世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 ナナキ君好感度調査パート1

 ①ハジメ←あにぃ、大好き

 ②雫  ←飴くれる、好き

 ③香織 ←グイグイ来る、苦手

 ④愛子 ←優しい、友達



第3話∶初めての交流会

 

 今日でハジメ達が異世界に来て2週間となる。そんな異世界に来て14回目の朝に、少年南雲ナナキは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「びえええええええええええええええん!!

 

 盛大にぐずっていた!!

 

 

 

 時は少し前に遡る〜

 

 ここは異世界ハイリヒ王国内でハジメ達、神の使徒に用意された食堂。朝食を食べに来た南雲ハジメは今日はちょっとご機嫌斜めなな弟、南雲ナナキをおんぶで食堂に入室した。

 

 最初は寝起きでちょっとグズっているものとハジメは考えていた。だが朝食を食べ始めた頃、若干おねむだったナナキが完全に覚醒し、キョトンと周りを一望する。

 

 ハジメには他意はなかった。ただいつも己の母が弟にやっているようにおふざけのつもりでやったのだ。

 

 「お…、おはよう、ねぼすけさんッ」

 

 そう声を弾ませ、その顔にあるこぶりな鼻の頭を人差し指でちょんと弾く。少し恥ずかしくて顔が赤かったのは御愛嬌。

 

 次の瞬間、ナナキのこぼれんばかりに開かれた両目にうるうると水分が溜まっていき……、決壊した。

 

 

 

 

 

 

 「びえええええええええええええん!!

 

 そして冒頭に戻る。

 

 今現在多くの人間がハジメの席に殺到していた。

 

 「ちょっと南雲君!!ナナちゃん何にしたの!!」

 

 「そうだそうだ!!よくも鈴の妹を!!」

 

 「鈴ちゃんそれ違う」

 

 「南雲君ッ!!いったいどうしたんですかぁ!!」

 

 「お、落ち着いてください!!僕はただいつもの朝の挨拶を、ローカルカルチャー的なことをしただけで!!」

 

 食堂は混沌と化したいた。収集のつかない事態に幸いにもナナキ本人から事の原因を告げられる。

 

 「ちちぃ〜〜〜ッ!!ははぁ〜〜〜ッ!!

 

 その言葉を聞いた全員が停止する。そう、彼は所謂ホームシックに陥っていた。

 

 それもそうだろう。彼の精神年齢は幼稚園児のそれである。彼が生きてきた人生で、これだけの長い期間親元を離れたことなど初めての経験(祖父母の家は例外)。先ほどのハジメのお巫山戯が、気持ちのタガを崩すきっかけとなってしまう。ぐずり出すのはもはや必然であったのだ。

 

 そして彼のこの慟哭とも言える泣き声は測らずも、生徒たち、更には愛子の心にも大きなダメージを与えた。

 

 高校生。義務教育から開放され、ある程度自己の自由が認められ始める年齢。家庭によっては一人暮らしを始めるものもいるだろう。

 そして、そんな彼らの中には当然”反抗期“を患っている者たちも存在する。「親なんてうざい」「煩わしい」と感じ始める。誰もが通る道である。そんな彼らでさえ、南雲ナナキの叫びは響いた。

 

 誰もが思った、家に帰りたいと……

 

 誰もが、感情の坩堝に飲まれかけそうになった時。

 

 ふわっと、彼を抱きしめる感触があった。

 

 「うん、そうだよねぇ会いたいよね。お父さんとお母さんに」

 

 「うぅ?」

 

 「香織……」

 

 白崎香織、彼女がナナキを後ろから抱きしめていた。温かな日だまりのように、慈愛に満ちた聖母のように。

 

 「ナナキ君がさみしい気持ち、私もわかるよ。私もふたりに会いたい。でも今はどうしようも出来ないから。私達が側にいるよ。お父さんとお母さんの代わりにわなれないけど……辛くなったら私達を頼ってね」

 

 そう優しく語りかけた次の瞬間

 

 「やっ!

