いやね、
ホントはこんな暗い話にするつもりはなかったのぉ〜
スーサイド・スクワットみたいにギャグでわちゃわちゃな感じにしたかったのぉ〜
まぁ大丈夫だ!奈落から出たらそうなるはずだ!!
「ナナキ君、お食事。メイドさんに持ってきてもらいましたよ。こちらに置いておきますね」
ワカラナイ
「ナナキ君…、あなたの悲しみを先生は全部理解してあげられません。」
ワカラナイ
「けれど……私達が側にいます。」
ワカラナイ
「ナナキ君のペースでゆっくり歩み寄ってくれれば━━
ワカラナイ
何もかも、世界はワカラナイことだらけ、
少年。南雲ナナキはかつてその、宝石のようにキラキラとした瞳は鳴りを潜め、今は虚ろにくすんでいる。
召喚者達に与えられた豪華で広い部屋の、一人では大きすぎるベッドで蹲りナナキは、見た目以上に幼い頭で考えを巡らせる。
なんで?なんであにぃはいなくなったの?
あの髭モジャの……
死ぬ……。
それは会いたい人が、もう絶対会えないところに行っちゃうこと。
あにぃも、そっちに行っちゃったの?
このとき、南雲ナナキの頭の中で様々な記憶の景色が
なんで?
あにぃは帰ってくるって言った。ヤクソクした。なのになんでヤクソクを破ったの?
思い出されるのは5日前、早朝に旅立つ兄と交わした指切り……。
なんデ?
思い出されるのは大凡10年前、海外を飛び回っていたかつての両親が、自分を介護ヘルパーさんに預け、旅立つのを玄関で
なンデ?
あにぃ……ナナキは
ナンデ?
ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?……………
ナンデ?
あ……そうか……
いいこだったから、大事なものがいなくなる。
いいこだったから、大切なものが奪われる。
イヤだ……イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!
そんなのイヤだ!!
そんなのだったらナナキは、いいこでいたくないッ!!
それならどうしたらいい?
考えるまでもない、とってもカンタンなこと
いいこじゃない……わるいこになりたい……
あにぃ達みたいにとっても大きな体に、変わりたい
あにぃを……大好きなものを守れるように強く、変わりたい
イヤなもの、ぜんぶ、ぜんぶ、はねのけるように、
変わりたい!!
その時、
少年。南雲ナナキのそんな気持ちに呼応するように、彼のオーバーオールの胸ポケットが光る。正確にはその中にある彼のステータスプレートが脈打つように光り輝く。
次の瞬間。ナナキの体が膨れ上がる。
元々オーバーサイズだった服をビリビリに突き破り、その身に僅かな布切れを残したまま、そこに現れたのは、元がナナキだったなんてわからない異形のバケモノだった。
それは2メートル以上の巨躯に、灰色のゴムの様な質感の体、丸太のように太い手足、手には4本、足には3本の大根のように太い指の間には水掻きのような皮膜が広がり、広すぎる肩幅から直接、ホオジロザメの首が生え、腰からは尾びれのようなものが伸びている。
それは、なんの感情も映していない深い海のような藍色の瞳をギョロリと回転させる。
『あニィ……ノ……ニおいガスる……』
このような姿になろうとも、未だに可愛らしく、しかし更に片言へと変じた言い回しでそう呟くナナキ。
そのまま壁に隔たれた外へと視線を向ける。
鮫の嗅覚は水中の中でも10メートル先の匂いを嗅ぎ分けることができる。しかしそれは水中の中での話、水に溶け込んだものの匂いを嗅ぎ分けるその嗅覚が水と言う隔たりを取り払われたなら……
その嗅覚は際限なく上昇する。更に、どんな障害物も障害にならない鮫特有の『電気感覚器官』も合わさる。
それらをナナキは異世界のチートパワーで底上げさせ、並の鮫なんかを軽く凌駕する探知能力を獲得したのだ。
そしてその人外の嗅覚が大好きな兄の残滓を捕らえる。
道が見えたのなら、やることはただ一つ。
真っ直ぐに突っ走るだけだ。そして思う、自分の体から力が漲るのを感じると。今なら何でもできる気がすると……。
ナナキだった異形はそのまま、まるで壁なんて元から見えていないかのように全速力で走り真正面から壁に激突して、素通りするように破壊する。
本来であればそれなりの破壊音が轟き、すぐに兵達が動き出すのだろうが、幸いと言っていいのか朝から降り止まぬ豪雨で、あらかたの音はかき消せていた。
そのままナナキは、爆発的な跳躍で城の城壁を難なく飛び越え、一直線に兄の匂いが続く、宿場町【ホルアド】へと向かう。
数時間後、あらゆる障害物を何の躊躇いなく破壊しながら、猛然と駆け抜けたナナキは、なんとッもうすぐホルアドへと到着しようとしていた。
本来王都からホルアドまでは馬でも約半日は時間を有する。それならば何故ナナキは、こんな短時間でホルアドに到着してみせたのか?
