緑谷仗助の奇妙な物語〜ダイヤモンドは砕けない〜   作:akivas

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俺達を完璧怒らせたっ!

 

「ふぅ・・・マジで痺れたぜぇ。」

「お疲れさん。」

 

時刻は正午丁度。雄英高校職員室の扉を開いたプレゼントマイクの顔はげっそりと痩せこけているように見える。人としての尊厳を失ったゾンビのような亡者の足取りで自席に何とか辿り着き、机に突っ伏すその姿に、隣の席に座る同僚且つ親友であるイレイザーヘッドは、大量の書類を手際よく片付けながら淡泊に労いの言葉をかけた。

 

「うぃ~・・なぁイレイザー、あいつらマジか?」

 

「何がだ?」

 

「受け入れだよ。受け入れ。中々気合が入ったオツムだぜぇ。特にあの億泰ってのは。」

 

机に突っ伏しながらグリンッと顔だけ向けるマイクの問い掛けにイレイザーは作業の手を止める。マイクの言わんとしている事は実によく分かった。本来なら1時間少々で終わるはずだった『他校生徒受け入れプログラムの概要と雄英高校紹介のオリエンテーション』が、約4時間かかって今に至っているのも事実であり、担当したマイクがくったくたに搾られているのだから。

 

「俺に聞くな。校長の発案だ。」

 

「何考えてんだろうな・・。しっかし、お前も貧乏くじだぜ。あいつらの担任なんだからよ。」

 

「・・・・。」

 

「ん、どした?」

 

再開していた事務作業を再び中断し、動きをピタリと止めたイレイザーの様子にマイクが問い掛ける。

 

「・・・いや。」

 

そして数週間前の出来事を思い出した。無個性であるはずの二人が持ち合わせていた奇妙な力。自身の能力でも抹消できなかった特別な存在。まるで彼らの生命エネルギーを体現しているような存在感と凄みを、イレイザー自身はあの時感じていたのだ。

 

「スターダスト・クルセイダー・・・か。」

 

そして、根津校長の言葉を思わず呟いた。

 

「ん?何だって?」

 

「何でもない。お前もそろそろ手伝え。職場体験の最終申し込み、期限は今日までなんだ。」

 

机に突っ伏すマイクの正に真横に、巨大な書類のタワーをズンッと置くイレイザーの無慈悲さに、マイクは再びゾンビの如く亡者の溜息を吐くのだった。

 

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「ゥンまああ~いっ!」

 

時刻は同じく正午。昼休み真っ最中の雄英生で賑わう食堂『ランチラッシュの飯処』に、突き抜けるような爆音が走った。あまりに場違いすぎる風体と改造学ランの二人は、ただでさえ悪い意味で注目を集めているのに、そんな事を意にも介さない虹村億泰は本日の特別メニュー「かつ丼」に感動の雄叫びをあげる。

 

「俺ぁよぉ!今までカツ丼ってのは白飯にカツをのっけただけのもんと思ってた訳よ!だが!こいつぁ違う!!カツが米を、米がカツを!!引き立てるなんて陳腐なもんじゃぁ無い!調和だよ!!ハーモニー!!あぁ生まれてきて良かったぁ!おっかさぁあん!!」

 

「んな大袈裟な。」

 

まるで数日間砂漠を彷徨って何も食べていなかったかのようにガツガツと、息する間も惜しむ勢いで胃袋へカツ丼を掻っ込む億泰の様子を呆れがちに眺めながら、緑谷仗助はミートボールスパゲティを口へ放り込んだ。

 

「う、うめええ~っ!!」

 

「だろ!!?」

 

「こ、これが学食!?グレートだぜ、こいつぁよ!!」

 

「旨味が胃袋に収まらねぇ!!更に向こうへ行くみてぇだ!!プルス・ウルトラってぇこの事かぁ!?」

 

そして次の瞬間には仗助も立ち上がり天を仰いでいた。レトロな不良風の二人が感動の雄叫びを上げる奇妙な光景に、関わってはいけないと距離を置き始めた雄英徒達。その怪訝な視線は強まるばかり。

 

「あなた達!ここは食堂!つまり!公共のスペースですよ!!もう少し静かにできませんか!」

 