 

 「きゃうっ!?」

 

 「「「あ~あ、やると思った」」」

 

 ナナキはそのステータスに物を言わせ白崎の抱擁を跳ね除けた。しかし、周りの誰もこのような結果になるのを驚いていないどころか、同然の結果であるように冷めた目で彼女を見つめていた。

 

 「だから香織、がっつきすぎなのよ貴方は……はぁ〜何ですぐ抱きつきにいちゃうのかしら」

 

 「うぅ〜今度は上手くいくと思ったのにぃ〜何でぇ〜」

 

 

 実はこのようなやり取りは初めてではない。これを見ている方はおわかりだろうが、白崎香織、彼女は南雲ハジメに恋慕の感情を抱いている。地球にいた頃から様々なアプローチを仕掛けてきた。

 そんな彼女が想い人の弟と仲良くなりたいと思うのはこれまた必然であろう。

 

 ことあるごとに抱きしめようとしたり、撫で回そうとしたり、雫の真似事で餌付けをしようとしたが、あまりにグイグイ来る彼女に南雲ナナキは苦手意識を持ち自然と塩対応になっていってしまったのである。

 

 思い出してほしい。彼女は想い人のハジメへの距離の詰め方が異常であった。それでも想い人であるからか、やはり羞恥の壁がある程度の境界線を作っていた。しかし、想い人本人ではなくその弟となれば話は変わる。

 本来年齢が一つしか違わない異性、たがナナキは特殊な性質を持つ、異性と感じさせない美貌、幼い内面、小さな体。彼と接してきた白崎はいつの頃からか、もう単純にナナキを可愛がりたくなっていた。

 

 そうやって距離感を誤り、突っ走って行った結果が今である。こうして食堂の床で両手膝をついて(prz)状態でうなだれてしまっている。幸い彼女の醜態によりそこ一帯にまん延したお通夜ムードは霧散する。

 

 「はぁ〜仕方ないわね。」

 

 そんな親友の姿を見かねたのか、みんなのオカン。八重樫雫が一肌脱ぐ。

 

 「ねぇ南雲君?今日はちょっとナナキちゃんを貸してくれないかしら?」

 

 「えっで、でも……」

 

 ハジメとしては当然渋った。なぜなら今のナナキはホームシック。少しでも家族の自分が側にいてあげた方がその心労を緩和させてあげられると考えていたからだ。

 

 だがここで八重樫が否とハジメに突きつける。

 

 「確かにナナキちゃんには今、無条件で甘えられる存在が必要よ。こんな普通じゃない状況ですもの。でもそれを1個人に限定してしまうのはとても危ういと私は思うわ。」

 

 そうして八重樫は論を並べていく。

 

 「今、ナナキちゃんは南雲君か愛ちゃん先生には無条件で懐いているでしょ?今後はそういう人を増やしていったほうがいいと思うの。だから、これから午前中は暇な何人かでナナキちゃんと遊ぼうと考えてるわ。私は今日休みだし……香織も来るわよ「行くぅ!!」ねってハハ……どうかしら?」

 

 八重樫の提案をハジメは吟味する。確かに、これからも自分が付きっきりで一緒にいられる時間は限られてくるし。ナナキの精神的にも自分に依存させるより、そっちのほうが健全だろうと考え、その提案を了承した。

 

 了承を受け振り返っ八重樫がまるで何処ぞの新世界の神の様な顔になっていたのはまた別の話。

 

 こうして南雲ナナキの今日の予定は、八重樫雫、白崎香織、谷口鈴、中村恵理と、一緒に王城探検と相成った。

 

 

 

  ♢

 

 

 

 「良いか?ナナキ。お姉ちゃん達の言う事をよく聞くんだぞ」

 

 「うん……」

 

 ナナキちゃんの両手を握ってまるで幼い子に言い聞かせるように言う南雲君をナナキちゃんの背後から見ている。

 

 私、八重樫 雫は、その光景を微笑ましく思い眺めている。まぁ、実際に幼い子なのだけど。

 

 「じゃあ、兄ちゃん図書館でお勉強して来るから。……八重樫さん今日はお願いします。」

 

 そう言って視線を私に移した南雲君は深々とお辞儀をしてきた。

 

 「大丈夫、安心してナナキちゃんは私たちに任せて……ね?香織」

 

 「うん!私頑張るよ南雲君!!」

 

 「あはは……」

 

 ここで親友に花を持たせるのも忘れない。本当に世話にかかる幼馴染だこと。

 

 そしてそのまま南雲君は図書館へと走っていった。その後ろ姿をナナキちゃんはさみしげに見つめて姿が見えなくなるまで手を振り続けてた。

 

 「よっしナナっち!何処遊びに行こっか?鈴はねぇこの城に眠る古の宝を探しに行こうと思うんだよ!!そうすれば鈴達は大金持ちにぃ〜」

 

 「あのぉ〜鈴ちゃん。そんなことすればただの泥棒だし、だいたい古の宝なんでほんとにあるかもわかんないよ?」

 

 「いいや!あるね鈴のお宝センサーがこの城には宝が眠っていると告げてるよ!!」

 

 「そのお宝センサーは何処から来たの?」

 

 「さっきテキトーに作った」

 

 「えぇ~……」

 

 

 「…………………………。」

 

