翌日、家のインターホンが鳴る。来客? と不思議に思いながら玄関の扉を開けると、そこには配達員の帽子をかぶったカイリューがいた。
『リュー!』
帽子を脱ぎ、ぺこ、と頭を下げるカイリューは斜めにかけているカバンの中から小包みを取り出して私の方に差し出した。差出人のところにはマルハマ先生の名前。私は小包みの受領の欄にサインを書き、カイリューにそれを渡した。
『リュ、リュ~』
小包みを受け取ったことを確認したカイリューは飛び去って行く。私はカイリューを見送ってから扉を閉め、小包みの封を開けた。重厚な箱をさらに開けると、そこには宝石のように輝く石がふたつあった。
「これ、って……キーストーンにメガストーン……?」
箱の中に収まっているそれは、ポケモンの進化を超えた進化、メガシンカを行う際に扱うアイテムだ。キーストーンはトレーナーが、メガストーンはポケモンがそれぞれ使うことになっている。
「昨日の先生の言葉を考えるに、このメガストーンはスピアーのスピアナイト……」
私はそう呟きながら、キーストーンとメガストーンを箱の中から取り出した。そしてスピアーをボールから出す。
『スピッ。スピ?』
スピアーは私の手の中にあるふたつの石を見て首を傾げる。私はスピアーにその石を見せながら、メガシンカについて私の分かっている範囲で語る。通常の進化とは異なり、身体が成長し新たな姿となるのではなく、トレーナーと強い絆で結ばれたポケモンに、ある特定の条件下のみで発現し、その後はそれ以前の姿に戻る。私の言葉にスピアーは羽を鳴らす。
「……やって、みようか。メガシンカ」
『スピ!』
私はスピアーのメガストーンをアンクレットのように加工し、スピアーの足につける。
「きつくない?」
『スピアッ』
「よかった。それじゃあ早速近くの公園に行こう」
私はスピアーを連れて公園へと向かう。ここはあまり人気のない場所のため、少々派手なことをやっても問題ない。私はスピアーの目を見る。トレーナーとポケモンの絆が試されるもの。私はスピアーとの絆を信じて、己のキーストーンに触れる。
「スピアー、メガシンカ!」
私の声に合わせて、スピアーの体が光り出す。そして光が収まったとき、そこには姿が変わったスピアーがいた。
『スピッ、スピァア!!』
「すごい……。本当にメガシンカした……できた……」
私は感動してしばらく動けなかった。そしてふと我に返って、写真を1枚撮ってからスピアーに駆け寄る。鋭角的なフォルム、両手と下腹部にあった毒針がかなり変化しており、両足までも巨大な毒針へと変わっている。まるで4本腕になったよう。
「スピアー、すごいよ! もっと強く、もっと速く、もっとかっこよくなった! あなたは私の自慢だよ、スピアー!」
『スピッ!』
私は思わずスピアーに抱き着いた。そのままスピアーは私をひょいと持ち上げて上昇する。突然足がつかなくなったことに驚いて顔を上げると、スピアーが私を見て嬉しそうに鳴いた。スピアーは何度かくるくると回ると、地面に降りた。それと同時にスピアーは元の姿へと戻った。
「本当に一時的なんだね、メガシンカは」
『スピ……』
「ああ落ち込まないで。メガシンカできただけすごいんだよ」
『ス……?』
「私とスピアーの仲が証明された。すごくすごーく嬉しいことだよ」
『スピピ……スピッ! スピアッ!!』
「ふふ、じゃあ今日はお祝いにみんなで美味しいもの食べよう! みんなの大好物でいっぱいのテーブル、わくわくするでしょ?」
私の言葉にスピアーは私の周りを飛んで回る。早速買い出しに行って、みんなの大好物を料理しないと。それから私は、スピアーがメガシンカした姿を先生に送った。先生はその写真を見てやっぱりできたんだねと返信をくれた。私はメガストーンのお礼を改めて送って、マーケットに買い物に行くことにした。
・
・
・
「チーズとモーモーミルクと、それから……あ、きのこのパック安い。私はココットとは別にクリームシチューを作ろうかなぁ」
『スピスピッ、スピ!』