彼らを中心に広がり始めていた人の空白の輪。そこに果敢にも突撃を行う猛者が一人いた。恵まれた体格にカッチリとセットされた髪型、生真面目さを表すように銀色に輝く眼鏡。皺ひとつない綺麗な制服を身に纏った如何にも委員長然りといった少年が、本日のランチAセットを手に抱え、二人の席の前に歩み寄って仁王立ちする。

 

「んん?」

 

「ああ?」

 

ピタリと感動に打ち震える身体の動きを止め、件の少年へ向き直る億泰と仗助。その厳しい表情に周囲の生徒は思わず一歩後退する程に異様な凄みを感じてしまう。一触即発、喧嘩沙汰が起こるかもしれないという緊張に、注意を行った当事者である飯田天哉もゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「そうっすね。確かに喧し過ぎたっす。」

 

「ん。すんません。」

 

そして律義に頭を深く、ほぼ地面に直角の角度で下げる億泰と仗助。文句の一つでも、最悪、鉄拳くらいは飛んでくるかと覚悟していた飯田は一瞬呆気に取られる。

 

「え、あ、い・・いや、分かって頂けたのならそれで。あ、申し遅れました。私は飯田天哉。ヒーロー科一年A組の生徒です。」

 

その言葉に億泰・仗助は頭を下げ続けたままガッと顔を上げる。

 

「一年A組・・?」

 

「・・ってぇ事はよぉ。」

 

温厚な態度とは言え、気合の入った二人の顔面に飯田も、その様子を遠くから見ていた生徒達もギョッとしてしまう。何か触れてはいけない逆鱗に触れてしまったのか、と。

 

「え!?じょ、仗助君?」

 

「は!?億泰?なんで?」

 

そしてギャラリー群から飛び出す影が二人。トレーにお洒落なサンドイッチプレートを載せた二人の女子生徒は、渦中の人物たちに驚愕の声を上げる。

 

「ん?あ!お茶子じゃねぇか。」

 

「おぉ!?耳郎~!」

 

状況を理解できない飯田は、億泰・仗助コンビと、耳郎・麗日コンビを何度も高速で見比べていた。

 

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「まさか君達が例の交流生とはね。それに耳郎君や麗日君と既知の仲だったなんて・・・世の中奇妙な縁があるものだ。」

 

数分後、いつもの健全な平穏と喧騒を食堂は取り戻していた。成り行きでテーブル席を共にすることになった五人。先程までの騒ぎを気にも留めずガツガツとカツ丼の続きを楽しむ億泰と、その横で『どうも』と軽く頭を下げる仗助を見て飯田は呟く。

 

一応は特別プログラムの存在をA組生徒一同は知らされていたとは言え、その詳細は伏せられていたし、ヒーローを志す真面目な者達を勝手なバイアスで想像してしまっていた。目の前の二人は、恐らくは根はいい奴であれ、その風体は想像の斜め上を行くものだった。

 

「っす。改めて・・俺、緑谷仗助。んで、こっちは虹村億泰。」

 

「ほほひふはっ(よろしくな)!!」

 

口いっぱいにカツ丼をかきこんだまま話す億泰に、対面に座る耳郎が呆れた視線を向ける。

 

「食ってから喋りなよ。あぁー、ウチは耳郎響香。よろしくね緑谷。」

 

「ジローってあんたの事か。億泰から聞いてるよ。俺ぁてっきり男とばかり・・・ごめんな。」

 

「あぁ、いいよいいよ。気にしないで。億泰がちゃんと説明してないだけでしょ?ねぇ、ウチもあんたを仗助って呼んでいい?堅苦しいの苦手でさ。」

 

「ん。もちろん。よろしくな、耳郎。」

 

億泰と耳郎の関係はそこまで長くもないし深くもない。たまたま中古CD屋で同じCDを一緒に買って貸し借りし合うだけの仲。ただ、お人好しとは言え付き合う人間はちゃんと選ぶ億泰と、さっぱりした性格の耳郎は馬が合っているようで、お互いに遠慮がちな雰囲気は無い。だから、聞き方によっては辛辣な耳郎の意見を聞いても仗助は特段ムカッ腹が立つことも無かったし、初対面でも壁無く接することが出来た。

 

「あ、じゃあ今度は私ね。麗日お茶子って言います。改めてよろしくね、仗助君。虹村君。」

 