 のっけから鈴と恵里による漫才を披露して笑ってもらうつもりだったんだけど……。駄目ね、そもそも漫才を理解できてないのか、笑えないほど今はさみしいのか、どんよりと下を向いちゃってるわ。

 

 何か取っ掛かりを掴めないかナナキちゃんを観察する。

 

 少し毛色の明るいミディアムヘアーの後ろ髪をピンクのシュシュで纏めてて、ダボッとした白いTシャツにこれまたサイズの大きなオーバーオール。そしてクリクリのお目々にふっくらした頬、小さな鼻に可愛い口元、今もこうして握ってる手はぷにぷにしてて………ってなんか変態みたいね私……。

 

 にしてもどっから見ても可愛いわねぇ〜この娘←✕、私以上に女の子してるんじゃないの?何よ!そのピンクのシュシュ!なんで男の子がピンクなの!?狙ってんの?可愛いけど!!

 そのパッチリお目々も今は寂しさで物憂げな感じがして胸が締め付けられるし!!

 

 そうやって観察していて私は見つけた。ナナキちゃんのオーバーオールその胸ポケットにプリントされてるカワイイ鮫のイラスト。

 

 これどう見ても後付けよね?それもところどころ拙いけど、キレイに縫い付けてある。ちょっと聞いてみようかしら。

 

 私はナナキちゃんに目線を合わせる。

 

 「ねぇナナキちゃん鮫、好きなの?その鮫カワイイわね」

 

 するとナナキちゃんの瞳に一瞬光りが戻る。そして胸についたその鮫を掴んで口を開く。

 

 「ナナキ……サメすき……これ……ね……あにぃがね…カキカキしたの」

 

 「えっ!?」

 

 「ウソ!それ南雲君が描いたイラストなの!?」

 

 私が呆気にとられていると、香織が後ろから食い気味に聞いてきた。香織の問に対してナナキちゃんはコクンと首を縦に振った。

 

 そしてその表情は少し……先程から少し、和らいだように見えた。

 

 なるほどね……。全く兄弟揃ってブラコンなんだから。

 

 「そうなんだ。じゃあそれをつけてくれたのも南雲君なの?」

 

 「……うん」

 

 「うへぇ〜意外!南雲君手先が器用なんだ!!」

 

 ナナキちゃんの心を開くには至って単純、大好きなお兄ちゃんの話題をすればいい。そうやって南雲君を中心に話題を広げていき、王城内を探索、次第に南雲君以外の話でもキラキラとした笑顔で受け答えするようになり、あっという間に時間は過ぎていった。

 

 まぁ、黒歴史やら何やらを筒抜けにされた南雲君には同情するけど。そこら辺の情報は香織が有効活用するでしょう。

 

 それに…、

 

 「しっかし驚いたよ〜まさか南雲君があの有名ゲームクリエイターの息子でぇ」

 

 「あの有名漫画の作者の息子だなんてね〜私あの作品好きなんだぁ~」

 

 鈴と恵里から南雲君が不真面目な生徒って言う印象を払拭させる機会ができたんですもの。

 

 「えっとねえっとね!あにぃね……ちち、ははの……えっと……ですまぁ〜ち?を……お、おてつだいできるの」

 

 「ですまーち?何それ?」

 

 「デスマーチ。不適切なプロジェクト管理や進行により、メンバーの負荷が高まり、チームが疲弊・混乱し、プロジェクトが破綻寸前にある状況、過酷な労働環境を指す言葉。

 まぁつまりはめっちゃ予定押しててやばい状況の事だね!」

 

 「どへええってええ!それを手伝ってんの?それってすごくない!?あぁだからいつもの授業中居眠りしてたのかぁ〜」

 

 「むふぅ〜!」

 

 ナナキ君からもたらされる不確定な情報を南雲君マスターの香織が修正して、正しい情報を鈴たちに伝える。そしてそんな香織の頼りになる姿を見てナナキちゃんが香織に心を許す。

 

 良いローテーションが組めてきたわ!計画通り!!

