが最高潮に上がった時、

 

 『パァァアンッ!!

 

 ナナキが一際大きな手拍子を叩くと、ギャラリーに向かって指を差し、大きく声を張り上げる。

 

 「Everybody〜ッ Here we go!!

 

 まるでナナキの口から出たとは思えない流暢な英語と共に、ナナキの後ろの音楽隊から明るく激しい旋律が鳴り響く。

 

 一人「Yeah!!」と叫ぶハジメ以外、英語の分からないトータス組は一瞬「??」となったが、そんなもの匙だと言わんばかりに盛り上がる。

 

 ポップで激しい曲に合わせて、ナナキがホップ・ステップ・ジャンプと跳ね回る。先程の曲と違い普段の幼く、可愛く、元気なナナキらしい曲調だ。

 

 そんな楽しげな音楽に誘われたのか、新たな観客がその場に訪れる。

 森の茂みから、チュンチュン、キュッキュと小鳥やリスに似た小動物。更には鹿や熊と言った大きな動物まで、突然の事態に見張りの冒険者が構えようとしたが、

 

 「おいで〜!いっしょにおどろぉ〜!」

 

 と、ナナキが呼びかけた事で森から出てきたすべての動物達がナナキの元に駆け寄ってくる。

 

 鳥はナナキの頭上を囀りながら舞い、

 リスはナナキの肩によじ登る個体、足元をちょろちょろと走り回る個体。それぞれ楽しそうに走り回る。

 鹿は前足を上げ大きく体を揺さぶり、熊は傍に座り手拍子を打つ。

 最早その場はお祭り騒ぎと化していた。

 

 

 鳴り響く音楽、動物達と共に跳ねて回って踊り歌う弟。それら全てを焚き木の優しくも温かな光が照らす。

 

 この光景を見て、このとても危険な命の軽い世界でも……

 

 弟が楽しく満喫している姿に、ハジメは満足と共に何処か安心する気持ちになっていた。

 

 ふと、そんなハジメ達の元に今夜のスター、ナナキがニコニコ笑顔で駆け寄ってくると、ハジメ、ユエ、シアの手をそれぞれ取って引っ張り上げてくる。

 

 「え?ちょ!」

 「ナナキ?」「ナナちゃ…いえナナキさん!?」

 

 突然の出来事に三者三様に驚くハジメ達。あれよあれよとステージへと連れてこられてしまう。

 

 「おい急にどうしたナナキ──

 「あにぃたちも……いっしょにおどろ!」

 

 「「「はい!?」」」

 

 ナナキの突拍子も無い言葉にまたまた驚愕する3人。

 

 「おおっ!いいぞぉ〜!!」

 「ユエちゃんのぉ〜ッ華麗なダンスが見てみたいッ」

 「シ、シアちゃんのたわわが……ブルンブル──」

 

 「あ”ぁッ?」

 

 「「「シュン…………。」」」

 

 ハジメ達も、と言うよりはユエとシアも踊るのかも…ッと言う期待に更に盛り上がった観客をハジメの鋭い眼光が射抜く。折角の盛り上がりを冷ましてしまったのはやや反省だが、そんな事はどうでもいい。

 現状最も重要なのは、この状況をどうくぐり抜けるかだ。

 

 ハジメ達も別に踊りたくないわけではない。寧ろかわいい弟からの誘いだ。乗らない訳がない。無いのだが、如何せんこの衆目の中だ……どうしても羞恥心が先に出てきてしまう。

 

 だが……

 

 「?あにぃ、ユエあねぇ、シア……」

 

 しかし……

 

 「お、おどって……くれないのぉ?」

 

 それでも……

 

 「うぅ……」ぐすんッ

 

 

 「ッ…………ちっきしょおおおおお!!あぁいいよ!わぁったよ!踊りゃあいんだろッ踊ればよぉ〜!!」

 「こうなりゃ焼けです!やったるでぇ〜す!!」

 「んッ……一緒に踊ろ?ナナキ」

 

 ナナキの泣きそうな上目遣いに秒で陥落した最強集団ハジメ達。

 一人は渋々、一人は気合いっぱいに、一人は優しく、弟の誘いを受け入れた。

 

