世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 最初はね、ここの話ほとんど原作と一緒だから省略しようか考えたんですけど……。

 まぁあったほうが、やっぱりいいよなって……。


第5話∶あの日にあったこと

 

 これはハジメ達が【オルクス大迷宮】へ潜る一日前。ハジメ達は、宿場町ホルアドにて、大迷宮へ挑戦する冒険者達に設けられた、王国直営の宿にて一泊していく事になる。

 

 久しぶりに普通の部屋を見た気がするハジメはベッドにダイブし「ふぅ~」と気を緩めた。全員が最低でも二人部屋なのにハジメだけ一人部屋だ。「まぁ、気楽でいいさ」と、少し負け惜しみ気味に呟くハジメ。

 なぁに、出発直前までぐずっていた弟も、今頃一人なのだ。兄の自分が寂しいなんて決して、少しも思ったりしないのだ。……

 

 まぁ、そういうナナキは今、愛子の部屋で愛子によって寝かしつけられているのだが……。哀れ南雲ハジメ、信じる弟はまたもブルータスへと変じた。

 まぁ、少し考えなくても分かる結果であるが。ハジメは現実逃避をしたかったのだ。

 

 さて、明日から早速、迷宮に挑戦だ。今回は行っても全百階層ある内の二十階層までらしく、それくらいなら、ハジメのような最弱キャラがいても十分カバーできると団長から直々に教えられた。

 

 ハジメとしては面倒を掛けて申し訳ありませんと言う他ない気持ちだが、当の団長本人は気にしなくていいっといった風に気持ちの良い笑みを向けられた為、そう言ってやるわけにもいかんだろう。

 

 団長は弟のナナキにも気に掛けてくれているため、本当に彼には頭が上がらない。

 

 しばらく、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいたハジメだが、少しでも体を休めておこうと少し早いが眠りに入ることにした。学校生活で鍛えた居眠りスキルは異世界でも十全に発揮される。

 

 しかし、ハジメがウトウトとまどろみ始めたその時、ハジメの睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いた。

 

 少し早いと言っても、それは日本で徹夜が日常のハジメにしてはということで、トータスにおいては十分深夜にあたる時間。怪しげな深夜の訪問者に、すわっ、檜山達かっ! と、ハジメは、緊張を表情に浮かべる。

 

 しかし、その心配は続く声で杞憂に終わった。

 

 

 「南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 なんですと? と、一瞬硬直するも、ハジメは慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの白崎が立っていた。

 

 「……なんでやねん」

 

 「えっ?」

 

 ある意味、衝撃的な光景に思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。よく聞こえなかったのか白崎はキョトンとしている。

 ハジメは、慌てて気を取り直すと、なるべく白崎を見ないように用件を聞く。いくらリアルに興味が薄いとはいえ、ハジメも立派な思春期男子。今の白崎の格好は少々刺激が強すぎる。

 

 「あ~いや、なんでもないよ。えっと、どうしたのかな? 何か連絡事項でも?」

 

 「ううん。その、少し南雲くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

 

 「…………どうぞ」

 

 最も有り得そうな用件を予想して尋ねるが、白崎は、あっさり否定して弾丸を撃ち込んでくる。しかも上目遣いという炸薬付き。効果は抜群だ! 気がつけば扉を開け部屋の中に招き入れていた。

 

 「うん!」

 

 若干混乱しながらも、ハジメは無意識にお茶の準備をする。といっても、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。白崎と自分の分を用意して白崎に差し出す。そして、向かいの席に座った。

 なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、白崎は、窓際に設置されたテーブルセットに座った。

 

 「ありがとう」

 

 やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける白崎。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだ。

 ハジメは、欲情することもなく純粋に神秘に彩られた白崎に見蕩れた。白崎がカップを置く「カチャ」という音に我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干す。ちょっと気管に入ってむせた。恥ずかしい。

 

 白崎がその様子を見てくすくすと笑う。ハジメは恥ずかしさを誤魔化すために、少々、早口で話を促した。

 

