「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~   作:月城 友麻

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46. 琥珀を思わせる瞳

 必死に飛んでいると、アバドンから連絡が入る。

 

「旦那様! 大丈夫ですか?」

 

「俺もドロシーも何とか生きてる。お前は?」

 

「私はかなり吹き飛ばされまして、身体もあちこち失いました。ちょっと再生に時間かかりそうですが、なんとかなりそうです」

 

「良かった。再生出来たらまた連絡くれ。ありがとう、助かったよ!」

 

「旦那様のお役に立てるのが、私の喜びです。グフフフフ……」

 

 俺はいい仲間に恵まれた……。

 

 自然と湧いてきた涙がポロッとこぼれ、宙を舞った。

 

 空を飛びながら、俺は仲間たちを守り抜こうと決意を新たにする。勇者もボコボコにしてきっちりと分からせ、二度とこんなことにならないようにしてやる。俺はギリッと奥歯を鳴らし、家路を急いだ。

 

 

         ◇

 

 

蒼穹(そうきゅう)に聳える王宮の尖塔。その頂きの小部屋に立つ少女の瞳が、遠見の魔道具を通して街を見下ろしていた。

 

「まあ……これはいいものを見つけてしまったわ!」

 

 微かな驚きを含んだ声が、風に乗って消えていく。少女は十八を過ぎたばかりといったところか。透徹(とうてつ)した白磁のような肌に、琥珀を思わせる瞳。爽やかな風を受け、彼女の金糸(きんし)の髪が煌めいていた。ルビーの髪飾りが、その美しさに更なる輝きを与えている。

 

 豪奢な金の刺繍が施された深紅のドレスは、彼女の高貴な身分を物語っていた。胸元のレースが、その曲線美(きょくせんび)を強調している。

 

 少女の視線の先には、一人の若者の姿があった。

 

「あの爆発の中を駆け抜け、勇者の側近を打ち倒すとは……。あなた、一体何者なのかしら?」

 

 彼女の唇に、興味深そうな微笑みが浮かぶ。

 

 まだ炎と煙の残る麦畑の上空を、ユータが颯爽と駆け抜けていく。その腕には、一人の少女が抱かれていた。

 

「なんという洗練された飛行魔法……。こんな事が出来る宮廷魔術師なんて居ないわ」

 

 少女は思わず息を呑んだ。ユータの飛行は、まるで風のように軽やかだった。

 

 ユータが店の方へと下りて行くと、彼女は素早く羽ペンを取り、優雅な筆跡でメモを書き付ける。

 

「バトラー!」

 

 少女の声が、静寂を切り裂いた。瞬時に、黒服の執事が彼女の側に現れる。

 

「お呼びでございますか、リリアン様」

 

「ええ。至急、この男を調査なさい」

 

 リリアンは、艶のある声で命じた。メモを執事に手渡しながら、彼女の瞳に(あやう)いほどの興奮の色が宿る。

 

「物語が、思わぬ方向に動き出したようですわ」

 

 彼女の唇が、面白いおもちゃを見つけたように歪んだ。

 

「お楽しみはこれからよ、可愛い英雄さん……」

 

 リリアンの言葉が、塔を吹き抜ける風に溶けていった。

 

 

       ◇

 

 

 俺はドロシーをそっとベッドに横たえると、彼女の頭を優しく支えながら、ポーションをスプーンで少しずつ飲ませていく。朱唇(しゅしん)に触れるスプーンの冷たさに、ドロシーは微かに眉をひそめる。

 

「う、うぅん……」

 

 最初はなかなか上手くいかなかったが、徐々に彼女の喉が動き始め、ポーションを受け入れていく。俺は鑑定スキルを使って彼女の状態を確認する。HPが少しずつ上昇していくのを見て、安堵の息をつく。

 

 ポーションを飲ませながら、俺はドロシーの顔をじっと見つめていた。整った目鼻立ちに紅いくちびる……。幼い頃から知っているはずなのに、今まで気づかなかった彼女の美しさに、俺は息を呑む。もはや少女ではない。いつの間にか、ドロシーは魅力的な大人の女性へと成長していたのだ。

 

 俺の手に伝わる彼女の体温が、心の奥底に温かな感情を呼び起こす。前世を入れたらもうアラサーの自分は、ドロシーをどこか幼い子供と思ってきた。しかし、今や彼女への愛おしさが、新たな形で俺の胸を満たしていく――――。

 

 俺はそっとサラサラとした銀髪をなで、静かにうなずいた。

 

 

          ◇

 

 

 上級ポーションを二瓶与え、HPも十分に回復したはずなのに、ドロシーはまだ目覚めない。俺はベッドの脇に椅子を引き寄せ、そっと彼女の手を握る。長いまつげが作る影が、彼女の頬に揺れていた。

 

 安らかに眠る彼女を見つめながら、俺の中で勇者への怒りと不安が渦巻く。勇者との決着をつけなければならないが、相手は特権階級。正面からやれば、国家反逆罪で死罪は免れない。俺だけなら何とかなっても、ドロシーまで巻き込むことになったらとても耐えられない。

 

「はぁ~……」

 

 深いため息が漏れる。勇者に立ち向かうということは、この国の統治(とうち)システムそのものと対峙することを意味する。しかし、ドロシーをこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 

 俺は顔を両手で覆い、必死に策を練る。静かな部屋に、ドロシーの寝息だけが響いていた。

 

 しかし、いくら考えても名案など浮かばない。やるとしたら勇者を人知れず拉致するくらいだった。

 

 それにはアバドンの快復を待たねばならないだろう。

 

「今すぐには動けないか……うーむ」

 

 俺はため息をついてうなだれた。

 

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