白い駅員さん   作:あぱつ

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パルデア

 私がパルデア地方に到着したのはチケットを取った翌日の昼前。まずはオレンジアカデミーに行けってマルハマ先生が言っていたから、まずはそこに向かうことにした。オレンジアカデミーはパルデア地方にある大きなアカデミーで、学生寮も併設されているらしい。私はオレンジアカデミーの受付に事情を話して、校長室へと通してもらった。校長室にはオレンジアカデミーの校長、クラベルさんがいた。

 

「初めまして。マルハマの使いで来ました、メルアです」

「初めまして。オレンジアカデミーの校長を務めています、クラベルと申します。この度は遠いところからご足労ありがとうございます」

「こちらこそ時間を割いていただきありがとうございます」

「いいえ。マルハマ殿からの頼み事となると、こちらとしても無下にはできないので」

「早速ですがマルハマ先生からの依頼の件、四災についてお訊ねしたいのですが」

「その件なのですが、私よりも最適な方がいましてね、今は授業中なのであともう少し待っていただければ。こちらで待っていただいて結構ですので」

「分かりました。では、お言葉に甘えてこちらで待たせていただきます」

 

 私はクラベルさんの言葉に頷いて、校長室にあるソファに座る。失礼にならない程度に校長室を見回すように首を回す。あまりアカデミーの校長室には見られない、研究所にあるような設備が整っていた。

 

「あの、もしかしてクラベルさんは教職に就く前は研究員かなにかを?」

「ええ。分かるものですか?」

「アカデミーの設備にしてはやや本格的だなと思いまして」

「それもそうでしょうね。これを扱っていたのは別の先生なのです。今はここ校長室に置き、アカデミーの全体の設備のひとつとして使わせていただいていますが」

「なるほど、そうだったんですね。ではその先生は今どこに?」

「……少し遠いところに」

「そう、なんですね」

 

 私はクラベルさんの言葉に、それ以上尋ねるのをやめた。あまり深く聞くのも失礼になると思ったから。それにそんなことが聞きたくてクラベルさんにあんな質問をしたわけじゃない。私はティーカップを置いて、本当に聞きたかったことをクラベルさんに尋ねることにした。

 

「クラベルさん、その、今回のこととは別の、私個人の質問なのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「私が答えられる範囲であればお答えします」

「ありがとうございます。早速ですが、クラベルさんはプテラというポケモンがご存知でしょうか」

「ええ。遥かに昔に絶滅したカセキポケモンですね。それがどうかしましたか?」

「実は、私の手持ちにプテラがいるんです。マルハマ先生からひみつのコハクを譲り受け、復元しました」

「ほう。それは興味深いですね。そのプテラがなにか?」

「私のプテラは、私以外の人やポケモンが視界に映ると暴れだすんです。我を失って、そうなると私でももうどうしていいか分からなくて、結局怪我を覚悟であの子を大人しくさせて、ボールに戻すしかないんです。私だけなら何ともないんです。凶暴さも見られなくて……」

「なるほど……」

「いつまでもボールの中に閉じ込めて窮屈な思いをさせたくないんです。私の家の中も、あの子には窮屈です。化石としてずっと眠っていたあの子を勝手に蘇らせたのは人間のエゴ。それなのに、私のエゴであの子を窮屈な思いをさせるのは……」

「メルアさん。復元されたカセキポケモンが現代の環境に適応できずに暴れだすのは意外と多く報告されています。あなたのプテラも、環境の変化に適応できずに暴れているのかもしれません」

「もちろんその可能性は考えました。人やポケモンがいないところで外に放しても、感覚が鋭敏なのかすぐに気配を察知して暴れだすんです。だから、もうどうしていいか分からなくて」

 

 私はそう言って俯く。クラベルさんはそんな私の様子をじっと見ていた。数分の間、沈黙が校長室を支配した。その沈黙を破ったのはクラベルさんだった。

 

「メルアさんはプテラのことをどう思っているのですか?」

「もちろん、大事な私のポケモンです。可愛い可愛い、私の大事な子です」

「そうですか。では、プテラにとってメルアさんはどう見えているのでしょう」

「えっ?」

「ポケモンは私たち人間が思っている以上に感情が真っ直ぐで純粋。人の言葉を理解することもあれば、複雑な言葉は理解できずにトレーナーの雰囲気から感じ取ることもある。プテラが暴れだすのも、もしかしたらメルアさんに対するなにかがあるのかもしれない」

「私に対する、なにか……」

 

 クラベルさんの言葉に、私は思わず言葉を失う。そっか。そうだよね。私がプテラをどうにかしたいって思っているんだから、きっとプテラもどうにかしたいって、どうにかしてほしいって、思っているかもしれない。

 向き合えないからボールに強制的に戻す。それは、あの子からのメッセージを無視しているのと一緒だ。

 

「ぼんやりとした回答になってしまいましたね」

「そんなっ、とっても勉強になりました。自分がすべきことが少し見えた気がします」

「それは良かった。ですがプテラの過剰な凶暴性は少し気になりますね。もしよければ、あなたのプテラを一度私に見せていただけませんか」

「それはっ、ぜひ、見てもらいたい……ですが……。ここの備品を壊すわけにもいきません。屋外でなら、ああでも、アカデミー周辺は生徒が多いから、少し……」

「ふむ。では、屋内ですがグラウンドでならどうでしょう。授業の時間外で、かつ立ち入りを一時禁止にすれば、人の目は少なくなります」

「それなら……! あ、でも大丈夫なんですか?」

「カリキュラムを確認しましたが、午後は体育もバトル学も入っていませんので大丈夫だと思います」

「そうですか。では、マルハマ先生の要件が終わりましたら、ぜひ見てください」

「お力添えになるかは分かりませんが、尽力します」

「本当にありがとうございます」

 

 私はそう言ってクラベルさんに頭を下げる。クラベルさんは微笑んでいた。そして私たちは授業終了のチャイムが鳴るまで雑談をして過ごした。

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