 「それで、話したいって何かな。明日のこと?」

 

 ハジメの質問に「うん」と頷き、白崎はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になる。

 

 「明日の迷宮だけど……南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

 話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する白崎。ハジメは困惑する。ただハジメが足手まといだからというには少々必死過ぎないかな? と。

 

 「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……」

 

 「違うの! 足手まといだとかそういうことじゃないの!」

 

 白崎は、ハジメの誤解に慌てて弁明する。自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ゴメンね」と謝り静かに話し出した。

 

 

 

 「あの……ね、なんだか、凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

 その先を口に出すことを恐れるように押し黙る白崎。ハジメは、落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

 「最後は?」

 

 白崎はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。

 

 「……消えてしまうの……」

 

 「……そっか」

 

 しばらく静寂が包む。

 

 

 

 再び俯く白崎を見つめるハジメ。

 

 確かに不吉な夢だ。しかし、所詮夢である。そんな理由で待機が許可されるとは思えないし、許された場合はクラスメイトから批難の嵐だろう。いずれにしろ本格的に居場所を失う。故に、ハジメに行かないという選択肢はない。

 

 ハジメは、白崎を安心させるよう、弟にもそうしたように、なるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。

 

 「夢は夢だよ、白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、天之河君みたいな強い奴も沢山いる。むしろ、うちのクラス全員、ナナキを含めてもチートだし。敵が可哀想なくらいだよ。僕は弱いし、実際に弱いところを沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」

 

 語りかけるハジメの言葉に耳を傾けながら、なお、白崎は、不安そうな表情でハジメを見つめる。

 

 「それでも……それでも、不安だというのなら……」

 

 「……なら?」

 

 

 

 ハジメは若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに白崎と目を合わせた。

 

 

 「守ってくれないかな?」

 

 「え?」

 

 自分の言っていることが男としては相当恥ずかしいという自覚があるのだろう。既にハジメは羞恥で真っ赤になっている。月明かりで室内は明るく、白崎からもその様子がよくわかった。

 

 「白崎さんは〝治癒師〟だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、僕が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せるよね。その力で守ってもらえるかな? それなら、絶対僕は大丈夫だよ」

 

 しばらく、白崎は、ジーとハジメを見つめる。ここは目を逸らしたらいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらハジメは必死に耐えるが……

 

 「ま……まぁ、ナナキにも無事に帰ってくるって約束したしぃ!それでナナキにまたぐずられたら大変だからね!!」

 

 土壇場にたまらない羞恥を紛らわすために弟を引き合いに出してしまう。やはりハジメはどこまでいってもヘタレであった。

 

 しかし、そんなハジメを見ても、白崎は微笑みを返す。

 

 「変わらないね。南雲くんは」

 

 「?」

 

 白崎の言葉に訝しそうな表情になるハジメ。その様子に白崎はくすくすと笑う。

 

 「南雲くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」

 

 その意外な告白に、ハジメは目を丸くする。必死に記憶を探るが全く覚えていない。

 

 う~んと唸るハジメに、白崎は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

 「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見た南雲くんは土下座してたから私のことが見えていたわけないしね」

 

 「ど、土下座ぁ!?」

 

 ハジメは、なんて格好悪い所を見られていたんだ! と今度は違う意味で身悶えしそうになる。そして、人目につくところで土下座っていつ、どこでだ!? と必死に記憶を探る。一人、百面相するハジメに白崎が話を続ける。

 

 「うん。不良っぽい人達に囲まれて土下座してた。唾吐きかけられても、飲み物かけられても……踏まれても止めなかったね。その内、不良っぽい人達、呆れて帰っちゃった」

 

 「そ、それはまたお見苦しいところを……」

 

 ハジメは軽く死にたい気分だ。厨二病を患っていた時の黒歴史とタメを張るくらい最悪のシーンを見られていたらしい。もう、乾いた笑みしか出てこない。隠しておいたエロ同人誌を母親が綺麗に整理して本棚に並べ直していた時や、偶にその同人誌をナナキがよく理解してない顔で読んでいた時と同じくらい乾いた笑みだ。

