仲間たちを探して プロジェクトセカイ×松本零士漫画作品 作:千生鉄斗羅
本作では、サブタイトルは話の中間あたりで提示したいと思います。
なお、今回、プロセカのキャラクターが殺人を犯す描写があります(はたして殺「人」と言っていいのか・・・・・・。その判断は、皆様にお任せします)。
メーテルが999に乗車して、数時間が経過した。
彼女は、空腹を感じた。彼女はまだ生身の人間である、そう思うのも当然だ。
車掌に、「どこでご飯を食べられますか?」と訊くと、「でしたら食堂車をご利用ください。材料は豊富にあるので、どのような物でもお申し付けください」と教えられた。
食堂車に行くと、金髪に加えて、毛先にかけて赤のグラデーションを持つ独特な髪色のウエイトレスが居た。ちなみに、ツインテールである。
「ええと、ここで大丈夫ですよね?」
「はい! 好きな席に、座、って、って・・・・・・ほなちゃん!?」
「ほなちゃん、ってどちら様でしょうか・・・・・・?」
メーテルにとってその名は、全く聞き覚えのないものだった。ウエイトレスの少女は、気持ちを落ち着かせるために五回ほど深呼吸して、「そ、それでは、好きな席にお座りくださーい!」と言って、バックヤードに逃げるように去っていった。
メニューを開くと、なるほど車掌の言う通り。様々な料理がラインナップされている。和食洋食中華料理。地球の料理にとどまらず、人間が果たして食べても良いのかわからない、地球以外の惑星の料理も記されている。
メーテルは、アップルパイを食べようと無性に思った。メニューを探ると、デザートの欄に記載されていた。だが、デザートは、単品で注文することができない。アップルパイだけを食べたいのに、他のメニューも注文せねばならないのは、彼女にとってなんとなく歯がゆい。どうすれば良いかと、先ほどのウエイトレスを読んだ。
「どうしましたか?」
「ええと、アップルパイを食べたいんですけど、デザートだけの注文はできないみたいで、どうすれば良いか・・・・・・」
ウエイトレスの少女は、ウーンと数秒うなり、名案を思いついたように手と手をポンと打ち鳴らした。
「そっか、アタシとあなたでシェアすればいいんだ!」
「天才ですか!?」
メーテルは、目の前の少女の案に反射的に賛成した。しかも、料金は取られない。これほどお得なことが、かつてあっただろうか。いや、ない。
目の前の少女との付き合いが長くなる(主にアップルパイを食べる事に関連して料理を注文するという関係)と思ったメーテルは、名前を聞く事にした。
少女は、待ってましたとばかりに立ち上がり、芝居がかった動きでこう言った。否、叫んだ。
「天翔けるペガサスと書き、天馬! 全てが咲き誇ると書き、咲希! その名も、天馬咲希!」
「おおー」
メーテルは、思わず拍手をした。観劇者の心を見事に震わす、名作歌劇を見たような気分だ。
「じゃあ、私も自己紹介をしたほうがいいですね。でも、咲希さんみたいにはできないですけど、いいですか?」
「もっちろん! むしろ、アタシやお兄ちゃんが個性的すぎるだけだから」
「よかった。私は、メーテル。ラー・アンドロメダ・プロメシュームの娘・・・・・・」
「プロメシューム?」
「あれ?」
咲希は、プロメシュームという名前に聞き覚えがないようだった。
異邦人なのかな? と、メーテルは思った。そして、咲希に敬語を使われることに、違和感を覚えた。
「ええと、咲希さん。敬語を使わなくてもいいですよ」
「ホント!?」
「はい、なんだか違和感があって・・・・・・」
「そうだったんですか・・・・・・。それじゃあ、メーテルさん!」
咲希は、メーテルの手を握った。
「この999で、いっぱい思い出、作ろうね!」
「・・・・・・!」
それは、メーテルにとってどこか懐かしさを感じるものだった。具体的な光景は思い出せないが、どこか記憶の片隅に引っ掛かるのだ。
──彼女といれば、もしかしたらメーテルとなる前の自分のことがわかるかもしれない。
"かつての自分"に対して、淡い期待を覚えた。
そして、時間は過ぎ。
「えー、次は、終点、地球です。停車時間は、二十四時間」
「地球!? ってことは、アタシの元いた場所ってこと?」
咲希が、興奮したように車掌に質問する。
「うーむ、おそらく、生身の人間はあまり降りないほうがいいでしょうな。なにせ、地球は今や機械化人の世界。生身の人間は、光のない世界に追いやられ、明日を生きることすら難しい状況にあるんですから」
