エンジェル・フォールン   作:暁天花

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最終章 君が向かう光
第十七話 閃光と星空の中で


『ユウキ・アレスシルト大尉の反応は、〈熾天使(セラフィム)〉の(コア)の中を示している』

 

 

 

「……やっぱりか」

 

 ラプラスの告げた事実に、ミユキは目を細めながら奥歯をぎりと噛み締める。

 〈天使〉に同化された人間の情報――すなわち魂は、光の粒子となったのちに〈天使〉の(コア)へと集積される。それは三十年あまりの戦争の中で何度も検証と議論が重ねられ、そしてほとんど確定的となった事実だ。

 

 だから、ユウキの存在場所が〈天使〉の中なのだろうとは予想はしていた。けれど。まさかよりにもよって〈熾天使(セラフィム)〉の中とは。考えうる中では最悪に近い状況だった。

 

 どこか苦悶に満ちた脳内の“音"を聞きながら、ミユキは考える。このまま〈熾天使(セラフィム)〉を攻撃すべきなのかを。

 

 〈熾天使(セラフィム)〉の動きがこれ程緩慢なのは、恐らく中にいるユウキが何らかの行動を起こしているからだろう。最強格の〈天使〉たる〈熾天使(セラフィム)〉が遠距離攻撃の手段を持っていないとは思えないし、第一、脳内に響く不快な“音"が前回に会った時よりも明らかに弱いのだ。ストレートに考えれば、このまま〈熾天使(セラフィム)〉を撃破すべきなのだろう。

 

 けれど。

 

 ユウキが〈熾天使(セラフィム)〉との同化状態にある以上、〈熾天使(セラフィム)〉への攻撃はそのままユウキにも伝播(でんぱ)する。奴への攻撃は、ユウキを傷つけることと同義なのだ。

 

 それに。なにより。〈熾天使(セラフィム)〉の(コア)を破壊してしまえば、そこに集積されていた情報はバラバラになってしまう。それはつまり、『ユウキの情報を奪還する』ということが不可能になるということだ。

 目の前にユウキがいながら、彼女を見殺しにするどころかこの手で殺すことになる。

 

 そんなことは、したくない。

 

 短く深呼吸をして。ミユキは決意の灯った瞳で〈熾天使(セラフィム)〉を見据える。

 

「ラプラス、精神接続(クロッシング)から防護プロテクトを外してくれ」

『……やるのか』

「助けるには、今しかない」

『ちょ、ちょっと待ってよ。ミユキ、あんた何するつもりなの?』

 

 困惑したレツィーナの声が聞こえてくる。彼らには救出計画の内容を伝えていなかったのだ、無理もないだろう。

 

「〈熾天使(セラフィム)〉と一時的に同化して、ユウキと一緒に帰ってくる。それだけだ」

『は、はぁ? あんた、何言ってんの?』

 

 やはり、帰ってくるのは再度の困惑の声。『そんなこと出来んのか?』というアレンの問いに、ラプラスははっきりと答える。

 

『可能だ』

 

 そして、ラプラスはミユキがこれからやろうとしている事の説明を始める。

 

『まず前提として、〈D-TOS〉が魔導の発動を可能としているのは深層意識野の一時的な改変によるものだ。そして、深層意識野は、〈天使〉も含めた全ての生物の根源にある』

 

 つまり。人間と〈天使〉は、深層意識野という同じ土俵で戦っているのだ。ここを介さない限り魔導は決して発動できないし、〈天使〉たちも攻撃できない。

 

『奴らの精神侵入も、この深層意識野を通じて無差別に逆流を試みてるに過ぎない。……だが。これはつまり、奴らの侵入経路を辿れば〈天使〉の中に――(コア)に入り込むことができるということだ』

「だから、一度同化されて〈熾天使(セラフィム)〉の中に入る。入りさえすれば、ユウキの情報を奪還することはできるはずだ」

『……帰りは』

『それについても心配はいらない。数秒間の同化ならミユキの意識は取り戻せるし、奴に完全に同化することもない。ユウキの情報についても――』

『手立てはあるんだな?』

 

 先読みでアレンは問うてくる。真剣そのものの声音で。

 

『……ああ。確実に』

 

 対するラプラスははっきりと断言した。しばらくの間沈黙が空いて。アレンとレツィーナはぽつりと呟く。

 

