「バチュル、エレキボール!」
『バチチッ!』
私の手持ちになってくれたバチュルが元気よく電気の球を繰り出す。10センチという小さな体から繰り出される技は意外にも高火力で、手強いと思っていた野生のポケモンにも勝てるほどになってきた。
「特訓に付き合ってくれてありがとう。きのみだよ」
戦ってくれた野生のズルッグにオレンの実とオボンの実をあげると、ズルッグは嬉しそうにきのみを頬張る。私はその様子を眺めながら、次のゲットに向けて作戦を練る。
「どこに行くのがいいのかな。ん、ヤグルマの森には結構強いポケモンがいたりするみたい」
『スピ?』
カツ、とスピアーの針がスマホロトムを二度ほどつつく。それは今いる場所からヤグルマの森が遠いということを私に知らせてくれているのだ。
「そうなんだよね……。電車とかいろいろ使っても結構遠いんだよね……。あんまり現実的じゃないかな?」
『スピ』
『バチ?』
スピアーとバチュルが揃って首を傾げる。2匹とも可愛いな、なんて思いながら私はヤグルマの森に行けないことを残念に思う。ならばどこに行こうか、とイッシュの全体マップを見ながら考える。ポケモンの大量発生のニュースとか出てないかな。珍しいポケモンの目撃情報とか。
全体マップから画面を切り替えて、ニュースを検索する。何か情報がないかとスクロールしていると、私の目にある記事が飛び込んできた。
「リュウラセンの塔の近くでミニリュウが釣れるんだって。進化したらカイリューになるんだよね。ドラゴンタイプはあんまり触れたことないなぁ」
釣りかぁ。何回かしたことあるけど、ミニリュウなんて釣ったことないなぁ。釣れるのかな。
私はその記事をブックマークして、イッシュのマップをもう一度見る。リュウラセンの塔は今いるホドモエシティからはそれほど遠くない。ヤグルマの森よりかは現実的な距離だ。
「えーと、セッカシティは雨が多く、冬は一面銀世界の寒い町……。冬にはこおりタイプがたくさん出現するみたい。こおりタイプもいいなぁ。でもまだ冬前だからこおりタイプには会えなさそう。あっ今はもうないけどジムもこおりタイプのジムだったみたい。わ、ジムリーダーハチクさんだったんだ。今は確か俳優さんだったよね。ハチクさんの映画、アクションがかっこよくてよく見るなあ」
『スピ、スピッ』
「うん。行ってみようか、リュウラセンの塔。塔の内部にはクリムガンとかもいて危ないみたいだけど、外ならそれほど危険じゃないみたい。それでも油断は禁物だけど……。防寒具と回復用の道具や木の実を多めに持っていこう」
『スピ!』
『バチュ!』
バチュルとスピアーはやる気満々だ。私はそんな2匹を見て、この子たちとなら大丈夫かもしれない、なんて思った。
・
・
・
「くしゅっ……うう、まだ冬じゃないのに雨のせいかな、空気がひんやりしてる……湿度も高くて髪がうねってる……。にしてもここまで来るの、すごい疲れた……交通の便が悪すぎるよ……」
思わず愚痴を零すと、隣にいるスピアーは元気出せよ、という風に鳴き、厚手のストールの中にくっついているバチュルも同意するように鳴いた。私は2匹にありがとう、と返してからセッカシティを歩く。寒いのはあまり得意じゃないから冬じゃなくてよかったと思うと同時に、この町が銀色に染まるところを見てみたいとも思った。
セッカシティは雨が多い町だと聞いたが、今は降っていない。しかしどんよりとした空模様でいつ降り出してもおかしくないような天気だった。水溜りも多いし、ついさっきまでは雨が降っていたのだろう。
私はスマホロトムのマップを見ながら塔の方へと向かう。
「あっちだね。行こう」