「え・・・・・・」
「そんな現状があったなんて・・・・・・」
「おや、メーテル様は、ラー・アンドロメダ・プロメシューム2世から何も聞いておられない、と。親が全てを教えるわけではないが、知っていても・・・・・・」
「車掌さん!」
訝しむような車掌に、思わず咲希は声を上げた。たとえ何も知らなくとも、メーテルはメーテルだ。親が誰だろうと、それは変わらない。
「ううむ、これは失敬。ですが、一応申し上げておきますと、
「・・・・・・確かに、私には、999に乗る前の記憶がありません」
メーテルは、ポツリと語り始めた。
「気がついたら、多分十七歳くらいの体でした。幼い頃の記憶が全くない状態・・・・・・。知りたくないと言えば嘘になります。私の、真実を」
「メーテルさん・・・・・・」
咲希は、たとえメーテルが穂波でなかったとしても、ずっと友達でいようと改めて決意した。もちろん、メーテルが穂波であることに越したことはないが・・・・・・。
「まあとにかく、あまり地球を出歩かない方がいいのは確かです、はい。メガロポリスには機械化人が跋扈していますし、光のない場所はスラム。衛生的にも良くないし、それに若い少女二人に行かせた場合、色々と面倒ごとが起こりかねないというのもあります」
「たとえば?」
「剥製にされる。お二人とも、若く、美しい姿をされていますからね。その姿を永遠のものにせんとする輩は、数知れないでしょうな」
「ぞ〜っ」
そう。銀河鉄道999をご存知の読者諸君は、星野鉄郎の母親が、機械伯爵の人間狩りに遭い剥製にされたことを知っていよう。車掌もそれを把握している。だが、たかが一車掌に、この現状を打破することはできない。まして、生身も機械も選べなかった者に、果たしてなにができようか。指を咥えて見ているしかできないのである。
「・・・・・・それでも、見なければなりません。私は、そう思います」
「メーテルさん・・・・・・」
「幸い、武器になりそうな鞭を持っていますしね。それに、咲希さんでも使えるような銃もあります。護身用にはちょうどいいでしょう」
そう言ってメーテルは、トランクから銃を取り出した。銃口は九
だが、咲希が車外に出るには、一つの障壁がある。そう、咲希はあくまでウエイトレスとして乗っているのだ。客ではない。その問題に関しては、メーテルが無限乗車パスを渡すということで解決となった。
咲希は大層驚いた。まず、無限乗車という単語だ。実際の定期券には、当然ながら無限に乗車できる種類のものはない(空想科学読本より)。しかも、地球から惑星大アンドロメダまでの距離は、二〇二四年現在の人類の最高到達点であろう月までの三八万
ならばなぜ、メーテルは咲希に無限乗車パスを渡したのか。それは、一緒に旅をしたいからというものであった。大アンドロメダから地球までの間、さまざまな話をし、人柄を知った。メーテルは、「この人となら、良い旅路になりそうだ」と思ったのである。
地球
停車時刻は、午前零時もしくは二四時であった。元のセカイならば、あと一時間もすれば、謎のヴェールに包まれた音楽サークルが活動開始する頃だろう。
999を下車した二人は、まずターミナルの道を覚えることにした。何せ、999が止まっているのは、99番ホームである。慣れれば良いだろうが、慣れないうちは苦労するしかない。スマートフォンという文明の利器は、教室のセカイの学校においているため、写真に撮って地図がわりにするということもできない。二人は、たっぷり一時間かけて、999までの道順を頭に叩き込んだ。次に999が地球に来るのは、一年後である。それまで、二人きりで生き抜ける自信は、ない。
二人は、別行動は絶対にしないという縛りを設けた。これはなぜかというと、逸れた時が大変だからである。
「それにしても、アタシの知ってる地球とは、何もかもが違うんだね・・・・・・」
「そうなんですか?」
「うん。だって、アタシの地球には、緑があったから。でも、ここには、それがない」
緑、すなわち命の息吹。メーテルが見た大アンドロメダには、それは存在し得なかった。だが、こちらは、それが淘汰されているのだ。
「カレンダーはどこかな、っと」
駅構内には、電光掲示板がある。時刻表もここに記されており、現在の西暦などもたやすく知ることができるのだ。
「えっ・・・・・・、これ、って・・・・・・」
それを見て、咲希は驚愕した。なぜなら、そこに示されていた西暦は、咲希たちのいた二〇二四年(本作では、プロジェクトセカイの舞台の年代は、執筆当時と同じであると仮定している)よりずっと未来の日付だったからだ。
