「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~   作:月城 友麻

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66. 地上の楽園

 真っ青な青空に燦燦(さんさん)と照り付ける太陽、雲の上に出たのだ。眼下には真っ白な雲海が広がり、その上には無限に続く碧空が広がっていた。

 

「ヒャッハー! やったぞ、突破成功だ!」

 

 俺は思わずガッツポーズをする。

 

「すごーい…… こんな世界があったなんて……」

 

「ここが雲の上だよ。まだ街の人は見たことのない景色さ」

 

 俺は誇らしげに言った。

 

「なんて神秘的なのかしら……。まるで天国みたい……」

 

 ドロシーは雲と空しかない風景にしばし絶句していた。その瞳には、驚きと畏怖の念が交錯している。

 

 その間にも速度はぐんぐんと上がる。カヌーが(きし)むような音を立て、振動が増していく。

 

対地速度 1000km/h

  :

対地速度 1100km/h

  :

対地速度 1200km/h

  :

 

 

 カヌーの周りにドーナツ状の霧がまとわりつく。亜音速に達したのだ。

 

 いよいよ来るぞ――――。

 

 俺の心臓が高鳴る。

 

 ドゥン!

 

 激しい衝撃音が響き、カヌーが大きく揺れる。

 

「キャーーーー! 何!?」

 

 ドロシーが叫ぶ。

 

 俺は興奮を抑えきれず、こぶしを突き上げた。

 

「Yeahーーーー! やったぞ、ドロシー! 俺たち、音の壁を破ったんだ!」

 

 ついに音速を超えたのだ。その瞬間、世界が一変したかのような感覚に襲われる。

 

 シールドの先端は真っ赤に光り輝き、熱線を放っていた。これが超音速の世界なのだ。

 

 そしてさらに魔力を上げていく。体中に(たか)ぶりが走っている。

 

対地速度 M1.1

  :

対地速度 M1.2

  :

対地速度 M1.3

  :

 

 速度表示がマッハ(M)に変わり、どんどん増えていく。

 

「ユータ、これってどういうこと?」

 

 ドロシーが轟音鳴り響く中、尋ねてくる。

 

「音の速さを超えたってことさ。普通の人には想像もつかない速度だよ」

 

 俺は少し自慢げに答えた。

 

「音の速さ……?」

 

 ドロシーにはピンとこないらしく、首をかしげている。

 

 音速を超えるとシールドにぶつかってくる空気は逃げられない。()がったシールドの先端では圧縮された空気が衝撃波を作り、高熱を発しながら周りに広がっていく。この衝撃波は強力で、遠く離れていても窓ガラスを割ることがあるらしいので、なるべく海上を飛んでいく。

 

 ギュゥゥゥーーーー!

 

 カヌーからきしむ音が響く。ピカピカの朱色のカヌーは今、超音速飛行船となって空の上高く爆走しているのだ。カヌーを作ったおじさんにこの光景を見せたら、きっとぶったまげるだろうな……。俺はそんなことを思いながらニヤッと笑った。

 

 雲の合間に四国の先端、室戸岬を確認できる頃にはマッハ3に達していた。緑豊かな山々と青い海が織りなす絶景が、一瞬で目の前を通り過ぎていく。

 

 そこから宮崎まで約五分、さらに南下して種子島・屋久島を抜け、奄美大島まで五分。戦闘機レベルの高速巡行は気持ちいいくらいに風景を塗り替えていく。

 

 空から見る奄美大島はサンゴ礁に囲まれ、淡い青緑色の蛍光色に縁どられて浮いて見える。この世界は工場があまり発達していないから環境汚染もないだろう。まさに手付かずの美しい自然、ありのままの姿なのだ。

 

 ドロシーにも見てもらおうと後ろを見たら……、俺にしがみついたまま動かなくなっている。その顔は蒼白で、汗が滲んでいた。

 

「ドロシー? 大丈夫か?」

 

「う~ん、ちょっと気分が…… 目まいがして……」

 

 どうやら船酔いのようだ。これはまずい。

 

「ヒール!」

 

 俺は急いで治癒魔法をかけた。ボワッと淡い光に包まれるドロシー。その光は温かく、優しく彼女を包み込んでいく――――。

 

「これでどう? 少しは楽になった?」

 

「うん……、良くなったわ。ありがとう、ユータ」

 

 力のない笑顔を見せるドロシー。その表情に安堵しつつも、まだ心配が残る。

 

「ごめん、無理させちゃって。もう少しで着くからね。それまでゆっくり休んでていいよ」

 

 俺は優しくそう声をかけ、ドロシーの腕を軽くさすった。

 

 

      ◇

 

 

 沖縄列島の島々を次々と見ながら南西に飛び、十分程度するとヒョロッと長い半島が突き出た独特の島、石垣島が見えてきた。その姿を見た途端、懐かしい記憶が(よみがえ)ってくる。

 

 俺は学生時代、一か月ほど石垣島で民宿のアルバイトをやったことがあった。石垣島の人たちは温かくて優しく、ちょっとひねくれていた学生時代の俺を、まるで自分の子供のように丁寧に扱ってくれた。その思い出が鮮やかによみがえる。

 

 暇なときは海に潜って遊び、夜は満天の星々を見ながら、オリオンビールでいつまでも乾杯を繰り返した。それは今でも大切な記憶として俺の中では宝物になっている。

 

 はるばるやってきた懐かしの島が徐々に大きくなっていく。俺は心臓が高鳴るのを感じた。

 

 速度と高度を落としながら石垣島の様子を観察する。サンゴ礁に囲まれた美しい楽園、石垣島。その澄みとおる海、真っ白なサンゴ礁の砂浜の美しさは俺が訪れていた時よりもずっと輝いて見えた。翡翠(ひすい)のような海の色、真珠のような砂浜、そして鬱蒼(うっそう)とした緑の森。それらが織りなす光景は、まさに地上の楽園そのものだった。

 

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