 

 しかし、白崎は優しげな眼差しをしており、その表情には侮蔑も嘲笑もなかった。

 

 「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見て南雲くんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

 

 「……へあ?」

 

 ハジメは耳を疑った。そんなシーンを見て抱く感想ではない。もしや、白崎には特殊な性癖が!? と途轍もなく失礼なことを想像するハジメ。

 

 「だって、南雲くん。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

 その言葉に、ハジメは、ようやく思い当たった。確かに、中学生の頃、そんなことがあったと思い出す。

 

 男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったのだ。男の子はワンワン泣くし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々大変な状況だった。

 

 偶然通りかかったハジメもスルーするつもりだったのだが、おばあさんが、おそらくクリーニング代だろう――お札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達が、更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまった。

 といっても喧嘩など無縁の生活だ。厨二的な必殺技など家の中でしか出せない。仕方なく相手が引くくらいの土下座をしてやったのだ。公衆の面前での土下座は、する方は当然だが、される方も意外に恥ずかしい。というか居た堪れない。目論見通り不良は帰っていった。

 

 「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

 「白崎さん……」

 

 「だから、私の中で一番強い人は南雲くんなんだ。高校に入って南雲くんを見つけたときは嬉しかった。……南雲くんみたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。南雲くん直ぐに寝ちゃうけど……」

 

 「あはは、ごめんなさい」

 

 「でも、高校で再会した以上に嬉しかったことがあったんだ。それはね、ナナキ君が学校に来るようになった頃なんだけどね。」

 

 「ナナキ?」

 

 ハジメはまた訝しむが、白崎は気にせず続ける。

 

 「うん、南雲くんナナキ君にはちゃんと真っ直ぐに怒ってるでしょ?最後に学校に来た時とか、必死になって怒鳴って。どれだけナナキ君を大事に思ってるのか、優しい気持ちが伝わってきて、あぁ私が憧れた南雲くんはずっと変わっていなかったんだなぁって実感してすごく嬉しかったんだ。ちょっと羨ましいくらい

 

「白崎さん?」

 

 最後のほうが少し聞き取れなくてハジメが聞き返すも、白崎は食い気味に「ううん!なんでもない」と返す。

 

 まぁしかし、白崎が自分を構う理由が分かったハジメは、白崎の予想外の高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。

 

 「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも南雲くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

 白崎は決然とした眼差しでハジメを見つめた。

 

 

 「私が南雲くんを守るよ」

 

 ハジメはその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

 「ありがとう」

 

 それから直ぐハジメは苦笑いした。これでは役者が男女あべこべである。今夜のイケメン賞は間違いなく白崎だ。だとすれば、さながら自分はヒロインかと、男としてはなんとも納得し難い気持ちになる。

 

 そんな事を考えて油断していたのだろう。次の白崎の行動にハジメは対応しきれなかった。

 

 気づけば白崎は何やらもじもじして顔を赤く染める。

 

 「でも……でもやっぱりちょっとだけ不安だから……私とも約束(・・)してくれないかな?ナナキ君にやったみたいに。」

 

 「どえッ!?」

 

 そう言うと、白崎は自分の小指をを掲げ赤く染まった顔と、潤んだ瞳をハジメに向ける。いきなりのことでハジメは素っ頓狂な声を上げ席を立ち上がってしまうが、それが悪手だった。

 

 ハジメの顔の位置が図らずとも、白崎の頭上に移動したことにより、白崎の視線もハジメの表情を追う。すると見事に天使とまで持て囃された美貌が上目遣いの形となり、更にネグリジェの隙間から覗く彼女の谷間が露となる。

 

 そして最後のトドメに

 

 「ダメ……かな……?」

 

 この一言である。

 

 もはやハジメに退路はなく、渋々と言った具合で自分の小指を彼女に明け渡した。そして、あの時のように……いや、あの時よりかは少し拙いメロディーがその室内に響き渡る。

 

 〜ゆ、ゆーび切りげんまん

     

      嘘ついたら針千「一万本」い、一万本

 

        の、飲ーます!

