おじさん、異世界冒険を配信するってよ   作:影薄燕

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 本当なのかどうかは読者に丸投げ。
 ぶっちゃけ1度で良いからエイプリルフールで書いてみたかっただけ。
 ウソついてもいいなら何やってもいいよね?


エイプリルフールネタ:胡蝶の夢

 

 電車での寝過ごしやスマホなどに夢中になり、本来下りるべき駅を通り過ぎた結果、全然知らない駅に着いてしまう――というのは人生で1度くらいは体験するものだ。一部のよく寝る人や酔っ払いは何度も同じ過ちをするが。

 

 そんなどことも知れない駅に下りてしまった場合でも、急ぎでないなら冷静でいられるのが現代の人間。スマホでどこかを調べていいし、その駅で働いている人に聞いたっていい。場合に依っては一旦下りて、その駅周辺を探索するのも1つの楽しみ方だろう。

 

 ――が、

 

「……いや、マジでここどこ? 人いないし、電波繋がらないし、どう控えめに表現してもヤバイ霧が出て見通し悪いし――オレ、もしかしてとんでもないことに巻き込まれたんじゃ……?」

 

 あくまでそれは常識の通用する場所だった場合だ。

 

(え~? オレ、ただ『異世界おじさん』の長時間動画見ていただけなのに……)

 

 定職に就かない――というより、様々なバイトをしていろんな経験を若い内に体験したいと一般的なものから変わり種のバイトまでやってきた男。

 この日も遠くにある3泊4日のバイト先に遅れず着くため、前日に到着してカプセルホテルで寝てから未知のバイトに望むつもりだったのだ。

 

 目的地に向かうための電車の中、ここ最近のお気に入りであるYouT〇beチャンネル『異世界おじさん』の配信を見ていた。

 真偽不明の髙クオリティー異世界を実質タダで見れるのだ。内容も濃く、ドラマなどの演技ではないありのまま自然の言動をする登場人物に惚れ込み、今ではすっかりファンになっていた。たまにコメントだってしたし、SE〇Aとの初コラボの時は自分のことのように嬉しくて初めてスパチャしたのだ。

 

 これからしばらくの間はずっとそうなると信じていた。

 

「おーい! 誰かいませんかー! 駅員さーん!」

 

 最初の違和感は、同じ車両に乗る人が妙に少なくなったことに気付いた時。あの時点ではまだ外の景色も普通だったのだ。“そういうこともあるか”とすぐ『異世界おじさん』の配信に再び目を向け――気がつけば、深い霧が立ちこめるど田舎のような駅に着いていた。

 

 最初に思ったのは「やべっ!? 配信に集中しすぎて降りる駅間違えた!!」という後の面倒くささを嘆くことで、次に思ったのは「こんな所に出る路線だったっけ?」という妙な寒気を感じる混乱だった。

 

 この時点ではまだ冷静だったのだ。

 

 一先ず電車から降りて、一向に電車が動かないことに違和感を覚えたこと。

 配信のコメントで【熱中しすぎて下りる駅過ぎちまったぜ……】【――ところで、ガチ知らない駅まで来ちゃったんだけど、どうすれば……】と打ち込んですぐにスマホの電波が圏外になってしまったこと。

 そして……音もなく後ろにあったはずの電車が消えてたこと。

 

 そんなことが立て続けに起こったものだから、軽くパニックになった。

 

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って! これ本当にヤバイやつだって!! もしかして都市伝説で有名な例の駅か!? 帰ることできるよな? な!?」

 

 男は自問自答し、それが逆に混乱を加速させる。

 

 ――と、

 

 

――コツ……コツ……コツ……

 

 

 どこからか、足音が聞こえてきた。

 

「! 良かった、誰かいた。……すみませーん! 霧は濃くてどこかイマイチ分かりませんけど誰か返事してー!」

 

 やがて、霧の中に人影を見つけた男は小走りで近づく。

 その存在(・・・・)へと、無警戒に。

 

「いやー、すみません。ちょっとスマホに夢中になりすぎたら全然知らない駅に来ちゃったみたいで。いつの間にか電車行っちゃうし、スマホの調子悪いし、困ってたんですよ。地元の方ですか? それなら――」

 

 男の言葉が唐突に止まる。

 

 理由は2つ。

 1つは、人間だと思ってた人影が……本当に人の影のような姿をした全身黒色ののっぺらぼうだったこと。

 もう1つは……その手に血の跡のようなものがある斧を持っていたことだ。

 

「……」

 

 男は真顔で思考停止する。その間僅か1.3秒。

 そして思考が戻った直後――一瞬で背を向け、オリンピック選手も笑顔で頷くほど完璧なスタートダッシュを切って走り出した。

 

(何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレっっっ!!!??)

