ここまで来るの長かった……
※この物語はフィクションであり、実在の人物・企業とは一切関係ございません。
――良い天気に恵まれたとある日の午前。
――俺とおじさんは東京にあるSE〇A本社の前まで来ていた。
――……までは良かったんだけど、
「ヒュー、ヒュー、ヒュー……!!」
「おじさん落ち着いて! あと少し、もうすぐそこだから! ここまでがんばって来たんだから、がんばって!」
「たかふみ、俺は今、ちゃんと地面に立っているのか……?」
「そんなことまで分からないぐらいヤバい!? ちょ、精神の精霊さん!? これ本当に魔法で安定してるの!?」
――おじさんは……極度の緊張から過呼吸に陥ってた。
――いや、数日前のガチで心臓が止まった時の後遺症が残ってるのかもしれない。お医者さんからは問題ないって言われたし、念のためにと処方された薬も飲んでいるはずなのに……
「たかふみ、心臓の鼓動がおかしい。もしかしたら本当に今日が俺の命日になるのかもしれない。こんな状態でSE〇Aの重役と会ったら、心臓が張り裂ける気がする……!」
「大丈夫だよおじさん! 17年間理不尽な異世界で生き延びてきたおじさんの心臓は、毛が生えているどころかオリハルコン製だから。すごい早くに家出たのに、もう時間が迫ってるから。時間ギリギリはともかく遅れるのは不味いよ!」
――蘇生したおじさんに時間を掛けて詳細を説明し、メールでSE〇Aに了承の旨を伝えて、準備万端で今日を迎えた俺に立ちはだかったのは、精霊ですら緩和しきれないほど緊張したおじさんの起こす数々の体調不良だった。
――家を出る際に吐き気2回。
――駅に着くまでに動悸・息切れ3回。
――電車の中で気絶2回。
――SE〇A本社への移動中に吐き気、動悸・息切れ、気絶1回ずつ。
――計10回のトラブルを起こしていた。普通に迷惑だった。
「分かってる。分かってるんだけど~~~! 全っ然落ち着かないんだよ~! 迷惑掛けてるのは百も承知だけどさ~!」
「だったら俺が対処した分ここで返して。気絶した3回は周囲の人たち本気で驚いて救急車呼ばれそうになってたんだよ?」
「たかふみ……SE〇A本社だぞ? 全SE〇Aユーザーにとって聖地と言っていいあのSE〇Aの大元が俺の目の前にあるんだぞ? しかも中で待ち受けてるのは、ここ10数年で入社した人を除けば俺の時代にSE〇Aを引っぱってきた歴史に名を残すべき偉人(ゲーム作った人たち)が何人もいるはずなんだ。しかも、現社長だけでなく――俺がSE〇Aで遊んでた当時に社長だった会長?って人までいる。今から神に会うとなって緊張しない奴だけ俺を罵倒しろt――コフっ、ガフッ!」
「想いは分かったから落ち着いて。このままじゃまた心臓止まるよ? ……うーん、でも本格的にどうしよ? さすがにこの状態のおじさんと会長さんを会わせたらとんでもないことに――ぁ」
「ハァ、ハァ……たかふみ?」
「いいこと思いついた。おじさんはそこに座っててねー」
「何か妙案が思いついたのか……?」
「うん。……貌の精霊さん、ちょっとおじさんのかわりに魔法お願いします」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――10分後、俺の予想通りおじさんは落ち着いた。
「どう? 落ち着いた?」
「ああ、不思議と落ち着いてる。いや、SE〇Aを前にしたドキワク感と適度な緊張はあるけどそれだけだ。フィルターを1枚挟んだ感覚っていうのに近いかな? とにかく、今ならギリ行ける気がする」
「ここまでやってギリなんだ……」
「それよりも……何か周囲に人が多くないか? 俺たちのこと凝視してるし」
「そりゃあ本物の――実際には偽物だけど、エルフさんを見たら誰だって……ね」
――そう。今のおじさんは変身魔法によってツンデレさんの姿になっている。
――変身魔法は使用すると変身した姿の人物・動物の思考・本能に寄ってしまうというデメリットがあるけど、今回はそれを利用した形だ。
