緑谷仗助の奇妙な物語〜ダイヤモンドは砕けない〜   作:akivas

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耳郎響香、虹村億泰に会う

 

「失礼します。」

 

時刻は午前9時過ぎ。ホームルーム終わりの雄英高校は既に一限目がスタートしており、校内は平穏な静寂に包まれている。特徴的な『H』構造のビル型校舎の高層階に位置する校長室の扉を開いたその男は、無作法に伸ばした髪と髭を掻きながら、酷く気怠そうな様子を隠す事もせずに欠伸を漏らして入室する。

 

「どうぞ。悪いね。相澤先生。お忙しいだろうに。」

 

その態度を咎めるでもなく、立派な木目の机に座る人物。正確にはその『鼠』は朗らかに手を挙げて挨拶をする。人よりも優れた頭脳を持つ個性『ハイスペック』所有者である根津校長の様子に、プロヒーロー『イレイザーヘッド』こと相澤消太は心の中で独り溜息を吐いた。

 

「いえ。で、何か用でしょうか。態々私個人をご指名とは。」

「うん。とってもとっても大事な話だ。良い話かもしれないね。」

 

絶対に面倒な話だとイレイザーヘッドは確信する。今度は口から漏れそうになった溜息を何とか呑み込んだ。

 

「単刀直入に言うよ。他校から特別受け入れを行う。二名で期間は一年間。一年A組で見た貰いたいんだ。」

「・・・はぁああ。」

 

海より深い溜息が盛大に漏れた。予想を遥かに上回る面倒事にイレイザーヘッドは舌打ちすらしたい気分になる。

 

「勘弁してくださいよ。体育祭終わりの職場体験調整で繁忙の上、USJ事件の後処理も終わり切ってないんですよ。それに、二人いるなら一人はB組でも良いのでは?」

「うんうん。普通はそうなるよね。けどね相澤先生、二人一緒だから意味があるかもしれないんだ。」

 

感情を表情にも声色にも載せない根津校長の言葉には含みがあった。それを聞き逃すイレイザーヘッドでは勿論無い。面倒だと単純に切り捨てる事象では無いと即座に判断した。

 

「・・・事情を詳しく聞いても?」

「相澤先生はジョースター家を知っているかな?」

「知らない奴の方が少ないでしょう。」

 

ジョースター。

 

保有資産は計り知れないという世紀の大不動産王の名前。思っても見なかった人物の名前の登場にイレイザーヘッドは片眉を訝し気に吊り上げる。

 

「うん。そうだね。では、そのジョースター家のルーツがイギリスで、嘗ては栄華を誇った名家であったという事は?」

「・・それは初耳です。てっきりアメリカかどっかの金持ち一家の流れかと。・・校長、それと今回の件、何が関係があるので?」

 

勿体ぶるような根津校長の言い回しに痺れが切れ始める。うんうん、と数回頷いた根津校長は、専用設計された小さなデスクチェアーに背を預けて僅かに天を仰ぐ。

 

「この世界にはね相澤先生、決して理解できない事象がたくさんあるのさ。」

「そりゃこの個性時代では当然でしょう。」

「そうであっても、だよ。説明も理解も出来ない事が世界の何処かで、歴史の裏で起こっているのさ。決して白日の下に晒されない奇妙な物語・・・、その中心には常にジョースターの血がいるんだよ。」

「・・・・・話が見えませんね。」

 

だろうね、と独り頷く根津に、イレイザーヘッドの苛立ちは募るばかり。

 

「ジョースターの血を引く者は黄金の精神を持つ者。そしてその仲間達もまた、ね。黄金の精神は力となって、人間としての『誇り』を顕現させる。教科書や歴史書では知ることのできない真の人間の歴史だよ。」

 

そして根津校長は机の引き出しを引いて二枚の紙資料を取り出す。A4サイズの簡易な履歴書を、小さすぎる鼠の手で掴みながら机上に並べりようにして広げた。

 

「・・・・この二人が?ん?・・こいつら、『無個性』じゃないですか。」

 

二名の履歴書の個性記入欄には斜線が大きく引かれている。それは個性に該当する特徴が無い、つまりは無個性ということを指し示す。

 

「相澤先生。・・・ヴィラン隆盛が迫るこの時代で、彼らの持つ奇妙な力こそ『スターダスト・クルセイダース』になるかもしれないのさ。」

 

何かを確信している根津校長に、懐疑心を強めるイレイザーヘッドは机上の二枚の履歴書をじっと睨んでいた。

 

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「あぁ・・・ヘビーだぜぇ・・。」

 

時刻は16時を過ぎた頃。朝は通勤・通学で賑わっていた駅前の通りは、今は帰路に着く者達で賑わっている。その中で一人、緑谷仗助は浮かない顔で、教科書も何も入っていない薄っぺらい学生鞄を片手に肩に担ぎ、盛大な溜息を吐きながら歩いている。

 