 

 頭の中は混乱しつつ、もうアレが何かなど関係ないよ生存本能で逃げるぞ!とばかりに男の体は全力疾走し続けた。アレから逃げ切れてお家に帰れるならもう2度と走れなくなってもいい、と。

 

 そりゃ男だって少年心は持っている。心の奥底で「ちょっぴり非現実的なことに巻き込まれたりしないかな~?」と妄想したことは何度もあった。だが待ってほしい。自分が望んでいたのは異世界ファンタジーや現実のボーイミーツガール展開なのだ。断じて死にゲーっぽい雰囲気のホラー展開ではない。

 

(とにかく! 少しでもアレ(・・)から離れて身を隠さなきゃ!!)

 

 数メートル先までしか見えない霧の中は地方の田舎をイメージする道だったが、生きている人間(・・・・・・・)は誰もいないし、時折ある古い民家にも人が住んでいるような気配は感じなかった。

 

 息が切れ始める。

 後ろを振り向けば、斧を持った謎の存在はいなくなっていた。

 あとは霧が晴れるまでどこかに隠れよう。そう考えてた時――

 

 前方からワラワラと、農具を持った黒いのっぺらぼうの集団が現れた。

 血こそ付いていないようだが、大きなクワに小さな鎌にシャベル、あるいは包丁を手に持った謎の存在たちが明らかに自分をターゲットに顔(?)を向けている。

 

 もしかすると今日がオレの命日かも?

 そんな考えが頭の中に思い浮んだ男は、某“D”の頭文字を持つドライバーが見れば感心する程美しいドリフト急カーブを自らの足で行い、別方向へと逃げる。

 

(どうしてこんなことに……?)

 

 夢ではないと思う。

 夢にしては息苦しさが、脚の痛さがリアルだ。

 生存本能によるものか脳からアドレナリンが分泌していたが、どうしようもない体力の限界が近づいてきている。

 

 家族のことやこれまでのバイトの数々などが、走馬灯のように脳裏をよぎる。ついで、最近ファンになったYouT〇berのことも

 

(はは、コメントで誰か言ってたっけ? そこら中に精霊なんてものがいるなら、本当にピンチだったらおじさんが助けてくれるんじゃないかって話)

 

 真偽は不明だが、実際にピンチっぽい演出をして『異世界おじさん』の主を呼び出そうと企画した暇人がいたらしい。結局、来たのは騒ぎを聞きつけた交番のお巡りさんだけだったようだが。

 

 そんな話を思い出した男は藁にも縋る想いで叫んだ。

 

 

「異世界おじさーーーん!! 助けてくださあああああああああいっ!!」

 

 

 視界が遮られる程濃い霧の中、男の叫びは空しく響くだけであった。

 

 それからどれだけ時間が経ったか。

 男は息も絶え絶えに道で転がっていた。周囲にはぶっそうな農具を持った存在がジリジリと近づいてきていたが、すでに全ての体力を使い果たした男に抵抗する力は残されていなかった。

 

 これから起こることは……まぁ、控えめに考えても碌な結果にならないだろう。たまにネット小説などである勘違い系を期待するのは無理だと本能が警報をならしている。

 だから、男にできるのは振り上げられたクワを見ないよう目を閉じることだけで、涙と鼻水を流しながら先に逝くことを家族に謝ることで、これからくる痛みが一瞬で終わることの祈りだけだった。

 

 だから、

 

 

「いやー、精霊がやけに慌てるから何だと思ったら……日本にも異世界とはタイプの違う化け物がいたんだなー」

 

 

 ここ最近ずっと聞いたのと同じ声が聞こえるなど、そんな都合の良い展開なんてあり得ないと思った。

 

「………………え?」

 

 ぼやけた視界の中、涙を拭いて見えてきたのは……

 

「そこの人、大丈夫か?」

 

 こちらに顔を向け短剣を構える見慣れた老け顔男性と、倒れ伏し塵になって消えていく人ならざる存在だった。

 

「…………異世界、おじさん……!」

 

「あ、どーもー。異世界おじさんです~。もしかして俺のファンだったりする? いやー嬉しいなー♪」

 

「どう、して……?」

 

「どうしてって……ガチのピンチで俺に助け求めただろ? 急に精霊ネットワークが騒がしくなってさ。俺のこと好きな人がピンチだぞ!って。で、精霊に案内された場所行ったら変な結界があったんで強引に突破したんだ。大分痛かったけど、間に合ったようだな」

 

「……オレ、いきなりこんなことなって……本当に怖くて……最後に藁にも縋る思いで呼んで……うぅ、ぐす……っ」

 

「よく頑張ったなー。まだ若いのに偉いぞー」

 

 しびれを切らしたのか、化け物が武器を振り上げ襲い掛かる。

 だが――

 

「『泡蛇咬昇(レイローカ・ミバルド・バグルヒルド)』」

 

「――っ、本物の……魔法……!」

 

