世界最強の弟はとってもカワイイサメ人間   作:翁月 多々良

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 やっぱりね、前回のアレはやばすぎたから……。
 
 アレで待たされる読んでくれる人の事考えたらね……。

 毎日投稿は出来なくなったけど、頑張って連投します!!


第6話∶果たされぬ贖罪

 

 朝から雨に見舞われた【ハイリヒ王国】その王城の召喚者たちに与えられたとある一室の前。

 

 そこに私、八重樫 雫は立っていた。

 

 私はノックをする為に拳を上げようとして、数秒逡巡の後、拳を下ろした。

 

 (一体……どの面下げて会いに行けばいいって言うのよッ!!)

 

 私は自己嫌悪と罪悪感で唇を噛みしめる。握る拳からは食い込んだ爪から血が流れ出る。

 

 そうして私は扉に背を向け、そこに立っているもう一人へ口を開く。

 

 「すみません先生……やっぱり………無理そうです。」

 

 「無理しないでください八重樫さん……私にも気持ちはわかりますから。」

 

 そう言って私の手を取る愛ちゃん先生。血の出る私の手を擦り「後で治療してもらってくださいね」と優しく笑いかけるが、その眉間にはシワが寄っていた。

 

 「ここは大丈夫ですから、白崎さんの所へ行って上げてください。」

 

 「………はい」

 

 言われるがまま、私はその部屋を後にする。立ち去る尻目に愛ちゃん先生を見る。

 彼女もまた重たい動きではあるけれど、その扉へとノックしてみせる。

 

 コンコンッ

 

 「ナナキ君……朝食の時間ですよ。今日はどうしますか?また、メイドのお姉さんに持ってきてもらいましょうか?」

 

 南雲 ナナキ

 

 あの日、誰よりも彼の帰りを待っていて、誰よりも彼の訃報(・・)に涙した。小さな、小さな男の子。

 

 

 

 

 あの日オルクス大迷宮で、私達は転移の罠に嵌り、迷宮の二十階層から、一気に六十五階層まで転移させられてしまう。

 

 そこに待ち伏せていたのは、無数の魔法陣から無限に湧くトラオムソルジャーという骸骨兵士。

 

 そして私達を挟み撃ちにするように反対に現れたのが、体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取付けたまるでトリケラトプスの様な姿の魔物。

 それはかつて最強と呼ばれた冒険者にして歯が立たないとまで言わしめた伝説の魔物“ベヒモス”だった。

 

 出口と思われる階段はトラオムソルジャー達の背後にある。

 

 どう見ても一目散にそっちに逃げるべきだった。メルド団長もそう命令してたし。

 

 しかし、状況は最悪だった。退却しろと命令するメルドさんの言う事を全く聞かない光輝と脳筋バカ。骸骨たちの物量に対して有効な攻撃手段が無く、混乱するクラスメイト。

 

 あのときは私もリアルに走馬灯が見えた。でもそんな状況を変えたのが、彼。南雲 ハジメ君だった。

 

 彼は無理矢理光輝を納得させ退却させたかと思えば、自分はベヒモスを抑えるだなんて、無茶なことを言い出したのだ。

 

 最初メルドさんも止めたけど何か考えがあるらしい南雲君を信じて結局は託していた。

 

 「必ず助けてやる……だからそれまで死ぬなよ!」

 

 「死にませんよッ死んだら針二万本飲まなきゃいけないし……それに……可愛い弟が待ってますから!!」

 

 そう言って彼は見事にやってみせた。”錬成“を駆使して岩でベヒモスの上半身を生き埋めにして動きを止めていた。

 

 その間に私達はソルジャー達を撃退し、退路を確保することに成功する。

 

 そして今度は私達が彼を助けるために、一斉にベヒモスへと魔法を放つ。

 

 南雲君が機を見て走り出す数秒後にベヒモスは復活してこちらに迫ってくる。でも私たちの魔法がそれを阻む。

 

 誰もが「行ける!」ってそう思っていた時。事件は起きた。

 

 流星群のようにベヒモスへ殺到する私たちの魔法の中に、一発だけ、急に軌道を曲げ南雲君へ向かったものがあった。

 

 その魔法は直撃こそしなかったものの、地面に着弾した衝撃で彼をベヒモスの方へと押し戻す。

 

 そして南雲君の錬成、私達の魔法、最後にベヒモスの南雲君への攻撃により私たちの戦場となっていた橋が崩落する。

 

 そのまま南雲君はベヒモスと瓦礫と共に、奈落の底へと吸い込まれるように落ちていってしまった。

 

 この状況に誰もが呆然と立ち尽くす中、香織だけは気が狂ったように叫んだ。

 