思えば今日は見事にツいていない。朝の騒動で結局遅刻した上に、昼食の弁当を忘れるという始末。昼休みは食料の争奪戦が巻き起こる校内の購買では何も買う事が出来ず、結局、ケチな『親友』からサンドイッチの一欠片しか恵んで貰えなかった。故に、彼はひどく空腹に苛まれている。成長期の男子にとって昼飯抜きは死活問題なのだ。

 

「あ・・。」

「ん・・?あ・・。」

 

はぁっと溜息を零し続けながらダラダラと歩いていたその大きな背中に、短い声が掛けられる。明らかに自分に対して投げかけられたその声に、ゆっくり緩慢な動作で振り返った仗助は、その声の主を視界に捉えて同じく声を上げた。自信よりも幾らか小柄でショートボブが可愛らしい丸顔の女の子、麗日お茶子がそこにいた。

 

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「へぇ。あんた雄英生なんっすねぇ。すげぇなぁ。」

 

約20分後、二人の姿は『喫茶カフェ・ドゥ・マゴ』のテラス席にあった。普段は混み合う筈の夕刻の街カフェも今日は偶然空いていた。夕食前とは言え飢餓寸前だった仗助は、注文したオリジナルサンドイッチを頬張りながら対面の席に座るお茶子に話しかける。控えめサイズのカップに熱い紅茶を注ぐ彼女は少々照れくさそうに頭を掻く。

 

「い、いやいや。ウチなんか全然!・・・というか、今朝はありがとうございました。」

 

改まって頭を下げるお茶子にポカンと呆けた表情を浮かべる仗助。そして今朝の騒動を思い出して気まずげに頬を掻く。

 

「ん?いやぁ、礼を言うなら俺の方っすよ。止めてくれてありがとうっす。俺、この髪型を貶されると心の奥でプッツンしちまうんすよねぇ。」

 

危うく金髪男を殴り殺しかけた自分を止めてくれたのはお茶子だった。寧ろ感謝するのは自分と頭を下げる仗助。お互いに頭を垂れる奇妙な時間が暫く続いた。

 

「そうなんだ。緑谷君にとってはその髪型が誇りなんやね。・・・うん。似合ってる。かっこいいよ!」

 

その言葉に再びポカンと呆ける仗助。貶されこそすれ、褒められた事など殆どない自慢のヘアースタイル。それを受け入れてくれたお茶子の存在は、彼にとって清々しい程に新鮮で、純粋に嬉しかった。

 

「ありがとうっす!あ、つぅか俺の事は仗助でいいっすよ。同い年だし。」

「そう?ならウチの事もお茶子でええよ。同い年なら敬語もいらないよね。」

「ん。よろしく、お茶子。」

「よろしく、仗助君。」

 

そこから他愛もない雑談に、日が暮れるまで花を咲かせる二人。偶然出逢った二人の関係、それは奇妙な運命の歯車に拍車をかけるのだった。

 

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「うぅ〜ん。こいつぁ悩むぜ。悩みすぎて頭痛が起きるくらいによぉ。」

 

 

場所は変わって市内の中古CDショップ。小さいながらもニッチな商品を取り揃えるこの店は知る人ぞ知る名店だ。狭い店内のガラスケースに飾られた『レッドホットチリペッパーズ』の限定生産アルバム、特価六千円(税込)を眺めながら唸り続ける少年が一人。

 

サイドを刈り込んだ辮髪に近い特徴的なヘアースタイルに顔に刻まれた大きな✕印の傷。¥マークとBILLIONの装飾が施されたド派手な改造学ランを着込んだその男『虹村億泰』はウンウンと唸り続けている。親友たる緑谷仗助は空腹に耐えかねて帰宅したので、暇潰しに寄った中古CDショップにて思わぬお宝を見つけてしまったのだ。

 

億泰はこう見えてミーハーで実直な倹約家だ。レッドホットチリペッパーズの限定アルバムは何としてでも手に入れたい。しかし、倹約家の一面もある彼には六千円(税込)は飛びつける金額でもない。

 

諦めようか、思い切って買ってやろうか。ぐるぐると思考を巡らせていると、いつの間にか自分の真横で首を捻らせる少女がいた事に気がついた。一目で分かる雄英高校の制服を着た彼女は、イヤホンジャックのように伸びた耳朶を触りながらウンウンと唸っている。

 

やがてお互いの目がバッチリと合った。

 

そして二人の視線はレッドホットチリペッパーズのアルバムへ。そしてまたお互いの顔へ。それを何往復か繰り返した後、会話の口火を切ったのは億泰だった。

 

「・・・俺が3,000円。」

「ウチで3,000円。合計6,000円。」

 

ノッた!とハイタッチを交わす二人。

 

ビシバシッグッグッ!!

 

虹村億泰と耳郎響香は偶然的にも運命的な出会いを遂げた。

 

奇妙な物語の歯車はここでも廻り始める。

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