「西暦三一二四年・・・・・・」
ならば、地球がこのようなメガロポリスを形成しているのにも、一応の納得はいく。ドラえもんで描かれた二十二世紀の都市も、考えてみればこのような姿だっただろう。
だが、違う。
ドラえもんの二十二世紀には、まだ緑は残っていた。それがどのような意図なのかは、
三十二世紀の地球には、緑はない。まだ咲希たちには預かり知らぬことだが、このメガロポリスを出れば、広がるのは不毛の大地。廃墟の街しかない。そこに住むは、生身の人間。一応の資源は、ないわけではない。衣類などは、機械化人に勝つことができれば、もしかすれば入手できるやも知れぬ。しかし、食料は、無いに等しい。緑は淘汰された。しかし、一応植物はある。まともに栄養価が含まれていないような雑草が。
機械化人の台頭から、少なくとも一世紀は経過しただろう。その間に、生態系は大きく変化した。それまでのものは、圧倒的なまでに破壊し尽くされた。生身の人間には必要なものが、機械化人には必要ない。命を尊く思う心もだ。だから、こうして緑を奪える。だから、こうして砂上の楼閣は我が物顔で闊歩する。
咲希もメーテルも、どこか冷たい印象を、このメガロポリスから受けた。
咲希は、シブヤと──大切な友と過ごした街と、このメガロポリスを比較した。彼女は数学者でも科学者でも社会学者でもないので、正確な比較をしたわけではない。あくまで感情に任せた、主観的な比較であるが、以下のような感想を得た。
それは、一切のぬくもりがないというものである。農村の牧歌的な雰囲気を期待していたわけではない。だが、あまりにも、人間らしさがなかったのだ。
「うーん、どうしよう」
咲希は唸った。どこにも行くあてがないのだ。どこに泊まればいいのかすらわからない。路頭に迷ってしまったのである。
「メガロポリスなら、最低限の安全は保証されてる、とは言いますけど・・・・・・」
と、メーテルは、トランクから地図を取り出した。
「そういえば、お母様に、『地球にセーフハウスがある。適宜活用するように』と言われてたんでした」
「セーフハウス・・・・・・?」
「いざという時のための隠れ家ですね。でも、今は宿として使うことになりそうです」
メガロポリスの外れ、不毛の平野。そこに、メーテルのセーフハウスはあった。
「・・・・・・一人用、みたいですね・・・・・・」
「まあ、仕方ないよ。メーテルさんのために用意されたんだから」
セーフハウスは、四畳半の部屋が四つ入るような広さだった。設備は、ベッド、暖炉、冷蔵庫があった。天井には照明があり、あまり不自由することはなさそうである。
このセーフハウスの外観は、田舎のボロ家といった風情である。いや、ボロ家というより、廃墟と言った方が適切か。だがそれは見かけだけ。中は、ちゃんと生活できるようになっているし、防犯も万全だ。もし強引にこじ開けようものなら、その人物を射殺するように設定してあるためだ。
そのように、地図の隅に書いてあった。なぜか日本語だったため、咲希にも読むことができた。
「こ、こわ〜・・・・・・」
「確かに、やりすぎな気もします。でも、これが当然なのかも・・・・・・」
「どういうこと?」
「メガロポリスは、最低限治安が保たれていました。でも、
「・・・・・・っ」
咲希は、このセカイが自分の生きる場所とは何もかもが違うのだということを痛感した。
「地図によれば、ここをもう少しいけば、
咲希は、Leo/needとしてプロデビューを果たしたばかりだ。その道には、苦難が待っているだろう。世界を巡ることになったなら、スラムの人間が寄ってくることもあるだろう。もちろん、二〇二四年の地球のスラムは、この地球のスラムと比べると、まだ生存の可能性はあろう。何せ、こちらのスラムは、スラムという言葉が生ぬるいほどの地獄だ。地球のスラムにはまだ希望が残っているとするならば、こちらには絶望しか残されていない。
──直視せねばならない。
どこまで歌を届けたいのか。歌は活力になりうるか。
咲希は、スラムに行くことにした。
出発まで、残り二二時間。
***
アルカディア号に、規律というものはない。各々が、自由に行動している。
志歩は、やることが見つからず、手持ち無沙汰で艦橋にいた。
舵輪の後ろにある椅子には、ハーロックが腕を組んで座っている。
──どうすればいいんだろう。楽器も
