クダリさんとのバトル、初陣を終えた数日後、私は何度かポケモンゲットを試みてイッシュ地方の色々な場所を歩き回っていたのだが、どうにもしっくりこない。
どのポケモンを見ても、モンスターボールを投げる前に躊躇してしまう。本当にこの子でいいのかな。もっと強い子とか、今の私の手持ちにぴったりとあてはまる子がいるんじゃないのかな。でもポケモンなんてみんな違う。同じポケモンでも性格や特性、技構成でいくらでも化ける。ならやっぱりどの子でもいいんじゃないか。けれどそんな適当に決めてしまっていいのか?
そんなことをぐるぐる考えて、結局捕まえられずにポケモンに逃げられてしまうことが何度もある。
「……と、いう、ことがありまして……」
「あのね、そんなことまで考えてたら一生ゲットできない」
「やっぱりそうですよね……」
私はクダリさんの言葉に項垂れる。ぐるぐると悩んだ末に気付いたら私はまたギアステーションに来ていたのだ。次に会うときは正式にダブルトレインを勝ち進んだ時だと思っていたのに……。
すんなりクダリさんに会えたのは喜ばしい事なのだが、さらりと応接室に通され、コーヒーを淹れられ、悩み相談……というよりもはや説教じみたものを食らってしまっている。情けない……。
「ゲットする時はもっと肩の力を抜いた方がいい。不安とか緊張なんて感情はダイレクトにポケモンに伝わる。まだ君と出会って日が浅いけど、君は簡単なことも難しく考えすぎなんだと思う。ノボリもよく思考の海に沈んで独り言言ってたりするけど、君ほど難しく考えてない。思考の海で迷子になってるノボリは見たことない」
「昔から、物事を難しく考えすぎだって身内にも注意されていました。あれこれ考える前にまずは行動、とかも……私にはそれがどうも難しいみたいで」
「だったらまずは場所を一か所に決めたら? その一か所で、1匹のポケモンをゲットする。視野を狭めるのも時には大事」
「一か所……ですか。でも私、イッシュ地方に来たのはつい先月で、まだ全然イッシュの地形とか、生息するポケモンとか、把握しきれていなくて」
「んー……それなら、ちょっとついてきて」
「え、はい」
クダリさんはそう言って立ち上がると、応接室の扉を開けて外へと出たクダリさんに続いて私も部屋の外に出る。彼の後ろに大人しくついていくのだが、応接室がある場所よりもさらに中に、事務室のようなところに向かうから私の足が少し遅くなる。応接室ならまだしも、ここって職員さん以外が入ったらよくないんじゃないだろうか。そんな私の不安をよそに、クダリさんは扉を遠慮なしにガチャッと開けて入る。
「あっ、の! こういうとこってあんまり入ったらいけないんじゃないですか?」
「? ぼくここの職員。ある程度の場所はぼくたちサブウェイマスターに権限がある」
「じゃなくて! 私が! です!」
「ああ、ここ、サブウェイマスターの部屋だから。ぼく権限で入室を許可!」
「そっそんなひょいっと入れてしまっていいものなんでしょうか……」
「君はぼくの知り合いだから。ほら早く、入ってドア閉めて」
手招きをするクダリさんに私は大人しく従って中に入る。一体ここに何があるのか。と、私はキョロキョロと見回してしまう。
そんな私にクダリさんは「こっちだよ」と声をかけて、それから私に両手を出すよう言う。素直に両手をクダリさんに向かって出すと、クダリさんはそこにぽんと何かを乗せた。うぞ、と手のひらの上で何かが動く感触がして思わず息が詰まった。
「あのね、その子野良バチュル」
「野良、なんですね……」
手の中で動くのがバチュルだと分かると詰まった息もすぐにすんなりと元に戻る。
「地下鉄の電気系統によく潜り込もうとするから、逃がさないとだめ」