 「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

 

 私と光輝が押さえつけていなかったら自分まで奈落へと身を投げ出しそうだった香織をメルドさんが無理矢理気絶させることで止めることができた。

 

 その後無事に……無事にと言っていいのかわからないけど、無事に地上へと帰還し、オルクス大迷宮での最初の訓練は幕を閉じた。

 

 でも……私に、いや私達にとって本当の試練はここからだったのかもしれない。

 

 すでに香織の叫びと南雲君の……身近な人の死という事実にみんなの心に罅が入りかけていたとき、私達は一晩明けてハイリヒ王国王城へと帰り着く。

 

 そこで最初に私達を迎え入れたのが

 

 

 

 

 「……あにぃ?……どこ?」

 

 

 

 南雲君の弟、南雲ナナキちゃん。

 

 あの子の輝く笑顔を見たとき……私はもう駄目だった。あの子の顔を直視できない。心が押しつぶされそうになる。

 

 その後、彼は言葉を紡いでいく。

 

 「ナナキね、いいこでね……まってたよ」

 

 「ナナキね……おしろでね……おてつだいしてたよ」

 

 「ナナキね……あにぃにね……びっくりしてね……ほしくてね……どう?……びっくりした?」

 

 それは紡ぐたびにだんだんと震えていって。

 

 

 

 「ねぇ……あにぃ……どこ……?」

 

 

 

 その様はまるで迷子の子供が親を探しているような、そんな姿に私達は誰もが目をそらす。

 

 震えながらも、真っ直ぐな何の汚れも知らないその瞳が、

 

 「何故、お前達は助けられなかったのか?」とこちらを糾弾しているように感じたからだ。

 

 その今にも消えてしまいそうな拙い足取りを救い上げるように、メルドさんが強く、ナナキちゃんを抱きしめる。

 

 「……すまない……すまないナナキッ……俺が…、俺が付いていながら……こんな……こんなことに……ッ

 すまない………本当にすまない!!」

 

 と、あのメルドさんが泣いて謝っていた。

 

 謝った口でメルドさんはそのまま、南雲君の訃報をナナキちゃんに伝える。

 

 そして、いつもはボケーとした無表情面のナナキちゃんが、その顔をくしゃくしゃに歪めた。

 

 

 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレが決定的だった。被害者遺族の泣き顔。

 

 アレがまざまざと、私たちの罪を突きつけられたように感じた。

 

 ナナキちゃんの泣き顔と声で多くのクラスメイトの心が折れてしまった。

 

 私は……辛うじて、折れていないと言えるだけ……。

 

 でもなにかの拍子でポッキリ逝ってしまいそうな危うさは感じる。今は、ナナキちゃんをはじめとした多くのクラスメイトが自分の部屋に籠もってしまっている。

 

 それはナナキちゃんと南雲君への罪悪感もあるかもしれない。けれど他にも、結局誤爆という扱いになったあの魔法弾が、

“万一自分の魔法だったら”と考えると、自分が人を殺してしまったと言う事を示してしまい。ナナキちゃんから兄弟を奪った加害者になってしまうと考えて、怖くてたまらなくなるのだろう。

私だって例外じゃない。

 

 そんな状況下で、未だなんとか無事なのは光輝と龍太郎、恵里、辛うじて私、そして……

 

 「香織……入るわね」

 

 

 あれから5日が経過しても未だに目を覚まさない香織である。ただ目を覚ましてないから、心が折れるも何も無いという屁理屈だけど。取り敢えずこの5人のみだ。

 

 光輝と龍太郎は何か気を紛らわせるように訓練に没頭している。

 

 恵里はああ見えて、意外と心が強いのか、なんとか持ち直しているように見える。

 

 そして香織は、医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。よって、時が経てば自然と目を覚ます……と。

 

 そんな香織の手を握り、私は王国に帰ってからの出来事を振り返る。

 

 まず、メルドさんは南雲君、勇者の同胞が死んだことを教会と国王に報告する。

 

 それは、すでに手遅れ感は否めないけど、こんなところで折れてしまっては困る私たちの心のケアが必要との判断もあったからだ。

 

 帰還を果たし南雲君の死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが〝無能〟のレッテルを貼られた南雲君と知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

 

 国王やイシュタル教皇ですら同じだった。強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るの。神の使徒たる私達、勇者一行は無敵でなければならないのだから。

 

 

 だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。中には悪し様に南雲君を罵る者までいたのだ。

 

 もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。やれ死んだのが無能でよかっただの、神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していた。まさに、死人に鞭打つ行為に、私は憤激に駆られるも、彼を助けられなかった私も同罪だと、その怒りを鎮めようと努力したが、