塔は町から少し離れた場所にある。バニプッチが大量発生しているのは塔の外側だけど、ちょっと外観を見るくらいなら大丈夫だろう。私はスマホロトムのマップを頼りに、スピアーとバチュルを連れて歩いた。
リュウラセンの塔に辿り着き、その大きさに圧倒されてしまう。マップに解説が少しだけ載っていた。この塔はいつだれが建造したかも不明なイッシュ地方最古の塔。イッシュ地方の英雄の伝説にまつわるドラゴンに関係していると思われる塔。イッシュ地方に伝わる民間伝承や神話にここが関係するだとか、学者の中でも結構有名どころらしい。
私はその塔の外観をスマホロトムで撮影し、塔から少し離れたところで釣りを始めようと釣竿を準備し始める。
『スピスピ』
『バチュ~?』
「気になる? これでポケモンを釣るんだよ」
スピアーとバチュルが釣竿に興味を持ったので、私は2匹に釣竿の持ち方や振り方を教えながら準備をしていると、視界の端で白いものを見た。
「……?」
そちらに目を向けると、そこにいたのはバニプッチだった。
「!? なっ、なんで!? 今は冬じゃないのに、寒いとはいえバニプッチにはまだ早いのに……いやでもこの気温でもバニプッチは生きていけるっていうこと、だよね。こおりタイプって意外と環境適応能力が高かったりするのかな……」
『スピ!』
「あっ、う、うん。どうせならゲット、だね!」
私は釣竿を簡単に片付けてバニプッチを追いかけた。塔の入り口のすぐ近くまで追いかけるが、バニプッチは塔の足元でぴょんぴょんと跳ねたりゆらゆらと揺れている。もしかしてこっちには気付いていない? それなら無理に技を使わなくても油断しているところにボールを投げたら捕まえられるかもしれない古い建物だから好き勝手に技を放つのもちょっと怖かったし……。
息を潜め、それからボールを思い切りバニプッチに向けて投げた。バニプッチはボールに吸い込まれ、何度か揺れながらカチッと音が鳴り捕獲に成功したことを知らせてくれる。私は嬉しくなって思わずその場でジャンプしてしまった。
「バニプッチゲット!」
ボールを拾いに行き、私はバニプッチをボールから出したのだが……。
『きししっ』
「ば、バニプッチ……じゃ、ない……!? えっ、えっとえっと、このポケモンは確か……」
慌ててロトムスマホの図鑑を起動させて、先ほどまでバニプッチだった目の前のポケモンにカメラを向けてかざす。すると画面にそのポケモンの情報が表示された。
ゾロア わるぎつねポケモン――バニプッチの白とは正反対の黒い毛並みを持つポケモンだ。
「ゾロア……だったんだ……」
『こんっ、きししっ』
目の前のゾロアはイタズラ成功! というように飛び跳ねたり笑ったりしている。ゾロアはイッシュ地方で確認されたポケモンだ。確か、図鑑説明だとポケモンや人間に化けてイタズラをするっていう習性があったはず……。臆病な性質が影響して、化けることで自分の正体を隠し、危険から身を守ることがあるんだとか。それはそれとして化けてびっくりさせることが好きっていうイタズラ好きなポケモンでもあるみたいだけど……。
「イタズラで人間にゲットされちゃうなんて、あなたも少しうっかりさんというか……。そんなつもりじゃなかったんだろうし逃がしてあげるよ」
そう言いながら登録を解除しようとボールを触っていると、ゾロアの尻尾がボールを弾いた。驚いていると、ゾロアはそのままボールを隠すように尻尾でボールを包んでしまった。
「え~……。あなたにボールを取られたままだと私のポケモンのまま、なんだけど……」
『こんっ』
「もう。とりあえず私はあなたをどうにかするつもりはないからね。好きにしていいからね。あ、お詫びにこれオレンの実あげる。じゃあ私はこれで」
ゾロアにオレンの実をあげてから先ほどの釣りポイントへと戻るのだが、ふと後ろから気配を感じて振り返ると『こん』と鳴くゾロアがいた。また歩き出すと同じようについてくる。