「なるほど……バチュルは電気を食べるポケモンですもんね。それにしてもずいぶんと人懐っこいですね……」
『チ、バチュ』
私の手のひらに乗っているバチュルがもぞもぞと動き、そしてころころと寝転がる。私の手のひらでは少々狭いのか、バチュルは居心地が悪そうにしていた。クダリさんはそんなバチュルの様子を少し眺めてから私の方を見た。
「逃がさないとだめだけど、そこら辺に適当に逃がすとまた地下鉄に戻って来ちゃう。だからぼくたち駅員の時間が空いたら遠くに逃がしてあげてる。この子もその予定だった。でも最近みんな忙しいからここ1週間くらいずっとここにいる。あんまり長い間人のいるところにいると人のにおいがついて野生に戻りにくくなる」
「なるほど……。でも、どうしてその子を私の手のひらに乗せたんですか?」
「このバチュルをゲットしたら?」
「…………え?」
クダリさんの言葉が上手く呑み込めず、素っ頓狂な声を出してしまった。手のひらの上のバチュルはそんな私を気にすることなくころころと寝転がっている。
「バチュルのタイプは知ってる?」
「えっと……むし、でんき?」
「そう。君の相棒もむしタイプ。どうせ育てるのなら育てたことのあるタイプの方がやりやすいと思う」
「で、でも、」
誰かに促されるような形でポケモンを捕まえるのは、なんだか気が引ける。クダリさんは私のそんな気持ちを見透かすように、私に向かって言う。
「もっと肩の力抜いた方がいいってさっき言ったばっかりなんだけど。それにね、ぼくの手持ちにバチュルの進化系、デンチュラがいる。育成に困ったら相談に乗ってあげられる。そして早く強くなってダブルトレイン乗って」
「……わ、かりました。バチュル、ゲットします」
私はバチュルを手のひらに乗せたまま、モンスターボールを構える。
「こ、このまま、何もせず捕まえて大丈夫なんでしょうか!?」
「も~、そんなことばっかり考えてたら日が暮れちゃう。ぼくの休憩だって無限じゃないんだよ。ダイヤの乱れは許されないんだから。ほら、バチュルにボールを当てて」
「っ、は、はい!」
ぽけっとしているバチュルにボールを当てると、バチュルは抵抗することなくモンスターボールに収まる。私の手のひらの上でゆらゆらと数回揺れ、カチンッとボールの揺れが止まった。
「ゲット、しました……。で、できたんです、よね?」
「うん。おめでとう」
「あ、ありがとうございます!」
バチュルの収まったボールを両手で包むように持ち、私はクダリさんにお礼を言う。
「じゃあ特訓だね。強くなるの待ってる」
「がっ、がんばります!」
「うん。またね。ぼくもそろそろ休憩から戻らないと」
「きゅ、休憩中だったのにお手を煩わせてすみません……」
「気にしないで。バチュルを手放せたから。それにゲットする君の手助けをしたら今後のバトルの投資にもなる。一石二鳥。だから全然大丈夫。どうせ聞くなら謝罪より感謝がいい」
「ぁ、ありがとうございます」
「ん!」
クダリさんはニッコリと笑って、それから一緒に部屋を出て、クダリさんは業務に戻る。私も、ちゃんとクダリさんに応えられるよう皆と強くならないと。
「ダブルバトルに出るにはもう1体……じゃない、あともう2体必要なんだ。道のり長いなぁ……」
私はそう呟いて、モンスターボールをぎゅっと握る。楽しい。私はすぐにスピアーをボールから出す。
「スピアー、新しい子をゲットしたの。特訓付き合ってくれる?」
『スピッ』
スピアーは私に返事をして、それから目標のダブルトレイン乗車のために一緒に特訓に励んだ。いつの日かはあの子にも向き合わなければいけないけど……。もう少し、バトルが得意になってから、の方がいいかな。
「早く、あなたを扱えるようになりたい。あなただってずっとそこじゃきっと息が詰まるよね」
そう言いながら私はカバンを撫でた。