それは、人が馬でホルアドに向かうには、安全なインフラが形成された街道を通るしか無いが、ナナキの場合は、何の整備もされていない獣道を一直線に突っ切る事が出来る。
ナナキは匂いで終着点が見えている。ならばわざわざ回り道などせずに直線ルートを突っ走ってくればいいと、幼く単純な結論に至る。
本来そんな考え、思いついても実行できないが、今のナナキの異形の力がそれを可能にしてしまった。
どんなに硬いものに衝突しようとも、逆に砕いてみせる頑丈な体。
仮にその頑強な守りを突破され、傷付けられたとしてもすぐに再生してみせる驚異的な自己再生能力。
どんな長距離もを走破して見せる圧倒的スタミナ。
今のナナキの体にはこれらの能力が備わっていた。並の魔物じゃまず相手にならないだろう。
森の中で度々野生の魔物と初対面したが、殆どの魔物はその威容に恐れをなして逃げるか、立ち向かって来たとしても圧倒的な突進により瞬殺されていた。
唯一、雨によって匂いが消えるという心配があったが、アレだけ激しく降っていた雨も気づけば止んでいたことで、それも杞憂に終わった。
足跡に魔物や樹木の死屍累々を築き上げ、そうして遂にナナキは森を向け出して街道に出た。視線の先は宿場町ホルアド、そして兄の匂いの終着点、【オルクス大迷宮】。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
ナナキはその凶悪な鮫顔の身震いするほど鋭い牙が二重に生え揃う大きな口を開け、雄叫びを上げた。
突如街に現れた恐ろしい風体の
つい先程まで平和に賑わっていたであろうホルアドの町を視線に収めたナナキは『グギュルルルルルッ』と鳴る巨大な腹の虫と共に一言、こう呟いた。
『ハらガ……へっタ。』
♢
「う……そ……」
「は…………?」
壁に大穴が穿たれ、誰もいなくなった部屋の前で、
私、白崎 香織は、雫ちゃんと一緒に呆然と立ち尽していた。一体ここで何があったの?ナナキ君は何処?