ふと、ハーロックが口を開いた。
「シホ、楽器は好きか」
「え? そりゃあまあ、好きですけど・・・・・・」
「どんな楽器だ」
「ベース、です。幼馴染と四人でバンドをやってるんですけど、そこでリズム隊をやってます」
なぜそんな質問をしたのか、志歩には意図がわからなかった。
「実を言うとな、針路に音楽惑星があるのだ」
「音楽惑星・・・・・・?」
宇宙には、数え切れぬほどの恒星と、それらを取り巻く惑星がある。人類が足を踏み入れたのは、その中のほんのわずかに過ぎないし、999の停車駅がある惑星はさらに限られる。そんな惑星の一つである。
音楽惑星は、正式名称をミューゼフォンという。とても音楽が盛んであり、常にどこかで音楽が鳴り響いている。楽器を寄せ集めたような姿をした機械も存在している。ムジカ・ピッコリーノといえばわかりやすいか。
そんな概要を伝えられ、志歩はときめきを感じた。
「いつ着くんですか?」
「トチローの計算によれば、およそ三ヶ月後だ」
「結構かかるんですね・・・・・・」
「アルカディア号も、常に最大速度を発揮するわけにはいかん。有事でもなければ、こうやってゆっくりと旅をするものさ」
「そっか、急いては事を仕損じると言いますからね」
「日本にはそういう諺があるんだったな。その通りだ。急いでいては、大切なものを見失い、喪うやもしれんからな」
そう言って、ハーロックは、オカリナを取り出した。
「それは?」
「作り損じたものだ。捨てるのも忍びなかったのでな、こうして持っている」
ハーロックは、オカリナで曲を奏で始めた。コンドルは飛んでいくという曲である。
オカリナは、初心者が吹くにはとても難しい楽器である。それを、滑らかに、かつ勇壮に奏でられるのは、間違い無く努力の賜物であるといえよう。
志歩は、ハーロックの演奏に聴き惚れていた。
同時に、このようなことを思った。
──このオカリナは、誰に作ったものなんだろう?
また、時を同じくして、クイーン・エメラルダス号も、針路を音楽惑星にとった。
***
咲希は、思わず絶句した。
これが、かつて霊長と謳われた存在が生存する場所なのか。どう見ても、羅生門に描かれたような地獄ではないか。
中には、かつて友だったのだろう屍肉を泣きながら食らうものもいた。
生き血を啜り、髪を焼く。これを生き地獄と言わず、なんと言うのだろう。
そのような様相を呈していた。
温もりなどあろうはずもない。
メガロポリス近辺のスラムは、現実に近いものである。時々銃器が流れ着くこともある。しかしこちらは、現実から大幅に乖離した、劣悪な環境であった。
ならばなぜ、メガロポリスすぐそばのスラムは迫害されにくいのか。それは、所謂灯台下暗しというものである。
「ひ、酷い・・・・・・。こんなの、こんなのって・・・・・・」
「これが、生きることを許されぬものたちの姿。機械化人によって虐げられるものたちの姿」
「なんで、こんなことになったの・・・・・・?」
「裕福か否か、それだけの違いです。中には、機械になることを拒む人もいたと聞きます。私は生身ですが、いずれ機械の体となるでしょう。そうなれば、永遠を手にすることができる。なぜ永遠を拒むのか、私にはわかりません」
「永遠・・・・・・」
咲希には、永遠と思える苦しみがあった。
幼馴染と一緒にいられないのが、とても苦しかった。病院がシブヤから遠かったのが要因とはいえ、家族以外で見舞いに来るのは一歌くらいだった。兄はいつしか己の原点を忘れてしまい、見舞いに来る頻度が減っていった。
すなわち彼女は、幼くして孤独を味わったのである。
もし自分が永遠を手に入れたとする。ならば、永遠を手に入れられなかった者は、当然死んでいく。そうなれば、ずっと一人でいなければならないのである。咲希には、それがどうしても耐えられないのだ。
「・・・・・・アタシは、いいや」
「なぜです? 永遠に生きられれば、それこそどんなことだってできる。どんな姿にだってなれる。病気も怪我も無縁になり、自分の思うが儘に生きていけるようになるというのに、どうしてそれを拒むのでしょう?」
「だって、寂しくなっちゃうから」
「寂しくなる・・・・・・?」
咲希は、つらつらと持論を語る。
「アタシはね、病気を持ってたんだ。それで、長い間入院してた。その間、アタシは大抵一人だったんだ。同じ病室に人はいたけど、亡くなったり、退院したりして、気づけばまた一人ぼっちになって。お兄ちゃんも、だんだん来なくなっちゃって。それで、すっごく寂しかったんだ。