『……絶対に帰ってこいよ、ミユキ』

『私たちに嫌な後始末させないでよね』

 

 二人の言葉に、こくりと頷いて。

 「行ってくる」とだけ言うと、ミユキは〈熾天使(セラフィム)〉へと再度肉薄を開始した。

 

【精神保護プロテクトを解除。精神侵入を確認】

 

 脳内に無機質な機械音声が通る。一瞬の微かな開放感ののち、ミユキの脳内には〈熾天使(セラフィム)〉の発する不快な“音"が響き渡る。

 本能的に拒否したくなるのを理性で律し、ラプラスという命綱だけを頼りに“音"が持つ歓喜と安堵を受け入れる。

 漂白されていく視界とともに、ミユキの意識はふわりと途切れた。

 

 

 

  †

 

 

 

 光の化身たる〈天使〉の中は、一面暗闇の世界だった。

 どこに目を向けても、視界に入るのは真っ暗な世界に幻視のように揺らめく『誰か』の情報と記憶の残滓だ。今まで〈天使〉に同化された人たちが残した、彼らがこの世界に存在したという僅かな情報の欠片たち。

 

 幼い少年少女もいれば、年老いた老人もいる。けれど、大半は誰かを守るために戦って散っていった軍人たちのものだ。彼らの情報はその殆どが喪われてしまっていて。どんな人だったのかは何も分からない。分かるのは『いた』ということだけだ。

 

 そして『いた』という情報そのものも、〈天使〉の中では時間とともに消えていってしまう。後には何も残らない。

 暗闇と情報の海の中をミユキは進む。ユウキのいる座標は、こちらに来る直前にラプラスが〈D-TOS〉で送ってくれた。その情報に沿って右、左、上と進んで行って――

 

 消えかけの身体で目を瞑るユウキに出会った。

 光の粒子と化した身体は、既に下半身が消滅していて。閉じた双眸は、わずかに痛みがあることを示している。

 

 ……やっぱり。感覚は〈熾天使(セラフィム)〉と同化されていたんだ。

 

「ユウキ」

 

 はっきりとした口調で名前を呼ぶ。彼女との思い出が脳裏を駆け巡り、ミユキの心の中に熱いものを形成する。

 彼女の左眼の傷、互いにすれ違って怖かった心。わかり合えた時の安堵と喜び。再び心から笑い会えた日々。

 辛かったけれど、それでも生きていて良かったと思えた日々。そこには、ミユキだけじゃなくてユウキもいなくちゃいけない。

 

 うっすらとユウキが目を開ける。左右で色味の違う、綺麗なみどり色の瞳。

 

「……ミユ、キ?」

 

 とても苦しげな、何かに耐えているような小さな小さな声だった。そんな彼女の瞳を真正面から見つめて、ミユキは短く、

 

「お前を迎えにきた」

 

 とだけ伝える。そして手を差し伸べて、一言。

 

「帰ろう。みんなのところに」

 

 それ以外に言葉は必要ないと思った。今はユウキと共にここを出る。それだけで十分だ。

 少しの静止の時間ののち、ユウキは繊細な動きでミユキの手を取る。光の粒子の中には、確かに彼女が『そこにいる』という暖かな感覚があった。

 

 ユウキの手をしっかりと握って、上方に急加速。薄れゆく意識と安堵感の中で、ミユキは今一度心の中で叫ぶ。

 ――みんなで、帰ると。

 

 

 

 

 意識が漂白されるその瞬間。ユウキは視界の端に一人の幼い少女の姿を見る。

 ミユキと同じ濡羽(ぬれは)色の黒髪をハーフアップで纏め、にこやかに微笑む双眸は優しい緋色を湛えている。

 その少女のことを、ユウキは知っていた。記憶の底に眠っていた、聞き覚えのある声と姿。遠くに消えゆく少女の名前は。

 

 ――キルシェ・ヘルフェイン

 

 

 

  †

 

 

 

 再び意識を取り戻し、目を開けた時。ミユキの眼前には星空の中に〈熾天使(セラフィム)〉が悠然と佇んでいた。

 赤色の左目と()()()()()で周囲を確認しながら、ミユキは呟く。

 

「……そこにいるんだな?」

『【ああ。私は、ここにいる】』

 

 脳内に直接響くのはユウキの声だ。それと重複して、通信機からも彼女の声は聞こえてくる。

 