ここはナナキ君と南雲君が使ってた部屋で、南雲君が居なくなってからは、ナナキ君一人で使っている。
そこに今日、私と雫ちゃんはオルクス大迷宮で南雲君を助けられなかったことをナナキ君に謝罪しに来ていた。
しかし、部屋の様子がおかしいことに気づいた雫ちゃんが、慌てた様子で部屋の扉を開ければ。
部屋に居るはずのナナキ君は居なくて、部屋の壁が破壊され、外の景色が丸見えになってしまっていた。
「な……ナナキちゃん!?」
あまりな出来事に少し固まっていた私達。そこで雫ちゃんがいち早く復活して、部屋の中に入り穴から外へと顔を出して視線を巡らせる。
するとこの部屋のすぐ真下、壁の破片の瓦礫に騎士の人たちが続々と集まっているのが見えた。
恐らくこの異変の調査に駆けつけたらしい。中には光輝君と龍太郎君もいる。
「一体……何が……?」
言ってはみたけど、原因なんて考えるまでもない。この穴を開けたのがナナキ君で、こんな信じられない惨状は魔法か、それに類する何かを使用した結果だろう。
それはつまり……。
「どうした!!何があった!!」
その考えに思い至る前に、メルドさんも駆けつけていた。そしてその惨状を見た後、部屋にいる私と雫ちゃんが目に入ったのかメルドさんが大声で声を掛ける。
「雫!!香織!!そこは誰の部屋だ!?お前たちの部屋か?……それとも………まさかッ!?」
メルドさんもそこまで言って思い至ったのか目を見開く。雫ちゃんはその返答として首を大きく縦に振った。
それを受けてメルドさんの表情が青く染まる。そう……。この結果が表すのはつまり、ナナキ君が技能を、天職を、”変質者“覚醒させてしまったということ。
するとその答え決定づけるように一人の騎士がメルドさんに報告にやってきた。
「報告します!ホルアドにて、見たこともない正体不明な
「何だと!?」
私達は驚愕する。速すぎる!ここからホルアドまでは馬でも相当の距離がある。そもそも本来、結界のおかげで町中で魔物が現れるなんてことはありえない。つまり魔物を阻む結界の影響を受けなかったソレは魔物ではないく、私達が思い起こすあの子であることの証明でもある。何より、
「団長……いかがなさいますか?」
本来、こんなこと聞くまでもなく迎撃、又は即討伐が当然だろう。それがましてや異端の認定を受けた“変質者”だ。
王国騎士、更には教会の信徒として、考えるまでもないことだろう。だが、メルドさんは当然、その騎士の人も迷っていた。
ナナキ君の素直で明るく、自分なりに一生懸命で微笑ましい姿は、メルドさんだけじゃなく。騎士の人達も目の当たりにしていたはずだ。
そして、南雲君がいなくなって塞ぎ込んでしまうあの子も、そんなあの子に一定の情が湧いてしまうのは騎士以前に人として当たり前だろう。
「ホルアド常勤の騎士達に市民の避難を優先させ、積極的な戦闘は控えさせろ!!
「「「「ハッ!」」」」
よって、このような命令がくだされるのはもはや必然だった。騎士の人達も淀み無く返事をしたことからもとよりそのつもりだったのだろう。
「我々も急いでホルアドへ向かう」とメルドさんが言ったのを、皮切りに私達も口々に叫ぶ。
「メルドさん!私達も行きます!!」
「連れて行ってください!!メルドさん!!」
「市民の皆さんが心配です。俺達でその魔物を退治しないと!」
「光輝が行くなら俺も行くぜ!!」
光輝君達は少しズレた事を言ってたけど、私達は必死にメルドさんに懇願した。メルドさんも私と雫ちゃんの気持ちを察して、渋々頷いてくれた。
「ホセ、お前はここに残り指揮を任せる。城を頼んだぞ!」
メルドさんは副団長のホセさんに後を頼み私達はメルドさん率いる少数精鋭の騎士達と共に大急ぎでホルアドに向かう。
どうか……
♢
白崎、八重樫達がホルアドへ向かって数時間後、城のとある一室で、この男、檜山大介もまた他の生徒たちの例に漏れず塞ぎ込んでいた。
部屋の片隅で膝を抱え、顔を膝に埋め微動だにせず、ぶつぶつと何かを呟いている。その顔は酷いもので顔色は悪く、あまり眠れていないのか目の下のくまも濃い。
もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。
あぁ、確かに彼は落ち込んでいる。だがそれは、他のクラスメイトとは少し違った理由だった。
「ち……違う…違う違う違う違う違うッ違うッ!!?お……俺は……俺は悪くない!!ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってないッ!!」
今もこうしてまるで魘されるように両手で頭を抱え、自己弁護に徹しているだけだった。
そう、あのときオルクス大迷宮にて、軌道を逸れてまるで誘導されるようにハジメを襲った火球は、この檜山が放ったものだったのだ。
階段への脱出とハジメの救出。それらを天秤にかけた時、ハジメを見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。今なら殺っても気づかれないぞ? と。