 

             ゆーび切った!!〜

 

 

 

 ハジメは最初従来の歌を歌おうとしたのだが、白崎が強引に南雲家のローカルルールをねじ込んでくる。

 

 そう言って指を離した白崎は「約束破ったら針ニ万本だね☆」

といい笑顔で言い放つ。

 

 そんな彼女の笑顔を見て、ハジメはもまた笑うしかなかった。

 

 それからしばらく雑談した後、白崎は部屋に帰っていった。

 

 ハジメはベッドに横になりながら、思いを馳せる。メルド団長には、自分は強い心を持っていると言ってはくれたが、逆に言えば自分にはそれだけしかない。

 なんとしても他にも自分に出来ることを見つけ出し、無能の汚名を返上しなければならない。弟に誇れる兄でいる為にも、いつまでもヒロインポジなど、納得できるものではない。ハジメは決意を新たにし眠りについた。

 

 

 

 しかしハジメは気づかない、深夜、白崎がハジメの部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを。その者の表情が醜く歪んでいたことも、ハジメと白崎を含め知る者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

  ♢

 

 

 

 

 オルクス大迷宮入口付近の陰険な想像とは裏腹に祭りのように賑やかな大通りをお上り丸出しで通った後、遂にハジメ達は迷宮に突入した。

 

 迷宮内は外の賑やかさとは無縁だった。

 

 縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

 一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

 「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 

 正面に立つ天之河達、前衛は“勇者”の天之河、“剣士”のサムライガール八重樫、そして”拳士“巨漢脳筋空手部の龍太郎の3人、後衛は天使の白崎、眼鏡っ娘中村恵理、そして、ナナキと並ぶロリ体型の元気っ子谷口鈴だ。

 

 彼ら6人は訓練通り堅実なフォーメーションで危なげなく敵を制圧していく。天之河の聖剣、八重樫の刀もどきのサーベル、龍太郎の拳、そしてトドメに

 

 「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 後衛3人係の魔法攻撃、螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

 「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

 「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルド団長の言葉に白崎達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

 

 

 そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いく。

 現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

 ハジメ達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 

 もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。

 迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 

 従って、ハジメ達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

 「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

 メルド団長のかけ声がよく響く。

 

 ここまで、ハジメは特に何もしていない。一応、騎士団員が相手をして弱った魔物を相手に訓練したり、地面を錬成して落とし穴にはめて串刺しにしたりして、一匹だけ犬のような魔物を倒したが、それだけだ。

 

 基本的には、どのパーティーにも入れてもらえず、騎士団員に守られながら後方で待機していただけである。なんとも情けない限りだ。それでも、実戦での度重なる錬成の多用で魔力が上がっているのだから意味はある。魔力の上昇によりレベルも二つほど上がったのだから実戦訓練はためになるようだ。

 

(ただ、これじゃあ完全に寄生型プレイヤーだよね、はぁ~)

 

 再び、騎士団員が弱った魔物をハジメの方へ弾き飛ばしてきたので、溜息を吐きながら接近し、手を突いて地面を錬成。万一にも動けないようにして、魔物の腹部めがけて剣を突き出し串刺しにした。

 

(まぁ、前々(・・)からこのやり方で錬成の精度が上がっているし……地道に頑張ろう……)

 

 魔力回復薬を口に含みながら、額の汗を拭うハジメ。騎士団員達が感心したようにハジメを見ていることには気がついていない。

 

 実を言うと、騎士団員達もハジメには全く期待していなかった。団長がやけに気にかけるものだから、戦闘に余裕がある中でハジメに視線を向ければ、当のハジメは所在無げに立ち尽くしている為、試しに構ってやるかと魔物をけしかけてみたのだ。もちろん、弱らせて。

 