 

 更にあろう事か彼らは、その悪意の矛先をナナキちゃんへも向け始めた。

 

 私達勇者一行の精神ケアがなかなかうまく進まないことに業を煮やした貴族たちは、その間接的な原因となったナナキちゃんへ完全な敵意を顕にする。

 

 「対して戦えもしない故障した小僧が、迷惑をかけおって」

 

 「いっその事、秘密裏に放逐してしまおうか?」

 

 「いいや、そもそも異端と定められた”変質者“なのだから。処刑と称して処分してしまえ」

 

 私は唖然とした。それが仮にも、家族を失ったばかりの少年に対する仕打ちなのかと、私は頭の血管がぶち切れるのを感じた。

 

 実際、正義感の強い光輝が真っ先に怒らなければ私が飛びかかっていてもおかしくなかった。光輝が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、南雲君を罵り、ナナキちゃんへ暴言を吐いた人物達は処分を受けたようだが……

 

 逆に、光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、南雲君とナナキちゃんは、勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

 

 「あなたが知ったら……きっと怒るのでしょうね?」

 

 香織の頭を撫でて、私はそう呟く。

 「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないで下さい」と、誰ともなしに祈った。

 

 その時、不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた。

 

 

 「!? 香織! 聞こえる!? 香織!」

 

 そう必死に呼びかけると、閉じられた香織の目蓋がふるふると震え始めた。私は更に呼びかけた。その声に反応してか香織の手がギュッと私の手を握り返す。

 

 そして、香織はゆっくりと目を覚ました。

 

 

 「香織!」

 

 「……雫ちゃん?」

 

 目頭にもつがこもるのを感じながら、つい私はベッドに身を乗り出す。

 香織は、まだ少し頭がぼーっとしているのか、焦点の合わない瞳で周囲を見渡していた。やがて頭が活動を始めたのか見下ろす私に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

 

 「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう? 違和感はない?」

 

 「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

 

 「そうね、もう五日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

 

 「五日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

 私は徐々に焦点が合わなくなっていく香りの目を見て、まずいと思い、すぐに話をそらそうとするけど……。

 

 香織の記憶が戻るのが早かった。

 

 「それで……あ…………………………南雲くんは?」

 

「ッ……それは」

 

 私はどう伝えるべきか悩む。私がそんなの様子だったからか自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟るった香織……だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど無論香織はできていない。

 

 「……嘘だよ、ね。そうでしょ? 雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね? 南雲くんは……訓練かな? 訓練所にいるよね? うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……だから、離して? 雫ちゃん」

 

 現実逃避をするように次々と言葉を紡いでいく香織。その様はあの日のナナキちゃんを想起するもので、悲痛な表情になるが、これじゃああの時のにのまえだ。

 

 私は唇を噛み締めながらも、決然と香織を見つめ、そして伝える。「南雲君はもう、ここにはいないと……。」

 

 そこからは酷いもので、「イヤイヤ!!そんなわけない!!」と取り乱し、暴れ出す香織を必死に抱き留め、その心を温めようとする。

 

 いつしか香織は「離してよぉ」と弱々しく叫びながら私の胸に顔を埋め泣きじゃくっていた。

 

 縋り付くようにしがみつき、喉を枯らさんばかりに大声を上げて泣く。私はただただひたすらに己の親友を抱き締め続けた。そうすることで、私を含め、香織の傷ついた心の痛みが少しでも和らぐようにと願って。

 

 どれくらいそうしていたか、気づけば外の雨は止み、空は夕日で赤く染まっていた。

 香織はスンスンと鼻を鳴らしながら腕の中で身じろぎした。私はそんな香織の様子を伺うと、囁くような、今にも消え入りそうな声で香織が呟く。

 

 「……雫ちゃん……南雲くんは……落ちたんだね……ここにはいないんだね……」

 

 「……そうよ」

 

 私は……誤魔化さない。誤魔化して甘い言葉を囁けば一時的な慰めにはなるだろう。しかし、結局それは、後で取り返しがつかないくらいの傷となって返ってくるのだ。これ以上、親友が傷つくのは見ていられない。

 

 私は、この5日間で起きたことを正直に話した。

 

 南雲君の事、ナナキちゃんの事、みんなの事。

 

 香織は私の話をその内容をゆっくりと咀嚼していくように聞く。そして私が話し終えると、やがて香織は真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、私を見つめる。そして、決然と宣言した。

 

 「雫ちゃん、私、信じないよ。南雲くんは生きてる。死んだなんて信じない」

 

 「香織、それは……」

 