 

 そうして歩いているうちに私たちは訓練所の場所までやってきた。そこでは光輝がメルドさんと打ち合いをしていた。

 

 「ん、雫!どうしたんだ今日は。随分遅かったじゃないか!」

 

 「今日私は休暇よ。だから皆でナナキちゃんの面倒を見てたのよ」

 

 私達を見かけた光輝が無駄に顔を輝かせてやってくる。まぁナナキちゃんには光輝にも懐いてほしいのよね。利用するようで悪いけど、ナナキちゃんをカンフル剤になって南雲君と光輝の関係が和らいでくれたら幸いだし。

 

 「何だって?ナナキちゃんと……南雲はどうしたんだ?全く自分の兄弟の面倒を雫達に押し付けるなんて」

 

 「あぁもう違う違う。私が南雲君に頼んだのよ。ナナキちゃんと仲良くなりたいから午前中だけ貸して頂戴ってね。」

 

 危ない危ない。また良くない勘違いをさせるところだった。やっぱり光輝と南雲君周りは慎重にいかないと。

 

 「おお、どうしたんだお前たち随分と大所帯だな。」

 

 するとメルドさんが私たちのところに歩いてきた。丁度いい光輝に話したらまたろくな勘違いをしなさそうだし、メルドさんにも話しておきましょう。

 

 「実はナナキちゃん、今ホームシック……えっとお家が恋しくなってるみたいで。南雲君や愛ちゃ……愛子先生以外に甘えられる人を増やそうと思って。こうやって交流会?みたいなことをしてて」

 

 「うむ……そうだな。ナナキはお前たちと違って幼いからな。その考えを失念していた。すまない。それとよく動いてくれた八重樫。感謝するぞ」

 

 「いえ、そんな」

 

 「そう言うことなら俺もその交流会とやら混ぜてくれ。今日は休ませるつもりだったが。せっかく来たんだ。

 おい、ナナキ!俺と一緒にチャンバラごっこをしよう!」

 

 「ちゃんばら!ちゃんばら!」

 

 両手を掲げはしゃぐナナキちゃんを優しい眼差しで見つめるメルドさん。そんな流れでメルドさんも自称交流会に参加することになった。

 

 メルドさんはナナキちゃんにも木刀を持たせ訓練所に上がる。

 

 ついでだから説明するけど、ナナキちゃんは当然私たちとは戦闘訓練の内容が違う。

 

 私達が反日まるまる訓練に費やすのと違って、ナナキちゃんはざっと2時間程度。ナナキちゃんの体じゃ半日の訓練なんて耐えられないから。それも本格的な訓練じゃない。軽い体づくりのための運動に始まって、私たちの、戦闘の見学、そして……

 

 「さぁ打ち込んで来いナナキ!今日の10ポイントはお腹だ!よぉく狙えよ〜」

 

 「うん!」

 

 このチャンバラごっこだ。10ポイントっていうのは絶対攻撃目標、所謂急所だ。それを日によって変更している。

 ナナキちゃんは一気にたくさんを覚えることはできない。だから少しずつ、体に覚えさせる。メルドさんもそこそこの手加減で迎え撃つ、最初をわざと当てさせて、2回目を難しく、そして3回目もすぐ当てさせる。合計3回急所にうまく攻撃を当てさせる訓練だ。もちろんその逆、受けも一緒に覚えさせる。これらがすべてうまくいけば60ポイントを貯められてよくできましたスタンプをもらえる仕組みだ。

 

 別にスタンプを集めたら何か貰えるわけではないんだけど、何かを集めるって行為だけでも楽しいものだ。スタンプラリーとか朝のラジオ体操とか、あれ子供の頃は集めるだけだ楽しかったのを私も覚えてるわ。

 

 ここらへんのルールを私とメルドさん、そして愛ちゃん先生の3人で地球の知識を交えて考えた。

 

 メルドさんがどうしても用事で外せない時は私が代わりに相手をしたりする。私は地球の道場でも子供組に稽古付けた経験があるからって任されたわ。これ、私も手加減の練習にもなっていいのよね。

 

 「えいッえい!」

 

 「いいぞぉ〜その調子だナナキ!」

 

 そうやって微笑ましい光景を眺めて、私たちは時間を過ごしていく。

 

 

 

 

 

   ♢

 

 

 

 

 

 「はぁ〜ッはぁ〜ッはぁ〜ッ」

 

 「よく頑張ったなぁナナキ!!ほれ今日のスタンプだ」

 

 そう言ってメルドさんがスタンプを取り出すとナナキちゃんも顔を輝かせて胸ポケットからスタンプカードを取り出す。

 

 良かった。だいぶ気が紛れたみたいね。今朝では考えられないほどの笑顔を見せるナナキちゃんに一安心してるときだった。

 

 

 

 

 「ぐあ!?」

 

 そんな声が建物の裏の方で聞こえた。それはもちろん私だけじゃなくて

 

 「あにぃ?」

 

 ナナキちゃんが言うならあれは南雲君の声なのだろう。建物の裏、うめき声、そしてこの場にいない檜山君達……嫌な予感がする。

 

 「鈴、恵里!ナナキちゃんをお願いできる?」

 

 「合点承知!」

 

 「う、うん任せて」

 