 近くの田んぼから巻き上がった水が蛇の形を取り、化け物を拘束する。

 助けられた男は少年のように目をキラキラさせた。ただでさえ本物の異世界おじさんが自分のために助けに来てくれたというのに、それだけでなく少し前の温泉回で見たばかりの魔法と同じ魔法を使っているのだ。男の興奮は急上昇している。

 

「俺の貴重なファンに手を出すな。『咬激(バグルウィッド)』」

 

 瞬間、水の蛇が化け物ごとはじけ飛んだ。

 

「やった!!」

 

「……いや、どうやらまだらしい」

 

 男が喜んだのもつかの間、周囲の霧が一瞬だけ濃くなったかと思いきやいつの間にか倒したはずの化け物たちが復活していた。

 

「え!? な、何で……?」

 

「うーん……? こういうのはたぶん……」

 

 再び武器を構えて襲ってきた化け物たちを短剣や魔法で事務的に処理しながら、おじさんは正体に当たりを付ける。

 

「あぁ、コイツら端末でしかないのか」

 

「端末?」

 

「ゲームでもあるだろ? ようは本体である“核”が存在していて、それを倒さないと雑魚が無限湧きするんだ。異世界のダンジョンでも似たのあったけど、たぶんこの霧が掛かった田舎風景そのものが巨大な化け物の口の中なんじゃないか? 俺が壊した結界も外側だったから侵入できたんだろうけど、内側からだと出入り口が分からないな……」

 

「そ、そんなっ!?」

 

 何ということだ。

 男は絶望しそうになる。自分たちはすでに巨大な化け物の中にいましたなどと。こんな非現実的なことが起きるなど自分が何をしたっていうんだと。

 その衝撃は、目の前が真っ暗になっていく錯覚に落ちるほどだった。

 

「何か手立てはあるんですか?」

 

「あるよ」

 

「そうですよね。そんな都合良く――あるんかい!!」

 

 絶望していた男の目に活力が戻った。

 ついでに本来の自分らしさも取り戻してた。

 

「は、早く! 早く解決案お願いします!」

 

「でもこれ、まだ配信で出してないやつで――」

 

「誰にも言いませんから早くしてーーー!!」

 

「ファンからの頼みじゃ断れないなー」

 

 おじさんは化け物たちから距離を取り、男のすぐ近くに戻ると『収納魔法』を発動させ、一本の変わった形の剣を取り出した。

 

「そこから動くんじゃないぞ」

 

「――!(コクコクコクコク)」

 

 その剣――王神剣は光を放ち始める。

 

 

「『神威解放』。奪え、王神剣」

 

 

 効果は……劇的だった。

 化け物たちが一瞬で消えたかと思えば、周囲に漂っていた霧がどんどん薄れていく――だけでなく、耳で聞こえるような声ではないが、まるで空間そのものが悲鳴をあげているかのような“圧”を男は肌で感じ取った。

 

「こんだけ奪えば十分だな。――分与しろ、王神剣」

 

 剣の光が、おじさんの手元へと集まっていき――

 

「『炎凰殲滅(バライブート・フォルグバストール)』」

 

 以前ハリネズミの魔獣を倒した強力な魔法。その魔法の何倍もの巨大な炎が視界全てを焼き尽くす勢いで広がった。

 

 そして……

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「――さん? ――お……さん! ――お客さん!!」

 

「うおっ!?」

 

 突然の大声に驚いた男の意識が一気に覚醒する。

 

「え? ……あれ?」

 

「お客様、大丈夫ですか?」

 

 辺りを見渡せば見慣れないがごく普通の駅が広がっており、すぐ隣を見れば駅員さんが心配と呆れの感情が窺える瞳で男を見ていた。

 

「………………あの、オレって、何してました?」

 

「私が見つけたのは先程ですが、ホームのイスに座って眠っている様子でした。いくら話しかけても起きる気配がないので、少々大きな声を出させていただきました」

 

「そう、ですか。あ、すみません、ご迷惑かけて。失礼します」

 

 男はそそくさと改札口を出て、駅名から予定より5駅も先にいることをスマホで調べて知った。

 

「……夢、だったのか? だとしても、何でホームのイスなんかに……?」

 

 配信動画に集中しすぎて見知らぬ駅で下りてしまったことも、

 その駅で化け物に襲われて死にかけたことも、

 そして……異世界おじさん本人に助けられたことも。

 夢なのか現実なのか自信が無くなってきた。

 

「……」

 

 正直、分からないとしか言いようがない。

 あんな都市伝説の駅みたいなところに下りたら、化け物たちに襲われましただの。今時掲示板でも相手にされるか怪しい。

 なにより、ただのファンでしかない自分のために世間を賑わせている大物YouT〇berが見たこと無い力で助けてくれるなど。

 

「ま、いいか」

 

 男はこれ以上考えても仕方ないと、目的地の駅に今度こそ辿り着くため再び駅に戻った。その足取りは軽い。

 

 

 

 翌日、謎の筋肉痛が脚を襲ったことでバイトには遅刻した。

 

 

 

 

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