 香織の言葉に私は再び悲痛な表情で諭そうとする。しかし、香織は両手で私の両頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

 「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって。……でもね、確認したわけじゃない。可能性は一パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。……私、信じたいの」

 

 「香織……」

 

 そう言うと香織は私から手を離してベッドから立ち上がろうとした。私は慌てて止める。香織はまだ病み上がりの身、まだうまく足に力が入らないだろうに

 

 なぜ?と私が聞く前に香織が語気を強めに言う。

 

 「ナナキ君のところに行く。今1番泣きたいのは私なんかじゃない……誰かが……あの子のそばにいてあげないと……!」

 

 私は信じられないという目を香織に向ける。先程も言ったが勿論私は香織に、何一つ隠さず話した。だから分かるはずだ。

 

 今私達は、あの子のそばにいるべきではないと。だってどの面下げて会えばいいというのだ。

 

 私達はあの子にとって兄の仇も同然だ。そんな私達があの子の前へ顔を出せば悲しませてしまうのは必至だ。

 

 「それなのになんで!?」

 

 つい声に出して言っていた私は言い終わって気づくが、それで香織が止まってくれるなら、

 

 

 「それはただ、逃げてるだけだよ」

 

 しかし私の思惑に反して、香織は強い目で私を射抜く。

 

 「雫ちゃん言ってたよね?ナナキ君は南雲君か愛子先生以外、甘えられる人がいないって」

 

 そうして香織はベッドから立ち上がりゆらゆらと拙い歩みのまま言葉を紡ぐ。

 

 「そうだよ……私たちだって不安定なのにナナキ君はそれ以上に不安定に決まってるんだよ!!南雲君や先生以外に誰も頼れないのに、今は南雲君がいない……。あんなに大好きだったお兄ちゃんが急に死んだなんて聞かされたら、悲しくて不安になって仕方ないんだよ!!だから、だから、罪の意識なんて関係ない!そんな事言ってられないッ気にしてられないッ!!そんなの…、全部全部、自分が傷つきたくないだけの言い訳だよ!!

 

 誰かが……あの子の側にいて、安心させてあげないといけないんだよ!!」

 

 香織のその叫びに私が呆気にとられていると、そこまで一息に言い切った香織が、ふらふらの足をついに躓かせ倒れそうになる。

 そんな香織を私は一瞬で駆けつけ、受け止めて床に倒れるのを阻止する。

 

 「む、無茶しすぎよ香織……」

 

 近くに感じる息遣いがゼェゼェと荒い。相当無理しているようだ。これ以上は香織の身が心配だと考えた私は無理やりベットへと戻そうとしたが、荒い息のまま香織が口を開く。

 

 「私、もっと強くなりたいッ……それで、あんな状況でも今度は守れるくらい、もう誰も泣かないでいいようになるくらい。強く、もっともっと強くなって、自分の目で確かめる。……南雲くんのこと。だから……雫ちゃん」

 

 「……なに?」

 

 「力を貸してください」

 

 「……」

 

 

 はぁ〜、本当にズルいわよ。そんな、絶対に諦めないって言う強い目を向けられたら。無下にできないじゃないの。

 

 かくいう私も、香織の言葉を聞いて、今はナナキちゃんの所に駆けつけたい気持ちで一杯になっていた。抱きしめて、謝って、そして「一人じゃないよ」って言ってあげたい。支えになってあげたい。

 

 でもやっぱり一人ではまだ怖い……だから今は

 

 

 「もちろんいいわよ。納得するまでとことん付き合うわ」

 

 「雫ちゃん!」

 

 

 次の瞬間、私に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼を言ってくる香織に、私もまた「こっちこそありがとう」とお礼で返した。

 

 本来なら香織は安静にすべきだろうが、ここは私たちのわがままで一緒に行くことにした。

 

 

 

 

  ♢

 

 

 

 私は香織をおぶって、再びナナキ君がいる部屋の前まで来た。

 

 そしておぶられていた香織は「もう大丈夫」と言って私の背から降りようとする。私は、安静にしたほうがいいとそれを拒否するが、

 

 「このままじゃ格好がつかないでしょ?」

 

 と言うので、「それもそうね」と笑って下ろした。

 

 私は扉を見やってノックをするために拳を掲げるも……。やっぱり怖くてなかなか手が動かせない。

 

 もし、また、糾弾されるような視線を向けられたらどうしよう。

 

 「あにぃを救えなかったくせに、今更何をしに来たのか?」

 

 そういった目を向けられたら、私は二度と立ち上がれないかもしれない。

 

 やっぱり……無理だ……

 