――中身はおじさんとはいえ、精神がツンデレさんに寄った結果、SE〇A関連の緊張もある程度緩和できた。
――もっとも、超絶美人のエルフが現実にいるのを周囲の人が見ちゃう問題も発生したけど。
「え、何さあの超美人」
「耳長くね? エルフ?」
「アレ、もしかして『異世界おじさん』のエルフ!?」
「同居人いるし、そういうこと……だよな?」
「マジか。マジなのか……。マジと書いて本物かよ」
「すっげー美人だけど、中身おじさんの可能性が……」
「ここSE〇A本社の前だよな? もしや……?」
「ついにコラボるのか!」
「写真は……さすがに無理か。でも呟くだけなら」
――思ってたよりおじさんを知ってる野次馬が多い。SE〇A本社のすぐ近くだからか事情を察した人もいるし。
――まだ常識のある人しかいないから何とかなってるけど、時間を掛けるといつだかのDQNみたいのが現れかねない。
「じゃ、早速行こうか」
「もう?」
「時間押してるからね。本社に入る直前で変身解いて、受付で確認してもらえば……会長さんたちと面会らしいよ」
「お、おう。はぁ~、エルフの姿なのに緊張してきた。がんばれよ俺……!」
――SE〇A本社の入り口を潜る直前で変身魔法を解き、素の状態に戻った俺とおじさんは受付で本人確認をして、ついに会長さんたちと会うために幹部っぽい社員の人に連れられてエレベーターに入った。
――案内の人も緊張してるのか、こちらに差し障りのない話題を振りつつも声が固いのが分かる。同じく声が固くなってるおじさんと軽く雑談すれば目的の階に辿り付いた。
――そして、
「おじさん……ついに、だね」
「ああ、ついにだ。この扉の向こうに……SE〇Aの神たちがいる」
「……俺は、ありのままのおじさんで話せばいいと思うよ」
「……そうだな」
――コンコン
「「失礼します」」
――俺たちが通された会議に使うと思われる部屋にいたのは、SE〇Aを支えてきた十数人の社員たちだった。
――1人1人自己紹介をされ、社長とも挨拶を交わし、最後に前に出てきたのは――
「どうも初めまして。SE〇Aの会長を務めております――小川です」
「――!? アナタが、俺の時代で社長だった……!!」
――会長の小川さんはお爺さんと言える見た目だったけど、おじさんを見るその目は力強く真っ直ぐだった。
「本日はお越し頂いてありがとうございます」
「いえいえ! 俺――じゃなくて私は、会長さんとこうして会えただけで……会えた、だけで……本当、嬉しくて……!」
――必死に涙を堪えるおじさんに小川会長は優しく微笑んだ。
「私も、会えて嬉しいですよ。チャンネル『異世界おじさん』、例の配信だけでなく他の動画も全部見させてもらいました」
「こ、光栄ですぅ……!」
「いえいえ、“光栄”と言うのは私の方です」
「え? それ、は――?」
「ずっと、子供の頃から、異世界に行った後でも、我が社の――私が率いていた時代のSE〇Aのゲームを愛してくれて……ありがとう」
「………………ゔ、うれじいでずぅ。俺、俺……! 大好きなSE〇Aのゲームをもう1度やりだぐでて、絶対に戻っでみぜるて、ずっど、17年がんばってぎで……! いきで、ごうじて、会長ざん゙に会え゙で……俺、い゙ぎででよがっだ……!!」
――目からボロボロと涙を流して嗚咽するおじさんの手を、小川会長はシワだらけの手で包み込むように握手した。
――俺も……自然と涙が零れてた。
――いつもの汚らしい涙ではなく、嬉しさの感情が心の奥から湧き出たかのような涙を流すおじさんを見て感化しちゃったのかな。
――おじさんが泣き止むまで、誰も、何も言わなかった。
――ここにいる人はおじさんの異世界冒険を信じてる人ばかりなんだろう。初日からおじさんがどれだけ必死だったのか分かってる人たちだ。
――他の人も俺と同じで感化されちゃったのか、涙を目の端に溜めてる人も何人かいた。
――良かったね、おじさん。
――SE〇A本社に行った数日後。
おじさん:――というわけで、初のSE〇Aさんとの公式コラボとしてお呼ばれされたおじさんとー?