 「ッ!!」パァァ☆

 

 ハジメ達に了承を得たことで今にも大泣きしそうだった顔は一瞬で心底嬉しそうな輝く笑顔へと一変する。

 当然演技ではないと分かっていても目を見張る立ち直りの早さである。

 

 こうして始まったハジメ達3人を加えた4人のダンス。

 

 それは見事にバラッバラだった。

 

 曲に合わせて天才的な感性とセンスで自由気ままに踊るナナキ。

 元王族の経験により、優雅に華麗に踊るユエ。

 元来の身体能力の高さと動体視力により、ナナキとユエの動きを見様見真似で真似て、ややガタつきながらもそれなりの動きになっているシア。

 

 ここまではいい、自由なナナキとぎこちないシアをユエがうまい具合にフォローし一種の連帯感のような物が出ていて観客達も再び盛り上がり始める。

 

 しかし……

 

 「おい、あれ……」

 「しっ!指摘すんなッ殺されるぞ!」

 

 最後のハジメは、とても見られたものではなかった。例えるなら油の差さっていないブリキの人形。……いやあれはあれで芸術的な魅力がある。ハジメの動きはそんな生ぬるいものじゃない。

 

 どこか苦しみ藻掻くような、溺死しそうな人……いやそれよりももっと酷い、例えるのならそう!エクソシストに悪魔祓いをされている人のようなとても悲惨なものだった。

 

 観客達は頑なにハジメの方へ視線を向けない。いや、向けられない(・・・・・・)。下手に視界に収めてしまえば、何かしら反応をしなければならない。そして反応したその瞬間、どんな目に遭うかなど火を見るより明らかだからだ。故に冒険達はハジメを視界に入れないよう必死であった。

 

 その気遣い事態にこそ、ハジメは苛ついたのだが……。

 弟と、恋人の楽しそうにしている空気を壊してまでこの怒りを発散しようとは思わなかった。(ついでにシアも)

 ハジメは大人の対応をした。

 

 「あっ今ユエちゃんのパンツが見えぎゃああああああすッ!!

 

 ……どの世界にも馬鹿はいるものである。

 

 その馬鹿な冒険者の記憶を飛ばす作業を、秘密裏に済ませるためハジメが選んだのは“指弾”。

 踊りながら流れるように地面の小石を拾い、そのままその冒険者の眉間へと礫をはじき飛ばしたのだ。当然手加減はしている。本気でやれば冒険者の眉間に風穴が空きかねない。

 最後に忘れず、他の冒険者達へ『何も見なかったなッ?』と“威圧”を飛ばして証拠隠滅だ。冒険者達は皆赤ベコのように首を縦に振りまくっていた。

 

 これによってナナキに気づかれず、楽しい空間を維持させることに成功したハジメ。

 しかし、ふと冷静になって見たハジメは自分のダンスの恐るべき下手さに辟易する。これはちょっとまずいな と……。

それに比べ優雅に舞うユエ達を見て、次機会があれば、ユエをエスコートできるくらいには踊をマスターしておこうと、ハジメはそう決意した。

 

 

 そうして、楽器と笑顔と歌声が絶えない中……

 

          今日も夜は更けていく……。

 

 





 おまけ話《因果応報》

 これは、ちょっとだけ未来の話。

 ハジメ「ナナキ。俺にダンスを教えてくれぃ!!」

 数日前の強制ダンスによって、自分の踊下手を実感したハジメはダンスの天才、自らの愛する弟 南雲ナナキへと土下座する勢いで頼み込んでいた。

 ナナキ「……ッ!!いいよ!あにぃ!ナナキにまかせて!!」

 ナナキはとても喜んだ。自分は大好きな兄や姉達に何もしてあげられないと思っていたのに、その兄自ら自分を頼りにしてくれた事に。それが一番得意なダンスの事となれば一層やる気がみなぎる。ナナキはその小さな体を目一杯反ってえっへん胸を張る。

