「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~   作:月城 友麻

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77. 月夜の訪問者

「で、その後ね……ユータが指輪をくれたんだけど……」

 

 『ブフッ』っと吹き出す俺。その反応に、ドロシーはジト目で俺をにらむ。

 

 ドロシーは右手の薬指の指輪をアバドンに見せる。その指輪が、ろうそくの灯りに照らされて柔らかく輝く。

 

「お、薬指じゃないですか!」

 

 アバドンが盛り上げる。その声には、祝福の気持ちが込められていた。

 

「ところが、ユータったら『太さが合う指にはめた』って言うのよ!」

 

 そう言ってふくれるドロシー。その頬が、少し赤く染まっている。

 

「えーーーー! 旦那様、それはダメですよ!」

 

 アバドンはオーバーなリアクションしながら俺を責める。その表情には、本気の驚きと軽い叱責が混ざっている。

 

「いや、だって、俺……指輪なんてあげたこと……ないもん……」

 

 うなだれる俺。持ち上げられたと思ったらすぐにダメ出しされる俺……ひどい。

 

「あげたことなくても……ねぇ」

 

 アバドンはドロシーを見る。二人の間に、何か共謀めいたものが流れる。

 

「その位常識ですよねぇ」

 

 二人は見つめ合って俺をイジった。

 

「はいはい、私が悪うございました」

 

 そう言ってエールをグッと空けた。その苦みが、自分の不甲斐なさを流し去ってくれる。

 

「次はしっかり頼みましたよ、旦那様」

 

 アバドンはそう言いながら俺のジョッキにお替わりを流し込む。

 

「つ、次って……?」

 

 俺が目を白黒していると、アバドンはジョッキを掲げる。

 

「今宵は記念すべき夜になりそうですな! カンパーイ!」

 

 アバドンはニヤッと笑いながら俺とドロシーを交互に見た。

 

 俺はドロシーと目を合わせ、クスッと笑うとジョッキをぶつけていった。

 

「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 

 三人の笑い声が店内に響き渡る。この温かな空気の中で、俺は改めて、仲間の大切さを実感した。そして、第二の人生の順風満帆な手ごたえが、静かに胸の中で膨らんでいくのを感じていた。

 

 

       ◇

 

 

「私、アバドンさんってもっと怖い方かと思ってました」

 

 酔ってちょっと赤い頬を見せながらドロシーが言う。その声には、少しの照れと安堵が混ざっている。

 

「私、ぜーんぜん! 怖くないですよ! ね、旦那様!」

 

 こっちに振るアバドン。その目には、子供のような純粋さが宿っている。確かに俺と奴隷契約してからこっち、かなりいい奴になっているのは事実だ。まぁ、千年前はどうだったかは分からないが……。

 

「うん、まぁ、頼れる奴だよ」

 

「うふふ、これからもよろしくお願いしますねっ!」

 

 ドロシーは嬉しそうに笑う。その笑顔に、部屋中が明るくなったような気がした。

 

 その笑顔に触発されたか、アバドンはいきなり立ち上がる。

 

「はい! お任せください!」

 

 と、嬉しそうに答えると、俺の方を向く。

 

「旦那様と姐さんが揉めたら私、姐さんの方につきますけどいいですか?」

 

 と、ニコニコと聞いてくる。その目には、悪戯っぽい輝きが宿っている。

 

 俺は目をつぶりため息をつくと、

 

「まぁ、認めよう」

 

 と、渋い顔で返した。これで奴隷契約もドロシー関連だけは例外となってしまった。しかし、『ダメ』とも言えないのだ。胸の内で複雑な感情が渦巻く。

 

 アバドンはニヤッと笑うと、

 

「旦那様に不満があったら何でも言ってください、私がバーンと解決しちゃいます!」

 

 そう言ってドロシーにアピールする。その姿は、まるで忠実な騎士のようだ。

 

「うふふ、味方が増えたわ」

 

 嬉しそうに微笑むドロシー。その笑顔を見れば俺の選択も悪くなかったように思える。

 

 と、その時だった――――。

 

「シッ!」

 

 急にアバドンが口に人差し指を立て、険しい表情で入り口のドアを見る。空気が一変した。

 

 俺も気配を察知し、眉をひそめながらドロシーに二階への階段を指す。誰が来ようが俺とアバドンなら何とでもなるが、ドロシーだけは守らねばならない。

 

 ドロシーは青い顔をしながら抜き足差し足避難していく。緊張が部屋中に満ちた。

 

 俺はアバドンに階段を守らせると、裏口から外へ出て屋根へと飛び上がる――――。

 

 夜の闇に紛れ、上から店の表をそっとのぞくと、そこにはフードをかぶった小柄の怪しい人物が、店の内部をうかがっている姿があった。

 

 性懲りも無く勇者の手先がやってきたのだろうか? 一気に勝負をつけねばならない。

 

 俺は音もなく、素早く背後に飛び降りると同時に腕を取り、一気に背中に回して極めた。

 

「きゃぁ!」

 

 驚く不審者。その声は、予想外にも若い女だった。

 

「何の用だ!?」

 

 と、顔を見ると……美しい顔立ち、それはなんとリリアンだった。月明かりに照らされた透き通るような白い肌に、俺は息を呑む。

 

「お、王女様!?」

 

 俺は急いで手を放す。こんな街外れの寂れたところに夜間、王女がお忍びでやってくる……。もはや嫌な予感しかしない。俺は渋い顔でキュッと口を結んだ。

 

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