もしアタシが永遠の体を手に入れたとしたら、そしたらみんなが死んでも生き続けるってことだよね。大事な友達とも、二度と会えないってことだよね。
・・・・・・そんなの、アタシは嫌だな。
一人で長い時間を孤独に過ごすくらいなら、みんなで限られた時間を精一杯生きていく方がいい。アタシは、そう思ってる」
「・・・・・・」
「ねえ、メーテルさん。本当に、永遠って素晴らしいものなのかな?」
その質問に、メーテルは答えられなかった。
咲希は、スラムに目を向けた。
もはや、限られた命を燃やそうとすら思わない、生ける屍が住まう世界。
夢も希望も、すでに失われてしまった世界。
咲希は、同情こそすれど、憐れむことはしない。哀れんだところで何も変わらないからだ。
そうするくらいなら、と、咲希は歌を歌い始めた。
『ステラ』
星を意味する言葉を冠したその曲は、幾度も幾度も雨に打たれて、それでも尚、光明を信じ、そしてそこに辿り着いた一番星を歌ったものだった。
およそ五分程度の、アカペラの独唱。それは、もしかすれば、スラムの住人たちには何の影響も与えないかも知れない。だが、確かに、いっときの光を放ったのであった。
──999発車まで、あと一九時間。
***
機械伯爵とその一味は、次なる獲物を探していた。
「ううむ、このところ、人間狩りの成果が上がらぬ」
「上玉がなかなかいないからな、仕方ないといえばそうだろう」
「全く、もう少し肉をつけろというんだ。顔が良くても、肉や脂がなければ、剥製にしたところで何の面白みもない」
彼らは、ため息をついた。
人間狩りとは、一部の機械化人の嗜みである。特に美人が好まれており、剥製の数が多ければ多いほど良いという。
「ま、こうして話し合っても仕方あるまい。ちとレーダーとカメラとでチョチョイのチョイと・・・・・・」
一味の一人が、機械を持ち出して、半径数百メートルを探知し始めた。程なくして、二人の人物が探知にかかった。
「・・・・・・おお! これは上玉だ。程よく肉もついており、脂もあり、そして顔がいい。しかも片方は、珍しい髪色をしている。これは良い剥製になるぞ・・・・・・」
そこに写っていたのは、咲希とメーテルの姿であった。
機械伯爵一味は、次なる獲物を彼女らに定めた。
「とりあえず、諸君はゆっくり待っているがいい。今回は、私がやってくる」
機械伯爵は、一味に向けてそう宣言した。
拍手で、その考えは迎え入れられた。
***
「疲れが溜まっていては、動こうにも動けませんからね、しばらく休みましょう」
セーフハウスで、メーテルはそう言った。
咲希は、早速ベッドに腰掛けた。
「メーテルさんはどうするの?」
「少し、番をしていようかと思います。レーダーなどで外敵を探知することはできますけど、応対できる人がいないと困りますから」
「えーっ、それじゃあメーテルさんが休めないじゃん! アタシだけ休むって、なんだか申し訳ないや」
メーテルは、テーブルに備え付けられた椅子に座っていた。咲希は、そのすぐ左隣の、人が一人座れる程度の大きさの台に腰掛けた。
しかし、二時間後、結局咲希は寝息を立て始めた。メーテルの肩に頭を乗せ、無防備な姿を見せている。メーテルは、思わず頭を撫でた。どこか、懐かしい感じがした。
その時。
レーダーが、反応を示した。
「これは・・・・・・?」
方角は、ドアに向いている。咲希をベッドに寝かせ、メーテルは、単身で様子を見に行った。
そこには、メーターのような単眼を持った馬に跨った人物がいた。
「おお、見つけたぞ! 傷をつけないように殺してやる」
そう言って近づいてくる影は、まさに機械伯爵のものであった。
「!」
メーテルは、銃を構え、躊躇なく引き金を引いた。光弾は、馬に当たった。馬は麻痺し、機械伯爵は落馬した。
「よし、これなら・・・・・・」
だがそれは、機械伯爵を無力化したわけではない。彼らはまだ、健在なのだ。
「それで勝ったつもりか。無意味な、どうせ剥製になるのみだ」
スラムからも離れており、助けを期待することはできない。機械伯爵は、メーテルに向けて躊躇なく銃を撃った。こちらも、光弾を発射出来る。
「あっ──」
メーテルは、咄嗟に反応できなかった。光弾が直撃し、動けなくなってしまった。
「フフフ、見れば見るほどに上玉だ。さて、持ち帰って剥製にしよう」
そう言って、機械伯爵はメーテルに手を伸ばす。
──嫌だ。でも、動けない。
──諦めるしかないというの?