「ん? あっ、マゴの実そんなに抱えて……家にジャムのストックはたくさんあるから大丈夫って言ったのに……。まあ、今日はスピアーのメガシンカ記念だからたくさん買っちゃおっか。はい、カゴに入れて」
『スピッ! スピ、スピピ、スピッ!!』
「ゴスの実? プテラの好物覚えてたんだ。もうこうなったらみんなの大好きな木の実でひとつひとつポフレでも作っちゃおっか!」
『スピ!? スピァ~!!』
「ポフレ、久しぶりに食べるね。最近作ってなかったから美味しく作れるかな……」
カゴいっぱいにあるいろんな木の実を見ながら、私はポフレのレシピを頭の中で思い浮かべる。小麦粉、家にあったけどもう少し買っておこう。質の良い小麦粉はどれかな、と吟味していると肩をつんっと突かれた。スピアーの針ではないことはすぐに分かったため私は勢いよく後ろを振り返る。
「やあメルア、お買い物?」
「く、クダリさん……脅かさないでくださいよ……」
「脅かしたつもりはなかった。けどごめんね。それで買い物?」
「そうですよ。今日はちょっと、お祝い事がありまして」
「ふーん?」
クダリさんはそう言って私の顔をじっと見つめてきたので、それから逃げるようにそろ、と目線を外すとノボリさんが視界に映った。小走りでこちらにやってくるノボリさんに、私は思わず声をかけた。ノボリさんは私の声に反応してこちらに向かってくる。
「クダリ、急に走り出さないでくださいまし」
「ごめんノボリ、でもメルアを見かけて」
「はあ。あなたが言っていたバトルの才能があるという方ですね」
「うん、そう。メルア、こっちはぼくの双子の兄のノボリ。ぼくと同じサブウェイマスター」
「ノボリと申します。いつも弟がお世話になっております」
「い、いえ……こちらこそ……く、クダリさん、には、助けられ、ていて、その、」
「緊張しすぎ」
クダリさんにそう指摘され、つんと額を指で突かれてしまう。
「すみません……」
「構いませんよ。それにしてもこんなにたくさんの食材、何を作られるのですか?」
「今日は、その、スピアーがメガシンカした記念に……お祝いしようと思って」
「メガシンカ! お話は伺ったことがあります。カロス地方の方で発見されたポケモンの新たなる進化、だとか」
「はい。トレーナーと強い絆で結ばれたポケモンができるというものなんです。特別な条件下、主にバトルの時にメガシンカは見られます。それがさっき、成功して! そのお祝いに、今日はたくさんご馳走を作ろうと……」
「それは素晴らしいですね。メガシンカ、ぜひ一度お目にかかりたいものです」
「ぼくも! ねえメルア、ぼくとバトルしてよ!」
「え!? いや、それは……まだ……」
「早く君とバトルがしたい。ね、いいでしょ? ね?」
「あう、えっと、」
「クダリ、メルア様が困惑しています。おやめなさい」
「だって、早くメガシンカしたポケモンとバトルがしたい。いいでしょ? バトルサブウェイの規定でもメガシンカポケモンの使用のルールについては特にない。今後のためにもしっかりと精査しておかないといけない」
「尤もらしいことを言っておりますがバトルがしたいだけでしょう」
「え~、いいでしょ? ね、メルア」
クダリさんにそう言われ、私はすぐ後ろを飛んでいるスピアーと目を合わせる。スピアーはいつもの様に羽を鳴らし、そして頷いた。どうやらやる気のようだ。仕方ない。もう少し強くなってから挑みに行こうと思っていたが、こうもやる気になっているところを無下にはできない。私は覚悟を決めて、クダリさんに向き直る。
「明日、ダブルトレインに乗車します。7両目で待っていてください」
「! うん。待ってる」
クダリさんは嬉しそうに笑って、ノボリさんと一緒に歩いて行った。その背中を見送って、私はスピアーと目線を合わせる。
「スピアー、明日一緒に頑張ろうね」
『スピッ!』
スピアーのやる気は十分。私も、自分のできることを精一杯やろう。
それはそうと今日はお祝いを楽しまないと。食材がたくさん入ったカゴをもう一度持ち直して、私はレジへと向かった。