同居人:同居人です。さらに――
ソニ〇ク(着ぐるみ):――!(手をブンブン振っている)
おじさん:俺の愛して止まないソニ〇くんの3名で、ソニ〇ク最新作を初見プレイしたいと思いまーす♪
同居人:かつて無いほど楽しそうですねおじさん。今回はいつもの自宅ではなく、SE〇A本社からlive配信をお届けしてまーす。
おじさん:楽しくない訳ありませんよ! さっきまで夢だったソニ〇クに思いっきり抱きつくことができて、嬉しさで心臓止まるかと思いましたもん!
同居人:心臓止まるのはSE〇Aからのガチコラボ依頼のメールが来た時だけで十分です。本気で焦ったんですからね?
ソニ〇ク(着ぐるみ):――!?(「そんなことあったの!?」という仕草)
おじさん:それでは早速ソニ〇ク最新作の初見実況プレイをしていきましょうか! いやー、3Dでの3次元ソニ〇クは初めてだから緊張しちゃうなー♪
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・コラボきたーーー! ¥1000
・異世界おじさん×SE〇Aがついに実現!! ¥500
・この時をどれだけ待ち望んだか……! ¥800
・この人が噂の異世界おじさん?
・重大コラボってなってるから何だと思い参上
・着ぐるみソニ〇クがおじさんの隣に!
・ソニ〇くんて愛称よ
・ソニ〇ク最新作初見プレイか!
・夢だよね推しの着ぐるみ(等身大)に抱きつくの
・尚、中身……
・※中に人などいません
・おじさんなら10回ぐらい気絶しても驚かない
・!?!!?
・心臓止まった!?
・気絶どころじゃ済まないサプライズだったか
・嬉しさの限界突破ね ¥300
・タヒんだことでまた異世界に逆戻りしそう……
・やめてさしあげて
・地獄かな?
・危うくコラボが始まる前に終わるところだったか
・良く生き返ったな
・雷の精霊?ってやつに電気ショックしてもらったんでしょ
・そういや、んな動画あったな
・何でコメ欄落ち着いてる人多いの!?
・え? え? 心臓止まったって比喩だよね???
・おじさんのチャンネル見てる人は教育されてるのだよ
・完全初見さんの反応が初々しい
・「※※※※※かー!?」→「…………はい……」
・それはT先生の教育的指導や
・ついに始まるぞー! ¥400
・何だかんだでおじさんのリアクションが楽しみ ¥500
――ついに実現したSE〇Aとの公式コラボ。
――第1弾はゲーム実況プレイとなった。
「あ~♡ ソニ〇ク~~~♡ 3Dでも格好いいよソニ〇ク~♡」
「――///(「いや~、照れるな~」という仕草)」
「おじさん、普通に気持ち悪いからゲーム進めようか」
「この道を最高速で――ぁ――はいゴール!!」
「……おじさん、最後の方ミスッたでしょ?」
「ミスってない」
「いや、明らかにリング取るコースから外れて――」
「俺はミスってない!!」
「――!(「まぁまぁ落ち着いてよ」という仕草)」
「わぁ~~~! このコース、昔のゲームのリメイクだったりするの? 3Dになると印象変わるな。あと少しでステージクリアだ。待っててねソニ〇ク!」
「――!(「がんばって!」と応援する仕草)」
「もちろんさ! う、うぅ……隣でソニ〇くんが俺を応援してくれるなんて――夢なら覚めないでくれ」
「おじさん泣いてる場合じゃ――いや本当に泣いてる場合じゃないって! 前! 前! 画面見ておじさん! 敵が!!」
「ぇ――あ、あ、ソソソソソニ〇クぅうううううううううううううううう!!?」
――決して上手ではなかったけど、どこか少年心を思い出させて、心から楽しんでいるのが分かったと高評価だった。
――今はゲームの上手い人の実況動画が人気だけど、おじさんのような少しミスしちゃう人の動画もそれはそれで需要があると判明した。
――時々おじさんにツッコミを入れつつ俺自身この時間を楽しんだ。
特に章分けしてる訳じゃないけど、第1部【完】って感じです。あ、もちろんこのあとも普通に続きますよ? 今連載してるマガツ戦までは続けて書く予定ですし。
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そろそろ評価の星10ゲージをバランス的にも“緑色”にしたいなー?
区切りもいいので少しお休みも兼ねて、今年の更新はこれで最後です。来年になったらまたお会いしましょう。
その間は――例によって“あっち”の方の小説でも執筆しようかなーって思ってます。
では皆さん、良いお年を。