──咲希さん・・・・・・
メーテルが自らの命を諦めかけたその時。
「め、メーテルさんに近づくな! 少しでも触ってみろ、撃ってやる!」
咲希が、ライフルを構えて立っていた。いつの間にかベッドに眠っていたことに違和感を感じ、セーフハウスに懸架されていたライフル銃を持ち出し、様子を見れば、メーテルが拐かされそうになっていたという次第である。
「何と幸運な。剥製が二つも増えるとは」
「剥製、ってまさか・・・・・・! 人間狩り・・・・・・」
「その通りだ。しかし解せんな、なぜお前はそこまで抵抗する。美しいままで、永遠にいられるのだぞ」
機械伯爵の言い分は、自らを強引に正当化しようとするものだった。確かに、これは昆虫標本などにも通づることだ。人間にとっての虫が、機械化人にとっての人間なのである。
だから、否定する事などできはしまい。それが、機械伯爵の思惑だった。
そして、そのようなことを、咲希に垂れた。
「アタシは、そんなものはいらない」
だが、咲希はそれを否定した。
咲希の考えは、先に記した通りである。
確かに、人間もまた傲慢な生物である。それは、否定できない。それでも、こうして友情を築き、天地自然の理に抗い生き、何かを──夢を成し遂げることができるのは、人間だけだ。機動戦士ガンダムUCに曰く、神を持つのは人間だけであるという。
これらは、作者が考える建前に過ぎず、咲希の考えではない。彼女の考えは、たった一つのシンプルなものだ。
──自分だけの永遠なんて、いらない。それくらいなら、仲間と共に朽ち果てる方がいい。
このようなことを、機械伯爵に向けて叫んだ。
「わからぬ小娘だ!」
彼は、咲希に銃口を向けた。咲希も、機械伯爵にライフルを向けた。
──ここで撃たないと、殺される。
咲希は恐怖を覚えた。そして、恐怖のままに、引き金を引いた。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・立っていたのは、咲希だった。機械伯爵は、見事に頭を撃ち抜かれ、絶命していた。機械化人は、頭が潰されると、修理ができなくなってしまうのだ。
「あ──アタシが、殺した・・・・・・?」
聡明な部分を持つ咲希は、すぐにその事実を理解した。
だが、そこでうずくまったり、自決したりする暇はない。メーテルの安全を確保しなければならない。
「メーテルさんは──」
首筋に触れ、脈をとる。
「──良かった、生きてる・・・・・・」
生存を確認した咲希は、メーテルを抱えてセーフハウスに戻った。
セーフハウスで、メーテルは目を覚ました。
「・・・・・・あれ? 私は、たしか──」
「メーテルさん!」
メーテルに、咲希は飛びついた。
「良かった、ホントに良かった・・・・・・!」
「咲希さん・・・・・・」
咲希は、感極まったのか涙を流していた。
それまでの経緯を聞くと、メーテルは、「辛いことを背負わせて、ごめんなさい」と詫びた。本来彼女らは、人を殺さなくてもよいセカイで生きている。それが誰かを手にかけたとあらば、トラウマになってもおかしくない。メーテルが対処すべきだったことを、咲希に背負わせてしまったのである。
「大丈夫、罪悪感を抱く必要はありません。彼は、多くの人を殺していました。それに罪悪感を抱くこともなく・・・・・・。その報いが来たのです」
「だったら、アタシもいつか誰かに殺されちゃうのかな」
「そうなるかもしれません。でも、こうして誰かを殺すことにためらいを覚え、それでも引き金を引けるのなら、あなたは大丈夫。咎め立てすることはありませんよ」
「メーテルさん・・・・・・」
咲希が感じていた人を殺す重圧が、少しだけ和らいだ気がした。自分が生き残るため、誰かを守るため、他の誰かを淘汰する。そんな概念が、少しだけ受け入れられたように思えた。