「んぐっ。よろしくな~お茶子。俺の事は億泰でいいぜぇ。飯田もそう呼んでくれよぉ。耳郎の言う通りさぁ、堅いのは無しにしようぜぇ。」

 

大きな口をモグモグと租借させ、絶品カツ丼を飲み込んだ億泰が人懐っこい笑みを浮かべる。見た目に反してフランクなその様子にはお茶子も耳郎も、飯田も毒気を抜かれて思わず笑ってしまう。

 

「あぁ。俺はA組のクラス委員長をしている。何かあったら遠慮なく聞いてくれ。」

 

「ん。なら早速聞きてぇんだけどよぉ、飯田。グラウンドβってどこだぁ?昼の授業はそこって聞いてんだけどよぉ。」

 

「βかい?なら正門からバスが出ている。次は12時40分だったと思うが・・・いや、それよりも・・。」

 

「ん?40分・・・?げ!!あと5分しかねぇ!!おい億泰!行くぞ!呑気に食ってる場合じゃぁ無ぇぜ!!」

 

「ぐぇっ!!ま、待て待て仗助ぇっ!首!首締まってるぅっ!」

 

最後の一口を食べようと至福の表情と共に口を大きく開けていた億泰。だが次の瞬間に仗助に首根っこを掴まれ、引きずる程の勢いで食堂出口へと連行されていく。慌ただしく嵐のように走り去っていく二人の背中に、飯田は立ち上がって腕を直角に振りながら『静かに!食堂は走らない!!』と注意を促す。一方で、お茶子と耳郎は揃って首を傾げていた。

 

「ねぇ耳郎ちゃん、昼からの授業、ヒーロー基礎学やんね?」

 

「うん。モニタールームに集合じゃなかった?」

 

だよね、と更に首を傾げる二人を他所に、去り行く背中に対して飯田は繰り返し注意の声を上げ続けていた。

 

-------------------------------------------

 

「なぁ億泰、急いで来た割にはよぉ。」

 

「おう。だぁれも、いねぇな。」

 

時刻は13時ジャスト。午後の授業が始まる時間だと言うのに教師は愚か生徒一人として影すらない。一つの街と言っても差し支えない大規模な疑似市街地を構えたグラウンドβには、今、仗助と億泰の二人しかいないのだ。不良らしく二人はその場に座り込む所謂『ヤンキー座り』スタイルで待機を続ける。

 

「しかしよぉ、仗助。バス移動ってのも、おったまげたけどよぉ、このグラウンドもすげぇな。まるで一つの街じゃぁねぇか。雄英ってのはすげぇんだなぁ。」

 

「・・だな。」

 

すげぇ、すげぇと若干興奮気味に周囲を見渡す億泰とは対照的に仗助は冷めた様子で自慢のヘアースタイルの枝毛を整えている。その様子を億泰は首を傾げて不思議そうに見た。

 

「んだよ億泰、その顔は。例えるなら、外で遊ぶのが大好きな子供を遊園地に連れていったのに、予想以上に喜ばねぇガキの様子を不思議そうに見る母親ってぇ感じだぜ。」

 

「う~ん。お前ってよぉ仗助、ヒーロー好きだろ?俺頭悪いから詳しくは知らねぇけどよぉ、ヒーロー好きにとって雄英ってのはぁ、それこそ遊園地並みに楽しい場所じゃぁ無ぇのか?」

 

マイナー系からアングラ系まで網羅する豊富なヒーロー知識、先日オールマイトに会った時の無邪気な反応を思えば、今の仗助のテンションは冷め過ぎている。億泰の指摘に、仗助は少し困ったように天を見上げて唸った。

 

「・・なんつぅかよぉ・・一度憧れてたもんを諦めたらよぉ・・もう一回憧れんのって難しいんだよなぁ。」

 

億泰もその発言には心の中で同調する。二人に共通すること、それは形としては『無個性』という烙印を一度押されているという事。

 

つまり、絶対的な挫折。

 

「正直よぉ、気持ち的にノリきれねぇっつうか。」

 

「・・・なるほどなぁ。」

 

当時4歳。子供ながらに見ていた夢は潰え、虐められもし仄暗い過去が影を落とす。

 

「わーーーーーたーーーしーーーが!!来た!!!」

 

 

ズドンッ!!

