「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~   作:月城 友麻

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54. オール・グリーン

「旦那様、これ……何ですか?」

 

 怪訝(けげん)そうなアバドン。

 

「宇宙船だよ」

 

 俺はにこやかに返した。

 

「宇宙船!?」

 

 目を丸くするアバドン。その驚いた表情が、俺の胸を高鳴らせる。この世界では宇宙はまだ未開拓なのだ。バグを見つけられる予感がビンビンしてくる。

 

「そう、これで宇宙に行ってくるよ」

 

「宇宙!? 宇宙って空のずっと上の……宇宙……ですか?」

 

 アバドンは空を指さして首をひねる。その仕草が、どこか子供っぽくて愛おしい。

 

「お前は行ったことあるか?」

 

「ないですよ! 空も高くなると寒いし苦しいし……、そもそも行ったって何もないんですから」

 

「何もないかどうかは、行ってみないとわからんだろ」

 

 俺の声には、冒険への期待が込められていた。

 

「いやまぁそうですけど……」

 

「俺が中入ったら、このボルトにナットで締めて欲しいんだよね」

 

「その位ならお安い御用ですが……こんなので本当に大丈夫なんですか?」

 

 アバドンは教会の鐘をこぶしでカンカンと叩き、不思議そうな顔をする。

 

「まぁ、行ってみたらわかるよ」

 

 日ごろあまり気にしていないが、地上では指先ほどの面積に数kgの大気圧がかかっている。つまり、このまま宇宙へ行くと、それが無くなって逆に鐘には内側から十トンほどの力がかかってしまう。ちゃんとその辺を考えないと爆発して終わりだ。でも、これだけ分厚い金属なら耐えてくれるにちがいない。

 

 水の中に潜れる魔道具の指輪も買ってあるので、これで酸欠にもならずに済みそうだ。

 

 こういうチートアイテムの存在自体が、この世界は仮想現実空間である一つの証拠とも言える気がするのだが、どうやって実現しているかが全く分からない。

 

 俺は青く輝く指輪を(いじ)りながら、この前代未聞の挑戦に口をキュッと結んだ。

 

 だが、この冒険がこの世界の真実の一旦を見せてくれるはずだという根拠のない確信が、俺の背中を押す。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 俺は鐘をズン! と横倒しにし、中に断熱材代わりのふとんを敷き詰める。

 

 乗り込んだら鉄板で蓋をしてもらう。身動きするのも大変な狭い空間に身を委ねる感覚に、一瞬躊躇(ちゅうちょ)を覚えたが、今さら中止などありえない。すぐに覚悟を決めた。

 

「じゃぁボルトで締めてくれ」

 

「わかりやした!」

 

 アバドンは丁寧に五十か所ほどをボルトで締めていく。ギリギリと響くその音が、俺の心臓の鼓動と重なっていった。

 

 俺は宇宙に思いをはせる――――。

 

 生まれて初めての宇宙旅行、いったい何があるのだろうか? この星は地球に似ているが、実は星じゃないかもしれない。何しろ仮想現実空間らしいので地上はただの円盤で、世界の果ては滝になっているのかもしれない……。そんな想像をすると、背筋に寒気が走る。

 

 それとも……、女神様が出てきて『ダメよ! 帰りなさい!』とか、怒られちゃったりして。俺は美奈先輩似の女神を思い出しながらクスッと笑った。

 

 カンカンと鐘が叩かれ、その音に現実に引き戻される。

 

「旦那様、OKです!」

 

 締め終わったようだ。出発準備完了である。俺は深呼吸をして、心を落ち着かせた――――。

 

「ありがとう! それでは宇宙観光へ出発いたしまーす!」

 

 俺は自分に言い聞かせるように叫ぶ。

 

 鐘全体に隠ぺい魔法をかけた後、自分のステータス画面を出して指さし確認をした。

 

「MPヨシッ! HPヨシッ! エンジン、パイロット、オール・グリーン! 飛行魔法発動!」

 

 鐘がボウっと黄金色の光に包まれていく。その神々しい輝きが、これから始まる冒険を祝福してくれているかのようだ。

 

 俺はまっすぐ上に飛び立つよう徐々に魔力を注入していく。体内を流れる魔力が、鐘全体に広がっていくのを感じた。

 

「お気をつけて~!」

 

 鐘の横に付けた小さなガラス窓の向こうで、アバドンが大きく手を振っている。

 

 1トンの重さを超える大きな鐘はゆるゆると浮き上がり、徐々に加速ながら上昇していく。

 

 見る間にどんどん小さくなっていくアバドン。

 

 きっと外から見たらシュールな現代アートのように違いない。録画してYoutubeに上げたらきっと人気出るだろうな……、と馬鹿なことを考え、鼻で笑った。そんな他愛(たわい)もない思考が、緊張を和らげてくれる。

 

 のぞき窓の向こうの風景がゆっくりと流れていく。俺は徐々に魔力を上げていった……。

 

 石造りの建物の屋根がどんどん遠ざかり、街全体の風景となり、それもどんどん遠ざかり、やがて一面の麦畑の風景となっていく。俺があくせく暮らしていた世界がまるで箱庭のように小さくなっていった。その光景に、感慨(かんがい)深いものを感じる。

 

 

 

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