「ですが、機械伯爵を殺したとなると、咲希さん。あなたは、機械化人の敵になったということになります」
「ええーっ!?」
「だから、もうここにはいられないでしょう。早く999まで・・・・・・」
「・・・・・・わかった。行こう!」
二人はセーフハウスを出、ターミナルへ走った。
──999発車まで、あと五時間。
***
「おい、様子が変じゃないか?」
「ああ、凄腕と名高い伯爵が、こうも手こずるとは。ちと私が見てこよう」
「頼んだ、公爵」
機械伯爵の一味の一人、機械公爵は、なかなか伯爵が帰ってこないことに不信感を抱き、様子を見に行った。
「このあたり、か・・・・・・」
機械伯爵の馬が、そこにいた。どうやら、体内のメカが麻痺しているらしかった。
「ぬ!」
そしてその傍には、頭が吹き飛ばされた機械伯爵の姿があった。
「な、なんと惨いことを・・・・・・!」
機械公爵は、決意した。必ずや、伯爵を殺した人間を殺し、徹底的にその尊厳を辱めてやろうと誓ったのである。
***
「着いた!」
「早く乗りましょう!」
二時間ほど走り、二人はターミナルに到着した。目的地は、99番ホームである。ここまで来れば、安全圏だろう。幸い、機械伯爵殺しの情報はまだ出回っていないようだった。
「えーと、こっちは97番、これは95、そっちが98で・・・・・・あった!」
「99番ホーム、急いでください。いつ情報が回るかどうか・・・・・・」
「大丈夫大丈夫! ここまで誰も追いかけてこなかったんだから、心配ないよ!」
それは、咲希なりの空元気だろうか。いつ追手が来てもおかしくない状況で、ここまで気丈に振る舞えるのは、兄譲りの演技力というべきか。
ともかく、二人は、長いエスカレータを上り、ついに999に再会した。
無限乗車パスを持っていることを確認し、二人は999に乗車した。それから三時間後の二十四時、999はついに発射のベルを鳴らした。
車窓からは、夜景が見えた。メガロポリスの輝きと、それ以外の暗がりがはっきりと認識できた。
「これが、地球なんだね」
「・・・・・・ええ。今の地球人には、これを変革することは難しいでしょう」
「でも、歌を聞いてくれた。きっと、心は動いたんじゃないかな」
咲希は、人間の再起を祈った。
汽車は地球を発ち、惑星大アンドロメダへと向かってゆく。
そこにどのような出会い、別れがあるのかは、誰にもわからない。
それでも、ただ一つ言えることがある。
それは、経験した出来事は、必ず糧となるということである。
少女たちは、新たなる出会い、新たなる冒険に胸を躍らせる。
いつの日か、仲間たちと再会することを夢見て・・・・・・
いかがでしたか?
咲希に人を殺させるというのは、いずれどこかでやった方がいいと考えていました。だって、一才の流血もなくこの物語を終えることはできませんから。少なくとも、私はそう考えています。ただし、本作でプロセカキャラが人を殺すのは、「誰かを守る時」「生きるために殺さざるを得ない時」のいずれか又は両方が当てはまる時のみという線引きをしてあります。殺人を楽しむようでは、人間狩りをして剥製にして楽しむ機械伯爵らと同じ穴の狢になってしまいますから、そのあたりはマジで徹底させます。
ミューゼフォンというのは、当然ながら私のオリジナルです。本文でも触れた通り、ムジカ・ピッコリーノの世界観をイメージしていただければと思います。
咲希が語った永遠に対する考え方は、彼女ならこう思うのではないかというのを私なりに全力で考えたものです。無邪気に見えて、意外とクレバーな部分もある。それは、一人っきりでいた時期が他者より長かったからである、というふうに解釈しました。解釈違いには、ご容赦ください。
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