そうしてうまい具合にクラスメイト達が放つ多くの魔法弾の中へ紛れ込ませるように、ハジメへと向かう火球を放ってみせたのだ。自分の風とは違う特性の魔法。あの緊迫した状況の中証拠などなく、自分がやったなんて分かるはずも無い。
追求もされないことで最初こそ、してやったりと言う風にほくそ笑んでいた檜山だったが、それは城に帰ってくるまでだった。
自分たちの帰りを迎えに来たのは、忌まわしいハジメの弟、南雲ナナキだったのだ。
ナナキの、兄を求める問いかけを
「何故、お前達は助けられなかったのか?」と言うように見えたと、八重樫達は表現したが、檜山だけは違った。
檜山にはナナキの問いかけが、
『よくもあにぃを殺したな!!』
と自分を睨みつけ、責め立てるように感じたのだ。
当然、ナナキはそんなことは一ミリも考えていないため、どこまでいっても彼らの罪悪感から生まれた勝手な妄想であるのだが、罪の意識に押しつぶされそうな彼らにとっては仕方のないこと。檜山のソレは、自分が殺ったという自覚がある分、他者のものより一層重く感じるだろう。
ならば、そんな檜山にも一端の罪悪感と罪の意識があったのかと問われるとそうではない。
「ばっバレたら殺されるッ……今度は……俺がアイツ
に……!!」
彼の心の中にあるのは、どこまでも己の保身だけだった。
だってそうだろう。兄弟を殺されたなら報復、誰だって思いつく事だ。あの幼いナナキが、単純なその思考を思い至らないわけがない。
まぁそれも、檜山の勝手な被害妄想ではあるのだが……。
しかしそれでも檜山は恐ろしかった。なぜなら、ナナキの実力を正しく理解しているのは、兄のハジメと訓練を付けていたメルド団長、八重樫 雫……
そして実際にその身で体感した檜山自身。
檜山も訓練で順調にステータスを伸ばしているが、初期より天之河並に強かったナナキには勝てるビジョンが浮かばない。
あんな加減も知らないガキが、怒りのままに振るう力はどのような結果をもたらすか?考えるまでもないことだろう。
故に、そんな檜山にとって南雲ナナキとは、毎晩に悪夢で出てくるほどの恐怖の対象になっていた。
「や、やめろ!やめろやめろ!!そんな目で俺を睨むなぁ!!」
あまりの寝不足でこのように幻覚をみるレベルである。
しかし今日この日、そんな彼にも救いの手が差し伸べられる。
「うーわッ……予想してたけど、酷い有様だねぇ君。」
「ぎやぁああああああああああああああああああああ!!」
突如、自分しかいないはずの室内に他人の声が響き、恐怖のどん底にいた檜山は喉が裂けんばかりに絶叫する。
「うるさッwww少しは落ち着いてよ〜」
そう言って侵入者は指で耳の穴を塞ぎバカにしたように言う。
冷静になってその侵入者を見ればそいつは、見知ったクラスメイトの一人だった。
「お…お前なんでここに!?……か、勝手に入ってくんなよ!!」
「そうカッカしないでよ〜人殺しの檜山くん♪」
そう言われ、檜山はは顔を青ざめ押し黙ってしまう。そんな檜山の反応を見て、その人物はにやりと笑う。
「やっぱりね~ッ!あの気狂いショタがえんえん泣いてるとき、君だけ微妙に反応違ったもんねぇ〜♪
ねぇ?今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?そして、その残された家族の反応を見て、どう思ったの?」
その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが一人死に、その弟の悲痛な叫びを聞いたというのに、その人物はまるで堪えていない。程度はどうあれ、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。
「……それが、お前の本性なのか?」
呆然と呟く檜山。
それを、馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。
「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」
「ッ!?やっやめろ!! そ、そんなことしたって……信じるわけ……だ……だいいち、証拠も……」
「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」
檜山は追い詰められる。まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。
「そ・れ・と・もぉ〜…………あのショタが怖いのかい?」
それを聞くと檜山は「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、すでに壁際にいるのに、後付去るように身をすくめる。