 そう思って拳を下げようとしたとき、パシッと私の手を掴む感触があった。

 

 「大丈夫だよ、雫ちゃん」

 

 私の拳を両手で握り込み、再び上へと掲げて、笑顔を見せる香織。

 

 「大丈夫、私もいるから……ッ!」

 

 そうだったわね。私は一人じゃない。全く、好きなものへは一直線に暴走して、最後の一歩が踏み出せなくて、最終的にはから回る。あんなに手を焼かされた幼馴染に気付かされるなんて、

 いえ、一直線な彼女だったからこそ気づかせてくれたのかしら。

 

 えぇ、そうだわ。私達は一人じゃない。そして、ナナキちゃんも……一人にさせないッ

 

 私達は決意を新たに二人同時に扉を鳴らす。

 

 『『コンコンッ』』

 

 「な、ナナキちゃん……私よ……雫よ……ごめんなさい会いに来るのが遅くなってしまって。まずは……その…、私達は迷宮で皆が命の危機に……ピンチになった時、南雲君が…、あなたのお兄さんが私たちを助けてくれたわ。ほんとにすごい自慢のお兄さんね。………そんなお兄さんを私達は……助けてあげることができなかった……本当にごめんなさい!!」

 

 ノックをしたら思いの外すぐ謝罪の言葉が溢れ出てくる。いくら言葉を並べても、ナナキちゃんにとっては軽いものに感じるかもしれない……でも

 

 「でも……これが私の嘘偽り無い気持ち……何かを返せるわけじゃないけど。私達を頼ってほしい。絶対に力になるから。」

 

 「ナナキ君、香織だよ!私も、……私もごめんなさい!!」

 

 香織はさっきの気丈さは何処へやら、次第にその声色が涙に濡れ始める。

 

 「私……ナナキ君のお兄ちゃんと……南雲君と約束してたの……絶対守るって。ナナキ君みたいに指切りげんまんして……それなのに……守ってあげられなかった……。」

 

 香織は先程は毛ほども見せなかった後悔と懺悔を吐露する。恐らく土壇場になって我慢していたものが溢れ出したのだろう。私もその気持はよくわかる。

 

 すると香織は未だに鼻声ながらも涙を拭い決然とした表情で叫ぶ。

 

 「でも……それでも……私は諦めないよ!!約束を守れなかった私が何言っても……説得力はないかもしれない。けど聞いて……南雲君は……あなたのお兄ちゃんは生きてる!だって誰も死んだところを見てない!だから生きてるかも……ううん絶対に生きてるよ!!」

 

 きっとそれはナナキちゃんを励ます言葉と同時に彼女の願いでもあるのだろう。

 

 「前にも言ったよね。ナナキ君……私はあなたのお父さんとお母さんに……ましてや南雲君の代わりにはなれない……でも!!

 

 どうか……私達を貴方の側で支えさせてください。」

 

 そう言って香織は頭を下げた。

 

 「貴方はひとりじゃない……私たちもいるわ。だから……一緒に居ましょう……。」

 

 私も習って最後にそう付け加えて頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達の必死の呼び声は…………

 

    

 

 

 

 

  残念ながら……、沈黙という形で返されてしまった。

 

 数十分、ずっと頭を下げ続けて何の音沙汰もないのだ。私たちの言葉は届かなかったのかもしれない。

 

 隣りにいる香織からすすり泣く音が聞こえる。私も決壊寸前だった。

 

 しかし、そんなときふと違和感に気づく。

 

 

 「……風?」

 

 私は昔から空気の流れには敏感で、“剣士”の天職を得てからかはその感覚がさらに鋭敏になった。。

 

 私の肌を撫で付ける空気の流れがおかしい。まるで廊下からナナキちゃんがいる部屋に向かって空気が……風が流れているのだ。

 

 その違和感に気づき、ガバっと顔を上げ扉へと耳を澄ませる。

 

 異変に気づいた香織も「雫ちゃん?」と顔をこちらに向けるが今はこっちが優先だ。

 

 私は扉へと耳を押し当てる。聞こえてくるのは、ヒュオ〜っと、まるで外であるかのような風の音。

 

 私は目を見開く。まさかと思い、私は部屋の主の了承もなしに無遠慮に扉をこじ開ける。

 

 そこに広がっていた光景は……

 

 

 

 

 

 まるで何か大きなものが外へ向かって、ぶち抜いたように壁に空いた。大きな穴。

 

 そこからは、日が傾き真っ赤に染まった外の景色が覗いていた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 おいッ!!誰だ!!ナナキ君がシリアスブレイカーだって言ったバカは!!?(# ゚Д゚)←(コイツ(バカ)


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