『え? ユウキ!? どこにいるの!?』

 

 いち早く驚愕の声を上げたのはレツィーナだった。彼女の疑問にラプラスが答える。

 

『アレスシルト大尉は現在、ミユキの中に存在している』

 

 『……どういうことだ?』と、アレンの声。しばらく考えた後、ラプラスは続けた。

 

『一度光になったミユキは、〈熾天使(セラフィム)〉の中で同じく光となっていたアレスシルト大尉を救出した。だが、実体情報――つまり人間の身体を喪失したアレスシルト大尉は、現実世界に実体として存在することはできない。かといって、俺の中に存在させるにしても、一度〈天使〉から情報を引き離す必要がある』

『【簡潔に言うと、私はミユキの身体を借りて〈熾天使(セラフィム)〉から脱出したということだ】』

『それで、今もそのまんまミユキの中に居るってことか?』

『【ああ。その認識で合っている】』

『……マジか』

 

 思わずアレンは呟いていた。

 

 ……まぁ、今の状態はとても現実的とは言い難い状態なのだ。彼らの困惑も無理はないだろうとミユキは思う。

 

 とりあえず事態はおおかた飲み込めたのだろうと判断したらしい、ユウキは目の前の問題へと話を移す。

 

『【現状は奴の中で(おおむ)ね把握している。〈天使〉の最高中枢拠点の撃破が目標だな?】』

 

 ミユキはこくりと頷く。精神レベルで融合している二人は、当然思考も共有している。

 

『【今の状況を打破する方法は唯一、あの漆黒の円の中に存在する十字架を破壊するしかない】』

『けど、どうやって……?』

『【策はある。以降の指揮は私に任せてくれるか?】』

『ああ』

『もちろん』

 

 二人の応答に微かな安堵を示し、ユウキは言葉を続ける。

 

『【察しの通り、〈天使〉たちの最高中枢拠点はあの黒い円の中にある十字架だ。あそこを介して〈天使〉は人類の同化命令を受信し、各方面への侵攻を行っている】』

 

 〈熾天使(セラフィム)〉の直下、漆黒に染まる円形の中には、十字架状のナニカが異様な存在感を放っている。あれが、〈天使〉の根源――三十年近くに渡り人類を消し去り続けてきたものの正体だ。

 

『【ここが時空の圧縮された空間で、あの黒い円が別次元への扉だということは知っているな?】』

『ああ。ここに来た時に俺が話した』

 

 ラプラスの言葉に続くようにして、三人は無言の肯定を返す。同時に、ミユキは脳内でその黒い円は暫定的に〈門〉と呼んでいることも伝えた。

 

『【私たちが上位次元には行けない以上、あの黒い円――お前たちの呼ぶ〈門〉へは手出しができない。だが。〈熾天使(セラフィム)〉を撃破できれば、どうにかできる隙が産まれるはずだ】』

 

 言われて、ミユキたちは視線を〈熾天使(セラフィム)〉へと振り向ける。〈門〉の直上。二枚の羽根を失った〈熾天使(セラフィム)〉は、特に目立った行動をすることも無くそこに悠然と佇んでいた。動きに細心の注意を払いながら、ミユキたちはユウキの提案に耳を傾ける。

 

『【奴はこの世界の〈天使〉の多数を束ねるという性質上、撃破された際に放出される情報量が桁違いに多い。そしてその際、あの十字架は〈熾天使(セラフィム)〉が放出した情報を吸収しようとこちらの世界に出てくるはずだ】』

『こっちの世界に来るって確信はあんのか?』

 

 アレンの問いに、ユウキは苦笑したように笑う。

 

『【奴のの中で色々と見せて貰っただけでな、具体的な数値等や根拠は一切提供できない】』

 

 けれど、と。ユウキは真摯な声音で続けた。

 

『【現状を打破するにはこれしか方法がない。……私を、信じてくれ】』

 

 しばしの沈黙。ミユキとユウキが固唾を飲んで見守る中、最初に声を返したのはレツィーナだった。

 

『ホントに、他に手段はないの?』

『俺の方でも幾つか演算してみたが、現状の戦力では他に手段はない』

 

 キッパリとラプラスが言い切る。時空に関しては魔導である程度の改変は可能だが、次元は深層意識野に関連しないという性質上まず魔導で扱えるものではないのだ。文字通り次元が違うために、一切の介入ができない。