 騎士団員達としては、ハジメが碌に使えもしない剣で戦うと思っていた。ところが実際は、錬成を利用して確実に動きを封じてから、止めを刺すという騎士団員達も見たことがない戦法で確実に倒していくのだ。錬成師は鍛冶職とイコールに考えられている。故に、錬成師が実戦で錬成を利用することなどあり得なかった。

 ハジメとしては、何もない自分の唯一の武器は錬成しかないと考えていたので、鉱物を操れるなら地面も操れるだろうと鍛錬した結果なのだが、周りが派手に強いので一匹相手にするので精一杯の自分はやはり無能だと思い込んでいた。

 

 ちなみにナナキ以外には本邦初公開である。王都郊外での実戦訓練で散々無様を晒した末、考え出した戦法だ。

 訓練所で誰もいないときにコレを案山子相手に試せば、ナナキは目を輝かせて「もっかい!もっかい!」とせがんでくるものだから事前に練度は上がっていて本番では、淀み無く作業のようにこなせている。

 

 小休止に入り、ふと前方を見ると白崎と目が合った。彼女はハジメの方を見て微笑んでいる。

 昨夜の〝守る〟という宣言通りに見守られているようでなんとなく気恥ずかしくなり目を逸らすハジメ。若干、白崎が拗ねたような表情になる。それを横目で見ていた八重樫が苦笑いし、小声で話しかけた。

 

 「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

 からかうような口調に思わず顔を赤らめる白崎。怒ったように八重樫に反論する。

 

 「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、南雲くん大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

 「それがラブコメしてるって事でしょ?」と、八重樫は思ったが、これ以上言うと本格的に拗ねそうなので口を閉じる。だが、目が笑っていることは隠せず、それを見た白崎が「もうっ」と呟いてやはり拗ねてしまった。

 

 そんな様子を横目に見ていたハジメは、ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばす。ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

 

 その視線は今が初めてというわけではなかった。今日の朝から度々感じていたものだ。視線の主を探そうと視線を巡らせると途端に霧散する。朝から何度もそれを繰り返しており、ハジメはいい加減うんざりしていた。

 

(なんなのかな……僕、何かしたかな? ……むしろ無能なりに頑張っている方だと思うんだけど……もしかしてそれが原因かな? 調子乗ってんじゃねぇぞ! 的な? ……はぁ~、早く帰ってナナキに癒やされたい……。)

 

 深々と溜息を吐くハジメ。白崎の言っていた嫌な予感というものを、ハジメもまた感じ始めていた。今はそんな不安とストレスを払拭するために、城で待っているであろう弟を思いながら現実逃避をすることにした。

 

 一行は二十階層を探索する。

 

 迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

 現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

 二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

 そこまで行けば今日の実戦訓練は終わり、神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。

 

 その後も恙無く訓練は続いていく。

 岩壁に擬態したロックマウントなるゴリラ型の魔物が2体現れ、その挙動の気持ち悪さに白崎をはじめとした女子達が悲鳴を上げ、

 その悲鳴を恐怖の悲鳴と取った我らが勇者天之河光輝が、正義と怒りの鉄槌。まるで最終決戦に使うような大技を発動。

 洞窟内という閉鎖空間でそんな危ない技を使った天之河はメルド団長からの愛の鞭を受けたり等など、

 

 トラブルはあったがそうやって無事に訓練が終わろうとしていた矢先だった。

 

 

 「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。白崎を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

 

 「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

 「素敵……」

 

 白崎が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

 「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

 「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 しかし、檜山はそれを無視して、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

 

 「団長! トラップです!」

 

 「ッ!?」

 

 

 しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 檜山が鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がり、そのまま一息に部屋全体に広がり輝きを増す。

 

 「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 ハジメ達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 尻の痛みに呻き声を上げながら、ハジメは周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどはハジメと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

 どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

 ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

 橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

 「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

 ――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 本当にほぼまんま原作なので一話にまとめようとして長くなりました。m(_ _)m

 オリジナル要素強いてあげるなら指切りげんまんくらい…。

 ベヒモス戦は次回、回想でかる~く済ませます。
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