「す、スピアー、これって、そういうこと……なのかな」
『スピ、スピスピ』
スピアーが私の言葉を肯定するように頷く。私はゾロアに向き直り、声をかける。
「一緒に来たかったからボールを隠したの?」
『こんっ』
ゾロアはそうだ、と肯定するように鳴いた。私はどうしようか、と少し考えたが、勘違いとはいえ私はこの子をゲットしたのだ。それに元々私はポケモンをゲットしにここに来たのだ。私はゾロアに向き直り、手を差し出した。
「一緒にいてくれる?」
『こんっ』
ゾロアは私の差し出した手に前足を乗せて、嬉しそうに鳴いた。私はその体を抱き上げてひとまず当初の目的である釣りをすることにした。
しばらく釣りをしていると、ゾロアが釣竿を引っ張ってくれた。私は慌てて釣り上げると、そこにはミニリュウがいた。
「ほ、本当に釣れた!?」
『ミニュ~』
「驚いてる場合じゃない、スピアー……いや、ここは新しいゾロアで、ゾロア! みだれひっかき!」
『こんっ!』
ゾロアは指示通りひっかき攻撃をミニリュウへと繰り出した。ミニリュウはダメージを受けるが、それに怒って技を繰り出してくる。空気が張り詰めるのを感じ、私は咄嗟に足元の釣竿を拾って全員に逃げることを叫んで伝える。
「あのミニリュウ、はかいこうせんの準備してる! はっ早く逃げなきゃ、スピアー、ゾロアを抱えて!」
『スピッ』
スピアーはゾロアを抱えて、私と一緒に塔から離れる。次の瞬間にはかいこうせんが放たれた光が背後から感じて私は心臓がバクバクと鳴るのを感じた。セッカシティに戻ってくるなり私は腰をへなりと地面につけてしまう。
「ドラゴンタイプ、怖すぎる……。みんな大丈夫?」
『スピ』
『こぉん……』
「バチュルも……ストールの内側にくっついたままだね、よかった。ドラゴンタイプは私にはまだ早いみたい。……それもそうか。あの子もちゃんと制御できていないんだし……」
深くため息を吐くと、バチュルが心配そうに鳴き声をあげる。私は大丈夫だよと返して立ち上がる。とりあえずゾロアをゲットできたから仲間を増やす、という目的は達成できた。
ゾロアは私を見上げて楽しそうに鳴く。私は慌てて持ってきた釣竿を片付けてカバンの中にしまう。
「……あの子のこと、クダリさんに相談……ああでもクダリさんに頼りっぱなしっていうのも流石に情けないかな……」
でも正直な話クダリさん以外に相談する人なんていないと言っていいし……。あの人、に頼るのはなんだか釈然としないから嫌だし……。私はうんうんと唸っていると、スピアーが私のスマホロトムをカツカツとつついていた。その画面を見ると、ギアステーションがピックされていた。
「だ、だからクダリさんにたくさん頼るのは……!」
『スピ、スピスピッ』
「えっ違う? じゃあ誰に……。あ、もしかして、ノボリさん?」
『スピ』
「はっ、話したことないよ!? それなのに相談って、厚かましいというか、図々しいというか、失礼というか……」
『スピッ!』
スピアーはそれは違う、と否定するように鳴いた。じゃあスピアーが伝えたいのはなんなのかと読み取るべくスピアーを見る。
「……わかっ、た……。ノボリさんのいるシングルトレインに乗って、勝って、それでノボリさんと話せって、こと?」
スピアーの羽が一瞬激しく鳴った。正解のようだ。なるほど、それなら多少は罪悪感というか、厚かましいとか失礼という感情は薄れる。
「よし、そうと決まれば特訓。そしてシングルトレインに乗車、だね。みんな、一緒に頑張ってくれる?」
私はスピアー、バチュル、ゾロアに問いかける。3匹は当たり前だと言うように鳴いてくれる。私はそれに嬉しくなってありがとうと返した。