 二人への返事もそこそこに私は現場に向かう。すると聞き覚えのある声が放たれる。

 

 「何やってるの!?」

 

 香織だ。どうやら私より先に気づいて駆けつけていたらしい。ほんと南雲君のことになるとナナキ君以上に勘がいい。そして香織の視線の先を見れば案の定。

 

 

 

 「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

「南雲くん!」

 

 檜山君とその取り巻き3人。それが南雲君を囲っていて、件の南雲君は傷だらけになって咳き込んでいた。

 

 これは……贔屓目に見なくても許せないわね。

 

 「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

 

 「いや、それは……」

 

 「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

 「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

 

 気がつけば光輝と龍太郎も一緒に来てたわね。私達に三者三様に言い募られて、檜山君達は誤魔化し笑いをしながらそのままそそくさと立ち去ったわ。

 

 香織の治癒魔法により南雲君が徐々に癒されていく。

 

 「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

 苦笑いする南雲君に香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

 「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

 何やら怒りの形相で檜山君らが去った方を睨む香織を、南雲君は慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

 

「でも……」

 

 それでも納得できなそうな香織に再度彼は「大丈夫」と笑顔を見せる。それを見て渋々ながら、ようやく香織も引き下がるけれども。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

 やっぱり放って置けないものね。このくらいならいいでしょ。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

 ここで光輝の勘違いが水を差す。何をどう解釈したらそうなるのよ。このまま終わりそうだったのに余計な事をッ!

 

 光輝の思考パターンは、基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない! なんていう過程を経るのよ。

 しかも、厄介なことに、光輝の言葉には本気で悪意がない。これでも真剣に南雲君を思って忠告しているのだ。南雲君は既に誤解を解く気力が萎えているのか、何の弁明もないままただ呆れたように苦笑している。

 

 私が手で顔を覆いながら溜息を吐き、南雲君に小さく謝罪する。

 

 「ほんとにごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ」

 

 「アハハ、うん、分かってるから大丈夫……それよりナナキはどう?」

 

 「…………えぇ今はもう元気いっぱいよ。あとはお兄ちゃんが元気な姿を見せないとね」

 

 彼も彼で自分よりも弟の心配をしていて、その様に呆れるほど感心する。つい面食らってしまった。

 

 「そっか……ありがとう八重樫さん、白崎さんも今日はありがとう色々と。」

 

 そう言いながら汚れた服をはたきながら立ち上がる。

 

 「ううん、気にしないで。ほら!もう訓練始まりそうだよ。私と雫ちゃん達は今日は休みだけど。一緒に行こう!」

 

 そう言って香織が彼の手を引こうとしたが、男子のプライドなのかそれは拒否して一人で歩いていってしまった。

 

 

 

 

  ♢

 

 

 

 午前の訓練が終了し、午後の座学も終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルドさんから伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルドさんは野太い声で告げる。

 

 「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾で、僕。南雲ハジメは天を仰ぐ。

 

(……本当に前途多難だ)

 

 

 

 

 

 その日の夜、ベッドの上で朝の哀愁が嘘のようにはしゃぐナナキの話を聞きながら横になる僕。

 

 「それでね、それでね……すずがね!おしろにねむるだいまおうしずくをやっつけてね!おしろにねむるでんせつのおたからをね…どろぼうしたんだよ!」

 

 「ハハ、何だよそのめちゃくちゃなストーリーただの強盗じゃないか」

 

 「それでね……かおりんかーべるがね!すごいの!じつは、だいまおうしずくのこんやくしゃ?だったの!」

 

 「何故そこで疑問形!?それにそのネーミングセンス谷口さんだろ」

 

 そのまま話してるうちにウトウトしだしたナナキに僕は布団を被せる。

 

 「それ……でねぇすずが、だいまおうしずくをねぇ……やっつけたのぉ……」

 

 「それはさっき聞いたよ……おやすみナナキ。」

 

 確かに前途多難で、心配事は山ほどあるんだけど、お前が幸せに笑っていられるなら兄ちゃんは頑張れるよ。

 

 僕も明日に備えてしっかりと寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、南雲ナナキは【オルクス大迷宮】へ向かった兄、南雲ハジメとたくさんの友達達を愛子と共に見送った。

 

 地球に居た頃と同じ日課のように。王城の大扉が閉まり、その姿が見えなくなるまでその小さな手を振り続けた。

 

 

 

 

 

 それが、最後の見送りになるとも知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ⑤鈴  ←ちょっと落ち着こうか……おもしれぇ友達

 ⑥恵里 ←………………怖い

 
 ※鮫のキャラクターのアップリケ。あにぃから貰った大切な宝物
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