 ハジメもそれを見て「おぉ頼もしいぜ!」と声を上げる。


 しかし、ハジメは分かっていなかった。

 己の踊りの下手レベルが、本人の予想以上に致命的であったことを……

 そして、ハジメは忘れていた。

 ナナキが誰かを指導すると、どうなるかを……

 そう仕向けたのが……自分であることを………




 〜数分後〜



 ハジメ→イカリ狂った鶏が喚き散らすような動き

 ナナキ「…………………。」←(真顔)

 ハジメ→イカれた原住民族のイカれた儀式のような舞

 ナナキ「…………………。」←(絶望顔)

 ハジメ→強風に吹かれ、腰が折れたように振り回される案山子のような動き

 ナナキ「…………………。」←(顔を両手で覆う)

 ハジメ→まな板の上で内臓を引きずり出された魚のような動き

 ナナキ「…………………。」←(再び真顔)

 ハジメ→死にかけのヤックルのような動き

 ナナキ「…………………ッ。」←(何かを決意したように頷く)

 ハジメ→アルパカの下手な求愛のような動き
 
 ナナキ「…………………。」←(簡易宝物庫から何か(・・)を取り出し、それを頭に巻き付ける。)

 ハジメ→荒ぶる鷹のポー『バシィイイイイン!!
    「へぶぅううううっ!?」


 突如、ハジメの顔面にナナキの尻尾ムチが炸裂する。

 ハジメ「な、何だナナキ!いきな──『バシィイイイイン!!』ぶべらっ!!?」

 急な事に堪らずハジメが聞き返そうとするも間髪入れず、先程とは反対の頬に再びナナキの尻尾ムチが叩き込まれる。

 ナナキ?「だれが……かってにしゃべっていいっていったの?」

 ハジメ「な……ナナキ?」

 ナナキ?「へんじ……ちゃんとして……この──」

 ハジメ「い、いや……おまえは……ッ!」

 “おにナナキ”「──“ピー”さんッ」


 ハジメの目の前にいたのはナナキに非ず……。
 『おに』と書かれたはちまきを頭に巻き、つぶらな瞳から光が消えうせた……

  “おにナナキ”くんだったのだ!!

 ハジメ「お、落ち着けおにナナキ…、は、話せばわかるッ何もそこまでするこったねぇだr──『バシィイイイイン!!』──おぐぅうううッ!!?」

 おにナナキ「だから……だれが……しゃべっていいっていたの?」

 今度はハジメの顎をかち上げるように振り上げられた尻尾ムチ。ハジメが反論する暇を与えるつもりがないのか、ナナキは続けて淡々と語り出す。

 おにナナキ「“ピー”さんがちゃんとおどり、できるようになるまで、ごはんたべちゃだめだよ?“ピー”さんがちゃんとおどり、できるようになるまで、おふろにはいっちゃだめなんだよ?“ピー”さんがちゃんとおどり、できるようになるまで、おねんねもしちゃだめなんだよ。」

 ハジメ「わ、わかったわかったから、ちょっと落ち着いて俺の話を聞け……こんなおまけ話で(メタ)そんなシリアス醸し出してどうすんだよ!もっとフラットでいいからこういうのは!てか、そんな汚い言葉何処で覚えてきたんだ!そんな悪いい言葉使っちゃいけませ──『バシィイイイイン!』──ぴぎぃいいイイイ!!」
 
 おにナナキ「いいわけなんてきかない、くちごたえなんていわせない、でもだいじょ〜ぶだよ。あに……まちがえた“ピー”さんがちゃんとおどり、できるようになるまで、ナナキがずっといっしょにいてあげるからね?
 だいじょ〜ぶだからね?」

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  。
 



 それからしばらく、ハジメはナナキのスパルタダンスレッスンを三日三晩、不眠不休で受けることになった。

 ここだけの話、最初はユエに教えてもらおうと考えていたハジメだったのだが、いつの間にか踊れるようになってたほうがかっこいいと打算的な考えをしたハジメは、今回ナナキへ尋ねることにしたことが……今では「……素直にユエに頼めばよかった……」と後に語っていたという……。

 まぁぶっちゃけ、ナナキにハー●マン式指導法を伝授したハジメの、自業自得……因果応報であった。

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