 

 一呼吸間を置いて。レツィーナが吹っ切れたように呟く。

 

『……わかった。なら、ユウキ。私はあんたを信じる』

『【ありがとう。……アレン、お前は】』

『断ったところで他にやれることがねぇしな。……俺らは、何をすればいい?』

 

 こちらも吹っ切れたような口調で訊ねてくる。二人の信頼のこもった声音に、ミユキとユウキは心が暖かくなるのを感じていた。

 気持ちを切り替え、精神を再び戦闘態勢へと戻す。各種の一時強化(ブースト)を予備起動。

 

『【二人は引き続き翼の破壊を頼む。ミユキ、お前は】』

(コア)の破壊だな? わかった」

 

 ――勝手に人の心を読むな。

 

 脳内に浮かんできたのはそんな言葉だった。

 読むな、と言われても。勝手に流れ込んで来るんだから仕方ないだろうに。

 呼吸を整え、精神を集中させる。右手で〈魔導剣(ダインスレイヴ)〉を構え――

 

『【各員、行動開始!】』

 

超加速(ブースト)起動】

 

 その声と共に、ミユキは最大速力で〈熾天使(セラフィム)〉へと突っ込んだ。

 戦闘適応処置と飛行魔導の速力をともに八〇〇%で一時強化(ブースト)し、視界に映る光線と〈熾天使(セラフィム)〉の動きが遅くなる。重ねて見えるのは、〈D-TOS〉によって算出された異次元転移痕(てんいこん)の予測発生情報だ。

 

 魔導盾(シールド)で迫り来る光線を相殺し、防御不可能な高貫通の光線を〈魔導剣(ダインスレイヴ)〉で斬り伏せる。〈魔導拳銃(リジル)〉の射線を光線に合わせ、発射。放たれた光線は〈熾天使(セラフィム)〉の光線と激突し、空にいくつもの鮮やかな爆炎を咲かせていく。

 

 左の上空では二丁の〈魔導銃(レーヴァテイン)〉を駆使して戦うアレンが、左の上空では同じく〈魔導銃(レーヴァテイン)〉を両手で構え、四つの機動兵装を自由自在に駆け巡らせているレツィーナの姿が見える。二人が注意を引いてくれているおかげで、ミユキに降り注ぐ光線はまばらで、異次元転移痕(てんいこん)の数も少ない。……これなら、〈熾天使(セラフィム)〉の懐に飛び込める。

 

 全速力で肉薄する傍ら、ミユキはほとんど全ての魔導を出力限界ギリギリで起動しているのに痛みがほとんどないことに気付く。

 疑問を口にするより先に、思考を読み取ったユウキが答えた。

 

「【精神レベルで融合している私たちは、擬似的にではあるが私とお前で二人分の意識と脳内容量が発生している】」

 

 ――じゃあ、今のおれはいつもより二倍の魔導使用ができるようになってるってことか?

 

「【その認識で間違いない】」

 

 ……自分の身体のことではあるが。我ながら凄いことになっているんだなと今更実感する。

 

 眼前に迫る巨大な一つ目が、きらりと不気味な閃光を瞬かせる。それを視認したのと同時に、ミユキはほとんど直感だけで右上へと進路をずらしていた。

 

 直後、元いた位置に極太の光線が通り抜ける。

 その光線は時空の歪んだ空間を通り抜け、外の通常世界まで到達。数秒ののち、後方で大きな爆発音が鳴り響いた。

 

『おいおい、空母が一撃かよ……?』

 

 ラプラスが驚嘆の声を漏らす。どうやら、今の爆発音は船が爆沈した音らしい。あそこにいた空母はどれも三〇〇メートルはあって、距離は時空の歪みを計算のうちに入れると四〇〇キロはあったから――

 

「……やばいな」

 

 思わず呟いていた。恐らく、ユウキが脱出したことによりあらゆる攻撃が自由に繰り出せるようになったのだ。〈智天使(ケルビム)〉の放つものの威力からある程度予想はしていたが……。まさか、これほどとは。

 

 とはいえ、ここで躊躇しているような時間は残されていない。いくら戦う力があるとはいえど、〈D-TOS〉の使用時間には限界がある。出力をギリギリまで上げているのもあって、残存の戦闘可能時間は十分ほどしかない。

 

