緑谷仗助の奇妙な物語〜ダイヤモンドは砕けない〜 作:akivas
『ドララララァアア!!』
「うおおおぉぉぉ!!」
巻き上がる砂埃が地面に落ちる間も無く、激しい拳と拳の激突が繰り広げられる。試合開始から30秒が経過。残り時間4分30秒。僅か30秒の間に、一人の英雄と二人の不良少年の激闘はトップギアで加速し続けている。その一発一発が凡人ならば一撃必殺級の威力を持つクレイジー・Dの拳に、オールマイトもそれ以上の速さと勢いの拳打で応え続ける。
「君のその守護霊!凄まじいパワーとスピードだ!ランクでいうところの『A』!超凄いってやつだ!!」
「っ!そいつぁどうも!」
クレイジー・Dの無数の拳は弾かれ、制される確率が段々と増えてくる。そしてそれとは対照的にオールマイトの拳は勢いを増して雨のように降り注ぎ、徐々に仗助との距離を詰めていく。
「だが精密性は少々劣るな!一発一発の正確性が段々落ちてきてるぞ!!さぁ!そこだ!!」
クレイジー・Dの両拳が大きく弾かれて体勢を崩した。ボディから顎にかけてガラ空きになる仗助に、オールマイトは容赦なく右ストレートの構えを振りかぶって見せた。
ガオンッ!!
そして、その拳が振り下ろされる数瞬前に、その巨躯ごと右方向へと大きく吹き飛ばされた。その先にいるのは虹村億泰とザ・ハンド。『削り取られた』空間が圧縮され、接合する勢いそのままにオールマイトは真っすぐ億泰へと飛ばされる。
「仗助っ!!」
「そう!そして君だ!虹村少年!!君の守護霊の能力!それは何もかも削り取る能力と見た!!実に恐ろしい!!」
身体を『くの字』に曲げながら億泰へと引き寄せられるオールマイトの表情には、絶対的な勝者の笑みが絶えず浮かんでいる。開始直後、まんまと不意を突いたザ・ハンドの能力は既に見抜かれていた。そして、それを応用し、対策することはナンバーワンヒーローにとっては造作も無いこと。オールマイトは空中でクルリと態勢を変え、まさにドロップキックのような姿勢を取った。
「んなっ!?」
「んん~っ!いい加速装置だっ!!!」
「ぐぇっへぇっっ!?」
メキメキメギィイッ!!
そしてその超大質量のナンバーワン・ヒーロー・ドロップキックは億泰へ見事に着弾。ザ・ハンドで防御の構えを取っていたとは言え、その勢いは相殺しきれずに億泰の肋骨を容易く砕き、そのまま彼を後方へと吹き飛ばした。
「億泰!!」
時間にして一瞬。その一瞬で友人を制圧するオールマイトの実力に薄ら寒いものを仗助は背中に覚えつつ、本能的に大地を蹴って吹き飛ばされた億泰の元へ飛んだ。それをオールマイトは追撃するでも無く、腰に両手を当てながら好戦的な笑みを浮かべて観察するばかり。
ドギュゥゥウンッッ!!
仗助の背後から飛び出すクレイジー・D。その剛腕が思い切り億泰を殴りつける。それは肋骨を砕かれて血反吐を吐きながら蹲る億泰へのトドメの一撃のように見えた。仗助の奇怪な行動に、モニタールームで事の顛末を見守っている一年A組一同は息を呑み、悲鳴の声を上げる者もいる。しかし、オールマイトは黙って見守り続ける。
「げほっ・・・。悪ぃなぁ仗助ぇ。」
「立てるか。億泰よぉ。」
億泰を殴り抜いたクレイジー・Dの巨大な拳。それは生命を奪うのではなく、戻し、治すための拳だった。生命の息吹を加速させる音と共に、億泰は受けた傷を癒され、差し出された仗助の手を握って立ち上がる。億泰が握った仗助の拳は、激しいオールマイトとの打ち合いで砕けて血が滴り落ちていた。
「なるほど。治す力。実に素晴らしい力だが、見た所では自分を治す事には何か制約があるのかな?いや、そもそも出来ないのかな?まさに自分に厳しく他人に優しく。ヒーローらしい見事な力だ。」
人差し指を突き付けるオールマイト。そしてそれに返す仗助の視線は厳しい。
「・・・今更興味無ぇんすよ、ヒーローなんて。ガラじゃぁ無ぇですから。正直、この戦いが俺らのヒーローとしての可能性を見るためのもんってんならノリ気もしねぇ。」
嘗て踏みにじられた夢を思い出す。仗助は拳を更に強く握りしめた。その優しい拳から更に血が滴り落ちる。
「だけどよぉ。やり方が気に喰わねえ。ヒーローだからって雄英だからって、決して人を試すような、見下すようなやり方は違ぇだろうがよぉ!」
「あぁ、その通りだ仗助ぇ!ナメられっぱなしで黙ってられるかよ!」
「だからよぉ・・オールマイト!あんたを殴るぜ!」
「ヒーローだとかどうとか関係ねぇ!ただ!あんたを殴る!!」
「HA!HA!HA!!・・まぁいいさ。残り時間はまだある。精々頑張ってくれよ!!不良少年達!!」
オールマイトが地面を蹴るのと、仗助・億泰コンビが駆けだしたのはほぼ同時だった。
残り時間:2分30秒。
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「す、すごい。」
「お、おぉ・・。」