 

 

地面を揺るがす衝撃が走る。立ち昇る砂埃が晴れると、芸術的なまでに見事なスパーヒーロー着地を決めたオールマイトが自身に満ち溢れた笑みを浮かべていた。突然の国民的英雄の推算を前に、件の二人は・・・

 

「「・・・っす。」」

 

特にリアクションをする訳でも無く立ち上がり、頭だけ小さく下げた。

 

「あ、あれ?なんだか思ってたのと違う。」

 

「いや、流石にこの前会ってますしね。あ、それシルバーエイジのコスチュームっすね。グレートっす。」

 

「ところでオールマイトぉ。これ授業なんすよねぇ?なぁんで俺達しかいねぇんすか?」

 

淡泊な二人の少年に若干出鼻を挫かれつつも、億泰の質問に対して、空気を改めるようにオールマイトは腰に手を当てて答える。

 

「あ、うん!そう!これはヒーロー基礎学!つまりは具体的なヒーローのお仕事スキルを高める授業!!今日は特別!!君たちと私のほぼマンツーマン授業だ!!」

 

「ほぼ・・・?」

 

今度は仗助が疑問を口にする。

 

「実践するのは我々という意味だよ。他の生徒達はモニタールームで観察のお勉強だ!・・・・ってのは建前で、実際は君たちの実力を見せて貰おうって話。はっきり言おう少年達。君達がこの雄英に来るのに相応しいか、我々教師と生徒の両方から確認するのさ!特別受け入れとは言え、その資格と価値があるのかってね。」

 

人差し指を億泰・仗助の双方に向けて尚も笑みを浮かべながら話を進めるオールマイト。一方で、億泰・仗助はその話を聞いて眉間に僅かに皺を寄せた。

 

「制限時間は5分!特にルールは無いけど、時間内に色々アピールしてくれると我々としても助かるよ!!」

 

いっちにーさんしー!呑気な掛け声と共にキレのある準備体操をするオールマイトの朗らかさとは対照的に、億泰・仗助の顔には暗い影が落ちていく。

 

『スタート5秒前。5、4、3・・』

 

何処からか機械的なアナウンス音声が響く。

 

「ケガしてもいいように!準備運動は忘れないようにな!!」

 

『2、1・・・スタート!!』

 

「よーし!!元気よく行・・・ガオンッ!!・・・え?」

 

オールマイトは不思議な感覚を覚えた。少なくとも二人の少年と自分達との間には数メートルの物理的な距離があった。スタートの合図と同時に、その距離が突然『0』になったのだ。事実、今オールマイトのまさに『目の前』には俯いたままの二人の少年が佇んでいる。

 

ドギュゥウンッ!!

 

「なっ・・・」

 

『ドォオラララ!!!!』

 

突如仗助の背後から現れた『巨大な腕』。目にも止まらぬ超速の拳のラッシュがオールマイトに叩き込まれる。超人的な反射神経でそれを捌き続けるオールマイトであったが、その拳の一撃一撃はひどく重い。たまらず後方に吹き飛ばされ、建ち並ぶビル群に派手に突っ込んだ。

 

「・・・・なぁ億泰よぉ。」

 

「どうしたよ、仗助。」

 

ドギュゥウンッ!!

 

二人の背後から何かが飛び出す。

 

「決めたぜ億泰。こいつの名前をよぉ。『クレイジー・D(ダイヤモンド)』。こいつぁクレイジー・D(ダイヤモンド)だ。」

 

「俺もちょ~ど決めたところだ。『ザ・ハンド』だ。俺ぁ頭悪ぃからよぉ。シンプルに行くぜぇ。」

 

強く漲る生命の波動を巡らせながら、それは明確なヴィジョンを描いて顕現する。

 

「俺ぁよぉ、さっきノリ気じゃぁねぇなんて言ったけどよぉ、撤回するぜ。」

 

「あぁ。俺もよく分かんねぇんだがよぉ、ムカッ腹が立って仕方ねぇ。」

 

「そりゃ俺もだ。シンプルな事実だ。マジでシンプルな、よぉ。」

 

「あぁ・・。」

 

二人は不良だ。雄英のエリートからすれば、路上に転がる石ころのように些細な存在なのかもしれない。だが、だからと言って、ナメられ続けるのは我慢がならなかった。

 

「「俺達は!!怒ってるっ!!」」

 

砂埃を巻き上げた黄金の風が吹き抜けたっ!!

 

 

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