「ぷっあっはははは!!だよね!!君あのときこっぴどくやられてたからねぇ!!怖がるのも当然だよ。なんせ今度は殺されちゃうッ!………かも?」
檜山はついに耐えられず頭を抱えて床にうずくまってしまう。
怖い怖いっ死にたくないッと
そんな檜山を嘲笑いながらその人物は更に言葉を並べる。
「安心しなよ……。あのショタは今オルクス大迷宮に行ってて、ここにはもういないよ、化け物になってね。」
それを聞いて檜山は「へっ?」と間抜けな声を出して顔をあげる。
「大好きな、だぁい好きなハジメお兄ちゃんに会いたくて自ら危険な場所に飛び込みに行くなんて…、ホント可愛いくらいバカだよねぇ〜。
でも、わかるなぁ〜僕も、そういう気持ち……。」
最後に「君にもわかるだろう?」なんて言って締めくくる。
「ど……どうしろってんだ!?」
さすがの檜山も気づく、ここまでお膳立てで話すのだ。コイツは自分に何か要求があるのだろう。訝しみながらそう問いただす。
「うん? 心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない? ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」
「そ、そんなの……」
実質的な奴隷宣言みたいなものだ。流石に、躊躇する檜山。当然断りたいが、そうすれば容赦なくコイツはハジメを殺したのは檜山だと言いふらすだろう。
葛藤する檜山は、「いっそコイツも」とほの暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔の誘惑をする。
「白崎香織、欲しくない?」
「ッ!? な、何を言って……」
暗い考えを一瞬で吹き飛ばされ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する檜山。そんな檜山の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。
「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」
「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」
あまりに訳の分からない状況に檜山が声を荒らげる。
「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。……それで? 返答は?」
あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷く。
「……従う」
「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハッ」
だが、檜山は未だに拭いきれない恐怖があった。それが南雲ナナキの存在だ。その様子を察したその人物は呆れの表情で檜山を諭す。
「あんなガキに何を怯えることがあるんだい?
そもそもあの能無しが単独で迷宮に潜ったところでどうこうできるわけがないだろ?よくてせいぜい、ベヒモスの手前で野垂れ死んでるのが関の山だよ。ハハハッ」
そう言ってその人物は檜山の部屋から退室していく。その後ろ姿を見ながら、檜山は「ちくしょう……」と小さく呟いた。
だが檜山の中から、いつしか次第に恐れと屈辱が消え失せ、醜い嫉妬と、仄暗い希望がふつふつとこみ上げる。
そう、ここ数日。恐れの中にあっても檜山の脳裏には忘れたくても、否定したくても絶対に消えてくれない光景がこびり付いている。ハジメが奈落へと転落した時の香織の姿。どんな言葉より雄弁に彼女の気持ちを物語っていた。
今は失意のどん底に沈んでいるクラスメイト達も、いずれ香織の気持ちを悟るだろう。香織が決して善意だけでハジメを構っていたわけではなかったということを。
そして、憔悴する香織を見て、その原因に意識を向けるだろう。不注意な行為で自分達をも危険に晒した檜山のことを。
上手く立ち回らなければならない。自分の居場所を確保するために。もう檜山は一線を越えてしまったのだ。今更立ち止まれない。あの人物に従えば、消えたと思った可能性――香織をモノにできるという可能性すらあるのだ。
「ヒヒ、だ、大丈夫だ。上手くいく。俺は間違ってない……」
再び膝に顔を埋め、ブツブツと呟き出す檜山。
今度は誰の邪魔も入ることはなく、
しかし、彼らは知らない。
”変質者“の……いいや。南雲ナナキに秘められた力が、どれほど強大なのかを……。
それはナナキ自身にも、預かり知らぬことだった……。
ひぎぃあああああああ!!
あっ赤バーになってるぅ!!?
あいうえお^_^ さん、touhu さん、Error666 さん、
厚切りレンコン さん、青嵐・パーシー さん、
北山時雨 さん
後もう一人、バグなのか何かわからないけど名前がわからない人!
ほんとにありがとうございます!!m(_ _)m