 緊急停止していた一時加速(ブースト)を再び起動し、今度こそ〈熾天使(セラフィム)〉にとりつく。〈魔導剣(ダインスレイヴ)〉を瞳の中央に突き刺し、開いた傷口に最大出力の〈魔導拳銃(リジル)〉を接射。灯る光線の爆発を煙幕にして後退する。

 

『左下の羽根は潰した! レツィーナは!?』

『こっちも何とか右上の羽根は潰せたわ!』

 

 ……これで、奴の放つ雨のような光線は二万程度にまで減ったわけだ。その中でも高貫通のものはだいたい半分程度。これなら、いける。

 

 そんなミユキの心情を知ってか知らずか、ユウキはいつもの冷静な声音で指示を送る。

 

『【(コア)の防御が思ったよりも硬い。二人とも手を貸してくれ】』

 

 返ってくるのは、二人の『了解』という声。

 

『【ラプラスは光線の予測演算機能を一五%低下させ、その分のリソースを〈熾天使(セラフィム)〉の構造解析に回してくれ。最も有効な場所に打撃を与え続けて、戦闘時間の短縮を図る】』

『了解。……当たるなよ?』

 

 ラプラスの問いかけに、ミユキはこくりと頷く。

 

「ああ。分かってる」

『【では、いくぞ】』

 

 ユウキの言葉を掛け声にして、まずはアレンとレツィーナがあえて前進。両翼から放たれる光線の注意を買いつつ、(コア)へと全砲門を斉射する。大小計七門の光線は誤たずに〈D-TOS〉の示す位置へと着弾。爆発の光と同時に、抉られた傷口から白い光が漏れ出て来るのが見えた。

 

 だが、〈熾天使(セラフィム)〉とてやられるばかりではない。最も厄介だと判断したらしい、一つ目がきろりとレツィーナの方向を向く。

 

『なっ……!?』

 

 という悲鳴を最後に、外側へと離脱していたレツィーナは突然金縛りにあったのかのように動かなくなる。

 

【レツィーナ・レルヒェ少尉の精神接続(クロッシング)に問題発生。接続阻害および精神侵入の形跡あり。危険度S】

 

『【ちっ……!】』

『クソッ! 精神侵入をレルヒェ少尉に集中させやがった!』

 

 ラプラスが必死に抵抗を試みるが、防護プロテクトの対応は全く追いつかない。見かねたアレンがレツィーナを抱きかかえてその場を退避して――――直後。二人の居る地点に極太の光線が突き刺さった。

 

「っ――!?」

 

 その光景を、ミユキは視界の端で捉える。けれど、足は決して止めない。

 きっと前を睨み、まだ晴れない爆炎と白光の中へと突き進む。〈魔導拳銃(リジル)〉の射撃で爆煙と光を纏めて吹き飛ばし、見えた傷口の一端、〈D-TOS〉が指し示す最大加害点へと〈魔導剣(ダインスレイヴ)〉の刃を叩きつける。

 

 手に感じるのは、肉を裂くような確かな手応え。

 

 命の危険を察したか、〈熾天使(セラフィム)〉は自分の身体を傷つけるのも厭わずに両翼から光線を撃ち放ってくる。

 アレンとレツィーナの援護は期待できず、かといって魔導盾(シールド)等の防御魔導を展開するような時間もリソースもミユキには存在しない。両脚に、両腕に、頬に、脇腹に。あらゆるところに光の弾丸が突き刺さり、ミユキの身体を抉りとっていく。その度に激痛が走り、集中力が途切れそうになる。けれど。ミユキは前に進むのを辞めない。全身に光の槍を受けながらも、前へ前へと剣を突き進める。

 

「【いけ! ミユキ! こいつの心臓をたたっ()ってやれ!】」

 

 脳内にユウキの叫び声が聞こえる。自分の両腕に彼女の腕が重なっているような――気がした。

 遂に〈熾天使(セラフィム)〉の光の体を抜け、刃は極彩色の正八面体――(コア)に到達する。最後の力を振り絞り、大きくかぶりを振って。

 

 

 直上から、(コア)を真っ二つに叩き割った。

 

 

 割れた壁面からは、目を焼くような白い極光が滲み始める。全速力で〈熾天使(セラフィム)〉の体を退避して――

 一つ目の外に出たところで、光は臨界点に達した。

 

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