場所はモニタールームに移る。コスチュームを着こんだ優秀なヒーローの有精卵達こと1年A組の生徒達は、固唾を飲んでグラウンドβの映像に釘付けになっている。先の台詞を思わず呟いた少年・尾白猿夫と砂藤力道はモニター向こうの激闘に武者震いすらしている。接近戦、肉弾戦を得意とする二人だからこそ熱く滾るものがそこにあった。
「ですわね。お二人の個性・・・あのような個性は初めて拝見しましたわ。」
「壊す力と治す力というだけの、単純な個性でもなさそうね。」
「・・・どうかしたか、爆豪。」
推薦入学組の優等生・八百万百の指摘に、聡明な知見を持つ蛙吹梅雨が顎に手を置いて答える。思案に耽る彼女の横で腕を組んで状況を観察していた障子目蔵であったが、ふと薄暗い室内の隅っこで一人、驚愕の表情で目を見開く爆豪勝己の様子に気が付いた。
「・・・・うるせぇ。」
爆豪はいつも以上に冷たく、いつも以上に焦りを滲ませた声で、それきり何も答えずにそっぽを向いた。
「凶悪なる拳。命を狩り取る力を感じる。」
「あの目付き悪い"バッテン傷"だろ?あの個性ってさぁ。人に使ったらマジで危ないじゃんな。」
冷静沈着にモニターを睨む常闇踏影と、普段は陽気な口調も鳴りを潜めた上鳴電気が緊張気味に会話を交わす。
「そんな事しないよ、億泰は。・・・ううん、絶対。億泰は絶対にそんな事しない。」
そして、耳郎響香は食い気味にそれを明確に否定する。先も述べた事だが、耳郎と億泰の付き合いは決して長くはない。だが、感覚的に虹村億泰という『人となり』は理解していた。
馬鹿で阿呆で、だけどどこか憎めなくて、真っすぐで、実は心の奥に熱い物を秘めている。そんな印象を耳郎は抱いている。今戦っているのも、自分が馬鹿にされたからというより、恐らくは親友の緑谷仗助が馬鹿にされたからだろうと耳郎は思っている。だからこそ、あの恐るべきザ・ハンドの力を悪用する億泰のビジョンを耳郎は全く想像ができなかった。
「億泰君もだが!仗助君もだ!あの治す個性!!使い方によっては末恐ろしい能力だぞ!!」
「・・・・そうかな。」
ビシッ!と甲冑の軋む音すらしない鋭敏な動作で腕を振るう飯田天哉の言葉に、麗日お茶子はモニターを見つめたままぼんやりと言葉を返した。
「仗助君の個性は、きっと誰よりも・・・この世の何よりも優しい・・そう思う。」
麗日お茶子には見えていた。クレイジー・Dが持つ力強さ、その中に生命の息吹が満ちているのを。そしてそのクレイジー・Dこそが、緑谷仗助という人間を体現しているのだと。
「うーん!けどなぁ!見た目がなぁ!あの緑谷っていう子、せっかくイケメンっぽいのに。」
「うんうん!分かる!」
「う~ん!ナンセンスなヘアースタイル!!」
「あの変な髪含めて熱い奴らじゃねぇか!虹村も!緑谷も!漢だ!」
「ぶぇっ!?」
緊張気味な連中とは打って変わって呑気そうに口を尖らせる芦戸三奈と葉隠透に、青山優雅が指をパチンッと鳴らして同調する。そんな二人の間に割って入る切島鋭児郎は興奮気味に両拳を大きく振り上げた。その拳が、葉隠透の透明な身体を見極めようと凝視していた峰田実の顎を偶然殴り抜き、気絶する峰田を抱えた口田甲司はオロオロと戸惑うばかり。
「お前ら、しっかり観察しろ。後でレポート書かせるからな。・・・それとだ、髪型の事は緑谷には言うなよ。ぶん殴られたいなら別だがな。」
モニタールームの扉を潜って姿を現したイレイザー・ヘッド。その首に巻いた捕縛布の中で根津校長は大人しく包まっている。突然のレポート提出宣言に数名の生徒が過剰にアレルギー反応を見せる。
「先生、あいつら一体・・・」
その中で、轟焦凍は感情を載せない相変わらずの無表情で問いかけた。その質問に困ったように頭をかきながら、イレイザー・ヘッドは首元の捕縛布から顔を出した根津校長に視線を下ろす。
「・・それに関しては校長、俺も疑問です。そろそろ教えてくれませんか?色々と。あいつらが『無個性』だと言うなら、俺は個性の定義って何なのか理解に苦しむことになります。」
うん、そうだね、と快活な返事と共に飛び出した根津校長は、モニタールームのコントロールパネル上に飛び乗る。
「"人間讃歌"だよ。」
「は?」
根津校長が口にする聞き慣れない単語に、イレイザー・ヘッドは露骨に表情を曇らせる。A組一同も頭上に"?"マークを浮かべる中で、根津校長は話を続けていく。
「あれは個性であって個性ではない。人が持つ本来の力。人間の生命エネルギーの顕現とも言うべきかな。主人の傍らで守護霊のように存在する事から"我々"は
根津校長の独白に口を挟む者はこの場にはいなかった。下手な御伽噺か創作か、まるで現実味を持たない異次元の内容についていけない者、懐疑的な者、畏れる者、実に奇妙な空気が場を支配していた。
「校長・・・あなたは、一体何を知ってるんです?」
イレイザー・ヘッドの問い掛けに、根津校長は穏やかな笑みを浮かべたままモニターの向こうの戦いを眺め続けている。
「昔の話だよ。全てはジョナサン・ジョースターから。」
根津校長の小さな漆黒の瞳には、憂いの感情が溢れていた。
「そう、ジョナサンの『勇気』から始まったのさ。」